ピ・・・ピピピピッ・・・
"Farth27 0900"
熱帯地方の環境調査を開始したFarth24から3日後、地球司令部との会議で今後の調査指針を確認した私は船員達に本日の調査に赴くCI素体の装備の換装を急がせていた。
「進捗はどうだ?」
「もうすぐ終わります。この新しい強化骨格、見たことも無い合金が使われてるし、凄い強度と剛性ですね」
「地球で開発されたアンバーメタルという超合金で形成した骨格だそうだ。ダイアモンドよりも遥かに硬いらしいぞ」
そう言いながら、私は地球司令部から送られてきた新たなCIの素材に視線を走らせていた。
21世紀の前半にアンバーメタルという合金が発明されたという話は私も知っていたものの、その余りの強度と剛性の高さから成型の難易度が高く、大きくて複雑な形状の物を作るのは当分不可能だと言われていた。
だが今回、多額の費用と膨大な技術力を注ぎ込んでアンバーメタル製のCIの強化骨格が僅かに3体だけ作られ、昨日それがこの船に送られてきたのだ。
「これ、作るのに一体どのくらいの費用が掛かってるんですかね・・・?」
「詳しくは私にも分からないが、まず8桁ドルは下らないだろうな」
「そんなに?流石に僕も触るのに手が震えちゃいますよ」
やがてメカニックの船員とそんな遣り取りをしていると、ようやく装備の換装が完了したという報告が上がって来る。
「よし!準備が出来たらアウェイクニングフェーズに移行だ」

私がそう言うと、船員達が休む間も無く次の作業へと雪崩れ込んでいた。
「Farth27 0912、CIアウェイクニングフェーズを開始します」
「データ送受信用配線のリジェクト完了。起動用のショック用意」
「チャージしています。離れてください」
かつて地球に存在していた琥珀色の竜が纏っていたという強固な鱗の組成から作られたというアンバーメタルは、その名の通り鈍い琥珀色に煌く不思議な輝きを帯びていた。
やがて緑色の体表に映える琥珀色の骨格を随所に纏ったCIが、電気ショックを受けてゆっくりと目を覚ます。
「CI、問題無いか?」
「はい。これは、新しい強化骨格ですね。今日は水中調査ではないのですか?」
「Farth24の調査が大いに進んだこともあって、現状は地上の調査を進める方針に決まったんだ」

実際、先日の調査結果は地球司令部でもかなり好意的に受け止められていた。
熱帯雨林という生命の坩堝に存在する脅威はまだ計り知れないものの、食料や有用な動植物が多数見つかったことはこのFarthの環境調査を推し進める上での大きな原動力になったことは間違い無い。
貴重なアンバーメタル製の強化骨格の製造が認可されたのも、偏にCIの活躍が認められたからこそのことだった。
「それと、海と違って流れの濁っている川の調査は難易度が高いからな。適正装備の選定もまだ済んでいないんだ」
「では、渡河した後に川向こうの実地調査ということですね」
「そうだ。それと、先日の調査で見つけた動植物はアーカイブして仮名も付けてある。今後の調査に役立ててくれ」
それを聞くとCIは分かったとばかりに深く頷いていた。
「了解。では、FPモードでのデータ記録を開始します」

私はそう言いながらカメラと各種センサーを起動させると、まずはセンサー類の動作確認に移っていた。
現在日時はFarth27の0919、船室の床面積は約323平方メートル、気温は摂氏27.7度、数日の休憩を挟んだこともあり船員達のバイタルは全員安定しているようだ。
船室の床面積が減少しているのは、地球司令部から届いた大量の支援物資がまだ船室内に置かれているからだろう。
「CI、今回は水中調査はしないけど、一応川の調査用ガジェットを搭載してるんだ。格納スロットが別だったからね」
「了解、マニュアルを受信しました。名称は"WS"・・・成る程、これは分かりやすいですね」
「それと、ナノマシンシューターも2種類装備させてある。射程150メートルのライフル型で、装弾数は2発だ」
確かに、前回の調査で遭遇したバットタイガーのような鋭敏な知覚を持つ生物に対しては、弾速が遅く本体の接近が必要な飛び道具は逆に危険性が大きいだろう。
「ライフルの方の弾速はどのくらいですか?」
「ナノマシンを搭載したチタン製の弾頭を火薬で発射するから、初速は秒速300メートル以上出るそうだ」
秒速300メートル以上ということは、亜音速弾クラスだ。
空気抵抗の影響と、100メートル以上という中距離での使用に限るという両面から収斂された性能ということだろう。
「ただ、相当な物理的殺傷力があるから適正距離で使用するか、あくまでも外皮の強固な生物用だと割り切ってくれ」
「それとCI、例の大蛇・・・"カムスネーク"用の対策装備を作ってみたんだ」

カムスネークというのは・・・カムフラージュに特化していることから付いた名称だろうか。
「CI本体と、各ガジェットにそれぞれ搭載してある。高濃度のアルコールを噴霧するだけだけど、効果はあるはずだ」
「そう言えばその詳細を聞いていなかったが・・・アルコールで蛇が撃退出来るのか?」
「地球上の蛇はアルコールを含ませた布を顔に被せただけで酔って体が麻痺してしまうんです。有効な防衛策ですよ」
確かに人間と同じ脊椎動物である以上、粘膜からアルコールが取り込まれれば神経伝達系にある程度のダメージを与えられる可能性は高いかも知れない。
それにガジェットにも装備されているのであれば、仮に不意打ちで体を拘束されても反撃しやすいはずだ。

「了解。では、調査に向かいます」
私はそう言って相変わらず熱波の渦巻く船外へ出ると、空に浮かんでいた雲に視線を向けていた。
3日前に調査した時は快晴だったのだが、今日はもしかしたらスコールが降るかも知れない。
「CI、通信確認だ。聞こえるか?」
「音声良好です。声と画像は問題ありませんか?」
「問題無い。森林内でも通信状況は問題無さそうだが、"メタルワーム"の群れには気を付けてくれ」
メタルワームか・・・
例の金属の毛針を持った毛虫には、私が思っていたのより更にシンプルな仮名が付けられたらしい。
「了解。では、ローバーで移動を開始します」
「CI、今相対マップを送った。今回の調査は川の向こう側だが、こちら側でも新種の動植物の調査は引き続き頼む」
だがそう言われて、私はハッと顔を上げていた。
「そう言えば飛翔用ウィングは装備されていませんが・・・他に渡河の方法はありますか?」
「アンバーメタル製強化骨格の重量の関係でウィングの使用は見送ったんだ。代わりに立体起動装置を使ってくれ」
「CI、立体起動装置のブースターは出力を強化してある。対衝撃姿勢を取らないと背骨が逆に曲がるから気を付けて」

確かに、アンバーメタル製の強化骨格のお陰で今の私の重量は全装備を合わせて200キロ近くある。
スペックを考えれば飛翔用ウィングでも一応飛べないことはないのだろうが、川を渡る為だけに燃料の大半を使い切ってしまうのでは付属の装備としては確かにコスパが悪いだろう。
その点立体起動装置なら森林部での高速移動が可能になるし、幅50メートル前後の川なら勢いを付けてブースターで一気に飛び越すことも出来るはずだ。
「了解。立体起動装置のセーフティをアンロックします」
やがてローバーで熱帯雨林の直近まで接近すると、私は両腕の外側にアンカー発射口を露出させていた。
体内に内蔵したワイヤーリールを使用するからアンカーの射程距離は精々15メートル程だが、これだけ木々が密集していれば移動に不自由は無いだろう。
問題は出力が強化されているという後部のブースターだが・・・
「試してみるか・・・」
私はそう呟くと、微かに体を前屈させて背面下方にバックブラストを噴射していた。

ゴオオッ!!
「うわっ!」
その瞬間、200キロ近い重量のある体が一瞬にして1.5メートルも地面から浮き上がっていた。
まるでロケットエンジンで背後から押し出されたかのような強烈なGが掛かり、軽く前方に曲げていたはずの腰が衝撃の圧力に負けて海老反りになってしまう。
「これは・・・少し訓練した方が良さそうだな・・・」
考えてみれば、実際に森林部の移動で立体起動装置を使用するのは今回が初めてだったはず。
普段とは重量が違うから当然挙動も想定とは異なるだろうし、川を渡るまでにある程度は動きを覚えるべきだろう。
そしてそう思いながら両腕に装備されたアンカーを撃ち出すと、私は木の幹に突き刺さったそれを巻き取りながら空中に飛び上がっていた。

ブシュッ!シュルルルッ!
ブシュッ!シュルルルルッ!
振り子の重量が変わっても振動の周期は変わらないから挙動に関しては思った程大きな差異は出ていないようだが、リールの巻き取りに掛かる負荷が高い為移動速度は若干低減しているらしい。
まあ、この程度であれば誤差の範囲内だろう。
目まぐるしく森の景色が後方に流れて行く様は実に壮観だったものの、私はふと木の根元に前回の調査では見たことの無かった植物が生えていることに気付いて地面の上に着地していた。

「この植物、不思議な形をしてるな・・・」
地面から生えた葉や茎の部分は特に何の変哲も無い一般的な植物と変わらないのだが、その茎の先に直径6、7センチ程の大きさの真っ赤なスポンジ状の球体が数個生っているらしい。
全体的に海面体質の柔らかそうな見た目の一方で光沢もあり、その表面にある無数の小さな穴には朱色の花粉のような物がびっしりと詰まっていた。
取り敢えず、植物であることは間違いなさそうなのでスキャンしてみるとしよう。
ピ、ピ、ピ・・・ピー・・・
「CI、結果よ。これ、変わった形をしてるけど香辛料の類だわ」
「香辛料って言うと、唐辛子みたいな?」
「ええ・・・その花粉のような粉に、大量のカプサイシンが含まれてるわね」
つまり、このスポンジ球の表面に付いている粉が全て唐辛子の粉末のようなものということか・・・
「多分他の動物による摂食を避ける為の防衛機構なんだろうけど、毒性が無いなら人類には有用な食料だね」
「でも気を付けて。その実を握ったり衝撃を与えたりすると、大量の唐辛子の粉末が宙に舞うわよ」
それは大変だ。
検査の結果を見ればカプサイシンの含有量的に辛み成分はハバネロと同じかそれ以上だろうから、万が一そんなものが粘膜にでも付着したらとんでもないことになるだろう。

