最終更新: xrs1c1qdm2 2024年09月01日(日) 23:50:14履歴
加蓮 | こんにちは、北条加蓮だよ。知ってる人もいるかな?私と奏で、『モノクロームリリィ』ってユニットを組んでるの。 |
加蓮 | でも、本格的に活動するのは、とあるユニットオーディションで優勝してからになったんだ。ふたりで話し合って、そう決めた。お互いに知った仲だし、自信もあったからね。 |
加蓮 | ねぇ、奏。私はね、ずっとこう思ってるんだよ。何があっても、ステージに立ちつづけてみせるって。今を生きる私を、強くみんなの心に刻んでみせるって。 |
奏 | こんにちは、速水奏です。私と加蓮のユニット、『モノクロームリリィ』……はたして、本格的に活動開始ができると思う? |
奏 | どうしてこんな聞き方をするのかって……今回挑戦するお仕事は、オーディション番組だもの。泣いても笑っても、勝たなきゃステージに上がれないわ。 |
奏 | ねぇ、加蓮。私ね、ずっと思っていることがあるの。アイドルの世界は、残酷で、傲慢で、嘘も多くて……まるで毒。でも、だからこそ、美しいのね。 |
ステージに上がれなかった日のことを、よく覚えてる。 | |
主役になれなかった日のことを、よく覚えてる。 | |
加蓮 | あれは、訪問劇団が病院にやってきたときのことだったかな。「お姫様をやってみたい人!」そう言われて、周りのみんなはステージに走っていった。 |
加蓮 | ……私は、走れなかったけど。だって、当時の体力じゃ、お姫様のセリフなんて最後まで言えないし? |
加蓮 | みんなはそんなことも考えずに好きに舞台に上がって……すぐに下りてきたよ。もう疲れた〜とか言って。 |
奏 | あれは、学園祭の練習時間だったわね。クラスメイトはみんな、ふざけてステージに上がったわ。エアギターなんて弾いて、ずいぶんと盛り上がっていたみたい。 |
奏 | ……私はただ、それを横目に見てただけ。 |
奏 | その子たち?すぐに舞台を下りたわよ。「こんなのはただの記念。ガチでやるわけない」なんて言いながら。 |
あの日のことを、今もたまに、思い出しては考える。じゃあ、私たちは?って。 | |
もし、私たちが舞台に上がるなら…… | |
私はもう、諦めたりしない。 | |
最後まで、本気で立ちつづけてみせる。 | |
街頭テレビで加蓮と奏のインタビューが流れている…… | |
テレビの中のMC | このオーディションで優勝すれば、『モノクロームリリィ』は本格的な活動を開始するということですが……。 |
テレビの中の加蓮 | はい。すっごく楽しみにしてるし、自信もあるんです。私と奏なら、絶対にできるって! |
奏 | あんなこと言っちゃって……でも、私も同じ気持ちよ。 |
奏 | さて、そろそろ行かなくちゃね。加蓮を待たせると後が怖いし。 |
以前撮影した加蓮と奏のインタビューが流れている…… | |
テレビの中のMC | ユニットのお相手は、北条加蓮さん。何度か一緒にお仕事をしていますし、勝手知ったる仲と言ってもいいのでは? |
テレビの中の奏 | ええ。だから不安はありません。面倒くさい者同士、気も合うことだし……♪ |
加蓮 | ほんと、好き勝手言ってくれちゃって。……でも、同感。 |
加蓮 | っと、もうこんな時間か。急がなきゃ!奏を待たせたら面倒だし。 |
事務所 | |
今日のテレビは『モノクロームリリィ』の話題で持ちきりだ…… | |
美優 | 素敵なインタビューですね。加蓮ちゃんも奏ちゃんも、今回のお仕事をとても楽しみにしているのが伝わってきて……。 |
夕美 | ユニットオーディション、頑張ってほしいな。って、私が言わなくても、ふたりならきっとやる気いっぱいだよね♪ |
??? | ふふっ、もちろん♪ |
夕美 | 加蓮ちゃんに奏ちゃん!来てたんだね。 |
奏 | ええ。出発前に、事務所のみんなに挨拶をしに来たのよ。しばらくは戻れなくなるから。 |
美優 | 合宿しながらのオーディションだと聞いています。もう始まるんですね……! |
加蓮 | 番組の撮影は明日からなんだけどね。集合自体は今日。 |
P | プライベートの様子も撮影されるからね。レッスン風景と同様、審査員と番組の視聴者に見てもらって、投票の対象になるよ。 |
夕美 | たしか、「このアイドルたちなら輝ける!」、「このユニットにデビューしてほしい!」って思った子たちに、視聴者はコメントをつけて投票するんだよね。 |
美優 | この前、私も番組を見てみたんです。決められた日までに、番組の設ける得票数やレベルに達していなければすぐに脱落してしまう……。 |
美優 | 見ていた私の方が、もうドキドキしてしまって……! |
P | その分、優勝したユニットには大きな特典もあるよ。曲やMVの制作を後押ししてもらえるし、それを披露するLIVEの機会も与えられたりね。 |
加蓮 | それでも、奏はプライベートまで撮影されるのをけっこう渋ってたみたいだったけど♪ |
奏 | もう割り切ったわよ。それに、オファーが来たとき、プロデューサーさんもずいぶんと喜んでいたでしょう?期待に応えてあげるのも、駆け引きのうちかなって……♪ |
P | 嬉しかったんだよ。先方がオファー前に、『モノクロームリリィ』についてよく調べてくれていたからね。 |
P | LIVEでサプライズとして披露したふたりの『躍るFLAGSHIP』や、過去に一度だけ大きなLIVEでゲストとして参加したことも知っていてね。 |
P | 今回のオーディションで優勝できたら、ぜひ本格的にユニット活動を始めてみないかということだったんだ。もちろん、容赦も忖度も一切なしだそうだけど。 |
夕美 | 厳しいオーディションだって聞いてるよ。審査員が辛口だとか、大きな壁にぶつかるアイドルも多いとか……。 |
