決して人間の立ち入らぬ深い深い山奥にある、ドラゴン達の暮らす里。
そこには無造作に掘られた数多の洞窟が建ち並び、土の上には子を育てるための藁や枯れ木を踏み拉いて作った寝床が敷かれている。
彼らは争うこともなく人間以上にお互いを助け合って暮らしていたものの、代々里を取り仕切ってきた黒いドラゴンの一族にだけは、ある変わった仕来りがあった。
里の長を踏襲するドラゴンが受けなくてはならない1つの試練。
それは人間達の文化を里に取り入れるために、命の契約を結んだ人間と3年間生活を共にすること・・・

ついにこの日がやってきてしまった。
正直言って、私は里の長とやらに興味はない。
だが私がこんな馬鹿げた試練を受けなければならないのは、母の腹から卵が4つも産まれてきてしまった時からすでに決まっていたようだ。
本当なら里の長になることを希望している3匹の兄弟達だけが試練を受ければいいだけのはずなのに、何時の間にか唯一の雌である私までが試練を受ける羽目になっていたとは・・・
第一、私は人間の言葉を理解することはできても話すことができないのだ。
里に住む仲間達の中には人間の言葉を読んだり話したりできる者が何匹かいるが、日常的にその言葉を使う人間達ですら正しい言葉の習得には十数年の歳月を要すというのに、たかだか産まれて5年の私がそんな異種族の言語を話せるようになどなるはずがない。
そんな得体の知れない者達と3年もの間生活を共にしなければならないとは・・・

私は勢いよく里を飛び出していった兄弟達に少し遅れて、暗い面持ちのまま翼を羽ばたいた。
まずは契約の相手となる人間を探すところから始めなくてはならない。
しかも、その上人間達の生活の中へと溶け込まなくてはならないのだ。
ちょっと考えただけでも、それが極めて難しいことであるのは容易に想像がつく。
「仕方ない・・・とりあえず、なるべく人間の少ないところから当たってみよう・・・」
冷たい風を切り裂いていた翼に力を入れ、砂漠とオアシスが点在する亜熱帯の地方を目指す。
そこでならば、長期に渡って少数で暮らしている人間を見つけることができるかもしれない。
やはりドラゴンが人間の生活に入り込んでいくには、極力他人の目に触れない方が得策なのだ。
急激に温度を増した巨大な太陽に背を焼かれながら、私は眼下に広がった砂の海に人影を探して飛び続けた。

暑い・・・
真っ赤に燃え上がった太陽がジリジリと砂の地面を焦がし、ユラユラと立ち昇る陽炎が辺り一面を覆い尽くしている。
僕は腰に下げた水筒を逆さに振って中身が空になったのを確認すると、顔中から汗を噴き出しながらがっくりとうな垂れた。
「ふう・・・水が飲みたいな・・・」
だがこのまま干からびてしまうのではないかという不安に心が挫けそうになったとき、遠い砂丘の先に小さなオアシスが顔を出しているのが目に入る。
地獄に仏とは正にこのことだ。
僕は顔を滝のように流れ落ちる汗を拭うと、乗っていたラクダに声をかけた。
「おい、あそこで一休みしよう!」
ラクダは別にどこか弱っているというわけではなかったが、痩せこけたその華奢な体が側対歩で揺れる度に、ドサリと砂の上に倒れてしまうのではないかと思ってしまう。
ゆっくりとこちらに首を振り向けたラクダの顔に、僕は微かな安堵の色が浮かんだような気がした。

茹だるような熱さに負けて、私は人間探しを中断して日差しの凌げる場所を探し始めた。
白に似た黄色一色の砂の世界に、1箇所だけ鮮やかな緑の映える泉が目に入る。
丁度いい。日除けのついでに、冷たい水で喉を潤すとしよう。
私はバサッと乾いた風を叩いて翼を翻すと、木々に囲まれた小さなオアシスに向けて雲1つない快晴の空の下を滑空していった。

「ふぅ・・・ふぅ・・・やっと着いた・・・」
ようやく地下からコンコンと湧き出る冷たい泉のほとりに辿りつくと、僕はラクダから降りてしゃがみ込んだ。
両手で水を掬い、まずはバシャッと顔にかけてみる。
じっとりと顔に絡み付いていた汗が洗い流され、冷水が火照った皮膚を冷やしていく。
そして無我夢中で泉に口をつけると、僕はゴクゴクと透き通った水を飲み下した。
「はぁ〜生き返った〜・・・」
暑い最中にたっぷりと冷たい水を飲み、幸福感にドサッとその場に座り込む。
もう少し、木の陰で休んでから出発するとしよう。
僕は立ち上がるのも面倒になって、そばにあった大きめの木の根元まで這っていくとゴツゴツとした固い幹にそっと背を預けた。
ラクダの方も、しばらく振りの休憩に地面に蹲ったまま気持ちよさように目を閉じている。

バサァッ、バサァッ・・・
「メ、メェェ〜〜〜〜!」
だがその時、突然どこからともなく大きな翼を羽ばたくような音が聞こえてきた。
と同時に、大きな影が頭上を過ぎる。
それに驚いて、ラクダはあたふたと立ち上がると僕をその場に残したまま砂漠の方へと走って行ってしまった。
「あぁ!ま、待て、待てったら!」
だが逃げていくラクダの後を追おうと慌てて立ち上がった瞬間、ドオォンという音とともに巨大な黒い塊が僕の眼前に着地した。
「わ!な、何だ!?」
激しく巻き上がった砂煙が収まると、そこには真っ黒な鱗に覆われた1匹のドラゴンが翼を畳んで蹲っていた。
「ド・・・ドラゴン・・・?」
僕の声に反応したのか、ドラゴンがゆっくりと顔を上げる。
そして何かを考えているような表情を浮かべた後、ドラゴンは僕に向かってゆっくりと近づいてきた。
「わわっ・・・・・・」
ドラゴンの無言の接近に驚いて後ずさったものの、すぐに今まで寄りかかっていた大きな木が退路を塞ぐ。
「あ・・・ま、待って・・・」
木の幹にピッタリと背を押し当てて仰け反りながら、僕は迫り来るドラゴンから目が離せないでいた。