やがて無用な衝撃を与えないように検査シリンダーに入れていたその実を慎重に地面に転がすと、私は周囲を警戒しながら更に森の奥深くへと入って行った。
相対マップの情報だと、昨日見つけた川まではここから約600メートル程。
そろそろ、カムスネークの生息域に入る頃だ。
あの大蛇の主食が"メガダイル"と名付けられた巨大ワニなのであれば、川を住み処にしているのだろう獲物を誘き寄せる為にカムスネークも川の近くに生息していると考える方が自然だろう。
そして周囲に警戒しながら更に200メートル程森の中を進んでみると、私はほんの50メートル程先に1つの大きな熱源があることに気付いて足を止めていた。
変温動物であるカムスネークは熱源探知には引っ掛からないから恐らくは別の動物なのだろうが、かなり熱源自体のサイズが大きいような気がする。
そしてそっと茂みの先に視線を巡らせてみると・・・
1匹の大きな狼のような生物が、正にカムスネークに巻き付かれながらその全身を締め上げられているという衝撃の光景が目に飛び込んで来た。

メギ・・・ベキ・・・ゴゴキッ・・・
肩口に大きな毒牙を突き立てられながらサイズの割に華奢に見える体を蛇体で絞り上げられて、骨の砕け散る痛々しい音が森の騒音を掻き分けて私の耳にまで届いてくる。
「カッ・・・キャフ・・・ガウァッ・・・」
イヌ科の動物特有の甲高い悲鳴が周囲に響き渡り、それに合わせてギラギラとした鏡で出来ているかのような鱗を持つ大蛇のとぐろが更に収縮していた。
ボギッ・・・ゴギゴギメキッ・・・
まるで巨人が小人を握り潰すかのように大蛇の塊が縮み、その狼のような生物が口元から血を吐いた苦悶の表情を浮かべながらグシャリと無惨に締め潰される。
そしてぐったりと拉げて事切れた獲物を口に咥え込んだ蛇が、ゆっくりと仕留めた獲物を頭から丸呑みにしていった。

「生殖に使えなさそうなあの程度のサイズの獲物なら、普通に締め殺してそのまま食べちまうんだな・・・」
「でも、カムスネークは熱源探知には掛からないのよね?あの動物の体温にしては、熱源が大きかった気がするわ」
「多分獲物を締め付けていたから、カムスネークの体温も上がってたんだろうね。それで大きな熱源に見えたんだよ」
成る程・・・確かに前回の調査の時にカムスネークに締め付けられた時は、強化骨格が拉げる強烈な痛みと同時に灼熱感とも言えるような熱さを感じたような気がする。
筋肉が激しく収縮しているのだから、冷血動物の蛇であっても一時的に体温が高くなるのは当然のことだろう。
そしてあっという間に獲物を呑み込んでその腹を大きく膨らませると、カムスネークはそのまま溶け込むように茂みの中へと消えて行ってしまったのだった。

取り敢えず、今し方食事を終えたばかりのあの個体は放っておいても特に問題は無いだろう。
だが他にもカムスネークがいないとは限らないだけに、私は念の為スパイダーを射出していた。
1つでもガジェットを起動させておけば、仮にカムスネークに襲われても反撃が出来るはず。
DFは機動性という点で言えばスパイダーよりも遥かに優れているものの、やはりモーターの連続稼働時間というネックがある以上長時間の警戒任務には向かないガジェットなのだ。
それにしても・・・先程カムスネークの餌食になったあの動物は一体何だったのだろうか?
大型の犬や狼に似た種の動物なのであれば知能もそれなりに高い可能性があるし、場合によっては群れで行動していてもおかしくないような気がするのだが・・・

ガッ!ザザザザザッ!
だがそんな想像を巡らせながら少し木々の密集した場所へと入ってみると、私は突然背後から何かが左の足首に噛み付いた感触と共に屈強な蛇体に全身を絡め取られてしまっていた。
「うあっ!」
恐らくさっき見たのとは別の個体なのであろう全長8メートル近くある巨大なカムスネークに巻き付かれ、あっという間に地面の上に引き倒されてしまう。
ミキ・・・ギシ・・・ミシシ・・・
おお・・・流石はアンバーメタル製の強化骨格・・・
こいつは3日前に襲われたカムスネークよりも更に大型の個体だというのに、メガダイルごと私を締め潰した死の抱擁にもこの骨格であれば十分に耐えられそうだ。
「CI!大丈夫か!?」
「は・・・い・・・何とか・・・呼吸も確保出来ています」
とは言え、仮に麻痺毒と締め付けには耐えられても強烈な興奮作用を及ぼす媚毒の影響は時間と共に確実に表れてしまうだろう。
その前に何としても、この凶悪な拘束から逃れなくてはならない。

「CI、射出していたスパイダーを使って、カムスネークの頭部目掛けてアルコールを噴霧するんだ」
「りょ・・・了解・・・!」
やがてメキメキと軋みを上げる強化骨格が何時壊れるのかハラハラしながらもそう返事を返すと、私は先程から地面に放っていたスパイダーを呼び寄せてカムスネークの頭部に取り付かせていた。
ブシュウッ!
次の瞬間、度数80%の高濃度アルコールが細かな霧状になってカムスネークの頭部に勢い良く噴射される。
それと同時に唸りを上げて私の体を締め付けていたカムスネークの体から途端に力が抜けると、その巨体がそのままドサリと地面の上へ崩れ落ちていた。

「凄い・・・効果覿面ね」
「あれはCIの体には影響が無いのか?」
「直接大量に吸い込めばもちろん影響がありますが、少量であればすぐに中和、解毒されます」
ただのアルコール噴霧で蛇に対してここまで顕著な撃退効果があるとは・・・
そして重々しい蛇体を退けて大蛇の懐から何とか這い出すと、私はヒクヒクと痙攣しているカムスネークの姿をまじまじと観察してみた。
こうして間近から見てみても、周囲の景色をおぼろに反射する鱗のお陰でほとんどその輪郭が捉えられない。
この蛇の皮を使えば、簡易的なステルススーツなんかも作れてしまうのではないだろうか?
「CI、もうすぐ昼になる。早めに川を渡れるようならそうしてくれ」
「了解、川へ向かいます」
そうして再び立体起動装置を展開すると、私は急いで先日見た濁流の流れる川へと向かったのだった。

「それにしても大きな川だな・・・」
やがて川岸に着いてみると、私は対岸まで優に50メートル近くはあるだろう濁った川の様子に一瞬たじろいでいた。
立体起動装置のブースターは確かに強力だが、出力の大部分を推進力に当てないとここから対岸まで一足飛びするのはかなり厳しいように思える。
「この川幅、立体起動装置で越えられるのかしら?」
「アンカーで初速を稼がないと難しいだろうね。それに、今のCIの体重だと川に落ちたらまず浮かび上がる術が無い」
「CI、行けそうか?」
そんなリーダーの声を聞きながら、私は懸命に渡河ルートを計算していた。
対岸までの直線距離は短いに越したことは無い。
それに、着地する前にアンカーを撃って衝撃を吸収出来る樹木が川岸の近くに生えている方が好都合だ。
そしてもちろん、川の中にも一切脅威が無いとは限らない。
「CI、流れが緩やかな川なら"WS"で計測や警戒が出来るはずだから、試してみてくれ」
そう言えば、川の調査用の新ガジェットがあるんだった。
「了解、"WS"のセーフティをアンロック、放出します」

次の瞬間、スパイダーを収納しているのとは反対側の脚の格納部から細い6本の脚を持った昆虫型のガジェットが飛び出していた。
それぞれの脚の先には小さな空気袋が複数取り付けられていて、腹部に当たる部分にも水に浮くように空気袋が装備されているらしい。
そしてそれがパッと驚く程のスピードと跳躍力で川に飛び込んだかと思うと、空気袋の浮力を利用して水面にピタリと静止していた。
「分かった!"WS"っていう名前は、アメンボを意味するWater Stridersが由来ね?」
「その通り。運用出来る環境は限られちゃうけど、こういう流れの穏やかな川や湖なんかでは重宝すると思うよ」
確かに、WSは水面に浮かぶという性質上波が立っているような場所では運用しずらいだろう。
だがもしこれが、現実のアメンボをモチーフに作られたガジェットだとしたら・・・
やがて川面の形状測定を開始してみると、WSが凄まじい速さで水面を飛び跳ねて対岸へと到達していた。
更には川岸の形や水深1メートル未満の浅い部分などを瞬時に測定し、ものの2分と経たない内に60メートル四方に及ぶ川の面積と水深を含んだ詳細なマップが作成されていく。

「凄い・・・これならルートが探しやすいね」
「陸上なら同じことはスパイダーでも出来るけどね。水面での機動性ならWSの右に出るガジェットは無いよ」
「WSには、他にも装備があるのか?」
そのリーダーの質問に、メカニックの船員が得意気に答える。
「水中に出した検針から電流を流して近距離の水棲生物をスタンさせたり、軽量の漂流物の回収とかも出来ますよ」
それなら、仮にピラニアのような生物に襲われたとしても防衛装置として使えるかも知れないな・・・
「対岸までの最短直線距離44.2メートル、川岸から2.4メートルまで水深1メートル以下のルートが見つかりました」
「良し、川越えのジャンプだ」
私は慎重にルートを設定すると、助走の為に一旦大きく川岸から離れていた。
最も川岸に近い2本の樹木にアンカーを刺して初速を稼ぎ、最大出力のブースターで対岸まで飛ばなければならない。
想定初速は時速約80キロ、離陸角度が理想的な45度なら理論上50メートル程は飛べる計算だが、離陸角度が30度なら43メートルとなり辛うじて対岸に届かなくなってしまう。
実際にはジャンプ中もブースターを起動するから到達距離はもっと伸びるはずだが、重量や空気抵抗で加速度が相殺されることを考えれば楽観視は出来ないだろう。

