ネクスト・ロマンス◆CDIQhFfRUg

 
「尋問って、したことある?」
「無いな。されたことならある」
「辛い人生だったのね」
「ちょっと警察でな」
「清くない人生だったのね……じゃあ、やってみるわね」

 と、そっけなく言うと、黒髪ショートの少女は割れてするどく尖ったナイフを器用に扱い、
 木に縛り付けられている男女の眼前に、昼真っ盛りの太陽の光をちかちかと反射させた。
 ちか、ちか。それは警告。
 明滅する刃物を使って、「いまからこれを使って危険な行為をします」ということを対象に教える。
 
「と言っても、わたしも経験は無いの。だけど、上手くできるよう頑張るから」
「や、やめ…(英語)」
「痛くても泣き叫ぶのは我慢してね? うるさいなって思ったら、わたし加減を忘れちゃうかもしれないわ」
「待て、止めろ、そもそも尋問されても俺たち(英語)」
「えい」

 ぶすり、指と爪の間に突き立てる。
 癒着している隙間が無理やりこじあけられ、初めての血が滲んだ。
 未体験の感覚に悲鳴が上がった。
 少女は恐怖を植え付けるために愉快そうに笑って、さらにぐりぐりと押し進めた。
 わたし(M)がそんな調子でテキパキと捕縛者に尋問という名の拷問を加えるのを、愛してるの響きだけで強くなれる僕は、支給されたタバコをくゆらせながら眺めた。

「知ってるかしら?」
「わ、ワッツ……?」
「知ってる?」
「ワッ……ギャー!」
「聞き返すのはダメ。質問への答え以外の一切の発言は、痛みの原因になると思ってね」

 そうまでして何を聞いているかといえば、生存者の情報である。
 先ほど、放送があった。
 死亡者の数にも驚いたが、生存者の少なさにはもっと驚いた。二十数名。この広い島の中には、もうそれだけしか生きてはいないのだという。
 愛しているの響きだけで強くなれる僕にとってはうれしいニュースがあった。
 死んでも会いたいと思っていた、女。いつかまた巡り合いたい君の名前が「生存者側」で呼ばれたのだ。
 ※逆に、わたしが会いたいと願っていたあなたは、「死者側」でも「生存者側」でも呼ばれなかったという。
  まあ、どちらのほうが良い結果かと言われると、若干答えに詰まる。
  会いたい人間が会場内にいるということは、会えないうちに死んでしまう危険性を孕んでいるからだ。

「わたしたちに会うまでに、死んだガリレオ以外に、誰かに会った?」

 ともかく、人数が絞られてきた現状で生き残る/目的を達成するためには、情報が何より必要である。
 そういうわけで彼と彼女は、放送のどさくさに紛れて、ふんじばることに成功した襲撃者たち――俺のために生まれたお前、お前のために作られた俺の二人に、早急に尋問をする必要性に駆られた。
 つまり、他の参加者に会ったかどうか。また、誰でもいいから、他の参加者の情報を知っているかどうか。
 知っていれば、もうけもの。
 知らないとしても、知らなかった、という情報が、判断材料の一つとして手に入る。
 やらない手はない。

「名前は知ってる? 姿を見たことは? 匂いを嗅いだことは? 味わってみたことは? あるいは、音を聞いた? 気配があったという感覚はなかった?」
「ノ、ノォ……ノォーオ」
「もう。要領得ないこと言わないで」
「ノォーッ」
「なあ、お嬢ちゃん」
「ノッ、ノォーッ」
「何? ええと……なんて呼べばいいかしら、」
「チェリーでいい。お嬢ちゃん、」
「ぷくすぷ」
「おい笑うな」
「だって、チェリーって似合わないわ! いくら何でも、その顔と体でさくらんぼって……!!」
「ワッギャァアアアアウ!!」

 悲鳴。

「あ、刺しちゃった」
 
 淡々と尋問を遂行していたわたし(M)だったが、不意に笑筋を刺激されたはずみで尋問相手を刺してしまった。
 見おろすと、縛った男女の男のほうの右眼球が、ガラスで突き開かれており、男は目もそうだが内部をやられたのか、鼻から血を流していた。
 隣の女はそれを見てショックを受けたらしく、何も言わずに泡を吹いていた。
 というか男は刺されてないほうの目もぐるんと白に剥いていて、
 専門家が見なくても、今の一撃が、非常にまずいところを抉ってしまったのは間違いなさそうだ。
 あちゃー。という顔でわたし(M)がチェリーの方を観ると、なおさらばつが悪そうにチェリーが言った。

