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1941年の「國民防衛の書」にある「プロパガンダ」
太平洋戰争開戰より半年ほど前の1941年7月20日に上坂倉次が執筆した「國民防衛の書」がダイヤモンド社から発行された。（政府公報ではなく、一般書）
著者の上坂倉次は本の紹介ページによれば、「東京神田生まれ、慶應義塾大学経済学部卒、東京外国語学校でイタリア語専修。中等学校教員をへて、1938年から東京市役所勤務で、執筆当時は東京市防衛課勤務」である。防衛の専門家というわけではなく、本業のある著述家といった人物のようで、著書として、「社会時評としての落書」「寺院副業の研究」「明治年間仏教関係新聞雑誌目録」「僧侶妻帯の諸問題」「防空法とは」「空襲防備の実際」などが挙げられている。
そこにプロパガンダについての概説が2頁ほどあった。ネットどころかテレビもまだない社会におけるプロパガンダだが、基本的には現在でも主張されそうな内容である。
ここで「重慶のデマ宣傳」とは、当時の日本側の立場としては、以下のような「日本はすぐに瓦解し、抗日戦は短期間で勝利に終わる」という「重慶政権側の宣伝」を指していると思われる。
1941年の「國民防衛の書」にある「プロパガンダ」 
太平洋戰争開戰より半年ほど前の1941年7月20日に上坂倉次が執筆した「國民防衛の書」がダイヤモンド社から発行された。（政府公報ではなく、一般書）
著者の上坂倉次は本の紹介ページによれば、「東京神田生まれ、慶應義塾大学経済学部卒、東京外国語学校でイタリア語専修。中等学校教員をへて、1938年から東京市役所勤務で、執筆当時は東京市防衛課勤務」である。防衛の専門家というわけではなく、本業のある著述家といった人物のようで、著書として、「社会時評としての落書」「寺院副業の研究」「明治年間仏教関係新聞雑誌目録」「僧侶妻帯の諸問題」「防空法とは」「空襲防備の実際」などが挙げられている。
そこにプロパガンダについての概説が2頁ほどあった。ネットどころかテレビもまだない社会におけるプロパガンダだが、基本的には現在でも主張されそうな内容である。
4 現代に於ける宣傳の例
(1)文化の發達、特に交通・通信の發達は、世界の時間的短縮を來し、往時のやうに事實を捏造した宣傅は直ちに暴露破摧されるので、その效果は著しく減少し、眞實を以て對手の急所に迫るのでなければゞ眞の宣傳效果は期待出來ない。現代の宣傳は、概れ材料は悉く眞實であるけれど、その編輯の要領で、望みの数果を擧げ得るものであるやうである。
(2)明白に宜俾だと思はせては却って逆效果となるので、寧ろ个知不識の間に宣效果を得るため、文化の紹介・普及等にカモフラージュし、巧みに行はれることがある。
(3)經濟面の薄弱な国家に對する宣傳は、経濟謀略と併用してその綜合效果を牧めるにつとめる。改めて言ふまでもなく、宣の對象は「思想面、であるが、「思面面」は通常その大部分が根柢を「経濟面」に置いてゐることは明かである。だから「経濟面」の動搖は「思想面」へ顯著に波及し、一度「思想面」の動搖が起ると、更に「經濟面」に惡結果を促すに至り、相互囚果關係を有するから、經濟面に對する謀時によって、或る種の不安動搖を起させ、宣傳を受け人れ易い状態とし、これに乘じて宣傳を行ひ、「思想面」を動搖し、兩者相俟って迅速に目的を達成しようとする。
昔はラジオもなく無線も現在のやうに發達してゐなかったので、第一次歐洲大戰の際などは随分飛んでもないデマ宜俥が行はれたが、現在はそんなことは出來ない。重慶のデマ宣傳は別として、今次歐洲大戰の例をみても、餘り架空な宣俥はやらない。その代り非常に巧妙な方法で、不知不識の間に自國側に有利に、敵国に不利を來す方面に持って行かうとする。
某國は、自國の文化紹介に名を藉って、非常に澤山の。パンフレットやニュースを社會各層に頒布し、その間に自の窮極の戰勝を信じ込ませ、あるひは日獨間の離間を來たすやうな宜傳をする。この宜傳は必す謀略と並行して行はれ、例へば、マッチの不足の際、政府の施策が惡いためたとか、戰爭の結果だとかいふことを、まことしやかに宜傳し、或はマッチの買占めまでやって、國内の攪亂を計らうとしたなどである。
ドイツが前大戰に敗れたのは、宜傳がまづかったゝめである、といふことをヒツトラーはよく知ってゐる。それなればこそ、ヒツトラーは對敵脅威戰術に於て、ラジオによる宣傳戰術に重きをおいて成功を收めてゐる。即ち現代戰爭の第四戰線としての心の戰場で、敵軍及び敵国人をラジオをもって完全に征服した。ドイツの軍部が戰時に於けるラジオの役割を如何に重視してゐるかはフランスの休戰後、その艦隊の保有を許しても、その無線邇信機を常分使用せしめなかった一事でも想像出來よう。この通信機一箇を保有する者は、軍隊または軍需品を保有すると同様の罪と見做し、即時銃殺に處すること、したといふのである。
