窓辺から差し込んでくる、心地良い春の日差し。
その瞼を焼く眩しさから逃れるようにしてベッドの上でゴロンと体を転がすと、俺は突然顔に押し付けられた硬い感触でまどろんでいた意識を一気に覚醒させられていた。
ムニュ・・・
「うっ・・・な、何だ・・・?」
そして渋々目を開けてみると、その眼前に真っ赤な鱗で覆われた広大な雌竜の背中が広がっている。
何だ・・・プラムか・・・
自分と同じベッドで巨大な雌竜が寝ているという事態にももうすっかりと慣れてしまったことを考えれば、俺も様々な種族が暮らすこの半月竜島での生活にいよいよ本格的に馴染んできたということなのだろう。
だがそれよりも何よりも、昨夜は俺とこのプラムがその将来と愛を互いに誓い合った特別な夜だった。

大学を卒業した後に、プラムとともにこの島と同じような幻獣達の楽園を作る・・・
俺がそんなある意味で現実離れした夢のような目標を立てたのは、異種族の生物達が平和な社会を築くことの難しさを身をもって知ったからだった。
その証拠に人間の文明が発達したこの時代でも平穏な居場所を奪われたり人間と上手く共存出来ずに苦悩している連中は後を絶たず、今現在も時折唯一の楽園を求めてこの島にやってくる幻獣がいるらしい。
しかし外の世界では大抵の場合化け物や怪物として恐れられている彼らだって、余程の根っからの悪党ででもない限りは誰しも不安や退屈とは無縁の平穏な共生生活を送りたいのに決まっている。
そして正にそれを実現させることこそが、この島を治めているプラムの父親、竜王様の理想なのだった。

ピピピピッ・・・ピピピピッ・・・ゴソッ・・・
「おっと・・・」
カチッ
やがて7時半にセットしていた目覚まし時計の音を聞いてプラムが半ば無意識的に太い腕を振り上げたのを見て取ると、俺は時計を叩き壊される前に素早く手を伸ばして騒々しいアラームを止めていた。
「プラム・・・ほら、もう起きろって・・・」
「う・・・うぅん・・・」
そして多少の力ではビクともしなさそうな彼女の巨体をほとんど全力を込めるようにして揺すりながら、まだ夢の世界を彷徨っているらしい彼女の意識を現実へと引き寄せてやる。
「あ・・・アレス・・・おはよう・・・もう朝なの・・・?」
「今丁度7時半になったとこだよ。早く起きなって・・・今日は1限目の講義があるんだろ?」
「そ、そうね・・・起きるわ・・・」

それはつい数時間前に愛の契りを交わし合ったとはとても思えない、よく言えばこなれた夫婦の日常のような光景。
だが俺もプラムも、本当のところはそんなロマンチックな関係を相手に求めているわけではないのだろう。
もちろん俺とプラムとの間に愛が無いということではないのだが、あくまでも俺達の関係は将来に同じ志を持った対等なパートナーなのだ。
やがてプラムも半ば寝惚けていた頭がはっきりしてきたのか、自分で起きると言ってから10分程ゴロゴロとベッドの上で惰眠を貪った挙句にようやく体を起こしていた。
「アレス、今何時?」
「もう7時45分だぞ。俺は今日の講義は2限目からだけど・・・朝食はどうする?」
俺がそう言うと、ベッドから降りたプラムがまるで眠気を振り払うかのように左右に頭を振っているのが目に入る。
「大学の食堂で食べるから大丈夫よ。それより2限目の講義って、もしかして"半月竜島の歴史"っていう講義?」
「ああ・・・竜学コースの必修科目だったからな。プラムも選択したのか?」
「ええ・・・それじゃあ、2限目はアレスと一緒に講義を受けられるのね」

どうやら今の彼女にとっては、俺と一緒に講義を受けられるかどうかが何よりも興味を引く事柄のようだ。
「昼過ぎからの"体育"も合同でやるみたいだし、2限目からはずっとプラムと一緒だよ」
「本当?それじゃ、帰りもアレスと一緒なのね!」
そう言えば、まだプラムとは帰りの時間が一緒になったことが無かったんだっけ・・・
別に俺としてはプラムと一緒に帰れるかどうかについてはそこまで気にしていなかったのだが、どうも不思議なことに彼女にとってはそれもかなり重要なことらしかった。
「まあ、そうなるな・・・じゃあ、俺はもう少し寝てから行くよ」
「ええ、待ってるわね」
そしてベッドの中で漏らしたそんな俺の言葉に快活な返事を跳ね返すと、彼女は早く食堂でお腹一杯朝食を食べたいのか随分と慌てた様子で一足先に寮の部屋を飛び出していったのだった。

それからしばらくして・・・
ピピピピッ・・・ピピピピッ・・・
「ん・・・もうそんな時間か・・・」
プラムのいない広いベッドの上で手足を大の字に広げたまま快適な二度寝に興じていた俺は、9時に再セットした目覚まし時計の音でふと目を覚ましていた。
そしてのそのそとベッドから這い出して軽くシャワーを浴びてくると、食堂で遅めの朝食を摂る時間を確保しようと手早く大学に行く準備を整える。
今日は2限目から4限目までの講義が入っているが、その全てがプラムと一緒に受けられる内容になっている。
当然ながら帰る時間もプラムと一緒だから今日は温泉宿で働く時間は取れないだろうが、それならそれで彼女と一緒に行きたい場所もあるし別に問題は無いだろう。

それから10分後・・・
まだ微かに肌寒さを感じる快晴の空の下を歩いて大学の食堂に辿り着くと、俺は最初の講義である"半月竜島の歴史"が開かれる講義室の場所を確認してから食事を注文しに行った。
何時もなら少し離れた大型の学生用の席でプラムが何かを食べている光景を見ているだけに、彼女の姿が見えないと何とはなしに孤独感を感じてしまうような気がする。
だが大勢の学生達で賑わう食堂の中で空き席を探している内に、俺は相変わらず仲が良さそうに並んで朝食を食べているロブとジェーヌの姿を見つけていた。

「おはようロブ」
「おお、アレスか。今日はプラムは一緒じゃないのか?」
「ああ・・・1限目の講義があるらしくて、今日はプラムとは別々に来たんだよ」
そう言いながら丁度良く空いていたロブの向かいの席に座ると、珍しくジェーヌが俺に話し掛けてくる。
「ねえアレス・・・ロブから聞いたんだけど、昨日温泉宿で大変な目に遭ったんでしょう?」
「ん?あ、ああ、まあね。でも別に何処か怪我をしたわけでもないし、平気だよ」
「それなら良いけど・・・きっと彼女が心配するわよ」
俺はそこまで聞くと、ジェーヌが何時も以上にロブとべったりくっついていたことに気が付いていた。
「ははっ・・・ジェーヌはちょっと心配性なんだよ」
成る程・・・俺が昨日危ない目に遭ったと聞いて、恐らくはジェーヌもロブの身を案じているのだろう。
確かにこの島は人間社会では考えられない程平和で良好な治安が保たれているものの、予期せぬ事件や不慮の事故というものは何時何処で起こるか分からないもの。
彼女も言葉には出さないものの、きっと余りロブに自分の目の届かない場所へは行って欲しくないのに違いない。

「まあ、ジェーヌの言いたいことも分かるけどさ・・・そのお陰で俺、ちょっと決心が付いたことがあったんだよ」
「何だよ、決心って?」
「俺、この大学を卒業したらプラムと結婚することにしたんだ」
それを聞いた瞬間、ロブが余程驚いたのか口に入れていたパンを喉に詰まらせる。
「けっ・・・うぐっ・・・!ぐ・・・ごふっ・・・」
ドン!
「ぐえっ!げほっ・・・げほげほっ・・・」
だがジェーヌが素早くロブの足に巻き付けていた尻尾を解いて彼の背中に強烈な尾撃を食らわせると、閊えが取れたのかロブが涙目で咳き込みながら目の前にあった水をゴクゴクと飲み干していた。
きっとジェーヌは、あの細腕では十分な力が出せないと思って咄嗟に自慢の太い尻尾を振るったのだろう。
「あ、ありがとう・・・ジェーヌ・・・」
「もう、ロブってば驚き過ぎよ」
「だ、だってさ・・・何だっていきなり彼女とそんなとこまで進展したんだよ?」

確かに、つい昨日まで何処かつかず離れずの距離感を保っていた俺とプラムがいきなり結婚の話にまで飛躍したことがロブには信じ難いのだろう。
「まあ、お互いに色々思うところがあってね・・・元々、遠からず彼女にプロポーズはするつもりだったんだよ」
先日の"仔竜の生態"の講義の時に俺とプラムの関係性に気付いたらしいジェーヌはその言葉には特に驚いた様子を見せなかったものの、どういうわけか隣にいたロブに対して何かを訴え掛けるような視線を注いでいた。
「そうなのか・・・ま、まあ・・・お前と彼女とならお似合いのカップルだと思うよ・・・」
「そう言うあなたは、何時になったら私にプロポーズしてくれるのかしらね?」
「えっ?ロブ、お前・・・」
ことある毎に2人のディープな時間を楽しんでいるらしいロブとジェーヌはもうとっくの昔に"そういう仲"なのだと思っていた俺は、そんな詰問口調の彼女の声に微かに不穏な雰囲気を感じ取っていた。
「いや、その・・・わ、分かってるんだけどさ・・・俺・・・苦手なんだよ、そういうの・・・」
まあ如何にもプレイボーイといった風情のロブがジェーヌのような美しい彼女に面と向かって真剣なプロポーズをしている絵面というのは確かに想像し難いだけに、彼の苦悩は何となく分からないでもない。
そういう意味では、比較的フランクに付き合えるプラムの方が俺も変に気を遣わなくて良いだけに楽だった。

「あっ・・・ほ、ほら、もう講義が始まるまで5分しかないぞ。早く行かないと・・・」
「そうね。この話の続きは寮に帰ってからゆっくりするとしましょうか。ゆっくりとね・・・」
う、うわぁ・・・口調は穏やかだけど、ジェーヌってば絶対滅茶苦茶怒ってるぞ・・・
「ア、アレス・・・」
「じゃ、早いとこ食器片付けちまおうか」
「私も行くわ」
やがて突然予期せぬ方向から降り掛かってきた修羅場にロブが弱り切った視線を俺へ送ってきたものの、俺はふと胸の内に湧いたちょっとした悪戯心でジェーヌと一緒に食器のトレイを片付けにいったのだった。

それから数分後、俺はがっくりと項垂れながらも少し前を行くジェーヌの無言のプレッシャーに怯えているらしいロブとともに今日最初の講義室の前へとやってきていた。
そして入口の前で俺達の到着を待っていてくれたらしいプラムと目が合うと、彼女が嬉しげにその巨体を揺らす。
「あ、アレス!ほら、早く中に入りましょう!もう講義が始まるわよ!」
だがそんな俺とプラムの姿を見せ付けられるのは今のロブにとっては正に針の筵だったらしく、俺は何だか少しばかり彼が気の毒に思えてしまっていた。
まあジェーヌにしてみれば、お互いに体を重ねることはあってもなかなか一線を越えてくる気配の無いロブに多少なりともイライラを募らせてしまっているのだろう。

だが俺とプラムの目があるからかジェーヌはまるで睨まれただけで石になってしまうのではないかと思えるような鋭い視線をロブに突き刺しながらも、取り敢えずは無言のまま一足先に講義室の中へと入っていった。
「アレス・・・俺・・・今日本当にジェーヌに締め殺されちまうかも・・・」
「別に、ちょっと勇気を出してプロポーズすれば済むことだろ?お前の何時もの押しの強さは何処に行ったんだ?」
「そ・・・それはそうなんだけど・・・なんでお前はそんなにあっさりプロポーズなんて出来るんだよ?」
それを聞いて、プラムが正に雌の勘とも言うべき察しの良さでロブの置かれている状況を正確に読み取ってしまう。
「ロブ・・・私が言うのも何だけど、多分彼女はただあなたの覚悟が知りたいだけなんだと思うわよ」
「分かってるよ・・・彼女が断るわけないってことも・・・ただその・・・き、気恥ずかしくてさ・・・」
「と、とにかく、その話は昼飯の時にでもしないか?もう講義が始まっちまうからさ」
そしてそんな俺の提案に頷くと、俺とプラムはロブがビクビクとしながらも憮然とした表情で席に着いているジェーヌの隣に腰を落ち着ける様子を恐る恐る見守ったのだった。

「それじゃあ、俺達は後ろの広い方に座ろうか」
「そ、そうね・・・」
プラムもロブとジェーヌの間に流れる張り詰めた空気に少しばかり恐れをなしたのか、何時も快活な彼女にしては珍しく微かに声を潜めながら俺の提案に同調していた。
やがてそっと足音を殺すようにして後方の席へと移動していく俺達の様子に気が付いたのか、助けを求めるようなロブの視線が俺の背中に痛い程に突き刺さる。
だが結局は孤立無援のまま怒れるラミアの傍に縫い付けられてしまうと、俺は何処と無く緊張で震えているように見えるロブの後ろ姿を眺めながらほんの少しだけ胸を痛めていた。

まあ、何れにしてもあれは彼らが2人で解決すべき問題だろう。
そして必死にそう自分へ言い聞かせている内に、今回の講師らしき年配の人間の女性が講義室の中へと入ってきた。
歳は恐らく60歳近いだろうが、全身に纏っている雰囲気は実年齢よりもずっと若く感じる。
如何にも精力的に何かに人生を捧げているというような、活発なオーラが目に見えるようだった。
「おはよう、皆さん。私がこの講義の講師を務めるモイラ・オーガスよ。よろしくね」
オーガス・・・ということは、彼女はきっとロイ教授の奥さんなのだろう。
歴史を専攻するロイ教授を支えながら自らもこの半月竜島の歴史を教える身として教鞭を振るっているのであれば確かに彼女が見た目よりも若々しい雰囲気を醸し出している理由としては充分だろう。

「それじゃ早速講義を始めていくけど・・・その前に、この中で半月竜島に元々住んでいた学生はいるかしら?」
そんなモイラ教授の質問に、室内の数名がおずおずと手や前脚を上げていく。
やがて全体の2割程を占めているらしい手を挙げた学生達の中には、当然のことながらプラムも入っていた。
「ありがとう、結構よ」
「へぇ・・・結構いるんだな・・・」
「お父さんがこの島を治め始めたのって、ほんの数十年前のことなのよ。それを考えたら少ない方だと思うわ」
まあ今手を上げなかった約8割の学生達は皆この島が幻獣達の楽園となってから移住して来た者達ということになるから、そういう意味では確かに随分と移民が多いようにも見受けられる。

「この半月竜島はね、元々は極少数の所謂幻獣と言われる生き物達が静かに暮らす島だったの」
まだこの島が発展する前の懐かしい記憶を思い浮かべているのか、プラムを初めとした先程手を挙げた学生達の多くがそんなモイラ教授の言葉にじっと耳を傾けていた。
「でもある時、現在の竜王様がこの島を行き場を失った幻獣達が安心して暮らせる場所にしようと思い立ったのね」
モイラ教授によれば、それが今から約50年程前の出来事らしい。
もちろん最初から今のような数々のインフラが整っていたわけでもなければ住民の数もそれ程多くはなかったわけで、その後人間が住み始めて幻獣達用の建物を作り始めるまでは苦労も多かったということだった。
島を発展させる上では竜王様がその身に宿した知識の結晶による叡智や一昔前の考古学者であるハンスの残した記録等がフルに活用されていて、この島が過去の歴史の集大成の上に成り立っていることが良く分かる。
例えばその内の1つが、学生証や温泉宿の宿泊部屋で使われているあの特殊な合金の製法らしかった。

「そう言えば密かに気になってたけど、あの学生証って何で出来てるんだろうな?軽い割には凄く丈夫そうだけど」
「確かに私も以前温泉宿に通ってた時に、どうやっても壁に傷が付かないから爪を研いでたりした記憶があるわね」
「宿の壁で爪研ぎするなよ・・・」
そんなプラムのお茶目な一面に驚きつつも、俺の意識は壇上で話すモイラ教授の方へと向けられていた。
「皆の学生証にも使われてる金属はね、アンバーメタルと呼ばれる最先端の化学合金なの」
「アンバーメタルか・・・アンバーって確か琥珀って意味だったと思うけど、琥珀には見えないよな?」
そんな俺の呟きが聞こえたのかそれとも聞こえなかったのか、モイラ教授がなおも先を続ける。
「アンバーっていうのは琥珀のことを指すんだけど、もちろん原料が琥珀から出来ているということではないわよ」
彼女の説明によると、その昔どんな刃や爪でも一切傷を付けることの出来ない、非常に硬度の高い琥珀色の鱗を纏った種のドラゴンがいたのだそうだ。
その鱗は自然界に存在する物の中ではダイアモンドよりも硬い唯一の物質であるらしく、今から60年程前にそれらのドラゴンの化石から取り出した鱗の成分を再現する為の試みが始まったのだという。

「皆は、オリハルコンっていう金属の名前を聞いたことがあるかしら?」
オリハルコンか・・・
一昔前のファンタジー作品なんかでは割とよく使われていたものの、言われてみれば最近は余り目にしない言葉のような気がする。
モイラ教授によると、オリハルコンという物質は古代ギリシャの文献に登場する銅系の金属の名前なのだという。
だがその正体は銅、ダイアモンド、プラチナ、琥珀、石英など諸説ある為に現在もはっきりとは同定されておらず、ほんの数十年前までは寧ろ架空の存在なのではないかという説が最も有力視されていたらしい。
だが余りにも強靭過ぎることで有名なドラゴンの鱗の研究が始まってからは、その琥珀色の鱗こそが正にオリハルコンそのものなのではないかという論調が出てきたのだという。

つまりアンバーメタルとは、人工的に作り出した伝説のオリハルコンというわけだ。
まあ、これが例えば未知の鉱物として人跡未踏の秘境に存在しているなどといった性質のものだったとしたら確かにロマンのある話なのかも知れないが、実在の生物の体組織の一部だったというのが驚愕すべき部分なのだろう。
実際、現代の発達した技術力によってその鱗の組成自体は研究開始からほんの5年程であっさり解読出来たらしい。
しかし常温では傷が付かないことから加工するには1500度以上に熱するか爆薬を使って裁断する他に無いらしく、実用的な加工技術の確立にはそれから更に10年の歳月が必要になったという逸話がその説の信憑性を裏付けていた。

「へぇ・・・何か・・・身近にあり過ぎて気が付かなかったけど凄い物だったんだな・・・」
「あ、じゃあ今度からはこの学生証で爪研ぎが出来るのね!」
「いや、そういうことじゃなくてさ・・・」
もしかしてプラムは、何時もこんな調子なのだろうか?
俺が一緒で気が緩んでいるからなのか前回"竜と人間"の講義を受けた時も居眠りをしていたし、元々プラム自身が歴史の講義に余り興味が無いのだとしても些か緊張感が無いような気がする。
まあ・・・それもある意味でプラムの意外な一面として受け入れてしまいそうなのが、俺の彼女に対する正直な心情の表れなのかも知れないのだが・・・

やがてそんなことをしている内に正午を告げる講義終了のチャイムが鳴ると、モイラ教授の退出を見届けたプラムが飯の時間だとばかりに大きな目を爛々と輝かせながら立ち上がっていた。
「ほらアレス、講義は終わったわよ。早く食堂に行きましょ!」
「あ、ああ・・・でもその前に、早いとこロブを助けてやらないと」
俺は後ろから見ていても分かるジェーヌの剣呑な気配に当てられてすっかり精神的に参ってしまっていたらしいロブの憔悴気味な姿を目にすると、急いで彼らに声を掛けに行った。
「ほらロブ、それにジェーヌも、皆で飯を食いに行こうぜ」
「あ、ああ・・・」
それが俺からの助け舟だと理解したのか、ロブが今にも泣きそうな弱り切った表情で俺に感謝の目を向けてくる。
隣でゆっくりと頷いたジェーヌは相変わらず無言を貫いていたものの、普段はスキンシップ代わりにロブの足へと巻き付いている彼女の尻尾が今日だけはまるで獲物を逃がさぬ為の足枷のように見えたのだった。

何処と無く近寄り難い雰囲気を纏いながら先を行くジェーヌの後ろを足首に尻尾を巻き付けられたロブが渋々ついていくというまるで囚人の連行のような光景を見守ること約5分・・・
俺とロブはようやく大勢の学生達で賑わう食堂に辿り着いて、一先ず安堵の息を漏らしていた。
「それじゃアレス、私は向こうで食べてるわね」
俺を食堂に誘っておきながら颯爽と大型の学生用のカウンターに食事を注文しに行くプラムの後ろ姿に、ロブがまるで味方が減ったかのような落胆を滲ませる。
そして食事の注文の段階になってようやくジェーヌに拘束を解いて貰うと、何だか数年分の寿命と生気を吸い取られたような表情を浮かべたロブがぐったりと俺に凭れ掛かってきた。

「ロブ、大丈夫か?」
「ジェーヌってば、講義中一言も口をきいてくれないんだよ・・・はぁ・・・俺、そんなに悪いことしてるのか?」
「そうだなぁ・・・」
正直俺にはラミアである彼女の心情を正確には把握出来ないものの、もしかしたら早々に婚約を決めた俺とプラムに対する嫉妬のような感情も多少はあるのかも知れない。
じゃあその矛先が一体誰に向くのかと考えてみれば、1週間も一緒に過ごしてお互いに体も重ねているのに恋仲以上の関係にまでは踏み込んで来ないロブに対して彼女が業を煮やしているのは自然な成り行きなのだろう。
「良く分からないけど・・・今日の帰りにでも一緒にプロポーズ用のプレゼントでも買いに行かないか?」
「それは良いけど・・・何処に行くんだ?」
「ほら、ジェーヌが前に言ってただろ。竜専門の装飾を売ってる店があるってさ」
それを聞いて、ロブもその時の会話を思い出したらしい。
「でも、ジェーヌは人間用のアクセサリーで事足りてるって言ってたぞ」
「それは上半身に身に着ける物だからだろ。でもその店なら、蛇の体の方に付ける装飾も売ってそうじゃないか?」
「そ、そうか・・・でも、帰りに出掛けるのをジェーヌが許してくれるかな・・・」

ああ・・・そう言えばロブは、外出の時は何時もジェーヌに許可を取ってたんだっけ・・・
「彼女だってこのタイミングで買い物に行くって言ったら多分察してくれるだろ。何なら、俺から言おうか?」
だが俺がそう言うと、ロブが少し迷った末に首を振る。
「いや、俺から言うよ。尤も・・・それまで生きていられたらだけどな・・・」
どうやら、ロブはジェーヌから容赦無く浴びせられるプレッシャーにもう不安と緊張で一杯一杯らしい。
絶対に断られる心配の無いプロポーズをするのにもこれだけ憔悴していたら、人生を懸けて意中の女性にプロポーズしている世の男性達から笑われてしまうというものだ。
まあ、ロブにとってはそれだけジェーヌが大事ということの裏返しなのかも知れないのだが・・・
そうして注文を終えて席に戻ると、俺は相変わらず無言のまま食事を進めるジェーヌの隣で身を縮込めているロブの正面に座ってお互いに言葉少なな昼食を摂ったのだった。

