秋も深まってきた山の小道を、3匹のドラゴン達が歩いていた。
薄いピンク色、水色がかった白色、そして鮮やかな抹茶色。
1番右を歩いていた白いドラゴンのバーグは、気の弱そうな面持ちでピンク色をした姉の顔色をうかがった。
いつもはやれ暇つぶしだのストレス解消だのと不穏で理不尽な名目のもとにいじめられていたバーグだったが、今日は散歩に誘ってくれるなどどことなく機嫌のよさそうな姉の様子に少しばかり安心する。

「あー、お腹空いたわ〜」
ピンク色のフサフサな毛並みに覆われた姉のサフランが、あくびをしながらぼそりと呟いた。
「そんなこと言ったって食べるものなんてないよ」
「なんか甘いものがいいな〜」
僕の話など全く聞いている様子もなく、サフランは次々とあれが食べたいこれが食べたいと欲望の対象を生み出していった。
抹茶色をしたの若い兄のマッチャも、ひたすら甘美な妄想に耽る姉に閉口し、無言のまま隣を歩いている。
だが、サフランが空を見上げながら様々に形を変えていく雲を食べ物に見立てているうちに、僕らはいつのまにか森の中に足を踏み入れていた。
薄い木の葉でできたトンネルの中を、疎らにこぼれて来る太陽の光に照らされながら涼しさを味わう。
先ほどまでぶつぶつ何事かを呟いていたサフランもいつのまにか黙り、僕らは黙々と落ち葉の溜まり始めた道を進んでいた。
「あっ」
唐突に、目を輝かせた姉が声を上げる。
「どうしたの?」
何か美味しそうな木の実でも見つけたのだろうか?じっと1点に集中した姉の視線の先を目で追うと・・・

ブーンブーンブーン・・・
大きな蜂の巣があった。まるでセミの成虫でも飛んでいるのか思うほど大きな蜂が、毒々しい黄色と黒の縞模様に覆われた腹をこれ見よがしに振りながらその周囲を飛び回っている。
そして、僕はサフランが何に目を奪われたのかを理解した。
たわわに実ったバナナの房のような蜂の巣から、甘い匂いを放つ黄金の雫が滲み出している。蜂蜜だ。
「ね、姉さん・・・まさか・・・?」
「ねー、蜂蜜とってよー」
僕は思わず自分で取ればいいだろ!と叫びそうになった。
だがそんなことを言ったら凶暴な姉のことだ、いったい何をされるか・・・
もっとも、僕らの様子を警戒してか巡回する兵の数を増やした蜂の巣から僕に蜂蜜を取ってこいなどというのがすでに酷い仕打ちなのだけど。
「そんな・・・むちゃだよ〜」
無駄だと知りつつも一応控えめな抗議を試みる。
「ふ〜ん・・・」
僕を見下すようにそう言うと、姉は今度はマッチャの方を振り向いて言った。
「そうだ!マッチャこういうの得意でしょ。とってよー」
そういえば、マッチャは物凄く舌を伸ばせるんだっけ。
「いいよー」
あまりに軽く安請合いするマッチャに一抹の不安を感じながらも、僕は危険な重責から逃れられたことにほっとした。
「ソレ!」
マッチャの細長く伸びた舌が、あっというまに蜂の巣の根元に絡み付く。
突然の攻撃に、周囲を飛び回る蜂達もパニックになっていた。

木の枝から蜂の巣をもぎ取ると、マッチャはやすやすと蜂の巣を手に入れてしまった。
「よくやったわー。さあ早くアタシに・・・」
自らの手を汚さずに目的を達したサフランが嬉嬉として蜂の巣を受け取ろうとすると、マッチャは何を血迷ったのか蜂の巣を持ったまま突然逃げ出した。
「あ!」
全力で僕達から逃げながら、蜂蜜をすすり蜂の巣をもぐもぐと頬張る。
「・・・・・・」
突然自分を裏切った弟の様子を、サフランが無言で睨みつけていた。
「許せない・・・」
別に自分で取った獲物を持ち去っただけでマッチャには特に非はないのだが、サフランはメラメラと怒りの炎を燃え上がらせていた。
「酷いよねマッチャったら・・・蜂の巣持って行っちゃった・・・よ・・・え?」
今にも怒りが爆発しそうな姉を少しでも落ち着かせようと、僕も一応同意を示した。
だが、顔色を窺うためにサフランの方を覗き見ると、サフランはなぜか恐ろしい形相で僕を睨みつけていた。
「もうほんとに許せない・・・」
「え?え?なんで・・・?」
「もとはと言えばアンタが取ってこないからこんなことになったのよー」
またしても理不尽な理由で姉の怒りの矛先が僕の方に向いていた。
「そ、そんな・・・僕は全然悪くな・・・」
「今日もとことんいじめてあげるから覚悟しなさい!」
「そ、そんなぁぁぁ・・・・・・」
もはや見えなくなりそうなくらい遠くまで行ってしまったマッチャの後姿を非難の目で見つめながら、僕は結局いつもと変わらぬ悲惨な1日を過ごすことになった自分の運命を呪っていた。

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