快晴◆CDIQhFfRUg

 

 雷がいっぱい鳴ったあと、空は快晴だった。
 沢山のかなしいことが起きたのに、空は快晴だった。

「いい天気よね」

 カジノの屋上で、放送までずっと座っていた少女。
 アルエは空を見上げながら、そんな言葉を皮肉めいたトーンでつぶやく。
 胸から突き出す剥き出しの心臓と、そこへ絡みつくコスモスが、どくり、どくりと動いている。
 燦々な太陽で、光合成でもしているのだろうか。
 それは、彼女自身にも分からないことだった。

「……さっきの雷の音のせいで、胸は痛いけれど」

 その心臓は感受性が強い。
 先ほどの雷に込められたメッセージを受け取るほどには。
 雷は語っていた。
 アルエにしか聞こえないであろう声で語っていた。

  『留まるな』『止まるな』『流れに身を任せるな』
  『願え』『勝ち続けろ』『他者を虐げてでも、伝説を手にしろ』
  『それができぬのであれば――――』

  『死ね』『死ね』『死ね』『死ね』
  『死ね』『死ね』『死ね』『死ね』
  『死ね』『死ね』『死ね』『死ね』
  『死ね』『死ね』『死ね』『死ね』

 ……急き立てるかみさまの声。
 とげとげしい、痛々しい、重苦しい、そんな感情の奔流。
 そんなに急がせて、むりやり生を終わらせることに、なんの意味があるのか、アルエは分からない。
 そもそも、アルエはそうまでして叶えたい願いなんて――。
 
(アルエ)
「こいのぼり、さん?」
(アルエ、きみに頼みたいことがある)

 アルエは、横に突き立てていたこいのぼりの心の声を聴いた。
 どこか、決意をしたような声だった。
 感受性が高いアルエは、その想いだけで感じ取った。
 こいのぼりは、もう。

(きみに――)

 こいのぼりの想いが、アルエに突き刺さる。
 アルエは心臓から血が噴き出さないのを不思議に思った。
 だって、こんなに痛いのに。
 こんなに苦しいのに。
 こんなに、さみしいのに。


♪♪♪♪


 快晴の中、狼煙が上がっている。
 屋上で死んでいた男の人が持っていたライターで、こいのぼりに火をつけた。
 カジノをあとにして歩き出すアルエは、ふいに振り向いて、その煙が空に登っていくのを、見上げた。

 ――燃やしてくれないか。
 ――もっと、高いところを泳ぎたいんだ。

 こいのぼりは、心の言葉ではそう喋っていたけれど、アルエが感じ取った感情は、それだけではなかった。

 ――もう自分の願いは叶ったから。
 ――いつまでもきみをここに縛り付けるわけにもいかないだろう。
 ――わからないけど、きみにも願いがあるのだろう?
 ――例えば誰かに襲われて、これ以上、願いが叶えられなくなるうちに。
 ――きみはきみの願いを叶えなよ、アルエ。

 そんなことを震えた想いでつづられて、拒否などできるわけがない。
 例えアルエが、そうまでして叶えたい願いなんて持っていないと思っていようが。
 そんなことがわかるのはアルエくらいなもので、こいのぼりにアルエの心は分からないのだから。
 優しさを、無下になどできなかった。

「また、一人になっちゃった」

 煙が登っていく。
 命が天へ昇っていく。
 空は快晴である。

「一人じゃなければ、それでよかったのにな」

 ぽつりとつぶやいて、アルエは歩き出す。


【こいのぼり@こいのぼり(作曲者不明) 死亡】


【1-春/止/一日目/14時】

【アルエ@アルエ(BUMP OF CHICKEN)】
【容姿】白いブラウスに青いスカート、剥き出しのハートに包帯とコスモス
【出典媒体】歌詞
【状態】健康
【装備】こいのぼり@こいのぼり、ライター@現実
【道具】支給品一式
【思考】また、一人になっちゃった。
【備考】
※感受性が高いです。

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