嵐の後の静けさ。
そんな言葉があるわけではないが、今の状況を一言で表すならその言葉がふさわしいだろう。
サトミはそんなことを思いながら、妙な沈黙に包まれる酒場を見渡した。
斬り傷がある薄汚れた壁、カウンターに置かれている割れた瓶。
体重をかけるとひどく傾くテーブル、天井の汚れた電球。
目にはいるものすべてのものが、この酒場にふさわしいのなのだろう。
 ――もっとも、いる人間がふさわしいかというと微妙だった。
タケミも、ミソラも、おそらく自分も、
酒場にいる人種に見えないことは明白なのだから。 「……はぁ」  溜息をついて、テーブルの向かいの席を見つめる。
そこには先ほどの嵐の中心と言えたタケミが、
いつのまにかテーブルに座って何かを――恐らくパワポケが
頼んでいたものだろう――飲んでいた。
その隣では、先ほどまでぽかんとつっ立っていたミソラが、
テーブルに座って、なんだか複雑な表情でぼうっとしている。
(……お腹空いたわね)  テーブルの上にある、コップを掴む。 空腹をごまかすために、何か口にしたかったのだが、 中身はすでに空だった。
かすかな苛立ちを押さえながら 指で取っ手をいじり、つぶやく。
「……これから、どうしようかしら」 「え? 決まってるじゃん」  サトミの小さなつぶやきに、タケミは瞬時に反応して、 『何言ってるんだろう、サトミは』
とでも言いたげな瞳で、こちらに微笑みかけてきた。
 そのむやみに楽しそうな顔を半眼で睨みながら、聞く。 「なにが決まってるの?」 「そりゃあ、もう!」  椅子の上に立ち上がって、タケミは右手をまっすぐと二階の方向に向けた。
その先からは、ぎしぎしと揺れる音が聞こえてくる――ような気がする。
「覗きに行くしかないでしょ!」 「……へ?」  タケミの言葉の意味が理解できずに、サトミは二度瞬きをした。 聞き間違えたのだろうか、そう思って隣を見ると、ミソラの驚いた顔。  ……どうやら聞き間違えたわけではないらしい。 「それって、なんとなく駄目だと思うんですけど」  呆けたミソラの声。  なんとなく、ではない。駄目に決まっている。  そう思ったのだが、ミソラにそれを言っても意味はないだろうと、
サトミはタケミに向って話しかける。
「……いくらなんでも、野暮ってものでしょ。放っておきなさいよ」  ひらひらと手を動かして、呆れを隠すことはしなかったのだが。
タケミは動揺する様子をかけらも見せず。
「わかってないなぁ、二人とも」  いったん両手を広げた後、すぐに自身の身体を抱きしめ、
そのままくねくねと動き始めた。
なんとなく、小芝居が始まる予感がして、サトミはコップを口元にあてる。
「『ヤシャ! 好きだ! 愛してる!』 『ウチも……』『んっ……!!』『んちゅ、ちゅっ』」 「あ、タケミさん物まね上手いですね」  そのままコップを傾けるが、液体が口に届くことはない。 先ほど空なのを確認したばかりなのだから、あたり前である。  まあ、あくまで飲んでいるふりをして、 聞き流すことが目的なのだから、意味のない行動ではないが。 「(中略)『あっあっあっ』『出すぞ!』 『あぅっ、いく、いく……ん!』」  事実、サトミの興味がそれているのを見てか、
タケミはミソラの方を向いて小芝居を続けている。
 しかし、こんな時間帯の酒場で、 情事のモノマネを始めるタケミはなんなのだろうか。  答えはすぐに出た。  痴女、だ。 「『くぅ! ん!』『んむぅー!!!!』
どくっ、どくっ!『あ……ぅ、いっぱいや……んぅ……ふぁ』
……とまあ、こんな風になったら困るじゃん?」
「…………」  喋り終えて、痴女が何かに勝ち誇ったような顔でこっちを向く。
いろいろと言いたいことはあったのだが、
サトミは何も言わずに視線を逸らす、が。
「……それは困りますね」 「困るんだ」  ミソラが同意したのを聞いて、思わず声が出る。 痴女は真剣な表情をしたミソラを見て、うんうんと満足そうに首を振った。 「困るよね、困るから覗きにいかないとね」 「そうですね、困りますね、困るから覗きにいかないといけませんね」 「何に困るって言うのよ……」  半眼でつぶやくが、 聞き流されるだろうということは何となくわかっていた。 「さあ、行こうよ! 行ってみたらもう終わってたなんて嫌だし」  案の定、聞く様子もなく、痴女は椅子を下りて、こちらに手を伸ばしてくる。
その手を掴まずに、サトミは立ち上がった。
「……あのね、いくらなんでもヤシャが可哀そうよ。
あの子はパワポケさんと会うの久しぶりなんだし、
ちょっとぐらい二人きりにさせてもいいじゃない」
「あ、大人の意見です」 「……うーん、まあそうかもしれないけど」  そのまま思ったことを言って、 意気消沈した二人を尻目に、サトミは歩き出す。  彼が他の女性を愛している建物で食事をしたくない。
そんなことを思って、玄関に向かったのだ、が。
「ちょっとまった!」 「……何?」  タケミの制止する声に振り返る。 説得される気なんて毛頭なく、ただ振り返っただけ。 「サトミはまだ経験が少ないんだし、
えっちをしてる所を見て経験を積むのは悪いことじゃないと思わない?
