――朝起きたら、アレがアレになっていた。

 (落ち着け俺)

 息を吸って吐いて、呼吸を整えこめかみをグリグリと抉り込むように刺激する。

 『痛っ!』

 少々やり過ぎたが完全に目が覚めた。うん覚めたそうに違いない今度こそ。

 ゴソゴソ。

 ――パジャマをまさぐり、再度アレを確認。

 グネッ。

 『……』

 イヤな感触。思い切って下着まで引き摺り下ろす。

 グネグネグネグネ。

 『う、う! うわぁああああああ!』

 ――視線の先に確かにソレはいた。今度こそ間違いない現実。

 (な、な、何?、ナニが起こったんだぁああああ?)

 いや起きては、正確にはおっきしてますが何か? いや何かって俺のナニが、ナニが!

 (り、りりりり、龍?になっちまった?)


 朝っぱらから丸出しになった俺の股間。どっちかと言えば自信の無い愚息の変わりに
悠々とそそり立ちうねる、龍の首。
と言っても東洋系っぽいのでどこまでが首でどこからが胴体かイマイチ分からないのだ
が……結構冷静だな俺。

 『……っと』

 なんとなく触って見る。しゃりしゃりとした鱗と蛇腹を撫でる、いや撫でられる感触が
心地良い。感覚は基本的にアレのままか。俺の感覚を反映してか龍も気持ちよさそうに目
を閉じていた。

 『うっ……!』

 軽く握り締めてしごくと、いつも以上の欲望が漲って来る。押し流されるように俺は行
為に没頭していった。

 『グゥッ…グルルル……グッ』

 『ぐっ……クウウッ……うっ』

 (やべぇ。気持ち良過ぎる)

 愛撫を加える度股間から龍の呻きが漏れるが、それは俺と完全に一致していた。普段は
声なんて出した事はないが、それもまた凄く気持ちがいい。持続時間もいつにも増して長
くなっているような気がする。

 (――そろそろ、イキたい)


 どれぐらい続けただろうか。欲望の開放を思った途端、まるで堰を切った様に熱い絶頂が訪れた。

 『グル、グオオオオオオッ』

 『うっ、うああああああっ』

 アダルトビデオみたいに言葉にすらできない快楽の叫びが、龍の咆哮と響き合う。視界
が霞む中、部屋を汚したという後悔すらささいになる満足感に俺は酔った。

 ドサッ!

 『うっ! ……しまったっ!』

 平衡を失い、背後のベットに倒れた衝撃で少し自分が戻る。慌てて目の前の惨状を確
認。PC確かつけっぱなしだったっけ……修理に出す時どう言い訳をしたらいいものか。

 『ありゃ?』

 コトが済んだ後の生臭い、自己嫌悪を伴う粘液はどこにも付着していなかった。
結構派手にぶっ放した気がするのに……思わず股間の龍をしごいてみる。

 『グァアアッ』

 『ぐぁああっ』

 軽い射精感。もしかしたらあの機能もおかしくなってるのか?


 (もうコレは人間の……じゃない?)

 異形と化した器官に対し遅すぎる恐怖が湧き上がる。身体は正常に反応し龍も萎えるが、
それでもぐねぐねと意思に反したうねりを見せて――こちらに鎌首を向けた。

 『グル……?』

 『ひっ……?』

 明らかな意志を持った龍の瞳が、俺の我慢の限界を越えさせる。

 (い、いいいいイキて、生きてるるるうるる?)

 『うぁああああああああああ!』

 気が付くと、身支度もそこそこに俺は家を飛び出していた。

 『龍根症ですね』

 取るものも取らず駆け込んだ、某医院の一室。診察に当たった若い医師は淡々とした口
調で俺の病状を告げた。

 『りゅう……ナンデスッテ?』

 『グルルル……グルル?』

 途中で声が裏返ったのは聞きなれない単語のせいというより、相手の余りにそっけない
態度だった。ヒトが一大決心をして己の恥部を晒していると言うのに……まるで単なる風
邪の様な扱いに怒りを覚える。(ついでにいうと股間のアレの無邪気な唸りにもだ)

 『"龍根症"。かいつまんで言うと男性器が龍になる病気です。原因は不明ですが長期間
性交経験の少ない、あるいは皆無の方に多いという事が判明しています』

 相も変わらず事務的に解説を続ける目前の推定男・職業自称医業従事者。本当に同じモ
ノをぶらさげている(いた)のかと信じられなくなる。(どうせ今の俺よりお粗末なのは
間違いないが!)

 『とにかく……治療法は……』

 怒りと不安で途切れるようにしか声が出せない俺を、医師はバッサリと斬り捨てた。

 『お気の毒ですが、現時点で有効なものはありません』

 『んなっ……』

 ガタンッ!

 椅子の跳ねる派手な音。下半身が裸なのも厭わず俺は仁王立ちになる。


 『落ち着いてください。命に別状はありませんので』

 『これが落ち着いていられるかっ! この、この……』

 藪医者とは流石に言えない程の理性は残っていたが、それもそろそろ品切れだ。この診
療機械の外装を引っぺがして、自分と同じ性別か確かめてやろうと決意する。

 『暴れる前にこれだけ聞いて頂けませんか』

 動揺した風も無く――軽く手を挙げて医師は俺を制した。

 『厳密には治療法は無いわけではありません。ですが私としてはお勧めはしかねます』

 一瞬だが彼の無表情に沈痛な翳りが射した、ような気がする。

 『――手術による除去。何を意味するかはお分かりですね?』

 『ん、なっ……』
 
 『グ、ガガ……』

 ……ガタンッ。

 椅子のカタつく空しい音。下半身が裸のままなのも構わず、俺(と限りなく龍っぽいイチ
モツ)は脱力感に力なくへたり込んでしまった。

 『アフターケアも含めますと、日本国内法では対処しかねる部分もありますが、現在特
例で性転換処置を行えるように――』

 その後の録音テープの様な医師の説明は殆ど覚えていない。まともにものを考えられる
様になったのは、自宅のベットに辿り着いた後だった。


(俺は……どうしたら……ちくしょう)

