創造論とインテリジェントデザインをめぐる米国を中心とする論争・情勢など

批判サイド>否定論・陰謀論を信じる理由

ThagardとFindlayの「進化を理解を妨げる心情的な障害」


米国人の多くが自然選択を理解できていない理由はいろいろ検討されてるが、Paul Thagard & Scott Findlay (2009)は、概念的・方法論的・一貫性的・心情的な障害を挙げている。

3 Emotional Obstacles

合理的には、人々は真実であってほしいものではなく、証拠に基づいて信条を形成することになる。しかし、人々は信条をゴールによって部分的に形成すること多くあるという事実、すなわち、心理学者が動機づけられた推論と呼ぶプロセス(Kunda 1990、1999)を無視するのは、考えが甘すぎるだろう。たとえば、人々は、起きてほしいことを理由に、宝くじに当選する可能性を過大評価したり、病気になる可能性を過小評価したりする。Thagard(2003,2006)は、そのような動機付けされた推論が、感情的一貫性のプロセスから生じる可能性を示した。その過程で、前述の説明的一貫性と感情的影響の組み合わせで信条が生じる。人々には、ゴールに合致した信条を受け入れ、ゴールと矛盾する信条を拒否する傾向がある。

ダーウィンの理論を認めるのに問題のある多くの人々にとって、ダーウィンの理論は、自分たちの既存の宗教的及び心理的信条と矛盾しているだけではなく、奥深い個人的動機の一部に反している。人々は、ただ自然選択による進化が間違っていると考えているではない。間違っていてほしいのだ。進化論が正しいと考えている人々であっても、間違っていてほしいと言う者もいるだろう(Brem et al. 2003)。

自然選択にる進化を受け入れることへの、感情的な障害を生み出す重要な動機を特定しよう。神が世界と人間の魂を創造したという、宗教的心理的見方には、魅力的な側面が多くある。第一に、その見方には、慈しみ深く全能の神という、キリスト教及び一部の宗教に見られる、慰めの世界像がある。多くの人々は、この世界像から、人生がもたらす多くの問題(失望、病気、死)が、慈しみ深い神の計画の一時的な面であるという、大いなる安らぎを得られる。第二に、この神の計画には、潜在的に、永遠の幸福が含まれる。そのことは、肉体の死の脅威に脅かされることのない不滅の魂の存在を必要とする。第三に、一生の間、人々は、進化による物理的及び生物学的力によって完全に制約されているわけではなく、むしろ自由意志に従って行動している。自由意志は、本当に選択を行ったという主観的経験によって支持されるだけでなく、我々と他者が責任あるエージェントだという、我々の好みの見方とも合致している。生物学及び心理学に対するダーウィンのアプローチに、人々が反感を覚える大きな理由は、それが人生を無意味で、精神性と倫理がなく、生きるに値しないものだと描写していることである。

したがって、生徒たちは、種の起源についての2つの対立する理論の認知的選択に直面しているのみならず、2つの対立する価値体系の感情的選択に直面しているかもしれない。一方は、「慣れ親しんでいる、安らぎのある宗教的世界像で、慈しみ深い神と魂の不滅と自由意志と倫理的責任と意味ある人生を含んでいる。」もう一方は、「人間は広大な宇宙のシミであり、自由と倫理と目的のない短い人生の後には、不可逆的死がある」という、陰鬱な科学的世界像である。したがって、「ダーウィンの理論の膨大な証拠を懐疑的に見て、創造論者やインテリジェントデザイン支持者の脆弱な議論に熱心に取り組みたい」と、生徒たちが動機づけられているのも、不思議なことではない。人生の意味をすべて失うようなダーウィンを受け入れたいと思う者がいるだろうか?(実際は必ずしもそうではない。以下の議論と、Thagard 2010参照)

Brem, S. K., Ranney, M., & Schindel, J. (2003). Perceived consequences of evolution: College students perceive negative personal and social impact in evolutionary theory. Science Education 87, 181–206.
Kunda, Z. (1990). The case for motivated inference. Psychological Bulletin, 108, 480–498.
Kunda, Z. (1999). Social cognition: Making sense of people. Cambridge, MA: MIT Press
Thagard, P. (2003). Why wasn’t O. J. convicted? Emotional coherence in legal inference. Cognition and Emotion, 17(36), 1–383.
Thagard, P. (2006). Hot thought: Mechanisms and applications of emotional cognition. Cambridge, MA: MIT Press.
Thagard, P. (2010). The brain and the meaning of life. Princeton, NJ: Princeton University Press

[ Paul Thagard & Scott Findlay: "Getting to Darwin: Obstacles to Accepting Evolution by Natural Selection", Science & Education, June 2010, Volume 19, Issue 6, pp 625–636 ]
キリスト教とともに、「慈しみ深い神と魂の不滅と自由意志と倫理的責任と意味ある人生」を否定されるという、深い心理的な抵抗感があるという。

さらに、特に米国で強くみられるが、政治的立場との関連。
自然選択による進化への抵抗には、政治的な面もある。進化論の受容は、政治的圧力の結果として、国によって大きく異なる。たとえば、ダーウィンに対する懐疑は、宗教的原理主義だけでなく、非常に保守的な政治的見解にも関連している。政治は、地球温暖化の主な原因が人間の二酸化炭素排出量の増加であるかなど、他の科学的論争にも関与する。人間が気候変動の原因となっているという主張に対する抵抗は、石油産業に同情的で、政府の介入に敵対する政治家がする傾向がある(Thagard and Findlay 2009)。したがって、科学的信条を変えることは、個人的動機だけでなく、政治的価値をも侵害する可能性がある。

Thagard, P., & Findlay, S. (2009). Changing minds about climate change: Belief revision, coherence, and emotion. In E. Olsson (Ed.), Science in flux: Belief revision in the context of scientific inquiry. Berlin: Springer (forthcoming).

[ Paul Thagard & Scott Findlay: "Getting to Darwin: Obstacles to Accepting Evolution by Natural Selection", Science & Education, June 2010, Volume 19, Issue 6, pp 625–636 ]
今や、米国の世論を最も大きく左右する政治的党派性は、大きな抵抗となるのは自然なこと。






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