そして頭の中で何度もシミュレーションを繰り返して意を決すると、私は両腕のアンカーを両側の樹木に撃ち出していた。
バシュバシュッ!
「行きます!」
ブシャアアアアアアアッ!
次の瞬間、高速で巻き取られるリールに引っ張られながらバックブラストを最大出力で噴射する。
まずは真後ろに噴射して初速を稼いだ後に、離陸角度を45度に近付けるのだ。
「行けるか?」
「プラスマイナス5度程度の誤差なら到達距離減衰は1メートル程度です。もちろん、速度が足りればですが・・・」
ゴオオオオオオオオッ!
「うああああっ・・・!」
ワイヤーアンカーに引っ張られるという体勢の関係上前屈姿勢を取ることが出来ず、私はブースターの出力に腰を押し出されるようにして逆くの字に体を折り曲げたまま広大な川の上目掛けて勢い良く離陸していた。

シュバッ!
「離陸速度時速75キロ!?これじゃ対岸まで届かないわ!」
「でも射出角は38度だ。空気抵抗を無視すれば43メートル届く計算になる。ブースターを切らなければ行けるはずだ」
ブースターを切らなければだって・・・?
何処かで減速しなければ、仮に川を渡れたとしても時速80キロ以上の猛スピードで地面に激突することになる。
私は跳躍の頂点付近までは何とかブースターを起動し続けたものの、体が落下を始めるとブースターを切って体勢を元に戻していた。
「ブースターを切ったぞ!?速度はどうだ?」
「時速78キロ・・・体勢を変えたことと空気抵抗を考えると微妙なラインですね」
もちろん、距離が届かず川に落ちることもある程度は覚悟している。
ただ体勢を戻したことで、私の両腕には再び発射可能となったアンカーがリロードされていた。
「これは・・・川岸に激突コースだぞ」
そのリーダーの言葉通り、陸と川の境目が凄まじい速さで眼前に迫って来る。
バシュバシュッ!
だが寸でところで両腕のアンカーを撃ち出すと、私は首尾良く樹木に突き刺さったそれを全速で巻き戻していた。

シュルルルルッ!ドスッ!
「おおっ!」
「着地したぞ!」
「凄いわ!」
かなり危険な賭けだったものの、どうにかワイヤーの巻き取りで強烈な落下の衝撃を吸収しながら飛距離を伸ばすことには成功したらしい。
「ふぅ・・・」
川を渡るのがこんなに大変だったのなら、多少無理をしても最初から飛翔用ウィングを装備して来た方が良かったんじゃないだろうか・・・?
まあ何はともあれ、無事に川を渡り切ったのだから今日の調査はここからが本番だ。

私はそう気を取り直して顔を上げると、付近に生えている樹木の種類が川の向こう側とは全然違っていることに気が付いていた。
あの鳳仙花のように種子を爆発させる実は何処にも見当たらず、代わりに少し黒み掛かった色の濃い樹木がそこかしこに生えているようだ。
恐らくは長い川幅のお陰で破裂した種子がこちら側までは十分に届かず、生息域を広げられなかったのだろう。
「これ・・・蔓かな・・・?」
見ればその黒い樹木にはどれも長くて丈夫な蔓のようなものが無数に垂れ下がっていて、それが森の中により一層鬱蒼とした雰囲気を醸し出しているようだった。
場合によっては樹高20メートル近い樹から地面に達する程に長い蔓が伸びているものもあるらしい。

「ここは樹木の植生が、川の東西で全然違いますね」
「CI、樹皮や蔓の一部でも一応組成のスキャンは可能だから、可能な限り調べてみてくれ」
「了解」
だがそう言って手近にあった蔓を掴んでみると、私はその想像以上の丈夫さに目を瞠っていた。
直径数ミリの細い繊維が何重にも縒り合されるように束ねられた蔓は見た目以上にずっしりと重く、ちょっとやそっと引っ張ったくらいでは到底千切れそうにないまるでザイルのような構造をしているらしい。
しかもその表面はザラザラと粗くささくれ立っていて、強靭な天然のロープを作り出していた。
「これは刃物で切るのは骨が折れるな・・・」
そして肩口からDFを射出すると、前回の調査で爆発する実の茎を焼き切ったのと同じ要領でDFのアフターバーナーを蔓に当ててやる。

ジジジ・・・ミチ・・・ブチチ・・・
そして首尾良く短い蔓の切れ端を手に入れると、私は早速それを検査シリンダーに入れてみた。
ピ、ピ、ピ・・・ピー・・・
「結果が出たわ。樹木の質で言うとオークに近いわね。樹皮が硬くて丈夫だし、仄かに芳香があるわ」
「垂れ下がっている蔓は一部の枝の先が変化した物みたいだ。蔓の先から水分を吸い上げられるようになってるね」
ということは、この辺り一帯にはやはり相当量の雨が降るのだろう。
ぬかるんだ地面から直接枝先で水分を吸い上げることで、これだけ密生した樹木群の中でも十分な水分と養分を取り入れられるようになっているということか。
繁殖力という点では川の手前側にあった破裂する実を付ける樹の方が高そうではあるものの、こちらは狭い土地の中でもたくさん植えることが出来るから林業としてはより適しているかも知れない。

「オン・・・キュオン・・・」
「ん・・・?」
今のは何だろう・・・?
何かの鳴き声のようにも聞こえたのだが、森の騒音がザワザワとその声を掻き消していく。
だが確かに、相対マップ上にはほんの60メートル程先に1つの大型動物と思われる熱源が表示されていた。
「どうかしたのか?」
「野生動物の鳴き声らしきものが聞こえました。60メートル程東北東にある熱源からだと思います」
「分かった。確認してくれ。だが前のバットタイガーの例もあるから、慎重にな」
もちろんそのつもりだ。
そしてなるべく余計な音を立てないようにそっと熱源に向かって近付いていくと、私は木々の向こうに1匹の狼のような生物が蹲っているのを見つけていた。

「あれは・・・」
間違い無い。
さっき川の向こうでカムスネークの餌食になっていたのと同種の生物だ。
全身に濃い灰色の毛皮を纏う、体高80センチ程のイヌ科らしき動物。
シュッと尖ったマズルとピンと跳ね上がった耳、そして凛とした金色の眼が、高い知性を内包しているように見える。
だが一体何をしているのかとよく観察してみると、どうやらその動物は地面に開いた小さな穴に右の後ろ脚を取られて動けなくなってしまっているらしかった。
「キャンキャン!キャウン・・・クゥン・・・」
特に何処か怪我をしているというわけでもなさそうなのだが、どういうわけかどんなに暴れても引っ張っても小さな穴から脚が抜けないようだ。

「どうしたのかしら?何だかちょっと可哀想ね・・・」
取り敢えず、動けないのであれば安全確認の為にも一旦ナノマシンを撃ち込んで調べてみた方が良いだろう。
私はそう思って向こうから姿が見えないようにそっと茂みに身を隠すと、その動物に向けて指先からバレットを発射していた。
バシュッ!
「キャウッ!?」
そして腰の辺りに小さな注射器が命中すると、驚いた狼が片脚を地面に取られたままビクンと小さく飛び上がる。
「見た目通りかなりイヌ科に近い哺乳動物のようだな。脳が発達していて、かなり知能も高そうだ」
「これと言って特別に危険な存在のようには思えませんね。狂犬病などのウイルスを持ってる可能性はありますけど」
「でも、少なくともCIにとっては脅威になるような凶暴な動物じゃないわね」
それならば、取り敢えずは彼をあの窮地から救ってあげても良いかも知れない。

私はそう思って隠れていた茂みからそっと抜け出して姿を見せると、初めて見る存在に些か警戒しているらしいその狼にゆっくりと近付いていった。
「ウウ・・・グルル・・・」
こちらを威嚇している・・・というよりは寧ろ、身動きが取れないことに弱って狼狽の声を上げているように見える。
そして出来るだけ彼を怯えさせないようにそっと近くまで歩み寄ると、私はその右足が嵌っているらしい地面の穴を覗き込んでいた。
「何だろう、これ・・・」
見れば穴の中には明らかに人為的に作られたと見えるネットのようなものが張り巡らされていて、それが狼の脚に絡み付いてしまって抜けなくなってしまったらしい。
しかもそのネットは、よくよく見れば周囲の樹木から垂れ下がっている蔓で出来ているようだった。

「CI、どうなってるんだ?」
「狼の脚が、人為的に作られた蔓の網に絡まっているようです。これじゃあ・・・まるで狩りの為の罠みたいだ」
「罠って・・・それじゃあ、近くに道具を利用するような知的生命体が存在するっていうこと?」
もちろん、その可能性は十分にある。
だが取り敢えず、この狼は罠から外してやっても良いだろう。
「キュゥ・・・オウゥン・・・」
そしてそんな縋るような弱々しい鳴き声に背中を押されて狼の脚を蔓のネットから外してやると、彼は嬉しそうにペロペロと私の顔を数回舐め上げてから何処かへと走り去ってしまっていた。

「ああ、良かった・・・」
「それにしても、よくCIに噛み付かなかったな。助けてくれるって分かってたんだろうか?」
「それは分からないですが、少なくともこの罠を作った存在は明らかに高い知能の持ち主です」
一体この森には、何が棲んでいるというのだろうか?
「分かった。とにかく気を付けて進んでくれ。植生や生態系もこちら側とは違うだろうが、まずは警戒第一だ」
もちろん、それは分かっている。
それに、さっきの狼が嵌っていたような罠があれ1つしかないとは限らないだろう。
だがそんなことを考えている内に、私は地面に咲いていた不思議な色の花に思わず目を奪われていた。
7枚ある細い花弁がまるで玉虫色のように光の加減で色合いの変わる構造を持っているようで、微風に揺れる度に見た目の色が絶え間無く変化していく。
「あら、綺麗な花ね。観賞用にぴったりだわ」
「確かに・・・でも以前見つけた麻薬花のような例もあるから、検査してみないと安全かどうかは分からないよ」
やがてそんな船での会話を聞きながら摘み取った花を検査シリンダーに入れてみると、私は周囲を警戒しながらスキャンを開始していた。

