最終更新: xrs1c1qdm2 2024年09月02日(月) 03:10:29履歴
肇 | こんにちは、藤原肇です。 |
涼 | どうも、松永涼だ。……いや、これじゃいつも通りの挨拶だぞ、肇。 |
肇 | あっ、そうでした、つい……。身に着いた習慣というものはすぐには抜けませんね。 |
涼 | まっ、変えなくてもいいんだけどな実際。大事なのはアタシたちの意志。 |
肇 | これまでの慣習や周囲の要望にただ応えるのではなく、私たちがやりたいことを。 |
涼 | そういうこと。そんな新曲「認めてくれなくたっていいよ」を―― |
涼 肇 | よろしくな よろしくお願いしますね |
肇 | こんにちは、藤原肇です。新しいことへの挑戦……それはいつも、私に緊張と、胸の高鳴りを感じさせてくれます。 |
肇 | アイドルになってからはそんな日々の連続で、自分の中に眠っている可能性に、まだまだ驚くばかりです。 |
肇 | 自由に、私らしく、その可能性を育てていきます。たとえ誰かに認められないことが、あったとしても。そんな気持ちを込めた新曲、ぜひ、聞いてください |
涼 | よっ、松永涼だ。肇、美優サン、ちとせ、美玲との5人で新曲を歌うことになった。『認めてくれなくたっていいよ』……ハハ、強気なタイトルだよな。 |
涼 | この曲をどうみんなに魅せるべきか、受け取ったバトンを、どうつなぐべきか……めちゃくちゃ、悩んだよ。実際さ。 |
涼 | プロモーションを考える中で、アタシらがぶつかった悩み……そんなアタシらのあがきが、どんな実を結んだのか。それを、見届けてくれよな。 |
美優 | あら、ふふっ……。 |
肇 | お待たせしました、美優さ……何見てるんですか?そんなに笑って。 |
美優 | つかさちゃんから、この間のお仕事の写真をもらったの。見て、みんな楽しそう。 |
肇 | アニバーサリーの!本当だ……あはは、凪ちゃんと晴ちゃん、すごい躍動感ですね。そういえばつかささんに、アニバーサリーでの反応、見ておいたほうがいいって言われたんですよね。美優さんは見ました? |
美優 | いいえ、でも……たしかに、新しいことを進めてるから反応に注目すると今後の参考になるって、私も聞いたわ。ちょっと調べてみましょうか。 |
肇 | ええと……。 |
ファンの反応 | 今回の凪ちゃんたちサイコー!こういうの見たかったんだよね。 |
ファンの反応 | 俺のほたるが……。そうじゃないだろ、わかってないな。 |
ファンの反応 | うーん、嫌いじゃないけど。なんか、なんだろ。そっかぁ……って感じ。 |
肇 | ……。いいのも、悪いのもありますね。 |
美優 | そうね……けれど、新しいことをするとなると、どうしても賛否はでるんだと思う。否定的な意見も、きちんと受け止めていかないと。 |
ちとせ | お疲れさま、魔法使いさん。今回は、どんな魔法を私たちにかけてくれるの? |
P | 集まってくれてありがとう。まずは、新曲の資料を見てもらえるかな。 |
涼 | 『認めてくれなくたっていいよ』……?ずいぶんと攻めたタイトルの曲だな。 |
美玲 | いいじゃないか!ウチは好きだぞ。歌詞もすっごくいい! |
美優 | 強くてかっこよくて、自分を持ってる女の子の歌、ですね。 |
ちとせ | これも、魔法使いさんの言う最先端? |
P | 君たちの色んな魅力を、改めて探っていく一環だよ。頑張って挑戦してほしい。 |
P | それと、新曲を出すにあたってやってほしいことがあるんだ。 |
肇 | 何か特別なことをするんですか? |
P | 肇たちは経験があると思うけど、新曲のプロモーションについて、みんなで案を出してみてほしい。 |
P | やりたいことならなんでもいい。そこから生まれる新しい輝きを、 |
涼 | 曲の趣旨に合わせて、ってことか。 |
P | その通り |
P | こちらから与えたものをこなしてもらうんじゃ、テーマ性にそぐわないと思ってね。 |
美優 | ……新しい私たちへの、一歩。ですね。わかりました。 |
肇 | フラム・マティーニでの経験を活かして、全力で取り組みます! |
ちとせ | 面白くなりそうなことは、もちろん大賛成♪それに困ったら、魔法使いさんも手を貸してくれるでしょう?なら、安心かな。 |
