宿命の交わる時◆CDIQhFfRUg

 

 正味の話、女と付き合ったことは一度や二度じゃない。
 人生30年を手前に、同年代と比べれば、まあ自慢できるくらいには遊んできたという自負がある。
 小さなものから大きなものまで、それこそ星の数……とまではいかねえかもだけど、
 目を閉じれば今まで夜を共にした女たちが浮かんでくるくらいには、色々な経験をしてきた。

 その中で、いちばん光るのが、彼女だ。
 他の思い出が霞むくらいに彼女は、俺の中で光っている。

 大親友の彼女の連れ――パスタ――大貧民――マジ惚れ。
 桜月の夜に付き合い始めて、ずっと連れ添っていた、絶対に失いたくないあいつ。
 
 たとえどれだけ違う姿になってしまったとしても、絶対に分かる。
 だってお前は、俺のことを変なあだ名で呼ぶんだから。

「あれ……『うーた』?」
「ゆ、ユミ……なのか……?」

 ユウタとユミで「ユ」が被ってるから、みたいな理由だったはずだ。
 『うーた』幼児みたいなあだ名を付けられたのは生まれて初めてだったから、最初はこそばゆかった。
 でもまあ嫌いじゃなかった。バカップルみたいだと思うけど、それは俺とあいつじゃなきゃ生まれないあだ名だったから。特別なものだったから。

 だからこそ驚いた。
 放送の後、必死になってそいつを――俺の彼女、ユミを探してた俺の前に現れたのは、ヘビの彼女だったんだ。
 ヘビのような顔をして、ヘビみたいに尻尾を生やした亞人だったんだ。
 信じられなかったけど信じるしかなかった。
 彼女以外は使わないあだ名で俺を呼んだそいつは、間違いなく彼女であり――

「いたんだ、うーた。でもちょっと待ってね。もうちょっとで、殺せるから」

 ニュースキャスターみたいな姿の女の人を、ずたぼろにしているところだということを、認めざるを得なかった。


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 ぺっ、と。
 回し蹴りを顔面に入れられて折れた歯を、ニュースキャスターは冷静に吐き捨てた。
 こんな時でも実況を忘れられないのはニュースキャスターの性だろうか。
 ともかく、新たな日本人の登場。
 今は闖入者の存在を計算に入れて、この不利を覆す方法を模索するのが課題だ。

 そう、不利を強いられている。
 ヘビの少女が特別強いわけではない。
 ヘビの舌に備わる超感覚センサでこちらの動きを若干読んできたり、尻尾を使って人間には出来ない角度・軌道での攻撃を行ってはきたが、
 所詮格闘経験のない一般人の考えがベースになった『なりたて怪人』の小技、たかが知れている。
 あらゆる荒事・危険地・異常時での報道実況が可能なよう鍛えてきた、ニュースキャスターの敵ではない。
 加えてこちらには9mm拳銃がある。適当にいなしたあと胸にでも撃ち込んでやればそれで終い。
 そう軽く考えていたし、実際戦闘開始から五分後には一射目を撃ち込むことができた。

 だが、その銃弾は何者かに掻き消された。

「I have a pen...(私はこの勝負の行く末を握っています)」

 ニュースキャスターはちらと横目で見る。ヘビ娘を使役して高みの見物を決め込むピコ太郎を。
 確証はないが、報道者としての勘が告げている。
 おそらくは、彼、ピコ太郎こそが銃弾を消した犯人だ。

 彼がその両手でリンゴとペンを合体させるとき――それはその実、リンゴとペンの合成ではないのだ。
 概念と概念の合成。あらゆるもの、神羅の万物を、ピコ太郎は歌に載せて合成させることができる。
 生命と死の合成。=死んだ生命。
 人間と蛇の合成。=蛇の人間。
 銃弾と空気の合成。=空気の銃弾。
 つまりはそういうことだ。

「ご主人様、お待たせして申し訳ありません! 今、いま、殺しますから!」
「I have an apple...(熟した果実は私の手の内です)」
「……ぐぅう!!」

