雲1つ無い清々しい快晴の空の下、我は見晴らしの良い断崖の上から遥かな下界に佇む人間達の町を眺めていた。
その多種多様な文化や思想が混在するはずの人間達が驚く程に統制の取れた生活を営んでいる様は我にとっても感嘆と賞賛の対象であると同時に、心中に渦巻く微かな葛藤が小さな苦笑となって我の顔に滲み出していく。
好奇心旺盛な人間達でさえ近付くことの無い峻険な岩山の奥地に住まう我ら竜族にも、至極当然のことながら他者とは違う様々な生き方を目指す者達が存在するのだ。
日々の糧を手に入れようと人間達の町や村を襲う乱暴者、毎日毎日飽きもせずにひたすら日光浴に耽る怠け者、四六時中雌竜の尻を追い掛け回しては盛んに交尾に励む色狂いなど・・・例を挙げればキリが無いだろう。
そしてそんな温厚な者から粗暴な者に至るまでの我を含めた数多の竜達は、山頂に棲んでいるあるたった1匹の巨大な雌老竜によって統治されていた。

誰よりも長く生きているからか、或いは元々巨体に恵まれた種族なのか、毒々しいまでの深い紅色に染まるその凄まじい迫力を伴った巨躯は見る者全てを激しい恐怖と畏怖の念に竦ませるのだという。
だが周囲から大婆様と呼ばれている彼女が何よりも他の仲間達に恐れられている原因は、正にその恐ろしいまでの残虐で酷薄な性格にあった。
我はまだ直接姿を見たことは無いのだが、噂によれば彼女は自分に逆らったり気分を害した者は言うに及ばず、番いになろうと言い寄ってきた雄竜でさえ悉くその魔性の如き熟れた雌の器官で捻り潰してしまうのだそうだ。
未だかつて大婆様に関わって生きていた雄竜は、運良くその夫に選ばれた1匹を除いて他にはいないらしい。
戦えば誰も敵わぬ程の屈強な雄竜にさえ"目を付けられたら最後"とまで云わしめた大婆様の余りの凶暴さ故に、我らは誰からともなく皆自然とある一定の秩序の元に暮らしていたのだ。
人間達の言葉を借りるならば、それはある種の恐怖政治だと言ってもいいだろう。
とは言え、それによって受けられる恩恵もまた一部の同胞達にとっては手放し難いものだった。

それはこの我を筆頭にした本来は他者との争いや対立を好まぬ温厚な性格の竜達が、近寄る者全てに敵意や殺意を向けるような荒くれ者と同じ土地に暮らすことが出来るということ。
そしてその温厚な性格の竜達の中には、誰もが憧れる程に美しい雌竜達の存在も多分に含まれている。
つまりこの岩山は、数百年にも及ぶ永い生涯を平和に暮らしたい竜達にとっての楽園でもあったのだ。
「さてと・・・」
心地良い昼下がりの一時をそんな思索に耽りながら静かに堪能すると、我は暫しの間中断していた交尾相手の捜索へと戻ることにした。
空の晴れた日はこうして手頃な雌竜を探して交尾を迫るのが、我にとっての日課となっている。
もちろん時には交尾を断られることもあったものの、基本的に終始暇を持て余している我ら竜族にとってはそれさえもが丁度良い娯楽を兼ねた暇つぶしであるが故に、大抵の場合は快く応じてもらえることが多かった。

だがこの世に生まれ落ちてからこれまでの約300年・・・我は生涯の伴侶となる雌竜を探したことは1度も無い。
それはこの自由奔放な生活が妻を得ることで多少なりとも制限されてしまうことへの忌避であったとも言えるが、見方を変えれば我が雌竜をその程度のものとしてしか認識していなかったことの表れなのだろう。
山頂に棲むという恐ろしい大婆様の存在が、我の中に雌竜に対しての潜在的な恐怖や畏怖の念を僅かながらも醸成していったのであろうことは想像に難くなかった。

とその時、我は眼前の岩陰に過ぎった大きな赤い影を認めてその足を止めていた。
見たところ雌竜のようだが、地面に転がっているらしいその影の大きさは我より一回り程も大きい。
そして慎重に足音を殺して背後からその雌竜に近付いてみると、彼女は地面から突き出した岩の突起で負ったらしい柔らかそうな白い腹に出来た小さな裂傷を精一杯首を伸ばして舐めているところだった。
「あっ・・・ん・・・」
だが仰向けで体を丸めるという慣れない姿勢のせいか勢い余った舌先が傷口に強く擦れてしまい、ピリリと全身に走ったのであろう鋭い痛みに彼女が可愛らしい声を上げる。
その全身を覆った透き通る程に爽やかな赤鱗と相俟って、我の目には彼女が途轍もなく美しい雌竜に映っていた。

「どうしたのだ?」
「あっ・・・あの・・・怪我が上手く舐められなくて・・・」
自らの腹に出来た、細々とした赤い血の滲む切り傷・・・
我ら雄竜にとっては掠り傷以外の何物でもないのだが、卵を温めるために分厚い脂肪と薄い皮膜で覆われているだけの彼女達の腹はあのような小さな傷も残したくない程に大切な場所なのだろう。
だが巨体のせいかあまりにも不器用な雌竜の様子を黙って見ていることが出来ず、我はそっと彼女に近付くとその傷口を優しく舐め上げていた。

ペロペロッ・・・
「はっ・・・あん・・・」
傷口を気遣ってか微かに遠慮がちだった自身の舌遣いとは異なるそのくすぐったい舌先の刺激に、彼女が少しばかり上気した桃色の顔を仰け反らせながらか細い喘ぎ声を上げる。
我よりも大きな体をしているというのにまるで純真な幼竜の如き反応を見せる彼女の様子を眺めながら、我は早くも塞がり掛けている小さな傷から次第にその大きくて柔らかい腹を舐め回し始めていた。
「あふ・・・ちょ・・・ちょっと・・・ふあっ・・・」
雌竜にとっての唯一の弱点とも言える白い腹を弄ばれる屈辱的ながらも心地良い感覚が、そんな彼女の抗議の声をブツブツと細かに途切れさせていく。
そして我の方も何時の間にか興奮にそそり立っていた己の肉棒の存在を確かめると、元より仰向けだった彼女の両手を乾いた地面の上に力強く押し付けていた。

「な、何するの・・・?」
突然の我の行動に上げたその彼女の声に、明らかな不安と恐れが入り混じっている。
自分より小さな雄に組み敷かれたにもかかわらず何1つ抵抗を示すこともないままに、彼女はただただどうして良いのか分からないといった様子で我の顔を見つめ返しているだけだった。
「この期に及んで何をするかだと?お主のその歳で、分からぬとは言わせぬぞ」
「わ、分からないわ・・・あっ・・・や、やめて・・・」
やがて我のいきり立った怒張の先端がそのプヨプヨとした腹に触れた途端に、彼女が我から逃れようと身を捩る。
だが巨体の割には非力らしい彼女の腕は我に押さえ付けられたままピクリとも地を離れることは無く、我はか弱い雌竜を力尽くで支配しているという生まれて初めての状況に未知の興奮さえ覚え始めていた。

「お、お願い・・・ねぇ・・・やめてよ・・・」
一体これから何をされるのかという暗い不安故か、彼女の美しい顔がみるみる内に歪んでいく。
彼女は確かに、そんな我の意図を正確には把握していないようだった。
だが我とて一旦膨れ上がった本能的な欲求を今更押さえ付けることなどできるはずもなく、微かに涙さえ浮かべ始めた雌竜の切ない願いを無視して下腹部にあるであろう秘裂を探し始める。
そして先程の裂傷などよりも遥かに長くて赤い一筋の割れ目を広大な腹の上に見出すと、我は微塵の躊躇も無くそこへ己の雄を突き入れていた。

ズ・・・ズブブッ・・・
「ああん・・・!」
やがて頑なな拒絶の意思とは無関係に溢れ出して来た芳醇な甘い香りを放つ桃色の愛液が、その身を貫いた我の肉棒を更に膣の奥深くへと導いていく。
まるで初めて雄を受け入れたかのようなその拙い雌の躍動が、却って我のモノに背徳的な快感を叩き込んでいた。
ズッ・・・ジュブ・・・ギュウゥ・・・
「く・・・おぉ・・・これ・・・は・・・」
グイグイと我の肉棒を奥へ吸い込んでは、不定期な収縮が無上の刺激とともに雄の本能を喜ばせていく。
だが当の彼女はまだ未発達な膣に太い巨根を押し込まれて、随分と苦しそうにその顔を顰め続けていた。

「はっ・・・はぁ・・・はぁ・・・」
「うく・・・あ・・・ぐぅ・・・」
力に任せて一方的に雌を犯すという雄ならではの蛮行に、やがて熱い滾りが我の内を駆け上がってくる。
そして両拳を握り締めて快感と苦痛と屈辱に耐えている彼女の可愛らしげな顔を見つめながら、我はついに抑えの利かなくなった己の欲望を、その白濁の奔流を一斉に解き放っていた。
ドブッ!ドプッ・・・ビュククッ・・・
「ああん・・・!」
余りに激しいその射精の勢いには流石に窮屈な彼女の膣が耐え切れなかったのか、噴出の勢いに任せて吐き出された肉棒がその精の残滓を赤鱗に覆われた彼女の顔にまで飛び散らせてしまう。
だが体中に熱い白濁を浴びせられた拍子に彼女自身も限界を迎えたらしく、初めての絶頂の衝撃にビクンという痙攣にも似た激しい震えが彼女の全身を襲っていた。

「は・・・あん・・・ふぅっ・・・」
突き上げるような快楽の嵐に、我の腹下で赤き巨体がのたうち回る。
そして大きな幸福の津波が彼女の理性を一通り洗い流してしまうと、不意に体中の力が抜けたかのように彼女がクタッと地面の上に崩れ落ちていた。
ハァハァと荒い息を吐きながら涙を浮かべて虚空を見つめている彼女の様子に、何だかとても気の毒なことをしてしまったかのような罪悪感が我の内に芽生えてしまう。
だが、それももう過ぎたことだ。
我は依然としてフラフラと視線を泳がせている彼女の顔にそっと舌を延ばすと、その美しい赤鱗を汚してしまった自らの白濁を優しく舐め取っていた。