美優 | ふたりには頑張ってほしいですけど……決して、無理はしないでくださいね……? |
美優 | 順位がつけられるお仕事は、残酷ですから。勝ちたいという気持ちが膨らんで、自分ではどうしようもなくなったり、逆に現実を受け入れきれずに戸惑ったり……。 |
加蓮 | 美優さん、ずいぶんと実感のこもった言葉だけど……。 |
美優 | す、すみません……!おふたりがそうだと言っているわけではなくて……ただ、会社員をやっていたときに、同期や先輩でそうなっていく人たちを見てきたので……。 |
夕美 | そっか……。それに、自分は大丈夫でも、周りの人のぴりぴりした気持ちが移っちゃうこともあるよね。 |
夕美 | もしリラックスしたくなったら呼んでね!いい香りのお花を持って駆けつけるから♪ |
奏 | ふふ、ありがとう。頼りにしてるわね。 |
P | ふたりの言う通り、大変なこともたくさんあると思う。でも、『モノクロームリリィ』なら乗り越えられるよ。だから…… |
P | 思いっきり輝いてきて |
奏 加蓮 | ええ♪ うん! |
第1次審査オーディション | |
審査員 | これより、ダンスレッスンを開始します。こちらは最初の審査および視聴者投票も兼ねていますので、みなさん全力で臨んでください。 |
審査員 | それでは、エントリーナンバー1番のユニットから始めてください。 |
奏 | この振りつけにステップ……ずいぶんと高いレベルを求めてくるのね。 |
加蓮 | ここで一気に人数を絞っていくつもりなのかも。でも……今の私たちなら、余裕でしょ! |
審査員 | 以上が、最初のオーディションを突破したアイドルユニットになります。 |
アイドルA | ……っ!事務所が、ここで駄目だったら解散だって……私たちの、最後のチャンスだったのに……! |
アイドルB | ちょっと、泣かないでよ……。私まで泣きたくなっちゃうじゃん……。 |
加蓮 | 知ってたけど……誰かの夢が、ここで終わるんだね……。 |
奏 | それでも、私たちにできることは何もないわよ。残酷だけど、これも審査の結果なんだから。 |
加蓮 | ……うん、わかってる。 |
スタッフ | カメラ班、撤収しまーす。アイドルのみなさんは、ロッカールームで着替えをお願いします。勝ち残ったユニットの方々にはインタビューが…… |
アイドルC | 私たちが負けるなんてありえないんだけど!? |
アイドルD | ねぇ、やめなよ……! |
アイドルC | 歌もダンスも、どのユニットよりよくできてたでしょ!?私たちが一番だったでしょ!? |
アイドルC | 視聴者の人だって、たくさん投票してくれてるじゃないですか!審査員から投票されなかったから脱落なんて……! |
スタッフ | ちょっと……収録後に困りますよ。審査員の一票が重いルールではありますし、審査結果発表の際にも課題点はお伝えしていますから……。 |
アイドルC | だって、納得できません!もっと詳しく、納得できる説明をしてください! |
審査員 | 先ほど言った通りですよ。貴方たちは、ステージの最後で気を抜いたでしょう?振りつけを間違え、ユニットのメンバーとぶつかった。 |
審査員 | そして、以降のパフォーマンスはガタガタだった。それ以上、説明することはありません。 |
アイドルC | だから何!?たった10秒でしょ!?私たちは事務所期待のユニットなの!ステージ経験だって申し分ないの!そんなユニットを、ここで終わらせていいと思ってるの!? |
加蓮 | たった10秒……でもその10秒は、誰かが死ぬ気で力を振り絞った10秒だよ。 |
奏 | 加蓮……。 |
加蓮 | ファンの人たちにとっても、貴重な10秒なんだ。たくさんのアイドルの中から、私たちを選んで、視線を向けてくれた10秒。 |
加蓮 | アイドルなら、それに応えるべきだって思うよ。たった一度のステージでも、たった一瞬のパフォーマンスでも、無駄にできる時間なんてどこにもないはずでしょ。 |
アイドルC | だ、誰か知らないけど、急に来てわかったようなこと言ってるんじゃないわよ! |
アイドルD | よ、よく見て……北条加蓮さんだよ。ほら、あの有名な……。 |
アイドルC | ……もういい。萎えたわ。行こう。 |
アイドルD | ……すみませんでした。 |
他のアイドル | ねぇ、あれって北条加蓮じゃない……?速水奏もいる……『モノクロームリリィ』……マジで参加してんじゃん。 |
他のアイドル | 事務所だって大きいところだし、ステージだって今までにいっぱい経験してるんでしょ……?私たち、そんなふたりを相手しなくちゃいけないの……? |
他のアイドル | 何もオーディションに来なくてもさ……いずれユニットデビューできるじゃん……。遊び半分で、私たちのチャンスを奪わないでよ……っ! |
加蓮 | また……っ。 |
奏 | ……遊び半分なんかじゃないわ。 |
奏 | もしこのオーディションに勝てなければ、私たちはいろんな人からこう言われるでしょうね。 |
奏 | 「あれだけ多くのステージに立っていても、この程度か」って。負ければ、今まで築いてきたものも、脆く崩れ去るのよ。そうすれば、ユニットデビューなんて夢のまた夢。 |
他のアイドル | …………。 |
奏 | ……お互い、ベストを尽くしましょう。 |
合宿所の廊下 | |
加蓮 | 奏が、あそこまではっきり言うとはねー♪ |
奏 | 加蓮の方が思いっきり言ってたと思うけど? |
加蓮 | 私はさ、ほら、キャラ的にけっこう言う方じゃん。だけど、奏はああいうとき傍観することも多いし。 |
奏 | それはね、投げつけられた言葉にもよるのよ。……結局のところ、相変わらず似た者同士ってことかな、私たちは。 |