やがて3限目の講義である"体育"の開始時間が近付いてくると、俺達は手早くトレイを片付けて大学に隣接している広いグラウンドへと移動していた。
この時間はLクラスに属する180名近い学生が一堂に会するほぼ唯一の機会らしく、履修コースの違いで普段余り顔を合わせる機会の少ない学生同士の交流を深めるのが主目的となっているらしい。
長方形のグラウンドは長い方で一辺が400メートル近くもあり、全力で走っても端から端まで1分以上掛かる程だ。
もちろん吸血鬼など陽光に弱い種族などの為にグラウンドに隣接した体育館も使用することが出来るらしく、試しに中を覗いてみるとこちらも1辺が200メートル近くある超大型の施設になっているらしい。
特に奥側の半分は陽光が入らないように窓の類が一切無く、代わりに無数のソフトライトで常時明るく照らされているようだ。
その上床や壁のほとんどは、先程の講義で習ったアンバーメタルのタイルで覆い尽くされているらしい。
「色々スケールの大きな大学だとは思ってたけど、体育館もグラウンドも物凄い広さなんだな・・・」
「まあ巨人とか大型のドラゴンとかが思う存分暴れるのには、最低でもこのくらいの広さが必要なんだろうな」

やがてロブとそんなことを話している内に、体育の講師らしい3匹の雌のドラゴンが何時の間にか姿を現していた。
翼の生えた体高2メートル程の体に纏う輝くような橙色の鱗に、美しい煌きを湛える漆黒の竜眼。
3匹とも見た目が酷似していることを考えると、恐らくは全員姉妹なのだろう。
「ほら、皆集まって!体育の講義を始めるわよ!」
そして3匹の中でも僅かに体の大きな1匹が甲高い声で号令を掛けると、180名近い学生達がゾロゾロと彼女達の前に並んでいく。
フェアリーやゴブリンなどの小さい学生が前に、俺達やジェーヌなど人間に近いサイズの連中が中段に、プラムやラルドなど体の大きな連中が後ろの方に自然と並ぶのは、これまでの講義で培った習慣の1つなのだろう。
吸血鬼達だけは黒い日傘を差している関係上列から少し離れて脇の方に寄っていたものの、講師の雌竜達もその辺りには当然のように配慮してくれているらしかった。

「皆揃ったみたいね」
ややあって様々な姿形の学生達が目の前に整列すると、先程号令を掛けた雌竜がそう言いながら小さく息を吐く。
一応講師という立場ではあるものの見た目の印象からすると竜としてはまだかなり若い部類に入るようだから、もしかしたら彼女は多種多様な学生達がちゃんと自分の指示に従ってくれるか内心不安だったのかも知れない。
「あたしはテノンよ。体育館の中での講義を監督するから、よろしくね」
それに続いて、今度は彼女の後ろに控えていた他の2匹の雌竜が入れ替わるように前に出てくる。
「私はアレー、こっちのちょっとだけ小柄なのがメーサよ。私達は外での講義を受け持つわ」
「ちょっとアレー!あたちのことまで勝手に紹介しないでよ!」
そんな何処か微笑ましい彼女達の様子に、些か緊張気味だった学生達の間には少しばかり緩んだ空気が流れていた。

「はは・・・何だか騒がしい講師達だな・・・」
だが今も相変わらずジェーヌの隣で戦々恐々と彼女の無言の迫力に怯えているらしいロブには、その俺の言葉に相槌を打つ余裕も無かったらしい。
「これからの3時間は講義とは銘打ってるけど、基本的には各々自由に過ごして貰って大丈夫よ」
「独りで思い切り体を動かすのも、異種族間で友好を深めるのも、愛しい相手と愛を深め合うのも良いわね」
「でも怪我はしないようにね!もし寂しい雄の学生がいたら、あたちが相手にあぶっ!」
バシバシッ!
やがてちょっと踏み込んだことを言い掛けたメーサの頬に左右からテノンとアレーの尾撃が叩き込まれると、前方にいた学生達がビクッと体を強張らせたのが目に入る。
しかしその少しばかり過激な制裁にぷくっと顔を膨らませながらも渋々引き下がったメーサの様子に、大半の学生達は堪え切れずに微かな含み笑いを漏らしていた。

「それじゃ、解散するわよ。体育館を使う学生は、私についてきてね」
そんなテノンの掛け声に比較的体格の小柄な連中が何名かついていくと、俺は彼らとともにジェーヌに引き摺られて体育館へと連行されて行くロブの助けを求めるような視線を感じながらもプラムを探していた。
「アレス!」
「わっ!び、びっくりした・・・」
だがプラムの方も俺と同じことを考えていたのか、背後を振り向いた途端に赤鱗に覆われた大きなプラムの顔が目の前にあって思わず驚きの声を上げてしまう。
「どうかしたの?」
「い、いや・・・いきなりだったからちょっと驚いただけだよ。それより、ロブの身が心配でさ・・・」
「ああ・・・ジェーヌってば随分とロブに怒ってたみたいだったしね・・・」

昼食の時に俺達のテーブルに流れていたあの不穏な空気はやはりプラムも感じ取ったのか、彼女がそう言いながら何かを考えるように晴れ渡った空を見上げる。
「プラムはこの時間、何をするつもりだったんだ?」
「私はアレスと一緒にいられれば何でも良いわ。まあ・・・正直に言えば日向ぼっこでもして寝たいんだけどね」
「じゃあ、何処か日当たりの良さそうなところで寝てなよ。俺はちょっとロブ達の様子を見てから行くからさ」
そう言うと、プラムは分かったとばかりに頷いてアレー達に見つかり難いグラウンドの隅の方へと駆けていった。
幾ら片時も離れたくない程に俺が好きだったのだとしても、食後の眠気には流石の彼女も逆らえないのだろう。

やがてロブ達の後を追うようにして広い体育館の中に飛び込むと、俺は窓の無い奥の方で吸血鬼達の一団と並ぶようにして床に座っているロブとジェーヌの姿を見つけ出していた。
例によってロブの足には何時もより多い3巻き程のジェーヌの尻尾が巻き付けられていたものの、静かに目を瞑っている彼女の隣で冷や汗を掻いているロブの様子を見る限りはまだ締め殺されてはいないらしい。
傍目には何処からどう見ても熱愛と言えるようなカップルなのだが、彼らの内情を知っている俺には何だか胸を締め付けられるような修羅場にしか見えないのは気のせいだろうか・・・?
とは言え、あの様子なら別に放っておいても大した問題は無いだろう。
そしてロブに見つかってまた恨みがましい目を向けられない内にそっと体育館を出ると、俺は早くもグラウンドの隅で仰向けに寝転がったまま大鼾を掻いているプラムの許へと舞い戻ったのだった。

やがて大きなお腹を上下させて眠るプラムを起こさないようにそっと彼女へ背中を預けて蹲ると、俺は無数の異種族が入り乱れるようにして賑わっているグラウンドの様子を眺めながら小さく息を吐いていた。
こうして広い視野を持ってこの島の姿を見てみると、その様相は正に混沌の一言に尽きるだろう。
にもかかわらず、この島は人間の世界の何処よりも実に平和で安定した秩序を保っている。
もちろんその陰には竜王様の苦労や威厳、それに弛まぬ努力の積み重ねと人間も含めた島の住人達の多大な協力があったのだろうことは想像に難くないのだが、それが一体どれ程の偉業なのかは正直俺には計り知れなかった。
この島と同じような幻獣達の楽園を作る・・・
そう口で言うのは簡単だが、冷静に考えれば考える程にそれが途方も無い難事業のように思えてしまう。

一応治安や秩序の面に関して言えば元々平穏な暮らしを求めて集まってくる者達を受け入れる場なのだからそれ程心配する必要は無いのかも知れないが、それでもあの竜王様は正に1つの国を治めていることになる。
つまり俺の将来の目標は、プラムとともに一国の王様になるということに等しいのだ。
竜王様の娘としてその苦労の一端を垣間見てきたのであろうプラムも当然それは十分に承知しているのだろうが、どうも今の彼女は俺と一緒に過ごす時間を楽しむことにその全精力を注いでいるように見えてしまう。
まあ・・・まだ俺達は大学に入学してからほんの1週間なのだから、今はそれでも良いのかも知れないのだが・・・
「ん・・・アレス・・・?どうかしたの・・・?」
「ああ、ごめんよプラム。起こしちゃったか?」
「うん・・・何か悩み事?」
彼女の腹に密着していた俺の背中からどうにかして心中の緊張が伝わったのか、プラムが眠気眼を大きな手で豪快に擦りながらそんな声を漏らす。
「いや・・・何でもないよ。それより、この講義が終わったらロブと行きたいところがあるんだけど、良いかな?」
「え?別に良いけど・・・足は無くて大丈夫なの?」
「まあ適当に誰か探してみるよ」

そう言うとプラムは少しばかり怪訝そうな表情を浮かべていたものの、ロブと一緒に行きたいというところで大まかな目的には想像が付いたらしい。
プラムでさえこうなのだから、当事者であるジェーヌならもっと容易に話が伝わることだろう。
まあ・・・後数時間、彼が無事でいられたらの話ではあるのだが・・・
「ロブ達ならきっと大丈夫よ。ジェーヌってば、本当に彼のことが好きなんだから」
「えっ?」
やがて俺の表情から何を考えているのか読み取ったらしいプラムのその言葉に、思わず心の中を読まれたのではないかという驚きを含んだ声を漏らしてしまう。
「昨日彼女と一緒に講義を受けたんだけど、彼と離れ離れになるのは久々なのかずっと不安そうにしてたんだから」
「そうなのか・・・」
じゃあジェーヌが今日一日ずっとロブから離れようとしないのは、ロブがなかなかプロポーズしてくれないことに対する表面上の怒りとは裏腹に決して彼を手放したくないという内なる感情の表れなのだろう。

「そこまで分かってるなら、あいつにそう言ってやれば良かったのに」
「だって彼女ったら全然ロブから離れようとしないんだもの。彼女の前でそんなこと言うわけにはいかないでしょ」
まあ、それもそうか・・・
だがそう考えると、1人でジェーヌにビクビクと怯えているロブが何だか少しばかり滑稽に思えてしまう。
「それはそうと・・・実は私もちょっと寄りたいところがあるから、もしかしたら帰りが遅くなるかもしれないわ」
「プラムが?珍しいな・・・一体何処に行くんだ?」
「私だって流石に何時までも爪を売って過ごすわけにいかないし、仕事探しよ」
成る程・・・
確かに如何に高価で爪が売れるとは言っても、プラムの食費を考えれば全然供給が間に合っていないのだろう。

「仕事って言うけど・・・もう何か当てがあるのか?」
「昨日の帰りに見つけたんだけど、来週大学の近くに新しい店が出来るみたいだからそこで働いてみようと思うの」
「店って、何の店なんだ?」
だがそう訊くと、プラムが少し困ったように首を傾げる。
「詳しくは実際に面接を受けてみないと分からないんだけど・・・サキュバス達の娼館と提携した仕事みたいよ」
「娼館と提携って・・・それ、風俗店なんじゃ・・・」
「でも、応募要件が人間以外は雌の竜限定なのよ。それに給料も結構良いみたいだしね」
まあ、プラムが自分で選んだ仕事なら俺が気に掛ける必要は無いのかも知れないが・・・
「そっか・・・一応、俺も後で見てみるよ」
そしてそんな俺の返事に満足すると、プラムは再び心地良い陽光を浴びながら地面の上に体を横たえたのだった。

講義というよりはどちらかというと長い休憩のようにも感じる、"体育"の時間。
外での監督を担当しているというアレーとメーサ達も、他の学生達と混じって一緒に広いグラウンドを走り回ったり空を飛び回ったりと思う存分体を動かしているらしい。
この島では各々にただ役割の違いがあるだけで、基本的に住民は皆が皆平等なのだろう。
誰もが子供の頃から1度は頭の中に思い描いては、成長の過程で単なる夢物語だと思い知らされる一種の理想郷の姿を瞼に焼き付けながら、俺は安心して眠りに就いたプラムとともに夢の世界へと落ちていったのだった。

やがて3時間もあったはずの体育の講義が寝ている間に終わってしまうと、俺は講義終了のチャイムでふと目を覚ましていた。
そして既に撤収を始めている他の学生達の姿を目にすると、まだ熟睡しているらしいプラムの体を揺する。
「ほらプラム、講義は終わったぞ。早く起きろって」
「ん・・・もう終わったの・・・?」
俺はまだまだ寝足りないといったそんなプラムの様子に苦笑いを浮かべたものの、ふとロブ達のことが気になって彼らの様子を確かめにいくことにした。
「ちょっとロブ達の様子を見てくるよ。そのまま出掛けると思うから、プラムは先に帰っててくれ」
「え、ええ・・・」
そしてまだ寝惚けているらしいプラムを残して体育館へ向かうと、ほんの少し機嫌が戻ったのか些か柔和な表情を浮かべたジェーヌがロブとともに出て来たところに出くわしていた。

「おお、アレスか。プラムはどうしたんだ?」
「プラムならまだグラウンドの隅で眠そうにしてるけど、そう言うお前は何してたんだ?」
そう訊くと、彼がチラリとジェーヌの顔色を窺ったのが目に入る。
「特に何もしないでジェーヌと体育館で休んでただけだよ。それじゃ、早く出掛けようぜ」
「あ、ああ・・・それば良いけど・・・ジェーヌも良いのか?」
「ええ、もちろん良いわよ。それじゃ、先に帰ってるわね、ロブ」
一体、この数時間の内に彼らの間に何があったのだろうか?
やがて帰路に就いたジェーヌの姿が見えなくなると、俺はロブと一緒に大学の出口に向かった。

「ジェーヌ、機嫌が直ったのか?」
「多分ね・・・講義が終わったらアレスと出掛けても良いかって聞いたら、あっさり認めてくれたんだよ」
ということは、きっとジェーヌも彼の目的を雌の勘で察したのだろう。
「でも、ジェーヌにそう言おうとした時は本当に怖かったんだぜ。ジロッて睨まれて、心臓が止まるかと思ったよ」
「ははっ・・・」
まあ、取り敢えずジェーヌに外出の許可を取り付けられたのであれば残る問題は足を探すことだけだろう。

「そう言えばさ、プラムが仕事を始めるらしいんだよ」
「へえ・・・何の仕事なんだ?」
「それが面接を受けてみないとまだ分からないらしくてね・・・俺は風俗関係なんじゃないかと思ってるんだけど」
そんな俺の言葉に、ロブが妙に興味を示す。
「ドラゴンの風俗店ってことか?だとしたら面白いな」
「そうは言うけど、それが目的だったら娼館で事足りるから違うのかなとも思うし」
「だったら、足を探す前にその店をちょっと見てみないか?」
確かに、プラムの働く場所なのだとしたら俺もその店のことを少しは知っておいた方が良いだろう。
「そうだな・・・プラムの話によると、大学の近くに新しく出来る店みたいなんだけど・・・」
「それじゃあ、足探しも兼ねて大学の周辺をぶら付いてみようぜ」

正直、こういう時のロブの行動力には素直に敬服する。
これでどうしてジェーヌへのプロポーズに踏み切れないのかは大きな謎なのだが、まあロブにとっての本当に勝負所は今夜なのだからそれは今は置いておこう。
そしてロブとともに大学の周辺の道をしばらく歩いてみると、俺はまだ新築らしい巨大な倉庫のような建物を見つけてふとそちらに近付いていった。
良く見てみると、入口らしき場所に従業員募集の案内と案内係のサキュバスが1人立っているようだ。
確かにプラムを含めて人間の文字を読めない連中もこの島には多いから、あの案内はどちらかというと人間用の広告なのだろう。

「おい、もしかしてあれじゃないか?係のサキュバスがドラゴンの絵を描いた旗を持ってるし」
「それに絵を跨ぐように縦に4本の平行線が引いてあるな。あれって、この前講義で習った爪文字だよな?」
「ああ・・・そう言えば"雌"を意味する文字なんだっけ・・・つまりあれは、雌竜を募集してるってことなんだな」
俺はまだ人間の文字をちゃんと読むことの出来ないはずのプラムがどうして雌竜限定の募集を理解出来たのか少しばかり疑問だったものの、この島ではああして特定の種族の仕事を募集する時は絵を利用するのだろう。
「でも、外からじゃ何の建物なのかは分からないな・・・看板もまだ取り付けられてないみたいだし」
「入口の扉が小さいってことは多分人間専用の施設なんだろ。オープンは来週らしいから、後で調べれば良いさ」
そうしてプラムの職場の場所を確認すると、俺達はいよいよ足の調達へと意識を向けたのだった。

「今度は足探しだな・・・この島は楽しいけど、こういうところだけは不便だよなぁ・・・」
「またフィンとかマローンとかが通り掛かってくれれば良いけど、そう都合良くはいかないだろうしな」
「ああ、それで思い出した。昨日温泉宿で貰った角笛あるだろ?あれで、足を呼べるらしいんだよ」
そう言いながら、ロブが24と社員番号の振られた自分の角笛を取り出していた。
「それは俺も聞いたけど、使えるのは温泉宿への通勤の時だけなんだろ?」
「いや、どうも普通の足として使っても良いみたいなんだよ。まあ、従業員への福利厚生の1つなんだろうな」
成る程、それが本当なら確かに便利なことこの上ない。
もしかしたらしょっちゅう町中を足で移動している連中は、わざわざ直接交渉などと面倒なことはせずに皆この角笛と同じように何らかの道具を使って足を呼んでるのかも知れないな。

「とにかく、吹いてみようぜ。アレスも持ってるんだろ?」
「あ、ああ・・・一応な」
そしてロブと2人で温泉宿で受け取った小さな角笛を吹いてみると、くぐもった笛の音が晴れ渡った空へと霧散していった。
ボオオオォォォォォ・・・ボオオオォォォォォ・・・
「何か想像してたのとはちょっと違う音だったけど・・・本当にこれで迎えに来てくれるのかな?」
だがそんな俺の不安は、ものの数分も経たない内に温泉宿のある方角から2匹の雄竜がこちらに向かって飛んできた姿を見てあっさりと解消していた。

やがて全身を黄土色の鱗で包んだ2匹の大きな雄竜が大地にそっと降り立つと、彼らが俺達の方に背中を向けて地面に蹲ってくれる。
「さあ」
「我らの背に乗るが良い」
「あ、ああ・・・その前に1つ訊くけど、温泉宿以外のところに行っても良いんだよね?」
そう訊ねると、彼らが揃って首を縦に振る。
「もちろんだ。ただし、宿以外の場所へ行くのなら対価を頂くことになるが・・・」
「対価って、銅貨3枚で良いのかい?」
「2枚で構わぬ。そういう契約なのでな」
銅貨2枚か・・・何時でも角笛を使って足を呼べる上に通常よりも格安の銅貨2枚で島の何処にでも移動出来るというのなら、これは利用しない手は無いだろう。

「そいつは良いな!早速利用させて貰うよ!」
そしてあっという間にロブが雄竜の背に飛び乗ったのを見て取ると、俺も彼に続くようにして目の前の大きな背中に攀じ登る。
「それで・・・何処に行きたいのだ?」
「竜専門の装飾品を売ってる店に行きたいんだけど・・・場所、分かるかい?」
「もちろんだ」
そうして2匹の雄竜はお互いに意思を疎通するように1度だけ頷くと、大きな翼をはためかせて一気に町の上空へと飛び上がっていた。

ゴオオオオッ・・・
やがて遥かな上空から見下ろす町の光景をぼんやり眺めていると、繁華街からは少しばかり外れた場所に他の店に比べると比較的規模の大きい工場のような建物が見えてきた。
その建物の屋根には大きな宝石の付いた指輪の中央に竜の頭部を模した絵が描かれていて、一目でそこが竜専門の装飾品を扱っている店だということが見て取れる。
そして2匹の雄竜が静かにその店の前の通りに降り立つと、俺とロブは彼らに銅貨を支払って礼を言ったのだった。

「ここか・・・思ってたよりも大きい店なんだな」
「とにかく、中に入ってみようぜ」
足になってくれた2匹の雄竜達の姿が空の彼方に見えなくなると、俺達はそんな会話を交わしながら目の前の店に足を踏み入れていた。
中には大型のドラゴンも寛げるようにか広いエントランスホールが設けられていて、その奥に真紅の鱗を身に纏う巨大な雌老竜が鎮座する応対用のカウンターが設置されているのが目に入る。
だが竜専門の装飾店とは言ってもそれを買いに来るのはドラゴンだけとは限らないらしく、カウンターの高さ自体はどちらかと言うと人間に丁度良い大きさで作られているようだった。

「おやいらっしゃい・・・人間がうちにやってくるのは珍しいねえ・・・」
やがて巨大な赤竜の待つカウンターに近付いていくと、今日はさして来客が無いのか半ば転寝していたらしい彼女がふと目を覚ますなりそんな声を掛けてくる。
「何か探し物かい・・・?」
まるで吸い込まれるかのような碧い竜眼を大きく見開いた彼女の声には当然のことながら邪気は無いものの、俺とロブはその言葉では言い表しようの無い老練な迫力に圧倒されていた。
「あ、ああ・・・俺はその・・・彼女への贈り物を探しに来たんだけど・・・」
「彼女っていうのは雌竜かい?あたしが言えた義理じゃないけど、物好きな連中ってのは後を絶たないねぇ・・・」
彼女が言う物好きな連中というのは・・・もしかして俺ではなくプラムのことを指しているのだろうか?
「そっちも同じかい?」
「いや、俺は・・・ラミアの彼女に似合う装飾品があればと思って・・・」

それを聞くと、雌竜は分かったとばかりに小さく頷いてカウンターの裏から大きな箱を取り出していた。
そして表面を黒いアンバーメタルのタイルで覆った1メートル四方もあるその浅い箱を開けてみると、緩衝用のフェルトが敷き詰められた中に様々な形をしたアクセサリーが無数に並んでいる。
指輪やイヤリング、ピアスやネックレスのような一見して使い方が分かる物もあれば一体何処に取り付けるのかまるで想像も付かないような奇妙な形状の物もあり、俺はその不思議な意匠に思わず目を奪われていた。
「こっちはラミアのお嬢ちゃん用だよ。お前さんの竜用の装飾はこっちさ」
そして更にもう1つ別の箱を取り出してくると、そちらには比較的サイズの大きな装飾品がずらりと並んでいる。

「へぇ・・・色々あるんだな・・・」
「先に訊くけど・・・これ、値段はどのくらいするんだ?」
「大きさによって多少差はあるけど、銅貨15枚もあればどれでも買えるさね」
銅貨15枚だって・・・?
見たところ目の前に並べられている装飾品は全て店の奥にある作業場で手作りされているものらしくどれもこれも丹精込めて磨き上げられていて、素人目に見てもかなりの高級品に分類される品物だろうことは想像が付く。
それがたったの銅貨15枚で買えるだなんて、幾ら物価が安い町だとは言え俄かには信じられなかった。

「そ、そんなに安いのか?」
「うちは元々金貨数枚で竜達に装飾品を売ってた店だからねぇ・・・その値決めは、今は亡き夫の意向なのさ」
夫か・・・そう言えばこの店は元々宝飾技師の男が、雌竜と夫婦の契りを交わして始めた店だったんだっけ・・・
つまり、この真紅の鱗を纏った巨竜こそが正にその宝飾技師の妻だったのだろう。
そしてこれらの品物を実際に作っているのが、父親から技術を受け継いだ彼らの子供なのだ。
「これ・・・一体何に使うんだ?」
やがてそんな想像を巡らせている内に、ロブが目の前に広げられた箱から大きな真珠をあしらった奇妙な金具付きの装飾品を取り出していた。