ピ、ピ、ピ・・・ピー・・・
「ん・・・花自体は色合いが特殊なこと以外にはこれといった特徴が無いみたいだけど・・・CI、根を掘れるかい?」
「根?」
そう言われて、私は今し方茎から上を摘み取った花の根っこを掘り返してみた。
するとそこに、大きな玉葱大の球根が姿を現す。
「大きな球根ね。食べられるのかしら?」
「まあ、大部分はね。ただ、中に3粒だけ入ってる、細い涙型の種子は猛毒を持ってるみたいだ」
「水溶性の神経毒だな。種を取り除いてよく水にさらせば、野菜としては食べられるんじゃないか?」
ということは、これはFarthで初めて見つけた根菜類ということになるのだろうか?
こんな熱帯雨林の真ん中にポツンと根菜が実っているというのもなんだか不自然な気がするが、取り敢えず有用な発見であることは確かだろう。

「じゃあ、食べてみても良いかな?」
「あ、ちょっと待って・・・この毒、未知の構造式だわ。多分CIのバイオ抗体でも解毒には時間が掛かるわよ」
「致命的な毒なのか?」
確かに言われてみると、こんな構造の毒素は地球上には一切存在していない。
組成さえ分かれば人工的には作れるから後で抗体を組み込むことは出来るだろうが、これが今の私の体内に大量に入ったら流石に命が危ないだろう。
「呼吸循環器系さえ侵されなければ軽い麻痺程度で済みそうですが・・・今のCIは解毒に10倍の時間が掛かりますよ」
そう言うことなら、今は解析だけして後で毒見してみるとしようか・・・
そう思いながら球根を割ってみると、確かに玉葱のように幾層にも重なった繊維の中にまるで鏃のように先の尖った細長い種が3粒だけ綺麗に配置されていた。
種がこんな猛毒を持っているというのに、花の方には特にその毒素が吸い上げられないんだな・・・

ヒュッ!
だが次の瞬間、私は顔の直近を何かが高速で横切った気配にハッと周囲を見回していた。
今のは・・・明らかに羽虫などの動物の動きではなかった。
「CI!囲まれてるぞ!」
その切迫したリーダーの声に慌てて相対マップへと目を向けると、私は周囲に何時の間にかさっきまで見られなかった大型の熱源が実に15個以上も出現しているのに気付いていた。
その全てが、私から14〜20メートルという至近距離に集まっている。
何時の間にこんなに大量の動物が私に接近していたというのだろうか?
いや、それよりも・・・そんなに大量の動物がすぐ近くにいるというのに、どういうわけか私の眼にはただの1匹も動物の姿が見えないのだ。
熱源探知に掛かっているということは少なくとも地中等に潜っているわけではないし、探知高度も精々樹高と同じ20メートル程度までしかないから間違い無く視界の中に何かがいるはずなのだ。
熱源の大きさから考えて体のサイズは人間よりも一回り小さいくらい・・・精々体高70センチ前後の動物だろう。

「どういうこと?カメラでも何も見えないわよ?」
カッ!
とその時、私は背中に何かがぶつかった感触に気付いて背後を振り返っていた。
ポト・・・
その瞬間、恐らくは今ぶつかった物だろう小さな白い物体が地面に落ちるのが視界に入る。
「これは・・・さっきの根菜の種子・・・?」
猛毒を持つという種子が何処からか飛んで来て、私の骨格に弾き返されて地面に落ちたということだろうか。
つまりこの未知の動物達は・・・あの涙型の種子を天然の毒矢として使っているということになる。
私の体表はその8割以上がアンバーメタルによる強固な骨格で覆われているからこんな小さな鏃が刺さる可能性は極めて薄いものの、それでも万が一粘膜にでも食らえば危険だろう。

「CI、とにかく早くその場から離脱しろ!敵が見えないなら応戦しようがないぞ!」
そうは言うものの、相対マップに映っている熱源は私の全周囲をほとんど隙間無く取り囲んでいた。
いや・・・厳密には樹木の密集していない前方にだけは敵のいないスペースがあるのだが、それはつまり敵は樹上にいるということなのだろうか?
とは言え肉眼で正体が視認出来ない以上、確かにこの場所に留まるのは得策ではない。
私はそう意を決すると、弾かれたようにその場から走り出していた。
敵が樹上にいる可能性が濃厚な以上、立体起動装置を使うのは危険を伴うという判断からだったのだが・・・
ドッ!ズボアッ!
「うわああっ!」
何とか周囲を取り囲む熱源の輪の中から抜け出そうとしたその時、私は思い切り踏み締めた黒土の地面が突然崩れて大きな穴の中へと落ちてしまっていた。
それと同時に丈夫な樹の蔓で編まれたネットの間に両脚が嵌まり込んでしまい、直径2メートル近い穴の中で全く身動きが取れなくなってしまう。
これは・・・落とし穴・・・?
私が見えない敵から逃れようとここを走り抜けることを計算して、こんな大穴が予め掘られていたというのだろうか?

深さは精々1.5メートル程度の落とし穴としては極々浅い穴ではあったものの、両脚に絡まってしまった丈夫なネットのお陰で上手く立つことが出来そうにない。
バシッ!
「アギャッ!?」
そして周囲の状況を飲み込む暇も与えられぬまま、私の顔に真っ赤な柔らかい球が投げ付けられていた。
それが当たった途端に大量の赤い粉末が周囲に飛散し、私の眼と呼吸器に焼けるような熱さを塗り込んでくる。
これも・・・さっきの香辛料の球花・・・?
余りに痛くて眼が開けていられない上に、鼻や舌もビリビリと痺れるような痛みが神経を直接痛め付けているようだ。
「キィ!キキィッ!」
「キキキィッ!」
ヒュッ!ドスッ!
更には悲鳴を上げて大きく開けられた私の口の中へ先程の毒の鏃が撃ち込まれると、私はあっという間に全身の感覚が痺れて痙攣している感覚に陥っていた。

か、体が動かない・・・それに・・・声も・・・
一瞬にして聴覚以外の全ての感覚を奪い取られ、私は半ばパニックに陥っていた。
普段であればどんなに強力な毒や菌に冒されてもものの1分もすれば9割以上中和や解毒が出来るというのに、この未知の組成を持つ毒は致命傷にこそならなかったものの長時間私の体の自由を奪い続けることだろう。
「キキッ!」
「キキキッ!」
だがこの甲高い特徴的な鳴き声に、私は聴き覚えがある。
というよりも、簡易的な道具を使用する知能の高い動物の存在を認知した時点でこれは当然予測しておくべき事態だったのだ。

「この鳴き声・・・猿よね?」
「確かに・・・少なくとも地球上の霊長類に近い種の生物なのは間違い無さそうだね」
「だが、相変わらずカメラでも姿が見えないぞ。複数いるのは間違いないが、何処にいるんだ?」
強烈な唐辛子の目潰しで視界を奪われた私は、船とリンクしているカメラからの画像で周囲を確認していた。
だが女性船員の言う通り、何処を見回しても周囲に他に動物がいるようには見えない。
もしかして何かに擬態しているのか・・・或いは、擬装のようなものを纏っているのだろうか・・・?
「CI、感度は鈍くても良いからモーションセンサーを使ってみてくれ。少なくとも投擲物は感知出来るはずだ」
確かに熱源探知が役に立たない以上、そちらの方がまだ敵の正確な位置を掴めるかも知れない。
そして感度をかなり鈍めに設定したモーションセンサーを起動してみると、周囲の樹上で確かに複数の影が動いていた。
試しにその地点にカメラをズームしてみると・・・
「あれは・・・カムスネーク・・・?いや、その外皮だけか?」
よくよくカメラの画像を確認してみると、確かにカムスネークのような周囲の景色を反射する鱗のような板状の物が微かに揺らめいていた。

「多分カムスネークの皮を盾のように加工して視覚を偽装してるんだ。CI、DFで応戦出来ないかい?」
DFで?確かDFには、攻撃用の機能は無かったはずなのだが・・・
「DFで一体どうやって応戦するの?」
「体当たりさせるんだよ。CIも体が痺れていて兵器が使えないから、反撃方法は現状それしかない」
「確かにそうだな・・・チームワークに長けた敵だけに、少しでも反撃出来れば統制を崩せる可能性はある」
成る程・・・どちらにしても体の自由が効かないのなら、やってみる価値はあるだろう。
私はそう思ってDFを肩から射出すると、一旦樹上に上昇させて周囲の様子を見回していた。
いた・・・!
確かに樹の枝の上に、私の方へカムスネークの皮で作った板のようなものを向けながら立っている毛むくじゃらの猿のような生物が複数見える。
その中の何匹かは手にあの唐辛子の球花や大きな葉っぱを巻いて作ったと見える吹き矢のような物を持っていて、皆一様に罠に嵌った私の様子を遠巻きに窺っているらしい。

「やっぱり猿のような生物ね」
「だが、知能が恐ろしく高いな。落とし穴に目潰し、毒の吹き矢に蔓のネットまで扱うなんて」
「でも・・・彼らはCIを捕獲してどうするつもりなのかしら?」
確かに、連中の目的は依然として不明なままだ。
さっきあの狼のような生物が捕らわれていた穴は明らかにあのくらいの中型動物を対象に仕掛けられた罠だったから、そちらの方はまだ食料の確保という名目が立つだろう。
だがこの大穴は明らかに私を捕らえる為に急遽掘られたものだろうし、そうかと言って如何に高い知能を有していても世界一強固なアンバーメタルの強化骨格で覆われた私の体に彼らが傷を付けられるとは到底思えない。
だが取り敢えず、当面の窮地を凌ぐ為にも出来る反撃はすべきだろう。
私はそう思ってDFを一旦更に高く上昇させると、姿が露出している1匹の猿目掛けてそれを急降下させていた。