上手くなればなるだけ、パワポケさんをメロメロにできるんだし」 「……………………」  タケミのセリフに何も返さずに、
サトミは酒場の入り口へ再び顔を向ける。
そして。
「…………覗くなら、外からにしましょう。 入口からだと、ばれる可能性が高いわ。
あの部屋、すぐそばに大きな木があったから、
登るのに苦労はしないと思うし」 「へ?」 「……え?」  間の抜けた二人の声に、どなり声を返す。 「ほら、早く! ぐずぐずしてる暇はないわよ!」 「あ、うん!」 「はい!」  まあ、そんな感じで三人は外に飛び出した。






「あ、あかんって……」 「ん?」  時は少しだけ巻き戻り、昨夜の騒ぎの残り香が鼻をくすぐる薄暗い部屋。
パワポケはヤシャをベッドに横たえて、彼女の身体の上に覆いかぶさり、
火照った体を彼女に擦りつけていた。 「ひっ!」  チャイナドレスのスリットから手を差し込み、太ももを撫でる。 筋肉が付いた固めの足ではあるが、触りごたえとしては極上であるし、
すべすべでやわらかく、少し汗ばんで吸いつく肌は、
ヤシャが特上の女であることを確かに教えてくれる。
「何が駄目なんだ?」 「うっ……ん、そ、その、ウチは……ひぅ!」  首筋に息を吹きかけ、軽くついばんだ。 声にならない喘ぎを上げながら、ヤシャは体を震わせている。  媚薬は十分すぎるほどに、彼女の身体を淫らなものにしていた。 潤んだ瞳は、悪魔のささやきにも似た誘惑を発し、
とくとくと伝わる激しい鼓動は、
その鼓動をより激しくしたいとパワポケの煩悩を強くしてくる。
「そ、そやから……ウチは、身体大きいし」  言い訳じみた、若干的を外れた言葉とともに、視線を逸らすヤシャ。
そういえば、初対面の時、そのことでオチタ君ともめていたな。
そんなことを思い出して、懐かしい気持ちで笑みを浮かべる。
「……うぅ」  小さく唸りながら、ヤシャはこちらを睨みつけてきた。
どうやら笑ったことが、気にいらなかったらしい。
可愛らしく膨れ上がったほっぺたへ口づけをする。
さすがに鍛えようがないのか、とても柔らかかった。
「そうだな、そんなところも含めて、魅力的だ」 「……ぅ」  偽りない本心の言葉に、真っ赤に顔を染めるヤシャ。
だが、それでも自身がないのか、視線を迷わせて小さくつぶやく。
「い、いや、けど身体硬くて、ごついやん。さわっても面白く……」 「なにを馬鹿な、こんないい身体が面白くないわけないだろ」 「う……」  自ら口にした言葉に誘われるように、胸元に手を伸ばす。 服の上からでも確かにわかるかたまりがそこにあった。  脳裏に浮かぶ、昨夜のミソラの身体。
まな板より少しマシ、本当に少しだけマシな膨らみの彼女に比べたら、
ヤシャは巨乳とさえいえるかもしれない。
「あっ、あかんって……」  その胸を直接触りたくて、パワポケはヤシャを脱がし始めた。 脇のボタンを外して上半身をあらわにし、薄い赤の下着を乱暴に放り捨てる。 「あ……ぅ」  ところどころ汗で光る、二つの胸が小さく震えた。 羞恥に真っ赤になるヤシャの頬、それと同じ色をした突起に口を近づける。 「!」  びくり、と体を震わせるヤシャ。
すでに固くなっているそれを唇で挟み、舌で回りをちろちろと舐めながら、
空いた手を再びスリットの中へ入れて、尻へ伸ばす。

「う……ぁ……んっ」  触れたのは下着の感触……ではなく、温かく、少し湿った地肌だった。 周りをいろいろまさぐると、 (まあ、この服じゃあ、こういう下着がぴったりだよなぁ)  布地があるのは全面の股の部分だけ、つまりT-バック。
おそらく、スリットから下着が見えるのを恐れてなのだろう。
思い起こせば、戦闘で激しい運動をしていた割には、
ほんの数回しか、赤や白を見た記憶がない。
エロい下着を脱がせる楽しみが増えたことを喜びながら、
パワポケはわさわさと尻をまさぐった。
柔らかな脂肪と、弾力のある筋肉がほどよく混ざって
良い塩梅を生み出している、素晴らしい尻である。
「はぁ、はぁ……んっ」  荒い息を吐き始めるヤシャ。
いつの間にか、彼女の手はこちらの股間へと延びていた。
ズボンの上からゆっくりと、固くなった肉棒を刺激してくる。
 どこか怖れるような手つきに疑問を感じて、
パワポケは胸元から口を離した。
「……もしかして、初めてなのか?」  尻を手でもみ続けつつ問いかけると、
ヤシャは唇をかみしめてそっぽを向いた。
……デリカシーの無い質問だったかと、少し反省。