涼 | 自己プロデュース、やってみたかったんだよな。アンタの言うコンセプトなら、アイドルってことにあえてこだわらなくてもよさそうだし。 |
美玲 | うぉー、やるぞー! |
涼 | それじゃ、まずは案を考えるか。とりあえずやりたいこと、それぞれ持ち寄るでいいよな。 |
美玲 | あっ……そうだ、どうやってまとめたらいいんだ?なんか資料、とか? |
ちとせ | それも好きにしていいんじゃないかな。見るのは私たちと魔法使いさんだけだろうし。伝えたいように、が今回は大事だよ。きっと。 |
肇 | では、まとめたらすり合わせの時間を作りましょう。 |
美優 | とはいえ、期日は必要よね。一週間くらい……だと、短いかしら。 |
涼 | いや、妥当だと思う。また事務所に集まって案を出しあおうぜ。 |
順調じゃなくたっていいよ | |
美優の部屋 | |
美優 | 経験者だし、最年長だし、私が今回はしっかりしないと。それで、みんなに動いてもらうのがいいわよね。イマドキは、みんなのほうがわかってるだろうし。 |
美優 | 期待されてる動き……できるかしら。 |
事務所 | |
美優 | どうかしら、考えられた? |
肇 | なんとか……といったところでしょうか。私は、曲に関するストーリーを動画にして、何本かに分けて公開するのを考えました。 |
肇 | 私たちの想いを、できるだけプロモに乗せることを考えたら、ストレートに世界観を見せることが、一番だと思いまして。……でも。 |
涼 | 納得いかないところでもあるのか? |
肇 | 納得いかないといいますか、その、楽曲のMVが……。これはもうプロデューサーさん主導で、コンセプトが決まって、進行していますから。 |
肇 | それとすり合わせができないと、違和感が出てしまうと思うんです。それはあまり、見え方がよくないな……と。 |
肇 | だから、考えはしたものの、胸を張って最善案です、と言えないんですよね。 |
涼 | 最善じゃない、か……わかるぜ。アタシはさ、ファンにもそうじゃない人にも今のアタシたちを、印象付ける案を持ってきたんだけど。 |
涼 | いろんな街や電車、ネットの広告を一斉にジャックして、「新曲よろしくな!」ってやったらインパクトあるだろ? |
美玲 | おー、いいんじゃないか!SNSでもトレンド乗りそうだ! |
涼 | ……けどな、これには膨大な予算が必要だ。ある程度は使ってもいいだろうけど、まぁ、常識的に考えるとな。 |
美優 | 予算と効果のバランスって難しいのよね。派手にして目につくように提案するのは、簡単なんだけど。 |
涼 | そう。だからこれも最善策じゃない。効果を保証できる数字を提案できるわけでもないし。 |
肇 | 難しいですよね。案として出すだけならなんでも言えても……実現を目指しているわけですから。 |
P | どう?進んでる? |
ちとせ | お疲れさま、魔法使いさん。様子見にきたの?それとも何か差し入れ? |
P | どちらも。下のカフェのドリンクチケットがあるから、渡しに来た。休憩をとるときにでも使ってほしい。 |
美優 | ありがとうございます。 |
ちとせ | ねぇ。実は、飲み物持ってくるの忘れちゃってて。みんなさえよければ、今すぐ引き換えにいかない? |
涼 | せっかくだしな。そうさせてもらおうか。 |
ちとせ | んー、潤った♪甘いものはいいよね。頭の働きも良くなるし。 |
ちとせ | さて、リフレッシュしたところで、次は私の番だね。 |
ちとせ | 考えてたのは、ちょっと涼さんのに似てるかな。突発でいろんな街に行って、ゲリラLIVEとか、ファンミーティングとかでアピールするの。 |
ちとせ | これもSNSで広まってくれるから、ロコミ効果もあるかなって。 |
肇 | スケジュール確保さえ可能なら、できそうですね!直接会った人にも強く印象付けられますし。 |
ちとせ | ほんと?ありがとう。でも……実はこれも、みんなと同じで、最善とは言えなくて。 |
涼 | 繰り返すほど話題性がなくなっていく、か……? |
ちとせ | うん、そう。マンネリ化しちゃうんだよね。新曲を出す前に話題性を全部使っちゃったら、元も子もないでしょう? |