ペロッ・・・
「う・・・ふぅ・・・」
やがてその感触にようやく正気を取り戻したのか、彼女が焦点の定まらなかった視線をふと我の方へ向ける。
「大丈夫か・・・?」
「い、いきなり・・・何をするのよ・・・」
だがそんな精一杯の抗議の声に、何故か予想していたような我に対する怒気や嫌悪はほとんど感じられなかった。
「まさか、本当に初めてだとは思わなかったのだ・・・お主・・・一体歳は幾つなのだ?」
「まだ・・・今年で42歳になるところよ・・・」
「なっ・・・」

今年で42歳だと・・・?
我ら竜族にとって、本来体の大きさは相手の年齢を推測する為の重要な手掛かりなのだ。
それは多くの竜族が生まれてから寿命を迎えるまでの永い間にゆっくりと成長を続ける性質があるからであり、たとえ千歳を越えるような大老でさえ老いのせいで体の成長が止まるようなことは決して無い。
それなのに優に300歳を越える我の8分の1程しか生きていない彼女が、もう我よりも体が大きく成長しているなどということが果たして本当にあるのだろうか?
しかも50歳で子を産み100歳で成竜と認められる竜族の社会において、彼女の年齢はまだ幼年期のそれに当たる。
それならこれまで1度も交尾の経験が無かったとしても決して不思議ではないし、彼女のあの純真無垢な反応にも合点が行くというものだった。

ただ1つ疑問が残るとすれば、それはやはり彼女の体格についてだろう。
我よりも体が大きい理由は、そういう早熟型の個体なのだと思えばまだ理解は出来る。
だがこれまで数多の雌を手篭めにしてきた我でさえもが息を呑む程に美しい彼女を、他の雄竜達が今日まで1度も交尾の相手に選ぼうとしなかったことが我にはどうしても理解できなかった。
彼女の年齢や性格を知った今でさえ我は彼女を異性として意識せずにはいられないというのに、たとえどんなに運が良かったとしても彼女が好色な雄竜達の目に1度も止まらなかったとは思えない。

「どうかしたの?何か、随分と考え込んでいるようだけど・・・」
「い、いや・・・何でもないのだ。それよりも、済まぬことをしてしまったな」
「う、ううん・・・いいの。母からも、今の歳頃が1番雄に声を掛けられる時期だと教えられていたから」
確かに本来であれば7、80歳を過ぎて比較的体も大きくなってきた頃が若い雌竜の"旬"の時期なのだが、彼女程体が大きければ今頃が番いを見つける適齢期なのだろう。
「でもここ1ヶ月で、私に声を掛けてくれたのはあなたが初めてなの。この事を聞いたら、きっと母も喜ぶわ」
「そう言ってもらえると、我も気が楽になる」
「それじゃあそろそろ日も暮れるし、私も住み処に帰るわね」
そしてそう言いながら彼女が地面から体を起こすと、我は慌てて彼女に声を掛けていた。

「また・・・お主に逢ってもよいか・・・?」
「ええ、何時でも逢いにいらして。私の住み処は、山頂にあるから」
「さ、山頂・・・?山頂に、大婆様以外にも他の仲間が棲んでいるのか?」
だがつい反射的に漏らしたその問いに、あっけらかんとした彼女の声が返ってくる。
「その大婆様が、私の母なの。それじゃあ、またね・・・」
「な・・・ぁ・・・」
大婆様が・・・彼女の母・・・?
で、では我は・・・お、大婆様の娘に・・・あ、あ、あんなことを・・・?
初めて雄に声を掛けられたのが嬉しかったのか弾むような足取りで遠ざかっていく彼女の後姿を見送りながら、我は決して触れてはならない毒花を摘んでしまった己の浅はかさに呆然とその場へ立ち尽くしていた。

その日の夜・・・
我は住み処に戻っても、なかなか寝付くことが出来なかった。
「な、何故我は・・・よりによって大婆様の娘などに・・・」
彼女自身はさして気にも留めていなかったようだが、我は大婆様の娘を無理矢理に犯してしまったのだ。
もし大婆様がこのことに腹を立てたりしようものなら、流石の我も命が危ういというものだろう。
だが我にとっての唯一の救いは、大婆様も自分の娘に夫が見つかることを望んでいるのが窺えたことだった。
もし我が本気で彼女を妻に迎えたいと言えば、大婆様は果たしてそれを許してくれるのだろうか・・・?
それともいきなり愛娘を襲った不埒者などの妻にはやれぬと、無残に殺されてしまうのだろうか・・・?
ただただ噂だけが先行するまだ見ぬ恐ろしい巨竜の影にすっかりと怯えてしまい、我は静かな洞窟の中で体を丸めては睡魔がその役目を果たすまでの間フルフルと小さく震えていた。

これまでに見たことも無い程に高い天井を湛える、薄暗い山頂の洞窟。
その最奥の間で、我は凄まじい巨躯を誇る深紅の雌老竜に睨み付けられていた。
鋭く細められたその金眼には眼前のちっぽけな存在・・・即ち我に対する冷たい殺意が満ち溢れ、我の腕程もある太い牙が並んだ巨口の端からは早くも大量の唾液が糸を引いて地面の上へと滴り落ちている。
ポタ・・・ポタタッ・・・
「う・・・うぅ・・・」
だがその情け容赦を知らぬ大婆様の殺気にこの上も無い身の危険を感じながらも、我は情けないことに余りに強大な存在に射竦められてその場から1歩も動くことが出来なかった。
やがてズシッ・・・という緩慢だが重々しい肉薄の足音が、我に向けて踏み出されていく。
「お、お許しを・・・お、お、大婆様・・・」
そう呟きながらも体中を襲った恐怖の震えが口元にも伝わり、我はその小さな牙をカチカチと打ち鳴らしていた。

ただ殺されるだけならば、大婆様の娘に不義を働いた雄竜の最期としてはまだ良い方だろう。
あの極太の尾で叩きのめされ、鋭い爪で切り裂かれ、巨大な脚で踏み潰され、鱗ごと肉も骨も噛み砕かれる・・・
もちろんそれは確かに酷い苦痛こそ伴うものの、我にとっては決して不名誉な死ではない。
だが過去に大婆様の手に掛かって死んでいった雄竜達は、そんな楽な死に方はさせてもらえなかったのだという。
彼らは皆、たった1匹の例外も無く・・・大婆様とのまぐわいの果てに力尽きたのだ。
それは雄竜にとっては何よりも恐ろしく、そして雄としての尊厳を踏み躙られる最期だったのだろう。
そして今日は我が、そんな世にも恐ろしい最期を迎えることになるらしかった。

ズシッ・・・
「ひっ・・・!」
た、助けてくれ・・・誰か助けてくれ・・・!
今すぐにでもこの場から逃げ出したい・・・まだ死にたくないという強い思いが、我の手足に必死に力を送る。
だがそれが無駄な足掻きであることは、そしてもしそれをすれば更に悲惨な運命が待っているであろうことは、誰に教えられることもなく我の雄としての本能が嫌と言う程に理解しているらしかった。
徐々に迫ってくる大婆様の姿が、やがて我の視界を一杯に覆い尽くしていく。
そして音も無くこちらに伸ばされてくるその巨大な禍々しい手を正視することが出来ず、我は早くも確実な死を覚悟して両目をギュッと固く瞑っていた。

「はっ・・・!?」
その瞬間不意に景色が変わり、周囲に自分の住み処の見慣れた壁面が戻ってくる。
「ゆ、夢・・・か・・・?」
まるで自分自身に確認するようにそう声に出して呟くと、我はグッタリと地面に突っ伏して荒い息を吐いていた。
だがこんな夢を見るのも、我がそれ程までに大婆様を恐れている証なのだろう。
まだ1度も姿を見たことがないというのにもかかわらず、我は夢の中で見た深紅の巨影が大婆様であることに微塵の疑いも持たなかったのだ。
恐らくは実際の大婆様も、夢に出て来た我の想像とそれ程大きくは違わないことだろう。
そしてそれは・・・我の未来も夢の通りになる可能性を雄弁に物語っていた。

朝の訪れを告げる小鳥達の声も聞こえなくなってから数時間・・・
我は、昼過ぎになってようやく住み処の洞窟をのそのそと這い出してきた。
時が経てば経つ程に、自分の犯してしまった過ちの恐ろしさが膨れ上がってくる。
かつて噂で聞いた限りでは、大婆様が雄竜を"処刑"する時の方法は2種類あるのだそうだ。
それは大婆様自身が山を下りてきて目的の雄竜を探し出しては静かな他者の目に付かぬ場所で手を下す方法と、何らかの理由を付けて雄竜を自らの住み処へと呼び寄せてからじっくりと時間を掛けて嬲り殺す方法だ。
犯した罪が重い程に後者の方法が取られ、誘われるがままにうっかり大婆様の住み処へと入ってしまった雄竜はまず間違い無く2度と生きて出てくることは無いということだった。

だが彼女は・・・少なくとも我が見た限りでは他の雄竜と関わりを持てたことを素直に喜んでいたように思う。
つまり山頂にある住み処に来て欲しいという彼女の言葉は、そんな恐ろしい噂とは無縁の素直な願いなのだろう。
我としても、彼女のような若くて美しい雌竜であればたとえ多少その体が大きかろうと生涯の伴侶として迎え入れてみたいという正直な欲求が心の内に芽生えていた。
故に彼女との親交を深めるためにも彼女の住み処へと行ってみたいのは確かなのだが・・・
そこには人間達の数多の伝承にもあるように、文字通り"宝物"を護る恐ろしいドラゴンが待ち構えている。
それは言うなれば我らの恋路に立ちはだかる巨大な壁であり、大婆様の恐怖を乗り越えなくては彼女と結ばれることは事実上不可能だと言えた。

やがてとぼとぼと特に目的も無く山の中を歩いていると、不意に我の前に竜族としては珍しい明るい青色の鱗を纏った雌の成竜が姿を現していた。
体の大きさは我とほとんど同じくらいだということは、恐らく歳もさして離れてはいないことだろう。
それに端整に整った美しい顔立ちと黒曜石の如く澄んだ深い漆黒の円らな瞳が、その美しさに磨きを掛けている。
だが普段の我であれば飛び付きたくなる程に魅力的なその雌竜にも、今の我は何故かこれといって大きな関心を示すことが出来なかった。
彼女の方は我に気でもあるのかまだ少し距離があるにもかかわらず頻りに艶やかな色目を使って我を誘惑しようとしているようだが、どうにも気分が乗らないのはきっと大婆様の娘のことで頭が一杯だったからなのだろう。
そして今はそんな気分ではないということを軽く首を振って伝えると、彼女は少し悲しげな顔を浮かべてから新たな雄を探しにと岩陰に消えていった。

