最終更新: daichi0083 2010年04月22日(木) 18:15:31履歴
「今すぐ、あやつを連れて城から出ろ」
こちらに背を向けて、ガノンドロフは言った。
ミュウツーは眉をひそめて、彼の広い背中を睨 みつけた。
「早くしろ。あの小僧が来る」
動く気配のないミュウツーに焦れたのか、先程よりもきつい口調で言う。
「……勝算がない のか」
「俺の言ったことが聞こえなかったのか。今すぐに城を出ていけと言ったのだ」
「危ういのなら、私が手を貸そう。自信がないのなら、 素直にそう言え」
相手の声が苛立ち始めているのが分かったが、怯むことなく告げる。
そのミュウツーの言葉に小さく舌打ちをし、溜め息をつ くと、ガノンドロフはこちらに向き直った。
怒っているような、悲しいような、不思議な表情であった。
「危ういわけでも自信がないわけでも ない。ただ、邪魔なだけだ。お前はそうやってすぐに余計なことをしようとするからな」
「意地を張るな」
「意地などではない。いいから早く 出ていけ。俺を怒らせたいのか」
「──妾に手を貸されるのがそんなに嫌なのか」
思っていたより怒りを含んだ大きな声が出て、自分でも驚 く。
するとガノンドロフの表情がぴくりと動いて、
「ああ、その通りだ。あの小僧と共に斬り捨てられたくなければ、子を連れて城から出ろ」
「……ッ、 貴様……!」
その大声に、隣の部屋で眠っていた子どもが泣き出した。
ミュウツーはそちらを一瞥すると、ガノンドロフを睨みつけて踵を返 し、部屋を後にした。
黒く不気味な城のあった場所の遥か上空。
先ほどまでの激しい戦いに疲労しつつも、使命を遂げてどこか達成感に満ちた様子の少年と、
彼に 寄り添うように立つ心から安堵した顔の少女の姿を、ミュウツーは見下ろしていた。
城から逃げろと言われたあの時、ミュウツーはガノンドロフの勝 利を信じていなかった。
またこの緑衣の少年に敗れてしまうのだろうと、どこかでそう感じていた。
それはおそらく彼も同じで、だからこそ ミュウツーと子を巻き込むまいと、あんなことを言ったのだろう。
信じれば、負けることはなかったのだろうか。それは分からない。
しかしど ちらにしろ、彼を信じられなかったことは罪である。
そしてミュウツーには、もうひとつの罪があった。
あの時、ミュウツーを腹立たしく思 わせたのは、邪魔者とされたことでも、手助けを余計だとされたことでもない。
それは、嫉妬だった。
ミュウツーがどんなにあがいても、魔王 と姫と勇者の因縁のなかへは入り込めない。
彼らの間にあるのは憎しみではあるが、それが時を越えたどこまでも深い繋がりであることは事実だ。
自分とガノンドロフの間にあるのは、その時代限りの肉体関係と、その結果である稚児のみ。
心はあまりに不確かで、それには頼りきれない。
彼 が再び目覚めることは確実だが、その隣に再び自分が居られるかどうかは、彼の意思次第でしかない。
だから、たとえ呪われていたとしても、不本意 なものであったとしても、消えることない繋がりが欲しかった。
彼らのような強い縁(えにし)が、欲しかったのだ。
無意識のうちに抱えてい た欲望が、あの瞬間、溢れてしまった。
不可侵の領域をまざまざと見せつけられて、子どものようにどうしようもなく嫉妬した。
彼の本心を 解っていたのに、運命を共にできないことが悔しくて、一緒に居たいと駄駄をこねた。
言うべきことは他にあったはずなのに。
勇者 と姫は、帰るべき場所へ戻ろうとする。
ミュウツーには、もうそんな場所はない。
あるとすれば、おそらく魔王の復活の子種となろう、あの稚 児の元だ。
そうして彼がまた蘇るのは、ミュウツーの命が尽きる前か否か。
もしもその時この肉体が亡骸となっていても、彼は蘇生してくれる だろうか。
どうにもならない運命を恨みつつ、ミュウツーはその場から姿を消す。
持ち主を失った涙の雫は、そのまま地上へ落下した。