 全てを投げ出し放り出し。枕に顔を埋め泣きながら束の間のまどろみに身を委ねる。

 もう、何も、考えたく、ない……。

 ――数時間後。

 『くそっ……ハハッ。夢じゃない、よなぁ』

 空腹にも後押しされて眠りは長くは続かなかった。意外とすっきりとした目覚めの後、
僅かな希望を持って下着を下ろしたのだが。

 『!……グル?』

 不思議そうにこちらを見上げる股間の龍。通称龍根症を患った俺の愚息は主の胸中な
どどこ吹く風といった感じで無邪気に視線を送ってくる。その瞳に確かな知性が感じられ
るのは錯覚だろうか。

 『ちくしょうっ。お前の、お前のせいで俺はっ……』

 俺は思わずそいつに怒りをぶつけたくなった。殺さんばかりの勢いで龍の首根っこを押さ
えて思い切り締め付け――。

 『思い知れ! この……このぉうっ? うくっ!』

 痛みではなく膨張する快楽に俺は仰け反った。見ると龍は刺激に反応したのか明らかに
勃起(?)して太く逞しく、堂々と反り返っている。(まともな愚息だったらどんなに心
強かったか)


 『グルゥ〜♪』

 また龍が俺を見た。促しているかのように。その魅惑に理性では抗えなかった。
ああ、俺の、クソッタレ。

 『うっ……うう……ううううっ!』

 ――数 時 間 後。

 『ハァ……ハァ……まだ、硬いのかよ。た、たまんねぇ』

 『グルルルルルルル』

 満足げな唸り声と息も絶え絶えな喘ぎ声が、テレビを聞き流すかのように意識を通り過
ぎる。自己最高記録をぶっちぎりで更新した自慰の連続に俺は崩壊寸前だった。

 『もう、勘弁してくれぇ……』

 自分の愚息に哀願すると言う非常にシュールな光景も、当の本人には真面目な死活問題
と化していた。あの藪医者め。どこが命に別状は無いだか。

 【そうじゃの。そろそろ安定してきたしの】

 『……はい?』

 【礼を言うぞ我が依り代よ。やはり現身(うつしみ)の味は格別じゃ】

 厳かに龍が、いや愚息が、喋った。


 ……いくらなんでも、んなわけない。コイツは由緒正しき現実的な難病。きっと神経衰
弱で幻覚と幻聴が、だ。ここは一度睡眠をとってから忌々しいあの病院へ行こう。
うん早くそうしようおやすみなさいぐっとナイト。

 【――たわけが】

 ムギュウウウ!

 『ひぎっ!……』

 呼吸が止まった。止められた。

 『イッ、痛;あ。をjぢwhづうd!!』

 こ、こい、コイツよりによって、た、タマを、玉を……。

 『く…く、う、うぅ〜っ』

 どこからともなく生やした腕で、容赦なく握りつぶそうとした、らしい。痛みで視界が
ぼやけて涙と鼻水が垂れ流しになる。床に激しいキスをしない様に身体を支えるので精一
杯だった。

 【大げさに騒ぐなフヌケめが。大事に成る程してはおらんわい】

 頭に響く皮肉げな声。理屈抜きで俺は悟った。というより最初からわかっていたのを認
めたくないだけだったのかもしれない。

 (コイツは……本当に……生きている)

 ――あくまで、俺の、ナニだが。

 ――数分後。

 そりゃあ衝撃の事実だったが……いつまでも浸っているわけにもいかせてもらえず。
お約束どおりというべきか、状況説明のお時間となったのだが。

 『詰まる所お前は俺のナニに憑依した悪霊か妖怪ってわけか? あぁいでででっ!』 

 ムギュウッ。

 【無礼者が。我をいかがわしいモノ扱いしおって】

 またもや股間の龍に急所をムンズと掴まれ激痛にのけぞる俺。破裂でもしたらどおすん
だよっ!

 【ちゃんと加減はしておるから安心せい。そなたの鍛え方が足りんだけだ】

 どうやって鍛えろと仰いますかこの御仁は。心中で慎重に毒付きながら、俺は改めて龍
が話した(というより思考が繋がってるらしいが)経緯を整理してみる。

 "簡潔に話すとだ。我はそなたが呼んだが故ここに在る。それが全てじゃ"

 『……』

 簡潔ですが端折り過ぎて全く説明になっていませんしわかりません。俺は無駄な時間を
過ごした事を後悔した。

 【まぁ、人間の思考では理解できなくとも仕方あるまい。そう落ち込むな。】

 励ましているつもりなのか龍が偉そうに深々と頷く。俺は思わず怒鳴りつけていた。

 『神様でもできるかっ! このアホっぐええええっ』

 ムギュウウウウウ!!