かつては雌竜と見れば見境無く交尾を持ち掛けていた好色極まる我が、あろうことか雌竜の方からの誘いを断ったのだ。
それはこの300年以上も続く永い我の生涯の中でも、正に生まれて初めてのことだった。
これまで自身の内で形作られてきた雌竜に対する考え方が、昨日と今日ではガラリと変わってしまっている。
と同時にまたあの大婆様の娘に逢ってみたいという強い思いが、我の中で大婆様に対する恐れと必死な戦いを繰り広げていた。
もしかしたら我が大婆様に抱いている印象や周囲から聞こえてくる噂話というのは全てが幻想で、本当は大婆様も娘の身を一心に案じる心優しい母親なのかも知れない。
だがそうは言っても実際に大婆様と出会ったことを語る雄竜が1匹も存在しないが故に、負の一面がどうしてもそこに顔を覗かせてしまうのは仕方の無いことだった。
せめてもう1度彼女に会うことが出来れば、大婆様の心中も如何ばかりか想像が付くというものなのだが・・・

結局、我は次の日もその次の日も、道端で目にした雌竜には特に興味を惹かれることも無くただ生きるのに必要な獲物だけを獲って住み処に引き篭もっていた。
大婆様への恐れと彼女に逢いたいという感情が幾度と無く激突し、その度に勝者が目まぐるしく変わっていく。
願わくば彼女の方から我の住み処を訪ねて来てはくれないだろうかという思いさえ芽生え始めたものの、それは極めて身勝手な、我の臆病さがもたらす堕落した考え方だった。
だが既に我の頭の中が彼女のことで一杯なのは、自分でも十分に理解している。
この焦がれるような激しい思いを鎮めるには、自分から彼女に逢いに行かなくてはならないのだろう。
そして恋煩い故か3度目の眠れぬ夜がようやく明けると、我は意を決して山頂を目指すことにした。
たとえ大婆様の怒りに触れてしまったとしても、その時は潔く諦めるしかないだろう。
彼女が手に入らないというのなら、最早我の生涯など・・・粉々に壊れてしまったも同然なのだから。

遠い遠い山頂へと続いている、なだらかな傾斜の山道。
これまでここを通って生きて戻った者はほとんどいないというその帰らずの道を歩きながら、我は少しずつ視界の中を近付いてくる尖った山の先端に視線を注いでいた。
願わくば道中で彼女に逢えないだろうか、山頂の洞窟まで行かずに済む方法は無いものかという思いが、1歩足を踏み出す毎に怯え切った我の脳裏を掠めて遠くへと過ぎ去って行く。
大婆様の娘に恋をした愚かな雄竜の末路が一体どうなるのか・・・
それは依然として我の想像の域を出ることは無かったものの、何故かそこに明るい希望に満ちた結末はどうしても思い浮かべることが出来なかった。
だがそれでも・・・我は彼女を忘れるという道だけは選べなかったのだ。
大柄な体に似合わぬ、幼くさえ見える程の純真な仕草。
瑞々しい若さに溢れる、甲高くも艶のある声。
輝くような赤鱗の映える、端整な美しい顔立ち。
それらが奇跡的な融合を果たした彼女の姿に、我は正に心を奪われたのだ。

かつては雌竜など一時の享楽に耽る道具のようにしか感じていなかった我が、今や彼女に逢う為だけに命さえ危ぶまれる大婆様の住み処に向かって歩みを進めている。
濃厚な破滅の予感と脆弱で儚い希望の入り混じったその道程は正に未知の世界だったものの、その一方で何故か心中に湧き上がってくる微かな興奮の存在に我は苦笑を禁じ得なかった。
それは雄として惚れた雌を得る為の、激しい苦難に対する奮起だろうか?
それとも身の丈に合わぬ恋に溺れて朽ちていく無様な雄の姿に、自嘲の念を覚えただけだったのか・・・
何れにしても朝から歩き通したお陰で、もう山頂は我の目と鼻の先にまで迫って来ていた。

ここから先は、全てが大婆様の領域・・・
辺りを幾ら見回しても他の仲間が棲んでいるような洞窟の姿は何処にも見当たらず、ただただ冷たい静寂だけが我の五感を痺れさせていく。
微かな風の音さえ無く辺りに漂っている、ひんやりとした高山の空気。
1本の草木も生えぬ殺風景な岩肌に覆われた視界の中に、動く物は何も無い。
だがまるで時が止まっているかのようなその不動の景色の中で、我の心臓だけがけたたましいまでの激しい鼓動を打ち鳴らしていた。
我はただ、彼女に逢いに来ただけだというのに・・・
誰にでも生まれ付き備わっている危険を察知する本能が、これ以上先へ進むことに盛大な警鐘を鳴らしている。
手足はまるで鉛のように重くなり、薄い空気を求める我の肺が先程から必死に収縮を繰り返していた。

生まれて初めて感じるのであろう、正真正銘の死の恐怖。
まだ視界に映る景色には何の変化も無いというのに、我はどうしてこんなにも怯えているのだろうか・・・?
だがその理由は、更にほんの数歩進んだ瞬間に理解できていた。
我の眼前に聳えていた大きな岩陰から、不意に巨大な洞窟が姿を現したのだ。
それはこれまで見たことも無いような高い天井と深さを誇る、紛れも無い大婆様の住み処。
辺りはまだ明るい真昼だというのに、漆黒の闇を湛えるその巨洞の奥で圧倒的な存在感を持つ何者かが確かに息衝いている。
彼女も、あの中にいるのだろうか?
もしも中へ入って行って彼女がいなかったら・・・そう思っただけで、我の足がピタリと止まってしまう。

ジリジリとした葛藤と苦悩が、洞窟を目の前にした我の内で繰り広げられていた。
何とか精一杯の勇気を振り絞ってここまで来たのはいいものの、どうしても洞窟へと踏み入る最後の踏ん切りが付かないでいる。
だが実に1時間余りもの間まるで石のようにその場で固まっていた我の背後から、不意に聞き覚えのある声が投げ掛けられていた。
「あら、あなたは・・・」
「ひっ!」
極度の緊張に張り詰めていたところへ突然掛けられた彼女の甲高い声に、情けなくも掠れるような悲鳴を上げてしまう。
そして恐る恐る背後を振り向くと、外出から帰ってきたらしい彼女が怪訝そうな、それでいて何処か面白がっているかのような表情を浮かべて我を見下ろしていた。

「な、何だ・・・お、お主か・・・」
余りの驚きと安堵の反動故か先程よりも激しく暴れ回る心臓の鼓動を静めるのに必死で、我はあれ程逢いたがっていた彼女が目の前にいるというのにそんな素っ気の無い返事を返してしまっていた。
「私に逢いに来てくれたのね」
「う、うむ・・・」
だが彼女の問いに素直に頷くと、ようやく我の胸にも元の落ち着きが戻ってくる。
そして改めて美しさと可愛らしさの同居した彼女の顔をじっと見つめると、我はホッと小さな息を吐いていた。

「どうしたの?随分驚いたみたいだけど・・・」
「いや・・・お主がいるかどうかも判らぬのに、勝手に大婆様の住み処に入ってもいいものか迷っていたのだ」
真実と嘘が半々に入り混じったそんな我の返答に、彼女が微塵の疑いも持たぬまま屈託の無い笑みを向けてくる。
「あら、大丈夫よ。母は大抵昼の間は深く眠っているし、私が少しくらい小突いたって起きない程なのよ」
「そ、そうなのか?」
そうは言っても、万が一大婆様を起こしたりすればそれが引き金となって怒りを買わないとも限らない。
大婆様の娘である彼女だからこそそんなことができるのだろうが、この山には眠っている大婆様に近付くことの出来る雄竜など彼女の夫くらいしかいないのに違いない。
だが何はともあれ彼女が再び我の前にいるという事実に、我は1番気掛かりだった質問を彼女にぶつけていた。

「それで・・・大婆様にはもう我のことを・・・?」
「ええ、話したけど・・・娘に夫が出来るかもって、とても喜んでいたわ」
一体、何処までが本当の大婆様なのだろうか?
彼女から大婆様の話を聞く限りでは、とても噂に聞くような凶暴で恐ろしい暴君の印象は感じられない。
そしてもちろんそれには大婆様の実の娘であるが故の高い信憑性があったものの、同時に実の娘であるが故に母親のもう1つの顔を知らないという可能性も完全には拭い切れなかった。
「我がいきなりお主を襲ってしまったことを、その・・・怒ってはいなかったのだな?」
「もちろんよ。それどころか、1度あなたの顔を見てみたいなんて言っていたわ」
「なっ・・・」

やがてそんな彼女の言葉を聞いた途端に、胸の内にギクリという微かな痛みが走る。
我の顔を見てみたいということは、大婆様が何らかの理由で我に会おうとしていることを意味していた。
その目的はまだ分からないが、どうしても大婆様についての暗い噂が我の脳裏を危険な疑惑で塗り潰していく。
「よかったら、これから母に会ってみない?折角ここまで来たんだし」
「ひっ・・・い、いや・・・その・・・それは・・・」
軽い調子で放たれたその彼女の提案に、我はまるで何か熱い物にでも触れたかのように思わず飛び上がっていた。
「ほら、行きましょう。私も、あなたを母に紹介しないといけないし」
「し、しかし今・・・お、大婆様は眠っているのだろう?流石に起こすのは悪いではないか」
「心配無いわよ。どうせ1日中することが無くて寝ているだけなんだから」
まずい・・・これは間違いなく大婆様の罠だ。
それも彼女を通しての願いなら我が逆らえぬであろうことを見越した、危険極まりない巧妙な罠。
もしこのまま彼女の後をついて行ったら・・・

だがどんなに心中で断固とした拒絶を試みたところで結局彼女の頼みを無碍に断ることができず、我はなすがままに巨大な洞窟の目の前まで連れて来られてしまっていた。
その闇の奥から、恐らくは大婆様のものであろう大気を揺らすような深くて長い寝息が漏れ聞こえてきている。
「ほ、本当に良いのか・・・?」
「いいから、ほら行って」
やがて大柄な彼女に押し出されるようにして洞窟の中に足を踏み入れると、我は極力足音を立てぬように忍び足で歩き続けていた。
真っ暗に思えた洞窟の中にも所々岩の隙間から光が差し込んでおり、辛うじて完全な闇には落ちずに済んでいる。
そしていよいよ広大な広場のようになった洞窟の最奥で、我は地に伏して眠っている大婆様の姿を初めて目にしていた。