「そいつは尻尾に着ける飾りだよ。竜鱗用だから金具の先が鋭利だけど、蛇体にも充分取り付けられるはずさ」
「へぇ・・・」
尻尾の先に真珠の飾りを着けたジェーヌの姿を想像しているのか、ロブがそんな返事を漏らしながら高い店の天井を見上げている。
「婚約祝いなんだし、俺はシンプルに指輪にしようかな・・・青い石の付いた指輪ってあるかい?」
そう言うと、彼女が幾つかの小さな指輪を太い指先で器用に摘み上げる。
「これとこれと・・・一応これもそうさね。それにしても、竜用の装飾に青色を選ぶだなんて珍しいねぇ・・・?」
「そうなのか?」
確かに言われてみるとエメラルドやペリドットなどの緑色の石やダイヤモンド、金の装飾が付いた指輪などはかなり種類があるものの、青い石の指輪はこの瑠璃とサファイア、似た色の物でもアメシストの物くらいしかないらしい。

「何で青い宝石のは少ないんだ?原料が手に入りにくいとか?」
「似合う体色の竜が少ないからさ。この島の中でも、青色が映える黄色い体色の竜はエルダくらいだしねぇ・・・」
成る程・・・確かに補色の観点から行けば青はエルダのような明るい黄色には良く映えるのだろうが、例えばさっき俺達をここに運んで来てくれた黄土色の竜達などはどちらかと言うと金色に近い種なのだろう。
その場合は青よりも銀やプラチナなどのメタリックな色の方が似合いそうだし、俺が思っている以上に鮮やかな黄色い体色を持つ竜というのは珍しい存在なのかも知れない。

「そうだなぁ・・・眼の色に合わせようかと思ったんだけど、確かにプラムには緑色の方が似合うのかも・・・」
「お、お前さん・・・今、プラムって言ったのかい?」
「え?あ、ああ・・・竜王様の娘のプラムだけど・・・」
確かにプラムの正体を知った時は俺も驚いたしジェーヌやフィンも大層畏まっていたものだが、竜王様の娘というのはこんな巨大な老竜でさえ驚く程のネームバリューなのだろうか・・・?
だがそんな俺の疑問は、少しばかり狼狽した様子の彼女の言葉ですぐに解決していた。
「そ、そうかい・・・さっきお前さんに言ったことはその・・・聞かなかったことにしといておくれ・・・」
どうやら、彼女は暗にプラムのことを物好きな連中と言ってしまったことの方を気にしていたらしい。

「それは別に大丈夫だけど・・・プラムに指輪を選ぶならどっちが良いのかな?」
「婚約指輪だっていうのなら、確かにさっき選んだ青い石の指輪の方が特別感があって良いと思うけどねぇ・・・」
特別感か・・・確かに特にこの島の中では流通の少ない青い宝石の付いた指輪なら、良い意味で目立つことだろう。
見た目が余りにも迫力のある雌竜だから少々圧倒されてはいたものの、流石は老舗なだけあって彼女の見立ては確かに俺にも納得のいくものだった。
「じゃあ、俺はこのサファイアの指輪にするよ。幾らだい?」
「そいつは銅貨14枚だけど・・・今回だけは特別に10枚にしとくさね」
「本当に?そりゃありがたいな」
そう言って料金を支払うと、彼女がその指輪を何処かで見た記憶のある藍色の小箱に入れてくれる。

あれ・・・これって確か、娼館で媚薬を買った時にも使ってた箱だよな・・・?
この島に来てから今まで外食はしても買い物なんてほとんどしなかったから気が付かなかったのだが、もしかしてこの箱は何処の店でも使っている汎用の商品入れか何かなのだろうか?
「アレスにしちゃ、随分と思い切りが良いんだな・・・でも、ジェーヌには何が似合うんだろう?」
「こう言っちまっちゃなんだけど、ラミアになら素直に人間の体に着ける装飾を贈った方が喜ぶと思うけれどねぇ」
「そ、そうなのか?」
それを聞いて、ロブが驚きの余り大きく目を見開いていた。
「でも、ジェーヌは人間用の装飾品で間に合ってるって言ってたしなぁ・・・」
「ロブ・・・よく考えたら、それって寧ろ彼女には人間用の装飾品をあげた方が喜ぶって意味なんじゃないかな?」
「ん・・・た、確かに、そう言われるとそういう意味なのかも・・・う〜ん・・・」
俺も今の今までうっかりしていたが、ロブが選んだプロポーズの為の贈り物ならジェーヌだって別に奇を衒ったものでなくても素直に受け入れてくれるに違いない。
それに幸いにもラミアの為にと出してくれた商品の中には人間の体に着ける物も取り揃えられているようだし、ジェーヌに似合う一品がきっと見つかることだろう。

「それにしても・・・竜専門の装飾品の店だって聞いてたのに、結構商品の幅が広いんだね」
「それなりの数はいても、この島じゃあ竜も少数派だしねぇ・・・夫が言うには"事業拡大"って奴らしいさね」
確かに当初この店が竜専門の装飾品店として成功していたのは、竜が数多く棲む森が近くにあったからに違いない。
つまり、需要と供給が良い具合に釣り合っていたわけだ。
だがこの島では、様々な種族向けの装飾品を作った方が商売になるという結論になるのは当然の帰結なのだろう。
そしてそんなやり取りをしている内に、ようやくロブもジェーヌへの贈り物を決めたらしかった。
「ちょっと迷ったけど、俺はこいつにするよ」
そう言った彼の手に、金と銀の細い線を細かく縒り合わせて作られているらしい煌びやかな腕輪が握られている。
その金銀の網の間には所々にジェーヌの透き通った緑色の長髪を髣髴とさせるようなエメラルドの粒が埋め込まれていて、彼はこれを身に着けたジェーヌの姿を思い浮かべているのかもう既に鼻の下を伸ばしていた。

「そいつも今回は銅貨10枚で構わないさね。お前さん方の彼女達にも、よろしく伝えとくれ」
ああ・・・成る程・・・
彼女が今回俺達に気前良く料金をまけてくれたのは、次の来店を促す販促効果の他にプラムのことに関する一種の口止め料も含んでいるのだろう。
当のプラムは物好きと言われたところで別に気にも止めないだろうが、竜王様の娘というだけでそういう気の遣われ方をされてしまうのはもう仕方の無いことなのかも知れない。
そんな息苦しさから逃れたくて新しい友達を作る為に大学に通うことを決意したというプラムの内情を知っているだけに、俺は嬉しいはずの割引対応にも内心何処か歯痒い思いを抱いていた。

やがて購入した商品を手に店を後にすると、俺はまだ夕暮れとは言えない明るい空を見上げていた。
「まだ17時過ぎか・・・アレスはこの後はどうするんだ?」
「プラムの帰りが遅くなるかも知れないから、俺は少し温泉宿で働いていこうかと思ってる。ロブは帰るのか?」
「そうだなぁ・・・ジェーヌが待ってるだろうし、時間はまだ早いけど今日はもう帰るよ」
きっとロブは、ジェーヌへのプロポーズという肩の重荷を早く下ろしてしまいたいのだろう。
ジェーヌへのプレゼントを手に入れて精神的には少し強気になっているかも知れないが、今日1日彼女の無言の圧力に晒されたロブにしてみれば一刻も早くご機嫌取りに行きたい気持ちは良く分かる。
そしてお互いに角笛を吹いて足となる2匹の雄竜を呼ぶと、俺はそこで恋の戦場へと向かうロブと別れたのだった。

それから数分後・・・
職場である温泉宿に辿り着くと、俺はここまで運んでくれた雄竜に礼を言って宿の中に足を踏み入れていた。
そして広い受付の奥に蹲っていたマローンのお父さんに角笛を見せると、彼がゆっくりと頷いて脱衣所の方へと俺を案内してくれる。
「昨日はあんなことになってしもうたが・・・何分手が足りぬのでな・・・今日も頼むぞ」
俺はそんな老竜の言葉に頷いて準備を整えると、出勤の記録となる指紋認証を終えてから大勢のドラゴン達が待つ広大な浴場へと足を踏み入れていた。

「さてと・・・まずは何処から行こうかな・・・」
もうもうと立ち上る真っ白な湯気のお陰で浴場全体は見渡せないものの、今の時間も恐らく従業員の人間は俺1人だけなのだろう。
まあそれだけ人手不足ということなのかも知れないが、こんなドラゴンだらけの場所に裸の人間がたった1人迷い込むだなんてこの島でなければ絶体絶命の修羅場以外の何物でもないに違いない。
だが取り敢えず目の前の広い岩風呂に浸かっている1匹の雌竜を見つけると、俺はそっと彼女に近付いていった。
「やぁ・・・」
「あらぁん?あたしに最初に声を掛けてくれるなんて、嬉しいわねぇ・・・」
何処と無く妖しい艶のある緑色の竜眼を細めながら、美しくも何処か毒々しさを感じる赤黒い皮膜に身を包んだ雌竜がそんな通りの良い声を零しつつ俺の顔をじっと見上げてくる。
微かに白く濁った湯船に漬かっているお陰でその全身像は分からないものの、水面上に突き出している彼女の顔の様子から察するに体の方も恐らくは竜鱗ではなく柔らかな皮膜に覆われているのに違いない。

「あの・・・何処か、擦ろうか?」
「ありがと・・・でもあたし・・・自分の身嗜みには気を遣ってるから、痒いところなんて無いのよぉ・・・」
何か・・・不思議な話し方をする雌竜だな・・・
その声を聞いているだけで何だか頭の中にボーッと霞が掛かっていくような感じがして、俺はブンブンと左右に頭を振りながら薄れ掛けた意識を取り戻していた。
「でもぉ・・・しばらく独りで湯船に浸かってて退屈だったから、話し相手になってくれると嬉しいわぁ・・・」
「あ・・・ああ・・・」
そしてじっと俺の顔を見つめている彼女の視線に吸い込まれるように、底の見えない白み掛かった湯船の中にゆっくりと体を浸していく。
「おっ・・・」
だが何とか肩から上が水面に出る程度の深さしかなかったことに取り敢えず安堵すると、俺は壁に背中を凭れ掛けるようにして温かい湯船の中に立ったのだった。

「あなた、名前は何ていうのぉ・・・?」
「俺・・・アレスっていうんだ。この島の大学に通ってるんだよ」
「そうなのぉ・・・あたしはエステリア・・・仕事を探して、昨日この島に来たばかりなのよぉ・・・」
そう言いながら、エステリアが気持ち良さそうに小さく鼻息を噴出す。
「仕事って・・・何をするんだい?」
「来週、新しいお店が出来るんですってぇ・・・雌竜だけのふう・・・風俗店って・・・言ったかしらぁ・・・?」
雌竜だけの風俗店・・・?
それってもしかして、プラムが働こうとしているあの店のことだろうか?

「エ、エステリアは・・・その店の面接は、もう受けたのかい?」
「ええもちろん・・・つい数時間前に終わったところなのよぉ・・・だからもう、今日は疲れちゃったのぉ・・・」
「何となく想像は付くんだけど・・・その・・・雌竜の風俗店って、どんな店なんだ?」
だがプラムの就職先のことを聞き出そうとそんな質問を彼女に投げ掛けたその時、俺は何だか体の自由がほとんど利かなくなっていることに気が付いていた。
別に体に何か異常があるような感じは無いのだが、手足はおろか指先までもがピクリとも動く気配が無い。
それどころか、まるで水面の下には何も存在していないのではないかと思える程に全身の感覚がどういうわけか完全に消失してしまっていたのだった。

「あ・・・あれ・・・何か・・・体が・・・?」
「うふん・・・痺れちゃった・・・?でも大丈夫よぉ・・・死にはしないわぁ・・・」
「ど、どうし・・・て・・・?」
お湯に浸かっていない首から下の感覚が全く感じられず、俺は特に呼吸が苦しいわけでも何か苦痛を感じているわけでもないにもかかわらず不安に声を震わせてしまっていた。
だがそんな俺の質問に、エステリアが無言のまま赤黒い皮膜に覆われた太い尻尾を水面上に持ち上げる。
そしてぷっくりと卵型に膨らんだ先端を俺の方へ向けた尻尾が静かに近付けられると、何の前触れも無く突然そこに十字の深い割れ目が走っていた。

グバッ・・・
「う、うわああああっ!」
その瞬間、まるでもう1つの口のように4枚の襞を備えた巨大な肉洞が尻尾の先端に出現する。
毒々しい紫色の襞に覆われた口内には紺色に染まる長い舌まであり、俺は彼女の正体がリリガンの講義で聞いた"尾孔竜"であることを即座に悟っていた。
確か尾孔竜の尾に備わった口から分泌される特殊な唾液は、一瞬にして獲物の自由を奪ってしまう程の強力な麻痺毒だったはず・・・
それが長時間浸かっていた湯船の中に入ったのだから、体が痺れてしまったのだろう。

「た・・・助けて・・・」
ピクリとも体が動かない獲物が唯一吐き出す命乞いの言葉・・・
だがエステリアはそんな俺の声などまるで聞こえていないかのように、更に大きく花弁を開いた恐ろしい人喰いの毒花を俺の頭上に掲げていた。
ポタ・・・ポタタ・・・
触れただけで獲物を完璧に麻痺させる尾毒の原液が、俺の肩に、頭に、鼻先に、ゆっくりと降り注いでくる。

「ひ・・・ひぃ・・・や・・・めて・・・」
「あなた、さっき風俗店がどんなお店か、訊いたわよねぇ・・・?」
そう言うと、目の前で怯える獲物の姿にエステリアがペロリと舌を舐めずっていた。
「それはねぇ・・・こういうことをするところよぉ・・・!」
バグッ!
次の瞬間、俺は悲鳴を上げる間も無く振り下ろされた彼女の尾孔に頭から食らい付かれていた。
モギュッ・・・ムギュ・・・モッチュ・・・
「んっ・・・んぐっ・・・むぐぅ〜〜〜〜!」
一瞬にして視界が微かに紫掛かった闇に染まり、焼けるように熱い粘液の感触と熱気がまだ辛うじて正常だった俺の意識をじりじりと炙り焼き焦がしていく。
く・・・喰われる・・・!
そんな確信にも似た本能的な危機感に必死に抵抗を試みるものの、麻痺毒に漬けられてすっかりと弛緩し切った体はまるで自分のものではないかのように無慈悲な沈黙を保っていた。

グチュ・・・モギュ・・・グギュッ・・・
「や・・・止め・・・ひ・・・ぃ・・・」
力強い蠕動と吸引で上半身が吸い上げられ、あっという間に腰から上までが彼女の尾孔へと咥え込まれてしまう。
「ほらほら、暴れても無駄よぉ・・・でもあなた、とっても可愛いからぁ・・・ちょっと苛めてあげるわぁ・・・」
やがてそんなエステリアの嗜虐的な声が体内に反響した直後、俺は無防備に曝け出されていたペニスが彼女の口で咥えられた感触を味わっていた。
パクッ・・・
「あふっ・・・!?」
い、一体何を・・・
いや、そんなことより・・・全身が完全に麻痺していたはずなのに、どうしてペニスを咥えられた感触が・・・?
そしてそんな疑問が脳裏を過った次の瞬間、俺は長い舌を巻き付けられた肉棒をきつく締め上げられていた。

グギュッ・・・!
「ひあっ・・・!」
ありとあらゆる感覚が遮断されていた中で唯一感じた、純粋にしてあまりにも強烈な快感。
その高圧電流に触れたかのような凄まじい衝撃に、俺は動かぬ体をビクンと震わせたような気がした。
そう言えば、尾孔竜は体液が全て薬になるドラゴンだったはず・・・
俺がリリガンの講義で聞いたのは尾口の唾液が麻酔薬になることと精液や愛液が媚薬になることだけだったのだが、もしかして彼女の本来の口から分泌される唾液にも何か特別な薬効があるのだろうか・・・?
まだ詳細は判らないものの少なくとも尾毒による麻痺は即座に治す効果があるらしいだけに、俺はザラ付いた舌でペニスを嬲られる刺激にただただ呼吸を荒くしていった。

ジョリ・・・ジュリッ・・・ショリリッ・・・
「エステ・・・リア・・・も・・・や・・・めてぇ・・・」
「んふ・・・駄目よぉ・・・一滴残らず・・・吸い尽くしてあげるわぁ・・・」
そんなエステリアの声とともにペニスに絡み付いた舌が更に激しく這い回り、何倍にも感度を高められた快感のツボを無慈悲なまでに舐り尽くしていく。
これも・・・彼女の唾液の効能の1つなのだろうか・・・?
ジョリジョリ・・・ズリュリュリュリュッ・・・!
「ああ〜〜〜〜〜〜っ!」
ビュグビュグビュグッ・・・ビュルルル・・・
そして最早限界ギリギリにまで膨らんだペニスを止めとばかりに摩り下ろされると、俺は断末魔にも似た盛大な悲鳴を上げながら彼女の口内に大量の精を吐き出したのだった。

それから・・・どのくらいの時間がたったのだろうか・・・
俺は心休まるような温かい感触で目を覚ますと、自分が何処かの湯船に浸かっていることに気が付いていた。
微かに霞み掛かっていた視界にはもう夜になったのか煌びやかな星明りと明るい月が浮かんでいて、少なくともあれから数時間は経っていることを物語っている。
周囲を見回してみても他に温泉に浸かっているドラゴンの姿は無いらしく、どうやら皆もう帰ったか宿で夜の眠りに就いてしまっているらしかった。
「あれ・・・ここって・・・」
やがて長時間の入浴で半ばふやけてしまった体を湯船から出してみると、俺はそこが昨日ヒドラ達の浸かっていた"神龍の温泉"だったことに気が付いていた。
ということは、エステリアはあの後気を失った俺を回復が早まるようにこの温泉へ入れてくれたのだろう。
最初は人喰いで知られる尾孔竜のエステリアに本当に食い殺されてしまうのかと思ったのだが、結局のところあれは単なるお遊びでしかなく・・・同時に例の風俗店も、こういうプレイの楽しめる店ということなのだろう。

「とにかく・・・そろそろ帰らないとな・・・」
エステリアに激しく精を搾り取られた割には神龍のお湯のお陰で体はすっかり元気になっているらしく、俺は5時間弱の勤務時間で退勤すると服を身に着けて受付へと戻っていた。
「おお、お主か・・・随分派手にやられたようじゃが、体の方は大丈夫かの?」
「え、ええ・・・あのお湯のお陰で何とか・・・勤務時間中はほとんど気を失ってたけどね・・・」
「良い良い・・・そういう仕事なのじゃからな。ほれ、今日の給金じゃ」
老竜がそう言うと、何だか昨日見た時よりも少し憔悴しているように見えるマローンが昨日の半端な分と合わせて5時間分の給料である25枚の銅貨を持って姿を現していた。
「ありがとう・・・なあ、大丈夫か?」
「グゥ・・・」
袋入りの銅貨を受け取りながら一応マローンにそう声を掛けてみると、彼が小さく溜息を漏らしながら頭を垂れる。
きっと彼は昨日俺達を寮に送った後、人語を話せない彼に代わって仕事の斡旋を手伝った見返りに約束していたフィンとのまぐわいに夜通し付き合わされたのに違いない。
婚約も決めてお互いに順風満帆といった感じの俺とプラムはともかくとして、今のところはロブもマローンもゆくゆくは伴侶になるかも知れない異性に随分と手を焼いているらしかった。

それからしばらくして・・・
マローンに寮の前まで送り届けてもらうと、俺は何故か神妙な面持ちを浮かべたまま温泉宿とは別方向に飛び去って行く彼の姿に思わず苦笑を漏らしていた。
そう言えば彼は昨日俺を温泉宿に運ぶ役目をフィンに負わせたことで、"費用"を追加請求されていたんだっけ・・・
ということは、きっと彼は今夜もあの妖艶な雌グリフォンに夜通し玩具にされることになるのだろう。
そんな彼の複雑な心境を想像しながら部屋の前に戻ってくると、俺は中に明かりが点いていることを確認してプラムに呼び掛けていた。

「プラム、帰ったぞ」
「アレス!随分と遅かったじゃないの・・・何かあったの?」
昨日の今日だけに、またあの温泉宿で酷い目に遭ったなどと言ったら流石に何を言われるか分からないな・・・
「ああ・・・プラムにプレゼントを買って来たんだ。その埋め合わせに、ちょっと長く働き過ぎちゃってね・・・」
俺はそう言うと、出迎えてくれたプラムの目の前で藍色の小箱を取り出していた。
「私に?何かしら・・・」
それを見た途端、プラムが期待感にキラキラと眼を輝かせる。
普段大食いな側面ばかりが目立つような気がするプラムも、やっぱりこういうところは雌なんだよなぁ・・・
そしてそんなことを考えながらもじっと息を潜めて待っている彼女の前でそっと箱を開けてやると、その中に納まっていた綺麗なサファイアの指輪を目にしたプラムが驚きの声を上げていた。

「わっ!ちょ、ちょっとアレス・・・これ、どうしたの?」
「竜専門の装飾品を売ってるお店で買って来たんだよ。俺達の・・・婚約祝いにさ」
「で、でも・・・高かったんじゃないの?」
産まれた時からこの島で育ってきたのだろうプラムもあの店にはまだ足を運んだことが無かったのか、どうやら値段の相場を知らずに随分と高額な物を買って来たと思ったらしい。
「大丈夫だよ。その分のお金は、さっき充分に稼いできたしね」
「ほ、本当に・・・?」
そしてそう言いながら固まっていたプラムの大きな左手を取ると、俺は4本指の第3指にサファイアが美しい輝きを放つその指輪をそっと嵌めてやったのだった。

流石は竜用の装飾品を扱っている店だけに、俺にとっては指が3本も入るような大口径の指輪がまるで測ったかのように大きなプラムの指へピッタリとフィットする。
「わぁ・・・」
そして自身の指に静かな青色の輝きが宿ったのを目にすると、プラムがそのサファイアにも負けない程に青く透き通った眼を大きく見開いて心中に湧き上がる歓喜に震えていた。
「ありがとう・・・アレス・・・」


「ふぅ・・・ふぅ・・・」
途中アレスと別れて寮へと戻ってきた俺は、しんと静まり返ったジェーヌの部屋の前で何度となく深呼吸していた。
手の中にはジェーヌの為に買った腕輪の入った箱があるものの、胸の内に後一歩を踏み出す勇気がどうしても湧いてこないのだ。
きっと今この瞬間も、ジェーヌはこの部屋の中でじっと俺の帰りを待ってくれているのだろう。
それが分かっているのに、緊張で震える手足とカラカラに渇いた喉が俺の心臓の鼓動だけを早めていった。

「よ、よし・・・行くぞ・・・」
今この瞬間不意に誰かに声など掛けられようものなら、それだけで心臓が止まってしまいそうだ。
だが何とか渇き切った喉にゴクリと微かな唾液を飲み込むと、俺はゆっくりと彼女の名を声に出していた。
「ジェーヌ・・・いるかい・・・?」
ガチャッ!
「・・・っ!」
その空気の震えがまだ残響となって耳の奥へ残っている内に、心の準備を整える間も無くジェーヌが扉を開ける。
だが呼び掛けに応えて出て来た割には何も言わないところを見ると、きっと俺の次の言葉を待っているのだろう。

「ジェーヌ・・・昼間は意気地無しでごめん・・・」
やがてそんな俺の言葉を聞いて、じっと無表情のまま俺を見つめていたジェーヌの瞳に微かな動揺が走る。
「お、俺と・・・け・・・結婚して・・・欲しいんだ・・・ジェーヌ・・・」
そして何度も何度も喉の奥でつっかえようとするその重い一言を必死に絞り出しながら手にしていた箱を開けてジェーヌの前に掲げてやると、彼女が数秒の間を開けて無言のまま俺の下半身にその長い尻尾を巻き付けていた。
ギュゥッ・・・
「うっ・・・」
「ロブ・・・・・・言いたいことはそれだけ・・・?」