 ほら、今も感じた。その場の全てを握られているかのような圧迫感。
 直接相対した際の、この求心力。影響力。掌握力。想像以上だ。そりゃあyoutubeで異次元の再生回数を誇るわけである。
 握られたままではだめだ。
 ニュースキャスターはその瞬間、たとえ有利な体制を取れていても、その場から飛び退く必要に駆られる。
 次の「合成」は直ぐに来る。

「――――apple pen !(踊りなさい!)」

 傍目には何も起こらない。その場を爆風が覆うわけでも、エネルギー波が現れるわけでもない。
 ただ漠然とその空間に「死」が合成され、その空間が「終わる」。
 せっかく作り上げた粘土細工を、子供が両の手に持って、思い切りぶつけてぐちゃぐちゃにするような、単純暴力。
 抗いようのない現象。……その現象に気を取られていれば、再びニュースキャスターの眼前に少女(ダンサー)が躍り出る。

 一切の躊躇なく叩き込まれる蛇の拳。
 一文で矛盾するそのふざけきった概念を、ニュースキャスターは苦しい体制で相手取る。無理やりいなすも、また体に傷を作る。
 少女は「合成」を回避できるようだ。
 それがピコ太郎に作られた存在だからなのか、自身の動物感覚で感じ取っているのかは、この際あまり問題ではない。

 状況判断、勝目薄。
 日本人の処理のこれ以上の継続は、自己死亡リスクを跳ね上げるという試算を算出。
 であればニュースキャスターが、ニュースキャスターとしてとるべき行動は、一つだ。

「報道者として、少し前に出すぎましたかね……?」
「あら、弱音を吐くのですか?」
「事実を述べただけです。ですので、ここは。後ろに下がらせて頂きましょう――」

 「合成」の直後のタイミングを、ニュースキャスターは狙っていた。
 そう、「合成」にも欠点がないわけではない。歌のリズムに乗せて行われるため、瞬時の連発には不向きと考えられる。
 ピコ太郎もまた、状況をコントロールしながらこの死亡戯曲を組み立てているはず。
 だからニュースキャスターは、ここで、一つ音を外す。

 パン!
 
 空間座標の小さな一点から複数人が拍手をするかのような音がはじけて。 
 ニュースキャスターは9mm拳銃を、闖入者に向けて撃ち鳴らした。

「私は日本人に死亡していただければ勝利はいらないので」

 闖入者――『うーた』と呼ばれた男の、腹部に向けて。


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 恋に落ちることをよく「赤い花が咲いた」とか「赤い実がはじけた」なんて言うらしいが、俺のお腹は銃弾に恋をしたらしい。
 ばかやろうが、俺のお腹め、お前にはパスタがいるだろうが、浮気すんじゃねえ。
 恨み節を叩く言葉も声には出なかった。叫んだ覚えもないのに声が枯れている。
 ぞく、と背筋が凍り、次いで真っ赤な痛みが視界に広がった。
 自分が世界から外れたような感覚と、ツンと鼻をつく嫌な臭いにくらくらする。五感が混乱しているのだ。

「うーた! うーた!!」
「ばかやろ、う……」

 耳だけがしっかりとお前の声を聴いていた。ちかちかする視界の中で俺はお前に憎まれ口をたたく。
 だってまだ銃を持った女がいるんだ、なんで俺のところに、うれしいけどちがうだろ。
 そんなことしたらお前まで撃たれるんだろうが。
 だから俺はひやひやしたが、体温が下がる中、ニュースキャスター女の追撃の音は、そこからしばらく、しなかった――逃げたのか。
 ――ああ、そうかよ。
 そういう――ことかよ。
 頭を狙えたのに、あえて腹にしたのかもしれないと、俺はそのとき思った。
 ずたぼろのあの女もまた、逃げる口実を探していたのだろう。
 俺を一撃で仕留めることをしなかったのは、きっとそれだ。
 俺を彼女にとっての「重石」にすることで、逃げる展開を作り出したのだ。
 野球でいえば四番打者にデッドボールか? いや、まちがっても俺が、四番打者なわけはないが。
 ともかく、おそらくはわずか一瞬の会話で俺と彼女の仲を見抜いた狡猾なニュースキャスターの手によって、状況は最低の最悪に追い込まれたのだ。