美玲 | うぅ……難しいな。ウチ、そういうこと考えずに、やりたいだけで持ってきちゃった……。 |
涼 | 全然オッケーだよ。むしろ、そういう案が突破口になったりするもんだ。 |
美玲 | そ、そうか?じゃあ……。 |
美玲 | ウチが好きなのは、やっぱりパンクだ!だから、パンクファッションとコラボしたい! |
美玲 | ウチらがデザイン考えて、MVの衣装にしてもいい!みんなにウチらが好きな服を着てもらうんだ!……まぁ、服を作るのって時間かかるよなーとは、思ったけど。 |
肇 | コラボ先の選定、それからデザイナーさんと打ち合わせに、商品展開の広さ……かなり事前に仕込まないと、ちょっと難しいかもですね。 |
美玲 | やっぱりかーッ!! |
涼 | こうしてみると、かなり限られてるように感じるな。その中でどう、自分たちを表現するか……か。 |
美優 | ……。 |
ちとせ | ……美優さんはどう?いい案持ってきてくれた? |
美優 | あ、その……ごめんなさい。私の考えていた案は、どれもまだ大きな穴があって……。 |
涼 | まぁ、初回だしそんなもんかもな。もうちょっと考えてみようぜ。 |
ロビー | |
美優 | はぁ……持ってきた案、みんなに比べて全然冒険してなかった……。これは流石に出せないわね。 |
美優 | あっ……涼ちゃんに、ちとせちゃん。何か……私、忘れ物でもしていた? |
ちとせ | ううん、せっかくだから駅まで一緒にどうかなって、誘いにきたの。もう帰るんだよね? |
美優 | あら、じゃあ、お言葉に甘えようかしら。 |
涼 | ……あのさ。 |
美優 | はい? |
涼 | いや、なんでもない。ラッシュになる前に、早く行こうぜ。 |
ファンの声 | 新曲発表きた!良い曲続いてるし次も期待できそう。 |
ファンの声 | なんでメンバー発表だけなんだろ?でもこの5人だし、どんなのがきても安定感はあるんだろうな。 |
ファンの声 | バラード聴きたい気もする。涼の歌唱力活かしてほしいし。 |
涼 | やっぱアニバーサリーの後だと、注目度高いな。 |
肇 | 例年のこととはいえ、身が引き締まりますね。ファンのみなさんに、良いものを届けましょう。 |
美優 | ええ、そうね。たくさん『楽しみだ』って声をもらっているもの。 |
美優 | 私たちのプロモも、いいものにしないといけないわね。期待には、応えないと。 |
美玲 | っていっても、新しい案は全然浮かんでこないんだよなぁ。 |
涼 | それなんだけど、みんな、この後時間あるか?ネタ探しに行こうと思うんだけど、どうだ? |
ちとせ | あ、この間ほたるちゃんたちがやってたみたいに?いいんじゃないかな、街になら参考になりそうな良いもの、たくさんあるだろうし♪ |
肇 | なるほど……たしかに、勉強になりそうですね。私、何が流行っているのか気にして街を歩いたこと、あまりないかもしれません。 |
美玲 | じゃあ、行こう!市場調査ってやつだな♪ |
ショッピングモール | |
美優 | そういえば、ターゲットは絞らなくていいのかしら。プロモを調べるといっても、リーチしたい層によっては見る場所も変わってくるわよね。 |
涼 | けどさ、そこから考えを作ると、アタシたちの「やりたいこと」からズレていくと思うんだよな。だからいったん、考えないでいかないか? |
美優 | それは……たしかにそうね。私たちのやりたいこと、だものね……。 |
美玲 | ん?なんだこれ。ショート……ケーキ、缶?えっ、この中にケーキが入ってるのか!? |
美優 | おでんの缶は見たことあるけど、ケーキも入る時代なのね……。でも、ケーキフィルムに包まれてるものよりも、食べやすそうだわ。 |
ちとせ | パッケージが可愛くて、食べやすくて、それに鉄分補給にも最適♪一個買っていっちゃおうかな〜。 |
肇 | あ、ルーズソックス、学校で履いてる子がいました!リバイバルブームなんですよね。 |
涼 | 流行は一定周期で回ってるっていうしな。美優サンの時は、もうブーム終わってたんだっけ? |
美優 | そうね。それと私の時は、制服にはハイソックスだったから、足首丈がスタンダードになるのもビックリよ。 |
美玲 | じゃあ、またハイソックスが流行ったりするってことか。今履いてても、一周回ってパンクでかっこいいかもな! |