まずい・・・何か・・・彼女を怒らせたのだろうか・・・?
相変わらず何の表情も読み取れないジェーヌの顔を正面から見据えながら、俺は声を出すことも出来ないまま徐々にきつく締め上げられていく両足の骨が軋む鈍い痛みに必死に耐えていた。
だがもしかしてこのまま締め殺されるのだろうかという半ば諦観にも似た思いにギュッと目を瞑ったその時、ジェーヌの温かい唇が俺の頬にそっと押し付けられる。
チュッ・・・
「んっ・・・」
「あら・・・そんな震えなくても良いじゃないの。あなたからそう言ってくれるのを・・・私、ずっと待ってたわ」
そしてそう言いながら俺を締め付けていた尻尾を解くと、何時の間にか普段の柔和な表情を浮かべていたジェーヌの視線が俺の持っていた小箱の中身へと吸い寄せられていく。

「それ・・・腕輪かしら?」
「あ、ああ・・・きっとジェーヌに似合うと思って、一生懸命選んだんだよ」
最大の難所を越えたからかさっきまでの緊張がまるで嘘のように吹き飛ぶと、俺はそう言って小箱から取り出した腕輪をこちらに差し出されたジェーヌの細腕に取り付けてやっていた。
チャリッ・・・
「どう・・・?」
「素敵・・・ありがとう、ロブ!」
そして今度こそ遠慮の無い、しかし愛の篭もったジェーヌの抱擁に全身を包まれると、俺達はそのまま部屋の中に雪崩れ込んで熱い夜を共に過ごしたのだった。

翌朝、俺は昨日温泉で気を失っていたせいか目覚まし時計が鳴るよりも少し早くに目を覚ますと、すぐ隣りで大きな腹を抱えるようにして眠っているプラムの方へと視線を向けていた。
昨夜聞いたところによると今日のプラムの講義は2限目かららしいのだが、俺が起きるのに合わせて一緒に起こしてくれと言われたということはまた朝から食堂で幸せな食事に耽りたいのだろう。
そして目覚まし時計を予め止めてからプラムの大きな体を揺すると、彼女の大きなお腹がたぷたぷと揺れる。
「プラム・・・朝だぞ。起きるんだろ?」
「ん・・・う・・・ん・・・もう朝・・・?」
何だか毎日彼女とこんな遣り取りをしているような気がするのだが、それもまた平和な日常の1コマに感じられるのは俺の心が幸福で満ち足りている証拠なのかも知れない。

だがまだ眠たそうなプラムの様子に先にシャワーを浴びてくると、俺はようやくベッドから這い出して来たプラムとともに出掛ける準備をして寮の部屋を後にしたのだった。
「プラムは、今日は何の講義があるんだ?」
「私は2限目に"人語の読み書き"と・・・午後からは"竜の神族"っていう講義があるわ」
「ああ・・・それは多分俺と一緒だな・・・他には?」
だがそう訊くと、何故かプラムがグッと声を詰まらせる。
また何か、言い難い内容の講義なのだろうか?
別にお互い婚約を済ませている関係なのだから、恥ずかしがる必要など別にないと思うのだが・・・

「どうしたんだ?」
「その・・・ど、どうしても・・・言わなきゃ駄目・・・?」
「何だよ。プラムには、"交配の極意"より言い難い内容の講義があるのか?」
その瞬間先日の遣り取りが脳裏に蘇ったのか、プラムが赤鱗に覆われたその顔を気の毒な程に紅潮させる。
「い・・・"異種族間結婚"っていう講義よ・・・」
ああ・・・成る程・・・
「ははっ・・・プラムって、見かけによらずそういうとこ、初心だよなぁ・・・」
「ちょっと、からかわないでよ!」
ガバッ
「うわわっ・・・!」
だがそう言って照れ隠しに俺を叩こうとでもしたのか、プラムはその大きな手を振り上げると慌てた俺の声に我を取り戻したのか突然ハッとした表情でそれを思い留まっていた。

「あっ・・・ご、ごめんね・・・アレス・・・」
「い、良いよ・・・俺もからかってごめん・・・」
幾ら照れ隠しだとは言え、プラムのあんな大きな腕で殴られたら人間の俺などただでは済まないだろう。
たとえ心はお互いに何の隔たりも無く愛し合っていたのだとしても、現実の俺とプラムの間にはどうすることも出来ない種族の壁が存在しているのだ。
やがて何処か気まずい思いを抱きながらもお互いに無言のまま大学の食堂に辿り着くと、それまでしょんぼりとした表情を浮かべていたプラムが幾分か元気を取り戻す。
「じゃあ私、向こうの方で食べてるわね」
「ああ、それじゃ3限目の講義で」

やがてお互いに手を振って別れると、俺は軽く朝食を摂ってから1限目の"辺境の竜族"がある講義室へと向かった。
その道すがら、何だか憑き物が落ちたかのように明るい表情を浮かべたロブが何時ものように穏やかなすまし顔のジェーヌとともに歩いている姿が目に入る。
あの様子なら、きっと昨夜のプロポーズは上手く行ったのだろう。
そして向こうも俺の存在に気が付いたのか、ロブがパッと顔を輝かせてこちらに手を振ってくる。
「アレス!おはよう!」
「ああ、おはよう。それで、ジェーヌの前で訊くのもなんだけど・・・もうプロポーズはしたのか?」
そう言うと、ジェーヌが少しばかり恥らいながらロブから視線を逸らしていた。
その彼女の右腕に、昨日ロブが買った腕輪がしっかりと嵌められている。
「ま、まあ・・・見ての通りだよ。ちょっと何時も以上に夜が激しかったけど・・・な・・・」
ああ、何だ・・・憑き物が落ちたんじゃなくて、ちょっとやつれただけかよ・・・
「取り敢えず、早く部屋に入ろうぜ。後5分で講義が始まっちまうからな」
そしてそんな話題逸らしのような彼の声に一応頷くと、俺達は連れだって講義室の中へと足を踏み入れたのだった。

それから数分後・・・
ロブ達と講義室の中段に設けられた人間用サイズの机に座って講師の訪れを待っていると、やがて全身を真っ黒な鱗に身を包んだ少し小柄な感じのする雄竜がゆっくりと部屋の中に入ってきた。
だが器用に手で扉を閉めたり教壇の前で頭を下げたりする彼の仕草が何処と無く人間臭く感じてしまうのは俺の気のせいだろうか?

「お早う、皆さん。僕がこの講義の講師を務めるバートンだ。よろしく」
「何か・・・見た目はドラゴンなのにめちゃくちゃ人間っぽいな、あの講師・・・」
隣りに座っていたロブも俺と全く同じ印象を受けたのか、彼が小声でそう耳打ちしてくる。
しかしその奇妙な違和感の理由は、直後のバートン教授の言葉で明らかになっていた。
「皆の中にはもう気が付いている学生もいるかも知れないけど、僕は元々人間だったんだ」
「えっ・・・?」
だが流石にその告白には衝撃を受けた者達も多かったのか、講義室の中に微かなざわめきが走っていく。
「僕は昔、とある小さな村で医者をやっていたんだ。ただ、不運なことに重い病気に罹ってしまってね」
バートン教授の話によると彼は当時不治の病とされていた結核を患ってしまい、治療法が無いまま若くしてその命を落とす運命にあったのだという。
だが最後まで村の人々の為に医者として働こうと考えていた彼は、ある日村の外れで瀕死の重傷を負って倒れていた1匹の黒いドラゴンを見つけたのだという。
そして後に彼から竜の言葉で"黒"を意味するレグノという名で呼ばれることになるそのドラゴンこそが、今回の講義のテーマである辺境に棲むドラゴンの一種だったのだそうだ。

「人間の医者だった僕がどうして竜の体になったのかはおいおい話すとして、まずはそうだな・・・」
そう言いながら、バートン教授が何かを悩んでいるかのように長い尻尾の先をクルクルと回す。
彼の立ち居振る舞いは何処をどう見ても人間そのものだというのに、それでも所々に明らかにそれとは異なる仕草が顔を見せるのが何とはなしに面白い。
「皆はドラゴンという種族について、どのくらい知識があるのかな?」
「ドラゴンか・・・そう言えばこの竜学コースで結構ドラゴンのことは学んだ気がするけど・・・」
「肝心のドラゴンがどういう生き物なのかっていう根本の部分には、余り詳しく触れてないよな?」
確かに会話の上ではドラゴンという言葉で意味が通じるとは言え、枚挙に暇が無い程に幅広い生態や姿形を持つ彼らはドラゴンという一言で括ってしまうには余りにも多様性に富んでいる。
「僕を含めてこの部屋には本物のドラゴンもいるから余り偏見は持たないで欲しいんだけど・・・」
元人間のドラゴンが語る、ドラゴンという種に対する率直な印象。
それはドラゴンという種を学ぶ為にこの講義室の中にいる大勢の学生達はもちろんのこと、雌竜であるプラムを彼女に持つ俺にも非常に興味深い観点からの考察に他ならなかった。

「一部のドラゴンはそれ単体か、或いは同種の間だけで独自の文化を形成することがあるんだ」
そう言うと、バートン教授が話を区切るように小さく息を1つ吐き出してからその先を続けていく。
「例えばさっきの話に出て来た黒竜のレグノも、人里離れたドラゴンの里である特殊な社会を構築していたんだ」
彼の話によると、そのレグノというドラゴンも含めて多種多様な種族のドラゴン達が寄り沿って暮らすドラゴンの里と呼ばれる集落があったのだという。
今はこの半月竜島のように様々な種類の幻獣達が寄り集まって暮らせる場所があるから現在もそのドラゴンの里が存続しているのかどうかは分からないものの、随分と人間の居住地からは離れた辺境の地にあったらしい。
その里の中でも、レグノ達黒竜の一族はある特別な慣習を持っていたのだという。
彼らはドラゴンの里を纏めていた大婆様と呼ばれる巨大な白竜の下に集う一種族でありながら、それとは別に実務的に里を取り仕切る長を務める種族でもあったのだ。
そしてその里長は特定の決まった任期があったわけではなく、5歳以上の黒竜が志願の上である試練を行うことによって後任が任命され交代するという制度を採っていたらしかった。
「何でそんなに頻繁に里長を交代するんだろうな?」
「確かに・・・それに、その里には色々な種族の竜がいたんだろ?どうして黒竜の一族が長を務めてたんだ?」
「実は里長を頻繁に交代する明確な理由は判っていないんだけど、社会性を育む為だっていう説が濃厚なんだ」
やがてバートン教授が、そんな俺達の会話を聞き取ったかのように先を続ける。
「というよりも、黒竜の一族がその里の中で最も豊かな社会性を持つ種族だったと言った方が正しいね」
つまり、黒竜の一族の他には大婆様を除いて里を取り仕切れるような連中がいなかったということか・・・
それはそれで随分と混沌とした社会のような気がするものの、俺はその後に続けられた里長に志願した黒竜達の受ける試練の内容に興味を奪われたのだった。

「その試練というのはね、3年間人間とともに過ごすことだったんだ」
3年間を人間とともに過ごす・・・
この島の中で聞けばそれは別に試練でも何でもないような気がするものの、冷静に考えればいきなり見ず知らずの人間のところへ出掛けて行って3年も居候させてくれなどというのはかなり無理がある話だろう。
人間同士で考えたってそうなのだから、相手がドラゴンともなれば尚更だ。
だが例の黒竜達は、交渉だけでも難航しそうなその条件に加えてパートナーに選んだ人間との間に"命の契約"という特殊な契約を交わすことでその人間を裏切れないよう自らに枷を付けたのだという。

「命の契約というのは、端的に言えばドラゴンと人間の命を共有することなんだ」
それはつまり、もし契約期間の間にその人間かドラゴンのどちらかが命を落とした場合はパートナーもまた連座的に死を迎えてしまうということなのだろう。
体の強靭さ、寿命、病などに対する耐性などありとあらゆる面で人間よりも優れているドラゴンにしてみれば、契約期間中はパートナーである人間を何としてでも護らなければならない義務が発生するということになる。
契約相手に選ばれた人間の方にしてみれば正直良い迷惑でしかなかったのに違いないが、中にはそれが元で深い絆を結んだ人間とドラゴンもいるらしかった。

「その命の契約というのは、どうやって結んだんだ?」
やがて不意にロブがそんな質問をすると、バートン教授がこちらに顔を振り向ける。
「良い質問だね。さっき黒竜がドラゴンの里長を務めていると言ったけど・・・」
そう言いながら、バートン教授が学生全員を見回すようにして質問を投げ掛けていた。
「その理由は社会性の高さの他にもう1つ理由があったんだ。何か分かるかい?」
「黒竜にだけ、何か特殊な能力があったとか?」
「その逆さ。黒竜達には、里に棲む他のドラゴン達とは違って社会性の高さ以外に特別な能力が何も無かったんだ」
何も特別な能力を持たないドラゴンが、その他大勢のドラゴンを取り仕切る・・・か・・・
黒竜とは別に長老役でもある大婆様がいたとは言っても、それで果たして本当に里が纏まるのだろうか?
「それ故に黒竜達は、大婆様から命の契約などの"秘儀"と呼ばれる特殊な儀式を行うことを許されていたんだよ」
「え・・・その秘儀って奴は、特殊な能力が無くても出来る儀式なんですか?」
「そう、正にそれこそがこの秘儀の凄いところでね。特定の手順を踏めば、実は人間でも秘儀を実行出来るんだ」
ということは、人間も特定の相手と命を共有したりなどという契約を結ぶことが出来るのか・・・
だがもし仮にそれが出来たとしても、何の役に立つのかまでは俺には正直ちょっと想像が付かなかった。

「話を戻すけど、この秘儀というものはその内容に応じてある代償が必要になるんだ」
「代償?」
「そう・・・例えば寿命を計る命数の儀には対象者の髪か爪が、命の契約にはお互いの血が必要という具合にね」
命の契約にはお互いの血が必要だって・・・?
ということは、試練の為に黒竜がパートナーとなる人間と命の契約を結ぶ際にも当然ながらその人間の血が必要になるということだろう。
試練に臨むのは5歳以上の黒竜ということだからそれ程極端に体は大きくないのかも知れないが、それでも突然現れたドラゴンに3年間も一緒に暮らせと言われた挙句血まで要求されたら大抵の人間は逃げ出してしまうだろう。
いや寧ろ、幾ら社会性が高く人間との関わりが深い種族だと言ってもそれがもし若いドラゴンだったとしたら人語だって満足に話せるとは限らないだろう。
「何か・・・やっぱり試練というだけあってかなりハードルが高いんだな・・・」
やがてそんなロブの呟きを隣で聞きながら、俺もバートン教授に質問を投げ掛けてみる。
「もしかして、バートン教授が今のその姿になったのも、何かの秘儀の結果なんですか?」
「その通り。病によって一旦は死んでしまった僕を、レグノがある秘儀を使って救ってくれたんだよ」
「待てよ・・・秘儀には代償が必要なんだろ?死んだ人間を生き返らせる秘儀だなんて、一体何を代償に・・・」

そのロブの言葉が聞こえたらしい周囲の学生が、皆一様にハッとした様子で息を呑んだのが俺にも見て取れていた。
「はは・・・大丈夫。その推察は正しいけど、大婆様のお陰で僕を救ってくれたレグノは今も元気に過ごしてるよ」
大婆様のお陰ということは、やはり本来バートン教授を救ったという人間の死者をドラゴンに転生させる秘儀には代償としてそれを実行した者の命が必要になるのだろう。
しかしそう考えると、大婆様というのは本来死ぬはずだったそのレグノという黒竜を生き存えさせたことになる。
「その大婆様っていうのは、一体何者なんですか?」
「竜学コースを取っている学生なら午後からその為の講義があると思うんだけど、大婆様は神竜の一族なんだよ」
そう言えば、3限目は"竜の神族"という講義だったっけ・・・
つまりドラゴンの里というのは、結局のところ竜の神様によって統治されていた里だったわけだ。
それなら例え秘儀の存在が無かったとしても、何も特殊な能力を持たない黒竜が里を取り仕切っていたことに対して特に異議を挟む連中はいなかったのかも知れない。
だがまだ話したりなそうなバートン教授はそこで時間を確認すると、丁度講義の終了時間が迫っていたこともあって一旦話を区切ることにしたのだった。

「それじゃあ残り時間も少ないから今日の話はここで一旦終わるけど・・・」
そう言いながら、バートン教授がまるで学生達の顔を覚えているかのように室内をグルリと見回していく。
「竜学コース以外の学生でもし神竜のことについて話を聞きたい者がいたら、後で部屋に来てくれ」
「部屋・・・?部屋って何のことだ?」
俺が頭の中に浮かべた言葉と全く同じだったそんなロブの呟きに、隣にいたジェーヌが静かに答えてくれる。
「教授達には、それぞれ個別の部屋があるのよ。講義が無い時間は、そこで質問に来た学生の相手もしてるそうよ」
「そうなのか・・・」
成る程・・・俺は人間の大学には行った経験が無いから分からなかったのだが、ここが人間の大学のシステムを模倣しているのなら普通の大学も教授には研究室のような個別の部屋が割り当てられているのかも知れない。
そしてそう言い残したバートン教授が講義終了のチャイムとともに部屋を出て行くと、俺達も次の講義に備えてその後に続くことにしたのだった。

「おーいアレス!アレスは、2限目に何か別の選択講義を取ってるのか?」
やがて食堂へと向かったジェーヌと途中で別れたらしいロブが、そう言いながら次の講義へと向かおうとしていた俺を後ろから追い掛けてくる。
「ん?ああ・・・"ラミアの生態"って講義を取ったんだよ。お前の彼女だし、色々知っておこうと思ってさ」
「やっぱりな・・・実は、俺もなんだよ」
「お前もか?ああ・・・まあ、当然っちゃ当然か・・・」
確かに冷静に考えれば、ジェーヌと付き合っている当のロブがこの講義を選択しないはずが無い。
「でもお前、ジェーヌとはもう婚約まで行った仲なんだろ?」
「まあそうなんだけどさ・・・ほら、ジェーヌってあんまり感情が表に出ないだろ?」
そうかな・・・少なくとも昨日は、ロブも彼女の無言の迫力に終始怯えてたように見えたけど・・・
「だから、どうやって機嫌取ったら良いのか俺には良く分かんなくてさ・・・」
成る程、機嫌の取り方か・・・
プラムの場合は美味しい物をお腹一杯食べさせておけば何時でも上機嫌なお陰で俺としては全く苦労しないのだが、言われてみれば一体どうやったらジェーヌが喜んでくれるのかは確かに俺にも想像が付かない。

「取り敢えず、まずは講義室に入ろうぜ」
やがてそんなロブについていくようにして俺も講義室に入ってみると、全体の人数は比較的少ないものの流石にこの講義には竜学コースを取っている学生が少ないのか普段余り見慣れない顔触れが並んでいるような気がした。
そして何時ものように中段の席に着いて講義の開始を待っていると、ややあって煌くような紺色の長髪を靡かせる美しいラミアが室内へと入ってきていた。
均整の取れた細身の顔に服の端から覗く生白いスベスベの肌、如何にも優しそうな雰囲気の柔らかな水色の瞳、そしてそんな美しさとは対照的な毒々しい斑模様を浮かべる黒と緑の鱗に覆われた長い蛇体。
そのある意味で高度な陰陽を併せ持った彼女の姿を見て、恐らくはラミアをパートナーにしている者もいるのだろう学生達の間に溜め息にも似たざわめきが広がっていった。
「こんにちは皆さん・・・私がこの講義の講師を務めるゾーラです。今日はよろしく・・・」
その静かで落ち着いた大人っぽいゾーラの声に、前の方の席にいた小柄な学生達がまるで魅了されたかのように顔を綻ばせているのが目に入る。
リリガンに誘惑されたりロンディに驚かされたりと、前列の連中も何かと大変なんだな・・・

「なあアレス・・・やっぱり、ラミアって皆あんな感じなのかな?」
「あんな感じって、感情の起伏が読み取りにくいってことか?」
「ん・・・まあそうなんだけど、なんて言うかこう・・・一見すると冷たい感じに見えちゃうみたいなさ・・・」
一見するとということは、きっとジェーヌと付き合っているロブでも彼女の感情を読み誤ることが多いのだろう。
「講義を始める前に一応確認しておきたいんだけど、今ラミアの彼女と付き合ってる学生はここにいるかしら?」
そんなゾーラのお馴染みの質問に、ロブを含めた3人の人間が静かに手を挙げていた。
もしかしてラミアって、特に人間に人気の高い種族なんだろうか・・・?

