Opening ◆WWE.71/5so

 町中を楽しそうに闊歩する者がいた。
 草原を駆ける者がいた。
 海で優雅に泳ぐ男がいた。
 山に苦労して登る女がいた。
 愛する者を助けた少年がいた。
 恋を夢見た少女がいた。
 力をつけるために稽古する戦士がいた。
 戦いに負けぬために鍛錬を欠かせない闘士がいた。
 妻と娘がいる夫がいた。
 騎士を愛した魔女がいた。
 世界を支配しようとする傑物がいた。
 地球すべての記憶を持つ地球人がいた。
 
 いた、いた、いた。
 まだまだ沢山の人間が、いた。
 
 主人公がいた。
 ヒーローがいた。
 ヒロインがいた。
 相棒がいた。
 ライバルがいた。
 仇敵がいた。
 死人がいた。
 犯罪者がいた。
 ロボットがいた。
 妖精がいた。
 化物がいた。
 勇者がいた。
 戦士がいた。
 横綱がいた。
 芸人がいた。

 いた、いた、いた。
 大勢のドラマある者が、いた。

 ありとあらゆる人間、有象無象の生命が、至る所にいた。
 宇宙に、地球に、世界に、自国に、都市に、街に、地域に、空間に、いた。
 いや、いたはずだった。

 だが、彼らは、彼女らは、突如としてそこから消え去ってしまった。



 立ってるだけで全てを支配する者が、いる。



☆ ☆ ☆

「みなさん、お元気ですか!? 早速ですが皆様には殺し合いをしていただきます!」
 
 瞬きをした時、あるいは無意識になってしまった時、既にここにいた。
 何が起きているのだろうか? 
 なぜこのような屋外ステージにいるのだ?
 考えさせる暇もなくスピーカーから声が漏れる。

「おいおい…… どこだよ! ここは!」

 誰かが周囲にいる全てに聞こえるように怒鳴る。
 そうだ、本当にそうだ。ここはなんだ、どうなってるんだ。
 それを皮切りに会場内は騒々しくなる。
 
「はーい! 注目! 正面のステージを僕を見てほしいんだけど、嫌な人はお空を見てください!」

 またもやスピーカーから誰かが喋り語りかける。
 とりあえずステージの方とやらを見た人はその人物を確認する。
 恐らく男性だろうか、ストライプが入ったグレーのスーツを着ている、それだけならば普通である。
 が、違う。それよりも上部、即ち頭部が異常であった。
 仮面、異様で禍々しく不気味な仮面を被っていたのだ。
 それだけで立っているだけなのに男からは棘々しい雰囲気を漂わせていた。
 
 しかしながらその男性を見た人間よりも空を見上げた人間の方が、更に驚き恐怖させた。
 
 月だ。いや、月では無いと言いたいのだが、これは月と形容しなければなんと言えばいいのだろうか。
 その月は顔があった、目は地球を威嚇し監視しているようにギラついている。
 口はまるで大地を今すぐ食い散らかしてしまいたいと思わせるように、歯を見せ大きく開けている。
 そして表情は、ただただ醜く恐ろしいものであった。

「はい! 見上げましたか? 見てくれましたか? この月は3日後にはこの地に降ってきますので、それまでには決着をつけてください!」
 
 降ってくる、誰もそんな馬鹿なとは言わない。
 それが真実ではなかったとしても。

「と言うことで殺し合いのルールは簡単です、最後の一人になるまで殺し合ってください、ちなみに優勝賞品はあります。
それでですね、これからもうちょっとしたらまた別の所に移動されます。
その時あなた達を助けてくれる鞄が肩とか手とか足元とかに出現していると思いますので、それを使ってください。
中には水や食料、名簿、地図とか、この殺し合いを生き残るための非常に大切な物も入ってますので、きちんと開けるように。
で、期限は3日間です。それまでには終わってるとは思うんですが、まあこちらも暇じゃないので……
それから6時間に一回死んだ人の発表と立ち入り禁止区域の発表があります。
まあこの辺は実際6時間後にもう一度説明します。あとルール表も鞄に入ってるので、聞き漏らしたことはそこで確認してくれると助かります」

 ふうと仮面の男は息を吐き、仮面をずらして袖で額の汗を拭う。
 それは一仕事終わったような、そんな動作だ。

「ようするに、最後の一人になるまであなた達は殺し合う!
おまけに優勝した人に商品として『なんでも願いが叶う権利』をあげちゃう! それはもうなんでも! お金でも奇跡でもなんでも! なんでも出来ちゃう!
ってことです。それではもう少しだけ時間があるので私の身の上話でも……、あ、そうだ」
 