「う・・・あっ・・・」
まず最初に我の目に飛び込んで来たのは、その余りにも巨大な体。
ゆったりと地に腹を付けながら這い蹲るようにして眠っているというのに、その体高は我の目線よりも更に高い。
更には人間の1人や2人ならその掌中にすっぽりと納まってしまうのではないかという手が、指先から凶悪な鋭い鉤爪を生やして岩の大地をがっしりと掴んでいる。
娘と同じくその広大な背に空を飛ぶ翼は無いものの、鋼の如き堅牢な深紅の鱗に覆われたあの巨体ではそこらの雄竜が数十匹束になって掛かって行ったとしても傷1つ付けることさえ出来ないに違いない。
だがそんな見た目の威容や迫力などよりも激しく我の心を動揺させたのは、悠久の時を生きてきたと見えるその年老いた大婆様の顔にこの上も無い老練な魅力が備わっていたからだった。

明るくて朗らかで可愛らしい若さに任せた娘の魅力とは遥かに次元の異なる、まるで雄を強く惹き付ける成熟した雌の匂いが全身から立ち上っているかのようだ。
隣に彼女がいなかったら、我とて大婆様に一目惚れしていたかも知れないなどという思いが一瞬脳裏を過ぎる。
そしていよいよ我をその場に残して彼女が大婆様を起こしに行くと、我は唐突に襲ってきた極度の緊張に長い尾の先までがピンと張り詰めるのを感じていた。
「お母さん、ほら、起きて」
我より大柄な彼女にさえ両手に余る程に大きい大婆様の顔が、そんな声とともに微かに揺すられる。
だが幾ら声を掛けたり鼻先を撫で摩っても、大婆様の寝息が乱れる様子は微塵も無い。
「もう、何時もこれなんだから・・・」
やがて彼女はそう言うと、まるで様子を窺うかのようにおもむろにクルリと我の方を振り向いていた。
そして・・・

バシッ!
「ウグッ・・・!?」
力んだ顔付きから恐らくは渾身の力を込めたと思われる彼女の強烈な尾撃が、大婆様の顔を強かに打ち据える。
「なあぁっ・・・」
その余りに無謀な彼女の行動に、我はあんぐりと口を開けたまま驚愕の表情を浮かべて立ち尽くしていた。
お、お、大婆様にあんなことをす、するとは・・・
幾ら実の娘だからとは言え、我でさえ怖気付く程の巨竜にあんな荒っぽい真似等そうできるものではない。
だが明らかな怒りの表情を浮かべて目を覚ましたはずの大婆様は、眼前に娘の姿を認めると途端に元の柔和ささえ窺える母親の顔を取り戻していた。

「どうしたんだい・・・?お前があたしを起こすなんて、随分と珍しいじゃないか」
あたしは自分の顔を覗き込んでいる娘の様子に何か急いで伝えたいことでもあるのか少しばかりの緊張を読み取ると、顔を叩かれたことも忘れてそんな質問を漏らしていた。
「この前、私の傷を舐めてくれた雄の話をしたでしょ?彼が来てるのよ」
「何だって・・・?」
そう言えば、何となくそんな話を聞いたような気もする。
あたしは娘にそう言われて、重い首を巡らしながらゆっくりと周囲を見回していた。
そして洞窟の入口近くで小さく縮込まっている小柄な雄竜の姿を目にすると、じっとその顔を眺め回してみる。
「あ・・・ぅ・・・」
だが金色の輝きを湛えるあたしの切れ長の双眸に睨み付けられたのが余程恐ろしかったのか、彼はそんな蚊の泣くような声を上げながらほんの数歩後退さっただけだった。

「あれが・・・そうなのかい?」
「ええ、そうよ。彼、とっても優しいんだから」
その割には、随分と頼り無く見えるような気がするけど・・・まあ、いいさね・・・
このあたしの娘に相応しい雄かどうかは、すぐに判ることだしねぇ・・・
あたしはそんな心中の独り言を噛み潰すと、彼から視線を外さずに娘へと声を掛けていた。
「彼をここへお呼び」
そして静かに放ったはずのその声が耳に届いたのか、雄竜の顔に明らかな動揺と恐怖の色が浮かんでいた。

「ほら、お母さんが呼んでるわ」
耳元で囁くそんな彼女の声を聞いたのは、それから何秒後のことだったのだろうか・・・?
我は大婆様に呼び付けられたという事実を、多くの歴史が語っているその結末を、この期に及んでも何故か自分のこととして受け入れることが出来ずにいた。
今辛うじて正気を取り戻すことが出来たのは、朦朧とした意識の中に彼女の声が聞こえたからに他ならない。
だが現実を認識するように小さく頭を振って周囲を見回すと、先程と同じように地面に蹲ったまま首だけを持ち上げてこちらに振り向けている大婆様が不気味な笑みを浮かべている。
「わ、我を・・・呼んでいるのか・・・?」
そしてもう1度だけ彼女にそう念を押すと、我は返事も待たずにフラリとよろめく足を前に踏み出していた。
そんな怯え切った我の姿は、大婆様の目には一体どのように映っているのだろうか・・・
1歩進む毎に重苦しい重圧が我の胸に圧し掛かり、恐ろしい処刑台へと自ら登っているかのような錯覚がただでさえのろのろとしたその頼りない足取りを更に鈍いものへと変化させていった。

すっかりあたしに怯えていると見える雄竜が正に恐る恐るといった様子で近付いてきたのを目にすると、あたしは彼の背後に佇んでいた娘にそっと洞窟から出て行くように目配せしていた。
それを受けて、娘が心底心配そうな表情を浮かべながらも渋々といった様子でこちらに背を向ける。
どうやら娘の方は、本当にこの雄の身を案じているらしい。
だがこの歳になって初めて産んだ可愛い娘の伴侶となる雄は、どうしてもあたし自身の目で確かめたかったのだ。
そしてようやくその煌く黒鱗を纏った小さな雄竜が目の前にまでやってくると、あたしはグッと首を伸ばしてその体をじっと眺め回していた。

う・・・うぅ・・・
あれ程雄竜達に恐れられている大婆様に自ら近付いているという恐怖が、徐々に徐々に膨らんでくる。
更には故意か偶然か大婆様の真っ赤な舌が少しだけ口の端から覗くと、小さな舌舐めずりが我の目に入っていた。
そしていよいよ見上げる程に大きな大婆様のもとまでやってくると、正に夢にまで見た恐ろしい金眼が我をギロリと睨み付けてくる。
背後に彼女がいなかったら、我はきっと情けない悲鳴を上げて泣き叫んでいたに違いない。
「フフフ・・・随分と怯えているようだねぇ・・・そんなにあたしが恐ろしいのかい・・・?」
過去に大勢の雄竜達に悲惨な最期を迎えさせたというこの大婆様を前にして、全く怖気付かない雄竜など果たしているのだろうか?
だが迂闊な返答が大婆様の怒りを買えばそれまでなだけに、我はゴクリと息を呑んだだけで無言を貫いていた。

「まあいいさ・・・大方あたしについての噂話を、色々と吹き込まれたんだろうからねぇ」
「あ、あれは全部・・・ほ、本当のことなのですか・・・?」
「お前にも今に分かるさ・・・もしかしたら、お前もその噂の一部になるかも知れないんだからね」
や、やはり大婆様は・・・わ、我を・・・
そして本能的に感じたそんな身の危険に、我は無意識の内に背後にいるであろう彼女に視線を振り向けていた。
だがそこに・・・唯一の心の救いだった愛しい赤鱗の姿はもう見当たらない。
夕刻を迎えて寂寥感を増した微かな橙色の光が、ただただ闇の中に一筋の明かりを落としているだけだった。
か、彼女が・・・いない・・・?
「う・・・あ・・・ああぁ・・・!」
その瞬間、何時の間にか大婆様の前に独り取り残されていたことに気付いた我の口からついに堪えることの出来なかった恐怖の嗚咽が静寂の中へと迸ってしまう。

そんな・・・そんな・・・か、彼女は一体何処に・・・?
そして不意に消えてしまった心の拠り所を探す視線が再び大婆様へ戻ってくると、そこには実の娘も知らないもう1つの顔・・・数多の雄竜を"食い"殺した残酷な捕食者の表情が貼り付いていた。
「ひぃっ!」
こ、これではまるで・・・あの夢と同じではないか・・・
つい数日前に見たあの恐ろしい悪夢が、急速に我の脳裏に再生されていく。
「フフフフ・・・お前はこのあたしの娘に手を出したんだ・・・それなりの・・・覚悟をしてもらうよ・・・」
だがそう言いながらそれまで地に伏していた巨体を起こした大婆様の余りの威容に、我はすっかり腰を抜かしてその場に崩れ落ちたまま声にならない悲鳴を漏らし続けていた。

た、助け・・・うあああぁっ・・・!
まるで自分の物ではないかのように恐怖に痺れて動かなくなった己の四肢を恨めしく思いながら、同時にもう駄目だという諦観が胸の内に湧き上がってくる。
大婆様の娘に手を出したから・・・我は粛清されるのだ・・・
過去に多くの雄竜が無念と屈辱に塗れて息絶えたという大婆様の残酷無比な処刑が、今度はこの我を暗い冥府の底へ誘おうとしている。
だが逃げようにも既に体は言うことを聞かず、我は激しい恐怖の震えを止めることすらままならなかった。

真っ直ぐに我の目を覗き込んでいる大婆様の双眸に浮かんでいるのは、紛れも無い冷たい殺意。
愛しい娘を汚した不埒な雄竜に如何なる極刑を下そうかというその暗い思案が、まるで大婆様の心の中を直接覗き込んでいるかのように我の脳裏へと流れ込んでくる。
そしていよいよ大婆様の巨大な手に首筋をガシッと鷲掴みにされると、我はそのまま冷たい岩の地面の上へと仰向けに押し付けられていた。
「フフフフフ・・・さてと・・・どうしてくれようかねぇ・・・」
「ひっ・・・ひいぃ・・・」
ただ単に首を地面へ押さえ付けられているだけだというのに、ダラリと弛緩した手足が全く用を為さないお陰で抵抗らしい抵抗はできそうにない。
尤も、仮に抵抗したところで軽く捻じ伏せられてしまうであろうことは流石の我にも容易に想像は付いていた。