加蓮 | 面倒くさい者同士? |
奏 | そう、それ。便利な言葉よね、面倒くさいって。 |
今の私たちは、多くのステージに立てている。 | |
本気になれるものを見つけて、必死になって……じゃあ、その先は? | |
憧れを叶えた後で | |
本気のステージに立った後で | |
私たちは、どこに行けばいい? | |
視聴者からのコメントが届きました。 | |
「モノクロームリリィ、やっぱり最高!」「クールなパフォーマンスが圧巻だった。」「もうふたりが絶対優勝に決まってるよね!」 | |
「歌もダンスも、そつなくこなしすぎだと思った。応援したい気持ちになれないっていうか……できすぎてて、共感できるポイントがあんまりないなぁ。」 |
奏 | 「こういう番組で応援したくなるのって、やっぱりフレッシュな子なんだよな。」、「成長が見られないと応援のし甲斐もないよね。」、 |
奏 | 「無名の子をいっぱい映してほしー。新しく可愛い子を知るのがこの番組の楽しみ!」ですって。 |
加蓮 | 私たちは今も今までも、必死にアイドルやってるだけなんだけど。そーいう見方もあるかー。 |
奏 | 加蓮も知ってのとおりよ。この世界は、いつだって残酷。そこに選定という勝敗が加わるならなおさらね。 |
加蓮 | だよねー。フレッシュさに、応援のし甲斐……か。私がアイドルを応援してたときって、どんな気持ちだったっけ……? |
奏 | あら、今は応援してないの?加蓮の周りには、たくさんの魅力的なアイドルがいるのに。 |
加蓮 | してるしてる!もちろんしてるって!でも周りのみんなはさ、応援もしてるけどライバルだっていう意識もあって……。 |
奏 | 仲間であり、ライバル? |
加蓮 | そうそう、それそれ! |
奏 | 光栄ね。それに、加蓮の疑問はある意味いいタイミングっていえるかも。 |
加蓮 | へ?今日ってなんかあったっけ? |
奏 | 今日はね、審査員のスケジュールの都合で自習なんですって。さっきスタッフさんが私に言いにきたのよ。加蓮ちゃんにも伝えておいてって。 |
加蓮 | ああ。審査員の人たち、芸能界の大御所ばっかりで忙しそうだもんね。でもさ、自習って何するわけ? |
奏 | SNSに動画をアップしたり、自主レッスンをしたり……ユニットによって色々みたい。でも、一応番組から課題は出てるのよ。 |
奏 | 「アイドルとは何か、自分たちなりに考えて行動に移しなさい」ってね。少しカメラも入るみたいだし。 |
加蓮 | んー……じゃあさ、私、ちょっとやりたいことがあるんだけど、いいかな? |
奏 | で、ひとまずアイドル年鑑を大量に持ってきたのね。 |
加蓮 | うん。昔アイドルを応援してた無邪気な気持ちも思い出せるし、アイドルとは何かの調査にもなるし? |
加蓮 | あ、懐かしー……。小さいときの私、この子にすっごく夢中になってたんだよ! |
加蓮 | カメラに映ってるときはいつも笑顔でさ。見てると自然に目がいっちゃうの。 |
加蓮 | こっちの子は、歌が上手くて、CDをたくさん買ったっけ。 |
奏 | でも、最近は見ない人たちね。同じ世界にいるんだから、一緒にお仕事をすることだってありそうなのに。 |
加蓮 | うん……どっちの子も、もうだいぶ前に引退しちゃってるから。 |
加蓮 | 引退する前にはもう、アイドル雑誌のすみっこに載ってるだけだったし……引退してからは、誰も話題にあげなくなっちゃった。 |
奏 | この世界ではよく聞くけれど……何度聞いても、切ない話ね。 |
加蓮 | 途中でステージを去ったアイドルは、すぐに忘れられちゃうってやつだよね。 |
加蓮 | ……私だったらって、想像するだけでも怖いよ。自分が、スポットライトを浴びられなくなる日が来るかも、なんてさ。 |
奏 | 同感。……っと、ちょうどいいところにカメラマンさんも来たことだし、何か話してみたら?たとえば……アイドルとして、北条加蓮はどうなりたい? |
加蓮 | 私……私は、アイドルとして、全人類に、北条加蓮を忘れられなくしてやりたい。 |
加蓮 | ステージに上がってる私を見たら、もう二度と忘れられなくなるような、そんなアイドルになりたい。 |
加蓮 | だから、今回のオーディション番組でだって、負けたくないんだ。勝ち上がって、最後にステージに立って、みんなの視線を独り占めするアイドルは、私がいい! |
加蓮 | ……って、この結論はちょっとワガママすぎる?いいのかな?今の私たちの課題って、言っちゃえば「応援したい気持ちにならない」ってところでしょ? |
加蓮 | もっとこう、フレッシュな魅力〜とか……抜けてるところを見せて親近感〜とか……。 |
奏 | 親近感はポテトキャラで見せればいいんじゃない?私は自分の抜けてるところは見せたくないけど。 |
加蓮 | もう、奏ってば……私のポテトはキャラじゃないし。 |
奏 | それに、小さいころの加蓮って、フレッシュな魅力があるから、このアイドルを応援してた?ちょっと抜けてるから、CDもたくさん買ってあげてた? |
加蓮 | ううん、違う……そうじゃなかった。 |
奏 | 映画の主人公と同じよね。なんでもできるカッコイイ主人公を見たい人もいれば、はちゃめちゃな行動ばかりして、ちっとも共感できない主人公が好きな人だっている。 |
奏 | フレッシュで応援したい……そんな似たような主人公ばっかりじゃ、つまらないと思うわ。 |
奏 | ねぇ、思い出してみて?加蓮が昔、アイドルに抱いていた気持ちを。その上で、今回の課題に答えを出してみて。あなたにとって、アイドルって何かしら? |
加蓮 | ……私にとってのアイドルは、憧れ。初めてテレビでアイドルを見たときに、どうしようもなく憧れたんだ。 |