「ありがとう、もう手を下ろして大丈夫よ。今皆も気付いたと思うけど、ラミアは特に人間と相性の良い種族なの」
「それって、何か理由があるんですか?」
やはりその理由が気になったのか、早速ロブがそんな質問を投げ掛ける。
「理由は色々あると思うけど、1番は体の構造が近いことね。何と言っても、上半身は人間なわけだし」
ああ、まあそりゃそうか・・・
尖った耳を除けば上半身の見た目がほとんど人間と変わらない上に人間の女性以上に魔力的な美しさを秘めているのだから、当然ながら人間の男からは引く手数多と言うことなのだろう。
「でも、感情面では人間とは大きく違うのよ。今手を挙げてくれた子達も、戸惑うことが多いんじゃないかしら?」
だがいよいよロブが最も聞きたかったであろうラミアの心の動きについての話が始まると、ラミアとの恋愛に真剣な連中がいることもあって一気に講義室内に微かな緊張感が張り詰めていったのだった。

「ラミアの性格はもちろんそれぞれなんだけど、基本的には蛇をイメージすると良いと思うわ」
「蛇のイメージって、何か冷血で嫉妬深いみたいな感じで余り良くないけどな・・・」
「いや、案外ジェーヌにも当てはまるよ。冷血ではないと思うけどさ。浮気なんてしたら何されるかわからないし」
まあ、それは多分プラムだって同じだろう。
逆に言えばそれだけパートナーと深く繋がっているということだし、俺達が相手を裏切らない限りは円満な関係を築くのは難しくないのに違いない。
「それに大抵の場合ラミアは表面上は努めて冷静を装うんだけど、番いの雄には本当に一途に尽くすのよ」
そう言いながら、ゾーラが長い尻尾をクルリと丸めて少し大きく体を持ち上げる。
「まあだからっていうわけじゃないんだけど、ラミア相手に浮気は絶対に駄目よ?本当に締め殺されちゃうからね」
「そ、そう言う事例は、過去にたくさんあるんですか?」
「もちろん、この島の中だけでもたくさんあるわよ。ただ、ちゃんと別れ話をすれば逆恨みとかはしないんだけど」
それを聞いて、ロブがほんの少し緊張を緩めていた。
もちろん今のロブにはジェーヌと別れるつもりなど一切無いのだろうが、普段彼女と頻繁に接している彼にもその辺りの感覚は伝わったのだろう。

「ちなみにラミアはよくパートナーの体に尻尾を絡めることがあるんだけど、これにはちゃんと意味があるのよ」
そう言えば、ジェーヌも大抵ロブと一緒にいる時は彼の足に尻尾の先を巻き付けてたな・・・
ゾーラによるとパートナーの手足に尻尾を一巻きしているのは愛情表現の1つで、普段余り喜怒哀楽を顔に出さない代わりにそうやってパートナーの体温を感じることでお互いの感情の遣り取りをしているのだという。
パートナーが何かに腹を立てていたり体調が悪かったりといったことも尻尾を通して分かる為、ラミアの方から声を掛けることは少なくても大概は円満に意思の疎通が出来るのだという。
「そう言えば、ジェーヌって無口だけど普段は結構俺に気を使ってくれてるなぁ・・・」
「そうなのか?」
「なんて言うかこう、何も言わなくても色々通じるんだよ、彼女には。空気を読むのが上手いって感じなんだけど」
そう言われると、確かにジェーヌはプラムにロブを紹介した時も一歩身を引いてたし、ロブ以外に対してもその場を掻き乱さないように常に配慮しているような印象がある。
そういう意味では、ロブとは対照的な性格だと言って良いだろう。

「これが二巻きだと、少し強い求愛行動になるの。まあ端的に言うと、交尾を求めてると思って良いわ」
「ジェーヌもそういうことあるのか?」
「ん〜・・・どうだろ?ジェーヌとは何時も部屋に帰るなりヤッてるから、特に求められた記憶は無いなぁ・・・」
こいつ・・・とんでもないことをさらっと言いやがって・・・
何時でも気軽にパートナーとまぐわれるという点に関してだけは、俺も正直ロブを羨ましく思う時がある。
心情的にはともかく、巨大な雌竜であるプラムは人間が気軽に体を重ねられる相手ではないのだ。
せめてこう・・・プラムとの交尾の練習が何処かで出来れば良いんだけどな・・・
「どうしたんだアレス?さっきからブツブツ言ってるけど・・・」
「ん・・・ああ・・・俺はプラムとはそう簡単に交尾なんて出来ないからさ・・・ちょっと羨ましいなと思って」
「どうして出来ないんだ?」

ああ・・・そう言えばロブは、リリガンの講義は取ってなかったんだっけ・・・
まるで絶頂時に雄を道連れにするかのような、渾身の力を込めた雌竜の圧搾。
雌と同じくらいのサイズの雄竜であればまだ平気なのかも知れないが、少なくとも人間の俺があんなものをまともに食らったら肉棒をペシャンコに押し潰されてしまうだろう。
前回の交尾の時だってたまたま暴れるプラムに弾き飛ばされたから助かったものの、次もあんな風に都合良く逃げられるとは限らないのだ。
「まあ、色々あってね・・・プラムとの交尾の練習が出来れば、それに越したことは無いんだけど・・・」
「それじゃあさ、今日の講義が終わったら、娼館に行ってみないか?」
「え・・・?」

娼館に・・・?
「そ、それは良いけど・・・大丈夫なのか?」
「ジェーヌは俺が娼館に行くのは別に構わないって言ってたぞ。プラムは駄目なのか?」
「い、いや・・・それは・・・」
そんなこと、幾ら何でも彼女に直接訊けるはずが無い。
だがプラムが今後風俗店で働こうとしていることを考えると、やはりその辺りの感覚は人間とは違うのだろうか?
「とにかく、後で彼女に訊いてみろよ」
「そ、そうだな・・・」
全く・・・人の気も知らないで・・・
ロブのこのアグレッシブさは、一体何処から来るんだろうな・・・
とは言え、もしプラムが許してくれるのなら娼館で交尾の経験を積むというのは案外悪くない案かも知れない。
ちょっと不安ではあるけど、後でプラムに娼館に行っても良いか確認してみようか・・・
前方ではまだゾーラの講義が続いていたものの、俺は何時の間にかその件で既に頭が一杯になっていたのだった。

「アレス、ほら、講義終わったぞ。早く食堂に行こうぜ」
それから、どのくらいの時間が経った頃だろうか?
俺はそのロブの呼び掛けで何処か上の空だった意識を現実に引き戻すと、既に半分以上の学生達が講義室から退出していることに気付いて慌てて席を立っていた。
「ん・・・ああ、ごめん・・・」
「何だか講義中ずっとぼんやりしてたけど、大丈夫か?」
普段余りそんなことを気にしなさそうなロブが言うのだから、多分俺は相当に集中力を欠いていたのだろう。

「大丈夫、何でもないよ」
そしてまだ少し怪訝そうな表情を浮かべていたロブとともに食堂へ向かうと、少し早めに来て俺達を待っていてくれたのかジェーヌが既に席に着いてこちらに手を振っていた。
「何か、あの講義を受けた後だとジェーヌの印象がまたちょっと違って見えるな・・・」
「俺は半分くらい講義の内容を聞いてなかったけど、何か目新しい発見はあったのか?」
「いや、そんなには・・・でもジェーヌが本当に俺のことを好きなんだなってことは良く分かったよ」
本人に面と向かってプロポーズするのはあんなに苦手だったロブが俺の前ではそんなことをサラッと言える辺り、こいつも表面上はどうあれ心の根っこの部分では本当にジェーヌを大切に思っているのだろう。
何処と無くプレイボーイという印象の強いロブが真剣に1人の女性を愛そうとしているのはもちろん素晴らしいことではあったのだが、ロブとの付き合いが長い俺にはそれがある意味で彼の意外な一面として映ったのだった。

「お待たせジェーヌ。飯の注文がまだなら一緒に行こうぜ」
「ええ、もちろん。その為にあなたを待ってたんだから」
やがてそう言いながらお互いに寄り添うようにカウンターへと向かったロブ達の後姿を眺めていると、俺はやっと講義が終わったのか少し慌てた様子のプラムが食堂へと駆け込んできた瞬間を目にしていた。
そして大勢の学生達が犇く広い食堂だというのに一目で俺の姿を見つけ出したらしい彼女が、少し安心したような視線を俺の方に投げ掛けてくる。
明らかに親密さが増したように見えるロブとジェーヌもそうなのだろうが、やはり自分とは異なる種族と付き合うのに最も重要なのは相手に対する理解なのだろう。
そう言う意味では、プラムも若干不器用ではあるものの初めての人間の友達だという俺のことを彼女なりに必死に理解しようとしてくれているように思える。

でも・・・果たして俺は、そんなプラムのことを一体どれだけ理解しているのだろうか?
彼女との交尾の練習の為だとは言え、娼館に行ってみてもいいか彼女に確認するのが不安なのはプラムが婚約を交わした雄が娼館へ行くことに対してどんな受け止め方をしているのかを知らないからだろう。
外見が人間とそっくりなジェーヌでさえ人間の感覚に当て嵌めて理解しようとしても上手く行かないというのに、雌竜であるプラムなら尚のことその本心を推し量るのは難しいのに違いない。
やがてそんなことを考えている内に食事を注文して来たらしいロブとジェーヌが席に戻ってくると、俺は彼らに一言断ってからその場を後にしていた。
そして少しばかりそわそわしながらもカウンターで注文した自分の食事を受け取ると、そのまま今日は豚の丸焼きを口一杯に頬張っているらしいプラムの元へと真っ直ぐに向かう。
「やあプラム・・・」
そして背後からそっとそう声を掛けてみると、食事に夢中になり過ぎて直前まで俺が来たことに気が付かなかったらしいプラムが慌てて口の中の物を飲み込みながら何処か舌足らずな声を上げていた。

「はれ?はふ・・・アレフ・・・どうひたの?」
「食べてる時にごめんよ。ちょっと、どうしてもプラムに聞いておきたいことがあってさ」
そう言うと、プラムがうんうんと頷きながらも随分と急いでいる様子で残っていた豚の足をパクリと平らげる。
「プラムはさ、例えば俺が娼館に行ったりしたら・・・その・・・怒るかい?」
「娼館?ううん・・・別に気にしないけど・・・どうして?」
だが余りにもあっけらかんとそう答えられたお陰で、プラムの返答に身構えていた俺は何だか肩透かしを食らったようにガクッとバランスを崩して危うく持っていた食事のトレイを落っことしてしまうところだった。
「あ、いや・・・その・・・人間の女性だったら、普通は夫がそういうところに行くのを嫌がることが多いからさ」
「大丈夫よ。私、アレスのことを信用してるもの。でもアレスは・・・やっぱり私が風俗店で働くのは嫌なの?」

俺を信用してる・・・か・・・
確かに人間の女性が往々にしてそういうことを嫌がるのは夫が浮気するかも知れないという不信感に繋がったり、或いは夫は自分1人だけのものとでもいうような一種の独占欲を刺激されるからなのかも知れない。
だがこの島で良く見られるように異種族同士の雌雄がお互いの信用だけで番いを形成している場合は、それを裏切らない限りにおいてパートナーの行動を制限するようなことはしないのが暗黙の了解なのだろう。
「いや・・・それを聞いて俺も安心したよ。冷静に考えたら、人間だけがそういうことに神経質過ぎるのかもね」
「そんなことないわよ。アレスが私に黙って娼館に入り浸ってたりしたら、流石に私だって良い気はしないもの」
「ああ・・・ま、まあ・・・そりゃそうか・・・」
ということは、事前に断ってから行く分には問題無いってことか・・・
でも取り敢えず、娼館に行くに当たってプラムの了承が得られたことは素直にありがたい。
「それじゃあ俺、ロブ達と一緒に食べてくるよ」
「うん。後でね、アレス」
やがて背後から浴びせられたそのプラムの快活な声に手を振ると、俺は何だか肩の荷が下りたような思いでロブ達の許へと舞い戻ったのだった。

それからしばらくして・・・
次の講義の開始時間が近付いてくると、俺達はプラムとも合流して一緒に講義室へと向かうことにした。
その道中、美味しい豚の丸焼きをたっぷり食べて重そうに腹を揺らしていたプラムに珍しくロブが話し掛ける。
「それにしても、プラムって暇な時は何時も食堂で何か食べてるんだな」
「だって、食堂で食べれば食費が一切掛からないんだもの。私には大助かりよ」
だが恐らくはプラムの旺盛過ぎる食欲のことを指してそう言ったのだろうロブの言葉を、当の彼女の方は少し違う意味で受け取ってしまったらしい。
「いや、プラム・・・そういうことじゃなくてさ・・・」
「え?」
「ロブが言ったのは、よくそんなに沢山食べられるねって意味だと思うよ」
俺がそう言うと、そこでようやく誤解に気が付いたのかプラムが少し恥ずかしそうに顔を赤らめていた。

「ああ・・・その・・・私・・・ただ単純に、美味しい物を食べるのが好きなだけなの・・・」
「それは皆そうだと思うけどさ・・・普通は食べ過ぎたら太っちゃうだろ?」
「確かに・・・私も食事は結構控えめにしてるつもりだけど、人間の体って思ってる以上に太りやすいのよね」
そう言いながら、ジェーヌがまるで肉付きを気にするかのように俺から見れば十分に細く見える自分の腕を摩る。
「私も、もう少し運動をした方が良いかしら・・・ねえ、ロブ?」
「ん・・・あ、ああ・・・そ、そうだな・・・」
女の子の体重の話というデリケートな部分に会話が及びそうな気配を感じ取ったのか、或いは"運動"という言葉の意味を悟ったからなのか、ジェーヌに話を振られたロブが明らかに狼狽えた様子で歯切れの悪い返事を返していた。
「プラムってさ、もしかしてどんなに沢山食べても太らないのか?」
「もちろん私だって太るわよ。でも30分も空を飛べば、すぐにお腹が空いちゃうくらい食べた物を消費しちゃうの」
成る程・・・長時間プールで泳ぐ水泳選手は日がな一日何かを口にしていないとすぐに痩せ細ってしまうという話を聞いたことがあるけど、彼女も同じように翼を羽ばたくのに想像以上に大きなエネルギーを消費しているのだろう。
言わば、飛行ダイエットと言ったところか・・・

「でも、好きなだけ食べても太らないのは素直に羨ましいよ」
「アレスは・・・私がもっと痩せてた方が良いの?」
やがて少し困った様子でそう言ったプラムの顔に、もしかしたら俺に大好きな食事を制限されるかも知れないというようなどちらかというと怯えに近い表情が浮かんでいた。
「いや・・・そんなことないよ。美味しそうに食事してるプラムを見てると、俺も幸せだしさ」
だがそれを聞いて今にも歓喜の声とともにその巨体を浴びせ掛けてきそうなプラムの様子に戦々恐々としながらも、俺は背後で複雑な心境を味わっているのだろうロブとジェーヌの方にチラリと視線を振り向けていた。
「私も美味しい物が好きなだけ食べられたら良いんだけど・・・もちろん、痩せるの手伝ってくれるわよね?」
そう言いながら、ジェーヌが婚約の証に貰った腕輪をさりげなくロブに見せ付ける。
「は・・・はは・・・俺は寧ろもっと食べないと、数日で干物にされちまいそうだな・・・」
そしてそんなロブの弱々しい声が聞こえると、俺達は丁度次の講義室の前へと辿り着いていた。

「ここだな」
「何かこの部屋、妙に広くないか?席にゆとりが有り過ぎるっていうか・・・」
「多分内容的に竜族が選択することの多い講義だから、広い席を用意してるんじゃないかしら?」
確かにそう言われてみれば、履修コースに関係無くLクラスのドラゴンはほぼ全員出席しているようだ。
「本当だ・・・やっぱり、自分の種族の神様って気になるものなのかな」
「そう言えばジェーヌも、前に図書館で"白蛇様の生態"って本を読んでたよな?白蛇様って、蛇の神様なんだろ?」
「ええ・・・でも白蛇様は人間にも神様として崇められてることが多いみたいで、私の想像とはちょっと違ったわ」
やがてそんな会話を交わしながら広い席に全員で並ぶように座ると、俺はジェーヌの言葉の意味を頭の中で反芻していた。

蛇や竜にも神様がいるということは、他の種族にも同じような立場の存在がいると考える方が自然だろう。
でもジェーヌやプラムを見ていても、彼女達は特に自分達の神様を崇めているというわけではないらしい。
寧ろ、人間の方が色んな種族の神様を祀っているような気がする。
だとしたら、この講義は寧ろ俺やロブのような人間にこそ興味深い内容になるんじゃないだろうか?
そしてそんな想像に耽っている内に、俺は全身に真っ白な鱗を纏った少しばかり小柄な龍がスルスルと部屋に入ってきたことに気が付いたのだった。

「皆こんにちは!あたしがこの講義の講師をするコロットだよ。よろしくね!」
やがて10メートルにも満たない比較的短い蛇体を演壇の上に纏めると、可愛らしい白龍が小さな両手を左右に広げながら甲高い声でそう挨拶していた。
「あ・・・ほ、本当に神龍様が講義するんだ・・・」
だがそのコロット教授の様子に何処か気が抜けてしまった俺やロブとは対照的に、ジェーヌとプラムがピリッとした緊張感に包まれたのが伝わってくる。
「プラム・・・どうかしたのか?」
「あれ・・・本物の神龍様よ。氷竜の近親以外の竜族で白い鱗を持ってるのは、神様の一族だけなの」
「へえ・・・」
そう言えば、白蛇様も蛇の神様なんだっけ・・・
ということは、きっとジェーヌもあれが本物の神龍だと気が付いたのだろう。

「それじゃ早速講義を始めたいんだけど・・・ええと・・・何から話せばいいのかなぁ・・・」
話したいことがたくさんあるのか、或いは単純に何を話して良いのか分からないのか、講義の開始早々にいきなりコロット教授が言葉を詰まらせてしまう。
「あの・・・コロット教授はその・・・本物の神龍様、なんですよね?」
「ん?そうだよ!何か聞きたいこととかって、ある?」
だがまるで念を押すようなそのロブの質問に、彼女も質問形式で講義を進めた方がやりやすいことを悟ったのかパッと明るく顔を輝かせてそんな快活な声を上げていた。
「じゃあその・・・神龍様って、普段はどういうことをしてるんですか?」
何時もは誰にでも割とずけずけ物を言うタイプのロブが何処と無くぎこちないながらも丁寧な言葉を使っているのが俺には少し意外だったものの、確かに神龍様が普段何をしているのかは俺としても気になるところだ。

「あたしは普段は歳の離れた2匹の姉と大きな湖に棲んでるんだけど・・・月に1度、人間の村から贄を取るの」
「に・・・贄・・・?」
恐らくはその場にいた誰もが予想していなかっただろうその言葉に、俺は講義室内にザワッというどよめきが走ったような気がした。
「あ、勘違いしないで。別に命を奪うわけじゃなくて、人間の村を守る為の契約の一種なの」
コロット教授によれば彼女の棲んでいる湖の近くには人間の集落があり、村人達がその湖で水を汲んだり魚を獲ることを許しているのだという。
その集落は極端な乾燥地帯の為に日照りが続き雨が滅多に降らないというほとんど砂漠に近い環境にもかかわらず、彼女達の棲む湖が決して干上がらず魚も大漁が約束されている為か人々の暮らしは大いに栄えているらしい。
そしてそんな恩恵を与える代わりに毎月1人の若い男を贄として湖に来させることで、彼女達を神たらしめている"生気"という一種の生命エネルギーのようなものを作り出す為に人間の精を頂く儀式を行うのだという。

「その儀式って・・・人間の方は無事なんですか?」
「普通ならただじゃ済まないと思うけど、儀式を行う人間には命の龍玉を取り込んで貰うから平気なの」
「命の龍玉・・・?」
コロット教授の説明によると、この世界には竜玉や龍玉と呼ばれる希少な宝玉が存在するのだそうだ。
それらは特殊な能力を持った竜族の体の一部がその身から離れることで結晶化した王竜玉と呼ばれるものと、神竜や或いは神竜族の力を借りた竜が長い時間を掛けて作り出す神竜玉と呼ばれるものに大別されるのだという。
「竜と龍のどっちが作ったかで呼び名が変わるだけで、竜玉も龍玉も全く同じものだと思って大丈夫よ」
「その・・・王竜玉と神竜玉って、どんな違いがあるんですか?」
「まず、使い方が全然違うんだよ。王竜玉は直接手に持ったり、装飾品として身に着けないと効果が無いの」
そう言いながら、コロット教授がクネクネとその身を揺らす。

「例えば首飾りにして身に着けたりとか・・・他には樫の杖に埋め込んで持っていたって例もあるみたいね」
「じゃあ、神竜玉の方は?」
ロブも少しコロット教授の雰囲気に慣れてきたのか、まるで食い付くように質問を浴びせていく。
「神竜玉はね、生物が直接体に取り込んで使うの。作った目的によって、体からの取り出し方が変わるんだけどね」
「取り出すって・・・体の中に取り込んだ竜玉をまた取り出せるんだ・・・」
「身近な例で言うと、この島の竜王様が持ってる知識の結晶も神竜玉の一種なんだよ」
そう言えば、竜王様が手に入れた知識の結晶は智慧の谷にあるかつての神竜の住み処で造られたんだっけ・・・
知識の結晶を作るのには数時間に及ぶ集中と神竜の放つ濃い生気が必要ということだったから、確かに神竜玉を作る為の条件は揃っていることになる。
それにアレンの自叙伝では今の竜王様の奥さんが生まれて間も無い頃に知識の結晶を作ることが出来たらしいから、条件さえ揃っていれば神竜玉を作るのは特殊な能力や才能を必要とするものではないのかも知れない。

「尤も知識の結晶は一生使うことを想定しているから、持ち主が死なない限り外には取り出せないみたいだけどね」
「その儀式で使ったっていう命の龍玉は、もっと簡単に取り出せるんですか?」
「そうだよ。命の龍玉は私のお母さんが儀式の為に作ったものだから、眠るか気を失うことで体外に取り出せるの」
成る程・・・それなら確かにリスクも無いに等しいし、彼女達に精を献上するという儀式の性格を考えればもしかしたら贄に選ばれることを期待していた人も大勢いたのかも知れない。
まあ、それは俺が単にドラゴンが好きだからそう思うだけなのかも知れないが・・・
「あ、でも待てよ・・・命の龍玉を取り込まないで儀式をしたらただじゃ済まないってことは・・・」
「多分、夜通し延々と休み無く精を搾り取られるんだろ・・・体力的にはともかく、精神的には凄く辛そうだな」
「う〜ん・・・でもそれがあれば、私もアレスと一晩中楽しめるのになぁ・・・」
夢想しているだけなのか、それとも本気でそう思っているのか、珍しく口を開いたと思ったプラムが少しばかり蕩けた表情で俺を見つめながらそんなそら恐ろしい言葉を口にする。
いや・・・先程からムニャムニャと口を動かしているし、もしかしたらまた居眠りして寝惚けてるだけかも・・・
とは言え、それはそれでプラムの本心なのかも知れないと思うと俺は何故だか急に心臓の鼓動が早くなったような気がした。

「あっ!もうこんな時間!それじゃ、今日の講義はここまでね!」
やがて興味深い話を聞いている内にもう90分もの時間が過ぎてしまったのか、コロット教授がそう言うや否や講義終了を告げるチャイムが周囲に鳴り響いていく。
そしてワタワタと講義室から這い出して行く不思議な白龍の姿を見送ると、俺はやっぱり単に寝惚けていただけらしいプラムを起こしていた。
「おいプラム。また寝てるのか?もう講義終わったぞ」
「ん・・・あ、あれ?私、また寝ちゃってた?」
全く・・・講義が始まった時はあんなに緊張してたはずなのに、結局居眠りしちまうのか・・・
プラムが言うには俺と一緒の時に気が抜けて寝てしまうということらしいが、この調子では他の講義でもほとんど眠りこけているんじゃないかと心配になってしまう。

やがて皆で部屋を出ると、俺はまだ眠そうなプラムを次の講義の会場らしい隣の講義室まで一緒に送ってから先を行くロブ達に追い付いていた。
「プラム、大丈夫そうか?」
「さあ・・・もしかしたら、何時もあんな感じなのかもな・・・」
「確かに・・・この前彼女と一緒に講義を受けた時も、何だか凄く眠そうにしてたわね」
まああれだけ暇がある度に食堂で何かを食べているんだからすぐに眠くなってしまうのは一応理解出来ないこともないのだが、それを考慮したとしても流石に居眠りし過ぎのような気がする。

「なあ・・・もしかしてだけど・・・プラムって、何かの病気とかだったりしないよな?」
「え・・・?」
プラムが病気だって?
突然何を言い出すんだロブは・・・
「だって、少なくとも先週まではそんなこと無かったんだろ?」
「う〜ん・・・俺がプラムと初めて一緒の講義になったのは一昨日の話だしなぁ・・・」
でも確か先週は数字が書けるようになったと喜んでたから、講義の内容はちゃんと頭に入っていたのだろう。
「そんなに気になるなら、後で医者に行ってみたら?バートン教授が、夜は竜医をやってくれてるみたいだし」
「そうなのか?昼は大学教授で夜は医者って、凄い人・・・いや、ドラゴンなんだな」
「でも居眠りしてたくらいでいきなり病気を疑って医者に行こうなんて言ったら、プラムが何て言うかなぁ・・・」
彼女の性格を考えれば俺が心配して医者へ行くことを勧めたところで怒ったりはしないだろうが、そうかといって素直に納得してくれるかと言われればそれも微妙なところだろう。
まあ・・・正直余り気乗りはしないけど、後でプラムと話をしてみるとしようか・・・
「取り敢えずさ、早く講義室に入っちまおうぜ。次は"竜人の生態"の講義だろ?」
「あ、ああ・・・もうすぐそこだよ」
そしてそんなロブの声にぼんやりしていた頭を現実へ引き戻されると、俺はもう間近まで近付いてきていた講義室を指差したのだった。

やがて講義の開始1分前にロブとジェーヌと3人で中段の席へ腰掛けると、丁度扉が開いて今回の講義の講師らしい乳白色の皮膜と透き通るような青色の鱗に身を包んだ背の高い1人の竜人が部屋の中へと入ってくる。
「俺が、この講義の講師を務めるラズだ。よろしく」
「なんか、凄い強面の竜人だな・・・講師っていうより戦士って感じだ」
確かに逞しく鍛え上げられているらしい屈強な手足は鱗が筋肉の形に盛り上がっていて、睨み付けられただけで足が竦んでしまうような歴戦の戦士のような鋭い眼光が周囲を油断無く見回している。
まるで、つい今し方剣と盾を持って戦場で戦っていたかのような佇まいだ。
「これは俺達のような竜人の生態についての講義だが、率直に言うと実は生態自体は人間のそれと大差は無いんだ」
そう言いながら、ラズ教授がゆっくりと演壇の上を歩き始める。
確かに竜と違って完璧に2本の足で歩いている姿は、尻尾の存在を無視すればほとんど人間と変わらないようだ。
マズルも竜程は長くなくどちらかというと寸詰まりに近いようで、手足の指先から生えた爪も道具を使い易いようにということか短く丸められていた。