「うーた! ご主人様! うーたが!? うーたが死んじゃう!」
「……ち、くしょう……」

 そう、最低の最悪だ。
 元より最低だったのがさらに最悪になった。
 彼女は、ユミは、何故だかヘビみたいな感じになってしまっている上に、近くにいるおっさんをご主人様と呼ぶようになってしまっている。
 すでに野球少年との不思議なひと時を過ごした俺だから、今更理解を拒否することはしねえ。
 まあ何かがあったんだろう、何かがあって、俺の彼女はあのおっさんに従属させられてしまったのだろう。
 そこまではまあ納得してやろう。
 百歩、いや千歩譲って納得してやろう。
 だけどな。
 だけどなあ――納得しても、是にはしねえぞ!?

「て、め、え!」

 俺は吠えた。

「俺の女に! 何しやがった!!!!」
「……you have a pen(あなたはその男を救う方法を知っています)」
「……ご主人様?」

 おっさんは俺の言葉を無視して、ユミに語り掛けた。

「……you have a pineapple(あなたはその刺激的な味をすでに味わっています)」
「……!!」

 ユミはおっさんの英語?の言葉に何を感じ取ったのか、はっとしたように、蛇の舌をちろちろさせた。
 そしてなにやら悲壮な表情でこちらを見て、俺に向かってにっこりと笑いかける。

「うーた……大丈夫だよ、助かるから。ご主人様が、助けてくれるから」
「やめ、ろ、ユミ……そんな奴の言うことを、聞くな……」
「大丈夫だから。ずっといっしょだから」

 ユミは俺に覆い被さるようにして、

「ご主人様が、わたしたちをずっといっしょにしてくれるの」

 ぎゅっとぎゅっと強く、俺を抱きしめる。
 俺の腹部から流れる血がユミの服を紅に染める。俺の体温は下降の一途をたどっていて、だからユミが抱きしめてくれて温かかった。
 だがそれは少しだけ、ヘビの体表のようにぬめぬめとしている。俺はそれが許せないから素直には喜べない。
 「ずっと一緒だから」
 俺もそれは願ってる。だが、誰かの思い通りにそうされることは、俺は望んでないんだ。
 そんなのは政略結婚と変わらねえだろうが。
 俺たちだけでやらないと意味ねえじゃねえか。
 そんなのは本当は、お前も望んじゃいないはずだ。
 ノーを突きつけたい。そして立ち上がり、おっさんを殴って、歪められた大切なものを元に戻さなければいけない。なのに体に力が入らない。

 反省点ばかりだ。
 ユミの異様な姿に、一瞬固まってしまった。
 その場で、何もできなかった。立ち尽くすだけの俺は、あまりに簡単に撃たれてしまった。
 もう一声でもかけていれば、一歩でも動いていれば、俺にだって何かできたかもしれないのに。
 このまま俺たちはそれが宿命であるかのように、知らないおっさんの思い通りにされてしまうのか?
 このまま、何もできないまま……。
 後悔、するような、結末を迎えるのか。
 「後悔しないように行け」と、あんなにかっこいいヒーローに言われたのに?
 
「――――pineapp「ざけんなああああああああああああああああああああああッ!!!!!」

 そんなことは、させねえ。俺は、バッターボックスに立ち続ける。
 命を燃やすほどの大声で俺は叫んだ。
 九回裏ツーアウトから放たれたその一打はおっさんの歌を「中断させる」。

「うーた!?」
「バッカ野郎が! んなことされなくてもな、俺たちはずっと一緒なんだよ!」
「で、でも、怪我が!」
「うるせえ!」

 立ち上がる。腹に空いた穴から血がどばっと落ちるが気にしていられない。
 なあに手足は付いてんだ、体が動かないなんてのは結局のところ気合の問題だ。
 俺はユミを……きっと今の俺よりはずっと動けるだろう、蛇の彼女を、それでも手で後ろに隠して前に出る。
 これは意地だ。
 理解されようとは思わない、男の意地の張り方だ。

「惚れた女より先に死ねるかよ」

 俺はファイティング・ポーズを取った。


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 ピコ太郎は――がっかりした。
 せっかく願い通りに合わせてあげようとしたのに、男のほうがそれを拒否したので、がっかりした。
 あのまま合わせておけば、ぬるま湯のように幸せなまま、もう少しは生きながらえることができただろうに。
 しあわせの歌を拒否した愚か者は、遠くないうちに死ぬだろう。本当に、がっかりだ。