ゴオオオオッ!
落下角を45度に保ったままロケットブースターを最大出力で噴射し、あっという間に時速300キロ以上にまで加速された弾丸が無防備に晒されていた猿の背中へと直撃する。
ズドォッ!
「ギャヒッ!」
DF自体の重量が軽いこともあって高速で激突したにもかかわらず致命傷は与えられなかったものの、突如として天空から爆撃された猿は地上8メートル近い樹の枝から地面の上に真っ直ぐ墜落していた。
ドシャッ!
「ギ・・・キィ・・・」
「キキッ!?キキキィ!」
「キキィッ!キキ!?」
周囲の他の猿達も、突然仲間が突き落とされたことに驚いて狼狽しているらしい。

「CI、抗体の合成が完了したよ。後十数秒もあれば解毒出来るはずだ」
だがその船員の報告に安堵したのも束の間、私は仲間を攻撃されて逆上した猿達が一斉にカムスネークの盾を放り投げてその姿を露わにしたことに戦慄していた。
ま、まずい・・・早く動かなくては・・・
仮に武器による攻撃のほとんどは無効化出来たとしても、私の体の半分は生身なのだ。
身動きの取れないところをあんな大勢の猿達に攻撃されたら、死にはしないまでも大きな損傷を受けることは免れないだろう。
やがて怒りの形相を浮かべて次々と樹の上から飛び降りてくる猿達の姿を絶望的な表情で見つめながら、私は解毒が完了するまでのほんの数秒間をまるで悠久の歳月のように感じたのだった。

野生の猿に極めて外見が酷似した、薄茶色の短毛を纏った二足歩行の獣。
その姿は人間に比べれば明らかに進化の途上甚だしい原始的なそれだったもの、恐らくは言語に近い信号で互いに意思の疎通を図りながら自然に存在する毒や劇物を用いて狩りを行い、集団で獲物を罠に追い込む知能を持つ・・・
恐らく彼らはこのFarthにおいて、最も知能の高い生物の1つに数えられる存在なのだろう。
そんな連中が今、仲間を攻撃された怒りに我を忘れて未だ身動きの取れぬ私目掛けて殺到しているのだ。
ズガッ!
「ギャッ!」
そして眼前に1匹の猿が迫って来た様子に気を取られていると、突然背後から硬い何かで思い切り後頭部を殴り付けられていた。
「す、素手じゃなくて石で殴り掛かるなんて・・・」
「CIが動けるようになるまであとどのくらいだ?」
「解毒はもう5秒もあれば完了しますが、それまでにあの数の猿に襲われてどれだけのダメージを受けるか・・・」

ま、まだ・・・5秒も掛かるのか・・・
ゴッ!グシャッ!ガスッ!
「ガッ!・・・ウゲッ!・・・ギャハッ!」
やがてあっという間に周りに集まった数匹の猿達が、皆示し合わせたかのように拳大の歪な形をした石を手にして私の頭を四方から次々と殴り付けてくる。
周囲には彼らの持っているような石が転がっている様子は無いから、恐らくは大型の獲物を仕留める為にこうして打撃用の石をそれぞれが身に着けているのだろう。
体の大部分を覆うアンバーメタル製の強化骨格には攻撃が効かないことを本能的に理解しているのか、一見闇雲にも見える彼らの殴打は1つ残らず私の生身の体の部分へと叩き込まれていた。
ドスッ!ズブッ!ザグッ!
「アギャアッ!」
更には下半身の方へ先の尖った木の枝を持った連中が迫って来ると、尻穴や強化骨格に覆われていない腿の裏側などの弱い部分へ的確にその切っ先を突き刺してくる。

あ、後・・・2秒・・・
だがそんな1秒が1分にも1時間にも感じられるような修羅の時の中、私は世にも恐ろしい光景を目の当たりにしてしまっていた。
あの唐辛子の粉末のような大量のカプサイシンを含んだ真っ赤な球花を手にした猿が、あろうことか私の股間に走っていたスリットへとその手を伸ばしていたのだ。
そん・・・な・・・止め・・・それだ・・・けは・・・
だがそんな制止の声を上げる間も無く、彼の意図を察した他の猿が両手で私のスリットを大きく開いてしまう。
グイッ!
「アギッ・・・」
「解毒完了よ!」
そして船から聞こえてきたその声がまるで合図になったかのように、全身の感覚を完璧に取り戻した私のスリットの中へ真っ赤な球花がグリッと押し込まれていた。

その瞬間、私は恐らく時間にしてコンマ数秒に満たないはずの覚悟の刻を何倍にも引き伸ばされながらゴクリと息を呑んでいた。
ジュッ
だが無限に続くかと思われた静寂が呆気無く破られた瞬間、敏感なスリット内がまるで爆発したかのような想像を絶する激痛が私の全身を燃え上がらせていた。

「ヒギャアアアアアアアアアアアアッ!!!」
森中の木々がざわめくようなその凄まじい悲鳴に、寄って集って私を痛め付けていた猿達までもが驚きに目を瞠りながら一瞬たじろいだ気配が伝わってくる。
だが当の私は、絶え間無く注ぎ込まれる壮絶な激痛に悶絶を極めていた。
スリット内に押し込まれた球花が圧迫される度、純粋な刺激物の塊であるカプサイシンの粉末が際限無く溢れ出していくのだ。
ただでさえ口内の粘膜にほんの一撮みでも触れれば焼けるような熱さと辛さを齎すそれが、より敏感な肉洞内に収まったテニスボール大のスポンジからたっぷりと噴き出すという地獄絵図。
「ヒギッ!アガ・・・アギャアアアガアアアアッ・・・!」
「CIのバイタルがかつてない程乱れています。早くモルヒネの投与を・・・」
「だが、モルヒネでは鎮痛作用は引き出せても再び運動神経を弱らせることになるぞ。この状況では・・・」
確かに、大勢の猿達に取り囲まれているという窮地を脱していない以上、モルヒネの投与でより無防備な状況に自身を追い込むことは自殺行為に等しかった。
それは自分でも分かっている・・・分かっているのだが・・・

「イギイイイィィィッ!!」
耐え難い激痛に悶え暴れる度に球花が圧迫され、粘膜に覆われた肉棒が、スリットの内部が、焼けるような激痛とともにじわじわと腫れ上がっては爛れていく。
こんな痛み・・・仮に体の方は耐えられても頭の方がどうにかなってしまいそうだ・・・
「まずい・・・激痛のショックで今にも意識を失うぞ。とにかく生命維持を優先して、モルヒネを投与しないと」
「・・・良し、許可する」
「了解、遠隔操作でモルヒネを投与します」
その数瞬後、私は神経を掻き乱されるような激痛の嵐がほんの少しだけ和らいだような気がした。
初回のモルヒネの直接投与量は20ミリグラム・・・これでもかなりの効果が期待出来る数値のはずなのだが、痛みのレベルが明らかにそれで抑えられる限度を遥かに振り切っているのだ。
「アギッ・・・イギギイィィッ・・・!」
「駄目だわ・・・1回程度の量じゃほとんど効果が無いみたいよ」
「だけど、短時間に大量の投与は逆に危険だ。時間を置かないと生命維持器官の方に障害が出る可能性もある」

ゴッ!バギッ!ドズッ!
「ギャハッ・・・」
モルヒネの効果で私の反応がほんの少し鈍ったことを察知したのか、それまで手の止まっていた猿達の攻撃が再び開始されていた。
とはいえ、石による殴打や木の枝による刺突程度であれば致命傷を受ける可能性は極めて低い。
それならば、もう少しモルヒネの投与量を増やした方がまだ状況が好転する公算は高いはず。
だがそう思って追加のモルヒネを打とうとしたその時、突然目の前に居た1匹の猿が何の前触れも無く私の視界の中から吹き飛んでいた。
「ガウアアアッ!」
「ガルルルアァッ!」
そして一体何が起こったのかと周囲に視線を巡らせる前に、大勢の狼達が私の周囲に群がっていた猿達に次々と噛み付いては地面の上に縺れるように転がっていく。

あれは・・・さっき私が罠から助け出した狼・・・?
この猿達の狡猾な罠から救ってくれたお礼ということなのだろうか・・・
先程の狼が大勢の群れを引き連れて来たらしく、私の周囲に群がっていた猿達があっという間に全て彼らの咬撃の前に命を落とすか這う這うの体でその場から退散していった。
そしてものの数十秒も掛からぬ内に私の周囲から猿達を完全に追い払ってしまうと、恐らくはさっき罠に掛かっていた個体だろう右足に小さな傷跡のある狼が私の方へと近付いてくる。
「クウン・・・クウゥン・・・」
「お前・・・さっきのお礼に、助けてくれたのかい?」
「やだ、可愛い・・・」
まるで甘えるように私の顔に鼻先を擦り付けてくるその狼の姿に、私はふぅっと長い息を吐くと追加のモルヒネを投与していた。
そして動きの鈍くなった体で何とかスリットの中に押し込まれていた球花を取り出すと、洗浄用にストックしてある蒸留水を大量に掛けてスリット内の赤い粉末を全て洗い流してやる。

「本当に助かったよ・・・ありがとう・・・」
どうやら、この狼達とあの猿達は種族的な対立関係にあるらしい。
地球からは遠く離れたこのFarthでも、犬猿の仲というのは変わらないということだろうか。
やがて受けた損傷をある程度回復してようやっと体を起こしてみると、最初にDFの体当たりを受けて樹の上から落下した猿がまだ地面の上でぐったりと伸びているらしかった。
「あいつはまだ息があるな・・・」
私はまだその猿に呼吸があることを確認すると、取り敢えずナノマシンシューターでバレットを撃ち込んでいた。
バシュッ!ドスッ!
「ウギッ・・・ィ・・・」
それを見てまだ彼に息があることに気付いたのか、数匹の狼達が既に瀕死の猿をゆっくりと取り囲んでいく。
「CI、検査結果よ。やっぱり地球上の霊長類と酷似した生物ね。大脳が発達していて、知能指数がかなり高いわ」
「ただ、恐らくまだ火を扱う段階までは進化していないね。極々初期の類人猿っていう感じだ」
ということは、やはりまだこのFarthに人間に近い段階まで進化した知的生命体は存在しないと見て良いだろう。