加蓮 | だってさ、彼女たちはステージの上で、自分の存在をたくさんの人の心に刻みつけてたんだよ。それが、何もできないって諦めていた昔の私には、どうしようもなく眩しく見えたんだ。 |
奏 | だったら、加蓮のやることはもう決まったでしょう?視聴者に応援してもらう? |
加蓮 | もちろん、してもらいたいとも思う。でもそれ以上に……圧倒したい。みんなに、私の存在を刻みつけたい! |
奏 | ですって。カメラマンさん、いい画は撮れた? |
カメラマン | ええ。次のオンエアできちんと使わせてもらいますよ。 |
第2次審査オーディション後 | |
審査員 | 加蓮さん、いいですね。歌、ダンス、ビジュアル……最初からどこをとっても完成度が高かった。その上で今もさらなる高みを目指している。貪欲なアイドルです。 |
加蓮 | はい!ありがとうございます! |
視聴者からのコメントが届きました。 | |
「北条加蓮はテレビでもう見慣れてるし、今さら応援したいって感じのアイドルじゃないけど……今週の彼女から目が離せなかった。」 | |
「だからこれは、頑張ってとか勝ち抜いてとかっていうより、すごいものを見せてもらったなっていう意味の一票。」 | |
奏 | うん、今週の合格基準もクリアね。加蓮のダンスもキレッキレになったことだし。 |
加蓮 | っていうか、オンエアされた映像!自習の日も含めて私ばっかり話してない!? |
加蓮 | 奏もなんか語ってよ〜!アイドルへのこだわりとか、自分の憧れとか! |
奏 | あら、私の憧れなんて、もうみんな知ってるわよ。私はオトナに憧れる、ごく普通のアイドルなの。 |
加蓮 | もう、またはぐらかして〜! |
奏 | (そして、大人になるというのなら……私は、私の役割を……ユニットのメンバーとして演じる立ち回りを、考えないとね。) |
第3次審査オーディション | |
審査員 | 本日みなさんが審査されるのは、ステージ上での動きです。LIVE中を想定し、デュオ相手と息を合わせてください。アドリブのタイミングも加点対象となります。 |
加蓮 | 披露する楽曲は、有名なアイドルソングか……。問題は、本来の歌唱人数が3人なことと、歌割は自分たちで決めなきゃいけないこと。 |
奏 | 歌割に振りつけにアドリブ……全部を考えて噛み合わせないと、一気にパフォーマンスが崩れちゃうわね。 |
加蓮 | どうする、奏? |
奏 | 加蓮の得意分野を活かしましょうか。あなたに歌ってほしいパートは、こことここ、それから…… |
審査員 | それでは、『モノクロームリリィ』のおふたり、パフォーマンスを始めてください。 |
奏 加蓮 | はい! |
奏 | (加蓮、相変わらず絶好調ね。だったら……) |
奏 | (私がここでターン、そのまま一歩下がる……そうすれば、加蓮のパフォーマンスがより輝く……!) |
審査員 | なるほど……。 |
審査員 | パフォーマンス、お疲れさまでした。まず、奏さん。サビ歌唱時の動き……その意図を説明してくださる?前回のレッスンとはフォーメーションを変えていたようだけど。 |
奏 | このワンフレーズを歌う加蓮が、より輝くようにと変えました。 |
審査員 | そう。それは貴方の意思? |
奏 | もちろん。同じユニットの仲間に輝いてほしい……それ以外の意図はありません。 |
審査員 | ………私には、奏さんが意図してそう動いたというより、ふたりが互いの距離を掴みかねているように見えましたが。 |
審査員 | 速水奏さん。貴方は本音を隠していて、底が見えない。 |
審査員 | お客さんからは、それでもいいかもしれませんが……自分自身の底から、目を逸らしてはいけませんよ。 |
視聴者からコメントが届きました。 | |
「審査員、きびしー!」「ミステリアスなのが奏さんのいいところじゃん!」「審査員の言いたいこと、私はなんとなくわかるけどなー。」 | |
「モノリリ、今回はギリギリ合格だったか。」「これはどのユニットが優勝するかわからなくなってきたな。」「次回も楽しみ!絶対見る!」 | |
加蓮 | えっとさ……奏、このあと自主練してこっか。 |
奏 | ……そうね。私も、そうしなきゃって思ってたところ。 |
アイドルE | だから!私に合わせてって言ったでしょ!? |
アイドルF | そんなことしたら、私の目立つところがなくなっちゃう! |
アイドルE | 当たり前じゃん!人気ある方が目立つのは当然なんだから!その方がファンも喜ぶんだし譲れよ! |
アイドルF | 絶対に嫌!私は引き立て役をやりたくてアイドルになったんじゃないっ! |
アイドルE | アンタがそんなだから……自分勝手だから私たちは不合格になったんでしょ!? |
アイドルF | それはこっちの台詞!デュオユニットなんだから平等であるべきなのに!アンタが前に前にって出てくから……だから……っ! |
加蓮 | ……思いっきりケンカしてるね。廊下のど真ん中で。 |
奏 | 一応言っておくけど、前みたいにつっこんでいかない方がいいと思うわよ。悪化しそうだし。 |
加蓮 | うん、わかってる。……行こっか。 |
加蓮 | (この前、奏と調べたアイドルたちの中にもいた……。同じユニットなのに、そりが合わなくて、ケンカして、そのまま解散になって引退しちゃったアイドル……) |
審査員 | 速水奏さん。貴方は本音を隠していて、底が見えない。 |
加蓮 | (奏の「素直恐怖症」はいつものことだし……それでも、私にはけっこう本音を話してくれてると思う。) |
加蓮 | (私たちは、お互いのことをよくわかってる。だから、互いに踏み込まれたくない場所への線引きもできてるし、ギリギリの状況でも、ぶつかってケンカにはならない……) |
