後悔◆CDIQhFfRUg


 
「……命が、溢れ落ちたか」

男が、草原に立ち尽くしている、
草原の短い芝のすべてが、完璧の体現者である男に平伏している、
しかし、男の心の中は完璧なコンディションとは程遠かった。

流れた放送で呼ばれた命。
決して、このような不完全者の戯れで奪われてはならなかった命、その数の多さが男の心を苛んだ。

「これだけの命が失われたというのに、俺は――」

後悔。

男は未だ――何もできていない。

宿敵であるピコ太郎を見つけ、妥当することも。

不完全者たちを救うことも。

開始から四半日が経ったにもかかわらず、何も。

「……」

次の瞬間、

ぱしぃん!

空間をつんざくような張り手の音が響く。

完璧な同一タイミングで、男が男自身の両掌をつかい、男自身の両頬を張った音だ、
自惚れを消し去り、懺悔の心を吹き飛ばし、自身の完全性のゆらぎを叱咤するためのルーティーンだ、
あまりに綺麗なその張り手が巻き起こしたインパクトは、
辺りの空気を完璧なタイミングで揺らし、風を巻き起こした、
下々の芝は風に呼応し、ぴったり777本が地面から宙へ巻き上げられることを許可され、完璧な軌道を描いて空を泳いだ、
張られた筈の頬に赤味は差さない、なぜなら男はその自然体で完璧な存在であるがゆえに、その身体は一切の劣化を許さない、
あらゆる疵は男に付くことを許可されない、当たり前のこだ、
巻き上げられた草も触れないのは、あらゆる不完全存在は男に触れることを許可されないからで、それもまた不変の真理である。
なぜなら男は完璧なのだから。

完璧とはそれ以上の進化を遂げられないということだろうか。

完璧とはそれ以上の変化を許さないということだろうか。

否である。

完璧とはほかのすべてに左右されない存在であり。

完璧とは、自分自身の力のみで常にさらに完璧であろうとする存在である。

男は、故に、真なる意味で完璧である。

「ここからだ」

男は後悔を完了した。

自己の完璧性をアップデートした。

耳を澄ませば、五秒前よりたくさんの音が聞こえた。
鼻を動かせば、三秒前よりするどく匂いを感じ取れた。
目を凝らせば、一秒前より視界は広がっていた。

戦闘の音。
砂埃の匂い。
遥か遠くに見えたのは、
宿敵の姿と、救うべき者たちの姿。

「今行く」

「1分でいい、待っていてくれ」

一瞬前より完璧なフォームで大地を蹴る。
刹那の先に、彼が成さなければならない完璧が存在する。

男の名前はnakata。

全員その名を、心に刻め。

【5-名/白/一日目/14時】

【nakata@PERFECT HUMAN (RADIO FISH)】
【容姿】I’m a perfect human
【出典媒体】I’m a perfect human
【状態】健康
【装備】
【道具】支給品一式
【思考】ピコ太郎を殺し、自分がI’m a perfect humanであることを証明する。
【備考】
中央へと向かいます。

どなたでも編集できます