「……しゃあないやろ、たいていの男はウチ見たらそっぽ向くし。
ウチを恐れんのも……まあ、ロクなヤツがおらんかったし」
 ぼそぼそと、つぶやくヤシャ。
まあ確かに、高身長なうえに、犯罪組織の武闘派ともなれば、
気後れする男も多いのだろう。尻をつねりつつそんなことを思う。 「世間の男どもは見る目がないな、こんないい女を放っておくなんて」  瞳を見つめながら、そんな言葉を口に出し、同時に尻の割れ目をなぞる。 「んっ! …………そやろ?」  後ろの穴に指が触れて、少しだけ身もだえしたヤシャは、 恥ずかしそうに目を細めて、小さく微笑んできた。  その非常に魅力的な女の笑みに、思わず心臓が高鳴る。 「……あっ、あ、あかんって! そっちは!」  再び乳房に喰らいつくと同時に、 手を尻の後ろから前方へとゆっくりすすめていく。 目指している個所がどこかわかっているのか、
ヤシャは懸命に止めようとしてきている。
だが、本心では触れられたいと望んでいるのか、抵抗は非常に弱い。
「はぁ、はぁ……あ!」  股の内側はすでに愛液でびっしょりと濡れていた、 川をさかのぼるように、液が流れてくる先へと指を進める。  進めていく間にも、押して、つねって、爪を立てて刺激。
ヤシャはそのたびに身体を小さく震わせて、
パワポケの頭を強く抱きしめてきた。
……少し、いや、かなり痛い。

「や、やめい言うとるのに……ふぁ!」  そして触れる濡れた布。その上から優しく恥丘を撫でる。 指先に、熱く、べとべとした愛液が絡みつく。 柔らかく、熱く濡れた感触を楽しみながら、秘裂を優しくなぞった。 「ふぅ……ふぅ、っ!」  自らの口元に手をあてたのか、ヤシャの喘ぎ声が小さくなった。
そんな反応は可愛らしいのだが、欲望に支配された頭は嬌声を聞きたがっている。
「いっ!」  すでに固くなっている豆を指の腹で押す。 同時に苦しそうな悲鳴が聞こえて、胸元から視線を上向ける。
ヤシャは苦しそうな顔で、首をいやいやと振っていた。
布一枚隔てているとはいえ、 薬の影響があってか、かなり敏感になっているらしい。
……もっとも、快楽も感じているのだろう。彼女の顔はどこか恍惚としているが。
(……まあ、また後で攻めることにしよう)  そう思って、パワポケは再び尻へと手をまわした。 強すぎず、弱すぎない弾力に、やはり素晴らしい尻だな、と顔がにやける。 「あ、あのさ。や、やっぱやめよう?
なんかうちの身体変になっとるし、みんなに悪いし」
 こちらのにやけた顔を見てか、
ヤシャは目を白黒とさせながら懸命に拒んできた。
じっとりと濡れた身体とは裏腹な言葉。全く説得力がない。
 小さな苦笑を返して、パワポケは。 「んむ!」  胸元から口を離し、唇を奪った。  熱い、柔らかい、ぷるぷるとした唇を、唇で噛む。 驚きに目を大きく開くヤシャを見つめながら、舌をゆっくりと差し込んでいく。 初めに触れたのは歯、彼女がその気になればこちらの舌を傷つけることのできる歯。  それを舌で押す、上と下の歯の隙間にねじ込むように。
ただもっと深く彼女の中に入りたくて、強く、強く押す。
「ん……」  観念したのか、ヤシャが目を閉じて、食いしばった歯を緩める。 触れる舌と舌。唇より熱く、柔らかく、ぬめりを帯びている舌。  伝わる熱が身体を犯していくのを感じながら、舌で口内を蹂躙していく。 舌に絡め、歯茎をつつき、頬の肉を削りとるように舐める。 「!」  そして唾液を、自らの身体の一部ともいえる体液を送りこんだ。 彼女の熱が自分のものとなり、自分の熱が彼女のものとなっていく。
それがどうしようもなく興奮を呼んで、たまらずズボンのジッパーを下ろし、
熱くたぎる凶器をスリットの隙間から太ももに擦りつけた。 射精しそうになるのをこらえながら先走った液体を肌に塗っていく。 「……んっ、んん!!」  獣じみた液体を擦りつけられたからか、
ヤシャは少し怯えたように身体を震わせた。
彼女はそのまま視線をちらりと下方に向けたが、 恐怖に負けたのか、固く眼を閉じてしまう。 (……ずいぶん可愛らしい反応するんだな)  ヤシャの見せた弱く、可愛らしい一面に強い愛情を覚え、
パワポケはさらに強く彼女の頭を引き寄せる。
「んー! んぅむ、ん!」  途端に開かれる眼、そしてヤシャは、受け止めるだけだった舌を、
こちらの口内に侵入させてきた。
 そのままパワポケがしたのと同じように――いや、 同じ動きではあるのだが、かなりたどたどしく舌を動かしてくる。 攻められっぱなしなのが嫌だったのかもしれない。