[ 上坂倉次: "国民防衛の書", ダイヤモンド社, 1941 ]
ここで「重慶のデマ宣傳」とは、当時の日本側の立場としては、以下のような「日本はすぐに瓦解し、抗日戦は短期間で勝利に終わる」という「重慶政権側の宣伝」を指していると思われる。
暴露されゆく虚構宣傳三島助治の記述がどこまで事実なのか確認できていないが、おそらく日本側の立場としての「重慶のデマ」はこれであり、それに基づいて、上坂倉次は「プロパガンダ」についての、かなり稀な例として「重慶のデマ」を挙げているようである。
重慶側有識階級の間に反共和平の氣運が暗々裡に動つゝあると同時に、長い間蒋側の虚構宣傳に迷はされて、果しなき抗日の泥濘にあがいて來た多数民衆の間にも、漸次事の眞相を認識して抗日政策の誤謬を自覺しはじめた者は少くない。
抑も事を誘起した最大の原因が、支那側の日本に對する不明、それに基く日本輕侮の風潮にあつたことはいふまでもない。彼等は日本の實力に就て重大な認識錯誤をおかした。日本の賞力を過少評價し、日支の戰爭にて軍事的にも支那が勝利し得るかの如く途方もない錯覺をしてしまった。もっとも彼等とて正面からの作戰で簡單に日本軍を撃破し得るといふ程に考へたわけでぎなかったが、しかし少なくとも長期抗戰といふ事態に陷ることなしに、開戰と同時に第三國の介入干干が行はれ、歐米依存的性格の濃い日本はこれがために即座に悲鳴をあげるだらうと考へたわけである、彼等の最も期待したものは第三國の干渉であり、これによって悲鳴をあげるであらう所の日本の国内的不統一といス弱点であった。
彼等は絶えずその内に向って旧本の脆弱性を宣傳した。國内不統一から戰爭となれば忽ち日本に革命が起るであらうといふやうな文字通り荒唐無稽のデマを流布した。尤もこのデマに裏書するやうな事柄が日本國内に絶無でなかっことに疑へない。彼等の宣傳の材料になって、無知な支那抗日民衆の士氣を皷舞するやうな事態も僅か乍ら我が國内に存在し。政界にける各派各黨の對立抗爭等は明らかに蒋介石にとって恰好の宣僖材料となったであらう、物資の不足が誇大に傳へられて今にも日本が窮乏して倒壊するであらうといつた妄想も行はれたである。しかしそんなことはもとより本質的なことではなかった。むしろ、事變の進行と共に我が國内の針立關係が克服されて、擧國一體の體制が整へられ、戰時的政治経済の再編は管制されて來たのである。
日本の實状が、正しく支那民衆に傳へられたのであったら、おそらくの虚構宣傳は何一つ成立たず、支那民衆が今日の不幸な事態に陷沒することはなかったに相違ない。然るに重慶は事變第五年の今日に及んでなほそのデマゴーグを强調しい明日にも日本が崩壊するかのやうな淺はかな期待を民衆に抱かせ、その抗日の迷夢を維持させようと大童である。
事實を知らないといふことがどんなに悲慘なものか、無知な民衆は今なほ半信半疑にせよの抗戰に期待をかけ「日本襖臧」の可能性を考へてゐるのである。若し民衆が日本及び事の現實について真相を知ったらどうであらう。勿論重慶政權など一日も半日も保てはしない。
もと抗日陣營にあった留學�愬�の一人は、日本を見ての感想として次のやうに述べてゐる。
『聞くは見ろに如かず、といひますがその通りです。實際に日本に來て見て蒋介石政權の宣傳が如何に嘘で固められたものであるか、はっきり分って來ました。從來廣州方面で聞いたり見たりした抗日政権の宣傳は事實と異ってゐます。例へば日本の經濟統制のことなどについてはひどい逆宣傳をしてゐます。私は日本文化や社會情勢や華僑の生活態などについて、出來るだけ真相を傳へたいと努力してゐますが、私の仕事が少しでも経済提携や善隣友好、文化交換に役立てば喜ばしいと思ひます。｝
以て抗日政権の悪辣な宣傳と、その魔手に踊らされる民衆の悲慘を察することが出來る。聞くは見るに如かず、蒋介石の宣傳とは似ても似つかぬ躍進日本の實状は彼等の迷夢を忽ちにして粉碎するであらう。それ故に蒋政権は日本和平陣營の實状から治下の民衆を隔離するためにはあらゆる手段を講じてゐるのである。
最近重慶ら漢口に歸來した某中國人は次のやうに事情を語ってゐる。
『重慶政權の情報政策は益々嚴重を極め、和中地區の民衆が如何に幸編な生活を楽しんでゐるかに就て知らせるやうな手紙には極端に神経を尖らせ、かうした手紙を受取つた者を調査し、は検擧し銃殺に處して居り、この意外な災厄に逢った民衆は既に數千に及んでゐる。手紙もうつかり読めない情態で人々は全くの盲目にされたと同然です。この暴壓こそ重慶が々危地に陥つて和平の聲に怯えた證據でせう。』
言論、情報への神経過敏といふことが、内部的矛盾激化の象徴であることは何時でも變らない。重慶政権が自已防衛のために如何に消極積極の宣億戰に躍起になってゐるかが見えるやうである。
[ 三島助治: "重慶の死相", 国民政治経済研究所, 1941, pp.64-69 ]
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