私は偶然にもオアシスにいた少年を見つけると、なるべく彼を怯えさせないようにゆっくりと近づいた。
「うあぁ・・・」
だがそれが逆に彼の恐怖を煽ってしまったようで、少年が大きな木に体を押しつけたままこちらを見つめている。
私はなおもそっと少年の間近にまで近づくと、襲われると勘違いしたのか目に薄っすらと涙を溜めながら震えていた彼の顔をグイッと覗き込んだ。
「ひ・・・ひっ・・・」
恐怖と涙に顔をクシャクシャにしながら、時折少年が薄目を開けて私の様子を窺っている。
言葉も全く通じぬというのに、どうやってこの誤解を解いてやればよいというのだろう?
ロクに声も出せずただただ怯える少年を前にして、私は早くも試練の先行きを憂えていた。

「はぁ・・・は・・・あ・・・」
すでに抵抗する気力も勇気も失った少年が、恐怖に息を詰まらせ始めている。
彼を安心させてやるには少し距離を置けばいいだけなのだが、問題はもう1つあった。
互いに命を共有するという命の契約。その儀式のためには、契約者の血が必要になるのだ。
だがこの場で突然私が彼に噛み付いたら、とてもその後の共生など望めないだろう。
だとすれば、少々手荒な方法を取るしかない。
私は更に少年との距離を詰めると、じっと彼の顔を眺め回した。
そして両足で立ち上がり、少年の両肩をガッチリと木の幹に押さえつける。
「う・・・ぁ・・・」
ゴツゴツした鱗が体に触れた拍子に、少年が声にならない悲鳴を漏らした。
ベロッ・・・
そのまま涙に濡れた少年の顔を思い切り舐め上げると、私は大きく口を開けて咆哮を発した。
「ゴオアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」
「わ、わああああぁぁぁ・・・」

次の瞬間、私の手の中で少年がガクリと気を失った。
限界を超えた恐怖のためか、顔に憔悴の色がありありと浮かんでいる。
「ふう、少しかわいそうなことをしてしまったが・・・今の内に・・・」
私はグッタリと弛緩した少年の体をそっと木陰の地面の上へと横たえると、彼の腕にプツリと尖った爪の先を少しだけ突き刺した。
そして傷口からじわりと真っ赤な血が滲み出したのを確認し、急いでその血を舐め取っていく。
ペロッ・・・ペロッ・・・
5分程舐め続けていると、やがて爪を突き刺した傷口はほとんど見えないほどにまで小さくなっていた。
よし・・・後は、彼が起きるのを待つとしよう・・・
私は少年の横に身を沈めると、小さく上下する彼の胸の上に頭を乗せてしばしの間眠りに落ちた。

「う・・・ん・・・」
暗闇の中で意識を取り戻し、僕はしばらく目を開けずに自分の身に起こった事を思い出していた。
僕は確か・・・大きな黒いドラゴンに襲われて・・・あれ・・・?まだ生きてる・・・のか?
砂の上に寝ているようだけど・・・胸の上に何か重いものが乗ってるような・・・
考えるのが面倒になり、僕は思い切って目を開けてみた。
だがその途端、僕の胸の上に顎を乗せて眠っていたドラゴンの姿が目に飛び込んでくる。
「う、うわああ!」
その悲鳴に驚いたのか、ドラゴンがパチリと閉じていた眼を開いた。
そして、地面から首だけを起こした体勢の僕と目が合う。
「う・・・ぅ・・・」
だがドラゴンはそのままスッと首を持ち上げると、僕から少し離れたところに静かに蹲った。

「ぼ・・・僕を殺さないの・・・?」
きっと言葉などわからないのだろうけれど、僕は不可解なドラゴンの行動についそう聞かずにはいられなかった。
しかし意外なことに、ドラゴンが僕の問に大きく頷く。
「僕の言葉・・・わかるの?」
もう1度、ドラゴンが頷く。
でもだめだ、頷くだけじゃ言葉を理解している証拠にはならない。何かを否定させてみる必要がある。
「・・・本当は僕を食べるつもりなんでしょ?」
だが、今度はドラゴンが顎を横に振った。
あくまでゆっくりと、だが力強く、ドラゴンが僕の質問を否定する。
それを見て、僕はようやく安堵の溜息とともに体を地面に横たえた。

「ああ・・・僕のラクダ・・・どこかに行っちゃったな・・・」
気を失っていた時と同じように仰向けで寝そべったまま、突然少年がポツリと漏らす。
その言葉に、私はここに降りてくる前に1頭のラクダがどこかへ逃げていくのが見えたのを思い出した。
恐らく、この少年が砂漠の移動に使っていたのだろう。
そのラクダに逃げられてしまい、彼はもはや灼熱の砂漠の真っ只中に放り出された無力な存在でしかなかった。
だが命の契約を結んだ以上、彼にこんなところで野垂れ死にされるわけにはいかない。
何しろ、少年の死はこの私の死をも意味するからだ。
ラクダの代わりに、私がこの少年を運んでやるより他にないだろう。
私は仕方なく、少年にクルリと背を向けると身を低くして屈み込んだ。

「グルル・・・」
「え・・・?」
ドラゴンの漏らした唸り声に驚いて、僕は顔を上げた。
見れば、ドラゴンが僕に背を向けて蹲りながら首だけをこちらに振り向けている。
「の・・・乗っていいの?」
僕がそう聞くと、ドラゴンがコクンと小さく頷いた。
さっきのような分かりやすい肯定でなかったのは、人間を背に乗せることに抵抗があるからなのだろう。
黒鱗で覆われたドラゴンの顔に輝く2つの蒼い瞳が、複雑な心境を映し出している。
それでも僕はゆっくりと立ち上がると、恐る恐るドラゴンに向かって近づいていった。

