背中から落下し、地面に叩きつけられる痛みに呻く。
 己の不注意さを恨みながら、まだ子供の雌竜は、自分が落下してきた頭上を仰ぐ。木漏れ日はそれほど明るくないが、頭上に開いている穴からは光が差している。
「この高さじゃ登れないなあ。いたた…」
 打ち付けた背中の痛みを我慢しながら、竜は嘆息する。
 体の殆どは純白の鱗に覆われ、蛇腹状の腹部側から尻尾もまた白い竜。それとは対照的に、頭部に生える一対の短い角と手足の爪は艶のある黒だった。二足で機敏に走ることができる種の竜で、翼は持たない。
 体高は、人間の成人女性程度。頭から長い尾の先までは、その倍に近かった。
 落ち着いて周囲を見回すと、地下通路のようになっていることがわかる。光は頭上の穴からしか差し込んでいないため、すこし通路を奥に行ったところからは完全な闇だ。
「森の地下にこんな空洞があるなんて、パパとママからも聞いたこと無かったけど…」
 登って出る事ができないのならば、通路を進んで出口を見つける他、脱出の術は無い。
 幼い白竜は、独りで未知の地下に落ちてしまった恐怖を押さえ込み、深呼吸する。
 伸びる通路のどちら側に進むべきか──瞳を閉じて静寂の中、集中する。
「こっち…かな」
 風の流れてくる方向が分かった。その方向に進めば出口があるはず──決心すると、早くこの場から脱出したいという思いもあって、彼女はすぐに地下通路を進み始める。
 完全な闇の中、炎の吐息を小さく吐く事を繰り返し、周囲の地形を確認しながら恐る恐る進んでいく。

 時間の感覚ははっきりしなかったが、しばらく進んでいくと、前方から光が差しているのが見えた。
「出口だ!」
 闇の空間から開放された安堵で無意識に表情も緩み、一気に駆け出す。
 そして白竜は、光の差している広い空間へと飛び出した。
「えっ……」
 そこは広い空間ではあったが、まだ外ではなかった。先ほど彼女が落下してしまった穴よりも更に高い天井にある穴から光は注いでいるが、洞窟の中の広間でしかなかった。そして──
「なんなの、これ…?」
 楕円形の広間の中央に、見たことのない生物が居た。彼女よりも巨大で、成長しきった大人の竜ほどの大きさ。
 巨大な甲虫のようで、その体は多くの節のあるキチン質のような暗褐色の外殻に覆われていた。頭部から尾部にかけて少しずつ細くなっている。胴体の側面には、多数の短い脚が並んでいるのが見える。
 彼女は未知の生物に恐怖して、しばし硬直したままだった。しかしそれは、微動だにせず鎮座し続けている。
(死んでる? それとも眠ってる?)
 静寂の中、様子を伺う。その生物から視線を離すと、ちょうどその生物の後方──自分が入ってきたのとは逆側に、また通路が続いてるのが視界に入る。そして微かに、その方向から風も流れてきていた。
(ここから出るには、あの先に進まないと…)
 恐る恐る、音を立てないように足元に注意しながら、広間中央の巨大な生物を迂回して壁際を進む。
 そしてちょうど半分ほど進み、巨大生物の同の真横を通り過ぎた刹那。唐突に、生物が動きをみせた。やはり、死んでいるではなかったのだ。
 甲虫のような全身の外殻の間が広がる。そして外殻の間の節目の奥から、ゴム質のような真紅の触手が多数生えてきた。
「!!」
 突然の事に彼女はパニックになり、向かう先の細い通路へと駆け出す。その先に行けば、巨大な生物は入ってこれない。しかし、もう通路が目の前というところで、右足に赤い触手の一本が素早く巻きつき、彼女は転倒してしまった。
「やだあぁっ!」
 思わず悲鳴をあげてしまう。すぐに手の鋭い爪を振りかざして、触手を断ち切ろうとするが、触手の方が素早かった。巨大生物から多数の触手が殺到し、両手足、首、腰、尻尾──全身に絡みつき、白い竜を仰向けで四肢を開いた形に拘束する。
 全力で力を入れて暴れるが、拘束はびくともしなかった。
 素早い動きを見せた触手とは対照的に、巨大生物の本体がズズッと音を立ててゆっくりと動き、頭部を彼女の方向けてくる。
 よく見ると頭の下部には、その体には相応しくない小さな眼らしき黒い眼があった。それぞれ大きさが異なる三対の複眼が、拘束されてもがく白い竜に向けられる。
「いやっ! はなしてっ!!」
 ついに涙を流しながら必死に抵抗を試みるが、手足も尾も全然動かすことができない。
 そして、触手はゆっくりと竜を甲虫の本体へとひっぱり始めた。
「ああ…………」
 全力でもがき、叫んでもどうにもならなかった。彼女は絶望し、声からも力が抜けてしまう。
 ついに甲虫の目の前まで触手に引きずられてきた時、甲虫は緩慢な動きで口を開いた。巨大な口腔の中では粘性のある唾液が糸を引いている。
(食べられちゃう……いやだよぉ……!)
 その巨大な口で丸呑みにされてしまうのだと思ったが、そうではなかった。
 甲虫は口腔から太い舌のような伸ばす。そして舌の先端に開いた小さな穴から、薄い緑色をした霧状のものを彼女の顔目掛けて吹きかけた。
「えっ、なにこれ……。もしかして毒!?」
 無臭だった事もあり、思い至った時には既に吸い込んでしまっていた。
 甲虫は、再び緩慢な動作で口を閉じる。そのまま、しばらくは何も起きなかった。獲物に毒が回るのを待っているのだという事くらいは、彼女にも推測できた。