 あ、あぁ……こ、この、股、また掴みやがった。気力を振り絞って激痛に耐えると俺は
龍に詰問する。


 『で……お前、いつ出て行く気だ?』

 もはやコイツの正体などどうでもよくなっていた。こんな超常現象と一秒たりとも一緒
にいられない。早く出て行け俺の青春と性春を返せ。

 【さぁて? どうしようかのぉ〜?】

 底意地の悪い笑みを浮かべる龍。予想はしていたがコイツ、性悪だ。あ、いえキツイ性
格をしていらっしゃるあぐええええ。

 ムギュ。ムギュ。ムギュギュ。

 【ぬしの態度がそんなだと、ずっとこのままかもしれんがな?】 

 『く、くぅ。卑怯だ、ぞ』

 玉を指先で軽く弄ばれる。手玉に取られる、という状況をここまで体現しているのは人
類で俺だけに違いない。
このままだと男を引退するのも間近な予感がする。股間を押さえながら俺は無性に悲しく
なった。ろくに人性の楽しみも味わっていないのに、こんな形で握り潰されるなんて……。

 『あ、あんまりだ。畜生。……う、ううううっ、うええええええ』

 涙が止められず俺は泣き崩れてしまった。笑いたければ笑え。こうなったら派手に泣き
喚いてから死んでやる。ああ、死んでやるとも。あの無味乾燥医者にでもコイツをぶった
ぎってもらって道連れだ。


 【……そこまで嫌か?】

 呆れたような、少し傷ついたような調子で龍がおずおずと尋ねてくる。当たり前だ。

 【……じゃがな。我にも出たくても出れない事情があってな。その為にぬしの協力が】

 『何だ何だ! できる事はなんでもするから早く言ってくれ早く!』

 思わぬ提言に悲しみも痛みも一瞬で吹き飛んだ。俺は感激の余り涙しながら龍の首を引
っ掴んで熱い視線をお見舞いする。それならそうと言ってくれればいいのに。今ならコイ
ツとディープキスでもできる気がした。

 【う、むぅ……分かったからそのなんというか、情熱的に迫るのはや、めい】

 閉口した様子で龍が俺を制止する。照れたように見えるその表情は、何故か少しだけ
(ほんの少しだけ)可愛いと思ってしまった。

 ――あくまで、俺の、ナニだ…が。

 【コホン……ではよいか? まず我はぬしの、その……イチモツを依代にして存在して
おる。ここまではわかっとるな?】

 俺は頷く。

 【故にそこから離れると消滅してしまう、ということじゃな。安定してきたとはいえま
だまだ自立できるほど霊力は溜まっておらんのだ】

 そこで可笑しそうに目を細める龍。その表情はどことなく艶っぽく、なんとなくコイツ
は雌だと直感した。

 【大体我もこんな形で顕現しようとは思ってもみなかったしの。まさに奇縁中の奇縁と
言えよう。くふふ】

 『お前、ひょっとして神か何かなのか』

 ちょっと真剣になる俺。だったらこの神をも恐れぬふてぶてしさも納得がいぐぁああ!!

 ムギュウウウウ。

 【調子に乗るな。たわけめ】

 『し、しまっ、痛ぅ〜』

 不用意に発した、いや想った俺の思考は股間の痛みに握り潰された。全くとんでもなく
気難しい御仁だ。これさえなければ――いいと言えなくも無いのに。に?


 【ん? いまぬしはなんと想ったか?】

 互いの疑問符が唱和した、様な奇妙な感覚。いやなんでもない。こんな緑色でウロコび
っしり、日本絵画から抜け出してきたような龍は俺の好みじゃない。やっぱり毛がふさふ
さで、愛らしくて尽くすタイプでアノ時にはさりげなくリードしてくれるような……。

 【……ほほう】

 背筋に氷を突っ込まれたような破滅の悪寒。

【あんな新 参 共と我を比べて……そういうか。そこまでいうか】

 いつの間にか身体(?)を伸ばした龍の顔が俺の正面にあった。やばいやばいまずい不
味すぎですっ。

 『ま、まま股はマッタ、マッタだ。話せば分かる話せば』

 【いやよう分かっとる。そなたが犯した罪の重さは十分にのぉ〜】

 俺の制止と懇願に龍は傍目に分かるほどニンマリと笑った。でもお約束どおり目は笑っ
てな……いや処刑前の罪人の足掻きを楽しむサディストの笑みがたっぷりとたたえてたり
して。

 【加減無く、容赦なく、全力でいくぞ……覚悟はよいかの】

 絶望が俺を襲った。さようなら俺の(未来の)嫁。さようなら俺の(未来の)娘。子孫
丸ごと握り潰される激痛に備えて全身に力を込める……。

 ムギュウウウウウウウ!


 『イッ!……痛ぃひぐうううへ、へほ?』

 思いっきり左右に引っ張られた俺の頬。肝心の息子のお宝は……無事だ。安堵よりも呆
然とする俺の耳を(いや脳を)特大の笑い声が圧倒した。

 【フハ、フハ……。フハハハハハハハハハ! たたた、たまらぬっ。ぬしの間抜けなツ
ラがぁっハハハッ、フハハハハハハハ!】

 手を放し俺の股間で身を捩って笑う龍。俺も五月蝿いやら悔しいやらで頭が割れそうに
なり身を捩った。なんてヤツだ。ホントに……本当にもうこれさえなければ!