間近で見るドラゴンの背中は、大きめの黒い艶々した鱗で一面覆われていた。
背中の左右からはこの巨体を宙に浮かべる大きな翼が生えているが、今は小さく畳まれて背の横へと垂れている。
微かに左右に振れる太い尻尾を踏まないように気を付けながら、僕はそっとドラゴンの背中に手を触れてみた。
長い間ジリジリと焼けつく太陽に熱せられているというのに、鱗はほとんど熱を持っていない。
しかも鱗の繋ぎ目がとても滑らかで、目を瞑って触ればまるで1枚の平たい鉄板を触っているような感触だった。
一通りその不思議な感触を味わった後、いよいよドラゴンの広い背中に攀じ登り始める。
そして苦労しながらドラゴンの首にまで到達すると、僕はドラゴンの首の周りに腕を回して掴まった。

全く・・・この私が人間などを背に乗せねばならぬとは・・・
いや、たった3年の間だけだ・・・これからの数百年という長い生涯を考えれば、3年間など物の数ではない。
私は少年が完全に背に跨ったのを確認すると、少年を振り落とさぬように静かに立ち上がった。
ところで、乗せたはいいがどこへ行けばいいのだ?
目的地を尋ねるように、私は再び小さく唸り声を上げてみた。
「グル・・・」
「あ、ごめん・・・西の方に行きたいんだ。小さな村があるはずなんだけど・・・」
唸り声だけでよく私の意図を察するものだ。この様子では、意志の疎通に言葉など必要ないのかもしれぬな。
私は少しだけ人間を見直すと、なおも照りつける熱い日差しの中を西へ向かって歩き始めた。

もうどのくらい歩いたのだろうか・・・?
雲1つなかった空はすでに朱に染まり始め、緩やかな地平線の遥か彼方まで私の足跡が続いている。
少年は安心したのかそれとも疲れてしまったのか、私の背の上でスースーと寝息を立てていた。
時折丸まった背中から少年がずり落ちそうになるのを翼や尻尾で支えながら、地平線から半分だけ顔を出した太陽へと目を向ける。
空を飛べれば楽なのだろうが、生憎私は少年を背に乗せたまま飛ぶことができるほど器用ではなかった。
それに、万が一少年を取り落とせば私まで死んでしまうかもしれないのだ。
徐々に沈んでいく夕日を睨みつけながら、私はひたすらに足を前に出し続けた。

さらにしばらく歩き続けると、やがて朱に染まっていた空も星の瞬きを映す漆黒の闇に覆われてしまった。
砂漠の夜・・・熱を溜め込む力のない砂の地面は太陽が沈むと同時に放熱を始め、深夜になれば昼間とは打って変わって気温が氷点下にまで落ち込むことがある。
私も寒さにはあまり強い方ではなかったものの、本当に心配すべきは少年の体の方だろう。
これまでは吹き荒ぶ風や寒さを凌ぐために何らかの道具を持っていたのだろうが、荷物は全て逃げたラクダに括りつけてあったせいで、少年は今完全に手ぶらの状態だった。
「まずいな・・・どこか休める場所はないものか・・・」
視界の中には、ゴツゴツと大きな岩がいくつか姿を見せ始めている。
オアシスも見つからない以上、今夜はどこかの岩陰で夜風を凌ぐ他ないだろう。
私は見える中でも1番大きな岩の連なりに目を止めると、砂に取られていた足を再び前に出した。

ようやく風に当たらない岩陰に到着すると、私は少年を起こさないようにそっと砂の上へと降ろした。
今まで熱を含んでいた乾いた風が、身に沁みるほど冷たくなってきている。
日射病を避けるためか少年は日光を遮るためにそれなりの厚着はしていたものの、それらはすでに大量に流れ出した汗でグショグショに濡れていた。
まずは、服を脱がせなくてはならぬのか・・・
私は地面に寝かせた少年の体をくまなく眺め回すと、ようやく服の端を見つけ出した。
そして薄布を破かぬように、そっと服を剥ぎ取っていく。
一体、なぜ私はこんなことをしているのだろう?
自分では何もせずただ眠っているだけの少年に、なぜ私がこれほどまでに気を遣わなくてはならぬのだ?
試練だということはわかっているが、考えれば考えるほど私はこの少年が憎らしくてたまらなくなってきた。
命の契約さえ結んでいなければ、今すぐその体へ牙を突き立てて新たな契約の相手を探しにいきたいところだ。

ブツブツと文句を呟きながら少年の服を全て脱がせてやると、汗に濡れた皮膚が露わになった。
そのじっとりと湿った少年の腕や足を、ペロペロと舐めてやる。
だがその途中で、私は少年の股間から生えた小さな肉棒に気がついた。
雄のドラゴンなどとは比べ物にならない、皮を被ったままの卑小な性器。
私はその情けない人間のモノに蔑みを感じながらも、少しだけ舌の先で舐め上げてみた。
ショリッ・・・
「う・・・」
快感に反応したのか、少年が小さく呻く。
と同時に、萎んでいたはずのペニスがムクムクと膨らんできた。
垂れ下がっていたはずの性器が固さを増し、まるでそれ自身が意思を持っているかのように立ち上がる・・・
その不思議な光景に、私は思わずじっと見入ってしまっていた。

な、何を馬鹿なことを考えているのだ私は・・・相手は人間・・・それも、まだ年端も行かぬ小僧なのだぞ?
突如胸の内に湧き上がってきた屈辱的な欲望に、私はグッと牙を食い縛って耐えようと試みた。
だが私を嘲笑うかのように少年の肉棒が左右へと揺れ、その度に雌としての本能がドラゴンとしてのプライドを打ちのめしていく。
「う・・・く・・・」
ついに耐えきれなくなり、私はパクッという音とともに少年の小さな肉棒を口に含んでいた。
そのまま、ジュルジュルと水音を響かせながら舌を巻きつけた肉棒を激しく吸い上げる。
そして膨張した肉棒の根元を牙を立てぬように軽く噛むと、私は少しだけ口を引いて少年の弱所を扱き上げた。