美玲 | おっ、これいいな!ぬいぐるみにつけたらカワイくなりそうだ。 |
ちとせ | なぁに?あはっ、小さなカチューシャだね。すっごく美玲ちゃんっぽい。 |
美玲 | あぁ、好きなデザインだ!いつもの、ウチの好み……。 |
肇 | 美玲ちゃん? |
美玲 | ……なんでもないッ!か、買ってくる! |
美玲 | ……いつもの、か。うぅ、新しいネタ探しにきたのに、結局今までの好きなもの、おっかけてるだけな気がする。 |
美玲 | 好きだから胸を張れるけど、でも、それって新しいウチ、じゃないよな。 |
美玲 | でも……じゃあ、新しいウチって、好きでもないところから無理やり見つけることなのか……? |
ちとせ | いろいろ見て回ってたのしかったぁ。結構動き回ったけど、そんなに疲れてないし、ちょっとは体力ついたのかも。 |
涼 | とかいって、この間入院してたじゃないか。無理してるわけじゃないよな? |
ちとせ | あれは検査入院だよ?倒れたわけじゃないからへーき。心配してくれてありがと♪ |
美優 | ふふ、楽しめたのならよかったわ。流行り廃りの入れ替わりは激しいから、新鮮なものばかりで、私も楽しかった。 |
肇 | はい、楽しかった……ですけど、参考にするとなると、どう扱うべきか、まだ見えてきませんね。 |
涼 | 宣伝って割とどれも一緒だったな。一からの構築はなんでも難しいもんだけど、これは、苦労しそうだ。 |
美玲 | 新しいって、意外とないんだな……。 |
涼 | だからこそ、それを提示できれば価値が出る。とはいえな。 |
ちとせ | まぁまぁそんな暗くならずに。無理な試練を、課してくる人じゃないでしょう?魔法使いさんは。 |
美優 | まだ始めたばかりだもの。小さなことでも、手がかりになりそうなものを拾っていきましょう。 |
肇 | 『どんな装いで どんな振る舞いで どんな自分だって いいでしょう』 |
肇 | まだなにか、違う気がする。けど、それがなんなのか……。って、もうこんな時間。明日に備えないと。 |
翌日 | |
美玲 | やばい、ギリギリになった……!肇の収録、もう終わってるかなあ。……ん? |
美玲 | 肇だ。おーい、もう収録……あ、行っちゃった。 |
美玲 | うーん?なんか表情暗かったな。どうしたんだろ。 |
美玲 | お疲れさまです!よし、間に合ったな! |
P | お疲れさま、美玲。ごめん、連絡入れたんだけど見てないかな? |
美玲 | 連絡?……うわ、ごめん見てなかった!んん、収録延びてたのか。肇が?珍しいな。 |
美玲 | いや、だからあんな顔してたのか。 |
P | 表現に迷ってるところがあるみたいでね。来る時に会ったの? |
美玲 | 下で見かけたんだ。エレベーター乗ってるのは見たけど、まだ戻ってないのか? |
P | 気分転換に休憩を取らせてるんだけどエレベーターに乗ったなら、屋上にでも行ったかな。 |
美玲 | ……ちょっと見てくる! |
屋上 | |
美玲 | いた。おーい、肇ー。 |
肇 | あ、美玲ちゃん!もう次の時間……ごめんなさい、まだ収録終わってなくて。 |
美玲 | プロデューサーから聞いた!悩んでるって……その、ウチでよければ相談に乗るぞ!あ、いや、うまく答えられるかはわからないんだけど。 |
美玲 | うまくいかない時にひとりで悩んでるの、良くないからな! |
肇 | ふふ、ありがとうございます。それでは、恥ずかしながら……。 |
肇 | ……気持ちの乗せ方が、どうしても定まらないんです。この歌詞の女の子に、自分が本当に寄り添えているのか。同じような強い気持ちを持って、臨めているのか。 |
肇 | 今回は、音程を合わせたり技巧を凝らすよりも、気持ちを入れられるかどうかが大事でしょうし。プロモーション案にも迷ってる自分が?とも思ってしまって。 |
美玲 | 気持ちの、入れ方か……。うーん、ウチは、割とすんなり歌詞は入ってきたけど、肇はたしかに、大人しいもんな。オクユカシイってやつ? |
肇 | いえ、そんな……自信がないだけですよ。 |
美玲 | そーゆーとこだと思うけどな。でもそっか、そうだなぁ……でもさ、肇にだって好きなものはあるだろ?陶芸は? |
