おひるだよ!◆CDIQhFfRUg

 

 最初に目に映ったのは、変わってしまった両手。
 緑色の、長六角形の鱗に、手首から先が覆われている。指は細く尖って、その先端はどこかぬめぬめとしている。
 次に臀部に違和感。振り向くと、視界の端にちらりと何か細長いものが映った。
 また、風を切るような音と、長い何かが振られる感覚。おしりから、重たい後ろ髪が生えているみたいな。
 いや違う。生えているのは髪なんかじゃない。にょろりとしなる、蛇の尻尾。
 自覚すると、変化は、同化は、みるみる進んだ。口内にずるりとした不快感があり、それは口の中が急にいっぱいになったからだと気がついた。
 少し出さないといけない。何も感じ取れなくなる。
 そう思った次の瞬間には、先端が二股に分かれたそれを小刻みに出し入れしていた。
 安心できる匂いと、あたたかい体温が感じられた。
 ああ――ご主人様だ。

「you have me」

 自然と紡いだことばに、豹蛇柄の服を着たご主人様はうんうんと頷くと、大きな手のひらで頭を撫でてくれた。
 少女は、蛇は、それがとても嬉しくて。思わず首を長く伸ばして言った。

「ラーメンパスタを食べましょう、ご主人様」

 混ざり合った家庭的なガラガラへび彼女は、二人の好物を混ぜ合わせた料理を提案した。

♪♪♪♪

――ラーメンパスタ(らーめんぱすた)とは?
かつてラーメンが食べられないことを嘆いたイタリア奥地の中国マニアが編み出した禁断の料理。
市販のパスタに魔法の粉を加えてゆでることで、一瞬にしてパスタをラーメンに変化させる魔術的措置を用いる。
具はゆで卵、刻みネギ、燻製ベーコンのソース煮などでラーメンを限りなく再現。
スープは蛇の涙やホワイトペッパーなど薬味と呼ばれるものをなんとなく混ぜた後、市販のウェイパーで整えていく。
啜るように食べることでラーメンっぽさを出して味わうのがコツである、と記されている。

歌うんだ書房「世界のラーメンレシピ大全」より抜粋

♪♪♪♪


「うえぇえええん……(師匠、どうしましょう?)」
「ああ!うーむ……」

 びっくりな雷や放送によっていよいよ涙が止まらなくなった涙化粧の少女が、小声で泣きながら師匠にお伺いを立てる。
 茂みに隠れている少女と師匠がひそかに見つめるのは、支給品だろうか、草原に四角いちゃぶ台サイズのテーブルを立ててラーメンをすすっている男女だ。
 ただし男女、と形容していいかどうかは、非常に微妙だった。
 男のほうはパンチパーマに派手な豹蛇柄の金色服を着て、ヤクザっぽいグラサンをかけているため、服のセンスはともかく男であることは間違いなさそうである。
 しかし女の方はどうか。服装は落ち着いた女大学生といった感じでまとまっているものの、その容貌はモンスターに近い。
 ブサイクという意味ではない。確かにギョロリとして縦に瞳孔が開いた目、口から頻繁に二股の舌が飛び出しているなどの特徴はあるが、
 元の顔が整っているからか、奇跡的にそれらの状態がチャームポイント然としており、色物カワイイ雰囲気を出している。
 モンスターに近いというのは全体の印象のことだ。緑の鱗に覆われた肌をのぞかせ、蛇じみたしっぽを嬉しそうにふるその様は、蛇人間とでも呼称すればよいだろうか?
 どうしてそんな姿なのかは見当もつかないが、パッと見の印象だけを言えば……。

「ああ! 言っちゃあ何だが、非常に悪っぽいよな……!」
「うえぇえええん……(はいです……)」

 涙化粧の女の子は、師匠――涙の数だけ強くなれる君と共に、
 狂気のニュースキャスターへのリベンジを目的としてこの殺し合いの会場を進んでいた。
 そんな中、新たに見つけた参加者に対してどうアプローチをとろうか、声を掛けようとしたが、あまりに風貌が怪しいので師匠に止められたのだ。
 さらに、すこし観察すれば向こうのスタンスも分かるだろうと放送を聞きながら見守っていたものの、ここまでずっとラーメンをすすっているだけなのである。
 判断のしようもない。
 ※ちなみに小池さんやフリーザの死体はすでにどこかへと消えている。

「うええぇえん……(なんか満てたらお腹すいてきたです)」
「ああ! 腹が減ってはいくさはできぬと言うしな……! あんな草原のド真ん中で飯食ってるってこたあ、善きにしろ悪きにしろ、腕には自信があるんだろう。
 仮に何かが起きても、きっと自分たちで対処できるという、確信があると見た! もはや俺たちもお昼にするか?」
「うえぇええん(そうねです)」
「ならマヨチュッチュはどう?」
「ぅえっ?」「ああ!?」

 と――唐突に。
 二人が見ている方向の反対側から、弾むような声がかかった。
 背後を取られた
 その事実を意識することが出来た数瞬後には、ママが二人に襲い掛かっていた。