「うあ・・・あっ・・・!」
眠っているところに流し込まれた強烈な快感に、僕はガバッと飛び起きた。
見れば、ドラゴンが僕のペニスを咥えて一心不乱に吸い立てている。
「な、何を・・・あっ・・・やめ・・・ああんっ・・・!」
抵抗しようにも、絶え間なく与えられる刺激が僕の四肢から力を奪い去っていく。
初めは何とか体を起こそうともがいていたものの、やがて僕は快楽にまかせてグッタリと地面に倒れ込んでいた。
ジュルッ・・・ショリショリ・・・レロ・・・レロレロ・・・
「ああっ・・・も、もう我慢できないよ・・・やめてぇ・・・」
ビュビュ〜〜・・・
産まれて初めて味わう激しい責めに、僕は成す術もなくドラゴンの口の中へ精を放った。
しかも熱い精が尿道を迸っているというのに、ドラゴンがなおもペニスを吸い立ててくる。
「あぅ・・・ぅ・・・き、気持ちいい・・・よぉ・・・」
どうしようもない快感にギュッと拳を握って耐えていると、ようやくドラゴンが僕の股間から口を離した。
「うぅ・・・う・・・」
「ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・」
僕は半分涙目になって快感に震えていたが、ドラゴンの方は荒い息をつきながらまだ僕のペニスを凝視していた。
自分のしてしまったことが信じられないという放心にも似た奇妙な表情が、ドラゴンの顔に浮かんでいる。
今度は何をされるのだろうと思って、僕は声も出せずにただただドラゴンの様子を窺っていた。

ポタ・・・ポタタ・・・
不意に聞こえた水滴の滴るような低い音。
その音に気付いて、私は反射的に己の股間へと目を向けていた。
パックリと開いた秘裂から欲情の証である桃色がかった愛液が溢れ出し、乾いた砂の上へと滴り落ちている。
こんな・・・人間などに・・・私は・・・私は・・・
雌としての本能に屈服してしまった屈辱に、私はゆっくりと顔を上げた。
呆然とした表情でこちらを見つめている少年の視線が、私の股間へと注がれている。
人間ごときに見られてはならぬ秘所を暴かれて、私はこの上もない羞恥と、それ以上の昂ぶりを感じていた。
もはや我が火所を見られようとも構わぬ。私は・・・もうこの疼きを抑えてはおれぬのだ!
「グオアアアッ!」
私は大きく一声咆哮を上げると、完全に力を失って横たわっていた少年へと躍りかかっていた。

ドサッ
「う、うわっ・・・何するの・・・?」
突然巨大なドラゴンに飛びかかられ、僕は震えながらそう尋ねた。
まさか殺されはしないだろうが、ドラゴンの眼がどこか正気を失っているようにも見える。
そしてそのまま両肩をズッシリとした体重で地面へと押しつけられると、僕はパニックになって叫んでいた。
「ああっ・・・お、重いよ・・・やめて・・・」
体を動かそうともがいてみるが、僕の体を押し潰さんばかりに預けられた体重の前に成す術などあるはずがない。
「グルルル・・・」
「うぅ・・・」
僕の顔を覗き込みながら低く唸るドラゴンに、僕はただただ身を固めて震えているしかなかった。

ジュプッ・・・
本能の赴くままに少年の体を砂の上に組み敷くと、私は依然としてそそり立っていた少年の肉棒を自らの膣へと呑み込んだ。
「はああっ・・・あ・・・あぅ・・・」
高圧電流のように体を駆け巡った尋常ならざる快感に、少年が身悶える。
だがそんなことにもお構いなしに、私は少年の肉棒を咥え込んだ腰を激しく前後へと揺り動かした。
ズシュッヌチュッグチュッグリュッ・・・
「あ、ああっ・・・はあああんっ・・・!」
激し過ぎる初体験に、少年が思い切り体を仰け反らせた。
その力強さに、この私の体までが一瞬少年に持ち上げられる。

自我も理性も捨てて人間の少年を無理矢理犯しているという事実に、膣壁に肉棒が擦りつけられる度に感じる快感が数十倍にも膨れ上がっていた。
「だ、だめだよぉ・・・お、お願い・・・止めてぇぇぇ・・・」
「グル・・・グ・・・ゥ・・・グルオォ・・・」
少年がそうであるように、私の方も限界が近かった。
背徳の先にある絶頂が、すぐそこまで迫ってきている。
「はぁぅ・・・ま・・・また・・・う、うわああ〜〜〜〜!!」
「グゥ・・・グオオオオオーーーーー!」

悲鳴にも似た嬌声と咆哮が重なり合って、ドラゴンと少年は同時に果てていた。
ガクガクと射精の快楽に痙攣する少年のペニスに、収縮した膣壁と溢れ出した大量の愛液が襲いかかっていく。
グシュッズブシュッグギュッ・・・
「あ・・・が・・・ぁ・・・」
もはや自分の意思とは無関係に腰を振り続けるドラゴンの責めを味わい、やがて少年は到底御し難い快楽の奔流に小さな呻き声を残してクッと意識を失ってしまった。