そんな必死な動きがほほえましく、
パワポケは笑みの形に目を細めた。

「ぷはっ……はぁ、はぁ……」  唇を離す。互いに荒い息を吐き、見つめあう。 唾液の糸が、ヤシャの赤く染まった頬に落ちた。
それを指でなぞる。頬を濡らす液体の感触のせいか、
彼女は小さく体を震わせた。 「あー……えっと、なんか、なぁ?」  ヤシャの口から、意味のない単語が漏れる。 彼女の瞳には、いまだ戸惑いの色が見えた。 「……まあ、細かいことは終わった後考えろって。
こういうときは楽しんだもの勝ちだ」
 頬をにやけさせながら、パワポケが囁くと、 少し呆れたようにヤシャは、こちらを睨みつけてきた。 「……なんや、知らん間にずいぶん悪党になったんやな」 「はっはっはっはっ」 「いや、笑えへんって……んっ!」  わざとらしく笑い、眉をひそめるヤシャの首筋に軽いキス、 肌に浮かぶ珠の雫を、一つずつ舌ですくっていく。 「……まあ、ええわ。ウチも腹くくることにする。  そんなは挑戦的なセリフと同時に、
ヤシャはこちらの首筋を撫でてきた。
熱をもった長い指が、首の動脈に触れる。 背筋に小さな痺れ、敏感になっているのはヤシャの身体だけではなかった。 「ずいぶん、どきどきしとるんやな……」  満足したのか、手は動脈から離れ、だんだんと下に降りていく。 筋肉を確かめるように指で押しながら、首から胸元へ、胸元から臍へ、臍から局部へ。 彼女の手は少し固い感触だったが、
それでも優しいその手つきは柔らかさを感じた。
「……! この、熱いのが……な、なんかぬるっと……」  ヤシャの手がようやくこちらのモノに触れたのと同時に、
パワポケは再び胸にむしゃぶりついた。
「ひぁ! うぁっ、んっ……んぁ!」  小さく唸りながら、びくびくと身体を震わせるヤシャ。
だが、こちらの急所を握っているのを忘れておらず。
「お、大きくて、固いんやなぁ……」  そんなことを呟きながら、必死に手で刺激を与えてくる。
だが、パワポケはそれにひるむことなく、胸を舌で犯し続けた。
突起に吸いつき、歯形をつけ、唾液で汚す。 右手を背中に回し、触れたかどうかもわからないほど軽く、 背中の凹凸にあわせて動かしていく。 左手は下半身に伸ばし、熱い液体が漏れ出している個所を、優しく刺激した。 「っ……!! ず、ずるいやん……上手すぎ、ぁぅ!……」  悶えるヤシャ、パワポケも一物を触られていて気持ちいいのは確かなのだが、
……彼女はあまりにも下手すぎた。
 潰してしまうことを恐れているのか、あまり強く握ってこない。 動かしたら引き抜いてしまうとでも思っているのか、動作も鈍い。 「あっ、あっ! あんっ、あん!」  互いの技術の差は、時間がたつほどに顕著になった。
ヤシャは快楽に身をゆだねはじめ、ついに手の動きを止める。
だがパワポケは腰を動かし、彼女の手へモノを擦りつけた。
 先走った液により、ぬめりを帯びた手の感触が、とても心地よい。 「ひゃああああぁぁぁ?! ……あっ、あぁ……」  そして先ほどヤシャが強い痛みに顔をゆがめていた箇所。
クリトリスを撫でると、彼女は今まで
聞いたこともないような甲高い悲鳴をあげた。
攻める手を止め、様子を見る。
ヤシャは身体を大きく三度、痙攣させて、熱のこもった吐息をこぼした。

「……イったのか?」  意地悪い微笑みを浮かべながら、聞いてみると、 焦点の定まらない瞳で、ヤシャはつぶやく。 「……ふぁ、なんか、変やったけど……イってはない」  息も絶え絶えに、首を横に振るヤシャ。
どう見ても絶頂を迎えてた感じだったのだが、
……一方的ににイかされたのが、悔しいのかもしれない。
そう思いついて、彼女のプライドを尊重し、
これ以上パワポケは何も言わないことにした、が。
「……へ?」  ヤシャが呆けてる隙に、 下半身へと頭を移動させ、スリットをめくり、頭を突っ込んだ。 暗い視界の中に見える下着、鼻に届くのは、 女性器からの淫猥な――良い、
と言うよりも欲を昇らせることに特化した――香り。
「そ、そんなとこ嗅がんといて……
恥ずかしくてどうにかなりそうや」
「ふんふんふん」 「うぅ…………ん!」  わざと鼻息を荒くしながら、パワポケは顔をぬれた布に押し付けてみた。 初めに感じたのは熱さ。次に柔らかさ。
それを少しの間満喫した後、手を伸ばし、一気に下着をおろした。