「ギャッ!アガッ・・・キキイィッ・・・!」
そして怒り狂った狼達の牙で無惨に引き裂かれた憐れな猿の最期を見届けると、私は一先ず息を吐こうと地面の上に腰を下ろしていた。
どうやらこの狼達は完全に私のことを仲間の一員だと認識しているらしく、先程助けた個体だけでなくここにいる十数匹の狼達全員が私に対する警戒を完全に解いているのがヒシヒシと伝わってくる。
この動物達なら、あの凶暴そうなバットタイガーとは違って本当の意味で人間達の良きパートナーとなることだろう。
無事に帰還出来るのであれば、研究対象兼船員達の癒しとして1匹船に連れ帰ってみるのも悪くないかも知れない。
そして大勢の狼達に囲まれながらある程度の損傷の修復が完了すると、私はゆっくりと地面から体を起こしていた。
今の時刻は1437・・・まだ昼を回って少しという程度だし、取り敢えずはこのまま調査を続けても問題無いだろう。
だがそう思って鬱蒼と茂った木々の間から何時の間にか薄暗くなっていた空を見上げた私の顔に、突然ポツポツと冷たい雫が落ちて来ていた。

ザザ・・・ザアアアアアアーーー・・・
ついさっきまでは多少曇っているだけだったというのに、本当に何の前触れも無く激しい雨が降り始めたのだ。
「ブルル・・・グルルル・・・」
正にバケツを引っ繰り返したようなという表現がぴったりな程の猛烈な雨の勢いに、狼達も流石に雨曝しは辛いのか低い唸りを上げながら大きな木の幹に寄り添うようにして身を潜めている。
少々湿っているだけだった黒土の地面にはあっという間に泥濘や水溜りが広がって行き、そこに垂れている樹の蔓がまるで躍動でもしているかのように水分を吸い上げている様子が私にも伝わって来た。
「CI、こちらで観測している限りでもかなり激しい雨のようだが、問題は無いか?」
「はい、狼達も一時的に樹の下に退避しているだけですので、恐らく長時間は続かないかと思います」
そしてその想像通り、ジャングルを潤す大雨はものの十数分でまるで嘘のように上がってしまっていた。

「ふぅ・・・思ったよりも降ったな・・・」
ほんの十数分とは言え、時間当たりの降水量で言えば100ミリ近い豪雨だ。
地面は一面泥沼のようにぬかるんでいて、200キロ近い体重を支え切れない土がずぶりずぶりと大きな足跡を私の背後に残していく。
周囲の樹の陰に身を潜めていた狼達もようやく雨が上がったことに安堵してブルンブルンと体を震わせながら私の許へ再び集まって来たものの、樹々の枝葉が蓄えた大粒の水滴がポタポタとまるで残雨のように降り注いでいた。
取り敢えず、しばらくは雨後の密林を探索しながら進むとしよう。
見れば雨に濡れた葉の上には蛙に似た両生類らしき動物や、地面から出て来たのだろうミミズのようなワームが姿を現しているのが目に入る。
短い雨の前後で表出する生態系がガラリと変わってしまうのも、数え切れない生命に満ち溢れた熱帯雨林ならではというところだろうか。

ピ、ピ、ピ・・・ピピピピピ・・・
「CI、結果よ。小型の蛙に近いけど、脚の筋肉がかなり発達してるわね。体格に比して相当な跳躍力があるはずよ」
「それと、体表を覆ってる粘膜には若干の毒性があるみたいだ。両生類の仲間なら珍しいことじゃないけれどね」
「雨が降って出て来たってことは、地面にいるミミズのような虫を捕食している可能性が高いな」
地球と同じように長い年月を掛けて醸成されてきた仕組みなのだから当然と言えば当然なのかも知れないが、生態系というものは本当に良く出来ていると言わざるを得ない。
そして試しに地面に姿を現したワームをスキャンに掛けてから蛙の前にそれを放ってみると、突然目の前に現れた餌に蛙が目にも止まらぬ速さでパクッと食い付いていた。
普段なら地面に降りてドロドロの地面を泳ぐようにして獲物を見つけるところを、簡単に餌が手に入ったことで蛙も大層満足している様子だ。

やがて幾つかの動植物を新たにアーカイブに加えながら更にしばらく歩いていくと、途端に森が切れて広い草原のような場所が目の前に出現していた。
森の終端まで、船からの距離は約12.6キロ・・・どうやら、私が想像していたよりは奥行きの無い密林だったらしい。
地面にびっしりと絨毯のように生えている薄緑色の草は最長でも十数センチ程度と短く、あちこちに坂や勾配のあるうねった大草原がかなり奥の方まで続いているようだ。
あれから私と同行を決め込んでいるらしい狼達もようやく鬱蒼とした森を抜けてゴロンと濡れた草の上に寝転がったり、思い思いに周囲を駆け回ったりしている。
「ガウオッ!」
だがその時、不意に私の傍にいた1匹の狼が私の腕を軽く咥え込んでいた。
「わっ!?ど、どうしたんだ?」
それに驚いて狼の方に視線を向けると、彼が10時の方角を睨み付けながらグルルルと警戒の唸り声を発している。
そして彼の視線の先を追うようにそちらへ顔を向けてみると、あのバットタイガーとは違う、スラリとした豹柄の紋様を身に纏うネコ科らしい動物がずっと遠くで2匹並んでこちらを見つめていた。

だが、連中との間にはまだかなり距離がある。
こちらが風下だから狼達も匂いでその存在に気が付いたのだろうが、110メートル以上も離れていればどんな肉食動物でもまだ射程距離には入らないはずだ。
それなのに、たった2匹の豹達に十数匹はいるはずの狼達が明らかに激しい警戒心を抱いていた。
ジリ・・・ジリ・・・
更に狼達を観察していると、彼らが一斉に豹達の方向を見つめたままゆっくりと後退っているらしい。
先程私の腕に噛み付いた狼も、まるでこっちへ来いとばかりに私の腕を強く引っ張っているようだ。

野生の動物には、フライトディスタンスというものがある。
それはこれ以上対象に近付いたら危険だと感じる一種の間合いであり、一般的には知能が低く臆病な動物程その距離は長くなる傾向にある。
雀などの小さな鳥が決して人間には近付かないのに対して、カラスやセキレイなどの賢い鳥が直近まで人間に近付いて来るのはその為だ。
しかし逆に、知能が高いが故にカラスのフライトディスタンスが雀のそれを遥かに上回るケースが存在する。
人間が長い棒を持っているなど、攻撃範囲が通常よりも広いと認知した場合がそれだ。

少なくとも群れを作り十分な社会性を持っている上にあの猿達にも果敢に飛び掛かって行ったこの狼達が、仮にあの豹達より弱かったとしてもそれ程臆病で繊細な性格をしているとは考えられない。
つまり彼らがこれほどまでに警戒心を露わにしているのは、この位置が既にあの豹達に対するフライトディスタンスの遥か内側に入ってしまっていることを如実に示していた。
「CI、周囲の狼達が怯えているようだが、一体どういう状況なんだ?」
「116メートル先に、2匹の豹のような動物を見つけました。恐らくですが、既に射程距離の中に入っているようです」
「116メートル?仮に時速100キロでも4.3秒、トップスピードに乗る時間を考えれば6秒以上は猶予がある距離だよ?」
もちろん、計算上はそうだ。
一般的にあの手の動物の全力疾走は時速100キロから110キロ程度に達することはあってもその持続時間は短く、持久力は80%から90%程度の速度で走ったとしても精々1分にも満たない程だ。
トップスピードに乗った状態での計測でなら地球上のチーターも100メートルで3.07秒という記録があるそうだが、何れにしても攻撃を仕掛けてくるにはまだまだ距離が離れ過ぎているはずだった。

「とにかく、蛇の道は蛇だ。狼達が危険だというのなら、ここは素直に距離を取った方が良い」
もちろん、それはそうだろう。
しかし同時に、これはナノマシンライフルを発射出来る適正距離でもある。
「一応、威嚇を兼ねてナノマシンを撃ってみます。怯んで逃げればそれでも良いし、最悪でも手傷は負わせられます」
「分かった。だが一応は応戦用の武器もアンロックしておけ」
確かに、傷を負わされたことに怒り狂って突撃してくることは十分考えられるだけにいざという時の為に制圧用の銃器くらいは装備しておいても良いだろう。
「了解、短距離ショットガンのセーフティをアンロックします」
そしてナノマシンライフルを取り出すと、私は慎重にスコープを覗いて遠くにいる豹へと狙いを定めていた。
距離115.8メートル、向かい風秒速2.1メートル、湿度48%、重力加速度毎秒9.8メートル・・・
ほんの100メートル超の狙撃とは言え、撃ち出すのはライフリングの施された鉛ではなく軽いチタン製の弾だ。
その材料による比重の差は実に4分の1・・・当然風や空気抵抗の影響も大きく、動かない目標と言えども体高70センチ程度の正面を向いた獣に命中させるには緻密な計算が要る。
そして何とか弾道計算が終わると、私はゆっくりと息を吐きながらトリガーを引き絞っていた。

ドオン!
最新鋭の装備に身を固めた私にとっては何処か古臭く感じてしまう黒色火薬の炸裂する爆音とともに、撃ち出された亜音速のバレットが真っ直ぐに116メートル離れた豹目掛けて飛翔していく。
ドスッ
「ギャッ!」
そして見事バレットが命中すると、微かな悲鳴のようなものが風に乗って届いて来たような気がした。
豹達もまさかこんな遠距離から攻撃されるとは露程も思っていなかったのか、突然手傷を負った仲間の様子に狼狽えているらしい。
よし、今の内に距離を取っておこう。
そして狼達に囲まれるようにしながら更にその場から5メートル程後退すると、ようやくナノマシンによるスキャン結果が届いてくる。