「・・・はっ!?私は一体何を・・・?」
しばらくして、私はグッタリと動かなくなった少年を体ごと揺すっていた腰の動きをピタリと止めた。
「ああ・・・私は命の契約を交わした者になんということを・・・」
慌てて、私は少年の顔に自らの鼻先を近づけた。まだ息はある。
もっとも少年が死んでしまえば私もともに死んでしまうのだから、生きているのはわかっている。
だが火照った体にかいた汗が冷たい気温によって冷やされ、今や少年の体はひどく冷たくなっていた。
このままでは、遅かれ早かれ凍死してしまう可能性もある。
私はバッと大きく翼を広げて少年を岩の隙間に吹き込んでくる風から守ると、灰色の毛皮に覆われた腹をその小さな体に密着させた。
朝まで・・・いや、少なくともこの少年が目覚めるまで、私が温めてやらなくてはならない。
熱を生むようにスリスリと柔らかい腹を擦りつけながら、私はひたすらに少年の顔をペロペロと舐め上げていた。

ペロッ・・・ペロッ・・・
「う・・・ん・・・」
瞼越しに突き刺さる陽光の眩しさとザラザラした湿った物に顔を擦り上げられる感触に、僕は手放していた意識の糸を探り当てていた。
とても暖かい・・・まるで極上の羽布団に包まっているかのようだ。
ペロッペロッ・・・
再び顔を擦り上げられ、僕はゆっくりと目を開けてみた。
目の前に巨大なドラゴンの顔が見え、大きな舌が僕の頬を駆け上がっていく。
「ん・・・な、何してるの・・・?」
僕が起きたのに気がついたのか、ドラゴンは舐めるのをやめると少しだけ僕から顔を離した。
その眼に、とても心配そうな輝きが宿っている。
下を見ればドラゴンの柔らかくて暖かい腹が僕の体に絶え間なく擦りつけられていて、僕は氷点下の砂漠の夜を裸で過ごしたというのに全く寒さを感じずに済んでいた。

「僕を・・・心配してくれたの・・・?」
少年から投げかけられた率直な疑問に、私は素直にコクリと頷くしかなかった。
「グルル・・・」
初めは自分の命が心配で少年を助けようとしていただけのはずだったのに、私はいつのまにか本当にこの少年の身を案じるようになっていたのだ。
それはこの少年が、私にとっても初めての交尾の相手だったからなのかも知れない。
人間などに・・・そんな考えは、もう捨てることにしよう。
「ありがとう・・・昨日のあれ・・・とっても気持ちよかったよ」
その少年の一言に、私は思わず耳を疑った。
昨日あれだけの目に遭って、彼は私のことを恐れたり恨んだりはしていないのだろうか?
「もしよかったら・・・これからもドラゴンさんに僕と一緒に暮らしてほしいな・・・だめかい?」
さらに予想を覆すことを言われ、私は一瞬戸惑った後に激しく顎を横に振った。

「よかった・・・それじゃあ、村へ行こうよ。この岩地からだったら、今日中には着けるはずだよ」
少年はそう言いながら起き上がって乾いた服を着ると、どうしてよいかわからず呆然としていた私の背中へと登り始めた。
そして何とか背の上へと辿り着き、私の首へ愛しげに抱きついてくる。
「村へ着いたら、美味しいものをいっぱい食べさせてあげるからね・・・」
まるで寝言か何かのようにそっと呟いて、少年は私の背中で再び眠ってしまった。
「ふう・・・まるで体よく使われているような気がするが・・・それも案外悪くはないな・・・」
少年が落ちないように尻尾で固定すると、私は高く昇った太陽に背を向けた。
目を凝らせば西の地平線の彼方に、まるで豆粒のように人間達の居住地が見える。
容赦なく照りつける灼熱の太陽が恨めしかったが、ようやく目的地が見えてきたことに私は黙って歩き始めた。

足の沈む砂丘を乗り越え砂を叩きつける熱風に耐えながら、私はようやく少年のいう村の近くまでやってきた。
空を見上げれば、相変わらず盛んに燃える太陽がすでに西に傾きかけている。
少年はすでに目を覚ましていて、私の上に跨りながら徐々に近づいてくる村の様子を感慨深げに見つめていた。
「グ・・・グル・・・」
それにしても疲れた・・・
少年と出遭ってからというもの、昼の間は休まず砂漠を歩き続けた疲労が私の手足を蝕み始めている。
彼の前で弱った姿など見せたくはなかったが、私はつい荒い息とともに小さな唸り声を漏らしてしまった。
「大丈夫?僕、降りた方がいい?」
情けないことだ。今度は私の方が少年に心配される番だというのか。
私はまだ折れずに残っていた気力で首を横に振ると、後少し、後少しと足を前に出し続けた。

「わあ、着いたぞ」
疎らに建てられた人間達の居住区を前にして、少年が大声で叫んだ。
村の中央には大きな井戸が掘られていて、そこからコンコンと澄んだ水が湧き出している。
村をグルリと囲むように樹木もいくつか生えていて、そこはまるで人工のオアシスのようだった。
「おーい!」
少年の呼びかけに、井戸の周りで水を汲んでいた数人の人間達がこちらを振り向く。
彼らは私の姿を見て一瞬恐れの表情を浮かべたものの、背中に乗っている少年の姿を見て警戒を緩めた。
「おお、帰ってきたのか!・・・荷物はどうしたんだ?それに、そのドラゴンは・・・」
「僕のラクダが逃げちゃってさ・・・困ってたところを、このドラゴンさんに助けてもらったんだよ」
違う・・・少年のラクダを逃がしてしまったのはこの私だ。
それに少なからず恐ろしい目にも遭ったというのに、それをおくびにも出さないとは・・・
「そうか・・・それで、この後どうするんだ?」
「僕と一緒に暮らしてくれることになったんだ。とってもおとなしい性格だし、いいでしょ?」
「あ、ああ・・・そりゃ構わないが・・・」
そう言ってもらえるととても助かる。
大勢の人間達の興味深げな視線にさらされて、私は少しだけ頭を低めた。

