チキンライス◆CDIQhFfRUg

 

今日は

クリスマス

街はにぎやか、お祭り騒ぎ

でも七面鳥は持ってないので

私達まだチキンライスでいいや


♪♪♪♪


「……チキンライス、おいしいな!」
「支給品がケチャップとサラダチキンだったときはどうしようかと思ったけど、なんとかなった」
「市街地にちゃんと電気が通ってるとこが味だよな。そんであんたが料理が美味いのも驚きだ」
「混ぜるだけだもん、わたしじゃなくても、誰でもできるよ〜」
「褒められ慣れなさが顔に出てるぜ」
「はずかしーことをいうな」

 スプーンが食器をカタンカタンと叩く音が、静かな住宅街の一軒家の中から聞こえていた。
 すいみん不足の少女と朝眠い原因の妖怪の支給品は、異様な量のケチャップとサラダチキンだった。
 ケチャップ。チキン。
 七面鳥ではないが、この材料だったらもうチキンライスを作る以外にやることがない。
 そう、快眠にてスイミン欲を満たした後は、食欲を満たそうということである。
 市街地へと移動し、家探しで見つけたコメを炊き、
 少女が作ったのはよくほぐされたチキンがいい味付けでご飯に絡む、至上のチキンライスだった。

「まあ腹は膨れたが(オレは妖怪なんで別に食わなくても動けるが、気持ちの問題だな)武器がなかったのは痛いな」
「そうね。ピストルとかあったらよかったんだけど。や、撃てるかは別として」
「スタンスは決めたのか?」
「うん」

 ぺろり、と口の端についたケチャップを舐めた少女は、迷いのない瞳でバクを見つめていた。

「お腹を膨らませてる間に、お腹をくくったよわたしは。
 やっぱり、夢を叶えたわたしが次にやるべきは、誰かの夢をかなえてあげることだと思う。
 そんでね、もういっこ、誰かが夢を叶えようとしてるのを邪魔する人がいたら」

 ばきゅーん、手でピストルを打つジェスチャーをする少女。

「その人を倒さなきゃだめだって、思ったよ」
「優勝することで夢を叶えようとしてるやつがいてもか?」
「妖怪さん、厳しいとこ突っ込んでくるよね。でも、それも考えたの。確かに。
 わたしだって最初はテンパってたし、叶えようのない願いを叶えようとして、殺し合いしちゃおうとしてる人もいると思う。
 そういう人の、夢を、否定していいのか? すっごい難しいよ。
 でも結論、誰かの夢を虐げてまで叶える願いなんて、よくないんじゃないかなってわたしは思うの。
 わたしは、そう思った。だって、それを実行してたもう一人のわたしが、なんだか悲しそうだったから。あれは――よくないって思った」

 少女は、自らの写し鏡である、自分よりクマが酷い少女のことを想った。
 眠りを望み、戦い、殺し、そして眠る権利を失った彼女が、最期に自分に託した言葉の意味を思った。
 彼女の叫びを、あのような唄を、もう二度と聞きたくはない。誰かに唄ってほしくない。
 誰がなんと言おうと、少女はそう思った。だから、少女のやることは決まっていた。

「ふうん」

 その覚悟を聞いて、しかし妖怪は鼻で笑う。

「ま――いいんじゃないの。悪くねえよ。協力するって言っちゃったの、後悔しないくらいにはね。
 でも、具体性がなしの助だな。結局どうすんべこれからって事」
「それはまあ、そうだけども……」

 そう、いくら志が高くても。
 この殺し合いの地で、ただの睡眠不足の少女となんの能力も使えない妖怪など、一息で殺されるだけの存在にすぎない。
 この問題の解決策は、少女も持っていなかった。
 結局武器もなく、余ったのは大量のケチャップだけである。
 血のりとかに使えなくもないだろうが、本音を言えばそんなことより武器が欲しかった。

「とりあえず誰か、強力な助っ人を探すって感じかなあ」
「んー。爆速で人が死んでるってのにのん気だが、まあそれしかねえかね?
 まさかこの、余った大量のケチャップが有効利用できる場面が急に来るとかはないだろうし――」

 少女とバクがある種、消極的な方針を固めかけた……その時だった。

「いえ、ナイスですよ、そちらがた」

 妖怪のセリフに、示し合わせたかのように。
 一軒家の窓から急に、吹雪のようなナニカが舞い込んできた。

「わっ!」
「きゃ!」

 びゅう、びゅう、びゅう、荒野にふきすさぶ風のようなそれは、よく見れば極彩色のアゲハ色をしていた。
 違う。アゲハ蝶なのだ。アゲハ蝶の群れが食卓に渦をまいている。
 その渦は次第に人の形に収束する。
 少女とバクが目をぱちくりさせている間に、大量のケチャップをアゲハ蝶に抱えさせた男が、その場に現れていた。
 かんばせ伺い知れぬ、砂漠の旅人衣装。
 ミステリアスが形を成したようなそれは、開口一番に驚きの言葉を並べた。