「聞けばお前は、怪我をした娘を介抱する振りをしていきなり襲ったそうじゃないか・・・」
やがてねっとりとしたしわがれ声による尋問の言葉が、身動きの出来ない我の耳元で静かに囁かれる。
「あ・・・う・・・そ、それは・・・はあぁ・・・」
だが答えに窮した途端に大婆様の鋭い金眼が更に細められ、その不穏な予兆に我はいよいよ追い詰められてしまっていた。
「ど、どうか・・・お許しを・・・大婆様・・・」
「フン・・・今更命乞いかい・・・?残念だけど、そいつばかりは聞けないねぇ・・・」
そしてそう言いながら、クチュリという粘液の弾けるような不気味な水音が闇の中へと弾けていく。
「あ・・・あぁ・・・」
それが一体何の音なのかを理解した瞬間に、我は全身の血の気がサーッと引いていくような感覚を味わった。
これまで数多の雄竜の命を吸い尽くしては捻り潰してきた、情け容赦を知らぬ残虐な雌の器官。
悠久の時を経て熟れに熟れたその凶暴な竜膣が獲物を目にした喜びに戦慄く音を聞かされて、逃れようの無い己の運命に我の目には幼竜だった頃より永らく流したことの無かった大粒の涙が滲み出していた。

やがて大婆様の腰がゆっくりと我の上に被せられ・・・淫靡な音と煮え立つ愛液の濃厚な香りに何時の間にか大きく屹立していた肉棒がぱっくりと口を開けた巨大な膣に狙い付けられる。
ポタッ・・・
「ひあっ!」
そして膣口から零れ落ちた灼熱の愛液が肉棒の先端をジュッという音とともに炙ると、我は首を押さえ付けられたままビクンと体を仰け反らせていた。
その瞬間、ズンという重々しい音とともに我のモノが大婆様に丸呑みにされる。
一瞬にして肉棒を包み込んだ分厚い柔肉と熱い粘液の感触に、我の悲鳴は喉元で掻き消されていた。
「かっ・・・っ・・・」
「そぉら・・・まずは歓迎してやらないとねぇ」

グジュッ・・・ゴギュッ!
「う・・・が・・・はあぁっ・・・!」
ただでさえ焼け付くような熱さに身悶えていた我の肉棒に、突然根元から強烈な圧搾が浴びせられる。
愛や快感を与える為ではなくただ雄を蹂躙する為のその容赦の無い一撃に、我は凍り付いていたはずの両手を跳ね上げると眼前の大婆様の胸をガリガリと思い切り爪で引っ掻いていた。
娘の柔らかな白い皮膜とは打って変わって、大婆様の胸元は堅牢な胸殻が蛇腹のように幾重にも重なっている。
しかもそこには良く見ると我が付けた物とは異なる無数の細かい爪痕が刻み付けられていて、数多の雄竜が必死に大婆様の胸を掻き毟りながら己の無力さを思い知らされて止めを刺されていったらしいことが窺えた。
「フフフフフ・・・」
そしてそんな無様な雄を嘲るかのように口元を歪めて顔を覗き込んでくる大婆様の様子に、我は心の底から激しい戦慄を覚えていた。

ジュプッ・・・グチュッ・・・
止め処無く溢れ出す濃厚な愛液が、我の雄をねっとりと絡め取っては燃えるように熱い感触を塗り込めてくる。
更には卑猥な水音とともに躍動する大婆様の膣に弄ばれて、我の我慢も既に限界寸前まで追い詰められていた。
だが息の荒くなった我の様子に雄の屈服が近いことを感じ取ったのか、大婆様がほんの少しだけ左右に揺らしていた腰の動きを和らげる。
そしてウネウネと蠕動する分厚い肉襞で張り詰めた肉棒をゆっくりと舐め上げながら、少しずつ少しずつその根元を膣口で締め付けていった。
ギュウッ・・・
「くっ・・・はぁっ・・・うあああぁ・・・」
止めには程遠い、しかし確実に雄を絶頂へと追い詰めるその性悪な責めに、堪え切れぬ苦悶と快楽の声が漏れる。
身を捩ろうにも大婆様の巨体に組み敷かれてはとても逃れることなどできるはずもなく、我は僅かに自由の利く首を左右に振りながら悶え狂うことしかできなかった。

「おやおや・・・もう耐えられなくなっちまったのかい・・・?情けない雄だねぇ・・・」
グキュッ
「う・・・ぐ・・・ぐああっ!」
だが雄にとってはこれ以上無い程に屈辱的なその言葉に反論しようにも、喉まで出掛かった声は軽く肉棒を捻り上げられただけで掻き消されてしまっていた。
「フン、返す言葉も無いのかい?それならそろそろ・・・お前のモノを味わってみるとしようかねぇ・・・」
やがてそんな独り言のような大婆様の声が聞こえたかと思うと、我の雄を捕らえていたその巨大な腰が突然前後に軽く揺すられる。
と同時に肉棒が根元から先端まで一気に締め上げられ、我は一瞬たりとも耐えることができぬまま大婆様の思惑通りに大量の精をその深い竜膣の奥へと注ぎ込んでいた。

「うあ・・・があああぁっ・・・!」
ドブッ・・・ビュクビュクッ・・・
雌雄のまぐわいによる満足感を伴う射精とは次元の違う、魂さえをも搾り取られるかのような凄まじい快感。
一瞬にして頭の中が真っ白に焼き尽くされ、それまで脳裏を漂っていたあらゆる感情や思考が吹き飛んでいく。
だが何も考えられなくなる程の激しい快楽の大波に揉まれながら、我はたった1つだけ揺るぎようの無い事実を思い知らされていた。
それは大婆様がその気になれば、本当に雌雄の営みだけで雄竜を殺すことができるということ。
今のように軽く嬲られただけでさえ意識が薄れ掛ける程の快感に翻弄されたというのに、大婆様に全力で精を搾り取られたらまず間違い無く悶絶死は免れないだろう。

「フゥン・・・中々に濃くて活きが良いじゃないか・・・フフフ・・・こいつは嬲り甲斐があるねぇ・・・」
「うぅ・・・お、お許しを・・・大婆・・・ひっ・・・」
なおも嗜虐的な表情を浮かべている大婆様の顔が、そんな我の命乞いに喜悦の色を強めていく。
「何を言っているのさ・・・こいつは褒美だよ・・・娘を可愛がってくれた雄への、感謝の表れって奴さね」
「そ、そんな・・・」
「だから遠慮せずに・・・たっぷりと味わいな・・・!」
グシャッ
「ぎゃあっ!」
褒美と呼ぶには余りに苛烈な、一切の容赦の無い圧搾が我の肉棒へと襲い掛かってくる。
強固な鱗と甲殻に覆われた大婆様の体には我の爪も全く歯が立たず、手足は何の拘束もされてはいないというのに我は雌雄の結合だけで眼前の巨大な雌老竜に完全に支配されていた。
その凶暴な竜膣に掛かれば悲痛な悲鳴も、無様な命乞いも、甲高い嬌声も、我から搾り出すのは朝飯前なのだ。
このままじっくりと時間を掛けて嬲り殺される運命を突き付けられているというのにそれに抗うことも出来ぬ余りに無力な己の姿に、激しい後悔と自責の念が次から次へと溢れ出して来る。

「フフフ・・・随分と良い声で鳴くじゃないか・・・試しにもう2、3度搾ってやろうかねぇ・・・」
ジョリ・・・ジョリジョリジョリ・・・
「ひっ・・・ひいぃ・・・」
そんな不穏な言葉とともに鎌首を擡げた分厚い肉襞が、我の肉棒をゆっくりと舐め上げた。
こんな無慈悲な責め苦を、我は死ぬまで味わい続けるのだ。
ただ交尾を迫った相手が大婆様の娘だったというだけの理由で、こんなにも残酷な死を与えられなければならないというのか・・・?
だが余りに理不尽なその運命に抗おうにも、大婆様に捕らわれた我にできることはもう何も残されていなかった。

闇に包まれた洞窟の中に薄っすらと差し込んでくる、幻想的な月明かりの雫・・・
その美しい静寂の中に、粘着質な水音と我の苦悶に満ちた喘ぎが溶け込んでいく。
この洞窟へやってきてから数時間・・・我は大婆様の腹下に捕らわれたまま自分でも数え切れぬ程の絶頂を味わわされて、既に息も絶え絶えになってしまっていた。
グジュッ・・・ズチュッ・・・グギュゥッ・・・
「あっ・・・がぁ・・・」
精も根もとうの昔に枯れ果てた我の肉棒が、空しい空撃ちの戦慄きを大婆様の貪欲な雌へと伝えていく。
そんな終わることの無い無慈悲な責め苦の前に、助けを求める声さえもが虚空へと消えていった。

「さてと・・・お前を甚振るのも流石に飽きてきたよ・・・そろそろ、楽にしてやろうかねぇ・・・?」
「ひ・・・ひぃ・・・」
恐れていた終焉の予感にもう無駄だと分かり切った救いを求める我の指先が、小刻みに震える爪の先端で大婆様の硬い胸元をカリカリと力無く引っ掻いていく。
だがこれ以上無い程に弱り切った我の慈悲を乞うその仕草にも、大婆様の返答は実に辛辣なものだった。
枯れた肉棒を根元からゆっくりと押し包んでいく、屈強な筋肉を備えた分厚い肉襞の群れ。
これから一体何をされるのか、一体どんな止めを刺されるのか、その我にとっては余りにも悲惨すぎる結末が、我の脳裏にはっきりと浮かんできてしまう。
雄を丸ごと押し潰されるという未曾有の恐ろしさに、我はただでさえ虫の息だった呼吸を詰まらせていた。
「う・・・あ・・・そ、それだけは・・・お、大婆様ぁ・・・」
肉棒の表面を這い回る熱い熱い粘液を纏った艶かしい肉塊が、まるでこれから握り潰す獲物を掌中で転がすかのようにグニグニと不気味な躍動を見せる。
だがそんな処刑の前兆にさえ感じられる微かな快感が、我の心を恐怖と諦観で締め付けていった。