夜になって、私は少年の家の中で蹲っていた。
彼の両親はすでに他界し、少年は時折村で採れる作物や香辛料を隣の国へ売りに行って生計を立てているらしい。
その荷物や諸々の持ち物をラクダとともに失ってしまったのは、少年にとっては相当な損失だったことだろう。
だが彼は私を責めるどころか、ともに暮らしてほしいとまで言ってくれたのだ。
しかも村人達のお陰で、私は数日振りに満腹になるまで羊の肉を食べさせてもらった。
「ドラゴンさん・・・もう寝てる?」
人間に対する感謝でむにゃむにゃと睡魔を咀嚼していた時、私は少年に呼びかけられて首をもたげた。
見れば、少年が大きなベッドの上で横になりながら私の方へと顔を向けている。
だがその体には何も服を身に着けておらず、普段は上からかけるであろう寝具の類いも全てベッドの脇へと押しやられていた。
「グル・・・?」
家の中にいるとはいえ、室温を上げるような熱源は何も見当たらない。
寒くはないのかと首を傾げていると、少年が私に向かって手招きをしている。
「一緒に寝ようよ。ドラゴンさんも、寒いでしょ?」
それはとても裸で言う言葉ではないはずなのだが、私はそれで少年の意図を察していた。
のそりと起き上がり、少年の横たわるベッドヘそろそろと近づいていく。
そしてそっとベッドの上へと攀じ登ると、私は少年の体をフサフサした腹の毛皮で包み込んだ。
「ああ・・・」
心底気持ちよさそうに、少年が息を漏らす。
初めは遠慮がちだったが、体の中にほんのりとした熱が篭り始めると、私はガバッと少年の体に抱きついていた。

柔らかなベッドの上でドラゴンの巨体にのしかかられ、僕は肺の中の息を全て吐き出した。
だが、別に苦しくはない。
温もりを纏った布と毛皮に挟みつけられる感触が、少しずつ快感へと変換されていく。
「お、お願い・・・ぐりぐりしてぇ・・・」
あまりの気持ちよさに恍惚の表情を浮かべながらドラゴンにお願いすると、ドラゴンは言われるままに体を左右に揺すり始めた。
グリ・・・グリグリグリ・・・
適度な体重と肌触りのよい体毛で覆われた腹にすり潰され、硬い鱗に覆われたドラゴンの脇の辺りを両手でギュッと抱き締める。
そしてどちらからともなく、僕達はお互いにお互いを求め合った。

ジュル・・・
僕の皮膚とドラゴンの体毛とが擦れ合う乾いた音の中に、不意に飛び込んできた粘着質な水音。
固く屹立した僕のペニスと愛液に潤ったドラゴンの秘所は、半ば必然的に再度の結合を果たしていた。
だがまたあの快感を味わえると身を縮めた僕の顔を、ドラゴンが心配そうに覗き込む。
「大丈夫・・・僕は大丈夫だよ・・・」
ドラゴンを安心させるようにそう呟くと、僕はドラゴンの蒼い瞳に優しげな光が宿ったのが見て取れた。

チュプッ・・・ヌチュ・・・
私は前のように理性を失わないよう己を抑えながらも、膣に咥え込んだ少年の肉棒をゆっくりと締め上げた。
「はぁぁ・・・」
幸せの中で感じる快感に、少年が喘ぎを漏らす。
「グゥ・・・」
私の秘所も先程の快楽の記憶を蘇らせたのか、喜びに満ちた戦慄きで少年を歓迎していた。
チュルル・・・ズチュッ・・・グチュ・・・
腰を動かす度に、少年が身動ぎする度に、そしてお互いが呼吸をする度に、肉棒と膣壁が愛液を纏って擦れ合う。
目の前の無力な少年を一方的に責めているという感覚が、私の中で高揚感となって弾けようとしていた。

「い、いいよぉ・・・も、もう僕・・・限界・・・」
ブシュッという音とともに、少年が先に果ててしまう。
だが膣の中に放たれた彼の熱い滾りが刺激となって、私も一気に絶頂の手前まで押し上げられた。
「ウグ・・・オォ・・・グルォォォォ!!」
射精後の余韻に少年の肉棒がビクンと跳ね、それが私へのとどめとなった。
爪を立てぬように気遣いながらも少年の体を力強く掻き抱き、体中に飛散する快楽の波動にブルブルと震える。
「ああっ・・・は・・・ぁ・・・」
深夜の閨に、少年の弱々しい声が響き渡った。
熱く燃え上がったお互いの体は寝具などなくても寒さを感じぬほどに火照り、素晴らしい伴侶を手に入れたという多幸感が背筋を焚きつけていく。
静かだが激しい少年との行為が終わると、私達は結合したまま抱き合って朝まで眠った。

「起きて、ドラゴンさん・・・」
翌朝、私はユサユサと体を揺すられる感覚と少年の声に目を覚ました。
目を開けると、少年が私の重い体をどけようと必死になっている。
私が慌てて体を浮かせると、少年はのそのそとベッドから這い出していった。
服を着た少年の後について外に出てみると、澄み渡った空に赤い太陽が顔を出している。
そして眩しげに空を見上げた私に向かって、少年が言いにくそうにおずおずと口を開いた。
「ドラゴンさん、昨日の今日で悪いんだけど・・・隣の国まで僕を運んでくれないかな・・・?」

確かに、少年のラクダを奪ってしまったのは私だ。
だからその代わりに私が少年を運ぶのは構わない。
だがあのオアシスに辿りつくまでにも、最低でも2日はかかるのだ。
その後どのくらい歩かなければならないのかは分からないが、少なくとも往復で1週間以上はかかってしまうことだろう。
私は昨夜の幸福を噛み締めると、少年に向かってコクンと大きく頷いた。
「ありがとう!」
パッと顔を輝かせて、少年が商売に使う作物を採りに畑の方へと走っていく。
その間、私は静かにその場に蹲って少年の準備が整うのを待っていた。