「ただ、役割という意味では人間とは大きく違う。例えば俺は、ある王国の兵士として人間とともに暮らしていた」
ラズ教授によると、彼は国を護る兵士として大勢の仲間達とともに人間と平和な共存生活を送っていたのだという。
人間が為政を取り仕切り竜人がその屈強な体を生かして肉体労働や兵務に就くという一見すると従属関係のように見える社会構造が問題無く成り立っていたということらしいから、竜人にもある種の献身的な側面があるのだろう。
「俺を見れば分かるかも知れないが、竜人は規範意識が強く私利私欲で行動を起こすことが極端に少ない種なんだ」
自分でそう言い切るというのはなかなか出来ることではないと思うが、実際人間と竜人が生活を共にしている場所でこれまで竜人による反乱や騒乱が起こった例は皆無なのだという。
もちろんそれは自身の身を危険に晒して生活を護ってくれている彼らへ人間達からの敬意があったからこそなのだろうが、そういう意味では竜人達は多文化共生を掲げるこの島の理念に最も近い存在なのかも知れない。
竜という種族がどちらかというと獣寄りの存在なのだとすれば、竜人というのは竜と人間の中間ではなく極めて人間の側に近い種なのだろう。
実際それを裏付けるように、それぞれの種族によって請け負える仕事が異なるこの島でも竜人は人間の仕事のほぼ100%をこなすことが出来るということで仕事の面ではかなり優遇されているらしかった。

「逆に、竜人だけにしか請け負えない仕事って言うのはあるんですか?」
「ふむ、良い質問だな。決して多いわけではないが、あるにはある。例えば、この島への入島試験がそうだ」
「入島試験?」
ラズ教授の話では、大学に入学する目的の人間を除いて外部からこの半月竜島に入島する者は、全員が必ずある試験を受けてそれに合格しなくてはならないのだという。
つまりその入島者が自分と違う種族、とりわけ人間と共に暮らしても問題を起こさないかどうかを見極める為に、人間の代わりとして竜人が彼らと数日間擬似的な共生生活を送るわけだ。
もちろん大抵は人里を追われて安寧の地を求めてやってくる者が大多数を占めているのでその試験に不合格となる可能性はかなり低いらしいのだが、意外と言うべきか順当というべきか、合格率は人間が最も低いらしかった。
「確かに大学に行く以外の目的でこの島に来ようとする人間なんて、不純な目的の輩が多いのかもな」
「でもその試験のお陰でこの島の平和が保たれているんだと思えば、とても重要な仕事には違いないわね」
「他にも未開の地域の環境調査など、多少の危険が付き纏う仕事は竜人の専売特許だと言えるだろうな」
成る程・・・あくまでも人間の代わりでありながら、その屈強な体を生かした仕事が彼らの得意分野なのだろう。

「おっと、そろそろ時間か・・・今日の講義はここまでとしよう。何か質問がある場合は俺の部屋までくるように」
やがてそう言いながら講義の終了時間ピッタリに部屋から出て行ったラズ教授の姿を見送ると、俺は朝早くから講義漬けだった長い1日がようやく終わったことに大きく背を伸ばしていた。
「アレス、今日はこれからどうするんだ?」
「んー・・・約束通りお前と娼館に行こうかと思ってたけど、先にプラムを医者に連れて行ってみるよ」
「私もそれが良いと思うわ。バートン教授の医院なら、大学の裏手にあるわよ」
そう言うと、おもむろに席から立ち上がったジェーヌがロブを引き摺るようにして一足先に部屋の外へと歩き出す。
「わっ・・・ちょ、ちょっと・・・ジェーヌ?」
ああ・・・しまった・・・
幾ら許可してくれてるとは言っても、流石に贈り物まであげてプロポーズした次の日にいきなりロブが彼女を置いて娼館に行ったんじゃ流石にジェーヌだって気分悪いよな・・・
「ああ、ありがとうジェーヌ・・・」
「おっ、おい、アレス・・・ひっ・・・」
だが助けを求めるような眼差しをこちらに向けるロブがジェーヌの太い蛇体でグルンと巻き上げられたまま講義室の外へ消えてしまうと、俺は彼を気の毒に思いながらもプラムを迎えに行こうと腰を上げていた。

「ああ・・・ありゃ一晩中説教コースだな・・・」
やがて部屋を出てみると、俺は遠く窓の外を寮の方向へ向かって歩いていくジェーヌと体中を長い尻尾でグルグル巻きにされてもがいている憐れなロブの姿を認めて少しばかり心を痛めていた。
まあ、薄情なようだが今はロブの心配よりプラムに会いに行く方が先決だろう。
そしてプラムが講義を受けていた部屋へ行ってみると、既に講義が終わった学生達は全員部屋からいなくなっているというのに独りポツンと奥の席で眠りこけているらしい彼女の姿が目に飛び込んできた。
「おい・・・おいっ、プラム!また寝てるのか?」
「ん・・・あ・・・アレス・・・どうしたの・・・?」
「どうしたのじゃないだろ。もう5分も前に講義終わってるぞ」
そう言われて、プラムも自分以外の学生達が何時の間にか部屋から消えていたことに初めて気が付いたらしい。
「あ・・・あれ・・・?私・・・また寝ちゃってたの・・・?」
「プラム・・・やっぱりここ最近何か変だぞ。講義の度に眠りこけてさ・・・何処か具合でも悪いのか?」
「別に何処も具合は悪くないんだけど・・・私・・・どうして眠っちゃうのかしら・・・」

どうやら、肝心のプラム自身にも頻繁な居眠りの原因には心当たりが無いらしい。
「なあ・・・あんまり気乗りはしないかも知れないけど、1度医者に診て貰った方が良いんじゃないか?」
「医者なんて・・・別に大丈夫よ。だって、体は何ともないんだもの」
やはり、居眠りが多いというだけで医者に連れて行こうというのは無理がある話なのだろう。
予想していたとは言えこうもはっきりと医者へ行くことに難色を示されては、俺としても無理強いしたくはない。
したくはないが・・・今回だけは流石に放置する訳にはいかないだろう。
「なあプラム・・・頼むよ・・・俺は心配なんだよ、プラムのことがさ・・・」
「アレス・・・」
「本当に何でもなければそれで良いんだからさ・・・一緒に医者へ行こうよ」
その何処か弱々しい俺の声を聞いて、プラムは明らかな動揺をその顔に浮かべていた。
きっと彼女は自分の体よりも、俺に心配を掛けているという現状を不味いと思ったのだろう。
「そ、そうね・・・アレスがそう言うのなら・・・」
そしてそう言うなり席を立つと、プラムがとぼとぼと少しばかり落ち込んだ様子で先を歩いていった。

「医者って・・・バートン教授のところへ行くの?」
「ああ・・・場所は分かるのか?」
「もちろん知ってるわ。昔から、食べ過ぎでお腹を壊した時は何時も彼にお世話になってたから」
ドラゴンも食べ過ぎでお腹を壊すのか・・・
毎日毎日牛や豚を何頭も平らげる彼女にとって一体どのレベルからが食べ過ぎなのかは想像も付かないのだが、自力で動けなくなる程大量に食べてうんうん唸っている彼女の姿は何故かすんなりとイメージ出来てしまう。
そしてプラムとともに外へ出ると、俺達は奇妙な気まずさのせいかお互いに無言のままバートン教授が営んでいるという大学の裏手にある医院へと向かったのだった。

「ほら、あそこよ」
ずっと俺との会話の切っ掛けを探していたのか、10分程も続いた沈黙がそんなプラムの一言でようやく破られる。
見ればまだ100メートル程も離れた向こうの道沿いに大きな医院が建っていて、そこにバートン医院という文字が3つの言語で掲げられていた。
「診療は16時半から23時までか・・・バートン教授は5限目の講義が無いんだな」
「でも、毎日診療してくれるのよ。本当に凄いお医者さんなんだから」
ということは、大学が休みである土日の日中を除いてバートン教授は常に大学かこの医院に詰めているのだろう。
流石に人間には無理のある生活のようにも思えるが、死病を克服してドラゴンとなった彼には寧ろそのくらいの方が張りのある生き方なのかも知れなかった。
それに・・・かつてお世話になったという経緯もあってプラムも心の中ではバートン教授を尊敬しているのだろう。

「もうすぐ開くわね・・・中で待ちましょう?」
「あ、ああ・・・」
さっきまで医者に行くのには難色を示していたプラムも、今は早く俺の心配を晴らしたくて仕方が無いのだろう。
そして開けっ放しになっているらしい広い入口から待合室の中へ入ると、今日はまだ他に患者は来ていないのかそこに無人のホールが広がっていた。
だがしばらくして奥からバートン教授とは違う少しばかり小柄な黒いドラゴンが姿を現すと、プラムの姿を見るなり途端に悪戯っぽい笑みを浮かべて話し掛けてくる。
「何だ、誰かと思えばプラムではないか。また食い過ぎで腹でも下したのか?」
「あらレグノ、お久し振りね。今日はちょっとその・・・この彼が心配だって言うから・・・」
レグノ・・・?
ということは、彼がバートン教授を竜に転生させたという例の黒竜の一族のなのだろう。

「何だ、大学へ入るなり早速人間の伴侶を見つけたのか?」
そう言うと、レグノがまるで耳打ちをするように小声で俺に話し掛けてくる。
「こいつには沢山飯を食わせておいた方が良いぞ?余り腹を空かせておくと、取って食われるかも知れぬからな」
「ちょっとレグノ!聞こえてるわよ!」
はは・・・どうやらプラムの食いしん坊振りは、割とこの島では周知の事実らしい。
「それで、バートンならもうすぐ来るが・・・今日はどうかしたのか?」
「ああ、その・・・プラムがどういうわけか事ある毎に居眠りするんだよ。大学の講義も寝てばっかりでさ」
「私も、理由が良く分からないのよね・・・夜はちゃんと寝てるはずなのに・・・」
だが急に真面目な顔で病状を訊ねてきたレグノは、それを聞くと何処かキョトンとした表情を浮かべていた。

「プラム・・・指輪をしているようだが、その人間と婚約しておるのか?」
「え?う、うん・・・昨日正式にプロポーズされたの。それがどうかした?」
そのプラムの返答に、今度はレグノが俺の方に顔を振り向ける。
「成る程・・・だが、交尾はもう済ませたのだろう?」
「え?あ、ああ・・・先週の内に・・・」
「それなら、講義中にプラムが居眠りするようになったのは今週くらいからか?」
プラムの居眠りはドラゴン特有の症状か何かなのか、蛇の道は蛇とばかりにレグノがそんな質問を投げ掛けてくる。
「正確には分からないけど、月曜日に初めて一緒に講義を受けた時にはもう居眠りしてたよ」
「ふむ・・・典型的な"怠眠症"だな・・・別に重い病気というわけではないが、治せるかどうかはお主次第だぞ」
「ど、どういうことなんだ?」

レグノによると、雌竜は番いを見つけて交尾をした後に狩りをしなくても十分な食料が手に入る状況が続くと、狩りは夫に任せて自分は子作りする為に適した体質になるのだという。
つまり発情状態が長続きするようになり、交尾や産卵の為にエネルギー消費が抑えられるようになるわけだ。
プラムの場合は狩りなどしなくても大学の食堂で好きなだけ食事が出来る為、それと同じような体質に変わっているということなのだろう。
だがその際に交尾や自慰による性欲の発散がなされないと、欲求不満から一種の鬱状態になってしまうのだという。
それが強烈な眠気という形で表に現れるのが、彼の言う怠眠症というものらしかった。
「この島では狩りなどしなくても食料は好きなだけ手に入るからな・・・怠眠症に罹る雌竜は珍しくないのだ」
「で、でもつまりそれって・・・プラムと交尾しないと治らないっていうことかい?」
「それが夫の務めというものであろうが。プラムは体面を気にしてか、頑なに自慰などせぬからな・・・」
まあ、竜王様の娘という立場がある以上それが重荷とは言いながらも彼女は彼女なりに気を遣っているのだろう。
「で、でも、プラムは来週から新しく出来るあの風俗店で働くんだろ?」
「何?あの店で働くつもりなのか?」
「え、ええ・・・そのつもりだけど・・・」
やがてそのプラムの返答にレグノが驚きの表情を浮かべた直後、大学での仕事を終えたらしいバートン教授が丁度医院に戻ってきた。

「やあレグノ、患者かい?ああ、プラムじゃないか。久し振りだね。また食べ過ぎた・・・わけじゃなさそうだね」
「バートン・・・プラムが、あの"雌竜天国"で働くつもりらしいぞ」
「ちょっとレグノったら、本題はそこじゃないでしょ!」
3匹のドラゴン達によるそんなコントのような遣り取りを傍で見つめながら、俺はプラムが重い病気ではなかったことに安堵しながらも複雑な心情を胸の内に抱えていた。
「まあ、良いじゃないか。堅物のプラムにしては少し意外だったけど・・・それで、もう診察はしたのかい?」
「どうやら交尾不足で怠眠症に罹ったらしい。例の店で働けば症状は改善するとは思うが・・・」
「そうか・・・そう言えば君は、今日の講義に出ていたね。君がプラムの伴侶ってことで良いのかな?」
多少質問をしたとは言えよくあの大勢の学生達の中から俺の存在を覚えていたものだと素直に感心しながら、俺はそのバートン教授の問いにゆっくりと頷いていた。

「レグノの言う通り風俗店で働くようになれば怠眠症は改善すると思うけど、君はそれじゃあ面白くないだろう?」
まあ、確かに自分とのセックスレスが原因で鬱になっている妻が風俗店でその鬱憤を晴らしているというのは俺とプラムとの関係を考慮しても余り喜べるような状況でないことは間違い無いだろう。
「え、ええ・・・」
「それなら、3日に1度で良いから彼女と交尾してあげてやってくれ。そうすればすぐにでも症状は良くなるよ」
「わ、分かりました・・・」
そして力無くそう返事をすると、俺は彼らに見送られながらプラムとともに医院を後にしたのだった。

「アレス・・・何か・・・ごめんね・・・」
「え・・・?」
やがて寮へと帰る途中、俺はそれまでずっと押し黙っていたプラムが突然何の前触れも無く発したその言葉に思わず驚きの声を上げていた。
「その・・・心配掛けて・・・」
普段は明るく振る舞っているプラムの尻尾が今日は力無く地面を引き摺っているところを見るに、彼女は俺に心配を掛けてしまったことを本当に心の底から悔やんでいるのだろう。
「いや・・・そんなに落ち込むよ。俺は寧ろ、悪い病気とかじゃなくて本当に良かったと思ってるよ」
そう言いながら硬い鱗に覆われたプラムの肩をそっと撫でてやると、彼女が少しばかり安心したように長い息を吐き出しながらその顔を緩ませる。

「でも・・・プラムと交尾するなら、やっぱり俺も少しドラゴンとの交尾に慣れないとなぁ・・・」
「アレスは・・・やっぱり私と交尾するのはその・・・不安なの?」
「俺、今まで人間の彼女とかも作ったことが無くてさ・・・プラムをどう扱って良いか、良く分からないんだよ」
その言葉の意味を脳裏に反芻しているのか、プラムがじっと前を見つめたままただひたすらに歩き続ける。
「プラムを大切にしたいって思う余りに、交尾とか、そういうのからきっと意識が遠ざかってたんだと思うんだ」
「じゃあその・・・練習・・・すれば・・・大丈夫そうなの?」
「実は娼館に行っても良いかって訊いたのは、その為なんだよ。あそこなら、不純な感情抜きで交尾出来るしさ」
だがそれを聞くと、プラムがただでさえ暗かったその表情をますます曇らせてしまっていた。
あれはきっと、知らぬ間に俺にそんな気を遣わせてしまっていたという自分自身に対しての叱責の表情なのだろう。

「私って、何だかアレスには迷惑掛けてばっかりね・・・」
「そんなことないよ。俺・・・この島でプラムに逢えて、本当に良かったと思ってるんだ」
俺がそう言うと、プラムがずっと地面に落としていた視線を静かに上げる。
「この島での生活は楽しいけど、俺はプラムがいなかったらきっと凄く孤独だったと思う」
「でも・・・アレスにはロブがいるでしょ?」
「まあ確かにあいつは親友だけどさ・・・俺とプラムみたいに、お互いに支え合うような関係ではないだろ?」
それを聞いたプラムが、無言のままほんの少し驚いたように大きく目を見開いていた。
きっとプラムは・・・友達と恋仲との区別が曖昧なのだろう。
それはもちろんプラム自身もこれまで異性の存在をそういう目で見たことが無かったからなのかも知れないが、寮の床をブチ抜くなんていうハプニングを経て初めて出会った俺にいきなり交尾を迫ったことからも明らかだ。

「わ、私もね・・・アレスのお陰で、今までとは比べ物にならないくらい毎日が楽しくなったわ」
やがて道の向こうに寮が見えてくると、それまで何か考え事をしていたらしいプラムが弱々しい声でそう告白する。
「だから私があの風俗店で働く気になったのも、本当はアレスの為だったの」
「え・・・?」
「ほら・・・前にアレスと交尾した時・・・私、夢中になり過ぎてアレスを吹っ飛ばしちゃったでしょ?」
ああ・・・確かに、激しく跳ね回る彼女に振り回されて派手に投げ出されたんだっけ。
まあそのお陰で、絶頂を迎えた彼女の膣に肉棒を締め潰されなくて済んだわけだけど・・・
「あの風俗店なら相手は人間限定だっていうから、その・・・アレスとの交尾の練習になるかと思ったの・・・」
「はは・・・何だ、俺と同じことを考えてたのかよ」
「うん・・・だからさっきのアレスの言葉を聞いて、私何だか嬉しくなっちゃって・・・」
さっきの言葉というのは、俺がプラムとの交尾の練習の為に娼館へ行きたいと言ったことだろう。

「それなら良かったよ。俺達って、何だかお互い擦れ違ってるようで意外と心は繋がってるんだな」
「そうね。それじゃあ体も繋がれるように、お互いしっかり練習しましょ?」
だがそこまで言うと、一時は元の明るさを取り戻したかに思えたプラムが途端に声を潜めていた。
「そ、それでねアレス・・・ちょっと言い難いんだけど、私これからあの風俗店でその・・・研修があるの」
「研修?」
その意味はもちろん分かるのだが、雌竜であるプラムの口から言われると何とも不思議な言葉に聞こえてしまう。
「ほら、いきなり人間を相手にして怪我とかさせちゃったりするといけないから、その・・・事前に色々と、ね?」
「ああ、成る程・・・結構しっかりしてるんだな。それじゃあ、俺も娼館に行ってみるよ。ロブには悪いけどさ」
「それなら、私が娼館まで送ってあげるわ」
そう言いながら俺を背に乗せようと体を低めたプラムの姿に、俺は何だか奇妙な幸福感を感じてしまっていた。
お互いに誤解を解いて理解が進んだ喜びというのか、プラムとの距離がまた一歩縮んだような気がしたのだ。
「じゃあ、お言葉に甘えさせて貰うよ」
そしてそう言いながら大きな赤鱗に覆われたプラムの背中に攀じ登ると、俺は晴れやかな面持ちで夕暮れの町を見下ろすしばしの遊覧飛行を楽しんだのだった。

「ここで大丈夫?」
やがて夜を迎えて妖艶なサキュバス達による客引きにも活気が出始めた娼館の前に降り立つと、プラムが静かに体を低めながら遠慮がちにそう訊いてくる。
「ああ、大丈夫だよ。ありがとう」
そして風俗店で働く前の"研修"を受ける為に再び薄暗い空へと飛び立っていったプラムを見送ると、俺は逸る気持ちを抑えながらサキュバス達の間を縫うようにして娼館の中へと足を踏み入れていた。
更に入口から見えてきた指名する相手の性別を選ぶ雌雄のゲートを確認すると、以前ここへ来た時もそうしたように雌のゲートをゆっくりと潜っていく。
だがその奥に広がっていた無数のモニターが設置された広間に辿り着くと、繁忙時間故か以前にも増して大勢の客でごった返している様子に俺はまるで祭りの会場にでも足を踏み入れたかのような微かな興奮を覚えてしまっていた。
とは言え、流石にこの群衆に紛れてモニターを覗いてみたところで目当てのお相手を見つけるのは至難の技だろう。
俺はそう思ってモニターに噛り付いている客達の群れに揉みくちゃにされながらも何とか広場の奥にある受付用のカウンターへ辿り着くと、案内係と思われる真紅の衣装を身に纏ったサキュバスに話し掛けていた。

「あの・・・俺、初めてなんですけど・・・」
「あらいらっしゃい。ご新規さんね。指名にする?それとも登録の方が良いかしら?」
「指名は分かるけど・・・登録って何ですか?」
俺がそう訊くと、彼女がその細い指先で広場の方を指差しながら説明してくれる。
「登録っていうのは、自分を指名してくれるお客さんを待つことなの」
つまり、あのモニターに映っているのがその"登録中"の連中なのだろう。
「それまでは待合室で待っている中から気に入った相手と過ごしてて構わないわ」
「それって、お金は掛からないんですか?」
「登録の料金は無料だし、逆に指名が入れば指名料金の一部を受け取れるのよ」
成る程・・・つまり、これも一種の仕事という扱いなのだろう。

「それじゃあ、指名は?」
「指名は、登録中のお客さんの中から銅貨5枚で気に入った相手を選んで個室で過ごしてもらう制度よ」
「それじゃあ、指名にしたいんですけど・・・」
幾ら無料だとは言え、流石にモニター越しに大勢の客に監視されながらではゆっくり交尾の練習も出来ないだろう。
「良いわ。個室の利用時間の上限は、指名してから12時間よ。必要なら、相手の種族とかも指定出来るわ」
「そ、それじゃあ・・・ドラゴンなんて、います?」
「この窓口から指名出来るのは雌のドラゴンになるけど・・・今の時間だと1匹だけ登録中のお客さんがいるわね」
1匹だけか・・・
「その雌竜って、何処かのモニターに映ってますか?」
「"B2-6"のモニターに映ってるのがそうよ。あら・・・待合中の相手も雄のドラゴンみたいね」

ということは、ドラゴン同士で客待ちをしているということか・・・
俺は一旦受付のカウンターを離れると、その雌竜が映っているという"B2-6"のモニターを探し出していた。
そして沸き立つ群衆の間を縫ってモニターの前に顔を突き出すと、そこに随分と体格差のある雌雄のドラゴンが映し出されている。
というか・・・雄竜の方はこれ・・・マローンか?
以前ここで雌グリフォンのフィンとまぐわっていたのと同じように、茶色の鱗を纏った彼がそれより2回り程も小柄な紫鱗を纏う雌竜に仰向けに押し倒されていた。
一見すると仔竜か何かと見紛う程のその大きさの違いに俺は一瞬マローンが雌竜をリードしてやっているのかと思ったのだが、小さな雌竜が軽く腰を振るっただけでマローンが甘美な苦悶に顔を歪めながら身を捩っている。
どうやら、彼女はその見掛けによらず相当なテクニシャンであるらしい。