「うぅ、見られとる……」  ほとばしる熱気と、強くなる香りに、股間のモノがより熱くなる。 暗くてはっきりとは見えないのだが、 生い茂った陰毛が確かにそこにあった。 大量に生えている、と言うほどでもないものの、 昨日の女性たちよりも濃い。 身体の大きさに関係あるのだろうか? 少し気になったが、問いかけることはしなかった。 「や、やっぱり……舐めるん?」  ひとさし指の腹で柔丘を撫でていると、そんな言葉が聞こえた。
いろいろと知識はあるらしい。まあ、職業的に当り前なのだろうが。
「っ!」  言葉を返さず、太ももに伝う愛液を、かぶりつくように味わい始める。 聞こえる小さな嬌声に勢いをもらい、一気に秘所へと舌を伸ばした。 「あんまり、音たてるのは……やんっ、あっ!」  びらびらを指で広げて、舌で蜜をひたすらすくっていく。 唾液と蜜が混じり、さらにべとべとになった。 火傷しそうなほど火照った入口は、 快楽を与えることができているのが確信できるほどいやらしく蠢く。 「う゛ぁっ!」  もういいだろうと、膣内に舌を差し込んでみるが、 抵抗が強く、少ししか侵入することができない。  一度十分に弛緩したヤシャの身体ではあるが、 羞恥心によってか、固まっているようだった。 「あ゛っ! い、いたい……優しく、あ゛ぁ!」  それならば、と、すでに露出している突起周りを舌で攻めていく。 同時に右手の人差し指を入り口へ押し付け、ゆっくり侵入させた。 「はぁ、はぁ……なんか、変に……あっ……」  できるだけ優しい舌の動きにしよう、そう心掛けていると、
ヤシャの口から洩れる声が変化してきた。
痛みを訴えることなく、穏やかなあえぎ声を上げ始めたのだ。 熱く、締め付けられる指。
その中にモノを入れることを想像して、
熱を吐き出しそうになってしまう。  ……もう我慢することはできそうになかった。

「〜〜〜〜〜!!!!!」  前戯の締めに、クリトリスを吸い上げた瞬間。痙攣する身体。
だがヤシャは声を上げなかった、何故我慢したのかはよく分からない。
だが、二度大きく跳ねた後、余韻を感じているように震える太ももが、
絶頂を迎えたのをわかりやすく教えてくれたが。 (……よし)  服の下から顔を出し、ヤシャの様子をうかがう。 眼を覆い隠すように腕を置き、荒く呼吸している姿が見えた。 「そろそろ、挿れてもいいか?」 「はぁ、ふぁ、はぁ…………」  聞いているかどうか自信はなかったが、 彼女が何の反応も見せなかったため、
パワポケは身体を離し、一気に服を脱いだ。
「ふぁ、はぁ、はぁ、はぁぁ……」  天を指す一物を、彼女に向けて、 意味もなくぶらぶらとそれを揺らしてみた。 先走りが一滴落ちて、ヤシャのチャイナドレスを汚す。
そういえば汚しても大丈夫なのか聞いていなかったな、とか考えていると。
強い雄の匂いに気づいたのか、ヤシャが腕をどけてこちらを見た。 「へ?!」  大きく開かれる瞳。明らかな驚きを見せながら、わめく。 「あ、あんな? いくらウチの身体が大きいっても、
そんなの入るわけないやん?!
ちょ、ちょっと大きすぎるっていうか、な?」
 手を顔の前でぶんぶんと横に振り、 慌てて後ずさりしようとするヤシャ。  今ままで手で触っていたのに、そんなに驚くこともないとは思う。  ……まあ、初々しい反応で可愛いからいいのだが。 「……ミソラには入ったぞ?」 「うそやっ?!」  小さい小さい身体の少女の名前を告げると、
ヤシャはこの世の終わりのような表情で叫びをあげて、眼を閉じた。
 彼女はそのまま十秒ほど、考えるように眉をひそめて。 「あー…………優しくしてな?」  潤んだ眼でこちらを見た。同時に耳に届く欲情した声。 「もちろんだ!」 「あ、ちょっと、や、破らんといてな? ……ん」  即答して飛びかかり、そのまま乱暴に脱がし始める。 服を着ている(しかもチャイナドレス!)ヤシャとするのも良いとは思ったのだが、 生まれたままの姿も、是非見てみたかったのだ。 「……ほぅ」  割と簡単に脱がしたあとに、思わずもれる感嘆のため息。 女らしさが無い、と常日頃言っているヤシャではあったが、
そんなことはまったくなかった。
 戦いのために作られた身体ではあることは確かだが。 柔らかな身体の曲線。立ち昇る汗とほんの少しの香水が混じった匂い。 潤んだ瞳。朱に染まる肌。  全てがあまりに女らし過ぎる。 「……?」  不思議そうな、そして少し不安そうな表情ののヤシャ。 不安をかき消すために、もう一度唇に軽いキス。 「ん…………」  足を開かせて、入口にモノを当てる。触れる熱い感触、