「CI、スキャンの結果だけど・・・その前にもっと距離を取った方が良い。最低でも200メートルは離れるんだ」
「そんなに?」
「筋肉の構造からみても、多分最高時速は90キロ程度で地球上のチーターよりは少し遅いくらいだと思う」
チーターよりも遅い?それなら、一体何をそんなに警戒しているというのだろうか?
「ただ、持久力が桁違いなんだ。恐らく全力疾走を5分以上続けられる心肺能力がある」
そんな馬鹿な・・・
この見通しの良い広い草原で、時速90キロなんて速度で5分以上も追い掛け回されたりしたらどんな動物だって逃げ切れるはずがない。
全力疾走の距離が実に7500メートル以上あるということは、あの豹達の姿を肉眼で目にした時点で既に射程距離に入っているも同然だろう。

とその時、ようやく私から攻撃されたのだという事実に気が付いたらしい2匹の豹達がほとんど同時にこちらに向かって走り出していた。
走り出しから僅か3秒というスーパーカーも驚きの加速力でトップスピードに乗り、その2秒後には既に私の眼前にまで薄茶色の猛獣が迫って来る。
「う、うわあっ!」
そして時速90キロの速度そのままに飛び掛かって来た豹の勢いにショットガンを構えるのも忘れて両腕で身を護ると、ガギンッという硬質な音と共にアンバーメタルの装甲が振り翳された凶悪な爪撃を弾き返していた。
さ、流石は世界最強の合金だ・・・あの勢いで切り付けられたのに傷1つ付いていないなんて・・・
だが安心したのも束の間、今度は少し遅れて走って来た怪我をした方の豹が同じように飛び掛かって来る。

「ガアゥッ!」
だがその横から1匹の狼が豹に食って掛かると、吹き飛んだ2匹がゴロゴロと草の地面の上を転がって行った。
「ガウワウ!グオアッ!」
「ウォウッ!グルルル・・・」
他の狼達も私を護ろうとしているのか、或いは群れとして対抗しなければやられるという危機感を抱いているのか、皆一斉に威嚇の唸り声を上げながら最初に飛び掛かって来た豹を取り囲んでいる。
そしてまるで示し合わせたかのように前後から噛み付きを敢行した狼達の牙を難無くかわすと、豹がその異常なまでの俊敏さで私達の周囲を旋回し始めていた。
ザザッ!ザザッ!ザザッ!
何て速さだ・・・これじゃショットガンなんてとてもじゃないが撃てないぞ・・・

ズバッ!
「ギャウン!」
ザグッ
「キャインッ!」
更には猛然と周囲を駆け回りながら、眼が追い付かずに敵の姿を見失った狼に的確に強烈な爪撃が叩き込まれていく。
まるで勝負にならない・・・
たった1匹の豹相手に十数匹の狼達が手も足も出ないまま翻弄され、次々と深手を負わされては地面の上に転がっていくのだ。
最初に狼が食って掛かった豹は奇跡的に喉元にでも食らい付けたのかそのまま仕留めることが出来たらしいものの、この異常なまでの素早さの前には不意打ちでなければ敵を捕まえることさえ容易ではないだろう。

「キャンキャン!」
「キャウーン!」
そして五体満足の狼達がもう残り数匹になってしまうと・・・
彼らは豹が攻撃のターゲットを私に向けた気配を察した瞬間にまるで一斉に蜘蛛の子を散らすようにその場から逃げて行ってしまったのだった。
これで1対1・・・
同士討ちを気にしてショットガンの発砲を控える必要はもう無くなったものの、果たして散弾の攻撃範囲でもこの俊敏な獣を捉えることは出来るのだろうか?
そうこうしている内に、再び豹が私の周囲をグルグルと回り始める。
眼が追い付かない・・・どんなに注意を切らすまいとしていても、一瞬は死角に回り込まれてしまうのでは何時攻撃を受けてもおかしくないだろう。

いや・・・それならそれで、意図的に攻撃を誘えば良いのだ。
そして忙しなく周囲を駆け回る豹の動きを追うのを止めると、私は聞こえてくる音だけにじっと意識を集中していた。
ザザッ・・・ザザッ・・・ダッ・・・!
今だ!
それまで規則的に聞こえていた足音が変化した瞬間、私は真後ろから飛び掛かって来る豹の気配を確信して立体起動装置のバックブラストを噴射していた。
ブシャアアアッ!
「ギャバッ!」
その瞬間200キロの体を垂直に持ち上げるだけの出力を持つ強烈なブースターが飛び掛かって来ていた豹に直撃し、高温の炎で顔を焼かれた苦しみに地面へと墜落した豹がバタバタとのた打ち回る。
そして一目散に草原の向こうまで走って行ってしまうと、私は数匹の狼達の亡骸の真っ只中でドサリと地面の上に座り込んでいた。

「ふぅ・・・」
ある程度想像はしていたものの、ここは何という過酷な環境なのだろうか。
多種多様な生物達が犇くこの熱帯地方では、豊富な食料や資源が存在する一方で危険な動植物が余りにも多い。
もちろんそれは地球でも同じことが言えるのかも知れないが、少なくともこの辺りに人間達の生活拠点を築くのはかなり難しいような気がする。
ドォン・・・ドォン・・・
やがてそんなことを考えていると、私はふと何処からか断続的な地響きが聞こえてくることに気付いていた。
これはもしかして・・・足音なのだろうか・・・?
だが一体どんな生物なら、これ程重々しい足音を響かせることが出来るというのだろうか。
そう思って周囲に目を向けてみると、ずっと向こうに大きな象のような生物が1頭見える。
体高は・・・
だが一面短い草の生えた草原では周囲に比べる物が乏しいせいで、距離感と正確なサイズが今一つ計りにくい。
「そうだ、ナノマシンライフルのスコープなら・・・」
距離計の付いているライフルスコープなら、直線距離で正確な数値が出せるだろう。

「あれ・・・4・・・6・・・0・・・?」
460メートルだって・・・?
そんな馬鹿な・・・一般的なアフリカ象の体高が約3.2メートルだから、私は見た目の比率からその象との距離を大体200メートル強程度と推測していた。
しかし実際には、その倍以上の距離が離れていたらしい。
だとすれば、あの象のような生物は体高が7メートル以上はある計算になる。
私は一瞬その想像を否定しようとしたものの、460メートル先からここまで響いてくるゆっくりとした間隔の足音がその計算の正しさを立証しているようだった。
「あれって・・・象・・・なのよね・・・?」
「どちらかというとマンモスに近い体付きだね。外皮も相当硬そうだし、牙に至っては長さが6メートル以上もある」
「体高は7.3から7.5メートルくらいだな。推定体重は30トンくらいか?」
いや・・・アフリカ象の最大種は体高3.9メートルで約10トンの体重がある。
仮にあの象の体高が7.3メートルだとすればサイズ比は1.87倍、体積比なら3乗の6.54倍だ。
もちろん体重もそのまま等倍というわけではないかも知れないが、それでも50から60トン近い超重量だろう。

だがゆっくりとした足取りでこちらに近付いて来る象を見つめている内に、私はふと奇妙なことに気が付いていた。
鼻が・・・2本ある・・・?
遠目からではすぐに分からなかったのだが、どうやらその象は地面にまで達する7メートル近い鼻が根元の部分から左右に分かれていて、実質2本の鼻を持っているらしかった。
やはりこのFarthの動物達は、一見地球上の同種の生物達と似通ってはいても全く別の生き物なのだ。
「CI、どうするつもりだ?」
「射程距離に入ったらナノマシンを撃ち込んでみます。あの皮膚にバレットが通るかは分かりませんが・・・」
「あの象を撃つっていうの?もし怒らせたら大変なことになるわよ」
もちろん、それは覚悟の上だ。
だが体が異常に大きい分、痛みなどの刺激には鈍い可能性も無いわけではない。
そういう体の構造を調査するのも、この調査で私に課せられた役目なのだ。
「一応逃げられるようには準備しておきますが、まずは100メートル程度まで接近しないと」

私はそう言うと、ゆっくりとその象に向かって近付いていった。
向こうもこちらに向かって歩いて来てはいるものの、その速度は精々時速4キロから5キロ・・・
歩幅が大きいから人間が歩くのと同程度の速度が出ているだけで、全体の動作は極めて緩慢と言って良いレベルだ。
そしてしばらくお互いを意識しながらもようやく100メートル程度の距離にまで近付くと、私は想像以上に大きなその巨体に衝撃を覚えていた。
体高7メートル以上ということは、2階建ての家の高さに匹敵する。
そんな巨大な動物がゆっくりとではあるがこちらに迫って来ているという状況に、ナノマシンライフルを構えた私の腕は微かに震えていた。

今度は対象が動いているものの、先程よりも距離が短いし何よりも的が何十倍も大きいのだ。
風も先程までより弱くなっているし、然程綿密な計算をしなくともバレットを命中させること自体は難しくないはず。
ただ問題は、それが体の何処に当たるのかということだった。
手足に掠った程度ではナノマシンが上手く体内に入るかどうか分からないし、そうかといって皮膚の厚い部分ではバレットの貫通力が足りない可能性もある。
そしてもちろん、目や口などの急所に当たったらそれはそれでまずいことになるだろう。
だが流石にこのライフリングの無いチタン製の弾でそんな精密射撃は不可能なだけに、私は意を決して最後のバレットを発射していた。

ドオン!ビスッ!
その数瞬後、象の腕の付け根辺りにバレットが吸い込まれていくのが目に入る。
だが当の象はまるで何事も無かったかのようにケロッとしていて、どうやら自分が今攻撃されたことにも気が付いていないらしかった。
「CI・・・スキャンデータが上がって来ないところを見ると、どうやらバレットは弾かれてしまったようだ」
「・・・そうですか・・・」
やはり、遠距離から分厚く硬い外皮を断ち割って体内にナノマシンを撃ち込むのは至難の業らしい。
だが今の様子から見ても、性格は恐らく温厚なのだろう。
ナノマシンによるスキャンは失敗してしまったが、それならそれで可能な限り観察してみるのも良いかも知れない。

