冷戦時代の核実験や民間防衛をめぐるカルチャー

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カナダ民間防衛演習Tocsin B (1961)


1961年11月13日、カナダ政府はソ連による核攻撃を想定した非常事態対策訓練「Exercise Tocsin(トクシン演習)」を実施した。これにはカナダ連邦政府及び州・準州政府・地方自治体が参加した。この演習の一部としてカナダの全ラジオ局が13分間の演習番組を放送した。


演習は次のように進められた。
[ EXERCISE TOCSIN B-1961 (2017/05/09) on TODAY IN OTTAWA'S HISTORY ]

1961年11月13日

ソ連とワルシャワ条約機構加盟国と、米国とNATO同盟国の緊張関係が高まっていた。1961年4月、CIAに支援を受け、米国の武器と上陸用舟艇を供された約1200名のキューバ人亡命者が、ピッグスワンでキューバに侵攻し、フィデル・カストロを打倒しようとして、失敗した。キューバ共産党指導者は、2年前に、腐敗し抑圧的で米国に支援されていた独裁者フルヘンシオ・バティスタを退陣させて権力を握っていた。

翌月、カナダは核戦争時における民間防衛計画をテストした。全国の都市で、カナダ国民に避難警報を告げる200以上のサイレンが鳴った。カナダ非常事態対策機関(Canadian Emergency Measure Organization)は、核攻撃の際に何ができるかを示すブックレットを各世帯に配布した。それは生存への11ステップ(The Eleven Steps To SUrvival)と呼ばれ、カナダ人に対して以下のことを説明した。

ステップ1:核爆発の影響を知る
ステップ2:放射性降下物についての事実を知る
ステップ3:警告信号を知り、電池式ラジオを使用する
ステップ4:避難の方法を知る
ステップ5:14日間の緊急物資
ステップ6:防火方法と消防方法を知る
ステップ7:応急処置と在宅看護を知る
ステップ8:緊急時の清潔さを知る
ステップ9:放射性ダストを取り除く方法を知る
ステップ10:自治体の計画を知る
ステップ11:あなたの家族とあなた自身のために計画を立てる

ブックレットの緒言で、ディフェンベイカー(Diefenbaker)首相は次のように述べた。「皆さん各人の生存は、これらの助言に従うかにかかっており、多くの人々の生存はこのブックレットに書かれた助言をどれだけうまく聞けたかにかかっているかもしれない。政府は裏庭に耐爆弾シェルターを建設する方法も提示する。」

8月中旬、東ドイツはベルリンの壁の建設を開始し、西ベルリンを陸の孤島にし、東ドイツ人が自由を求めて西への逃走路を遮断した。9月上旬、米軍で4回のソビエトの地上核爆発を検出した。その後、オタワではバックグラウンド放射線レベルの320倍の放射性降下物が検出された。ジェイ・モンティス連邦保健相は、そのような高レベルの放射線が続くようなら、「健康への危険性がある」と警告した。モスクワでの政府晩餐会で、インドのネルー首相はソビエト首相のニキータ・フルシチョフに、戦争を始めるのは愚かだと言った。フルシチョフは、ソビエト国民は戦争を望んでいなかったが、「西側諸国の勢力がこれまでにない規模で軍事的準備をしているのを冷静に見ていられなかった」と答えた。11月初旬、ディフェンベンベーカー首相は、戦争レトリックが高まったことを受けて、「戦争は我々の思うほど起きそうにないわけではない」とカナダ国民に警告した。 以前、首相は下院に対して、カナダが攻撃を受けた場合、自分と妻は安全のためにオタワを離れることはせず、サセックスドライブ24の耐爆弾シェルターに入ると述べていた。

1961年11月13日月曜日の朝、北大西洋とハドソン湾で、未確認だが敵対的と推定される潜水艦が大量に探知された。アリューシャン列島付近で、ソ連の空中給油機が探知された。カナダ軍は、東部標準時午前8時30分に軍の警戒レベルに引き上げた。午前10時30分と、さらに午後12時30分に、警戒レベルが引き上げられ、全国各地の非常事態センターにスタッフが派遣された。軍は攻撃を受ける可能性のある地域から退避した。午後2時30分、戦時に政府のバックアップセンターとなる、オタワの北西150キロkmにあるキャンプペタワワに、ダグラス・ハーネス国防相、モンティース保健相、レイモンド・オハリー国防相、デイビー・フルトン法務大臣を含む政府高官と上級防衛将校が派遣された。(ディフェンバンカーとして知られるキャンプ地下にある耐爆弾基地で、総督・首相・政府高官・軍首脳部が核戦争時に退避する場所として設計され、当時はまだ建設中だった。)