「もっと必死に暴れた方がいいんじゃないのかい?雄を締め潰されるのは、随分と苦しい死に方らしいからねぇ」
過去に自らが手を下してきたのであろう数多の雄竜の断末魔を思い起こしているのか、涙を浮かべて喘ぐ我の顔を見下ろす大婆様の大きな金眼に黒い期待の込められた妖しい輝きが宿っていく。
そしていよいよ肉棒がゆっくりと締め上げられ始めると、我は最早これまでと拙い死の覚悟を決めて地面の上に両腕を投げ出していた。
ドサッ・・・
すぐ近くで聞こえたはずのその湿った音が、何だか遥か遠い彼方から聞こえてきたかのようにくぐもっている。
視界は涙にぼやけ、辺りに漂っていたはずの濃厚な精と愛液の匂いはもうほとんど感じ取ることができなかった。
弛緩した四肢に麻痺した五感が、死に際の苦痛を必死に和らげようとその機能を鈍らせているのだろうか・・・
だが不意に耳元で囁かれた大婆様の声に、我は霞掛かっていた意識を覚醒させていた。

「何さ、あっさり覚悟を決めちまったのかい?もう死んだつもりとは、全くつまらない奴だねぇ・・・」
「う・・・ぅ・・・?」
「お前の返答次第では、助けてやると言っているのさ。お前だって、本当は死にたくないんだろう?」
た、助かる・・・だと?あれ程雄竜に対しては情け容赦を知らぬという大婆様が・・・一体何故・・・?
「あたしは認めたくないけれど、娘の方はどうもお前に本気で気があるらしくてねぇ・・・」
「か、彼女が・・・我に・・・?」
「お前がもう2度と娘に近付かないと誓うのなら、娘に免じて命だけは見逃してやるよ」
それは、既に死を覚悟していた我にとっては正に地獄に仏の助け舟だった。
まだ死にたくないという正直な生存本能が、突然に降って湧いた希望を求めてその身を起こす。
「し、しかし・・・何故突然に・・・」
「お前の身が余程心配だったのか、娘が様子を見に来てるのさ・・・別れを告げるには、いい機会だろう?」

そんな大婆様の言葉に、我はもうほとんど動かなかったはずの首を力尽くで背後へと振り向けていた。
その視線の先で、洞窟の壁際から顔を出した彼女が心配そうな面持ちを浮かべて我を真っ直ぐに見詰めている。
「ほら、言ってみな・・・お前の胸の内を、あの娘にも聞こえるようにねぇ・・・」
だが唆されるがままに別れの言葉を口にしようとした次の瞬間、我は喉元まで出掛かったその声を必死に飲み込んでいた。
我は、一体何の為にここまで来たのだろうか?
ともすればこうなることは・・・大婆様の怒りを買って処刑されてしまう可能性は考えていたはずなのに、我は何故山頂を目指して長い道のりを歩いてきたのか・・・
大婆様に許しを乞う為か?それとも、彼女に永遠の別れを告げる為?いや・・・そのどちらでもない。
我は彼女を本気で我の伴侶にしようと、その告白の言葉を胸に秘めてきたのだ。
彼女が手に入らないのなら、我の生涯など道端のちっぽけな小石と何ら変わらない無価値なものになってしまう。
ならば仮に今この命を拾ったとしても、それに一体何の意味があるというのか。
そしてそんな彼女に対する想いが胸の内に溢れ出して来ると、我は身も心も完膚なきまでに屈服させた無様な雄を見詰める大婆様の期待とは反する、彼女への告白の声を高らかに吐き出していた。

「我は・・・お主が好きだ・・・たとえ今この場で大婆様の手に掛かろうとも、その想いだけは違えはせぬぞ!」
それを聞くと、彼女が明らかな歓喜と驚愕の表情を浮かべながらもこれから我が辿るであろう悲惨な最期を正視できなかったのかフイッと我から顔を背けてしまった。
だが我は、この数日間ずっと胸の内に秘めていた思いの丈を彼女に伝えられたのだ。
そしてそんな満足感とともに大婆様の顔へと視線を戻すと、先程までのまるで勝ち誇ったかのような尊大な笑みが何処か冷たささえ感じられる程の無表情へと変わっていた。
「フゥン・・・随分といい度胸じゃないか・・・それが、お前の本心に間違いないんだね・・・?」
「幾ら大婆様が反対しようとも、我は彼女を生涯の伴侶にすると決めたのだ。それが気に入らぬのなら・・・」
その我の言葉に応えるように、我の雄を押し包んだ大婆様の凶悪な肉襞がゆっくりと収縮を始める。

ズ・・・グ・・・ギュゥ・・・
「ぐ・・・う・・・うぅ・・・」
徐々に徐々に締め上げられていく己の肉棒が、やがて微かな快感を耐え難い程の苦痛へと変えていくのだろう。
せめて一思いに止めを刺してくれればまだ苦しまずに済むのだろうが、大婆様に逆らった我には最早そんな楽な死に方は許されないのだ。
じっくりと時間を掛けて、己に楯突いた愚かな雄が悶え苦しみ狂っていく様を眺めながら無慈悲に捻り潰すのが大婆様の何よりの愉悦なのだろう。
だが、我も1度は雄としての矜持を貫いた身だ。
せめて無様な悲鳴や命乞いの声だけは上げぬようにと、我は両の拳を握り締めて必死に牙を食い縛っていた。

「ほぉら・・・これからもっともっと苦しくなるんだよぉ・・・何時まで耐えられるかねぇ?フフフフ・・・」
ギッ・・・ミシ・・・ギリリ・・・
やがて肉棒の根元が螺旋状に捻り上げる分厚い肉襞に吸い上げられ、その屈強な肉塊がいよいよ哀れな獲物を圧殺しようと愛液に濡れそぼった身を躍動させる。
ギュッ・・・グシッ・・・メシャ・・・
「が・・・あああああぁぁっ!」
短いながらも彼女との遣り取りに伴って与えられていた休息に、多少なりとも復活の兆しを見せていた怒張がじわじわと押し潰されていく。

メキメキメキ・・・ギリ・・・グチッ・・・
「う・・・あっ・・・ぐわああああぁっ・・・!」
痛みとも快感ともつかない凄まじい刺激の嵐に、我はバタバタと手足を暴れさせながら激しく悶え狂っていた。
後ほんの少し大婆様がその身に力を込めれば、我の肉棒など跡形も無くペシャンコにされてしまうだろう。
だがそれでも折れ掛けた心が発する大婆様への許しを乞う声を無理矢理に捻じ伏せると、我は止めの一撃を待たずして既にその意識を失ってしまっていた。

それまでもんどりうって暴れ狂っていた彼の体が一変してぐったりと地面に横たえられると、あたしは少しばかりの感嘆を胸に腹下の哀れな雄竜を解放してやっていた。
やがて強烈な膣圧に潰れ掛けた肉棒がずるりという音とともに膣の外へと零れ落ち、力尽きた雄竜の股間に力無く垂れ下がっていく。
そんな彼の無残な姿に居ても立ってもいられなくなったのか、先程から洞窟の入口の方で様子を窺っていた娘が突然大声を上げながら飛び出してきた。

「お母さん!」
その何処か非難めいた鋭い娘の口調に、あたしも何故かつい後退さって彼の身を娘に引き渡してしまう。
この雄竜は、自らの命が懸かっているというのにあたしの前で娘への確かな愛を誓ったのだ。
無残な死を目前に控えても命乞いの言葉すら飲み込んで、娘の為にその命を捧げようとした尊い雄竜。
あたしの夫がそうであったように、彼もまた間違い無く娘の夫となる資格を備えている。
「あたしの負けだよ。彼をしっかり介抱してやりな」
そうして彼の介抱を娘に任せると、あたしは彼らを残してそっと夜の闇に包まれた洞窟の外へと足を向けていた。

ペロペロ・・・ペロッ・・・
「あ・・・う・・・うぅ・・・?」
霞掛かった意識の奥底に響いてくる、微かな水音と顔を舐め上げる湿った肉塊の感触。
我はそのくすぐったくも何処か心地良い感覚に目を覚ますと、必死に我の顔を舐めていたらしい彼女と思わず目を合わせてしまっていた。
外は既に夜が明けたらしく、広い洞窟の天井から眩いばかりの陽光がその欠片をキラキラと落としている。
周囲に大婆様の姿は無かったものの、我は深い安堵に染まった彼女の表情を見て命が助かったことを悟っていた。

「大丈夫・・・?」
「う・・・うむ・・・どうやら、まだ命は繋ぎ止めているらしい」
「酷いわ、お母さんったら・・・こんなになるまであなたを痛め付けて・・・」
一応何処にも怪我らしい怪我などはしていないものの、激しい憔悴の色がありありと浮かんだ我の姿に彼女がそんな不満を漏らす。
「それでも我は・・・認められたのだな・・・?その・・・お主の夫として」
「ええ、そうみたいよ。これからは、ずっと一緒に暮らしましょう」
やがて彼女から掛けられたその優しい声に、我は修羅の夜を明かした大婆様の閨で彼女を抱き締めていた。

それにしても、取り分け雄竜に対してはあれ程無慈悲で残虐な仕打ちをすると噂される大婆様が一体何故自身の命令に逆らった我の命を奪わなかったのだろうか?
もちろん彼女が我の身を案じてくれたからということもあるのだろうが、少なくとも大婆様に反抗した雄竜が生かされていたことなど過去にも例が無いに違いない。
「しかし・・・幾ら認められたとは言え、大婆様は我がここに棲むことを許してくれるのか?」
「もちろんよ。私の大切な夫だもの・・・それよりも寧ろ、別の場所に棲むことを許してはくれないでしょうね」
「何・・・何故だ?」

我が彼女と別の場所に棲むことを大婆様が許してはくれないだと?
別に我は彼女さえ共にいてくれるのなら棲む場所など特に頓着するつもりは無いから構わぬが、それでも何かを知っているような彼女の口振りは妙に気になってしまう。
「それは・・・きっとあなたにもすぐに分かるわ。数日もしない内にね」
「?・・・むぅ・・・そうか・・・」
微かに笑いながらそう言いつつも結局肝心の答えは教えてくれなそうな彼女の様子に、我は潔く詮索を諦めると彼女と暮らす為の場所を探しに行くことにした。
最初にここに来た時の記憶は緊張のせいかほとんど残っていなかったのだが、どうやら複雑に入り組んだ洞窟の中には大婆様の棲んでいる所以外にも幾つか部屋のような場所があるらしい。
そしてその中で気に入った場所を選んで、我と彼女の住み処とするのだ。