 【くっ、クフフフフフフッ、ま、まぁ過ぎた事じゃ許せ。大体ぬしの玉は我の龍玉じゃ。
壊してしまっては元も子も無い】

 ちょっと驚いたがスグに合点がいった。龍がよく宝玉を持っているというアレか。

 【まぁ仮の、じゃがな。だがこれのおかげで我はこうして話しておるとも言える。送ら
れてくる精命の力が強ければ強いほどに、我もまた強く在る事ができるのだ】

 龍はそこで一旦言葉を切る。その試すような視線にも不思議と怯まず、俺はコイツの言
いたい事をなんとなく悟っていた。

 『【つまるところ――】』

 俺と龍の声が唱和し、一時の沈黙。ちょっと気恥ずかしいが俺が後の言葉を引き取る。

 『その、精力――を供給し続ければ、お前は独立できるんだな?』

 ものすごく恥ずかしくなった。端的に言うとアレだ。アレをコレしてこーすルという事
ではないだろうかという事。股間の龍もニヤニヤしながらこちらを見ている。

 【意外に察しの良いの。確認の為に言うのじゃが具体的にはオ……】

 『わーわーわー!! わーわーわー!!』

 誰も聞いていないのだが、コイツの口から言わせたくない4文字言葉を俺は必死に阻止
しようと大声を張り上げた……無駄だろうが。わかってる。俺に言わせたいんだろう。

 『言ってやるぜ!うおおおおお!、お、オナ、ニ、ぃ……すればいいんだろうがっ!!』

 【恥ずかしいヤツじゃの。本当に言いおった】

 ケラケラと笑い声が頭に響いて痛い。特に俺の心が。だが言ってしまえばもう怖いもの
は無いとも思った。

 【正解じゃ。本当はまぐわいが一番じゃと思うが……相手すら探せぬ身のぬしには酷と
いう物じゃろう】


 その原因の一端がその様に仰いますかそうですか。だが独り身の欲求不満を舐めるなよ。
俺は一念勃起、じゃなくて発起して押入れの中の封印を解く事にした。

 【む!……ぬ……ぬしは……なんという……まさか】

 徳用ローションに秘蔵のDVD、柔らかいナニか(息子用)に硬いアレ(直腸用医療器
具)。床に広げられる大きな声では言えない漢グッズの数々に、さしもの龍も圧倒されて
いる様で小気味良かった。

 【ま、待て! 我の話はまだ】

 『もう十分わかってるって。待ってろ。スグにエネルギー満タンにしてやっからな』

 【……好きにせい】

 それでは無駄だと思うがの、と呆れた様な龍の声を無視して、俺式発電所は最大出力で
運転を開始した。

 ――半日後。

 『はぁ……ハァァア、ハァ。真っ白に……燃え尽きたぜ』

 DVDを燃料にジェネレーターを焼きつかせんばかり欲望のフルドライヴに、さしもの俺
もはしたない格好で床に伸びていた。電力換算すると少なくとも我が家の一年分は賄える
と思う。


 『どぉーだ! 結構イッタだろう?』

 深い達成感に酔いながら(でないとやってられない)俺は龍に問いかけた。あれだけ扱
かれたのに鱗一つ剥れていないソイツは、大きくあくびを一つ。

 【やはり……話にならぬ。せいぜい1割じゃ】

 とても冷たく、えげつないお言葉を一つ。

 【だから言ったであろう。無駄じゃと】

 最後に鋭い蔑みの視線をくださいやがりました。

 『ななな!、なんでだよ! そんな筈はないだろ普通!』

 話せるようになるまで先程より手間は掛からなかったのだから、もう少し溜まったって
いいだろうに。憤りを隠せず迫る俺を、龍はぽつりと。

 【情けが、足りんのじゃ】

 わけのわからない、けれど何かしら重い言葉を放って止めたのだった。

――情け? 

 言われている事が理解できなかった。そんな俺の心中は文字通り以心伝心で、龍の溜息
が大きく響く。

 【今までの戯れとどう違うのか、と聞きたいのじゃな】

 『当たり前だ。その、オナ……という点では一緒・・・・・・だろう』

 なんとなく言葉が胸に引っ掛かる。自分でも気が付いているのに分からないような、曖
昧で矛盾したもどかしさ。それを何とかして欲しくて、俺は龍に眼で訴えた。

 【我の口から言って欲しそうじゃな。情けないヤツめ】

 ソイツの視線には責める色は無かった。むしろそこには柔らかい優しさがある。反論す
る毒気を抜かれて俺は自分でも驚くほど素直になってしまった。

 『……たのむ。教えてくれ。もうどうしたらいいかわからないんだ』

 事実上の敗北宣言。白旗を揚げたのを実感しつつも、悪い気分はしなかった。

 【くふふ。まぁ頼られるのは受け入れられたという事じゃ。そこは素直に嬉しい】

 龍から向けられる微笑を、俺はなんら抵抗無くそのまま返す。

 【ふふふふっ……くふふふふっ】

 『ははっ……はははははっ』


 お互いに交わされる笑声。驚いた。いつの間にか俺はコイツの事を――。

 【まぁそれは言葉では説明しにくい。頭でっかちなぬしらでは特にな】

 龍が身体を伸ばして迫ってくる。いかん。なんとなく先の展開が読めてきた。

 『ちょッ……ま、まま待て、マッタ』

 ……まったくどこかの同人じゃあるまいし、そもそも俺の好みは(以下略)。

 【好みかどうか。フフフ、試してみるかの?】

 視界一杯に肉薄する気配を感じた次の瞬間、何が起こったのか把握できなかった。

 『う!……うむむうっ……』

 一瞬か、それとも数刻後か。松のような清清しい香りの体温が、俺の口腔に密やかに侵
入しているのを自覚。

 (……お? わわわき、キ、キス! 口に龍が……いやそれって……あ)

 クチュ。クチュ……クチュクチュッ。

 ――抵抗出来ないほど、優しさと魅惑を伴っての龍の口付け。戸惑う俺の舌は、それに
優しく愛撫され、やがて濡れ絡まりながらダンスを踊り始める。

 【導かれるのが、好きじゃったな?】

 途切れる快楽。俺から顔を離し、確かめるまでも無い確認を龍はした。正直ワケが分から
ないし、こんなご都合主義エロゲ的展開なんてアホだと思う。それでも。


 『あぁ……好きだよ。悪いか?』

 【ほんに情けないヤツじゃ。がそれもまた良い。ふふ、鍛え甲斐があるというもの】

 それでも俺は頷いた。状況や過程は釈然としないが、この気持ちは認めざるを得ない。コイツと
なら、ナニするのも悪くないと素直に思える。高まる期待感が実に心地良かった。