 ピコ太郎の「PPAP」の力はおおむね、ニュースキャスターの推測通りである。
 右手に掴んだ概念と左手に掴んだ概念を、「合体」させる。ただし、必ずしも物理的な手を使う必要はない。
 イメージ上の右手と左手でも、概念の合体は可能だ。もちろんその場合は、「調整」の精度が落ちるというデメリットはある。
 ニュースキャスターが読み取れなかったのは、PPAPは融合時に「要素の調整」ができるという点である。

 例えばこの蛇少女を「合体」したとき。
 蛇と少女は、外敵(フリーザ)を倒したピコ太郎に感謝をしていた。
 手で掴んで合体させたとき、ピコ太郎はその「感謝」の配分を大きくした。するとどうなるか。
 蛇の感謝と少女の感謝、二つの感謝が、強調された状態で融合すると――それは「崇拝」にも似た絶対的な感情へと発展するのである。
 崇拝でほとんどが占められた蛇少女はそれが自然な感情であると誤解したままピコ太郎に奉仕する。
 そうして有用なしもべを作ることが、あのときのピコ太郎の狙いだったのだ。

 ピコ太郎には野望がある。
 この「PPAP」の能力をもってして、全人類を「一つに繋ぐ」という野望がある。
 youtubeを利用したプロモーションにより、彼の野望をサブリミナル的に人類に浸透させる第一段階はすでに叶った。
 シン・ゴジラでさえも打ち滅ぼせるプロップスも得た。もはや計画の成就は秒読みだった。
 だのにこんな場所で殺し合いをさせられる。ありえない。
 優勝以外にありえない。

「……I have a pen,(未だ、この劇場は私が支配しています)」

 事実を唄に載せてつぶやく。ピコ太郎の目の先に見えるのは、手負いの鼠と困惑の猫。対するこちらは虎である。ウエイトが違う。

「……I have an apple.(君たちの宿命を私が決めてあげましょう)」

 片手に「死」を握る。
 もう片手には「男」を握る。
 蛇少女には、まだまだ働いて貰わないといけない。邪魔な男は、ピコ太郎の世界から消えてもらう。

「――――apple pen !(それは、死です!)」

 手を交差させ、二つの概念を「合体」させる。
 ふらつきながらこちらを睨む愚かな男に、歌の速度で迫る概念上の手を避けられる道理は存在しない。
 終わりである。ピコ太郎はそれを確信し、つまらなさげに目線を逸らした。

 その目線を横切るようにして、何かが「死」と「男」の間に挟まった。
 「死」はその乱入者と「合成」される。
 されるはず、だった。

「I'm a(俺は)」

 その男は。

「perfect human(完璧だ)」
 
 ――「すでに完璧」であるがゆえに、外部からの合成を受け付けない。

「……」「……誰?」
 
 血を流す男が彼を見る。蛇の少女が彼を見る。
 ピコ太郎という名の大魔王が彼を見る。彼は自然と注目を浴びて、高貴な言葉を申し上げる。

「歴史を覆しに来たぞ、ピコ太郎!!」


【4-名/白/一日目/15時】
 
【I@PPAP(ピコ太郎)】
【容姿】ピコ太郎
【出典媒体】PV
【状態】健康
【装備】ペン@PPAP
【道具】支給品一式
【思考】優勝する。
【備考】

【家庭的なガラガラへび彼女@純恋歌がやってくる(湘南とん風ねるず)】
【容姿】蛇と彼女のマッシュアップ
【出典媒体】歌詞
【状態】健康
【装備】不明
【道具】支給品一式
【思考】ピコ太郎様についていく。
【備考】
0:うーた!?
1:ピコ太郎様をお守りする。
※二つの歌がマッシュアップされました。

【nakata@PERFECT HUMAN (RADIO FISH)】
【容姿】I’m a perfect human
【出典媒体】I’m a perfect human
【状態】健康
【装備】
【道具】支給品一式
【思考】ピコ太郎を殺し、自分がI’m a perfect humanであることを証明する。
【備考】