ヤシャはわずかに身じろぎしたものの、逃げることはしなかった。
「……な、なんか緊張するなぁ」 「大丈夫だって、落ち着け。深呼吸、深呼吸」 「う、うん……すぅ、はぁ……」  こちらの言葉に素直に従い、ヤシャが深呼吸をした瞬間。
ガラスを叩くような、小さな音が耳に届いた。
視線を音が聞こえてきた方向――部屋の窓に向ける。

「…………へ?」 『…………!! ……!!!』  窓のすぐ外に、何故かサトミがいた。 眉を吊り上げながらこちらに向けて何かを喋っている。 「……? どうしたん?」  ヤシャもつられて窓の方を見るが、寸前でサトミは姿は消していた。 安堵しつつ、サトミが音をたてた理由を考える。 「いや…………あ、そういえば」  そしてタケミから避妊具を渡されていたことを思い出し、ポケットを探る。 素早く装着、準備完了。 「あ……なんか、ほんまにするんやな……」 「ああ……」  もじもじと、身体を動かしながらつぶやくヤシャ。 軽く微笑みかけて、もう一度入り口に押し当てる。 「……」  ヤシャが小さく頷いた瞬間、一気に腰を前に進めた。 「い゛っ、たあああああああぁあ!!?!!」  絶叫が宿の一室にこだまし、男根が肉の壺に包まれる。 最初に感じたのは痛みだった。 昨日のミソラとはまた異なる強い締め付けによる、痛み。 遅れて感じる熱さ、うねる肉の感触。
だんだんと、頭の中が白くなっていく。
「……っ、い、痛い、けど……だいじょ……やっぱ痛い……」  涙を一粒流して、ヤシャはベッドのシーツを握りしめていた。 優しくするべきだとはわかっていた、はずなのに、 精液を出したいという強い欲望を止めることができず。 「っ!!! あっ、い゛っ! あっ!!」  パワポケは腰を動かし始めた。激しく、強く。  痛みにヤシャの顔が歪む。それを見て、 嗜虐心による愉悦に酔いながら、ひたすらに腰を動かす。 「ヤシャ……ヤシャ……」 「う゛ぅっ! あ゛あ! やめぇ! い゛っ!?」  身体にかかる足が暴れるが、それを力で抑え込み、腰をぶつける。 肉をぶつけるたびに、美しいヤシャの身体が汚れていく。 彼女の汗は自分の汗と混じって汚れ、 雌の匂いが雄の匂いに汚されていく。 伸ばした手につねられて、肌が爪あとで汚されて。
そして。
「んっ!! ……中で、暴れ……ふぁ……」  最も汚らしい液体を、奥へ、奥へとねじ込みながら、吐きだした。 苦しみの声を上げながら、膣内で暴れる肉棒の感触に悶えているヤシャ。 快楽の波がゆっくりと引いて、彼女から身体を離す。 彼女の膣内は名残惜しむかのように引きとめてきたが、
それでも小さな水音をたてて、モノは抜けた。
薄い赤の液体が、彼女の股からこぼれおちる。 「はぁ、はぁ、はぁ、……すぅ、はぁ……はぁ……」  大きい身体を荒い呼吸で波打たせながら、
ヤシャは不満の色強く、こちらを睨んできた。
そのまま、小さな声でつぶやいてくる。
「……夢中に、なってくれたみたいなんは、うれしかったんやけど、
……ちょっと、激しすぎや……ふぅ……」
 少し悲しそうなヤシャを見て、熱が急速に覚めていった。 罪悪感に苛まれて、謝罪の言葉を口にしようとしたのだが。 彼女は小さく身じろぎをして。 「ん? ……ふぁ!!!??!」  かすれた嬌声を、喉からこぼした。
そのまま手を自らの秘所に当てて艶に満ちた嬌声を叫び始める。
「あ、熱いぃ! なんなん!? 熱くて、あぅ!!」 「……ヤ、ヤシャ……?」 「う゛〜〜!!! うぁ!」  先ほどまで、モノが入っていた場所を必死で押さえつけるヤシャ。 彼女の急な変貌に戸惑いを覚えながら、原因を考える。 (……今まで、薬が完璧には効いてなかったのか?)  有り得ない話、そうは思うのだが、
ベッドから転げ落ちそうなほど身体を悶えさせているヤシャを見ると、
どうも昨日の薬でヨガっていた彼女たちと重なる。
「うぁ! あぅ! あっ、ん゛、あっ!」  小さく蠢くピンク色の入り口を広げるように、 指で秘所をいじり始めたヤシャを見て、
モノが再び鎌首をあげた。
 ……薬が十分に聞いた今なら、きっと大丈夫だろう。
そう思って、ヤシャの身体に手をかける。
「はぁ、はっ、うぇ?! な、なんなん? ちょ、いややぁ!」  そのまま身体をひっくり返す、 素晴らしい感触をした尻、その割れ目を手で押し広げる。 「あかんて! やめぃ……いたぁ!?」  鈍い音。手をベッドのふちに伸ばし、 逃げようともがいたヤシャだったが。