 【では、伽と参ろうか?】

 頭に響く甘美な声は、とても楽しそうだった。

 相手が自分の(以下検閲削除)である事への躊躇いが無い訳ではないが、快楽への誘惑
があっさりと打ち勝つ。俺達は口腔で先程よりも深く濃密に交わった。

 『むうっ……はむぅっ』

 【おうぅっ。そうじゃ。もっと深く……】

 緊張も解け、互いを貪りあう事に馴れた頃。龍の手が俺の胴体にそっと廻される。

 【我の……身体を撫でるの、じゃっ……おおお、よいぞ】

 操られるように伸びた俺の手は、蛇体をそっと背中から蛇腹まで思いつく限りの優しさ
で愛撫する。お返しとばかりに爪を引っ込めた指が、やさしく背中を掻いていた。

 『ふはぁっ! こうすると、気持ちいいか? あッ……いい』

 【んっ……くぅ】

 鱗を一枚一枚を愛しむ様に指で撫でたかと思えば、大胆に蛇腹を両手で抱えてゆっくり
と扱きあげてもみる。その度に龍の快楽が高まっていくのが、自分のそれと重なっていく。

 あぁ――そういう、コト、か。俺はふいに理解した。

 【ただの欲望だけなぞ、所詮は空しい。のう?】

 問いかける声に同意し濡れた器官を絡ませる。これまでの欲望の処理――まさしく言葉
通りの行為は空しさを後に残してゆく事が多かった。実に陳腐でありふれてはいるが、俺
が忘れていたのはたった一文字。


 ("アイ")

 考えるだけで恥ずかしい。が必要なのはまさしくそれなのだ。自分へのアイ。他人への
アイ。後者の方、龍の言う『まぐわい』の方が直感的でわかりやすいのは真理だと思う。

 【他者を愛せ。自分も愛せ。さすれば全ては天上の褥じゃ】

 射精を急ぐ必要など、無い。俺は焦らず、ゆっくりと相方を――自分自身を抱く。付き
まとう筈の後ろめたさは快楽に溶け、ただひたすら愛しい。ただひたすらに心地良い。
全身全霊がゆっくりと高まり、満たされていく恍惚に俺は、いや俺達は酔った。

 【あ、あぁ――我は】

 『俺はぁ――あぁっ』

 刹那の絶頂には無い、圧倒的な灼熱がゆっくりと、意識を完全に溶かしつくし、て。

 【『おおうううっ。……ううっ』】

 自然に響き合う嬌声に、僅かばかり互いを取り戻した。

 『ハァッ!ハッ。ハァーッ……ハァハァ』

 『グオオ、おうっ。フゥーッ……グルルル』

 襲い掛かる疲労と脱力感に身を任せるまま、近くのベットに沈みこむ。お互いを庇う様
に、惜しむように抱き合いながら。


 【ふ、情、上出来、じゃ……なかなか、スジがある、ではないか】
 
 『お、ほめに預かり、こ、光栄ってヤツかな』

 【思っても無い事を抜かし、よって。じゃが良い。ぬしは実に、良い】

 『もっと…・・・イケルぜ。そっちはまだ満足していないだろう?』

 回復を待つ間も、互いの睦言は絶えることが無かった。

 ――あれから毎日の様に俺達は愛し合った。覚えたてはスゴイというヤツか、達しても
飽きること無く繰り返し、夜空が白み始める頃惜しみながら眠りに付く繰り返し。

 【んくっ……んふふふ。そろそろ時が尽きる。惜しいの】

 随分と成長した股間のつれあい――というとナニか締まらないが、龍が艶っぽく俺に甘
えてくる。押し付けられる蛇腹はずっしりとした重量感と心地良い弾力を備えた極上の抱
き枕だ。

 『あぁ。そろそろ眠らないと、服を着るから引っ込んでくれ……って』

 起き上がろうとした身体は生え揃った龍の四肢で押さえ込まれる。

 【い や じゃ。もう少し、少し。のう?】

 『いや、そのさすがにこれ以上はヤバイ。な? 頼むから』

 【……ナぁニを考えとるのかの。我はただ寝物語でもと思っただけじゃが】

 『あ……コノっ……』

 【くふふ。もう一戯イケそうじゃな。いや今宵は朝まで――】

 再度接近する龍の顔を俺はかろうじて押さえ込み、軽くキスをしてひとまず鎮める。
この手のバカップル的やりとりは慣れた儀式で、俺は手順通りにせがむのだった。

 『な、なぁそれよりだ。今日はどんな話を聞かせてくれるんだ?』


 【ん――? 今日は……ぬしの聞きたい事をどうじゃ?】

 『お、待ってました。あのさ、俺が病院にいった時なんだが――』

 コトが済んだ後眠りに付くまでの間、龍は自身について等色々な事を話してくれるよう
になった。本来は軽々しくもらしてはいけない秘密だそうだが、

 【寝物語では良くある事じゃ】

 とまぁよく分からない理屈で嬉々として教えたがるソイツの話は実に面白い。
例えば龍の正体――まぁこれは予想通りではあるものの霊とか精霊に近い存在で、大抵は
依り代無しでは活動できないが、運良く力を蓄え肉体を持つのに成功した一部は神とか悪
魔、妖怪と呼ばれていたりもするそうだ。