【家庭的な女がタイプな俺@純恋歌(湘南乃風)】
【容姿】星空柄のインナーシャツを着た青年
【出典媒体】歌詞
【状態】腹部に銃創、瀕死
【装備】
【道具】支給品一式
【思考】なんというか、その……すごかったな!?
【備考】
※家庭的な彼女(パスタがおいしい)が心配。


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 草原をとぼとぼと歩く。思った以上に足取りがおぼつかない。
 これはしばらく休息が必要だな、と、ニュースキャスターは冷静に思考する。
 逃げの一手に後悔はない。報道とは伝え続けることであり、伝えられなくなることが敗北なのである。
 こうして生きているという時点で、ニュースキャスターの勝ちなのだ。
 もちろん、試合を諦めはしない。
 この惨憺たる催しに「日本人はいませんでした」という言葉を上書きするために、命果てるまでニュースキャスターは真実を捏造する。
 そう報道されることで喜ぶであろうすべての日本人のために。彼女は彼女の正義を貫き続けるのだ。

「……それにしても……先ほどは、危ない局面でした。
 銃を持っている優位を、驕りすぎていましたね。もっと距離を取って立ち回れば、やりようはあったかもしれません。
 だから……あのとき……」

 後悔はないが反省はする。
 ニュースキャスターの脳内では先ほどの戦いがまるで録画映像のようにフラッシュバックしていて、
 ニュースキャスターはそれに対して「もっと良い手はなかったか」という検討を重ねている。

「そう、あそこで……もう2ミリ、左に寄っていれば、この傷は受けなかったし……」

 伝え漏れはないか。もっと掘り下げられないか。もっと印象付けられないのか。
 常にさらなる最善を探し続けるその姿勢こそが、報道者としての姿勢であると彼女は信じている。
 局に居たときは、寝る間も惜しんで自分の関わったビデオを見直しては、今と同じようなことをしていた。
 そうすることで小さな問題点を洗い出し、次の収録に生かすのである。

「もっと切り上げるのを早くしていれば、……いや、そもそも、逃げることができたのが、奇跡といえば奇跡ですか。
 ピコ太郎氏が、逃げ出す私に対して少しでも動いていれば、私は今ここを歩くことすら許されていない……。
 そういえば、なぜピコ太郎氏は、私に追撃を加えなかったのか? それは、考えねば、ならないでしょうね……。
 もちろん、戦闘中、間接的な……ちょっかいのような手出ししかして来ず、あまり動かなかったことから、私も追撃はないと推測しましたが、
 別に、逃げを取った私を追い打っても、いい……場面でした……なのになぜ……あ……まさ、か?」

 と――そのシークエンスの最中。
 ニュースキャスターの中のニュースキャスター、とびぬけて聡明な彼女は、ある可能性に気づいてしまう。

「……蛇――の、少女」

 げほ。と。
 小さくせき込んだ。
 ニュースキャスターは思わず手のひらに吐き出した。

 それは、深い赤に濁った彼女の血液だった。

「ああ」

 推測は……確信に変わった。

「ふふ……そういうことですか……ははは! これは、一本、取られ、ましたね……」
「……うえええん……」
「おや」

 ニュースキャスターは前を向く。
 そこには、どこかで見たことのあるような、泣き腫らした顔の小さな少女がいた。
 どこから水分を得ているのか、枯れずに泣き続けている。
 何か悲しいことがあったかのように、泣き続けている。

「……うえええん……うえええええん!!」
「ああ――思い出しました。最初のあのとき、取り逃がした……何かを得て戻ってきましたか」
「うええええん……!」
「努力する子は、好きですよ……ええ……」

 口の端を舐めて、ニュースキャスターは銃を構える。

「うえええええええん……」
「ほら、何があったか知りませんが、泣いてる場合じゃない……んじゃないですか?
 復讐の、相手が目の前にいる、クライマックスでしょう? なのにそんな顔じゃあ……撮れ高がないですよ」