加蓮 | (それでいいはず……本当に?) |
加蓮 | 1、2、3、4……うん、いい感じ……! |
奏 | あとはラストのパフォーマンスも練習しておきましょうか。私たちなら、もっと息を合わせられると思うわ。 |
加蓮 | オッケー!それじゃあ、もう一回ね! |
奏 | (そう、私たちは今のままでいい……歌もダンスもクオリティが上がっているし、この調子でいけば大丈夫だと思ってる……なのに……) |
奏 | (加蓮は、レッスンでさえもこんなに輝いてる……なら、私は……?) |
加蓮 | あ……っ!ごめん、奏!ぶつかった! |
奏 | いえ……ごめんなさい。今のは私の立ち位置が悪かったわ。 |
加蓮 | ……今日はもう、ここまでにした方がいいかもね。 |
奏 | ……ええ。ケガでもしたら大変だから……戻りましょうか。 |
奏 加蓮 | …………。 |
夕美 | ど、どうしよう美優さん……中、静かすぎない……? |
美優 | でもレッスンはもう終わってるって、スタッフさんたちも言っていましたし……。 |
夕美 | もしかして……ふたりとも、もう寝ちゃってる……とか? |
美優 | タイミングが悪かったんでしょうか……やっぱりスタッフさんたちに差し入れを渡す前にこちらに来ていた方が……。 |
加蓮 | 聞こえてるよ、おふたりさん。 |
夕美 | 起きてた! |
奏 | 申請すれば合宿所にも入れるのね。初めて知ったわ。 |
夕美 | そうそう、私たちね、これを渡しにきたんだよ。プロデューサーさんと私たちからのプレゼント!ふたりのユニット名にちなんでね♪ |
奏 | これは……チケットね。 |
美優 | この近所に、百合園があるんです。いつもと違う場所でいつもと違う香りに包まれれば、いい気晴らしにもなりますし……解決の糸口が見つかることもありますから……。 |
加蓮 | そっか。ふたりにももうバレちゃってるんだ。私たちの不調。 |
美優 | ふたりとも、いつもより元気がなさそうでしたから……。その、上手なアドバイスはできないかもしれませんが……。 |
美優 | なんとなく辿り着いた、なにもない仮初めの安定より……。 |
美優 | ふたりで決断し、意志を貫いた先の方が……きっと、美しく輝けると思います。 |
奏 | ……その結果、咲いた花が、自分たちの思っていたような花じゃなくても? |
夕美 | あのね、世界にはたくさんのお花があるけど、どの子もみんな頑張って咲いてるんだ。 |
夕美 | みんな、自分以外のお花をつけることはできないから、自分らしい咲き方を、誇れるように。 |
夕美 | だから、私はどんなお花でも綺麗だって思うよ。 |
奏 | ……さすがね。花の魔女さんに、香りの魔女さん。 |
加蓮 | プロデューサーさんにも、伝えておいてくれる?チケット、ありがたく受け取ったよって。 |
電車内 | |
加蓮 | もう夕方か……向こうに着いたら、すぐ夜になっちゃうね。 |
奏 | そうね。でも、その方がいいんじゃない?閉園間際の方が、綺麗な花を堪能できるわよ。余計な光も、人ごみもないままね。 |
加蓮 | ……うん。ゆっくり見よっか。ふたりで、話でもしながらさ。 |
百合園 | |
加蓮 | って、本当に人いないじゃん!暗いし! |
奏 | それはそうよ。ライトアップイベントもやってない、小さなところだから。 |
加蓮 | うーん、かろうじて百合の花が見えるけど……。 |
奏 | 暗闇の中に、ぼんやりと浮かぶ純白の花……美しいわね。 |
加蓮 | でも毒があるんだっけ?美優さんと夕美が教えてくれたね。 |
奏 | ええ。人間が観賞する分には問題ないけれど、他の動物には毒なんだとか。 |
加蓮 | 花粉とかアロマだけでもアウトって……そう考えると、私たちのユニット名、けっこう毒々しくない? |
奏 | そうね……それでも咲こうとする私たちを、みんなが美しい花だと思ってくれるならいいけれど。 |
百合園前の公園 | |
奏 | 闇に包まれた静寂……ここは、平穏の象徴みたいな場所ね。 |
加蓮 | でも私には、レッスンにちょうどいい空間に見える! |
奏 | 加蓮、急に歌って踊りだすなんて怪しいわよ。 |
加蓮 | いいじゃん、いま人いないし♪合宿中は部屋かレッスンルームかって感じだったからさ、開けた場所なら、もっとのびのび歌って踊れそう! |
奏 | もう……誰にも見られてないからいいけれど。 |
加蓮 | オーディションももう終盤だし、練習しておくに越したことはないと思うんだ。 |
加蓮 | ってことで、お相手してくださる?速水奏さん♪ |
奏 | しかたないわね。喜んで、北条加蓮さん……♪ |
奏 | ……っ、こんなに激しいステップ……いったいいつまで踊るつもり?ずいぶんと体力に自信がついたのね……っ! |
加蓮 | もちろん、踊れるところまで!いけるところまで!大丈夫だよ、オーバーワークには気をつけるから……っ! |
加蓮 | (奏はたぶん、聞いただけじゃ本音なんて言わないからさ。だったら……こうするしかないでしょ!) |
加蓮 | (人がなりふり構わず自分をぶつけたくなるのは、余裕がないときだって……私は昔から知ってるし!) |
奏 | (加蓮……あなたはいつも、ずっと本気で、自分が一番輝くつもりでいるのね……) |
加蓮 | ほら、奏、一歩遅れてるよっ! |
奏 | く……っ! |
奏 | (たとえ、自分が一番輝くことで、ユニットの仲間を……私の存在を、霞ませることになっても……!) |
奏 | ……負けたくないわね。 |
奏 | (それを邪魔しないつもりでいた。加蓮の望みをサポートするべきだと思っていた。私にはそれができる、そういう役目だって。) |