 【我も幸運な例になろうかの。しかし、いや……クフフ。ナニ何でも無い】

 よほど俺のナニに憑いたのが可笑しいらしくてちょっと腹が立つが、龍は同時にその事
をいたく気に入っている様子でもあったのでちょっと嬉しくもある、かもしれない。

 【性器は豊穣や強い生命力の象徴じゃ。我の将来にも縁起が良いと言うもの】

 『お前、神にでもなるつもりか?』

 確かに豊穣はセックスと結びついているとする信仰も多い。結構なニーズはあるのかも
しれないが……がっ。ぐえええ。タ、タマ……。


 【あの性悪な性格では、か。悪かったのぉ。ほれほれ】

 ムギュムギュ。

 ……相変わらずえぐい急所攻撃。コイツが神になったら、いったい何人の男を手玉にす
るのかとかなり不安。不能者続出の祟り神にだけはならないで欲しいと思いますが。

 【ぬしがその第一号になりたいかの?】

 筒抜けでしたゴメンナサイもうしませんっていうか、なんかもう気持ち良くなってしま
うぐらいに堪能いたしましたので謹んで辞退申し上げます。

 【ふん。もうよい。さっさと寝らぬか】

 とっさにまくしたてた、もとい思い浮かべたアホ思考の羅列に興がそげたのか龍は衣服
に収納可能な大きさまで身を縮めていく。俺は安堵と満足の溜息をつきながら、遅すぎる
眠りへと身を沈めていった。

 【また……今宵も……のぅ】

 途切れる意識に滑り込む龍の声はどことなく恥じらいを、帯びて……いる、よう、な。
いやどうでもいい。俺も返事を置いていく。

 (あぁ、楽しみだ……よ)

 ……本当に。

 ……本当に、楽しかった。時が経ち、まさに年を越そうとしている今もそう思う。

 あいつはもういない。

 きっかけはあの夜、もう何度と無く過ごした甘い時間の事だった。

 『……そういやお前の事を病気だって言われたけど、その割には全然騒ぎになっていな
いよな』

 【ん〜ふふふふ。まぁそういう事にさせておる、とだけ言っておくかの】

 何せ我々の眷属は神様じゃからの。と意味ありげに龍は微笑んだ。がそれは急速に消え、
無表情な、いや悲しみを押し殺しているようななんともいえない顔付きになる。

 【今宵が……最後じゃ】

 『は、ぁ?』

 唐突なせいもあって言われた当初は意味が分からなかった。理解できなかった。

 ――いや、したくなかった。最初からわかりきっていた結末だからだ。

 『お、おい――』

 【すまぬが今これ以上は話せぬ。ぬしもはよう寝れ】

 ぷいと顔を背けた龍はするすると股間に引っ込んで目を閉じてしまう。

 『何なんだよ……おい』


 俺もわからないフリをしてひとまず眠りに入った。消えぬ不安に胸を苛まされながら。

 ――そしてその日の夜。

 いつに無く入念に体を洗い、何時も通りに裸でベットに座った俺達は、なかなかコトを
進められなかった。

 【……あの、じゃ】

 『なん、だよ……』

 互いに固まったまま。身体は互いを求めているのに、心が拒絶している感じがした。

 今宵が最後。

 最後。

 迷惑な居候がいなくなるというのに。望んでいた筈なのに。

 【そうじゃ。ぬしにとって待ちに待った瞬間じゃ】

 口火を切ったのは龍だった。言わせるなとばかりの恨みがましい視線が俺に突き刺さる。
その先を言わせてはならない。俺はソイツの言葉を封じようと。

 『いや、俺は――』

 【我はぬしから離れるだけの身体を得た。世話に……なったの】

 黙って肯定するしかなかった。確かにそれが目的……だったからだ。うなだれる俺につ
いと龍の顔が肉薄する。


 【何を腑抜けておるか。我の門出じゃぞ。……泣くとは何事じゃ!もっと嬉しそうな顔
をせい】

 『ウ、うるせイ、これは嬉し涙、だ』

 俺達はしっかりと、互いに抱きしめあった。慣れ親しんだ芳しい松の香り、手触りの良
い鱗にぷにっとした蛇腹……。

 【正直逞しいとは言いがたいが、そなたの肌触り、温もり。あぁ――】

 離れたく――ない。互いの想いはその時完全に一致していたと思う。暫くの間そのまま
動けなかった。

 【よいか。抜くぞ】

 『ん……。あぁ』

 振り切るような龍の言葉と共に、ずくんっ。と股間からごっそりと引き抜かれるような
快感。俺が見たのは天井付近から見下ろしてくる小さいながらも日本絵画の写し、いやそ
れ以上の神々しい姿だった。

