まばらに白い雲が浮かぶ蒼空。森林に覆われ海へと連なる川が幾本も流れる山の上空を、
二頭の竜が並んで飛んでいた。
 先を行く雌の成竜リーゼロッテは赤い鱗を纏っているが、その身体には美しい文様を形
作る白く細かい鱗も混在している。
 翼膜と蛇腹状の腹部は白く、頭部の黄金色の双角は真昼の陽光を浴びて煌く。
 そして一番の特徴は、尻尾の先端が白い花の蕾のような形状になっている事であり、彼
女が"華竜"と呼ばれる種である事が見て取れる。
 彼女の後ろを付いて飛ぶ雄竜フロークは二回りほど小柄で、頭部から尻尾の先までの全
長が平均的な大人の人間の二倍程度。そのうち四割程度は長い尾が占めていた。まだ少年
と言える歳若い竜である。
 装甲のような頑丈な深緑色の鱗を纏っており、背部には先端が尖った突起が尻尾の先の
方まで連なっている。"甲竜"と呼ばれる種の特徴。
 ただ腹部の方だけは、乳白色の滑らかな肌でツルリとしていた。頭部に備わる一対の角
も腹部と同じ乳白色だ。
 二頭の竜は翼を羽ばたかせない滑空を主に、気流に乗って山から山へと飛んでゆく。
 やがてその姿は、森の中に降下していった──

 樹木が生えていない河岸に着地した二頭の竜は、そこから歩いて森の中に入っていった。
 ほどなく姿を現した洞窟──自分のねぐらの前で、リーゼロッテは口を開いた。
「はい到着。川からも近いし、けっこう良い場所でしょ?」
 付いてきた小柄な雄竜、フロークに首を向ける。
「すごい! 僕らが住んでるところより大きいかもっ!」
 初めて他の竜のねぐらを訪れたフロークは大興奮の様子。実際、その洞窟の幅と高さは
リーゼロッテが翼を縦横に広げてもひっかからない程だった。
「あなたのねぐらは送った時に入り口を見ただけだし、中はどうかしらね? まあ入って
一息吐きましょ。美味しい果物もたくさん採ってきてあるから」
 話しながら、大きく口を広げる洞窟の中に入っていく。
 緩やかに左曲がりになった内部を少し奥に進むと、更に広大な部屋のような空間に辿り
着いた。楽しそうにキョロキョロと部屋の中を見回すフローク。
 入り口からの光は殆ど入らず暗いが、竜種は夜目が効く。そして、ヒカリゴケという通
称の発光する苔も壁や天井部に生えている。
「うん。あ、やっぱり中も僕のねぐらより広いよ! でも此処にリーゼロッテ独りだと、
寂しくなったりしない?」
「そうね、わたしもそのうち相方の雄竜を見つけて一緒に住みたいけれど──って、そん
な話はおいといて。フロークとか友達に来てもらえば寂しくなくなるし。他の竜にはあま
り出会えないけど、友達は増やしたいわね」
 子供らしい遠慮の無い質問に答えながら、微笑するリーゼロッテ。ツガイとなれる同種
族の雄竜との出会いを求めてはいるが、運が無いのか未だ会った事は無かった。
「僕もパパとママ以外の竜と友達になったのはリーゼロッテが初めてだし、友達増やした
いなあ。この辺りにもっと竜がたくさんいればいいのに」
「ふふっ。竜が多すぎると、竜が食べる生き物が滅んでしまって竜もまた滅んでしまう…
…だから竜は少なくて、子供もあまり産まない。狩る者と狩られる者の均衡が保たれてい
るのが一番。ってパパかママから教えてもらってない?」
「あー、ずっと前にそんな話を聞いたような。でもその時はよくわかってなかったのかな
僕。今なら意味が分かるけれど」
「その頃より成長したってことね。さて、わたしが採ってきた美味しい果物は全部食べて
も何も問題ないから、召し上がれ? 楽しみにしてたでしょ」
 そう言うとリーゼロッテは部屋の片隅に移動し、竜の卵より一回り小さい大きさの橙色
の丸い果実が大量にまとめて置かれてる傍らで横になる。
 そしておもむろに一つ掴み取ると開いた口に投げ入れて咀嚼した。
「んーー、喉が潤う」
「あ、僕も食べる! いただきます!」
 目を輝かせたフロークが果実を挟むようにリーゼロッテの対面にちょこんと座り込む。
両手に大きい果実を持つと、かぶりついた。リーゼロッテほど口が大きくないため、一口
でとはいかない。
「美味しい!」
 水分を多く含んだ豊潤な果肉を噛むと、甘酸っぱい味が口腔内に広がる。また、爽やか
で良い香りも鼻に通り、フロークは一口でこの果物の虜になった。
「でしょ? わたしも此処に引っ越してきて初めて見つけたんだけど、今ではこれが果物
の中で一番のお気に入りね」
「僕もこんなに美味しい果物は食べたことなかったよ! うちの近くでも採れたらいいの
になあ」
 口の周りは果汁塗れになり、ポタポタと汁を地面に垂らしながらフロークは次々と果物
を食べていく。
 その様子を穏やかに微笑んで見遣りながら、リーゼロッテも更にいくつか果物を口に放
り込んだ。
 飛べるようになって間もないフロークにとって、隣の山からの飛行は結構な体力消費と
なっていたのだろう。それゆえの食欲の差である。

「美味しかったー。ごちそうさま」
 満ち足りた様子のフロークは、口元に吐いた果肉や果汁を前足で拭う。
「小さいのに、わたしの倍くらい食べたんじゃない?