だが取り敢えず、プラムとの交尾の練習台としては問題無さそうだ。
俺はそう思って受付カウンターに取って返すと、先程の雌竜の指名をサキュバスに伝えていた。
「良いわ。カウンターの奥の階段を下りて、"B2-S4"の部屋で待ってて頂戴。お相手の雌竜はすぐに来ると思うわ」
そしてそう言った彼女にカウンター横のゲートから奥に通されると、俺は言われた通りに階段を下りて広い通路沿いに並ぶ大きな部屋の中から"B2-S4"と書かれた扉を見つけ出していた。
その扉の外側にデジタル式のタイマーが取り付けられていて、今は12:00を指し示している。
恐らく扉を開けるとタイマーが作動して、個室の利用時間である12時間をカウントしてくれるのだろう。
そして緊張を静めるように何度か深呼吸してからそっと扉を引き開けてみると、ピッという小さな電子音とともにタイマーがカウントダウンを開始したのだった。

「へえ・・・中はこうなってるのか・・・」
やがて部屋の中へ入ってみると、俺はそこに広がっていた光景に思わず驚きの表情を浮かべてしまっていた。
天井の高さは8メートル程、やや縦長の長方形型の部屋の中央に1辺4メートル余りの広大なベッドが置かれていて、奥の方には広いシャワールームが設置されているらしい。
壁には残り時間が分かるように大きな電光掲示板式のタイマーが設置されていて、反対側の壁には12個の小さなランプが真っ直ぐに並んでいる。
端のランプが1個消えていることから察するに、あれは恐らくタイマーの文字を読めない客用に点灯している個数で個室を利用出来る残り時間を視覚的に伝えるランプなのだろう。

そしてそんなことを考えている内に壁に取り付けられていた俺が入って来たのとは別の大きな扉が開くと、そこから俺が指名した紫色の鱗を纏った小柄な雌のドラゴンがひょっこりと姿を現していた。
体高は・・・約1メートルくらいだろうか?
モニター越しに見た限りでマローンとの間にかなりの体格差があることは見て取れたものの、いざ実際にこうしてその姿を目の当たりにするとその想像以上の小ささに思わず面食らってしまう。
「おや、人間が妾を指名とは・・・珍しいこともあるものじゃのぅ・・・?」
だが一見して仔竜のように見えたその小さな雌竜が放ったしわがれた老婆のような声に、俺は本当に彼女の声だったのかを思わず疑ってしまっていた。
「あ、あんた・・・仔竜じゃないのか?」
「何、仔竜じゃと?これでも800年近くは生きておる妾に、随分な物言いではないか小僧」
は・・・800年・・・
俺には何処からどう見ても子供にしか見えないというのに、どうやら彼女は完全な老竜らしかった。

「まあ良いわ。お主・・・名は何と言うのじゃ?」
「俺は・・・アレスだ」
「アレスとな・・・?ふむ・・・勇ましい名の割にはひ弱そうな優男が出てきたものじゃのぅ・・・」
勇ましい名前か・・・そう言えば以前フィンに名前を訊かれた時も、同じようなことを言ってたっけ。
「妾はジェロムじゃ。まあ、ここで出会ったのも何かの縁じゃな・・・ほれ、さっさと始めようではないか」
ジェロムはそう言うと、その小さな手で広いベッドを指差していた。
確かに、時間制限があるのだから今はここへ来た本来の目的を果たす方が先だろう。
そしてそんなジェロムの言葉に頷くと、俺は取り敢えず服を脱いで広大なベッドの上へと攀じ登っていた。
ドン!
「わっ!」
だが次の瞬間、それまで俺の様子を静観していたジェロムが突然物凄い勢いで俺に向かって飛び掛かってきた。
まるで獲物に向かって襲い掛かってくるかのようなその容赦の無い体当たりを食らって、吹き飛んだ衝撃もそのままに仰向けにベッドの上へと押し倒されてしまう。

「ほぅれ・・・捕まえたぞ小僧・・・」
やがて抵抗を封じるように短いながらも鋭く尖った手の指を俺の首筋に押し付けると、彼女がまだ小さく萎んでいる俺のペニスにその妖しい金色に輝く竜眼を向けていた。
「う・・・あぅ・・・」
お、重い・・・
幾ら竜としては体が小さいとは言っても、みっちりと鍛え上げられた筋肉と堅牢な鱗を纏ったジェロムはブヨブヨとした脂肪をたっぷり付けたプラムと比べても遜色が無い程の凄まじい体重を誇っていた。
そんな彼女に片手で首を押さえ付けられたまま更に膝で両足をも踏み付けられると、それだけで完全に全身の身動きを封じられてしまう。
一応両手はまだ自由に動くものの、まるで刃のような鋭い爪先を急所に宛がわれてしまってはたとえジェロムに殺意が無いとは言っても下手な抵抗をする気にはなれなかった。
「ククク・・・さてと・・・よりにもよって妾を指名した身の程知らずを、どうしてくれようかのぅ・・・?」
そう言いながら、ジェロムがもう一方の手で裸となった俺の体をいやらしく弄っていく。
ツツツ・・・
「く・・・ふぁっ・・・」
そして切ないこそばゆさとともにゆっくりと脇腹を這い上がってきた指先が胸の上に芽を出していた小さな赤い蕾を捉えると、俺は乳首を捻り上げられた鋭い快感に思わず背筋を仰け反らせたのだった。

「くあっ・・・!」
ドラゴンだとはとても思えない、まるで熟達した女性のようなたおやかな指遣いが、敏感な乳首をゆるやかに撫で回しては時折力強く摘み上げていく。
「ほれほれ小僧、されるがままなのかえ?お主も雄ならば、少しは抗ったらどうなのじゃ?」
口ではそう言いながらも、俺の抵抗の意思を感じ取ったらしいジェロムの指先がまるで獲物を黙らせるようにズブリと鈍い音を立てて首筋に食い込んでいく。
クリッ・・・クリクリ・・・
「ひぐっ・・・」
ただ片手で乳首を弄ばれているだけだというのに、俺は歳経たその老竜ならではの有無を言わせぬ迫力に腕を上げる力さえをも奪い取られていくような気がした。

「何じゃ、張り合いの無い雄じゃのぅ・・・そんな体たらくで、よくも妾を指名したものじゃなぁ・・・?」
そして相変わらず無様に悶えるだけの俺の耳元に、ジェロムが熱い吐息を吹き掛けてくる。
「このまま妾にされるがままが良いというのならそれでも構わぬがのぅ・・・ククク・・・後悔するぞえ・・・?」
「うっ・・・ちょ・・・ちょっと・・・待ってくれ」
チクチクと首筋に突き立てられる危険な穂先に怯えながらも、俺はほんの少し乳首を責めるジェロムの手が止まった隙を突いてようやく意味のある声を上げていた。
「俺はただ、その・・・ドラゴンとの交尾の練習を・・・したかったんだ・・・」
「何?交尾の練習じゃと?」
全く想像もしていなかったというように、ジェロムがそんな俺の言葉に思った以上に大きな反応を示す。
「つまりお主は、雌竜の伴侶でもいると言うのかえ?」
「あ、ああ・・・」
「ほぅ・・・それは意外じゃな・・・お主のような優男がのぅ・・・成る程成る程・・・」
だが何かを納得しているかのようなそのジェロムの様子にホッと胸を撫で下ろそうと思った次の瞬間、彼女がそれまで俺の首筋を押さえていた手でもう一方の乳首を摘み上げていた。

キュッ・・・
「うあっ!」
突如として2箇所へ同時に味わわされたその鋭くもこそばゆい刺激に、またしてもビクンと腰を浮かせてしまう。
「身の程知らずが妾を指名した理由が、よもや他の雌竜の為の練習台だとは・・・許せぬ小僧じゃなぁ・・・」
だがジェロムはそんな俺の様子にもお構い無しに2本の指先で赤い蕾をきつく摘み上げると、指の間から僅かに露出したその先端にゆっくりと舌先を這わせていた。
チロッ・・・レロレロ・・・ペロッ・・・
「はぅっ!」
その瞬間指先で捏ね繰り回されるのとはまるで次元の違う強烈な快感が背筋を駆け上がり、まるで雷にでも打たれたかのような衝撃が両腕を激しく跳ね上げていた。
確かにただでさえ張り合いの無い人間が指名してきたというのに、その理由がこともあろうに他の雌竜の当て馬だというのだからジェロムにとっては面白くない話なのだろう。
「ほれほれ・・・どうじゃ、効くじゃろう?妾の火所で搾り取る前に、じっくり嬲ってくれるわ」
レロレロ・・・チロロッ・・・
「あくっ・・・は・・・ぁ・・・」
ガシッ
そしてとうとうじっと我慢していることが出来ずに思わず両手でジェロムの腕を掴むと、彼女がまるでそれを待っていたかのように俺の腕を掴み返してベッドの上に大の字に押し付けていた。

ドスッ!
「は・・・ぁ・・・」
「クククク・・・ようやく抗ったのぅ・・・小僧・・・」
だがそう言った彼女の顔に抵抗した雄を捻じ伏せる嗜虐的な喜びの表情が貼り付けられているのを見て取ると、俺は顔にこそ出さなかったものの思わず心の中でしまったと声を上げていた。
そして今度こそ完全に抵抗を封じられた俺の無防備な胸元に、ゆらゆらとこれ見よがしに突き出されたジェロムの舌が迫ってくる。
「ひっ・・・」
先程までは乳首の先端を少し擽られただけで激しく悶えさせられたというのに、あんな舌で思う存分弄ばれたら一体どうなってしまうのだろうか・・・
そんな破滅的な期待感に、彼女が凝視している前だというのにゴクリと大きな息を呑んでしまう。

ペロッ・・・
「くふっ・・・!」
決して急がず、まるで獲物を追い詰めたままその心が折れるのをじっと待つ残酷な捕食者のように、淫靡な舌先が付かず離れずの距離を保ちながら遠慮がちに乳首の周りを飛び回っていく。
「ほぅれ・・・生殺しじゃ・・・」
ツツッ・・・チロッ・・・ペロロッ・・・
「あぐっ・・・く・・・ふぁっ・・・」
その切ないこそばゆさと執拗な焦らしに、ジェロムが望んだ通りにグネグネと体を捩って悶えさせられてしまう。
「クク・・・小僧・・・そんなに妾に舐めて貰いたいのなら、はっきりと声に出して懇願してみたらどうなのじゃ?」
そう言いながら、性悪が舌先がなおも羽先のように優しく両の乳首を擽り回していく。
だが他の雌竜の伴侶がいるといった手前、それを懇願するというのは正に俺の身も心もジェロムに委ねるという敗北宣言に等しかった。

交尾の練習をするという名目でプラムに許可を取ってまで娼館に足を運んだというのに、ここでジェロムのなすがままに篭絡させられてしまうのは彼女を裏切るということに他ならない。
それにもちろん、ジェロムもそんなことは百も承知だろう。
その上で、彼女は他の雌竜との交尾の練習台にされた屈辱を晴らすつもりなのだ。
「そ・・・それだけ・・・は・・・」
「ククク・・・ならば、お主の心が悲鳴を上げるまでこうしてじわじわと舐ってやっても良いのじゃぞ?」
ミシ・・・ギシシッ・・・
直後の俺の反発を予想してか、俺の両手足を拘束したジェロムの四肢に更に凶悪な体重が預けられていく。
「く・・・うあああっ・・・!」
だが俺に体重を掛けようとジェロムが舌を離したその瞬間、俺は足首を踏み付けられたまま渾身の力を込めて膝を曲げるとそのまま僅かにバランスを崩したジェロムを投げ飛ばすようにして思い切りひっくり返したのだった。

ドサッ・・・
「ぬぐっ・・・お、おのれ小僧!」
そして今度はジェロムの方を仰向けにベッドの上に組み敷くと、その四肢をしっかりと両手足で押さえ付けてやる。
「はっ・・・はぁ・・・はぁ・・・」
だが何とかジェロムの舌技から逃れたのは良いものの、俺は執拗に味わわされた快感にしばらく息を荒げていた。
ギシッ・・・ミシミシッ・・・
「おっと・・・」
そんな俺の様子に、ジェロムが拘束を解こうと必死に体を捩る。
だが如何に力には差があっても、流石に体格差の無い相手を力任せに引っ繰り返すのは彼女にも難しいらしかった。
「うぬぬ・・・不覚じゃ・・・こんな小僧を相手に・・・妾も老いたのぅ・・・」
そしてしばらく空しい抵抗を続けた末にようやく逆転は無理だと諦めたのか、やがてジェロムがフゥと長い息を吐きながら体の力を抜いていた。

「ほれ、煮るなり焼くなりお主の好きにせぃ。他の雌竜との交尾の練習台とは不本意じゃが、負けは負けじゃ」
「何か・・・随分と潔いんだな・・・」
「妾はこれでも、雄とのまぐわいで後れを取ったことは無かったのでのぅ・・・本音は悔しゅうて仕方が無いわ」
だがそうは言うものの、ジェロムは本当に観念したのか短く鼻息を吐いたまま俺から顔を背けていた。
「じゃ、じゃあさ・・・ジェロムが上でも良いから、ちゃんと練習させてくれないか?」
「フン・・・それは別に構わぬが・・・わざわざ練習などせんでも、さっさとそ奴と体を重ねれば良いではないか」
「そんなに単純でもないんだよ・・・俺と・・・プラムとの関係はさ・・・」
それを聞くと、やはりプラムという名前にジェロムがピクリと反応を示す。
「何・・・?お主、あの竜王様の娘婿なのかえ?」
「え?あ、ああ・・・そう・・・なるのかな?」
これまで余り意識はしていなかったのだが、そういう風に表現されると何だか自分がとんでもない立場にいるような気がしてしまう。
プラムと結婚するということは、その高齢故か何処か尊大な印象を受けるジェロムやフィンにさえ畏れ敬われている竜王様の身内になるということに他ならないのだ。

「成る程・・・そういうことなら、妾も本腰を入れねば竜王様に礼を失するというものじゃな・・・」
やがてもそもそと俺の下から這い出たジェロムが、静かにベッドから床に降りて俺の方へ背を向ける。
更にはクイッと短めの尻尾を天井に向かって振り上げると、彼女が遠慮がちにこちらを振り向いていた。
「この体勢は妾も初めて故に些か不慣れじゃが・・・雌竜が相手ではお主もこちらの方がやりやすかろう?」
やはり、基本的に体格差のある人間と雌竜の円満な交尾には雄が後ろから突くのがセオリーなのだろうか?
「じゃ、じゃあ・・・お言葉に甘えて・・・」
そして何処か煽情的な眼差しでこちらを見つめているジェロムにそっと近付くと、俺は彼女の尻尾を抱き抱えるようにしながらヌラヌラと潤っている小さな竜膣へと視線を向けていた。

クチュ・・・
小柄な体格故かプラムのそれと比べると随分と小さく見える赤い花弁が、まるでそこへ近付けられる雄を誘うようにヒクヒクと戦慄いている。
「ほれ、はよう入れぬか」
だがその小振りな見た目以上に獰猛な脈動を放っている雌穴に目を奪われていると、既に辛抱堪らなくなったのか挿入を急かすジェロムの声が耳へと突き刺さる。
そしてプラム以外では初めて味わう雌の感触に本能的な期待を抱きながらペニスを振り上げてしまうと、俺は静かに彼女の膣へと狙いを定めてゆっくりと雄槍を突き出したのだった。

ジュ・・・ズブブ・・・
「くあっ・・・あああっ・・・!」
その瞬間、まるで燃え盛る炎のような凄まじい高熱が一気に根元まで突き入れられたペニスを焼き焦がす。
余りの熱さに蕩けて無くなってしまうのではないかという危機感が芽生え、俺は思わず上ずった声を上げながらたった今入れたばかりの肉棒を引き抜こうと腰を引いていた。
ギュッ・・・
「あぐぅっ!」
だがそんな愚かな雄を逃がすまいと、屈強な筋肉を纏った膣口がまるでペニスの根元へ噛み付くかのような強烈な圧迫感を注ぎ込んでくる。
「ジェ・・・ジェロム・・・待って・・・」
そして押すことも引くことも出来なくなった肉棒に更に煮え滾った愛液が絡み始めると、俺はジェロムの尻尾を力一杯抱き締めたまま身も世も無い悲鳴を迸らせたのだった。

キュン・・・キュウッ・・・
「はぅあぁっ・・・!」
ジェロム自身は全く動いていないというのに、断続的に躍動する無数の肉襞がこれでもかとばかりにペニスを吸い上げてはリズミカルに締め付けてくる。
「ジェ、ジェロ・・・ム・・・」
「クククク・・・何じゃ小僧?この程度で音を上げておるようでは、巨竜との営みなど無謀の極みじゃぞ」
そう言いながら、ジェロムが情けない雄を嘲るように軽く左右に腰を振る。
ジュブッ、グジュブッ・・・
「ひああぁっ!」
ビュググッ・・・ビュル・・・ビュク・・・
たったそれだけの動きで、俺は敢え無くジェロムの膣に大量の精を搾り取られてしまっていた。
キュッ・・・キュキュゥ・・・
「は・・・あぁ・・・」
更には射精中のペニスを優しく揉み拉くように扱き上げられ、力の抜けた膝がガクガクと笑ってしまう。

「おっと、まだ逃がしはせぬぞ小僧。戯れとは言え、妾に恥を掻かせてくれた礼はしかとさせてもらうからのぅ?」
そしてそう言いながらジェロムが数歩後退すると、俺はドスンと彼女の尻でベッドに押し付けられてしまっていた。
ズシッ・・・
「あぅ・・・お・・・もい・・・」
「ほぅれ・・・これでもう逃げられまいて・・・では続きじゃ」
グチュ・・・ゴキュッ・・・キュウゥッ・・・
「うあっ・・・うああぁっ・・・!」
その重々しい体重を浴びせられたことでペニスが完全にジェロムの竜膣の中へと埋没し、獰猛な襞の群れが捧げられた獲物に嬉々として食らい付いてくる。
煮え滾った愛液に漬け込まれた肉棒が容赦無くシェイクされる度に脳が沸騰するかのような快感が弾け飛び、俺は彼女の尻尾でベッドに押し付けられたまま8の字にくねらせられる熟練の腰遣いに喜びの悲鳴を迸らせていた。

「ほれほれ、雌竜を相手に成すがままで良いのかえ?じっくりと嬲られながら、干からびるまで搾り尽くされるぞよ」
グリグリ・・・ギュグッ・・・グッチュ・・・
「か・・・はっ・・・うああっ・・・!」
両手足自体は別に何の拘束も受けてはいないというのに、少しでも手足に力を入れようとすると途端に逞しく鍛え抜かれたジェロムの尻が艶かしく左右に揺れながら俺の腰を押し潰すのだ。
「クク・・・他愛も無い雄じゃのぅ・・・ほれ、もう1度果てぃ!」
ゴギュッ、グジュッ、ギュブギュブギュブッ・・・!
「あああぁぁっ・・・!」
ゆったりした腰の動きとは対照的にペニスに纏わり付いた襞の群れがまるで嵐のように荒れ狂い、俺はバタバタと手足を暴れさせながらまたしても自身の意思とは関係無く屈服の証を吐き出させられていた。

ビュビュッ・・・ビュルルル・・・
「おおぅ・・・良いぞ小僧・・・なかなかにそそる悶え振りじゃて・・・クククク・・・」
ギュッ・・・ギュギュッ・・・
「くあぁっ!」
2度目の射精だというのに吐精の勢いは衰えるばかりか1度目よりも更に激しく、ジェロムが白い涙を流して泣き叫ぶペニスを尚も無慈悲に締め上げる。
「全く・・・こんな軟弱な雄に、竜王様の娘婿など本当に務まるのかのぅ・・・」
やがて妖しげな微笑を浮かべてこちらを振り向いたジェロムが、グリグリと抉るように腰をくゆらせながら半ば呆れ気味にそんな胸に刺さる呟きを漏らしていた。
「あ・・・はぅ・・・」
「先程の雄竜もそうじゃったが・・・分不相応な高望みは身を滅ぼすだけじゃぞ?」
「さ、さっきのって・・・マローンのことかい?」

やがて息も絶え絶えになりながらそう訊くと、ジェロムがあろうことかその膣にペニスを呑み込んだままグルンとこちらに向き直る。
グリュリュッ
「ぐあっ!」
だが当のジェロムはそんなことなどお構い無しに俺を腹下へ組み敷くと、何時の間にかさっきと同じように俺の両腕を掴んでベッドの上に押し付けていた。
「マローン・・・確かにそんな名じゃったか・・・何でも、あ奴にはグリフォンの伴侶がおるらしくてのぅ・・・」
フィンのことか・・・しかし、何故ジェロムがそのことを知っているのだろうか?
マローンは人語を話すことが出来ないはずだし、仮に話せたとしても彼女にそのことを告げる必要は無いはずなのに。
「そ、それ・・・どうやって聞いたんだ?彼は言葉が話せなかったはずなんだけど・・・」
「人語はともかく竜語は話せるようじゃったぞ?察するに、妾のような老い耄れの竜にしか話が通じんのじゃろうな」
「あ・・・成る程・・・」
確かに温泉宿にいる彼の父親はあんな大長老のような老竜なのだから、マローンが幼少の時に人語ではなく竜語を教えていたとしても特に不思議は無いだろう。

「あ奴も妾で交尾の練習をしたいなどと戯けたことを抜かしおってな・・・お主に辛く当たったのもその為なのじゃ」
「そ、そうだったのか・・・」
「何でも、妾はそのグリフォンと似ているらしくての・・・種の違いも分からぬ愚竜めと詰ってやったわ」
ま、まあ・・・確かにフィンとジェロムは何と言うかその・・・キャラが被ってるような気はするけどさ・・・
「何じゃ?何か言いたそうじゃのぅ?」
「え?あ、いや・・・別に何でも・・・」
「フン・・・まあ良いわ。そんなわけで、妾は鬱憤が溜まっておるのじゃ」
そう言うと、ジェロムがもう僅かな抵抗も許すまいと俺の両足にまで尻尾を巻き付けてくる。
「約束通り、お主の交尾の練習には付き合ってやったじゃろう?故に今度は、妾の溜飲を下げさせて貰うぞえ」
「ちょ、ちょっと待って・・・練習って・・・俺がほとんど一方的に弄ばれてただけじゃ・・・」
「ククク・・・それが人竜のまぐわいの宿命じゃて。ほれ、覚悟せぃ小僧。精々枯れ果てぬように祈るが良いわ」
そしてそんな取り付く島も無い言葉で抗議をバッサリ切り捨てられると、俺はゆっくりと腰を持ち上げたジェロムの意図を察して顔を蒼褪めさせたのだった。

ギシッ・・・
鋭い爪の生えた屈強な両脚がベッドを踏み締め、不穏な煌きを宿したジェロムの金眼が首尾良く制圧した無力な獲物の顔に嗜虐的な眼差しを注ぎ込む。
だが俺はそんな捕食者特有の危険な表情などよりも、ペニスを咥え込んだままゆらゆらと揺れている艶めかしい彼女の腰遣いにこの上も無い身の危険を感じていた。
ジェロムも激しい不安に満ちた俺の表情からそんな獲物の心境を読み取ったのか、じっくりと焦らすようにその腰をくねらせていく。