 ニュースキャスターは毒づきながらも気丈にふるまった。
 でなければ、向こうもやりづらいだろうから。

「日本人は、皆殺しです」
「うえええええ……ん」

 その体に毒を抱えながら、彼女の決算が始まった。


【3-名/白/一日目/15時】

【涙化粧の女の子@JAM(THE YELLOW MONKEY)】
【容姿】夏川りみ(幼少時代)
【出典媒体】歌詞
【状態】悲しみの涙
【装備】なし
【道具】基本支給品
【思考】ニュースキャスターに弔い合戦を挑む
【備考】ぅえっ
※涙が枯れません。※涙拳を習得しました。

【嬉しそうに「乗客に日本人はいませんでした」「いませんでした」「いませんでした」って言ったニュースキャスター@JAM(THE YELLOW MONKEY)】
【容姿】金井憧れアナ
【出典媒体】歌詞
【状態】蛇の毒
【装備】9mm拳銃
【道具】基本支給品
【思考】日本人を殺す。
【備考】


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「ああ……弟子は逃げたかな?」

 男は雲一つない空を仰ぎ、遠ざかって消えた足音に安堵した。
 涙の数だけ強くなれるその男は……せっかくの綺麗な青空を見ることも叶わない状態であった。
 両目はつぶされており、両足も埒外の方向に曲げられており、折れた肋骨が内臓に突き刺さり、呼吸のたびに激痛が走っていた。
 だが、それはイコール、男が制圧されるだけの弱者であったことを意味しない。
 男は、よく戦った。
 実に二時間もの間、相対する化け物の攻撃を耐えしのぎ、かわいい弟子をその脅威から逃がすことにも成功した。
 それが、とてつもない快挙であることは、だれもが保証しよう。

 それでもだからと言って、褒美が与えられるわけではない。
 生き延びさせてもらえるわけもなければ、最後の言葉をつぶやく時間も与えられるわけもない。
 敗北したものに、この世界は残酷なまでに厳しい。

「泣いてばっかりの悪い子には――めっ♪♪」

 ――血の涙を流す彼の顔面を、ママのおみ足が、踏みつぶす。
 潰されたスイカがピンク色を辺りにまき散らして、それで終わりだった。

【涙の数だけ強くなれる君@tomorrow(岡本真夜) 死亡】

「結局、あんまりいいシャワー浴びれなかったわ……子供も一人、見失っちゃったし……ママ失格かしら♪」

 生命で無くなった物体に興味を失ったママは、変顔をしながらその場で地団駄する。

「もっともっとみんなを守ってあげないと――あら♪」

 ふざけた踊りを踊っているようにしか見えないその動作の最中も辺りに気を配ることを忘れていない。
 新たな気配を感じたママは、直ぐに振り向いた。

「お次はだ〜〜〜……れ」

 そして、硬直した。
 そこに立っていたのは、トイレットペーパーを顔に巻き付けた男だったから。
 ママが、忘れるはずのない、存在だったから。

「――慎吾」
「……ひろちゃん」

 こっぱずかしいあだ名で呼び合う。
 向かい合い、互いに互いを感じ取る二人を。
 上空でアゲハ蝶が渦を巻きながら、眺めているのだった。

「一つの旅の終着点。此方、しかと導かせてもらいますよ」


【4-夏/白/一日目/15時】
 
【慎吾ママ@慎吾ママのおはロック(慎吾ママ)】
【容姿】慎吾ママ
【出典媒体】歌詞
【状態】血まみれ
【装備】モーニングスター
【道具】基本支給品、マヨの容器(空)
【思考】子供たちを殺し合いから守る、マヨをチュッチュする。
【備考】……ひろちゃん。

【トイレットペーパーマン@トイレットペーパーマン(中居正広(SMAP))】
【容姿】トイレットペーパーを頭部に巻いて顔を隠した喪服の男
【出典媒体】歌詞
【状態】ボロボロ
【装備】トイレットペーパー、大量のケチャップ
【道具】支給品一式
【思考】――慎吾。
【備考】

【旅人@アゲハ蝶】
【容姿】アゲハ蝶
【出典媒体】歌詞
【状態】健康
【装備】アゲハ蝶@アゲハ蝶
【道具】支給品一式
【思考】
1:トイレットペーパーマンの旅を見守る。
2:すいみん不足少女の旅を見守る。
【備考】
※アゲハ蝶を操れます。

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