 まあ用意した甲斐があるってものね」
 二頭はものの数分で果物をすべて平らげた。そして腹ごなしの後は、歓談の時間。
 好奇心旺盛なフロークは、リーゼロッテに色々な事を尋ねてきた。
 彼女が親と一緒に住んでいた場所のこと──
 冬に降る白い雪の話をすると、雪を見た事が無いフロークは目を輝かせて食いついた。
大地が雪に覆われて白一色に染まっているのを見たらフロークはどんな反応をするだろう
か。そんな事を胸中で想像するリーゼロッテ。
 その次は、彼女が姉と二人姉妹だったこと──
 姉が先に独り立ちして去った時は、数日の間悲しくて食事が喉を通らなくなったという
話。兄弟姉妹が居ないフロークであったが、家族が旅立って居なくなる寂しさは想像でき
たようだった。
 やがてフロークの興味は、リーゼロッテ自身──華竜種についてに移った。
「そういえばリーゼロッテの尻尾はお花みたいになってるけど、華竜は雄でもそうなって
るの?」
「えっ……? ええ、そうね」
 少し狼狽した表情を見せるリーゼロッテ。
「この花の説明をすると、ちょっと大人の話になるんだけれど……竜がどうやって子供を、
卵を作るのかは知ってる?」
「うーん、わかんない。それもずっと前にママに聞いたことがあったけど『もっと大きく
なったら』って」
「なるほど、ね。じゃあそこからになるけど、教えちゃってもいいのかしら」
「教えて教えてっ!」
「それじゃあ……まず華竜以外の竜の場合──あなたたち甲竜もね。雄の性器、おしっこ
するところを、雌の性器、後ろ足の間あたりにある穴に挿入して精液を出す。雌の身体の
準備ができていたら、それで新しい命──卵ができて、雌が産む。かなり手短な説明だけ
ど。こういう子供を作る行為のことを"交尾"っていうの」
「おしっこするところ……」
 フロークはそれを聞いて恥ずかしそうに自身の下腹部のスリットに目をやる。人間のよ
うに羞恥で顔が赤く変色することは無いが、顔や身体が熱くなるのは竜も同様だった。
「あまり思い出したくないだろうけれど、この前わたしが海岸であなたを助けた時。変な
怪物に襲われてたでしょ? あの時にあなたの性器から出たのが精液ね、たぶん」
「えっ!? 何かいつもおしっこする時と違って、変な気分になって怖かったけど、あれ
がそうだったんだ……。でも見てないのにどうして分かったの?」
「"臭い"ね。精液はおしっことは違う臭いがするから」
「へえー。じゃあ僕はもう大人になってるってこと?」
「子供を作れるようになったって意味では、そう言えるけど……竜は独り立ちした時に大
人になったというのが一般的よね」
 あんな怪物に初めての射精を経験させられたフロークも災難なことだ、と異性ながら同
情するリーゼロッテだった。
 また、交尾に関する話を始めてから彼女は少し落ち着きがなくなり、平静さを失ってき
ていたのだが、話の内容に集中しているフロークは全く気付いていなかった。
「それで、わたしたち華竜の話ね。私たちは他の竜とちょっと違っていて、尻尾の花も性