しばらくすると、少年は大きな麻袋をいくつか手に持って戻ってきた。
そしてそれを抱えたまま、私の背中へと登っていく。
「じゃあ、行こうか」
丸みを帯びた背中の上にちょこんと跨り、少年が元気よく声を上げる。
その声に後押しされ、私は意を決すると長い尻尾で少年の体をグルリと絡め取った。
「あ・・・何するの?」
突然のことに少年が不安げな声を漏らすが、そのまま畳んでいた翼を大きく広げる。
空を飛ぶことがわかり、少年が荷物を離さぬように自らの体に括り付けて私の首へと抱きついた。

バサァッ!
大きな羽ばたきとともに、ドラゴンの体が宙に浮いた。
僕を乗せているせいなのか初めは少しフラフラとしていたが、それにもすぐに慣れた様子で晴れ渡った空へ真っ黒なドラゴンの体が舞い上がる。
「うわあ・・・」
見る見る内に村が小さくなり、美しい曲線を描く砂丘の稜線が眼下に広がった。
「グオオオオオオオオオン!」
そしてまるで喜びを表現するかのように大きく咆哮を上げると、ドラゴンが東へ向かって翼を羽ばたく。
バサッバサッバサッ・・・
速い・・・まるで風のようだ。
目まぐるしく流れていく眼下の景色に、僕は空を飛んでいるという実感とともに胸を躍らせた。
ほんの1時間程飛んだだけで、初めてこのドラゴンと出遭ったあのオアシスを飛び越えてしまう。
「すごい!すごいよドラゴンさん!」

嬉しそうにはしゃぐ少年の声に、私は胸を張って飛び続けた。
心の通った者とともに空を飛ぶことがこれほどまでに清々しいことだとは・・・
更に1時間程飛び続けると、やがて大きな町が見えてきた。
石造りの建物、砂で覆われた道路、黄みがかった布で身を包んだ大勢の人間達。
どこを見ても淡い黄色で覆い尽くされた世界ではあったが、少年にとっては重要な生活拠点の1つなのだろう。
私は人目につかぬように町から少し離れた所にある岩陰に少年を降ろすと、小さく唸り声を上げた。
「グルル・・・」
「うん、ドラゴンさんはここで待ってて。夕方頃には戻ってくるから」
そう言うと、少年は両手一杯に商売道具を抱えて町へと駆け出していった。
あの小さな村から約150キロ・・・
ラクダに揺られて歩き続けたとしても、砂漠では4、5日はかかる距離だろう。
少年は生きるために、いつもこんな所まで厳しい砂漠を乗り越えてやってきていたのだろうか。
そう考えると、私は少年の身の上がとても気の毒に思えた。
岩陰から少しだけ首を突き出して町の様子を窺うと、大勢の人々が行き交う通りの中に風呂敷を広げて品物を売る少年の姿が見える。
「あんな少年が・・・逞しいものだな・・・」
私は疲れた翼を休めるためにそっと日陰に蹲ると、静かに少年の帰りを待つことにした。

「ただいま・・・ドラゴンさん?」
「グ・・・グル?」
少年の呼びかけに、私はハッと目を覚まして辺りを見回した。
空はすでに真っ赤な夕焼けに染まっており、少年が両手に金貨の詰まった袋を持って私の前に立っている。
どうやら、いつのまにか眠ってしまっていたようだ。
背に乗りやすいように身を低くしてやると、少年が嬉しげに私の背中を攀じ登ってくる。
そして朝と同じようにその小さな体を尻尾で固定してやると、私は西に向かって飛び立った。
上空で吹く風は地上の砂嵐にも似た烈風とは違い、なんとも涼く感じられた。
いや、もしかしたらこの胸の内に湧き上がる幸福感がそう感じさせているのかもしれない。
少しずつ地平線の向こうに沈んでいく太陽を追いかけるように飛んでいると、村に着くまでの2時間近い時間などあっという間に過ぎ去ってしまった。
村人達を驚かせぬように少年の家の前に静かに着地すると、少年が慣れた様子で私の背から滑り降りていく。
やれやれ・・・すっかり乗りこなされてしまったものだな・・・
苦笑にも似た鼻息を噴き出すと、私は少年に続いて家の中に入っていった。


それからというもの、少年は毎日のように町へ出稼ぎに行くようになった。
今までは10日に1度程度しか家の中で夜を過ごすことはできなかったが、ドラゴンのお陰で町から日帰りすることができるようになったからだ。
そして夜になると、彼らはどちらからともなくその身を暖め合い、忘我の楽しみに身を委ねるのだ。
だが・・・蜜月の時が長くは続かないように、当のドラゴンすらもが忘れ去っていた命の契約の期限が訪れようとしていた。


初めて少年と出遭ってから数年後、私はいつものように彼を町へと送り届けると、すっかり私の昼寝の場と化した岩陰で至福の一時に浸っていた。
「う・・・?」
だが昼を過ぎてしばらく経った時、私は胸に妙な違和感を感じていた。
一瞬ポッと胸の内が暖かくなったような感触があり、ほんのりと淡い光が輝いてすぐに消えていく。
「これは・・・そうか・・・もうあれから3年も経つというのか・・・」
命の契約の終了・・・それは、長く心を1つにしてきた少年と決別しなければならないということを意味していた。

すっかり薄暗くなった砂漠の空を村へ帰る途中、少年が私に話しかけてきた。
「ねえドラゴンさん、今日さ、ちょっと不思議なことがあったんだ」
「グル・・・?」
それが何なのか私にはすでにわかっていたものの、私はあえてとぼけた振りをして少年の言葉を待った。
「お昼頃に、何か急に胸の辺りが暖かくなったんだ。それに、淡い光みたいなのも見えた気がしたんだ」
そう・・・この少年は何も知らないのだ。
命の契約すらも、少年が気絶している間に私が勝手に結んだのだから。
私は胸がギュッと締めつけられるような感覚を味わいながら、少年の村へと急いだ。