 【ふぅうううーっ。おぉ。我の、我の尻尾じゃ。ついに、ついにやったぞ】

 あちこち自身の身体を調べては嬉しそうにはしゃぐ龍につられて、俺も少しだけ笑った。

 『思ってたより小さ……いや待った、タマは、タマはやめれぇえええ! えへ?……』

 うっかり出たタマ潰しものの失言に、急降下してくる執行人。そういやもう俺のは必要
ないんだった……。決定的な痛みに目を閉じた次の瞬間。掴まれた袋に快感が漲った。

 【ふふ。いつ見てもぬしの反応は面白い。こんな良きモノを潰すなどもったいない事】

 どういう訳か、揉まれる度に重い射精の欲求が漲ってくる。そしてその行き着く先には
凶悪なまでに逞しいモノが……悠々といきり勃っていた。

 『す、凄い……本当に、俺のか?』

 【試して見るかの?】

  ニュルッ。

 『うくっ……』

 先端から染み出た多量の粘着質で竿を扱かれ、俺のモノである事を認識する。おかえり
なさいムスコよ。AV男優の様にご立派になられて……父親として鼻が高いです。

 【ふん。役者如きと比べられるようなヤワなイチモツではないぞ、我の生まれたモノが
それでは困る】


 睦みあう時と同じ視線まで下がった龍が自身ありげに鼻を鳴らす。

 『確かに、これなら銭湯丸出しでも恥ずかしくないよな』

 【下品だの。だが確かにそこらの有象無象を捨て置いて雌が押し寄せてくるぐらいには
仕上げたつもりじゃ。せいぜいよがらせてやるがよい】

 そこで甘い吐息が再接近。

 【じゃが、初物は我が頂くとしよう。んふふふふふ。嫌とは言わさぬぞ】

 やさしく俺の身体を拘束しながら欲情しきった瞳で龍が求めてくる。俺に否といえる筈
もなかった。しかし。

 『あぁ。では俺も初物を頂くとするか。ハハッ。嫌とは言わせないからな』

 そこでぴたっと龍の動きが止まる。やっぱりコイツ、身体の方が初めてだって事を忘れ
ていたな。珍しく主導権を握れそうな喜びを隠して俺は畳み掛ける。

 『ここまで来て、ナニをこんなにさせといて怖いからナシでした、とか無いよな〜』


 【う、いやそのわ、我は怖気づいてなど……な、何をするかっ!】

 思い切って龍を押し倒す。力なく抵抗する蛇腹をまさぐりお目当ての位置へ……濡れた
感触。あった。そこに俺のいきり勃った欲棒をあてがう。

 クチュルッ。

 【あおうっ。グルルル……ま、たぬか、無礼、モノぉ……】

 『やっぱり濡れてるじゃないか。これなら案外スムーズに入るかもな。ってもう止めら
れないけど』

 クチュクチュクチュ。

 充血した己が先端で割れ目の綻びを広げていくと、下から切なげな唸り声が響く。蛇体
の緊張が緩んだのを確認した時、俺の自制の鎖も切れてしまった。

  ズブブブ……

 ケダモノの様に容赦無く挿入し、龍を犯していく。

 『くぅ……やべぇ』

 【グオオオ! お……あ、熱いぃ】

 ブチュッ!ブチュッ!

 肉の感触を楽しむ間も惜しく、一方的とも言える腰使いで俺は龍を責め立てる。こんな
強引なのは趣味じゃない、趣味じゃないが……もう時間が無いのだから。

 "今宵が最後"

 コイツはそう言った。つまり今回のコトが終われば……それまでに一滴でも多く、俺の
精を注ぎ込みたい。そんなドロドロとした本能に思考を犯されて俺は泣いた。

 【うぐォ、おおう。ぬしのが、ぬしのが我の胎で暴れて――】

 苦しいのか、器用に眉を潜めて龍が呻く。がソイツの肉は確実に締まり、俺のふがいな
い激情を懸命に受け止めようとしてくれていた。愛おしさが極まり、思考が白濁に押し流
される。

 ビュグッ……ビュググググッ……!

 『あ――!あああああ――!』


 久方ぶりの射精に俺は仰け反った。声も出なくなる程身体を力ませ全開で放出する快感。
長々と続いたそれの終息と同時に、身体から力が抜けてしまった。

 【グォ! お、重いではないか……たわけぇ……】

 俺の身体を受け止めて龍が呻く。

 『う! す、すまない、く……いよっと』

 起き上がれないので体を横に倒して避ける。解ける筈の結合は何故か一緒に付いて来た。
蹂躙されたばかりの雌の肉が、がっちりとムスコを捕らえて離さなかったからだ。いかん。
またなんとなく先の展開が……。

 【フシューッ……やってくれおったな】

 あら不思議、いつの間にか俺が龍に押し倒されている体勢に。そしてねちねちと絡み付
いてくる結合部の感触は、何故かイソギンチャクに食われる獲物の運命を彷彿とさせた。

 【人間が……力を与えたからといって増長しおって……罰を与えねば……グルルル】

 引きちぎってくれようか、と腰?を揺するソイツの瞳はちっとも怒っていなかった。俺
は別の意味で泣きそうになったが堪える。ここまでしてくれているのだから応えねば男じ
ゃない。

 『すま、ない。今度は俺を好きにして、ぐえっ!』


 後ろ足でムンズと袋を掴まれたらしく鈍痛がはしる。間抜けにも答えを間違えたらしい。
有無を言わさぬ勢いで龍が口腔を犯して、いや求めてくる。懸命に舌で応えながら俺は
腰を使い始めた。

 【んくっ……あれだけ教えたというのにこのたわけが……再教育が必要じゃ……】

 いったん口を離し、龍が俺を見下ろして挑戦的な笑みを浮かべる。俺は情けない表情を
造って認めた。

 『あぁ。俺は頭が良くないらしい、イイッ……!』

 ブチュブチュッ……クチュクチュ……ブチュブチュッ……。

 舌と性器の動きを連動させて、互いの心と身体を快感に染めていく。いつも以上のやり
とりは意識が堕ちるまで続いてイキ――そして。

 そして――目が覚めると。
 
 アイツは……龍はいなくなっていた。

『夢……だったのか』

 服も着ていたし、ベットも乱れてはいない……が体内に残る欲情の残滓がそれを否定し
ていた。それと。

 屑箱の近くに落ちた丸められた紙が俺の注意を引いた。手にとって広げる。

 "さらばじゃ。達者での"

 物凄い下手な字面だったが確かにそう読めた。同時に龍の心情までも。夢と思わせよう
と服を着せたものの、未練がましくこんな文章を書いて、思い直して捨てて。

 『いらん気遣いしやがって……畜生』

 俺は泣いた。屑篭に入れ損ねたのでは無くて。傍に置いておいたのは読んで欲しかった
からに間違いない。

 『中途半端に逃げやがって……忘れて欲しけりゃ記憶ぐらい消してくれよ……』

 スグに嫌だ!と思った。やり場の無い感情に紙を破り捨てようとしてやっぱり止めた。
確かに出会いは迷惑極まりないカタチで始まったし、そもそも人間じゃないけれど、あん
なに通じ合っていたのに。

 『ひでぇよ……責任取れよ……』 

 俺はその日から暫く時間があれば泣き続けた。紛らわす為に自身を慰めて、達しては思
い出してまた泣いた。


 アイツのいた証は、たしかにムスコに残っていたから。

 ――先端の張り出した鰓の付け根に。痣のようにも見えるが、それは確かに鱗だった。

 『……』

 "新年、あけましておめでとうございます"