やはり身体がうまく動かなかったのだろう。
彼女は手を滑らせて、頭をベッドにぶつけていた。
そのすきにゴムを隣に置いておいた新しいものに変え、
腰に手をまわして、持ち上げる。
そしてそのままひくひくとモノを待ち続けているように蠢く入口に。
 一気に挿入した。 「あああああああああぁぁぁぁ!!!!!」  勢いを止めることなく、最奥をつく。 絶叫をあげて、体を震わせるヤシャで、先ほどの醜態を思い出す。  パワポケは一度動きを止めて、彼女を後ろから抱き締めた。 身体を震わせながら、ヤシャは小さな言葉を紡ぐ。 「うぁ……や、やめい言うたのに……」
けど、なんか、変や……痛いのが、よくなって、
熱くて、痺れるんが、よくて……ふぁ」 「ようするに、気持ちいいんだな?」 「そ、そやけど、う゛ぁ!!!」  肯定の言葉が聞こえた瞬間、腰を掴んで全力で身体をぶつけ始める。 肉と肉のぶつかる音、それが大きすぎると感じるほどに。

「んぁ! おく、おくがぁ! やめ、あかん、ややぁ!」  快楽に翻弄されながらも、こちらの動きを止めようとしてか、
ヤシャは振り返って手を伸ばしてくる。
その手を右手で掴み、引き寄せる。
急に腕を引っ張られて、痛かったのだろう。 彼女の頬に、汗ではない透明の雫がこぼれる。 「あ……」  左手で彼女の胸を掴み、背中から密着する。 鼓動が伝わり、鼓動を伝えて。 「んぅ……」  唇を奪う、強く腰を押しつけながら、強く抱きしめる。 行き止まりをモノの先端で刺激しながら、 肌と肌を擦り合わせて一体感を強めていく。 少々良すぎるのだろうか、ヤシャの瞳はとろんと焦点がぼやけていた。 「う……あぁ……あっ!」  深い口づけを終えると同時に、腕を離す。
ヤシャがベッドに倒れ込んで、肉棒が抜けそうになってしまい。
慌てて腰を前に進めた。 「ん、あ゛っ! ……はぁ、ふぁ……はぁ! ……あっ」  そしてひたすらに腰を前後させる。 繋がっている部分がどろどろになっていて、
どこからが自分の体なのか、
曖昧になるほどの快楽が襲ってきている。 「あっあっ、あんっ、いくっ、ぁ! あぁあ!! いく! ああぁぁ!!」  すぐに二度目の限界が訪れるのを感じて、
パワポケは腰を痛いほどに押し付けた。
「ああぁーー!!!! あっ、あぁーーー!」  そしてヤシャの身体が痙攣したのと同時に、 白濁液の放出をはじめた。  本能が叫ぶままに、奥へ、奥へ、と注ぐように腰を押し付ける。 「なんか……きた……うぁ……」  彼女の膣内は精を貪るように、貪欲にモノを締め付けてきた。 長い長い射精、一度精を放ったとは思えないほど、大量に吐き出して。 「あ、はっ、はっ……ふぅ、はっ、はぁ……んっ」  全てを吐きだした瞬間、快楽の余韻もそこそこに、
パワポケはヤシャの身体に覆いかぶされるように倒れ込んだ。
昨日の疲れが取れていなかったためか、 身体を思うように動かせなくない。
それでも彼女に体重をかけてしまうのが嫌で、なんとか脇に転がる。
「ふぁ……はぁ、はぁ、ふぅ……」
すぐ横に、口から涎を荒い息を漏らしているヤシャの顔があった。
それに手を伸ばして、頭を撫でる。
彼女は意識が朦朧としているのか、眼を開くことはなかった。 (……ん? なんだか、眠く)  ヤシャの荒い呼吸に誘われるように、頭が眠気に侵されていく。
パワポケは最後に、言ってなかった大切な言葉を思い出し、つぶやいた。
「ヤシャ、……好きだ」 「……ふぁ、ウチも、すきぃ……」  互いの気持ちを確認して、 満足感を覚えながら、パワポケは意識を夢に沈ませた。





 場面は変わって、木の上でじっと情事を除いていた三人はと言うと。 『…………』  途中までは会話の余裕があったのだが、 三人とも、終盤はほとんど無口になっていた。  赤くなった頬を抑えつつ、サトミは小さく吐息をこぼす。そして。 「……!」  何とはなしに情事を終えた彼から眼を逸らし、 背後の二人を――いや、 正確に言うならそのうちの一人の表情を見て、思った。  ヤバい。と。 (……タケミ、まさか)  所謂『犯る気』な目。  そんなものが、タケミの顔に怪しく輝いていたのだ。 「っ!!」  慌てて、すたっと地面に飛び降りる。 少々足が痛かったものの、高さがそれほどでもないことが幸いした。  頭上から、ミソラの声が届く。 「あれ? サトミさん……ひっ! タ、タケミさん!?