「朝シャン♪ 朝シャン♪ 朝シャンの時間をオーバーしているの♪
 だから今から朝シャンするの――――おまえたちの返り血でなあああああああああああああああああああああ♪」

 いくら昼とて、涙が渇く暇などない。


【4-名/白/一日目/13時】

【慎吾ママ@慎吾ママのおはロック(慎吾ママ)】
【容姿】慎吾ママ
【出典媒体】歌詞
【状態】血まみれ
【装備】モーニングスター
【道具】基本支給品、マヨの容器(空)
【思考】子供たちを殺し合いから守る、マヨをチュッチュする。
【備考】目の前の二人の返り血で朝シャンする。

【涙化粧の女の子@JAM(THE YELLOW MONKEY)】
【容姿】夏川りみ(幼少時代)
【出典媒体】歌詞
【状態】勇ましい涙
【装備】なし
【道具】基本支給品
【思考】ニュースキャスターに弔い合戦を挑む
【備考】ぅえっ
※涙が枯れません。※涙拳を習得しました。

【涙の数だけ強くなれる君@tomorrow(岡本真夜)】
【容姿】マッチョでさわやかな拳法家
【出典媒体】歌詞
【状態】さわやかな涙
【装備】なし
【道具】基本支給品
【思考】涙化粧の女の子を応援する
【備考】ああ!?
※涙拳を極めています。

♪♪♪♪

 トラックがコンクリートの建物に激突したかのような音がしたので、いくら方向音痴であってもその場所にたどり着くことが出来た。
 草原の真ん中。
 現在進行形で上がる粉塵と打撃音の嵐をバックに、優雅にもちゃぶ台でラーメンを啜っている芸能人と蛇人間を、ニュースキャスターは視界におさめてしまった。
 おさめてしまった、と記述せざるを得ないのは、その芸能人がくしくもニュースキャスターの殺害対象となってしまうからである。

「……ピコ太郎氏……!」
「誰ですか?」

 異形の風貌に似合わず綺麗なメス猫声を出した蛇人――家庭的なガラガラへび彼女が、鱗付きの手をキャスターをマスターの間に挟みこむように、前に出た。
 ピコ太郎と呼ばれた男は、窮地を救った尊敬と尊敬をミックスさせて忠実なしもべになるよう練り上げたその少女の仕上がりを改めて確認し、無言で笑みを浮かべている。

「ああ……なんということでしょうか。謎多きピコ太郎氏。
 謎多きまま、出身地も謎のままであれば、私の論理では見逃すこともできましたがしかし。あなたは千葉のシンガーソングライターであることを明かしています。
 よって、日本人はいませんでした しなければなりません」
「何を言っているのか、理解に苦しみます。
 ご主人様に害をなすというのであれば、わたしとしてはご主人様に練って頂いたこの体で、貴女を抹殺します」

 パスタが得意なだけのただの少女だったはずの存在は、殺人鬼を前に舌を挑発的にちょろ出しし、迎撃の構えを取った。

「ふむ。最近のわれわれ(マスメディア)はどうでもいいニュースを騒ぎ立てて本当に伝えなければならないことをおろそかにしているなどと言われますが」
「……?」
「日本語を話す蛇人間というのは、また奇妙奇天烈にしてニュース映え(インスタ映え亜種)しそうなネタですよね」

 対するニュースキャスターもまた、自らのゆがんだ信念を貫く意思表示とばかりに、懐から拳銃を取り出して少女を嘲笑った。
 拳法とママ拳法の爆音が舞うすぐそば。
 かたや命の恩人への崇拝を加算され、崇拝を強制された蛇の少女。
 かたや自らの仕事への誇りを加速させた結果、報道という名の神を大義名分に使うニュースキャスター。
 二人の女の戦いが始まろうとしていた。

「ええ、明日の一面にしてあげましょう。もちろん、日本人であることは伏せたうえで。とびっきりの訃報でね」
「ではあなたは、わたしの試運転の実験台になってもらいます」


【4-名/白/一日目/13時】

【I@PPAP(ピコ太郎)】
【容姿】ピコ太郎
【出典媒体】PV
【状態】健康
【装備】ペン@PPAP
【道具】支給品一式
【思考】優勝する。
【備考】

【家庭的なガラガラへび彼女@純恋歌がやってくる(湘南とん風ねるず)】
【容姿】蛇と彼女のマッシュアップ
【出典媒体】歌詞
【状態】健康
【装備】不明
【道具】支給品一式
【思考】ピコ太郎様についていく。
【備考】ピコ太郎様をお守りする。
※二つの歌がマッシュアップされました。

【嬉しそうに「乗客に日本人はいませんでした」「いませんでした」「いませんでした」って言ったニュースキャスター@JAM(THE YELLOW MONKEY)】
【容姿】金井憧れアナ
【出典媒体】歌詞
【状態】健康
【装備】9mm拳銃
【道具】基本支給品
【思考】日本人を殺す。
【備考】
 

どなたでも編集できます