 付けっ放しのTVから、むかつくほどに明るいアナウンス。回想に耽っている内に年を越
してしまったらしい。

 『めでたくねーよ……』

 想い出したせいか、俺のテンションはどん底だった。理不尽な怒りを無理矢理身体ごと
冷えたベットに押し込む。

 "各地の初詣の様子をお伝えします……賑わってますねぇ"

 背後から流れる殴り倒したいぐらい脳天気な実況が、俺の注意を引いた。あいつ、神に
なったらいつかはこうやって放送される身分になるのだろうか。その時には股……いやま
た会えるのだろうか。

 『……ってもうそんな関係じゃねぇか』

 股を合わせて愛し合っていたのはもう数ヶ月も前。再会したとしても向こうは天上の存
在だ。息継ぎに水面に顔を出しかけた所をグイッと引きずり込まれた気分で、ますます生
き苦しくなった。もう駄目だ。寝てしまおう。

 "いや、振袖姿の美人が多くて目移りします……"


 ナニを写しているのか見えないが、助平心丸出しのアナウンサーの股間を想像で思い切
り蹴飛ばすと、俺は自ら意識の水底に沈んでいった。

 ……。

 …………。

 『う、あああ――い、イくっ!! ……って……』

 あぁ夢か。

 初夢からの目覚め。それも今までの人生で最上級の――淫夢だった。が最高の瞬間だっ
た。だったが。

 『何だよこのエロゲ的安直な展開は……』

 初詣に行った小さな神社でお賽銭を入れたら龍が出てきて、そのまま境内でくんずほぐ
れつのねっとりしっぽり姫始め。しかもご丁寧にイッた感触で目が覚めたという……。

 『や! やべええええ』

 ……自分に中出し、もとい下着の中に出したという予想に落ち込む余裕は吹き飛んだ。
慌てて、恐る恐るムスコを露にして見、み……。

 グネッ。

 『……』

 ――アレが龍になっていた。

 【Zzzz……酒はまだかのぉ……Zzzz】

 しかもよくお休みで。


 『……』

 ゴツン。

 なんかむかついたのでこづいてみる。

 【ムニャ……ぬぅ! な、何をするか……】

 『お、おまえこそ俺のナニで何をやっているんだっ!!』

 間違いない。出会いを再現する形であの龍が俺の股間に鎮座ましまししていた。ソイツ
はニュッと身体を伸ばして俺を抱え込むとそのまま優しく押し倒してくる。その顔にはし
てやったりとばかりのニヤニヤ笑いが貼り付いていたが、瞳には涙が滲んでいるのは見な
かった事にした。

 【ん――? んふふふふ。ナニを犯るつもりじゃが……不服か?】

 『いえいえ。めっそうもございません』

 俺が涙目をごまかす様におどけて返すと、龍は満足そうに微笑んだ。がバツの悪そうに
顔を背ける。

 【……何で戻ってきたのか聞かぬのじゃろうな?】

 『俺が忘れられないから……うぐふっ!』

 ムギュウウウウ。


 懐かしい鈍痛。形ばかりのお仕置きはそのまま愛撫に変わっていった。俺のタマを優し
く揉みながら、そっぽを向いて龍は続ける。

 【……社に空きが無かったのじゃ。他に我の宿れそうな場所と言えばココしか……あ、
あくまで仮じゃ。仮じゃから……な、あむっ…っうん、ん……】

 相変わらず素直でない御仁だ。俺は無理矢理龍の顔をこちらに向かせると、口腔に舌を
差込み絡めていく。身体は正直でスグに淫らな粘液の音が響き始めた。いつもと変わらぬ、
いつもの手順で。

 【まぐわいはひ、久しぶりなので我慢がならぬ……よいか。抜くぞ】

 『奇遇、だな。お、俺も久しぶりっ、く、くう! だ。だから我慢できない。今すぐ犯
りたいんだ』

 全身を俺から引き抜いた龍の動きが止まり、やや呆れた感じで尋ねて来た。

 【なんじゃ? ……あれだけ良きモノを与えたと言うのに。雌の十や二十、抱えとらん
のか? もったいない】


 俺はニヤニヤしながら、限界までいきり勃った肉棒をてさぐりで的にあてがう。入り口
の肉を掻き回しながら優しく挿入、別れてから溜めてきた欲望と言葉を放った。

 『そ れ は、お前のせいだ。ぞっ……っく! やべぇ、い、イクッ!!』

 ビュグッ! ビュグッ! ビュググググ……。

 【ぬぅあっ、アッ! あ――熱い】

 『あ――はぁあっ、くっ……こ、こんな良すぎるのをあ、味わったら……な?』

 早撃ちなら某漫画のスイーパーにも引けを取らない腕前を披露してしまった。その言い
訳の様で格好は全然つかないが、本心だからしょうがない。龍は溜息一つ付くと、ぬめる
肉の動きに合わせて返事を返してきた。

 【早いのは構わぬが。……満足させてくれるまで、寝かしてやらぬ】

 本当に素直じゃない。こんなに、こんなに喜んでいるのに身体でしか伝える事のできな
い不器用な龍。でも俺はそれでいいと思う。

 ヌチャッ……ヌチャッ、ニュグググッ、ヌチャッ……。

 『ご、め。俺、もぅ、も――』

 【待て、まだ我は……あ、我もこ、このような……た、たまら、ぬぅ】

 放った精を潤滑に加えた第二ラウンドは、双方の相討ちでめでたく幕を閉じた。がまだ
まだ次がありそうだ。上と下の濡れた肉同士をねっとりと組み合わせると、俺達は果てて
も果てない交歓へと没入していった――。

 ……あぁ、今年は良い年になりそうだ。

【龍根奇話 了】

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