肇 | 陶芸はたしかに好きですけど、才能があるわけでもないですし。これ、と誰かに胸を張れるほどでは……。 |
美玲 | なぁ、好きなものって、才能がなくちゃ続けちゃいけないのか?ウチは、好きって気持ちがあるだけで、いいと思うんだけど。肇だって「好き」を捨てられないから続けてるんだろ、陶芸。 |
肇 | ……はい、捨てられませんでした。自分の未熟を知ってしまっても、それでも。 |
美玲 | じゃあ、肇の中にもあると思うぞ。歌詞の中の女の子の気持ち。 |
肇 | 私の中にも、ある……。 |
美玲 | うん、あるよ!……ウチもさ。歌じゃないけど、案出しで悩んでるんだ。みんなでこの前ネタ探しに行っただろ? |
美玲 | その時さ、新しいアイディアを探しに行ったはずなのに、目につくのは全部、元々ウチが好きなものばっかだった。 |
美玲 | 好きなものはいくらでも見つかるけど、でもそれは今までのウチのままで……そこに新しい、イマドキを出すのって、かなり難しい気がしてさ。 |
肇 | それは、わかる気がします。目につく好ましいと思うものの基準って、結局今の自分の嗜好なんですよね。 |
美玲 | そうなんだよ!好きを貫くだけじゃ、今まで通り。だけど……いま、話してて思った。 |
美玲 | ウチは、この好きは絶対に貫く。新しい自分を見せるのに遠回りになっても、それこそ認められなくたって! |
美玲 | だって、それがウチなんだもん! |
肇 | 美玲ちゃん……。そっか、そうですよね。大事なのは自分が納得できるかどうか……。 |
美玲 | そう!だからさ、別にいいだろ!歌詞の正解がわかんなくたって、好きなコトの才能がなくたって!それでも、歌っていいし、好きでいい! |
美玲 | 肇のやりたいようにやれよ! |
肇 | ……はい。本当に、その通りですね。閉じていた目を開かれた気持ちです。 |
肇 | 私も!自分の……自分だけの好きを!貫きます! |
美玲 | うおッ……!? |
肇 | ……えへへ、叫んだら、吹っ切れるかと思って。ごめんなさい、びっくりさせちゃいました。 |
美玲 | ……!ヘヘッ、そうだそうだ!ウチも、なんと言われたって!好きなようにするぞー! |
P | ああ、おかえり。……すっきりしたみたいだね。 |
肇 | はい。もう一度、やらせてください。 |
美玲 | ウチのことは気にせず、納得いくまでやっていいからな。肇の好きなように! |
肇 | ふふ。私が好きなように、歌ってきますね! |
P | 進んでる?プロモ案。 |
美優 | あの、いいえ……期待にお応えできるほどのものは、まだ……。 |
ちとせ | 意外と難しいよね、魅せ方を考えるのって。 |
P | そうだね。でも、あまり深く考えすぎずに。そういう場合の方が、意外とよくなったりするから |
涼 | 気楽にってことだよな。わかってるよ。 |
美優 | 気楽に……。 |
涼 ちとせ | ……。 |
会議室 | |
美優 | ふぅ……前回の資料、残しておいてもらえてよかったわ。時間も少なくなってきたし、急いで精査しないといけないから。 |
美優 | ……うん、今日は一日、頑張りましょう。 |
数分後 | |
ちとせ | いたいた。お疲れさま、美優さん。 |
美優 | あら、ちとせちゃん?どうかした? |
ちとせ | 魔法使いさんに、ここで作業してるって聞いたから。どう?疲れてない? |
美優 | そんな時間は……やだ、結構経ってたわ。ちとせちゃんも来てくれたし、少し休憩しようかしら。 |
ちとせ | そうこなくっちゃ。じゃあ、おでかけしよっか♪ |
美優 | ……えっ? |
美優 | ちとせちゃん……、私、今日あんまり外を歩く服装じゃ……。 |
ちとせ | 変装しなくても、堂々としてれば案外バレないから大丈夫。まぁ、もしバレちゃっても……結構楽しいよ?おいかけっこ。 |
美優 | う、ううん……?楽しい、の、かしら。……ってあら? |
ちとせ | わぁ、涼さんだ。偶然だね。まだこっちには気づいてないみたい。 |
ちとせ | ……楽しいお外遊びその2、尾行ごっこ。やっちゃおっか? |
涼 | ……あのな。さすがに気付いてるぞ。ふたりして、何の遊びなんだ? |
ちとせ | バレちゃった♪ |
美優 | こんにちは、涼ちゃん。その、もしかして最初から……? |
