スマブラのエロパロスレまとめ

 テンガン山にある槍の柱は、時空を司る神々が住む神聖な地だ。
 そんな神々の暮らす地にふさわしく、とても美しい場所だった。
 時折時間の神ディアルガと空間の神パルキア、そして極稀に月の化身と言われるクレセリアが現れると言う舞台と、崩落した遺跡の跡らしい柱。
 群青色の空に浮かぶ無数の星星がその神々の舞台を照らす様は、言葉では言い表せないほど素晴らしい。
 ――はずなのだが。
「……いつまでそうむくれてるつもりなんだ?」
 ため息混じりに、無駄だと分かっているがアイクはそう呟いた。
 恐らく相手に聞こえてはいる。が、完全無視を決め込んでいるらしいゼルダはそんなアイクに見向きもしない。
 アイクはもうひとつため息をついた。

 今日、アイクはゼルダを引き連れて、修行のためテンガン山の槍の柱へとやって来た。
 特に文句も言わずついてきてくれたゼルダと手合わせを繰り返し、ゼルダの魔法による攻撃への対処にも慣れた頃、場外へと飛んだゼルダを追撃するためにアイクも飛び、攻撃を繰り出した。
 が、テンガン山の舞台の真下に洞窟があることを二人は知らず、ゼルダはアイクの追撃を受けて飛び、その洞窟へと入り込んでしまった。
 急いで後を追ったアイクを更に追うように、舞台に出現したディアルガの光の柱の一撃を食らい、あっと思う間もなくゼルダを巻き添えにして洞窟の奥深くまで吹き飛んだ……と言うわけである。

 こうして順を追って思い返してみると、ゼルダには少し申し訳ない。
 しかし今の自分たちはたった二人きりで、洞窟の大分奥深くまで入り込んでしまったのだ。上下左右を見回してみても出口らしい光や風は感じられないし、闇雲に動けばまた先ほどのようにディアルガの一撃を食らうかも知れない。
 あの瞬間のことを思い返してアイクは小さく身震いをした。
 そんなぞっとする状況で、こうもだんまりを決め込まれるとこちらとしても気が滅入る。
 さらに洞窟の内部はところ狭しと埋まった鉱物が、洞窟の外を照らす星の光を反射しているらしいぼんやりとした光だけが煌煌と辺りを照らすだけで、幻想的ではあるが心許ない。
 そして透明度の高いらしいその鉱石はアイクとゼルダの姿を姿見のように映し出している。
 滑らかな鉱物の上に腰掛けたゼルダの照らし出された陶器のように冷たく心細く弱弱しい表情は、辺り一面の鉱石に写しこんでいた。