「ここがいいんじゃないかしら。母の寝床の、次に広い場所よ」
やがて彼女に言われた広間を覗き込むと、そこには成る程確かに棲みやすそうな落ち着いた空間が広がっていた。
「ふむ・・・我も、特に異存は無い」
「それじゃあ、今日から狩りに行くときは私の分の獲物もお願いね。母も少しは楽になって、きっと喜ぶわ」
確かに言われてみれば彼女は、幾ら体が大きいとは言え道端を歩いているだけで怪我をするような若い雌なのだ。
これまで彼女の食料は、母である大婆様が代わりに獲って来ていたのだろう。
狩りも出来ず世の中にまだまだ知らぬことの多い典型的な箱入り娘といった風情ではあるものの、あの偉大な大老を母に持つのであれば我としてもそんな彼女の境遇に文句を言う気には到底なれそうもなかった。

その日から、我は彼女の分の獲物も手に入れるべくほとんど朝から晩まで山の中を駆けずり回るようになった。
とは言え、元々道行く雌竜を口説いては交尾に勤しむ程に暇な毎日を送っていた我のこと、同じ暇が潰せるのであれば彼女の為に狩りに時間を費やすのは決して苦痛ではない。
それに夜になれば、あの可愛らしい妻がその深い懐で我の体を癒してくれるのだ。
依然として我らのすぐ傍に棲んでいる大婆様の存在には畏怖の念を覚えざるを得ないものだが、彼女も一応は娘に気遣ってか我らに対して不干渉を決め込んでくれているらしい。
尤も、もう我らに大した興味を抱かなくなっただけなのかも知れぬが・・・
だが彼女と暮らし始めてから4日後のよく晴れた日の夜、我は不意に己の身に起きたある出来事のお陰で結局彼女が最後まで教えてくれなかったあの言葉の意味をようやく理解することになった。

ズブ・・・ジュブ・・・
「う・・・ぬぅ・・・」
「あっ・・・はあっ・・・」
静かな闇に包まれた山頂の洞窟の中に、そんな我と妻の艶掛かった声が溶け出していく。
毎晩のように身を重ねているお陰か当初はほとんど我のなすがままに体を預けていた彼女も、今夜は幾分かでも突き入れられた肉棒を責めようとその大柄な身を揺すっていた。
それに伴って時折力強い収縮が我のモノへと襲い掛かり、まるで雄を丸呑みにされるかのような凄まじい吸引と圧搾が体内の熱い滾りを搾り取ろうとその牙を剥く。
そして何度目かの抽送に合わせて張り詰めていた肉棒を突然グギュッと思い切り締め上げられると、我は雄としての歓喜の悲鳴を上げながら彼女の中へと大量の白濁を放っていた。

「ぐ・・・ぬ・・・はああああぁっ・・・!」
ズビュッ・・・ドクッ・・・ドクドク・・・
とてもつい先日初めて交尾を体験したとは思えぬ彼女の余りの上達振りを鑑みるに、きっともう数年もする頃にはあの大婆様の秘所に勝るとも劣らない獰猛で貪欲な魅惑の竜膣が彼女にも備わっていることだろう。
今はまだお互いに交尾の悦楽に浸ることができているが、その内に我より遥かに若い彼女から一方的に子種を搾取される日々がやってくるのだ。
そしてその屈辱的な光景は我の中に一種の恐れと、倒錯的な期待を同居させ得るのに十分過ぎるものだった。

ドサッ・・・
「はぁ・・・はぁ・・・ど、どう・・・?ま、満足した・・・?」
「う、うむ・・・今夜はもう・・・足腰が立ちそうにないわ」
そんな我の敗北宣言に、彼女が心底嬉しそうな笑みを浮かべる。
やがて我の方もこんな幸せな生活を手に入れられたという喜びに微笑を浮かべて彼女に応えると、我らはそのまま並んで心地良い眠りの世界へと旅に出掛けることにした。
だがその夜・・・

ガシッ
「むっ!?むぐっ・・・ふぐぐ・・・?」
眠っていたところを突然何者かに閉じた顎ごと顔を掴まれて、我は抗議の声を封じ込められたまま現実の世界へと引き摺り戻されていた。
そして余りに巨大なその深紅の鱗を纏った手の感触に自身の眠りを妨げた不埒者の正体を悟ってしまい、背筋に悪寒のような冷たい細波が伝っていくのを実感してしまう。
更には突然の襲撃者に怯えて硬直した我の体にその長くて太い尾を巻き付けると、大婆様が我をまるで仔竜か何かのようにヒョイッと軽く中空へ持ち上げていた。

ノシッ・・・ノシッ・・・
「う・・・うぐ・・・むぐぅ・・・」
やがて口を塞いだ上に屈強な尾の牢獄に捕らえた我の身を、大婆様が静かに妻の許から引き離していく。
その光景は我の胸の内に、もう2度と彼女に逢えなくなってしまうのではないかというような極めて不吉な予感さえ芽生えさせていた。
だがロクな抵抗もできぬまま成す術も無く大婆様の寝床へと運ばれると、純粋な恐怖心が我の思考を縛り始める。
一体、大婆様は我をどうするつもりなのだろうか・・・?
何か大婆様の気分を害してしまったのだろうかという自問が、幾つも幾つも脳裏を過ぎる。
そしてようやく有無を言わせぬ体の拘束が解かれると、我は恐る恐る眼前の大婆様の顔を見上げていた。

「う・・・お、大婆様・・・い、一体何を・・・?」
何の心の準備も無いままに恐ろしい大婆様の御前へと引き立てられたせいか、どうしても声が震えてしまう。
「フフフフ・・・鈍い奴だね・・・本当に解らないのかい・・・?」
だがその何処か愉しげな大婆様の声にふと浮かんでしまったある1つの答えを、我は必死に否定していた。
やがてフルフルと左右に首を振って誤魔化そうとしていた我の目をじっと覗き込みながら、大婆様がゆっくりとその巨大な手を我の喉許へと伸ばしてくる。
そして恐怖に震える我の太い首筋をグッと片手で鷲掴みにすると、大婆様がそのまま我の体を地面の上へと仰向けに押し倒していた。

ズ・・・シッ・・・メキ・・・
「うあっ・・・あ・・・ぐぅ・・・」
訳も解らぬまま見上げるような大婆様の巨体をゆっくりと首の上に預けられ、潰れそうになった気道からそんな苦悶の喘ぎが零れていく。
「心配しなくても、こいつはほんの摘み食いって奴さ。お前もあたし好みのえも・・・雄だったからねぇ・・・」
明らかにわざと言い直したのであろう"獲物"という言葉に、我は最早抵抗を諦めていた。
今夜は数日前のあの時とは違い、我は大婆様に強制的にこの一方的な交尾の場へと連れ込まれたのだ。
その理不尽さ故に当然我にも幾許かの抵抗の意思があるだろうことは認めながら、大婆様はそれすらもその圧倒的なまでの力と威圧感で捻じ伏せるつもりなのだろう。
それに、これが大婆様の言葉通りほんの摘み食いなどで済むはずが無い。
娘を起こさぬように気を遣ってと言えば聞こえはいいが、実のところは我がどんなに泣き叫んでも唯一大婆様の凶行を止める術を持つ彼女の邪魔が入らないように無力な獲物を巣へと持ち込んだに過ぎないのだ。

やがて声と呼吸を堰き止められて悶えていた我の耳に、グパッという粘液の後を引くような水音が届いてきた。
絶対的な捕食者がその牙口を開ける、獲物にとっては絶望の音。
だがゆっくりと迫ってくる大婆様の膣は首を押さえ付けられているせいで視界には入らず、我は今にも肉棒に食らい付いてくるであろう熱い肉襞の感触をただひたすらに待つことしか出来なかった。
「はぁっ・・・ひっ・・・うく・・・」
肉棒の先端に薄っすらと感じる煮え滾った愛液の発する鋭い熱が、結合の瞬間を待ち侘びる我の時間を延々と薄く細く引き延ばしていく。
は、早く・・・もう・・・待ち切れぬ・・・
大婆様に呑まれる覚悟が、そんなじれったい時間とともに少しずつ少しずつ磨り減っていった。
そして張り詰めていた緊張の糸をほんの一瞬撓ませた途端に、バクッという音と衝撃を残して我の肉棒が大婆様の秘所へと咥え込まれてしまう。

ズリュッ、ギュリッ、グジュッ・・・
「がっ!うあっ・・・うああああぁっ!」
摘み食いどころか一滴残さず貪り尽くすかのような激しい吸引と、雄を跡形も無く摩り下ろそうという意思さえ感じられる程の容赦無き肉襞の蠕動。
そして我の肉棒を芯まで焼き尽くさんとばかりに溢れ出す、高温の雌老竜の愛液。
それらが渾然一体となって我のモノをこれでもかとばかりに蹂躙すると、我はものの10秒も耐えられぬまま精の飛沫を吹き上げていた。

「ぐあがっ・・・う・・・ぐわあああぁぁっ・・・!」
つい数時間前の妻との交尾でほとんど枯れ果てていたはずの白濁が、次から次へと勢い良く迸っていく。
たった1度の射精だというのに一瞬意識が飛びそうになったのを辛うじて堪えると、我はあっという間に空になってしまった己が精に半ば感謝しながらぐったりと地面の上に崩れ落ちた。
「わ、我を・・・殺すつもり・・・なのですか・・・?」
「まさか・・・愛しい娘の夫を、ちょいと可愛がってやっただけじゃないか・・・フフフフ・・・」
「で、では・・・もう終わりに・・・?」
本当に大婆様がちょっとした深夜の暇潰しに我を閨へ誘ったというのなら、精の尽きた我にもう用は無いはず。
だが一縷の望みが託されたその問いに、大婆様の何とも無慈悲な返事が返ってくる。

「まあ待ちな・・・お前がどんなに無残に枯れ果てようと、あたしが満足するまでは嫌でも付き合ってもらうよ」
「そ、そんな・・・これ以上はもう・・・」
「フゥン・・・お前・・・このあたしに逆らうつもりかい・・・?どうなるか分かってるんだろうねぇ・・・?」
そんな命の危険を感じさせる明らかな脅迫の言葉に、我は内心泣き出しそうになっていた。
大婆様に逆らった雄竜には、残酷で屈辱的な死あるのみ。
そしてこの理不尽極まりない誘いを断ることは、大婆様に逆らったと看做されるというのだ。
この前は元々我を試すつもりの問いだっただけにそれに逆らった我も辛うじて命拾いしたものだが、今度という今度は本当に殺されてしまったとしてもおかしくはない。
「さあ・・・どうなんだい・・・!?」
だがやがて冷たい殺気を含んだ大婆様の鋭い視線を間近から突き刺されると、我はおとなしく観念して持ち上げていた首をドサリと力無く投げ出していた。