涼 | いつ声かけてくるのか待ってたんだよ。なんか楽しそうだったし。で、ふたりは仕事帰りか? |
ちとせ | ちょっと気分転換におでかけ。涼さんも、もう何もないなら一緒にどうかな。 |
涼 | いいぜ、プロモの参考にぶらついてただけだからな。……と、言いたいところだけど。 |
女性ファン | ねぇ、あれ……松永涼たちじゃない?アイドルの。 |
男性ファン | 珍しい組み合わせじゃん。ん?今度出る新曲? |
美優 | ば、バレてるわちとせちゃん! |
ちとせ | あはっ♪見つかった時は、おいかけっこだね。 |
涼 | おいかけっこって……おいおい。 |
ちとせたちは駆け出した…… | |
ちとせ | はぁ……はぁ……。あはっ、まけた……かな……? |
涼 | はぁっ……走って逃げるなんて、何考えてるんだよ……。アイドルとしても褒められたことじゃないし、なにより、途中で倒れたらどうするつもりだったんだ。 |
ちとせ | ふふ、千夜ちゃんみたいなこと、言うね。私、体力ついたって、言ったよ?だから、はぁ……ヘーき。ほら。ね? |
涼 | まったく……。はぁ……でも、見つかるもんだな。昔はどんな格好してても、声なんてかけられなかったのに。 |
美優 | ……そうね。たくさんの人が、私たちに注目してる。 |
涼 | 憧れられると同時に、羨まれもする。いろんな人たちが、いろんな思惑でアタシたちを見てるんだ。ときどき、それを実感するよ。 |
ちとせ | わかるよ。見てもらえるのは嬉しいけど、失敗しちゃいけないんだって期待の声が、ほんの少しだけ、重く感じるときもあるもんね。 |
涼 | 期待はたしかに重いな。どうしても応えたくなるのが、アイドルってもんだ。 |
涼 | でも、応えようと意識しすぎるってことは、相手に認めてもらうために、自分を曲げるってことでもある。人の目を気にして辿り着くのは、どうしようもない袋小路だ。 |
涼 | こういう時、叫びたくなるよな。うるさいアタシの好きにさせろ!ってさ。 |
ちとせ | じゃあ、いっそ叫んじゃう? |
涼 | ハハッ!それもいいけど、さすがにな。身につけてきた常識ってやつが、邪魔してる。コイツがなかなか手ごわくてね。 |
涼 | でも、今……。丁度おあつらえ向きな仕事を、アタシたちはしてる最中だ。そうだろ、美優サン。 |
美優 | ……ふたりも、同じだったのね。 |
ちとせ | うん。きっとみんな、同じ気持ちだよ。 |
涼 | 経験者で、最年長。美優サンの立場になったら、アタシたちも同じように気負うと思う。だからこそもう一回言うぜ。気楽にやろうよ。 |
美優 | ……私、たしかに気負いすぎてたのかもしれないわ。だめね、最年長なのに……あっ。 |
ちとせ | あはっ、でちゃった。でも……いいんじゃないかな。出ちゃった後に気を抜けば。 |
ちとせ | 私たちなんて、そんなものだよ。神秘の中でだけじゃ、生きていけない。突飛なことだけじゃ、それもいつか飽きられちゃう。 |
ちとせ | 偶像と人間の狭間で……それでも何かを探して、歌い続ける。それが、アイドルでしょう? |
美優 | ……そうね。完璧じゃない……それでも、私は、私だから。 |
涼 | ま、美優サンがまた張り詰めそうになったら、アタシたちが空気を抜くさ。任せてくれ。 |
美優 | ふ、ふふ……心強い。ありがとう、ふたりとも。なんだか、少しスッキリした気がするわ。 |
カフェテラス | |
涼 | さて、そろそろ案をまとめなきゃな。みんなの案を、一通り出しなおしてもらったわけだけど……。 |
ちとせ | アイディアは、いろいろ出てきたね。初回のときよりも、みんな伸び伸びしてていい感じ♪でも、ここから、どうやって選ぼうか? |
肇 | やはり、目新しさでしょうか?新しい姿を見せることが目的なわけですから……。 |
美優 | 新しい私たちを見せるためのプロモーション……。あのね、それについて、考えていたんだけど……。 |
美優 | 新しい何かって、もうないのかもしれない。ううん、正確には、その必要がないのかも。 |
肇 | 現在の流行も、過去の流行りをかけ合わせて巡っているものですもんね。 |
美玲 | でも……それだと、プロデューサーの言う新しいウチたちを見せられないぞ! |