器になっているの。雄の尻尾の花の中には精液を出せる突起があって、雌の尻尾の花には
精液を吸入する穴がある。尻尾の花同士で交尾をするというわけね。
 あと、雄はあなたと違って、後ろ足の間には排泄腔っていう穴だけがあってそこからお
しっこをする。雌は他の種と同じように卵を産み出す穴があるけれど、そこに精液が入っ
ても卵はできないわ。尻尾の花の方から貰わないとね」
 華竜にとって尻尾の美しい花は、他の竜種には無い誇れるものだという矜持がある。リ
ーゼロッテも、少し得意げに話したのだった。
「竜なのに全然違うんだなあ。でもそれって、尻尾が千切れたら子供が作れないってこと
になるんだよね?」
「ちょっ──その通りだけど、いきなり物騒なこと言わないでよ。
 尻尾がゾクっとしたわ……」
「あっ、ごめん」
 苦笑するリーゼロッテが尻尾をビクリと動かした衝撃で花の先端から蜜のような液体が
少し垂れ落ちたが、フロークは気付かなかった。しかし──
「ん……? なんな甘いような、変な臭いがしない? さっきの果物のじゃないよね」
 フロークがふと気付いたように、鼻先をクンクンと動かす。彼が言ったとおり、洞窟に
入ってきた時には無かった臭いが周囲に立ち込めていた。
「ああ、わたしのせいね……」
 少し気まずい様子でリーゼロッテが答えて、寝そべった体勢のまま尻尾の先をくるんと
自分の頭の前まで動かした。
 臭いは彼女の尻尾の白い花から漂っていた。花の蕾の先からは粘土のある透明な液体が
糸を引いてこぼれ出ていた。
「え、どういうこと?」
 心配そうに聞いてくるフローク。
 リーゼロッテは、交尾の話などをしていたせいで性欲が高まり、興奮状態になってしま
っていた。
 性器である尻尾の花から発せられる臭いの正体は、雄の性欲を高めて興奮させるフェロ
モン。
 独りで居たならば、彼女はいつものように尻尾の花の中に指を挿しこんだり舌で舐めた
りなどの自慰を行って解消しただろう。
 しかし今この場には、種族は違えど雄竜が居る──

「ごめんなさい──もう我慢できない」
 我慢の限界を超えたリーゼロッテは、突如として立ち上がるとフロークを仰向けに押し
倒すように覆いかぶさり、彼の四肢の動きも自分の四肢で抑えて封じてしまった。
「えっ!? うわあっ! リーゼロッテ!?」
 突然のことに驚き、混乱しながらリーゼロッテの拘束を解こうともがくフローク。しか
し体格差があるため、まったく抜け出せそうになかった。
「強引で申し訳ないんだけど、ちょっとわたしと交尾をして欲しいの。もう身体が疼いて
しまって……。大丈夫、できるだけ優しくするから。フロークもあんな話を聞きたがった
わけだし、興味あるでしょ?」
 呼吸も荒く、浮ついた様子で言うリーゼロッテ。
「そ、そんなこと言われても僕……
 リーゼロッテとは種族が違うし、子供は作れないよね?」
「できないわね。でもいつか同じ種族の雌竜とするときの練習と思えばいいんじゃない?