午後6時、カナダ軍は厳戒態勢に入った。その後まもなく、NORAD(北米防空司令部)のレーダーは、グリーンランドとエルズミア島の間をカナダに向かって飛行する36機の敵対的飛行機を探知した。太平洋のアリューシャン列島沖で、さらに20機が探知された。午後6時半、ディフェンベイカー首相と6人の閣僚が、サセックスドライブ24地下に移動し、そこで戦争対策法を発動する枢密院勅令を出した。ハーネス国防相が首相代行に任命され、必要に応じて対応するための概ね独裁権限を付与された。疑う余地のないカナダ国民に対して、悪化しつつある軍事的状況を警告し、避難を指示する警報の発令を、ディフェンベイカー首相は承認した。首相はさらに、全ラジオ局と全テレビ局を通したカナダ非常事態対策機関の特別放送で、国民に向けて演説をする準備をした。

午後7時ジャストに、太西洋岸から大平洋岸まで500の、オタワだけで45のサイレンが3分間一定音で鳴った。この耳障りな音は、核攻撃が予期されることを広報するものだった。この時点までに、カナダ極北部にある遠隔早期警戒(DEW)ラインが、カナダ国境線を越えて時速1000knで侵入してくるソビエトの侵犯機を110機以上探知していた。午後7時10分、弾道ミサイル早期警戒システム(BMEWS)は、ミサイル攻撃が進行中という15分前警告をディフェンベイカー首相に通知した。全国の空襲警報サイレンが「避難」警告を発令した。これは3分間の音程が上下するもので、核攻撃が差し迫っていることを知らせるものである。

2波のソビエトの爆撃機、第1波は150機、第2波は110機、さらに大半が米国の標的に向かう2波のミサイルが探知された。ブリティッシュコロンビア州のバンクーバーとコートニー、アルバータ州のエドモントンとコールドレイク、マニトバ準州のフォートチャーチル、ノースウエスト準州のフロビッシャー、オンタリオ州のノースベイとスーセントマリーとウェランド、ラブラドール州のチャタムとニューブランズウィックとハリファックスとノバスコシアとグースベイ、ニューファンドランド島のスティーブンビルなど、14のカナダの都市が5メガトンの核爆弾で破壊された。オタワは午後10時10分に破壊された。爆心はアップランド空港のすぐ北だった。トロントは午後10時45分に、モントリオールは午後10時51分に攻撃を受けた。北アメリカに対するソビエト攻撃は、翌朝の午前4時まで続いた。デトロイトは10メガトン爆弾の攻撃を受け、近隣のウィンザーでも数万人が死亡するなど、約30の米国の都市が破壊された。

死者の数は驚異的だった。キャンプペタワワの陸軍作戦センターは、カナダの死者数はディフェンベイカー首相を含む約260万人で、この他に160万人が負傷しており、多くが危険な状態にあると推定している。今後数日から数週間のうちに、火傷や放射線障害や被曝により数十万人が命を落とすと予測されている。オタワ地域では、死者数は142,000人、負傷者は61,000人、放射線障害は3万人に上った。一方、9万人が救助されたが、数万人が燃えている建物や瓦礫に閉じ込められたままだった。兵士と数十万人のボランティアによる救急チームが、生存者を助けるために全国で活動した。非常事態対策機関のジャック・ウォレス副長官は、セントローレンス海路がモントリオールとウェランドとスーセントマリーで寸断されたが、鉄道はすぐに復旧できるだろうと述べた。死傷者数は多かったものの、1,400万人を超えるカナダ人が複数の核攻撃を生きのびた。副長官はさらに、産業の半数から2/3がすぐに稼働できるようになり、水力発電所の半数が現在も稼働中だと推定した。カナダ国民全員を養うのに十分な食物備蓄もある。カナダは、核攻撃で大規模な被害を受けたが、失われてはいない。放射性降下物が少ないと思われるキャンプペタワワで、カナダ政府中枢部は機能している。

ありがたいことに、この恐ろしいシナリオはまさに、非常事態民間防衛のテストの一環として、1961年11月13日に行われたトクシン演習(Exercise Tocsin B-1961)のシナリオだった。テストに至るまでの描かれた出来事は、事実である。このテストは、今日のジェネレーションX (1960年代初頭から1980年代初頭生まれ)やミレニアル世代(1980年代から2000年代初頭生まれ)には空想的なことに思えるだろうが、1950年代から1960年代に育った世代にとっては、非常にリアルなものだ。冷戦は、大いなる不安とストレスの時代だった。トクシン演習(Exercise Tocsin B-1961)はまさに、米国とソビエト連邦のどちらかが一歩でも間違えば、全面戦争に追い散るような、チキンゲームの極致だったキューバミサイル危機のちょうど1年前に実施された。

[ EXERCISE TOCSIN B-1961 (2017/05/09) ]
耐爆弾シェルターに入った首相の死亡など、それなりにリアルなシナリオだった。






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