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「――と言った風にだ。今頃中央は、かなり盛り上がっているころだろうよ」

 市街地の一角にあった、小洒落た洋館風の建物の中。
 椅子に座り、噛み煙草をくわえた筋骨隆々な男――チェリーが、皮肉げに言葉を吐き捨てた。
 答えるのは彼の背後に立っている黒髪の少女――プリンセス。
 二人はある目的のために、この洋館に身を隠してじっと時を待っている。
 ただ待つのも辛いので、ちょっとした雑談をしていたのだ。

「ふうん、そうなの」
「お前ほんとに興味ないんだな」
「基本、わたし、あの人以外への興味は薄いので」
「戦術の話をしてるんだぜ、俺は」
「戦術?」
「ほんとに上の空で聞いてたのかよ……」

 どこか天然な返しをした姫にため息をつくも、さくらんぼはそのまま話を続けた。
 テーマは「殺し合いのセオリー」。

「いいか、もう一度言うが、殺し合いのセオリーは、『メインストーリーから少しずれた場所で勝機を待て』だ。
 ああ、この場合のストーリーってのは、お前の物語ではないぜ。つーか違う単語だわな。全体の流れ……ストリームか。
 たくさんの人間が、たくさんの感情が交じった土地には、知らず知らずのうちに、大きな流れが生まれるものなんだ。
 その中で生き残りたいなら、そこに「加わるタイミング」を吟味しなくちゃならねえ。そういう話を俺はしてる」
「タイミング、ですか」
「例えば今は最悪だな。俺たちはついさっき、一山集まってた奴らを殺したばっかりだ。
 人数から考えて、市街地――地図の北東にはもうほとんど参加者はいないと見ていい。
 となると、地形的に、今の時点で残っている他の参加者たちは、どこへ向かっていると思う?」

 地図を広げるチェリーの頭の上に顎を載せて、プリンセスはその地図の一点を指さす。

「……わたしなら……真ん中を目指しますね」
「その心は」
「殺すにしても生き残るにしても、誰かに会えそうな気がします。
 まずこの地図には、特に目立って人が集まりそうな施設が少ないです。
 処刑場、運動場、カジノ……この辺りは不人気でしょう。
 となると残るは銀行か大使館ですけど、その二つは逆に人気、誰かが陣取っている可能性があります。
 そして、ちょうどこの二つの施設は、地図の北と南にある。
 つまり――とりあえず中央に行けば、そのあと、銀行と大使館のどちらにも行けますからね」
「うん、優秀だな。その通りだ。
 まず中央。そして願わくば同志を集めて、その二ヶ所のどちらかに襲撃をかけて……制圧する。
 それが出来れば「勝ち」は近くなる。そう考える奴は多いだろう。もちろん、何も考えずにただ中央に寄せられる奴らもいるだろうな。
 だからこそ今、中央はリスクが高い」

 ふぅー。と、白い煙を男が吐く。

「今は〈装備を整えて〉、中央が間引かれるのを待つのが一番だ」

 噛み煙草の煙が天へ登る。ゆらゆらと、くらくらと。
 プリンセスはその厭な煙を吸わないよう、チェリーから少し離れて、

「でも会いたい人に会える期待値も高いのではないかしら」

 と返した。
 「それも間違いの無い思考だな」とチェリーが頷く。
 が、直後に鼻で笑い、

「ただし、探してるのが俺の相方でなければ、だが」
「……ああ、成る程。すでに仔細は〈ご教授〉済みと」
「ちげーよ。俺の論はあいつと別れた後に培ったノウハウだ。
 ただ、あいつは……俺より聡明だ。俺が思いつくことくらい、あいつなら、当然思いつくさ」
「思いつけるのと実行できるのは、また別次元のレイヤーの話ではないですか? 
 ……やっぱり、わたしはこれには反対ですね。チェリーさんはこんなことをせずとも充分闘えます。
 今は這いずってでも色々な所を探すのが優先ではないでしょうか? わたしは、少し失望感を覚えています」
「くくっ。お前にゃあ分からんよ」

 むすっとするプリンセスに笑いながら話すと、チェリーは急に、ふあ、と大きく欠伸をした。
 噛み煙草が口から外れて床に落ちる。

「……よし」

 チェリーはそれを拾うことはない、いや、今は拾えないのだ。
 噛み煙草は、麻酔薬。
 二人が待っていたのは、チェリーの体にこの簡易麻酔が染み込むまでの時間なのだから。
 プリンセスは取り出す。
 先ほど路上に倒れていた男から〈略奪〉した、銀の腕。
 加えて、男からその腕を切り離すときに使った、がっしりとした大のこぎりを。

「きっと、痛いですけど」
「死ぬより軽い痛みならむしろ快感だね。これで俺はかなりMなところがある。そうそう、あいつに惚れたのも――」
「チェリーさん。きもいです」
「純粋に厳しいコメントやめろ」
 
 のこぎりを構えながらプリンセスは。
 ばかなひと、と、思う。
 あれだけ「いつか殺し合いになる仲だ」と強調したのに、この男は麻酔を自らかけて、パートナーにのこぎりを持たせることに同意した。
 命を預けることに同意した。それが、どれだけ危険なことであるかは、分かっているだろうに。
 プリンセスはあまり他人に興味がない。だが、全く無い訳ではない。だから評価くらいはできる。
 この男の評価は、純粋――そう、どこまでも純粋なのだ。
 会いたいという気持ちも純粋で。その為になんでもやるという想いも、紛い物なんかじゃない本物で。
 ほんの少し嫉妬してしまうくらいに、前しか向いていないのだ。

(でも、信じすぎは良くないと思いますよ?
 わたしはまあ……九割がた同じ穴のムジナですから、〈そのとき〉までは付き合ってあげますけれど。
 女の子はいつだって、好きな人に知られないように、好きな人にいい顔を見せようとするんですから……)

 例えあなたの信じるそのひとが、あなたの信じる通りに聡明で、しっかりと生き延びていたとしても。
 きっと心の底ではいつだって、あなたに会えなくて寂しがっているんですから。
 だから、これが終わったらすぐにまた、走り出してあげてくださいね。
 プリンセスは心の中でそっと、愚かな男に警告を発して。

 ノコギリを、チェリーの肩に引き当てた。

「――んギああああああああクオあああアああああああァああああ♪
 エウィオおおおおアアゥあああああああッギあああアあアアああ゛あああああああッ♪♪
 ぎギあああああああああああアああああああァあああああああアあアアああ゛あああああああッ♪♪♪
 イヒィあ♪ エヒッ、あ゛あ゛あ゛お゛お゛お゛♪ う゛エええええああああ♪♪ いィイ♪
 いいぃいいいいッ是えぇぇえええええええええエエエえええええエええッ!!!!」


【2-名・名もなき洋館/馬/一日目/15時】

【わたし@M(プリンセスプリンセス)】
【容姿】女性、18歳、髪型はショート
【出典媒体】上記妄想(探しても媒体が見つかりませんでした)
【状態】あなたを忘れる(くらいなら誰かを殺す)勇気
【装備】大のこぎり
【道具】支給品一式
【思考】あなたともう一度会うために、全ての星(参加者)を森(冥府)へ返す。
【備考】
※正しくは「わたし」では無く「私」です。書き終えた後に気付きました。
※でもそのまま行きます。

【愛してるの響きだけで強くなれる僕@チェリー(スピッツ)】
【容姿】男性、ムキムキ、修羅
【出典媒体】歌詞
【状態】あえいでいる
【装備】なし(身一つで戦えるので)
【道具】支給品一式
【思考】いつかまたこの場所で君と巡り合いたい
【備考】

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