こちらに背を向けて、ガノンドロフは言った。
ミュウツーは眉をひそめて、彼の広い背中を睨 みつけた。
「早くしろ。あの小僧が来る」
動く気配のないミュウツーに焦れたのか、先程よりもきつい口調で言う。
「……勝算がない のか」
「俺の言ったことが聞こえなかったのか。今すぐに城を出ていけと言ったのだ」
「危ういのなら、私が手を貸そう。自信がないのなら、 素直にそう言え」
相手の声が苛立ち始めているのが分かったが、怯むことなく告げる。
そのミュウツーの言葉に小さく舌打ちをし、溜め息をつ くと、ガノンドロフはこちらに向き直った。
怒っているような、悲しいような、不思議な表情であった。
「危ういわけでも自信がないわけでも ない。ただ、邪魔なだけだ。お前はそうやってすぐに余計なことをしようとするからな」
「意地を張るな」
「意地などではない。いいから早く 出ていけ。俺を怒らせたいのか」
「──妾に手を貸されるのがそんなに嫌なのか」
思っていたより怒りを含んだ大きな声が出て、自分でも驚 く。
するとガノンドロフの表情がぴくりと動いて、
「ああ、その通りだ。あの小僧と共に斬り捨てられたくなければ、子を連れて城から出ろ」
「……ッ、 貴様……!」
その大声に、隣の部屋で眠っていた子どもが泣き出した。
ミュウツーはそちらを一瞥すると、ガノンドロフを睨みつけて踵を返 し、部屋を後にした。
黒く不気味な城のあった場所の遥か上空。
先ほどまでの激しい戦いに疲労しつつも、使命を遂げてどこか達成感に満ちた様子の少年と、
彼に 寄り添うように立つ心から安堵した顔の少女の姿を、ミュウツーは見下ろしていた。
城から逃げろと言われたあの時、ミュウツーはガノンドロフの勝 利を信じていなかった。
またこの緑衣の少年に敗れてしまうのだろうと、どこかでそう感じていた。
それはおそらく彼も同じで、だからこそ ミュウツーと子を巻き込むまいと、あんなことを言ったのだろう。
信じれば、負けることはなかったのだろうか。それは分からない。
しかしど ちらにしろ、彼を信じられなかったことは罪である。
そしてミュウツーには、もうひとつの罪があった。
あの時、ミュウツーを腹立たしく思 わせたのは、邪魔者とされたことでも、手助けを余計だとされたことでもない。
それは、嫉妬だった。
ミュウツーがどんなにあがいても、魔王 と姫と勇者の因縁のなかへは入り込めない。
彼らの間にあるのは憎しみではあるが、それが時を越えたどこまでも深い繋がりであることは事実だ。
自分とガノンドロフの間にあるのは、その時代限りの肉体関係と、その結果である稚児のみ。
心はあまりに不確かで、それには頼りきれない。
彼 が再び目覚めることは確実だが、その隣に再び自分が居られるかどうかは、彼の意思次第でしかない。
だから、たとえ呪われていたとしても、不本意 なものであったとしても、消えることない繋がりが欲しかった。
彼らのような強い縁(えにし)が、欲しかったのだ。
無意識のうちに抱えてい た欲望が、あの瞬間、溢れてしまった。
不可侵の領域をまざまざと見せつけられて、子どものようにどうしようもなく嫉妬した。
彼の本心を 解っていたのに、運命を共にできないことが悔しくて、一緒に居たいと駄駄をこねた。
言うべきことは他にあったはずなのに。
勇者 と姫は、帰るべき場所へ戻ろうとする。
ミュウツーには、もうそんな場所はない。
あるとすれば、おそらく魔王の復活の子種となろう、あの稚 児の元だ。
そうして彼がまた蘇るのは、ミュウツーの命が尽きる前か否か。
もしもその時この肉体が亡骸となっていても、彼は蘇生してくれる だろうか。
どうにもならない運命を恨みつつ、ミュウツーはその場から姿を消す。
持ち主を失った涙の雫は、そのまま地上へ落下した。
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