奏 | (違ったのね。私が加蓮をサポートしなきゃいけないんじゃない。この存在感を食らうつもりでいかないと……私が消えるわ!) |
奏 | 高校生活なんて、しょせん全部遊びなの?今この瞬間の想いは、いつかなくなる通過儀礼なの?だとしたら……私って、なんなのかしら。 |
奏 | (本気になれない人たちに、絶望していたのは自分……私が加蓮にとって、そんな存在になっていいはずがないのに。) |
奏 | (それはただの……理解の振りをした妥協だわ。) |
奏 | (いつだったか、加蓮が悩んでいたのを覚えてる。信じてるからこそ、譲りたくないって。だから……ああ、あなたは私を、信じてくれてるのね。) |
奏 | (……私も、信じたい。誰かを、この想いを。) |
奏 加蓮 | ……っ、はぁ。はぁ……。 ……っ、ふぅ……。 |
加蓮 | やるじゃん、奏。途中から見せ方を変えたよね。……何か、答えが見つかった? |
奏 | 答え……ふふっ、あははっ♪もちろん見つかったわ。とっても単純な答えがね。 |
奏 | 私、今が楽しいのよ。すっごく!この番組に参加できて、加蓮と一緒に来られて…… |
奏 | ううん、それ以前に、今の事務所でアイドルをしていることが楽しいの!私の周りでは、みんなアイドルに本気になってるから! |
奏 | ……私の本音なんて、言うつもりなかったのよ。イビツな感情は、まるで毒みたいで……口にしたら、必ず加蓮とぶつかってしまうって思ったから。 |
加蓮 | 言ってよ。ぶつかってきてよ。私だってこれでも成長してるんだからさ。 |
加蓮 | 奏となら、互いを無理に知ろうとしなくても、息の合ったステージにできると思う。でもね、私はもう知ってるんだ。ただぶつかるのと、高みを目指してぶつかり合うのは違うって。 |
加蓮 | だからね、私は奏とぶつかることなんて、ちっとも怖くない。 |
加蓮 | (嘘は奏だけの武器じゃないんだよ?だからこれは、私が迷いを振りきるための、精一杯の嘘。) |
加蓮 | (奏とぶつかるのは……正直、怖い。楓さんや美波たちみたいに、上手に奏を受け止めてあげる自信はあんまりない。) |
加蓮 | (だけど、信じてる。速水奏はそんなに弱い女じゃないって。私たちが今まで築いてきた関係は、簡単に崩れたりなんかしないんだって。) |
奏 | ……私は、まだまだ子どもね。しかも、オトナに憧れる子どもなの。憧れのために背伸びをして、それを本物だと自分すらも欺きつづける。 |
奏 | 今回も、オトナになりたいと思った。なるつもりだった。でもね……加蓮といると、自分の中にいる子どもっぽい私が叫ぶの。 |
奏 | 私だって、輝きたい。本気で、誰よりも……加蓮よりも。 |
奏 | 丁寧に作り上げてきた自慢の嘘をかなぐり捨てて……もっと原始的な本能に、身を委ねてしまいたくなる。いつか諦めたなにかを、もう一度信じてみたくなる。 |
奏 | それでも加蓮がいいと言うのなら……奏でさせてほしいわ。私に、本気の歌を。 |
加蓮 | もちろん。そんなこと……とっくに知ってたよ。奏の嘘はわかりやすくて、私たち、似たもの同士なんだからさ。 |
奏 | 面倒くさい者同士? |
加蓮 | ううん。負けず嫌いの、本気を出したい者同士! |
奏 | ……ふふ。ああそう、そうね。そっちの方が、よっぽど素敵だわ。 |
加蓮 | でしょ?譲るつもりなんてないんだからさ、行けるところまで行こうよ、お互いに。 |
奏 | 行けるところまで、ね……どのユニット活動も順調で、人によってはこうも思われそう。「アイドルとして、行けるところまで行けたはずだ」って。 |
加蓮 | でも、まだまだ満足なんてできない。私は……私たちは、ステージに立ちつづけたい、でしょ? |
加蓮 | ひとつひとつのステージを踏みしめて、その全部で、自分の存在をみんなに刻みつけるんだ。 |
奏 | そして、そのためのチャンスを誰にも譲る気がないのよね。 |
加蓮 | うん。それが私たち『モノクロームリリィ』のあり方かもね。みんなには、「応援してね」じゃなくて、こう言いたい。 |
加蓮 | 「どこまでも連れていくから、覚悟して」って! |
最終オーディション | |
加蓮 | やっとこの日が来たって感じ、ラストなだけあって、模擬っていうけど、けっこうガチなLIVEじゃん♪ |
奏 | 多くの視聴者が観客として入ってるんですって。……それはそうと、ずいぶんと自信満々みたいね。 |
加蓮 | それは奏も同じでしょ? |
奏 | 当然よ。今日の課題曲、どれだけ練習したと思ってるの? |
スタッフ | 『モノクロームリリィ』のおふたり、スタンバイお願いします! |
加蓮 | 思いっきり輝こうか。霞まないように注意してよね、奏。 |
奏 | 大丈夫よ。食らいついていくから。加蓮こそ、食べつくされないように気をつけて……♪ |
アナウンス | つづきましては、『モノクロームリリィ』のステージです! |
私は何度でも、本気のステージに立つ。 | |
さらけ出したくないと強張る身体の奥まで、誰よりも輝こうというあなたの毒をねじ込まれて。 | |
私は何度でも、ステージで輝く。 | |
あなたが最後まで捨てきれなかった理想への渇望という毒をともに飲み干して。 | |
だからもっと、私たちを見て。そして、認めて | |
これが、『モノクロームリリィ』っていうユニットだって! | |
加蓮 | ほら、奏、ちゃんと手を出して。動かさないの♪ |
奏 | ふふっ、だって、ネイルをしてもらうのって……指先を誰かに任せるのって、けっこうくすぐったいんだもの。 |
加蓮 | にしても、綺麗な爪してるよねー。今日は衣装に合わせて控え目だけど、今度はもっと盛ろっと! |
奏 | ほどほどでお願いね?これでも、学校じゃマジメな速水さんなんだから。 |