やがて覚悟を決めた獲物の様子に満足したのか、怒りにも似た険しい大婆様の表情が一転して屈服させた雄を愛でるような妖しいそれへと変化していく。
この巨竜を満足させるまで、我はロクに逆らうことも出来ぬままただただ蹂躙され尽くすのみ・・・
そんな暗い絶望の中にただ1つ残っていた我の救いは、黙って大婆様に従っていれば少なくとも命だけは保証されるということだ。
あの娘に告白した時も、我は確かに死が恐ろしかった。
だがそれは単に延命を望む生存本能の囁きによる恐怖であって、あの時は彼女を想う雄としての矜持がほんの少しそれに勝っただけのこと。
しかし今の我は、ようやく手に入れられた彼女を、生涯の伴侶を、静かな幸福を、奪われることではなく自ら手放してしまうことを心から恐れていた。

「フフフ・・・そんなに心配そうな顔をするでないよ・・・お前はただ、おとなしくしていればいいのさ」
やがてそんな大婆様の言葉とともに、我のモノを締め付けていた肉襞がゆっくりと動き始める。
クチュッ・・・キュッ・・・ジュルッ・・・
「ふ・・・あ・・・はぁ・・・」
それは先程までの雄を搾り尽くさんとする獰猛な捕食者の宴とは打って変わって、まるで愛する夫を慰めようとするかのような慈愛に満ちた愛撫だった。
と同時に、交尾に没頭し始めた大婆様の表情が更に柔らかくなっていく。
その余りの雰囲気の変わりように内心困惑しながらも、我は深い安堵の息を吐き出すと黙って大婆様に己の身を預けることにした。

「・・・きて・・・あなた・・・早く起きてよ・・・」
「ん・・・む・・・ぅ・・・?」
翌朝、我は耳元で囁く妻の声で意識を取り戻していた。
そっと目を開けてキョロキョロと辺りを見渡してみるものの、目に映るのは昨晩と何ら変わらぬ新たな住み処の壁面と心配そうな妻の顔だけ。
「大丈夫・・・?随分深く眠っていたようだけど・・・」
そう言われて明かりの漏れてくる洞窟の天井を見上げてみると、もう昼近い時間なのか垂直な光の筋がキラリと目に突き刺さっていた。

昨日の夜・・・我は確か大婆様と・・・
だが頭と体にはっきりと刻まれていた激しい行為の記憶が、自分の置かれている状況に疑問の声を投げ掛ける。
あの後、我は何時の間にか気を失ったのだ。
永い永い、一方的でいながらも陵辱と呼ぶには程遠い大婆様との不思議な交尾。
空っぽになった雄を大婆様が満足するまで延々と責め尽くされ、我は終わりの見えぬ快楽の嵐に打ち負けたのだ。
そしてグッタリと力尽きた我を、大婆様が元通り妻の隣へと運んでくれたのだろう。
「いや・・・何でもないのだ」
「そう?それならいいけど・・・」
そう言いながら、彼女がなおも怪訝そうな表情を崩さずに我へと問い掛けてくる。
「・・・もしかして、母に連れて行かれたの?」
「うぬっ・・・ど、どうしてそれを・・・?」
その突然の核心を突く妻の言葉につい反応してしまうと、彼女はやっぱりといった表情を浮かべながら我の横にそっと蹲っていた。

「私ね・・・父の姿を余りはっきりとは覚えていないの」
「父・・・?そう言えばこの住み処には大婆様の夫の姿が見えぬが・・・一体どうしておるのだ?」
「父は今、他の仲間達と一緒に山の麓の方で暮らしているわ。あれからもう・・・40年近くになるわね」
40年前か・・・妻の年齢を考えれば、彼女もその頃はまだ産まれたばかりの幼い仔竜だったことだろう。
「姿はうろ覚えだけど、父は全身を綺麗な翠色の鱗で覆った、年齢も400歳を越える立派な雄竜だったそうよ」
「それが、どうしてここを出て行ったのだ?お主もまだ幼かっただろうに・・・」
「きっと、母との生活に耐えられなかったのね・・・母は週に1度、一方的に父と体を重ねていたの」
あの大婆様と週に1度・・・たった一晩だけですら我があんなに恐ろしい思いをしたというのに、確かにそれが毎週続くとなれば何時か耐えられなくなってしまったとしても不思議ではない。
だが彼女の話を聞いていく内に、我はやがてその憐れみを含んだ想像が決して自分とも無関係ではないと思い知らされることになった。

「成る程・・・確かにあの大婆様とそう頻繁にまぐわっていては、命が幾つあっても足りぬだろうな・・・」
「父がいなくなってから、母はまだ幼かった私をたった独りで育ててくれたのよ」
それは、きっと我などには想像も付かない程の難業だったに違いない。
ただでさえ仔竜を育てるのには豊富な水と食料、それに適度な温もりが必要なのだ。
だがこの山の頂には、そのどれもが余りにも不足している。
3、40年前と言えば大婆様が頻繁に山を下りてきては雄竜を襲っていた時期と重なるから、恐らくは子供の為の食料を探すついでに彼女の父となる新たな雄竜をも探していたのだろう。
しかしあの巨大な大婆様の激しい交尾に耐えられる雄などそう多くはおらず、中にはまぐわいの最中に力尽きてしまった者も大勢いたのに違いない。
それが、雄竜達の間に大婆様についての恐ろしい噂話を生む一因となったのであろうことは想像に難くなかった。

「でも結局、母に釣り合う新しい雄は見つけられなかったの。その頃には皆、母を恐れていたから・・・」
「しかし、その話が昨晩我が大婆様に連れて行かれたことと一体どういう関係があるのだ?」
「簡単なことよ。母は自分では相手となる雄を見つけられないから、娘である私を利用することにしたの」
やがて彼女が漏らしたその言葉に、何となくおぼろげだった今の状況が幾分かはっきりと見えてくる。
「幸運なことに、私は母と同じく早熟だったお陰で他の仲間よりも何倍も早く成長したから・・・」
「つまりまだ仔も産めぬお主を使って、新たな雄竜をこの住み処に住まわせようとしたというのだな?」
「もちろん、あなたは私の・・・私だけの夫よ。それは間違いないわ。でも母は・・・」
彼女はそこまで言うと、不意に言葉を詰まらせていた。
その美しい顔には我が気を悪くしたのではないかという不安げな表情が色濃く浮かんでいて、大婆様の思惑通りに我をこの洞窟に住まわせてしまった自分を責めているようにも見える。

「よいのだ・・・お主と共にいられるのなら、我はたとえ大婆様の慰み者にされようとも一向に構わぬ」
「ほ、本当に・・・?」
「そのくらいの覚悟が無ければ、幾ら我とてあの恐ろしい大婆様に逆らったりなどするものか・・・」
彼女はそんな我の返事にようやく元の落ち着きを取り戻すと、疲れ切った我の体をそっと抱き抱えてくれた。
硬い甲殻を纏う母親とは違って柔らかな皮膜に覆われた彼女の大きな腹が、まるで我の疲れを癒すかのように確かな温もりを伝えてくれる。
ああ・・・何という心地良さなのだろうか・・・
このささやかな幸福の時間を、我はどうあっても手放したくない。
やがて彼女のお陰で体中の疲労がすっかり拭い落とされると、我は意気揚々と狩りに出掛けて行った。

それから1週間後・・・
我は最早日課となった妻との夜伽を終えると、彼女が眠りに就いたのを見届けてからそっと立ち上がっていた。
そして闇の奥に佇む大婆様の寝床へ、静かに足音を殺しながら近付いていく。
だがやがて広い地面の上に蹲っていた大婆様の姿を目にすると、我は気持ちを落ち着かせるように1つだけ大きく息を吸ってからその深紅の鱗を纏う巨大な背中に声を掛けていた。
「大婆様・・・」
「ん・・・ど、どうしたんだい・・・?」
まさか我の方から大婆様を訪ねてくるとは夢にも思っていなかったらしく、不覚にも動揺したらしい上ずった声が我の耳へと届いてくる。
とは言え一度眠りに就けば容易には目覚めぬはずの大婆様がこんな我の小声に反応したということは、やはりまだ眠りには落ちていなかったのだろう。

「今日は以前のあの日から1週間・・・大婆様は今夜も、我をここへ連れ込むおつもりだったのでしょう?」
「あの娘に聞いたんだね・・・それにしても、まさかお前の方からあたしのもとへやってくるなんてねぇ・・・」
「我は彼女を生涯の妻に選んだのです。その為に大婆様の慰み者になれというのなら、喜んで引き受けましょう」
それが、我の出した答えだった。
大婆様が決して雄竜を敵視しているわけではないという事実を知って、我も大婆様が味わってきたのであろう数十年間の孤独と苦悩を理解することができたのだ。
「あの娘も、随分とまたいい雄竜を見つけたものだねぇ・・・お前があたしの夫でないのが悔しいくらいだよ」
そう言いながら、大婆様が地面に体を横たえた我の上へと静かに覆い被さってくる。
そして微かな恐れを含んだ興奮に屹立していた我の怒張を淫靡な水音とともにその秘所へ呑み込むと、心地良い歓迎の締め付けが雄の精を搾り取ろうと一斉に襲い掛かって来ていた。

ズギュッ・・・ミシ・・・ギギュウッ・・・
「くっ・・・ふ・・・ふああぁっ・・・」
「フフフ・・・まだ入れたばかりじゃないか。だけどお前こそ、あたしが待ち望んでいた雄なのかもねぇ・・・」
やがて逆らい難い快楽に悶え狂う腹下の雄を見つめながら、大婆様がその妖しい嗜虐的な表情を一瞬だけ柔和な母親のそれへと変えて静かに我の耳元へと囁いてくる。
「あの娘を、幸せにしておくれよ・・・」
だがその切なる願いに対する我の肯定の返事は、一層激しく締め上げられた肉棒から吐き出された屈服の証とともに甲高い嬌声となって深夜の闇の中へと響き渡っていた。

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