夜になって、僕はドラゴンをベッドに誘うために声をかけた。
だが深い眠りに入ってしまっているのか、僕の呼びかけにも全く反応する様子がない。
仕方ない・・・毎日毎日砂漠の空を飛び回って、ドラゴンも流石に疲れてしまったのだろう。
僕は潔く諦めると、いそいそと服を着て数年振りにかけるであろう布団に包まった。
いつもと違う夜の過ごし方に僕はなかなか寝つけなかったものの、それでもやがて睡魔に打ち負かされてしまう。
「ふわぁ・・・」
そして大きな欠伸とともに、僕は夢の世界へと落ちていった。

少年が完全に寝静まったのを確認すると、私はそっと体を起こした。
試練が終わった以上、私は里へ帰らなくてはならない。
だが足音を立てないように静かに入り口へと向かいながらも、何度も少年の方を振り返ってしまう。
朝になって突然私が消えていたら、少年は何と思うことだろう。
今の私のように、身が引き裂かれるような深い悲しみに暮れてしまうのだろうか・・・?
「許してくれ・・・」
ボソリとそう呟くと、私は家の扉をキィッと押し開けた。
そして誰もいない真っ暗な村の中をしばらくとぼとぼと歩き回った後、躊躇いがちに翼を広げる。

バサァッ、バサァッ・・・
聞き慣れた翼の音が耳に入り、僕はゆっくりと目を開けた。
開いた扉の隙間から、淡い月明かりが入り込んできている。
そして、さっきまで床で寝ていたドラゴンの姿が忽然と消えていた。
「まさか・・・」
僕は嫌な予感がしてベッドから這い出すと、寝巻き姿のままで冷たい風の吹く家の外へと飛び出していた。
反射的に空を見上げると、大きな満月の中に空を飛ぶドラゴンの影が重なっている。
「そんな・・・待って!待ってよ、ドラゴンさん!」
あのドラゴンが僕を置いてどこかへ行ってしまう。
突然のことに、僕は大声で叫びながらドラゴンの後を追って走り出していた。
「お願い、待って・・・うあっ!」
柔らかい砂に足を取られて転び、僕は四つん這いになって飛び去っていくドラゴンの後ろ姿を見つめながら泣きじゃくった。
「どうして・・・僕のことが嫌いになったの?戻ってきてよぉ・・・うわああああああああん・・・」

背後から微かに聞こえる少年の悲痛な声に、私は目から涙が零れ落ちるのを感じていた。
済まない、許してくれと、何度も何度も心の中で少年に詫びる。
だがやがて愛する者と別れる悲しみに耐え切れなくなって、私は初めて少年を介抱したあの大きな岩場の陰へと着地した。
「う・・・うぅ・・・済まぬ少年よ・・・私は・・・帰らねばならぬのだ・・・」
だがどうしても、私は再び飛び上がろうという力が湧いてはこなかった。
私は彼の人生をただ滅茶苦茶に掻き回してしまっただけではないのだろうか?
私だって、本当はあの少年と離れ離れになどなりたくはないのだ。
「一体、私はどうすればよいのだ・・・うう・・・」
里に帰らなければという思いと少年と離れたくないという思いが葛藤し、私は頭を抱えて蹲ったまま泣いていた。

「う・・・ぬ・・・ここは?」
砂粒を含んだ風が体に叩き付けられる感触に、私は目を覚ました。
どうやら、私は結局ここを離れることができずにあのまま眠ってしまっていたらしい。
あの少年は一体どうなったのだろうか?
私は力強く空へと飛び上がると、少年の様子を見るために村へと引き返した。
「ん・・・どうしたというのだ?」
徐々に近づいてきた村へと目を向けると、村の真ん中で人々が集まっているのが見える。
その人々の輪の中央に、あの少年が倒れているのが目に入った。
「ま、まさか・・・!」
私は村人達が驚くのも構わずドオンという音とともに勢いよく着地すると、私を避けた人ごみの間を縫って少年へと近づいた。
まだ生きてはいるようだが、小さな体が寒さにブルブルと震えている。
私のせいで、寝巻き姿のまま一晩中外に出ていたというのか?

「グルオオオオ!」
私は大きく声を上げて周りにいた村人達を退かせると、すっかり冷え切ってしまった少年の体を尻尾で絡め取って少年の家の中へと飛び込んだ。
そしてまるで破り取るように寝巻きを脱がせ、ベッドの上へと少年を横たえる。
「済まぬ・・・私のせいでお前をこのような目に遭わせてしまって・・・」
そう呟きながら少年の上にガバッと覆い被さり、私は懸命に体を揺すった。
毛皮と厚い皮膚越しにも、少年の体の冷たさが伝わってくるようだ。
「う・・・ぅ・・・」
全身をグッタリと弛緩させた少年の口から、呻き声が漏れてくる。
家の入り口から大勢の村人達が覗いている中、私はただひたすらに少年を暖め続けた。

「あ・・・ド、ドラゴンさん・・・?」
昼過ぎ頃になって、少年はようやく目を開けた。
どうやら、凍死の危機は脱することができたらしい。
「ひどいよドラゴンさん・・・いきなりいなくなっちゃうんだもの・・・」
まだ目に涙の跡を残したままそう言った少年の顔を、思い切り舐め上げてやる。
何度も、何度も、私は少年の頬に残った塩辛い悲しみの結晶を舐め続けていた。
もう里へ戻るつもりなどない。一生、ここで暮らそう。
少年の成長を見守りながら、人間達の中でともに生きよう。
そう固く心に決め、私は少しだけ体を浮かせた。
そして入り口の方をギッと睨みつけ、中の様子を窺っていた村人達を追い返す。
「ありがとう・・・昨日の夜の分、まだだったね・・・」
そう言った少年の小さな肉棒が、喜びにそそり立っている。
私はそれを快く受け入れると、少年の胸にスリスリと顎を擦りつけてこの上もない幸福感に浸っていた。

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