夕美 | じゃじゃーん!夕美と美優の…… |
美優 | フラワーお届け便です……♪ |
加蓮 | すっご!全部百合の楽屋花だ!綺麗……!ふたりとも、ありがとね♪ |
奏 | 楽屋も華やかになるし、私たちにも気合いが入るわね。百合園じゃなくても、開花時期じゃなくても、こんなに多くの百合が見られるなんて……嬉しいサプライズよ。 |
夕美 | そこはね、凛ちゃんや琴歌ちゃんにも相談して、ふたりにぴったりなものを選ばせてもらいました♪ |
加蓮 | 凛ってば、そんな素振り、ちっとも見せなかったのに……♪ |
奏 | ありがとう。あなたたちは、本当に私たちを勇気づけるのが上手ね。 |
美優 | 私たちは、チケットとお花を渡しに来たくらいで……ふたりを応援する仲間として、できることをしただけですよ。 |
加蓮 | 本人にとってはたいしたことじゃなくても、受け取った方の支えになることって、たくさんあるんです。 |
奏 | ええ。私たちなら輝けるって言ってくれたでしょう?咲き方を迷っていたときに、どんな花でも美しいと言ってくれた。その言葉が励みになったの。 |
奏 | しっかり咲いてくるわね。ふたりの想いも糧にして……。 |
加蓮 | 客席で見ててくれたら嬉しいな。私たちのステージ、自信あるからさ♪ |
P | もうすぐ、『モノクロームリリィ』の本格活動開始を告げるステージが始まる。あと挨拶をしていないのは…… |
審査員 | 貴方が『モノクロームリリィ』のプロデューサーさんですね。 |
P | ……このたびは、厳しくもあたたかい指導をありがとうございます。 |
審査員 | いえいえ、とても面白い仕事でしたよ。いいユニットを作りましたね。 |
P | ありがとうございます。自慢のユニットです。 |
審査員 | このようなオーディション番組から作られるユニットってね、キラキラしたものが多いんですよ。 |
審査員 | 曲やMVもね、似たようなオーダーになりがちです。「とにかく可愛く」、「新人が応援してもらえるように」と。だから、今回のように経験豊富な優勝ユニットは珍しくてね。 |
P | それでも、彼女たちはまだまだ高みを目指しています。 |
審査員 | ええ。ですから、このふたりの曲も、とても面白い。百合は美しい花ですが……強烈な花でもある。 |
審査員 | 私には、ふたりが見せた「輝きたい」という想いが、ステージへの執着が……ここから先、どこまでも進んでみせるという覚悟が、まさに毒のように思えるんですよ。 |
審査員 | その毒は、誰かの夢を終わらせることもあるでしょうね。オーディションとは、プロとはそういうものですから。でも、私たちを魅了するほど美しい花にもなる。 |
P | これからも、ふたりはステージの上で美しく咲きつづけてくれることでしょう。人々を虜にする、美しく激しい花として。 |
奏 | あら、プロデューサーさんってば、ここにいたのね。 |
P | いま挨拶回りが終わったところだよ。 |
加蓮 | ならいいけど。LIVEのときは、もっと近くで見ててよ?……って、プロデューサーさん、なーんかそわそわしてない? |
奏 | 私たちよりも緊張してるの?だとしたら……ふふっ、可愛い……♪ |
加蓮 | もう……不安に思うことなんて、何もないのに。 |
加蓮 | たとえばさ、私たちはいま、順調にアイドル活動ができてて、お仕事のオファーもたくさん来てるよね。 |
加蓮 | そんな風に育った私たちの「次」を、どうプロデュースしていこうか、悩んだことってない? |
奏 | ……私たちは、少しだけ悩んだわ。悔しいけれど。でもね、今回のお仕事で改めて思ったの。 |
奏 | 輝きたいという願いに果てなんかなくて、私たちはきっと、これからもアイドルとしてステージに立ちつづけるって。 |
加蓮 | だから、不安になんて思わなくていいよ。緊張も、あんまりする必要ないんじゃない? |
奏 | 私たちにドキドキしてくれるなら、大歓迎だけど♪ |
加蓮 | なんて、ちょっと調子乗っちゃってるかな?いまの私たち、無敵気分だからさ。だって…… |
奏 | これが、貴方が選んで |
加蓮 | 貴方が育てたユニットのふたりだから。 |
奏 | 楽しみにしていて。誰よりも私が、思いっきり輝いてみせるから……♪ |
加蓮 | ちょっと奏、それは私のセリフだってば! |
加蓮 | それじゃあ、行ってくるね、プロデューサーさん。そこで聴いてて。 |
奏 | 私たち『モノクロームリリィ』の歌…… |
加蓮 | 『D-ark L-ily's Grin』を! |
事務所 | |
加蓮 | ん〜っ、事務所のほのぼのしたこの空気、久しぶり♪ |
奏 | 番組での合宿のあとも、LIVEのレッスンがあったりしてなかなかこの部屋には来られなかったものね。 |
加蓮 | はー、やっと言える……。みんなー!ただいま! |
夕美 | おかえりなさい♪ |
P | おかえり |
美優 | ちょうど先ほどまで、模擬LIVEの映像を見ていたところなんですよ。すごいですよね。たくさんの人がいる中から勝ち上がって、本格的なユニットデビューですから……! |
夕美 | ユニット活動開始を告知するステージもよかったよね。もうオーディションは終わってるのに、ひりひりっていうか……バチバチしたパフォーマンスで! |
奏 | ふふ、ありがとう。それが私たちの見つけたユニットの形なの。 |
加蓮 | ふたりはこのあとオフなの? |
夕美 | それがね、そろそろ行かなきゃいけないんだ。でも、番組やステージの感想は伝えられたし、大満足♪ |
美優 | ええ……私ももう、着替えないといけない時間ですね。 |
奏 | ふたりとも、用事があるのね。ゆっくりお茶でもしようと思っていたんだけど……。 |