私はそう思って更にゆっくりと象へ近付くと、その余りの巨大さに思わず動きを止めてしまっていた。
「グオオオオォー・・・」
ドオオン・・・ドオオン・・・
一面短い草に覆われた地面の上に大きな丸い足跡を深々と刻みながら、くぐもった鳴き声が静寂に包まれていた草原にこだまする。
だがもう手が触れられるくらいにまで象に近付いたその時、突然二股の長い鼻の内の1本が私の体へと巻き付けられていた。
シュルッ!
「えっ・・・?」
そしてそのまま筋肉質な鼻で全身をギュッと締め上げられると、一気に地上から5メートル以上も持ち上げられてしまう。

ギシ・・・ミシシ・・・
す、凄い締め付けだ・・・鼻に骨があるわけではないようだから流石にカムスネークのそれ程ではないのだが、それでも生身の人間がこんな締め付けを味わったらまず無事では済まないだろう。
そして中空に持ち上げられたまま象の顔の前へ近付けられると、私は漆黒に染まったその瞳に明らかな怒りの色が滲んでいることに今更ながらに気付いてしまっていた。
「う・・・あっ・・・」
メキッ・・・メリィッ・・・
カムスネークの締め付けにも耐えたアンバーメタル製の強化骨格なら、多少軋みはしても破損する可能性は低いはず。
だが象は私の体に締め付けが効果無いことを悟ると、空いていたもう1本の鼻を私の左脚へと巻き付けていた。
そして体に絡み付いていた鼻を解いてそれを今度は私の右脚へ巻き付けると、象が2本の鼻で掴んだ私の体を大きく後方へと振り被る。

「うあっ・・・ま、待っ・・・」
ブオン!グシャアッ!
「ギャハァッ・・・」
草と土に覆われた比較的柔らかな地面だとは言え、そこへ実に10メートル近い高さから思い切り叩き付けられた私はその凄まじい衝撃と痛みに瞬間的に呼吸の自由を奪われていた。
「カ・・・カハッ・・・」
だがそれだけでは飽き足らず、象がぐったりと弛緩していた私の体を再び大きく振り上げる。
「や・・・止め・・・て・・・」
ブン!ズガァッ!
またしても猛烈な勢いで地面に叩き付けられて、私は苦悶に喘ぎながらも何とか身を護ろうと反射的に象の顔へと向けてショットガンを発射していた。

ガァン!
だが細かな散弾程度ではやはりその象皮には効果が無いのか、至近距離からの射撃にもかかわらず象の顔には傷1つ付いてはいないらしい。
グイッ!
「う・・・わああああっ・・・!」
ブオン!ズドォッ!
200キロ近い重量がある私の体が、恐ろしい力で縦横無尽に振り回されるのだ。
体重50トン超の象にとっては、私など精々人間にとってのリンゴ程度の重さにしか感じないのだろう。

ブン!ゴシャッ!
「ギャッ!」
ブオン!グシャァッ!
「ギャフッ!」
ブオッ!ズドォッ!
「ヒギャァッ!」
何度も何度も振り上げられては地面の上に叩き付けられて、何時しか周囲には私の背中の形をした陥没穴が無数に穿たれていた。

「ガ・・・アゥ・・・」
だが幾度と無く叩き付けても一向に私に致命傷を与えられないことを訝しんだのか、やがて象が再び私の体へその長い鼻を巻き付けてくる。
シュルルッ・・・
そしてそのまま中空に保持されると、もう1本の鼻がクンクンと私の体を弄り始めていた。
一体・・・何を・・・
匂いを嗅いでいるのか、あるいは何かを探しているのか・・・
まるで意図の見えないその象の行動に、暴力的な仕打ちを受けていた時以上の不安が心中に募ってくる。
そして体中を弄っていた鼻がやがてある1点で動きを止めると、私は朦朧とした意識の中で自身のスリットの中に力強い筋肉の塊が押し込まれてきた感触にビクンと体を跳ね上げてしまっていた。

ズッ・・・ズリュリュ・・・
「うあっ・・・」
そしてスリットの奥にまで侵入してきた力強い象の鼻が、やがて二股に分かれていた私の肉棒の1本をその穴の中へと吸い込んでしまう。
ズチュブッ
「アヒィッ!?」
更には肉棒を押し包んだ鼻がギュウギュウと蠕動のような動きを始めると、私はその奇妙な感覚にたちまち膨張させた雄槍をスリットの外へと溢れさせてしまっていた。

ゴギュッ・・・ズギュッ・・・
「ガ・・・ァ・・・」
気持ち良い・・・まるで極上の性器に押し込んだかのような純粋な快感が、象の鼻に吸い込まれたペニスから注ぎ込まれてくる。
ズ・・・ジュボッ
「ヒッ・・・」
更には体に巻き付いていた鼻がもう1本の肉棒をその穴の中へ収めてしまうと、私は屈強な鼻で全身を締め上げられながら2本のヘミペニスを容赦無く吸い立てられてしまっていた。

ジュブッ・・・ジュボッ・・・ゴシュッ・・・グギュッ・・・
扱き、締め上げ、吸い上げ、しゃぶり、捏ね繰り回す・・・
手足以上に器用だと言われる象の鼻による執拗な愛撫に、膨れ上がった興奮が熱い奔流となって込み上げてくる。
「ア・・・アッ・・・」
そしてバタバタと両脚を暴れさせながら未曽有の快楽に喘いでいると、不意に私の尻穴に何か鋭利な切っ先を持つ硬い物が押し当てられていた。
見れば雄々しく天を衝いた長さ6メートル余りの牙の先端が、ズブリと音を立てて尻穴へと捻じ込まれているらしい。
「う・・・あああぁっ・・・!」
そして両の肉棒と尻という3つの敏感な性感帯を同時に責め立てられると、私は象牙に無様に串刺しにされたまま2本のペニスから大量の精を溢れさせてしまっていた。

ズブブ・・・グリッ・・・グリリ・・・
「ヒアアアアッ!」
ゴキュッ・・・ゴブッ・・・ズジュブ・・・
200キロ近い自重に任せるままに尻穴へ深々と丸い牙が突き込まれ、溢れ出した大量の精が激しい鼻の吸引によって残らず吸い立てられていく。
た・・・すけ・・・て・・・
ゴギュッ・・・ギュグッ・・・ズジュッ・・・ゴシュッ・・・
圧倒的な体格差によるパワーで捻じ伏せられ、止めど無く精を扱き抜かれながら徐々に尻穴を犯す牙を捻じ込まれるという王者の処刑に、私は成す術も無く善がり狂うことしか出来なかった。

そしてそんな拷問のような責め苦がしばらく続き・・・
それから2時間が経つ頃には、既に精も枯れ果てて抜け殻のようになった私の体が、象の鼻のとぐろの中で浅い呼吸を繰り返すだけとなっていた。
ドサッ・・・
「ガ・・・ゥ・・・」
体内のナノマシンによる修復が到底追い付かない程の、快楽と苦痛による激しい消耗。
最早用済みとばかりに地面に投げ落とされた私は、ピクリとも動かない己の手足を呪いながら自身の上にゆっくりと圧し掛かってくる黒い影の感触だけを感じていた。

ズシッ・・・
巨大過ぎる象の足が地面にうつ伏せに横たわっていた私の背中へと乗せられ、じわりじわりと凶悪な体重が浴びせ掛けられてくる。
ギッ・・・ギシ・・・メキキ・・・
「う・・・うわああぁぁ・・・!」
幾らアンバーメタルが世界最強の硬度を誇る合金だとは言っても、固形ならともかく複雑な形状を持つ私の強化骨格に50トン以上もの超重量を掛けられたら耐えられる道理などあるはずが無い。
この象もそれは理解しているのか、まるで仕留めた獲物を嬲るかのようにゆっくりと私を踏み付けた足へ体重を移していくつもりなのだ。
メキメキ・・・ギシ・・・バキ・・・グシ・・・
「や・・・止め・・・わああぁぁ・・・」
ベギッ・・・メリメリメリ・・・バギャッ!グシャアッ!
そして一際盛大に鳴り響いた破壊音の連鎖と共に、私は巨大な象が地面を踏み鳴らしたドオオオンという足音を轟かせながら文字通り雄大な大地との一体化を果たしたのだった。

「Farth27 1821、通信信号完全途絶・・・CI、機能停止しました」
「至急、今日の調査結果を再アーカイブだ。明日も引き続き陸上の調査を進める」
「素体は同じくアンバーメタル製ですか?」
その船員の言葉に私は小さく頷いていた。
「そうだ・・・最早この地域での調査には、アンバーメタル製の強化骨格の使用が大前提になったと言っても良い」
これまでの温帯気候や亜寒帯気候での調査では、CIの体を物理的に破壊出来るような存在は限られていた。
だがこの熱帯地方での調査においては、アンバーメタル製の強化骨格でさえ十分な強度とは言えないのだろう。
「アーカイブが終わったら、それをすぐに地球司令部へも送信してくれ。この強化骨格の追加製造を承認させるんだ」
「了解です。他にはありますか?」
「・・・あの巨象にもナノマシンを撃ち込めるような強力な兵器は・・・作れそうか?」
そう訊くと、メカニックの船員が少しばかり首を捻る。
「案は幾つかありますが、実測テストが必要ですね。あの象皮のサンプルが取れれば1番良いんですが・・・」
「では、明日はそれをメインの目標に据えよう。搭載する兵器の選定を頼む。もちろん、重火器の使用も含めてな」
「わ、分かりました」

これまでの調査ではまだ扱ったことの無い、重火器の使用をも想定しなければならない程とは・・・
しかしここ最近の調査では、地球司令部でも目を瞠る程に有用な結果が出ているというのもまた揺ぎ無い事実。
今後の調査を安定して継続させる為には、地球司令部にもこれまで以上に汗を流して貰わなければならない。
そして当然ながら、CIにも・・・
この環境調査の為に産み出され、過酷な任務に身を捧げる運命を課せられた彼の働きに報いる為にも、私は私で出来ることを全力で推し進めなければならないのだ。
「リーダー、地球司令部への調査結果の送信、完了しました」
「ご苦労。後は各自休憩に入ってくれ」
私はそう言って宿泊の為の自室に戻ると、まずは熱いお湯を出して顔を洗ったのだった。

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