 それに、気持ちいい事だから──」
 気持ちいい事。そう言われて、海辺で怪物に襲われて射精させられた時も、わけが分か
らず怖いながらも快感だった感覚を思い出したフロークは、ごくりと唾を飲む。
「う、うん。それだったら……それに、なんだか僕も変な気分になってきちゃった」
 フロークもまた、身体が熱くなってきていた。己の意思とは無関係に、性欲が高まり高
揚する。リーゼロッテの性器──尻尾の花から出ている臭いの物質、雌のフェロモンを呼
吸により体内に取り込み続けているためだ。
「それじゃあ、わたしにまかせて。もし痛かったりしたら、すぐ止めるから言って」
 年長でありフロークより性知識も持っているが故に、リーゼロッテが主導権を握る形に
なってはいるが、彼女もまた雄竜と交尾した経験は無い。決して傷つけたりしないように
と、興奮しながらも慎重に行う事を意識していた。
 フロークに覆いかぶさっていた自身の身体を少し後退させるリーゼロッテ。
 彼のツルリとした白い下腹部にあるスリットの上に顎を近づけていく。スリットからは、
フェロモンの影響で既に少しだけ勃起した雄性器の先が出ていた。
 少し開いた口腔から真紅の舌を伸ばすと、スリットと突起を股の下側からジュルリと舐
め上げる。
「ふああっ!」
 その刺激に我知らず声が出てしまうフローク。リーゼロッテは舌を離して一瞬動きを止
めるが、フロークが痛みで声を上げたのではないと悟ると、すぐまた舌でゆっくり舐め上
げる事を繰り返した。
 細く呻くような声を漏らしながら、フロークの息が少しずつ荒くなる。意識が性器に与
えられる感覚へと集中していく。
 そしてリーゼロッテは舌の動きに変化も加えた。まだ未成熟ながらビクビクとしながら
徐々に太く長くなる先細りの雄槍に、舌をゆっくりと押し付けたり、舌先で素早く突いた
りする。
「き、気持ちいい。ちんちんって、気持ちいいと大きくなるんだね……」
 海辺で襲われた時と同様に大きく勃起して血管も浮き出ているピンク色の自分の性器を、
フロークは不思議そうに見ていた。先端からは先走りの透明な液体も出てきていたが、リ
ーゼロッテの唾液にまみれていて最早判別はつかない。
 リーゼロッテは舌を口腔に戻して頭を少し上げると、フロークの顔の方に視線を向ける。
「そうよ。身体はまだ小さいのに、けっこう大きくなるのね。わたしもちょっと驚いたわ。
もう準備も良さそうだし、こっちに挿れてもらおうかしら。ふふ……」
 言いながら彼女は、二本の前肢でフロークの後肢をそれぞれ掴んで左右に開き、大股開
きの姿勢にする。
 そして、蛇が鎌首をもたげるように赤い尻尾を動かし、フロークの目の前に先端の白い
花の蕾を向けた。
 文字通り花が咲くように開いていく五枚の白い花弁。厚めの翼膜のような質感の花弁は、
その内側も外側と同じ白。開くと同時に、濃厚な雌華竜のフェロモンの臭いがまた周囲に
広がった。
 そして、その花弁の中央には小さい穴が開いている。穴からは糸を引く透明の粘液が滴
れて、その下にあるフロークの腹部に付着した。
 小さい穴の中は赤紫色の粘膜状で、外からはよく見えないが弾力のあるイボ状の突起が
無数に備わっていた。それは言うまでもなく、雄の性器を刺激して射精させるための器官。
「わあ……綺麗」
 フロークが開いた花を見て述べた素直な感想は、リーゼロッテを喜ばせた。
 開いた花は下を向くと、屹立しているいるフロークの雄槍に粘液を垂らしながら近づい
ていく。
 そして遂に花の中央の穴と雄槍の先端が触れるや否や、穴がガバッ少し広がり一気に根
元までを呑み込んだ。
 ジュブブッ──
「うああっ! 花の中に入っちゃった……暖かい」
 ヌルヌルした粘液に潤滑性があるため、呆気ないものだった。高めの体温の柔らかい粘
膜に包み込まれる雄槍。
「フロークの熱いのも伝わってくる……わたしもやっと気持ちよくなれるわね」
 尻尾の花は雌の性器。当然そこは性感帯であり、雄を迎え入れたリーゼロッテにも待ち
望んでいた快感が走った。
 雄槍を根元まで呑み込んだ花の穴と白い花弁は、フロークのスリットと下腹部を覆って
密着。初めての交わりの瞬間の余韻をしばし堪能する二頭の竜だった。
 しかし束の間の小休止はすぐに終りを迎える。
 リーゼロッテは更なる快感を貪ろうと、雄槍をくわえ込んだ尻尾を前後にゆっくり動か
しはじめた。
 ズリュリュリュ、ズリュリュリュ──
「あっ、うああああっ! 何か中で擦れてるっ! 何これ!?」
 花に飲まれた自身の性器が無数のイボで擦られるという、これまでと比べ物にならない
刺激。その強さにフロークは叫んだ。思わず自由な前肢で、花に繋がるリーゼロッテの赤
い尻尾を掴んで動きを止めようとしてしまう。が、性器から生じる快感もあってうまく前