加蓮 | そーそー、ふたりには合宿中のおもしろエピソードとか、たくさん話しながらさ。たとえば朝起きたときに奏が…… |
奏 | あら、それを言うなら、私も加蓮の寝言について話すことになっちゃうけど、いいの? |
加蓮 | えっ、私なんか言ってた!? |
夕美 | うぅ、気になる……気になるけど、この後はトレーナーさんにレッスンのスケジュールを組んでもらう予定なんだ。 |
美優 | 私は、レッスンルームの予約を入れていまして……。 |
夕美 | ふたりのステージを見てて、胸が熱くなって……私も早く次のステージに立ちたいなって、いてもたってもいられなくなっちゃったから! |
夕美 | 私ももっと頑張れるところや、磨ける自分を見つけるんだ! |
美優 | 私も、夕美ちゃんと同じ気持ちなんです。 |
美優 | 私は……もともと誰かと競うことは得意ではありません……ですが、それは自分の輝きたいという想いを押し込める理由に……妥協する理由にはなりませんから。 |
美優 | 他にも、ふたりを見て思うところがあった方はたくさんいたようですよ……?ほら……♪ |
楓からのメッセージ | 「あ、つい熱い私になったので、同じくレッスンを入れました。」 |
奏 | ……相変わらずのダジャレね。それにしても、みんなお熱いことで。 |
加蓮 | 奏も人のこと言えないと思うけどなー♪ |
奏 | そういう加蓮は……すごく嬉しそうね? |
加蓮 | だってさー、言ったでしょ?私はステージで、強烈に自分を残したかったんだ。そんなパフォーマンスが、ファンの人だけじゃなくて、仲間にも通用するってわかって…… |
加蓮 | っていうか、嬉しそうなのは奏も一緒じゃない? |
奏 | そうね……しいて言うなら、お返しができて喜んでるってところかしら。私だけが憧れて、影響を受けるだけじゃ寂しいじゃない? |
P | おっと、ふたりとも、そろそろ……。 |
加蓮 | もうそんな時間?やっぱり楽しく話してるとあっという間だね。じゃあ、おもしろエピソードの披露はまた今度ってことで! |
美優 | あら、帰ってきてさっそくお仕事でしょうか……? |
加蓮 | うん、優勝者インタビューってやつ? |
P | ほかにもたくさんオファーが来てるからね。『モノクロームリリィ』、これからもっと忙しくなるよ。 |
奏 | ふふっ、望むところね……♪ |
インタビュアー | 『モノクロームリリィ』のステージ、とても素敵でした。ダークな世界観の中に、おふたりの熱い歌声が響いて……見ていてゾクゾクしましたね。 |
奏 | ありがとうございます。 |
インタビュアー | では、さっそく質問の方に入らせていただきますね。まずは、おふたりのユニットオーディション番組参加という今回のお仕事についてです。 |
インタビュアー | 大きな事務所に所属していますし、ここで負けても次があるといった声が番組放映中には聞かれましたが……。 |
加蓮 | 私としては、今を精一杯生きてるんだから、ここで負けたら次なんてないって気持ちだったかな。 |
加蓮 | 立てるステージはどれも一度きりだし、私は立てるチャンスのあるステージ全部に立ちたいって思ってます。アイドルのお仕事が大好きだから。 |
加蓮 | もちろんオーディション番組でも勝ちたいって思ってたし、見てくれてる人にも、勝ち上がっていく私たちを見ていてほしいって思ったっていうか、んー…… |
奏 | 「認めさせたい」って思ったのよね。多くの人の……いいえ、世界中の人の視線を奪いたいって、合宿が進む中で、互いにそう思うようになりました。 |
奏 | それに、ここで負けても次があるなんて考えは、加蓮が許さないと思うし。 |
加蓮 | もー、それは奏だって同じでしょ? |
加蓮 | 奏ってね、私の方を熱い女扱いさせたがるんですけど、本人も相当ですから。番組の合宿中だってすっごいストイックで! |
加蓮 | 奏のやりたいことと立ち位置をよく考えて、悩んで、ふたりで話し合ったりして……そんな奏の姿に、私も何度か背中を押してもらいました。 |
奏 | ちょっと、もう……。 |
加蓮 | あ、照れてるー♪ |
インタビュアー | ふふ、仲良しですね。そんなおふたりですが、ステージの上では競い合うような情熱的なパフォーマンスが話題になりました。 |
インタビュアー | そこに至るまでのエピソードなどありましたら、ぜひお願いします。 |
加蓮 | いろいろあったけど、私の場合は、一番に輝きたいって思ったからです。誰も、ステージの上の私を見たら、二度と忘れられないくらいに……なんて、単純ですけど。 |
奏 | 私の方も、笑っちゃうくらい単純。アイドルは、本気で輝きたいと思える私の居場所だから……子どもっぽいかもしれないけど、その想いに従おうって。 |
奏 | だから、競い合うようなパフォーマンスになったのは、私たちふたりの想いがぶつかった結果だと思っています。 |
加蓮 | あとはもうひとつ、お互いに譲れないことがあって…… |
奏 | あら、加蓮、それ言っちゃうの? |
加蓮 | たしかに、記事にされるとちょっと困るかも……? |
インタビュアー | そう言われると、逆に気になりますね。 |
奏 | じゃあ、この場だけのナイショの話ってことで……♪ |
加蓮 | LIVEの後で、奏と話しててわかったんだよね。私たちがステージに上がることと、そこで輝くことにこだわったのは、もうひとつ大きな理由があったねって。 |
奏 | お仕事の前に言われたの。私たちの、大切なプロデューサーさんにね。 |
奏 加蓮 | 思いっきり、輝いてきてって! |
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