 二分ほどが過ぎ、彼女の体に異変が起きた。頭がぼーっとして、身体に力が入らなくなってきた。尻尾の付け根から下腹部の辺りが熱く疼くような感覚が沸き始める。じっと体を動かしていないにも関わらず、呼吸も荒くなってきた。
 毒が回った事を把握したのか、甲虫は動きを見せた。拘束に使わず余っていた触手の一本を白い竜の柔らかい蛇腹に伸ばす。胸元からゆっくりと下に向かうように、その先端を押し付け蠢く。
「やだ……ぁ」
 意識は朦朧としているが、身体は敏感になっており、はっきり分かる触手の感触が気持ち悪い。しかし、唯一動かすことができる頭を左右に振るくらいしかできない。
 やがて両足の付け根近くまで動いた触手は、目的のものを見つけた。まだ雄竜を迎えた事もない、幼い雌の性器。蛇腹の筋の部分にあるその横長の割れ目を、触手の先端でつつく。
 その瞬間、未知の強い感覚にビクンと竜の身体が反応した。
「いやだよお……やめてよお……」
 力無く拒絶の言葉を吐いても、甲虫には通じない。
 最初は未知の感覚に戸惑っていたが、何度も性器の割れ目を突かれていると、それが気持ちよくなってきていた。いつの間にか割れ目からにじみ出た液体が、触手と白い竜の下腹部を濡らしていた。

 しばらく割れ目を浅く突いていた触手が、それを止めて彼女の身体から離れた。
 雄竜との交尾の経験など無い彼女だったが、触手に与えられる快感の中で本能的に分かってきていた。この甲虫が自分にしようとしている事が、何なのか──。しかし最早逃れる術は無かった。
 準備は整った、とばかりに甲虫の本体が動き出す。触手で拘束したまま、その巨体で白い竜の上にのしかかってくる。
 伸ばした上体で拘束された尻尾の先。足の先。腰──ゆっくりと、白い竜の身体に被さっていく。
 甲虫はその巨体の割には軽く、重圧は少なかった。また、その胴体の下部だけはブヨブヨと柔らかいピンク色の表皮になっており、下敷きになった竜の身体の形に合わせて凹んでいた。
 白竜の胸元辺りまで圧し掛かると、甲虫はその動きを止めた。
 次に、胴体の尾部にある窄まった小さい穴からズルリと、粘液を纏った乳白色の管を出す。柔らかい管には竹のような節が等間隔でいくつも連なり、先端部は少し膨らんでから細くなっており、口のように二つに開く形状になっている。圧し掛かられている彼女は、それを見る事ができない。
 雌竜の性器までゆっくりと伸ばされたその管は、そのままその割れ目を押し開いて潜り込みはじめる。
「う……ああぁ……入って…くる……」
 さきほどの触手より少し太い管が挿入されるが、快感のみで痛みは無い。毒が回りきってぼやけた思考の中で、性器からの刺激だけが鮮明に感じ取れていた。毒が無ければ、このような生物との交尾など受け入れ難く不快だったろうが、今の彼女は毒で増幅された快感に屈していた。
 乳白色の管がズブ…ズブ…と、熱く火照った割れ目の奥へと潜り込んでいく。雌竜の性器が分泌する液体と管が纏う粘液の効果で、その動きに抵抗は殆どない。
 管の先端部が子宮に続く小さい穴に到達すると、一旦動きを止めてから勢いを付けて先端部を押し込んだ。
「うぁっ…!!」
 今までにないその強烈な刺激に、圧し掛かられている白竜の身体もビクリと大きく跳ねようとする。さすがに快感だけでなく痛みも伴ったため、朦朧としていた意識が少し回復してしまった。そのせいで生じる不快感。
「いやだよ…抜いてよお……助けてパパ、ママ……」
 拘束されて圧し掛かられ毒も回っている身体は全く動かすことができない。
 子宮内に潜り込んだ管の先端部が粘液の糸を引きながらバカリと二つに別れ、口を開いた。そして管がビクッビクッと震えはじめる。そして管の根元から、ボコリと丸い膨らみが生じる。管が震えるのに合わせて、丸い膨らみは管にある節の間の部分を一つずつ進むように先へと移動していく。
 管の中を進む丸い膨らみは竜の割れ目に到達し、潜り込んでいく。
「やだ……きもちいい……やだ……」
 膨らみによって性器の内側から押し広げられ、胎内に圧迫感が生じるが、すべて快感へと変換されてしまう。
 一節ずつ越えてゆっくり進んだ丸い膨らみはついに先端部の手前に到達してしまった。そして──
「うあああっっ!!」
 ドチャッ…と勢いよく、白竜の子宮の中に、半透明で淡い緑色をしたゼリー状のものに包まれた白い卵が産みつけられた。続いて間を置かずに、白濁した熱い粘液も管の開いた口からドロドロと吹き出し、狭い子宮内を満たしていく。
 その衝撃で絶頂に達し、彼女の身体は反って硬直するが、すぐに全身から力が抜けた。
 涙で霞む瞳が最後に、外の光が刺す高い天井の穴に向けられた。
 その穴から、彼女の親のような大きい白竜が舞い降りてくるのが見えたのは、助けて欲しいという思いが見せた幻覚か否か──
 幼い白い竜は、力尽きて気を失った。(おわり)


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ハッピーエンドかバッドエンドか、好きな方で解釈できる終わり方にしておきました。

このページへのコメント

こちらこそ、そう言ってもらえると嬉しいです。
こういうのが全然無いので自分で書いてしまった感じですが、もっと増えたらと思いますね。

0
Posted by MIA Dragon 2014年12月23日(火) 17:50:35
http://www.pixiv.net/member.php?id=12886824
返信

触手大好き!ありがとうございます!!

0
Posted by なめ 2014年12月17日(水) 00:10:59 返信

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