「でな。思ったんだが」
「はい」
「そもそもこいつら英語しか喋らないっぽいから、何聞いても無駄なんじゃないかって」
「あ」



「ねえ。恋って、すごいですよね」

 二人の死体を木の根元に並べ終えると、やりとりで気がほぐれたのか若干くだけた話し方になった少女が、チェリーにそんなことを言った。

「わたし、いくらあの人にもう一度会いたいからって、人をこんなに迷いなく殺せるなんて思ってませんでした。
 いま、ケガしてるはずなのに、血もまだ滲んでるのに、全然痛くない。
 焦がれて、焦がれて、焦がれてるだけなのに。何でもできちゃうんです。
 意味なんてないかもしれないのに、相手が自分のことをもう想ってないかもしれないのに、こうして、愛し合ってる人たちすら倒せるくらいに」
「そうだな」

 チェリーとしても、同意しかない。
 たった今葬り去ったこの男女コンビは、確かに息の合った、愛し合っていなければできないコンビネーションでこちらを苦しませてきた。
 対してこちらは、それぞれが全く別の想い人のために動く即席コンビ――想いのベクトルだけが同じ、ばらばらのテンポの唄のはずだ。
 それでも、結果としてこちらが生き残った。
 それを、ただの力量差、あるいは偶然や運の問題と片付けることもできるが、チェリーは実感として、「想いの強さの差」があると感じていた。

「恋は愛より強いんだよ。殺し合いに限ってはな」
「えっ?」
「恋は、何かを手に入れようとするエネルギー。愛は、何かを守ろうとするためのエネルギーだ。 
 日常生活じゃこの差が何かの優劣になることなんざないが、こと殺し合いの場だと、それが生をつかみ取る力に直結するのさ」

 拳をチェリーは強く握った。

「お嬢ちゃん。宣言しておくが、俺はいつかまた巡り会いたい君に巡り合ったら、その場で君を殺しにかかるぜ」

 それは、嘘偽りない本心からの言葉だった。

「お嬢ちゃんとは、巡り会うまでの、ビジネス(共犯)の関係でしかない。望みが叶ったらポイだ。
 ま、お嬢ちゃんのその芯の太えとこはなかなか気に入ったと言えば気にいったが――そこんとこ、恨みっこなしでいこうや」
「当たり前です」

 対して、少女もまた一ミリも視線をずらさずにはきはきと語った。

「わたしがあなたを殺してないのは、わたしにとってあなたと共闘する状態が、生き残るうえで有益だからにすぎないですもの。
 そのときが来たら、まあせいぜい、愛する人に触れる前に死なないよう祈ってくださいね」
「それでこそだ」
「あ、そうだ。――プリンセス」
「?」
「あなただけふざけた名前を名乗るのも、なんだか平等ではない気がするので。わたしのことは、プリンセスと呼んでください」
「がっは」

 真顔でそんなことを言い出したプリンセスがあまりにおかしくて、チェリーが噴き出す。

「プリンセス。プリンセスか。さっきまでクソみてえな拷問してたやつが自分を殺し合いの姫と。傑作じゃねえか」
「芸術点10点でしょう?」
「お笑いなら優勝狙えるぜ」
「狙うのは殺し合いの優勝だけです」

 そこまで言い切ると、プリンセスはおもむろに歩き出した。
 チェリーも察して後に続く。そう。この二人にとって、くだらない雑談で時間をつぶすことは本意ではない。
 どこまでもクレバーにいかなければならない。軽口をたたき合うにしても、移動しながらだ。

 チェリーは、いいパートナーを見つけた、と、改めて感じた。
 自分がやろうとしていることがどれだけ愚かな行為かということくらい、とうの昔に分かっていた。
 それでも恋が止められない。それだけは間違いがなかった。
 ならば求めるべきは、同じように恋に狂って、同じように恋に溺れて、互いの罪をとがめ合わず、
 なおかつ、最期まで罪を意識し続けることができるような。そんな関係だった。

「アドレナリン切らすなよプリンセス。ここからノンストップでいくからな」
「チェリーさんこそ、バテたりしないでくださいね。わたしの物語に、どんくさい相棒はいらないですから」

 別々の方向をまっすぐ見ながら、恋に生きる二人の殺人者は同じ道を歩いていく。
 求めるロマンスをつかみ取るために。


【1-秋/白/一日目/13時】

【わたし@M(プリンセスプリンセス)】
【容姿】女性、18歳、髪型はショート
【出典媒体】上記妄想(探しても媒体が見つかりませんでした)
【状態】あなたを忘れる(くらいなら誰かを殺す)勇気
【装備】割れたハート型のナイフ
【道具】支給品一式
【思考】あなたともう一度会うために、全ての星(参加者)を森(冥府)へ返す。
【備考】
※正しくは「わたし」では無く「私」です。書き終えた後に気付きました。
※でもそのまま行きます。

【愛してるの響きだけで強くなれる僕@チェリー(スピッツ)】
【容姿】男性、ムキムキ、修羅
【出典媒体】歌詞
【状態】殺気
【装備】なし(身一つで戦えるので)
【道具】支給品一式
【思考】いつかまたこの場所で君と巡り合いたい
【備考】

【お前のために作られた俺@BORN TO BE MY BABY(BON JOVI) 死亡】
【俺のために生まれたお前@BORN TO BE MY BABY(BON JOVI) 死亡】

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