夢◆CDIQhFfRUg

 
ふわふわ。ふわふわ。
わたしは、マシュマロみたいな柔らかさの何かの上でまどろんでいる。
まどろみは心地いい。
心地よくて気持ちいい、一生ここでふわふわしていたい。
布団にはこだわるタイプのすいみんぶそく少女であるところのわたしだけど、今寝ているこの何かはとても素敵だ。
沈んじゃうくらい柔らかいのに、わたしの重さを受け止めてくれていて。
だからと言って蒸れたりもしない、冷たかったりもしない。人肌のぬるま湯につかってるような気持ち、いつまでだって居られる。
ああきっと。
これが安眠ってやつなのだ。
頭がぼんやりとしか回らないことを嬉しく思いながら、わたしはそんなことを考えた。

「いつまで寝てるの」
「あれっ――わたし?」

目をつむって安心に浸っていたら、横から口槍が飛んできた。
すっごく緩慢に右を向いたら、そこにはわたしが寝ころんでいた。
ギンギラギンに目を光らせてこちらを見ていた。
おそろいのすがた。
わたしと、わたし。
隣にいたのは、わたしの『オルタ』のわたしだった。
わたしより目のクマがひどくて、わたしよりもきっと眠れてない、わたし。

「安眠、楽しかったかしら? わたし。残念だけどもう昼よ。お前は今から、起きないといけない」
「ええと……すごく良かったけど」

なんでわたしがここにいるの? と疑問を投げかけるまえに、急に気が付く。
わたしが寝ころんでいるのは、でっかい、でっかい、でっかい、でっかくて果ても見えないような、マシュマロそのものだということに。
そう、ここは何でもありな空間だった。

――そう、夢だった。

わたしは夢の中にいた。
だからわたしが隣にいるんだ。

じゃあ、こう言わなきゃ。

「ねえ、あなたは眠らないの?」
「……」

わたしはわたしに言った。

「あなたを見た時思ったの。きっとあなたは、わたしより眠りたいんじゃないかって。
 夢の中にいるなら、きっとあなたも寝てるのよね? わたしと同じわたしだから、あなたも同じ夢の中にいる」
「……」
「いっしょに寝ようよ。気持ちいいよ?」
「……眠れないのよ、もうね」

少し悲しそうな顔をして、わたしはわたしにそう告げた。

「わたしはもう眠れない。眠る権利を失ったわ。お前が寝ている間に、そうなってしまったの」
「どういうこと?」
「ここでさよならってことよ」

ぐい、と両手をついて、眠れないわたしは起き上がった。
そして、ぱんぱんと埃を払うような仕草をしたあと、すたすたと歩き出した。
きびきびとした歩き方で、まるでわたしは兵隊さんみたいだ。そうわたしは思った。わたしならあんな歩き方はしない。
ああ、きっと無理をして歩いている。前に進むのではなく、どこか後ろ向きな遠くへ行ってしまう、
それを惜しく思ってる、それでも進まなければならない、そんな後姿を見てしまって私は、つい口を開こうとした、
その唇の動きは静かに放たれたわたしの言葉に遮られた。

「――わたし。【夢】を探しなさい」

消えていく私と、明るくなっていく視界の中。

「歌われることに抗いなさい。自分が歌いたい歌を探しなさい。きっとこの世界は、そのためにあるものだから」

マシュマロみたいに甘くも柔らかくもない、ずしりと重くて固いその言葉が。
なんでなんだろう? わたしの心にはなぜか、どんな安らぎよりも優しく響いたのだった。





「……おはよう」
「おおおい! 放送! 放送終わってるってあんた! マジで昼まで寝る奴があるかよ!」
「放送?」

 ――バクの姿をした妖怪さんの話によれば、わたしがすやすやと眠っている間に、放送と雷が空から落ちてきたという。
 いっぱいの人の名前が呼ばれ、いっぱいの危険な雷が地面を焼き、危うくわたし達も打たれかけたとかなんとか。
 夢みたいな話だったけど、そもそもこの催し事態が夢(あくむ)みたいな話なわけで、信じるしかないといったところだ。
 わたしは妖怪さんに昼まで守ってくれてありがとうを言って、頭をちょっと撫でてあげて、地面に下りた。
 もちろん現実の地面は固い。とてもマシュマロなんかじゃない。
 放送は聞いていないけど分かる。
 あの子はきっともう、あの夢の中で眠れない。
 わたしはあの子の分まで、この現実で、夢を見ないといけない。

「わたしね」
「?」

 わたしは妖怪にふと話しかけたくなった。

「わたしね、とにかく眠りたいって思ってた」
「そうだろなそりゃ」
「望みなんて、それ以外になかったのよね。眠りたいってだけだった。で、叶っちゃった。叶っちゃったのよ」
「……まあそうだろうね??」
「わたし、次に何を願えばいいんだろう」

 けっこう大真面目に言ったつもりだったのだが、バクの妖怪は目をぱちくりとさせた。

「あんた、まだ寝ぼけてるのか?」
「わりとガチな話なんだけど……」
「殺し合いなんだから生き残るのが願い、とかが常道だと思うバクですが」
「それはみんな同じじゃない。あなただってそうでしょ?」
「オレは別に……妖怪ってあんまり生死に頓着ないっていうか、死んでからが本番みたいなところあるし」
「えっそうなの?」
「強いて言うなら、こんな状況でもみんなを眠らせちまえたら面白いかも、って愉快な考えが行動の原動力だったんだが……もう昼でそれもできないしなあ……」
「ってことは、わたしと同じじゃん。夢のないもの同士〜」
「こらやめろやめ……あきゃー」

 うりうりとバクの両耳をこねこねして遊ぶと、くすぐったそうにするので少し楽しくなった。
 楽しくなったけど、なんとも進展しない話だった。
 中身も夢もない話だった。

「とりあえず支給品とか確認してみるか? あんたは包丁だったけど」
「これ市街地の家でパクってきたやつなのよね。かばんとか開ける余裕もなかったし」
「じゃあお互いに未知って感じなのか」
「何かヒントになるものが入ってればいいけど」

 中身のない話はともかく、支給品さえまともに確認していないわたしたちは、今さらになってそこから始めてみることにした。
 さあ、【夢】はどこにあるんだろう?
 わたしはわたしに問いかけながら、バクと一緒にかばんのフタを開けた。


【5-秋/鶴/一日目/13時】

【朝眠い原因の妖怪@ようかい体操第一(Dream5)】
【容姿】バク
【出典媒体】歌詞
【状態】健康
【装備】なし
【道具】不明
【思考】
1:朝に起きてるやつを眠らせる
2:昼になったらどうしよう
3:支給されたカバンを開けてみる。
【備考】
朝に限り、他人の眠気を増幅する妖術が使えます。

【わたし@すいみん不足(アニメ版)(CHICKS)】
【容姿】目の下にひどいクマがあるミヨちゃんヘアの少女
【出典媒体】歌詞
【状態】睡眠中
【装備】包丁
【道具】支給品一式
【思考】【夢】を探す
【備考】

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