 要約を言い終えたであろう仮面の男が何かを思い出したようにこう付け足した。
「一つ言い忘れたことがありました。この殺し合い企画に楯突こうとする人は……、こうなります。上を見てください」

 状況を嫌にでも理解しようとしている者、既に察して理解している者、誰彼も皆上空を見上げる。
 すると月の眼から大地に向かって涙が零れ出る。

「隕石だ! 逃げろ!」

 仮面以外の誰かが叫んだ、同時に会場は騒然となる。

「だいたい降ってくるまでに30秒から1分くらいの猶予があります、が、無作為ではありません。
あの隕石、月の涙は個人を標的にしているので大丈夫です、後々制定される禁止エリアもこれと同じですね」

 そうは言っているもの落ち着けるわけがない。
 当然ながら参加者は敷地内を右往左往し緊張が悲鳴を上げる者も少なからずいたものの、
 逆に動かず堂々としていた人間の方が多かった。
 仮面の男はそんな堂々たる参加者達に少しだけ感心したようにほうと声を漏らす。
 あの中には隕石を打ち壊せる自信がある者が多いのかもしれない。
 だがしかし。

「……えっ?」

 しかし、どうやら今回の標的はただ動けなかっただけの人間らしい。

 不幸にも瞬きは増えていたが、慌てずその場でどっしりと構えていた男に向かって隕石は近づいていく。
 くわっと顔の穴という穴を開き次に起きる出来事を予期し叫ぶ。

「アーッ、クソッ!」

 激突を前に本能的に奇声を発する。
 それが結果的には彼──稀勢の里──の最後の言葉となった。

 隕石、月の石が稀勢の里の頭部へ直撃する。
 首から上は弾け飛び、残った体から大量の血飛沫が舞う
 幸いのことに彼の周囲の人間に返り血がつくこともなかった。

「いやあ~、まるで噴水みたいですねえ!」
 仮面の男の嘲笑いがマイクを通して会場中に響き渡る。
「と、このように私達に楯突いたりした場合はこうなりますので、気をつけてくださいね?」
 その言葉にはそんな愚か者なんていないですよねと言う意味も含んでいるであろう。
 あまりにも衝撃的過ぎた出来事に、この場の人間は誰一人として声を上げられなかった。
 騒ぐことさえも許されぬ、そんな空気になっていた。

 だが、一人だけ首がなくなった死体に近づいた者がいた。
 素早く人垣をかき分け、その死体を見下ろし、双眸を閉じ手を合わせた。
 こんな状況でも、稀勢の里の死を悼む者がいたのだ。
 異様であるが、そんな姿をみて冷静になる者もいた、また馬鹿にしたように鼻で笑うような輩もいた。
 そうして幾秒かたった後、顔を上げ目を開け、悼んだ者──横綱日馬富士公平──はステージの仮面の男を睨みつけ、口を開く。
「あいつは……、稀勢の里は、不器用でだらしのない所もあったが、それでも熱くてカッコいい男だっだよ」
 悔しさ、悲しさ、怒り、あらゆる感情が混ざりながら日馬富士は言葉を続けた。
「あんたが何をしたいのかはわからない、だが一つだけ言っておくよ」

 舐めるなよ

「僕だけじゃない、全員だ。お前に腹を立てている奴みんなを、舐めるなよ」

 日馬富士は臆せず仮面の男に凄みを利かす、その威厳溢れる啖呵は人を殺すことができるだろうように鋭い、流石は横綱。
 だが気にせず仮面の男は肩を震わせながら笑って答えてみせる。
 立って笑っているだけなのに、こちらの貫禄も勝るとも劣らない。

「ええ、楽しみにしてます! 是非とも頑張ってください! それでは間もなく6時になりますので、ここで改めて殺し合いを開会したいと思います!
ここに来た時と同じ様に突然ワープしますが、もうリアクション芸人みたいなことはしないでくださいね?」

 朝日が東の地平線から顔を出す。どこかで鶏の鳴き声が聞こえると同時に仮面の男の目先にいた人間全てが消滅した。
 彼らは、彼女らは、不気味な月が支配しているこの戦場の方々に散ったのであろう。
 だが稀勢の里であったモノだけは、消えること無く朝日に晒されていた。

 GAME START

【稀勢の里寛@大相撲 死亡確認】
※死体はどこかにある野外ステージ付近に放置されています、が、主催陣営によって回収清掃される可能性が高いです。

開幕投下順001:WhiteStar
初登場!日馬富士公平
初登場!南原清隆さん
みせしめ稀勢の里寛死亡

どなたでも編集できます