美優 | そう、そこなのよ。今の私たちは、美玲ちゃんの言うように、新しい魅せ方を通して私たちの違う一面を、アピールしようとしているでしょう? |
美優 | でも、必ずしもそうではないのかもって思うの。あくまでプロモーションは手段で、そこで見せる姿が、初めて見せる私たちであればいいんじゃないかしら。 |
涼 | 見せられる姿が新しいものなら、プロモーションの案は新しいものである必要はない。たしかにな……。 |
涼 | それなら……いや、でも……。 |
ちとせ | ……ごめん、ちょっとだけ席外すね。すぐ戻ってくるから、続けててくれるかな。 |
事務所 | |
ちとせ | ねぇ、魔法使いさん、今時間ある?ちょっと質問があるんだけど。 |
頷く | |
ちとせ | あのね……。 |
ちとせの質問を聞いて、好きにやるように伝えた…… | |
ちとせ | ありがとう♪それならきっとプロモ案、上手くいくと思う。 |
ちとせ | お待たせ。あ、これ魔法使いさんから差し入れだよ。 |
美玲 | プロデューサーのところに行ってきたんだ。……進め方について、何か言われたか? |
ちとせ | ううん、好きにするようにって。 |
ちとせ | ねぇ、私からもひとつ提案があるんだけど……そもそもみんな、私たちが提案するプロモ案ってどれくらいだそうと思ってる? |
美優 | それは……みんなでひとつ? |
ちとせ | うん、私も最初はそう考えてたんだけど、それだとどうしても、魅せ方って偏っちゃうじゃない?私たち、せっかく違う個性があるのに。 |
ちとせ | だから、いくつの案を実現できるか聞いてみたの。 |
ちとせ | やりたいこと全部、叶えられる範囲でやっていいよ。だって♪ |
涼 | マジか?それなら話が変わってくるぞ。 |
涼 | それぞれの個性を出した、色の違うプロモを複数打ち出すんだ。そうすれば、絶対にどれかは新しい魅力として、ファンに届く。 |
美玲 | 新しいことをやるために、好きを曲げないでいいのか? |
肇 | 私の「好き」は、他の誰かにとっての「新しい」。そうですね。たしかにそれなら。 |
美優 | 自由に、好きに……。ふふ、そうよね、私たちは『認めてくれなくたっていい』んだもの。 |
美優 | 実現できる案はひとつだけ……そんな思考の型に、はまってしまっていたのね。 |
美玲 | ならさ!やっぱり、ウチ、ウチの好きなブランドと何かしたい! |
美玲 | 一からデザイン考えて、は無理なのはわかってるけど、それ以外ならきっと今からでも、できることあると思うし、ウチは見慣れてるけど美優さんとか肇とかは、「新しい」だろ? |
肇 | はい!似合うかは自信ないですけど、意外性があっていいかも、ってなるかもしれませんよね! |
涼 | 全身コーディネイトは無理でも、ワンポイントなら可能かもな。それにしても、アハハ、スモックの次はパンクか。美優サンの守備範囲、広がるじゃん。 |
美優 | ひ、広がっていいものなのかしら……? |
ちとせ | あはっ、これはもっと、たくさん案が出てきそうだね♪複数案を通せるなら、デメリットも気にならないかもだし。 |
涼 | 魅せ方がたくさんあるからこそ、だな。浮かんできたもの、かたっぱしからメモしてこうぜ。かけ合わせたら、新しい可能性とやら……無限に見つかりそうだ。 |
涼 | ……って感じなんだけど。アンタから見て、大丈夫そうか? |
P | ああ、楽しそうな案がたくさんでいいね。できる限り進められるようにするよ |
美玲 | やった!ウチらにできることなんでもするからな! |
P | ありがとう、いいプロモができるように、力を貸してくれると嬉しい。あとは…………。 |
肇 | ……やっぱり問題、ありましたか? |
P | いや、もらった案に関してはまったくないよ。多角的に見せる、それはとてもいいと思う。ただ……。 |
P | そのぶんだけ、上がる声の種類も増えるな、とは思ったんだ。 |
ちとせ | なんだ、そんなこと?やだなぁ。わかってるよ、初めから。 |
肇 | 今回の声がかかった時から……いいえ、プロデューサーさんが新しい方針を私たちにくれた時から、そのつもりです。 |
美優 | どんな声を向けられるのも覚悟の上で、こうやって、案を持ってきたんですから。 |