ちょ、なにを、や、いやぁ〜〜!!」
 彼女の声はすぐに悲鳴に変わり――ひらひらと、 葉っぱが一枚目の前に落ちてきた。  いけにえになったミソラに、内心で謝りつつ。 振り返らずにサトミは逃げ出した。


――――数時間後――――


 夜の酒場。仕事を終えた人間たちが、憩いを求めて集う場所。
 その喧騒の中に身を置くことが、タケミは好きだった。  男たちが酒に我を忘れるさまを見るのが、面白い。  夢や希望にあふれた自慢話を耳にするのも、面白い。  愚痴をこぼし、マスターに慰められる姿を見るのも、面白い。 「♪」  ようするに、人々が生きている姿を見るのが、とても面白いのだ。 市場とは少し違う、けれど同種のざわめきは、心を弾ませる。  そんな感じで、タケミがくつろいでいると。 「タケ……ミ……」  病人のような声が聞こえてきて、タケミはそちらに目を向けた。 半分死んでいるかのような雰囲気を持った男が、そこにいた。 「わ、ようやく起きたんだ」 「う……」  ふらふらと、近づいてくる半死人――パワポケ。 千鳥足で身体を男たち――夜ともなれば、 場末の酒場とはいえ大勢の客で一杯だ――にぶつけて、 怒鳴られながらも、彼はなんとか向かいの席に座った。 「はい、なんかいろいろ混ぜておいた水をどうぞ」  用意しておいたコップを手渡す。 躊躇することなく、彼は一気に半分ほど飲んでしまった。 「ぷはぁ……死ぬかと思った」 「まあ、あんな状態になる薬使って、ご飯も食べてなけりゃ、そうなるよね」 「ああ……綺麗な川の向こう岸で、ラセツが美女と和やかに話してた夢を見たぞ」 「……そ、そうなんだ。……あ、ちょっと、おねえさーん!」  真剣な表情で臨死体験を語る彼に若干ひきながら、
タケミはウェイトレスに声をかけた。
少しだけ考えて、消化の良さそうなものを頼む。 丸一日何も食べていない彼には、
きっとそういうものがいいと思ったのだ。
「……うん? なんかこの水、美味しいな」  テーブルをひどく傾かせて、特製の水を再び口にした彼が小さくつぶやく。
タケミはにんまりとした微笑みを彼に向ける。
「そりゃ、いろいろ混ぜたからね」 「へぇ…………色々? おい、まさか!?」 「大丈夫だって、悪いようにはならないから」 「……信じるからな」  ため息を吐くパワポケに、小さく笑う。 色々混ぜた。とは言っても、単にレモン果汁やはちみつ、砂糖ぐらいである。
あえて何を混ぜたか言わなかったのは、
彼の反応を楽しみたかっただけなのだ。 「あ、そういえばヤシャって、まだ寝てるの?」  問いかけながら階段に視線を向ける。長身痩躯の美女が現れる様子はない。
パワポケが目覚めたのなら、彼女が起きていても不思議ではないのだが。
「いや、ヤシャなら俺が起きてたときには、部屋の隅で槍に話しかけてたぞ」 「…………へ?」  パワポケの言葉を理解できずに、間の抜けた声が口から飛び出す。 彼は頬を描いて、困惑したように眉をひそめた。 「いや、俺が目を覚ます前に荷物にあった酒を飲んだらしくて」 「…………それで、槍に?」 「ああ、なんかぶつぶつと、ちょぴり泣いてたかも」  ……まあ、初体験であれだけ乱れた後、 彼とどんな顔を合わせれば良いかわからなかったのかもしれない。 少々同情しながら、タケミはつぶやく。 「……それは放っておいたほうがいいかもね」 「ああ……そういや、サトミとミソラは?」 「……」  心臓が、跳ねる。
その言葉は、タケミにとって、もっとも聞かれたくないことだったのだ。
 タケミは顔を限界まで横に向けて、パワポケから眼を逸らした。 「……なにかあったのか?」  そのまま問いかけてくる彼を見ることは無く、喋る。 「えっと……サトミは、オチタさんの看病してる」 「オチタくん? 看病?」 「うん、なんかあたしが閉じ込めたとき、
ちょうどディッガーの照明を交換してたらしくてさ。
急に真っ暗になって、食料を探そうにも探せなかったらしくて」 「うわ……」  悲壮感溢れるパワポケの声。
……後でもう一度オチタさんに謝っておこう、そう思った。
「さっきまであたしが看病してたんだけどさ、 少し前にサトミが変わってくれたんだ」 「ふーん…………ミソラは?」 「え、えっと………ごめん」 「?」  なんとか彼の方向を向いて、謝る。 彼は不思議そうな顔で、こちらを見つめていた。
その邪気のない眼差しが、痛い。
「いや、ちょっと調子に乗り過ぎじゃってさ」 「調子に?」 「……うん、その、なんか無性にしたくなって」 「……何を?」 「えっち。……ちょっと激しくしすぎたみたいでさ、眠っちゃったみたい」 「…………」  絶句する彼から再び眼を逸らし、
タケミはテーブルのコップを手に取った。
鼻に届くミルクの香り。それはミソラの匂いと少し似ていた。 「……あ、そうだ。ミソラの後ろの穴は時間をかけて開発したほうがいいよ。
まだあんまり気持ち良くないみたいだから」 
「…………」  ちょっとした指摘に、あっけにとられた顔になったパワポケ。
その間の抜けた顔を眼の端でとらえて、 タケミは小さく微笑む。
こんな顔をした男が、三人+一匹の女性を虜にしている。
それが少しおかしかったのだ。
(今さらだけど、これってハーレムだよね?)
 心の中で、誰かに聞いてみる。
彼にとっての、自分にとっての、みんなにとっての、楽園。
それを維持するのは、きっと大変なのだろう。
けれど、彼はそれをやり遂げてしまう、そんな確信があった。
 これからも続く楽しい日々、それを夢見て。
「……あははっ」
「?」
 タケミは笑い、両手を自分のお腹にあてる。

 とくん、と手のひらに小さな鼓動が伝わった。

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