グリ・・・グリリッ・・・
「あうっ・・・は・・・ぁ・・・」
熱く蕩けるような愛液の海に浸されながら雄に飢えた獰猛な襞の群れで肉棒を蹂躙されるという、理性と本能に相反する感情を巻き起こす絶体絶命の窮地。
「ほぅれほれ・・・捕食者に仕留められ、今にも止めを刺される獲物の恐怖をとっぷりと味わうが良いわ・・・」
ギュゥッ
「くあっ・・・!」
決して止めにはならない、それでいて苦悶の声を抑え切れない程の無慈悲な圧迫感・・・
彼女の手に掛かれば、貧弱な雄槍などその自慢の竜膣で搾り尽くすのも捻り潰すのも思いのままなのだろう。
そんな到底埋められるはずもない彼我の力の差を骨の髄まで叩き込んでから、底なしの絶望と諦観に沈んだ獲物の命を刈り取るのが彼女の嗜好なのに違いない。
こんな風俗店の中だからこそジェロムに組み敷かれた俺も辛うじて平静を保っていられるものの、彼女ももしかしたらかつては人竜を問わず数多の雄に恐れられた暴虐の女傑だったのかも知れなかった。

グリッ・・・キュキュッ・・・ゴシュッ・・・
「あぐ・・・くっ・・・ぐぅ・・・」
「おやおや・・・苦しそうじゃのぅ・・・自ら懇願すれば、今すぐ止めを刺してやっても良いのじゃぞ?」
グシッ・・・グシュッ・・・
「がはっ・・・!」
反論か、或いは屈服の声か・・・その何れをも封じ込めるような強烈な圧搾をお見舞いされ、血を吐くような悲鳴が静かな部屋の中へと響き渡る。
だがビクンと跳ね上がるはずだった両手足は彼女の四肢にがっちりと押さえ込まれていて、俺はベッドの上で微動だに出来ぬままただヒクヒクとか弱い戦慄きを繰り返すばかりだった。

「ククク・・・お主のその苦悶の表情・・・実に堪らぬのぅ・・・まるで、胸の内が清々しく晴れ渡るようじゃ」
やがて不気味な笑みを浮かべながらそう言うと、ジェロムが先程から無防備に露出していた俺の乳首へと目を付ける。
そしてゆっくりと自身の顔を近付けてくると、ピンと突き立った小さな赤い蕾がぬめった唾液をたっぷりと纏うザラ付いた彼女の舌先で軽く舐め上げられていた。
ペロッ
「ひっ!?」
「どうじゃ、効くじゃろう?ありとあらゆる恥部を弄ばれて無様に泣き叫ぶ雄の表情が、妾には何よりの甘露じゃて」

ドズッ!
「ぐ・・・えっ・・・」
更には死角で振り上げられたらしい彼女の尻尾が寸分の狂いも無く尻穴に叩き込まれ、狭い菊門を拡張しながらゆっくりと体内に侵入してくる。
「そんな・・・ま、待って・・・ジェ・・・ロム・・・」
ズブッ・・・
「はうっ!」
その一切容赦の無いジェロムの責めに何とか制止の声を上げた直後、今度は尻に突き入れられた彼女の尻尾が俺の前立腺を突き上げていた。
ズッ、ズン、ドス・・・
「や・・・止めっ・・・ひびゃっ!?」
更には何度も何度も鋭い穂先で無造作に敏感な体内を突き捲られると、俺は止めとばかりにペニスを搾り上げられて甲高い悲鳴を迸らせながらまたしても盛大な絶頂を迎えさせられたのだった。

グギュッ!
ビュグ・・・ビュググ・・・
「か・・・ひ・・・」
こ、このままじゃ・・・し・・・死・・・ぬ・・・
一切の容赦無く浴びせられる快楽という名の苦痛に打ちのめされ、俺は朦朧とした意識が徐々に薄れていく気配に何とか気絶だけは免れようと必死に歯を食い縛っていた。
だがそんな抵抗さえもがジェロムにとっては面白くなかったのか、敏感な乳首を細く尖らせた舌先でこれでもかとばかりに弄ばれてしまう。
「ほぅれほれ・・・妾に抗うなど生意気な小僧じゃて・・・おとなしく無様に悶え果てるが良いわ」
グシッグリグリグリッチュプッ・・・ゴギュゴギュゴギュッ!
「ぎゃばっ・・・!」
そして最早瀕死だというのに微かな慈悲の欠片も無く止めの圧搾を叩き込まれると、俺は血を吐くような断末魔の叫び声とともに精の最後の一滴までもをその意識ごと扱き抜かれたのだった。

それから数時間後・・・
「うっ・・・うぐ・・・ぅ・・・」
何処か遠い世界を漂っていたような気がする意識がようやく現実に戻ってくると、俺は低い呻き声を上げながらギシギシと軋む体をゆっくりと起こしていた。
「む・・・思ったよりも早く気が付いたようじゃな、小僧・・・」
それまで俺の隣で転寝に耽っていたらしいジェロムが、それに気付いて伏せていた顔をこちらに向ける。
「あ・・・・あぁ・・・俺、生きてるのか?」
「調子に乗って些か羽目を外し過ぎたせいか、危ないところじゃったがの・・・」
そう言われて壁のタイマーに目を向けてみると、残り時間が1時間程にまで減っている。
昨日は確か19時頃に部屋に入ったはずだから、今は朝の6時頃なのだろう。
「もう1時間経っても起きなかったら、気付けにこの爪を突き立てていたところじゃぞ」
だがそう言ってジェロムが俺の目の前に翳した爪はどう考えても気付けで済むとは思えない程に鋭く尖っていて、危うく永遠の眠りに就かされるところだったのではないかと思わず疑ってしまう。
「お、俺を殺すつもりか?」
「フン・・・何れにしろ目が覚めたのじゃから良いではないか。お主とて、昨夜のまぐわいに文句は無かろうて?」
確かに彼女には文句の付けようが無いくらいに完敗したし、その・・・正直に表現すれば満足したと言えるだろう。

「まあ交尾の練習になったかどうかはちょっと微妙だけど・・・悪くはなかったよ」
「ふむ・・・やはり妾には、人間の雄を搾る方が性に合っておるのう・・・」
「そう言えばそれで思い出したけど、ジェロムはその・・・今度出来る新しい風俗店には行かないのかい?」
俺がそう訊くと、ジェロムが何か考え事をするかのように顎の先をベッドに埋めながらその身を伏せていた。
「"雌竜天国"かえ・・・?確かに昔は、妾もあの店で客を取っていた時期があったがのぅ・・・」
昔ということは・・・あの風俗店はこの島以外にもあるチェーン店か何かなのだろうか?
「この島では人間は寧ろ希少な部類じゃからな。果たしてあれが店として立ち行くかどうかは難しいところじゃて」
成る程・・・確かに男女合わせて住民の1割程度の人間、しかもその男だけをターゲットにした店が経営として成り立つのかは微妙に判断に迷うところだろう。
もちろん竜王様の治めるこの島はある種の理想的な共産主義が成り立っているわけだから、利益を享受する側である俺やジェロムがそれについて心配する必要はそもそも無いのかも知れないが・・・

「まあそれはそうだけどさ・・・もしジェロムもあそこで働くっていうなら、俺・・・きっと指名しにいくよ」
「ほう?何じゃ小僧・・・プラム殿の伴侶じゃというのに、そんなにこの妾が気に入ったのかえ?」
「それもあるけど、またあんたには色々と話を聞きたいからさ」
そう言いながら、脱いであった服を身に着けて帰り支度を始める。
「大学にいく準備があるから、今日のところは俺もそろそろ帰るよ」
「ふむ、そうじゃな。例の店の件は考えておこう。やれやれ・・・今度の店長は気が荒くなければ良いがのぅ・・・」
俺は何やら独り言を呟いているジェロムを残して一足先に部屋を出ると、階段を上がって早朝だというのに依然として大勢の客で賑わっている受付へと舞い戻っていた。
「あらお疲れ様でした。料金は銅貨5枚よ」
「ああ・・・これで良いかい?」
そして5枚の銅貨を支払って娼館の外に出てみると、すっきりと晴れ渡った空が視界一杯に広がっている。
「さてと・・・寮に戻るか」
やがて誰にともなくそう呟くと、俺は活気に満ちた町の中を大学の方に向かって歩き始めたのだった。

それからしばらくして・・・
早朝の明るい空を見上げながら寮の部屋に辿り着くと、俺は広いベッドを占有してぐってりと眠っている大きなプラムの姿を目にして何だかホッと胸を撫で下ろしていた。
「ん・・・アレス・・・帰ったの・・・?」
「ああ・・・起こしちゃったかい?」
「ん・・・今目が覚めたところだけど・・・今何時?」
プラムにそう言われて目覚まし時計に目をやると、丁度午前7時になったところらしい。

「まだ7時だよ。でも今日は確か、2限目の講義からだろ?起きるのか?」
「ううん・・・」
何時もなら早く大学へ行って食堂でゆっくり食事を摂りたがるプラムが、そんな俺の問い掛けに気怠そうに首を振っていた。
「ちょっと昨日疲れちゃったから、もう少し寝るわ・・・アレスも寝る?」
「ああ・・・」
「じゃあほら・・・ここに来て・・・」
やがてのそのそとその巨体をずらしてベッドの上に空きを作ってくれたプラムの隣に潜り込むと、ほんのりと暖められた布団が心地良く体を包み込んでくれる。
そして改めて目覚まし時計のアラームをセットし直すと、俺はプラムと共に短い夢の世界へと落ちていったのだった。


「ふむ・・・今日も良い天気じゃのぅ・・・」
妾はすっきりと晴れ渡った空を飛びながら、またもや始まった退屈な1日をどう過ごそうか頭を悩ませていた。
たまには娼館通いで貯まってしまったなかなか使い道の無い銅貨で好物の馬でも買い漁りに行こうかなどという欲求が芽生えるものの、大抵はそれを実行に移す前に手頃な暇潰しが見つかるのが常だったのだ。
そしてふと何の気も無しに町の上空を飛び回っていた正にその時、妾は眼下の娼館から最近はどんなに喰いでのある大きな馬よりも好物となってしまった1匹の茶色い雄竜が出てくるところを目撃していた。
「あれは・・・マローン・・・?」
あ奴め・・・近頃余り姿を見掛けぬと思っていたら、また娼館に出入りしておるのか・・・?
妾もマローンと初めて出会ったのはあの娼館だっただけに彼が娼館に出入りしていること自体は別に不思議でも何でもなかったものの、暇があれば向こうから妾を逢引きに誘う彼にしては珍しい行動だと言えるだろう。

まあ良い・・・今日も馬を買いに行くのは止めじゃ!
妾は胸の内でそう呟くと、バサリと大きな翼を羽ばたきながらトボトボと尻尾を垂らして歩いている茶色の雄竜目掛けて急降下していった。
やがてフワリと大気を煽りながらマローンの前に素早く降り立つと、突然姿を現した妾の姿に驚いたらしい彼がビクッとその身を硬直させたのが目に入る。
「何じゃ、お主らしくもない・・・そう驚くこともあるまいて。それとも、妾に何か隠し事でもしておるのかの?」
「グルッ!?グ・・・ウゥ・・・」
試しにそう鎌を掛けてみると、マローンがまるで図星を突かれたかのように明らかな動揺を顔に出していた。
何とも分かりやすい奴じゃ・・・まあ、大方の予想は付くがのぅ・・・

「クフフ・・・そうかそうか・・・一体どんな隠し事なのか、向こうでじっくりと聞かせて貰おうかえ・・・?」
だが更に追い打ちとばかりにそう畳み掛けてみると、意外にも彼はその妾の提案に乗り気なようだった。
「グルル・・・グオゥッ・・・」
「何じゃ・・・もう少し狼狽えるかと思ったのにつまらぬ奴じゃな・・・まあ良い、何時もの町外れまで行くぞえ」
そしてそう言いながら空に飛び上がってみると、やはりマローンが躊躇う様子も無く妾の後ろをついてきていた。
彼の方も妾との逢引きを心待ちにしていたらしいところを見るに、恐らくは娼館にいたのも予想通り妾とのまぐわいに備えてのことなのじゃろう。
ならば、その成果を見せてもらうとしようではないか。
やがてそんなことを考えながら何時も彼と逢引きする際の待ち合わせ場所としている町の外れの広場へ降り立つと、妾は後に続いて降りてきたマローンと無言のまま見つめ合ったのだった。

「グル・・・グルゥ・・・」
先程娼館から出て来た時には何やら意気消沈したような雰囲気を纏っていたというのに、今の彼は何処と無く奇妙な自信に満ちているというのか、以前まであったあのおどおどしたような気弱さが随分と薄れたように感じる。
そしてふと脳裏に浮かんだその想像を裏付けるように、マローンが珍しく自分から妾の方に近付いて来た。
「ほう、お主の方から妾を責める気になるとはのぅ・・・娼館で一体何があったことやら・・・」
だが彼は少しばかりの嘲笑を含んだその妾の声に微かに顔を歪めると、その大きな両手で地面を踏み締めていた金色の甲殻を纏う妾の前脚を荒々しく掴み上げていた。
ガッ!
「うぬっ・・・」
そして妾に怪我だけはさせぬようにという最低限の気遣いを見せながらも荒々しく妾の体を仰向けに地面の上へ押し倒すと、太い足の指先で妾の獅子の脚先を軽く踏み付ける。
これまでの数度の逢引きで、彼も妾に上を取られるのは圧倒的に不利だという結論に至ったのじゃろう。
そしてもちろん妾も体格で上回る雄の竜に力では到底敵わぬのだが、それでも一度雌雄の結合を見た暁にはたとえ相手が屈強な巨竜であろうと敵ではない。
マローンもそれは重々承知しているはずなだけに、妾はこの状況から彼が一体どんな手を打ってくるのかに密かな興味を抱いていた。

やがて妾を完全に地面の上に組み敷いてその抵抗の一切を封じると、マローンが興奮と緊張の入り混じった荒い息を吐き出しながらフサフサの毛皮に覆われた妾の体を一頻り眺め回す。
「何じゃ?何を迷うておる?妾を捕らえ組み敷いたとて、愚昧なお主に出来ることなど限られておろうが」
だがそう言った瞬間、マローンが突然真っ白な長毛に覆われていた妾の胸元にその口を近付けて来た。
パクッ・・・!
「はうっ・・・!」
深い体毛の奥に隠された、哺乳類である獅子の体が持つ小さな蕾。
そのある意味で雌の体の中で最も敏感な性感帯を無造作に口先で咥え込まれ、妾は不覚にも思わず甲高い嬌声を漏らしてしまっていた。
よもやこのマローンが、前戯などという器用な真似を披露するとは・・・

チュッ・・・チュブッ・・・ジュルルッ・・・
「くあっ!お、おのれ・・・マ・・・ローン・・・」
だがとても一晩で身に付けたとは思えないような余りにも巧みな舌遣いと吸引に何とか四肢へ力を入れてみるものの、繊細な舌責めの最中にあっても彼が妾の拘束を緩めるような気配は微塵も感じられなかった。
恐らく彼は・・・余程の技巧の持ち主にその身を挺してたっぷりと前戯の手解きを受けたのじゃろう。
「グルル・・・グオゥ・・・」
チュッチュッチュッ・・・チュルルッ・・・キュッ・・・
「く・・・ふぅ・・・い・・・いい加減にせ・・・せぬ・・・かぁ・・・」
ガッチリと体の自由を奪われたまま最大の弱点である雄槍ではなくその舌技で一方的に責めたてられているという絶望的な状況に、それまで無力な雄を蹂躙することで満たしていた嗜虐心がゆっくりと裏返っていく。
コリッ・・・
「ひぐっ!?」
そして鋭い牙の先で乳首を軽く摘み上げられると、妾は両眼を大きく見開きながら首を仰け反らせていた。

ま、まずい・・・この・・・ままでは・・・
マローン自身も既に雌雄の邂逅が待ち切れないのかその股間からそそり立つ歪な肉の塔は雄々しく膨れ上がっていたものの、まずは徹底的に妾を責め嬲ろうという固い意思の下に執拗なまでの舌責めが胸元に浴びせられていく。
唯一自由の利く首から上をバタバタと暴れさせてみたところでやはり逃れられる希望が湧かず、妾は徐々に絶頂という名の敗北に向けて深い奈落の淵へと押しやられるような無力感を味わっていた。
チロチロ・・・レロッ・・・チュブッ・・・
「マロ・・・ン・・・もう、止め・・・止めてくれ・・・ぃ・・・」
左右の乳首を交互に、そして丹念に蹂躙され、快楽とも苦痛ともつかないこそばゆさに全身の力が抜けていく。
今や妾は翼を毟られて大地に叩き落され、巨大な槍で一突きにされるという無惨な最後を待つだけの憐れな獲物・・・
ことここに及んでマローンの慈悲を乞おうにも、これまで彼に対して取ってきた自身の慇懃無礼な振る舞いが復讐に燃える彼だけでなく妾の良心をもきつく縛り付けていたのだった。

やがて執拗に与えられる快楽の嵐に身も心もすっかりと疲弊すると、妾は半ば呆けたような表情を浮かべながらじっとこちらを見下ろしているマローンの顔を見つめ返していた。
普段は無口で温厚な彼が心中に湧き上がる興奮に息を荒げているその様子は、正に空腹の折に獲物を仕留めた荒々しい野獣そのものだったのだ。
「グルルルル・・・」
「ひっ・・・・・・ひぃ・・・」
よもや命まで奪われることは無いとはいえ、雄としての本能を剥き出しにした巨竜の燃えるような冷たい眼差しにまるで生気が吸い取られていくかのような絶望感が胸の内に湧き上がってくる。
そして長い長い前戯で最早息も絶え絶えとなった妾を相変わらず無表情のまましばし眺め回すと、いよいよフサフサの体毛に覆われた妾の股間に固く尖った槍の感触が押し付けられていた。
ズッ・・・
「あっ・・・」
更には何の前触れも無くそれが膣の中へ侵入を開始すると、無駄だと分かっていながらも首を左右に振り乱して精一杯の抵抗を試みてしまう。

ズブ・・・ズググ・・・
「は・・・ぁ・・・」
肉棒さえ受け入れてしまえば幾らでも逆転出来る・・・
妾の心の中には依然としてそんな反逆心が芽生えてはいたものの、今の彼にはどんな抵抗もまるで意味を成さないように思えてしまっていた。
ズズ・・・ズ・・・ズン!
「あがっ・・・ぁ・・・」
度重なる乳首責めですっかりと熟れに熟れた膣の最奥に固い穂先が突き入れられ、それがこれまで滅多に触れられたことの無い敏感な雌の蕾を容赦無く突き上げていく。

ズブッ!ドズッ!ドズッ!
「がっ・・・あ・・・お、おの・・・おのれぇ・・・!」
グギュゥッ!
そのまるで理性まで壊されてしまうのではないかと思うような荒々しい抽送に追い詰められ、妾は思わずマローンの身を気遣うのも忘れてつい全力で体内への侵入者を屈強な膣肉で押し潰してしまっていた。
だが確かに感じた明らかな手応えに薄っすらと目を開けてみると、肉棒に渾身の力を込めた圧搾を味わったはずのマローンがピクリとも表情を変えぬまま自身に楯突いた獲物を無言で睨み付けている。
そ・・・そんな・・・何故じゃ・・・
そしてそんな疑問に少しばかり首を持ち上げて下半身へと目を向けてみると、肉棒の代わりに茶色い鱗を纏う彼の太い尻尾が妾の膣に深々と突き入れられていた。

「あ・・・あぁ・・・ま、待てマローン・・・い、今のは・・・その・・・」
慌ててそう釈明してみるものの、この期に及んで弱った振りを装いながら自身を謀ろうとしていた妾を見つめる彼の眼に明らかな激情とも言える極度の興奮が激しく渦を巻いている。
今の抵抗は間違い無く、彼の怒りに火を付けてしまったことだろう。
「グルル・・・グオゥ・・・!」
「はぁ・・・ぁ・・・」
そして今度こそ万策尽き果てた妾は、薄っすらを目元に涙を浮かべながら激しい恐怖にガタガタと身を震わせることしか出来なかった。
これから、彼に一体どんな悲惨な報復をされるのか・・・
これまで彼の雄としての自尊心を省みることなく手篭めにしてきた自身の蛮行が、立場の逆転した今彼の脳裏にまざまざと蘇っては妾に対する復讐心を際限無く膨らませているのに違いない。
「わ・・・妾が悪かった・・・ゆ・・・許しておくれや・・・マローン・・・」
そして必死に目を瞑りながら心の底からそんな謝罪の声を絞り出すと、妾は目元に溜まっていた塩辛い雫を舌先でペロリと掬い上げられた感触に恐る恐る目を開けたのだった。

やがて先程までの怒り交じりだった雰囲気とは打って変わったマローンの雰囲気に恐る恐る目を開けてみると、相変わらず感情の読みにくい無表情ながらも穏やかに落ち着いた彼の竜眼が妾を静かに見つめている。
「ゆ・・・許して・・・くれるのかえ・・・?」
憐れな獲物を容赦無く引き裂く鋭利な爪を生やした屈強な巨腕に押さえ付けられ、口元から覗く凶悪な牙から身を護る術さえ無いという絶望的な状況で辛うじて妾の喉を通ったその問い・・・
もしも否定されれば今度こそ間違い無く自身の運命を決定付ける禁断の質問だというのに、妾はどうしても彼にそれを訊かずにはいられなかったのだ。
だが妾の祈りが天に通じたのか震える声で放ったその言葉にマローンが静かに、しかし深々と頷いていく。
「グルゥ・・・」
ペロォ・・・
そして和解を示すように1度だけそっと頬を舐め上げられると、妾はようやく彼の拘束から解放されたのだった。

「そう・・・そうじゃな・・・お主は妾の伴侶・・・ただの恋仲よりもより深い間柄じゃったというのに・・・」
そう言いながらゆっくり体を起こすと、今度はマローンが自ら仰向けに地面の上へとその身を横たえる。
「妾も、些か戯れが過ぎておったようじゃ・・・」
そしてそんなマローンの意図を汲むように彼の上に跨ると、雄々しく屹立している彼の雄槍へ向けて濡れそぼった自身の膣をゆっくりと近付けていく。
ズッ・・・ジュブ・・・ジュブブ・・・
「グオッ・・・アオゥ・・・」
これまで幾度と無く繰り返されてきたそのどれよりも静かだが濃密な、深く愛し合う雌雄の邂逅。
熱く蕩けた膣肉が逞しい雄を余すところ無く包み込んでは根元からじっくりと扱き上げ、彼の肉棒もまた喜びに打ち震えるように断続的な戦慄きとともに妾の最奥を愛しげに突き上げる。

「おおぅ・・・お、お主とのまぐわいが・・・こ、こんなにも・・・尊いものだったとは・・・のぅ・・・」
濃厚な粘液を纏う無数の襞に翻弄されながらも切なげに自身の核を突き上げる雄の感触をとくと味わいながら、妾はマローンとの結合に感じるこれまでにない幸福を噛み締めていた。
一方的な押し付けや蹂躙ではなくお互いにお互いを求め合う雌雄の営みに、不覚にもこの歳になってようやく目覚めることになるとは・・・
「それもこれも・・・お主のお陰じゃな・・・マローン・・・」
「グオゥ・・・グゥ・・・」
口惜しくも彼の呟く言葉の意味は妾には分からぬものの、妾と彼との関係が良い意味で1歩前進したことだけは確信が持てる。
そしてその至福の時間をたっぷりと愉しむと、やがてマローンの雄が噴き上げた熱い竜精の感触に妾は年甲斐も無く甲高い嬌声を迸らせながら激しい絶頂を味わったのだった。

このページへのコメント

新作待ってました。
体育教師の名前を見て「何処かで読んだような」と思ったら天国でしたね。
こう言うの大好きです。

今度はプラムが店で頑張る番ですね、待ってます。

0
Posted by ナチュ 2017年04月06日(木) 17:30:36 返信

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