涼 | 今までだって、賞賛だけ浴びてたわけじゃないだろ。そりゃ、褒められるだけの方が気分はいいさ。けど、それ以外を否定するのは違う。 |
涼 | アタシらの中に曲げられない「自分」があるように、みんなそれぞれ、守りたい芯があるんだ。それは、尊重しないとな。 |
美玲 | それに、新しいウチらを見せたからって、それまでのウチらが消えるわけじゃないし! |
P | ありがとう |
P | 君たちを選んで、よかったよ。 |
スタッフ | ……カット!お疲れさまです、ロケ終了です! |
美優 | ありがとうございました。 |
ディレクター | うん、よかったよ。そういえばキミんとこの事務所さ、最近ちょっと、雰囲気変わったよね。 |
ディレクター | 大手がさ、すごいよね。保守的にならないのは珍しいよ、本当。反発も少なくないだろうに。 |
美優 | 恵まれていると思います。いつになっても、挑戦をさせてもらえますから。そういう環境は、中々得がたいものですし。 |
ディレクター | ……うん。やっぱり変わったね。キミも。いいと思うよ。新曲、楽しみにしてる。 |
美優 | ありがとうございます。新しい私たちを見てもらえるように、施策も自分たちで考えましたから、見てくださいね。 |
美玲 | なぁなぁ、肇はもらったか?新曲の完パケ! |
肇 | はい、レッスン前にいただきました。美玲ちゃんはもう聴かれましたか? |
美玲 | 聴きたかったけど、我慢した!肇とレッスンあるのわかってたからさ。一緒に聴かないか? |
肇 | ふふ、こちらこそ、お願いしようと思ってました。 |
肇 | ……よかった、素敵に仕上がってくれて。 |
美玲 | 最後まで粘ったからだな!ウチ、このサビのとこ好きだぞ。 |
肇 | ありがとうございます、……レコーディングの時も。美玲ちゃんがいてくれたから、私だけの表現になりました。 |
美玲 | う、ウチは別に……!ちょっと声かけただけだし!それを言うならウチだって、肇と話したからプロモ案もまとまったっていうか……! |
美玲 | とにかく!納得がいくまで頑張って、お互い貫き通した!それができてよかったってことだ! |
肇 | ふふっ、そういうことですね。 |
ちとせ | そういえば明日だっけ、解禁日。 |
涼 | 曲に、コラボ企画に、まぁいろいろでていくな。まだ企画中のやつもあるけど、もうそんな日数経ったなんて、信じられないよ。 |
ちとせ | 充実してる日々は、時間の進みが早いからね。忙しなく過ぎていく時に身を置くのって、私、好きだな。 |
涼 | ゴールにどんなものが待っているのであれ、走り抜けた時に感じた高揚感は、消えないもんな。 |
ちとせ | うん。あはっ、どんな声に迎えられて、ゴールテープを切るのかな。 |
涼 | 気になるか? |
ちとせ | んー……こういう反応になるのかなぁ、っていう予想はあるんだけど、どれだけそこから外れたものが飛んでくるのかどうかが、楽しみなの。 |
ちとせ | お疲れさまー♪ |
美玲 | お疲れ。どうしたんだ、やけに上機嫌じゃないか。 |
ちとせ | ん?んふふ、それは……ね?涼さん。 |
涼 | 情報解禁されて、ファンがどんな反応するのか予想しあってたんだよ。楽しみだよなって。 |
美優 | あう……出ちゃうのよね、いろいろ。撮影中は気にならなかったけど、今更恥ずかしいわ。 |
肇 | 似合ってましたよ?ふふ、でも、普段の美優さんを見慣れてるとびっくりしちゃうかもしれませんね。 |
涼 | いいじゃん。それが、新しい自分の可能性を出してくってことだ。いろんな人にそれを見てもらえる……恵まれてるよ、アタシらは。 |
美玲 | 気に入ってくれるのが一番だけど、いいんだ、好きにやるって決めたもんな! |
肇 | 今は、認められなくても……もしかしたらいつか、変わるかもしれません。 |
ちとせ | 私たち自身にいろんな可能性があるように、ほかのみんなにも、たくさんの可能性があるもんね。道が交わる未来だって、きっと。 |
美優 | そこまでの道のりを、自分らしく。楽しんで、歩んでいけたらいいわよね。 |
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