「確かに俺が悪かった、謝るよ。だがきっともう少しすれば、俺たちが帰らないのを心配して誰か様子を見に来てくれるだろう。
 ……屋敷を出る時、マリオたちにもここへ行くと伝えておいたからな。お前も、今日ピーチ姫に言っていただろう?
 昼過ぎに屋敷を経って、恐らく今は夕方――もう夜に差し掛かってるかも知れない。さすがに、そろそろ――」
「――あなたでもそんなに頭が回って、たくさん話すことが出来るのですね。少し感心しました」
「な――!」
 アイクの言葉を遮ってやっと何か言ったと思えば、この凄まじい嫌味だ。アイクは思わず言葉に詰まる。
「やっと口をきいたかと思えばそんなことか。もっと他に考えることがあるんじゃないのか!」
 思わずアイクは吼えた。しまった、と思った時には既に遅い。
 ゼルダの整った眉がきっと吊りあがり、アイクを睨みつける。
 顔立ちが整っている分、やたら凄みがある。アイクは思わずたじろいだ。
「あなたなどに言われなくても、たくさん考えています。
 どうしてそれまで私が飛んでもしてこなかったくせに、あのタイミングで追撃などと言う上等なことをやってのけようと思ったのか、何か神がかった力でもあるのではないのか――。
 いっそあなたなんて呪われてるのではないのか。
 でも、今そんなことを考えても仕方がないし、あなたに言っても仕方がないと思っているところです!」
 ――結局全部言ってるんじゃないのか。
 そんな無粋な切り返しも、本調子のアイクなら口にしたところだったが、今回は浮かびすらしなかった。
 何かこちらから言い返してやりたいところだったが、ゼルダの言うことは粗方真実だ。
 二の句を継げず、アイクはそれでも何かを言おうと口を開き、また閉じて……を繰り返す。
 ゼルダはそんなアイクを上目遣いに見詰めていたが、結局何も返してこないらしいことが分かるとぷいとそっぽを向いてしまった。
 そんなゼルダの様子にさらに言葉を繋ごうとアイクは必死に思案する。
 けれどその隙間隙間から雑念が入り込み、どうしても言葉が出てこない。
 腹立ちまぎれに鉱石で覆われた壁を蹴り飛ばしてやろうかと思ったが思いなおして、拳をぐっと握りこむだけに留めた。
 ふとアイクの真横に姿見大ほどの大きさと滑らかさの鉱石が目に入り、そこに写る自分の頭から足先までをぎっと睨みつけてやった。
 鉱石の中のアイクも負けじと自分を睨み返してきた。

 ――考えても考えてもどうしようもない。
 どれだけ考え込んでいたのか。アイクはぶつりと集中が切れ、寄ってしまっていた眉間を指でほぐす。
 思わず漏れそうになったため息は飲み込み、ゼルダをその場に残して洞窟の奥へと足を向ける。
 この場に留まって助けを求めてからも幾度となくそうして無駄足に終わっていたが、他にどうしようもない。
 アイクにはそのままゼルダの傍にいる気概はなかった。
「もう一度、奥へ行ってみる」と一言だけ告げ、背中に視線を感じながら先を急いだ。
 早く離れたい、離れたい、離れたかった――と。



 ゼルダは優しい。
 それがアイクにだけはいつもつんつんとあたってばかりいた。
 アイクへの態度が本当の彼女の姿で、だから普段優しい彼女はただそう演じているだけなのかと思いすらしたが、何だかそういうわけでもなさそうだった。
 演じただけの優しさなら、すぐにぼろが出るし何よりそれと分かりやすい。けれどそんな風ではなかったから、一体何なのだと腹を立てたりもした。
 そんな時、ゼルダに身体を気遣われたことがあった。
 その時も今日のように二人で特訓をしていて、その時は二人で休憩を取っていた。ゼルダは自分の魔法によってアイクが軽いやけどをしたことを、ずっと気にかけていた。
 実際の戦場では、そんな気遣いは無用だ。むしろ失礼にあたるのかも知れない。
 けれどあの時ゼルダが浮かべていた不安げで儚くそして愛らしい表情は、アイクの大切な部分を穿ったのだ。
 それに追い討ちをかけたのはやけどに巻いていた包帯も取れ、すっかり元の状態に戻ったアイクの手を見たゼルダの笑顔だった。
「あれだけ心配して、損した気分です」なんて嫌味を言いながら、あんな風に微笑まれたらひとたまりもないと言うのに――。

 なぜかそんなことを思い起こしながら、アイクは何とか一言を喉の奥から搾り出した。
「いや――ありがとう」
 もっと気のきいた一言も言えない自分が情けない。けれど、それがアイクの一番正直な気持ちだった。
 これ以上の感謝の言葉なんて自分には到底見つからない。それでも目を逸らさないできちんと正面からゼルダを見つめて言うと、ゼルダは顔をあげ、ゆっくりと微笑んだ。
「――今日は、やたら正直ですね」
 あの時のような嫌味に、あの時のような笑顔――。
 ああ、これは、だめだ。
 ずっと押し込めていた感情の波に任せるがまま、アイクはゼルダの肩を引き寄せ、唇を奪った。

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