足に力が入らず、動きを止めるには及ばなかった。
 ズリュリュリュ、ズリュリュリュ──
「あううっ! も、もう出ちゃうっ……!」
 無意識に腰がガクガクと動き出し、フロークは早くも果てて射精してしまう。しかしそ
れでも尻尾の動きは止まらず、更には吸引するように精液を吸い上げていく。
「すごいわ……自分で慰めるのと全然違うっ。もっと、もっと──」
 リーゼロッテの方はまだまだ満足しきっておらず、
尻尾の動きは更に激しくなっていった。
 前後運後によって白い花弁が粘液に塗れているフロークの下腹部に密着して離れる事を
繰り返し、ヌチャヌチャという音をたてる。
 加えて花性器の内部が波打つような蠕動をし始めて、フロークの雄槍を更に刺激する。
「うああっ! 出しちゃったのにっ、気持ちいいのが止まらない!? リーゼロッテ、お
願いとめてー!」
 海辺で襲われた時は、一度射精すると全身が脱力して興奮も一気に冷めていった。しか
し今は射精した後も快感が持続し、再び射精に至ってしまいそうでもあった。
 通常ならば、雄が一度の射精を終えた時には性欲抑制効果のあるホルモンが体内で分泌
されるのだが、リーゼロッテの性器から放出されたフェロモンは、そのホルモンの分泌を
抑える効果も持っていたのだ。
 ズリュ、ズリュ、ズリュ、ズリュ──
 激しく動き続ける尻尾と花。
 絶え間なくフロークの雄槍に擦り付けられる無数のイボと吸引──
「ま、またくるっ! 出ちゃうっ! あううっ……!」
 フロークが二度目の射精に至る。息も絶え絶えになってきており酷く消耗しているが、
交尾の悦楽に耽溺してしまったリーゼロッテは彼の状態を意識することができなくなって
いた。
 それから数分後、ようやくリーゼロッテにも絶頂が訪れた。
「ああっ! 来るっ! きちゃうっ!」
 嬌声を上げた巨大な赤い竜の全身の筋肉に力が入り、ピンと張り詰める。
 そして無意識に、彼女の眼前で自身の尻尾を力なく掴んでいるフロークの前足に噛み付
いてしまう。本気ではない甘噛み程度の力。愛おしく思う相手に対して、気持ちが昂ぶっ
た竜や獣がよく行う"愛咬"という行為。
 同時に、尻尾の花の中も一際強く収縮してフロークの雄槍をギュッと締め付け、イボを
押し当てた。
「ああああっー! あう……う」
 最後の止めのようなその圧搾で三度目の射精をしてしまうフロークだったが、もう放た
れる精液の量も少なくなってしまっていた。

 しばらくしてリーゼロッテは我に返ると、フロークの前足から顎を離し尻尾の花性器か
らも彼を開放した。
 ジュポッ──と外に出た雄槍は小さく萎え始めていた。イボで擦られ過ぎたせいか、少
し元のピンク色より腫れて赤みが強くなってしまっているのが痛々しい。
「ふうぅ……。フローク? だ、大丈夫?」
 精根尽き果てたように、横たわって動かなくなってしまった小さい雄竜を心配する。
 暫く待って返事が無かったので、再び声をかけた。
「ねえフローク? ちょっと、やり過ぎちゃったかしら……」
「んん……ちんちんがビリビリしてちょっと痛い……」
 今度は返ってくる弱々しい声。
「そ、そう。ごめんね、夢中になっちゃって」
「交尾って、すごいんだね……」
「ええ。わたしも初めてだったけど、良かったわ」

 その後、疲弊して仰臥したままのフロークをねぐらに置いて独りで出かけたリーゼロッ
テは、オオイノシシを一頭狩って戻った。
 オオイノシシの肉を平らげたフロークとまた歓談を楽しむ。そして彼の体力が十分に回
復してきた時には夕方になっていた。
 日が暮れる前には戻ると両親と約束していたフロークの帰路も、リーゼロッテは送って
いくと申し出る。
 一直線に隣の山まで飛ぶだけの行程ゆえ方向感覚に優れる竜が迷う要素は皆無なのだが、
自分の行為のせいで消耗した彼に何かあってはいけないという気遣い。
 フロークのねぐらに到着し、彼の両親にも軽く挨拶する。
 先日、襲われていた彼を助けたという功績があるため、両親のリーゼロッテに対する心
象は良かった。
 そして彼女が別れを告げて飛び立った時、
「また交尾しようねーー!」
 と、フロークが前足を振りながら大声を上げるのを聞いてリーゼロッテは噴き出し、空
中でバランスを崩して落下しそうになった。
「あれ、完璧に親に聞こえたわよね…………。よその家族の問題だし、わたしは知らない
からね……合意の上だから……わたしに非はないから……」
 ぶつぶつと独りごちながら、夕暮れの紅い空を赤い華竜が飛び去っていった。

                                    (おわり)

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