「マヨネーズに対抗するなら、やはりケチャップですよね」
「は?」
「時間がありませんので、手短に。
 こちらは旅人。全ての旅を応援している、ナビゲーターのようなものとお考え下さい」
「ナビゲーター……?」
「取引があります。こちらの望みは、このケチャップ。こちらからの提示は、情報二つ。
 一つ、そちらの望み、殺し合いの打破に協力してくれそうな助っ人――心当たりがあります。成立の暁、場所をお教えしましょう。
 そしてもう一つ、こちらは先行情報をば。
 いまだ鳴りやまぬ雷が、勇敢な鉄人の命をいままさに削り取ろうとしています」

 早口に、旅人がそう言い終わるか言い終わらないかのうちに、バクの耳(そこそこ良い)は遠雷の音をとらえた。
 それは聞き間違えようのない、主催が放送の終わりに放った殺戮の雷と遜色ない音をしていた。
 雷は、主催が放ったアレで終わりではなかったのか?
 誰かの命が「雷」で失われようとしている?
 いやいやまてまて。急に現れて、都合のいいことをまくしたてたこいつは何者だ?
 こいつの存在から匂う、妖怪と同じような、不安定な気配はいったい?

「おいあんた、これ怪しいぜ、ちょっとシンクタイムを」
「うん、わかった」
「ってオイ!」

 と、妖怪が教育番組のおさらいのように情報を反芻する時間を取っている間に、物語は動き始めた。
 ツッコミを入れるすきますらない、ノータイムで――少女が取引を呑んでいた。
 考えなしのバカ!
 怒ろうとしたバクだったが、強い光を秘めた少女の瞳を見てしまい気圧された。
 少女が、いっさいひるまずに旅人に言葉を返した。

「別にケチャップなんていらないし。いくらでも持っていきなさいよ。
 でもね、ひとつだけ。眠たいことはしないでって言っとくわ。
 嘘を吐くくらいなら、何も話してくれなくていい。情報をくれるっていうのなら、それは正しいことだと信じるから。
 あなたも、わたしを信じて話してよね。それでいいなら、取引成立よ」
「ほう……」
「誰かが苦しんでいるってのがホントなら。一分一秒でも、それを長引かせちゃいけないから」
「ああ――素晴らしいですね」

 にこり。
 と。
 妖怪にも、少女にも見えないように隠した顔の下で、旅人がわらったような気がした。
 その意図は、誰にも分かることはできない。
 ただ、旅人にとって、見守るべき旅が増えたのは、どうやら確かなようだった。 

「では、アゲハを一匹付けさせてもらいます。「太陽の騎士」の元へと誘導しましょう。
 ケチャップ、ありがたく頂かせてもらいます。では―――――よい旅を、かわいい少女さん」

 びゅおお。
 またもや嵐が室内に吹き荒れ、一気に旅人とケチャップは消え去り、後には一匹の蝶が残った。
 そして、ふわふわと。誘蛾灯に引き寄せられる蛾を思わせる動きで、蝶が少女とバクを外へと誘っていた。
 それはこの先に待ち構える波乱への片道切符と同義だ。

「はー……ま、うさん臭くてもやるしかねえか。あんた、肝座ってんな」
「妖怪で肝試しはとうの昔にしたし。チキンライスもおいしく食べたしね」
「ハッハッハー。眠って食べて充足したら、ずいぶん頭が冴えてる女の子になったことで」
「ふふ、おかげさまで」

 少女とバクは、臆せず蝶についていく。
 目指すは太陽の騎士、そして、雷の討伐。
 少女はもう迷わない。
 なぜなら、もうよく寝たから。


【5-九/馬/一日目/15時】


【朝眠い原因の妖怪@ようかい体操第一(Dream5)】
【容姿】バク
【出典媒体】歌詞
【状態】健康
【装備】なし
【道具】なし
【思考】
1:朝に起きてるやつを眠らせる
2:すいみん不足少女を応援する
【備考】
朝に限り、他人の眠気を増幅する妖術が使えます。

【わたし@すいみん不足(アニメ版)(CHICKS)】
【容姿】目の下にひどいクマがあるミヨちゃんヘアの少女
【出典媒体】歌詞
【状態】睡眠中
【装備】包丁
【道具】支給品一式
【思考】
1:夢を叶えようとする人を応援する。
2:誰かを殺してまで夢を叶えようとするのは、よくない。
【備考】

【旅人@アゲハ蝶】
【容姿】アゲハ蝶
【出典媒体】歌詞
【状態】健康
【装備】アゲハ蝶@アゲハ蝶
【道具】支給品一式、大量のケチャップ
【思考】
1:トイレットペーパーマンの旅を見守る。
2:すいみん不足少女の旅を見守る。
【備考】
※アゲハ蝶を操れます。

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