まだ湯気を上げるコーヒードリッパーをシンクの隅に置いた。
少量の砂糖を入れキッチンからリビングに移動しながら熱いコーヒーに口をつける。
あぁ、おいしい
左の義足を引きずりながらテーブルまでたどり着き椅子を引き出して腰掛ける。
すると、取り込んだ洗濯物を整理していた専属家事代行のアナさんがこちらに気付いた。トカゲ人の独特な目でこちらをジッと見つめる。
大公さん、コーヒー欲しいなら言ってください。
今日は自分で淹れたい日だったの。
でもそんなことされると私の立場がなくなるじゃないですか。それに何もサーバーから直接飲まなくったって。
いいのよ、どうせ洗い物増やすだけだし。
彼女がカップをとりに行こうとするので手を出して制する。
同時にテーブルに置かれた布巾を指で引き寄せその上にコーヒーサーバーを置いた。
だったらカップに直接淹れれば
それじゃ足りないの。
彼女が呆れ顔で洗濯物を家具に詰める姿を眺めながら少しずつコーヒーを口に流し込んでいると玄関から鈴の音が聞こえてきた。
呼び鈴鳴ってる。私が出るわ。
はい、お願いします。
誰が来たかは想像できる。左足に魔力を送ると機械の足に徐々に血が通っていくような感覚がする。やがて自分の身体の延長となった足の具合を確かめるように肉の足と機械の足の境目に体重をかけながら歩いた。玄関に到着すると既にドアは開いておりダークエルフと猫獣人の二人組がいた。仕事明けの娘とその護衛だ。
無事、送り届けました。
ありがとね、コネコちゃん。警備詰所で報告したら今日は帰っていいわよ。
はい、失礼します。
ご苦労様。
いつも通り簡単な挨拶をする。彼女は私と同じ孤児院の出身だ。最初に会った頃は小さな子供だったが孤児院を運営する寺院でセーレン教の修行に積極的に参加していたので今はそこらの男性より逞しい。右目の眼帯が強面な印象を与える。
私の挨拶の後で娘が続く
お疲れ、姉さん。また明日ね
あぁ、お疲れさま
コネコちゃんは元々研究所の都市開発部で作業員として働きながら予備兵として登録していた。そんな彼女が親衛隊に志願していると知り学校に行く娘の送迎役に推薦した。その結果、思った以上に娘が懐き学校を出てからは都市開発部を志願。現在は同じ職場で働いている。仕事中まで護衛を任せている上に遊びにも付き合ってもらってるらしくやや少し心苦しい。
手を振る娘にコネコちゃんが軽く手を上げてドアが閉じる。玄関には娘が残った
ただいま、疲れた。
お帰りなさい
やっぱり姉さんの前ではその足動かすんだ。
気を遣わせたくないの。
《ヒストリー》
・2020/03/17 第一稿投稿。
・2020/03/24 ページ立て直し
・2020/04/13 修正
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