租税判例のデータベース。

事件の概要

 原告(女性)は、平成9年に約4800万円で購入した福岡市中央区のマンションを、当時の法律に基づいて損益通算が可能であると信じ、平成16年3月10日に約2600万円で売却。直後の3月26日に、不動産譲渡での損失を所得から差し引いて申告できないとする改正所得税法などが成立した。4月1日から施行され、1月にさかのぼって適用する規定が設けられた。
 原告は翌年、その譲渡によって約2000万円の損失が生じたとして、譲渡損を他の各種所得の金額から控除し、約170万円の還付を求め福岡税務署に申告したが、新規定を理由に認められず、改正前なら受け取れるはずの還付金約170万円を得られなかった。
国税側の主張
 国税側は、所得税は1暦年の所得ごとに課税され、暦年の終了時に納税義務が成立する期間税であり、1暦年の途中においては納税義務が成立していないので、暦年途中の法改正によって、その暦年における所得税の内容を変更する本改正は、すでに成立した納税義務の内容を変更するものではないとして遡及適用に当たらないと主張。
 また、仮に遡及適用がなされていると捉えられる余地があるとしても16年1月1日からの適用は節税目的の安売りの売却を防ぐなどの必要性・合理性があるほか、本改正は事前にマスコミで報道されていたため予見可能性もあったので合憲であり、これを根拠になされた通知処分も適法であるなどとした。

判決要旨

 福岡地裁(岸和田羊一裁判長)は、「期間税の場合、納税者の納税義務の内容が確定するのは1暦年の終了時であるが、遡及適用に当たるかどうかは、新たに制定された法規がすでに成立した納税義務の内容を変更するものかどうかではなく、新たに制定された法律が施行前の行為に適用されるのであるかどうかで決せられるべきである。なぜならば、期間税であっても、納税者は、その当時存在する租税法規に従って課税が行われることを信頼して、各種の取引行為などを行う」として、今回のケースが遡及適用に当たると判断した。必要性・合理性及び予見可能性についても、「本改正は生活の基本である住宅の取得に関わるものであり、これにより不利益を被る国民の経済的損失は多額に上る場合が少なくない」ことなどを理由に、本件の損益通算を認めるべきであるとし、国税当局の処分を違法とした。
「改正法をさかのぼって適用すると国民の経済生活の安定などを害し、租税法は原則としてさかのぼって適用されないとした憲法84条に反し無効」
 また、所得税の課税対象期間が始まる同年1月の時点で「改正内容が十分周知されていなかった」とも指摘。女性の主張を全面的に認めた。

検索情報

参考文献・資料

『週刊税のしるべ』第2824号(平成20年2月18日)1面
木佐茂男・九州大大学院教授(行政法)の話 「2004年の法改正は、さかのぼって不利益な適用をしてはならないという租税法律主義の観点から問題のあるものだった。当時から疑問があり、今回のような判決は予期されていた。法の大原則に立ち返り、違憲とまで言い切った点は評価に値する。当時不動産取引をした関係者には、大きな影響がある判決だ。」(日本経済新聞平成20年1月30日夕刊23面)

関係法令等


裁判情報


事件番号
事件名
裁判年月日
法廷名
裁判種別

原審・上訴審

国は判決を受け「判決内容を検討した結果、地裁の判断には疑問があることから控訴して高裁の判断を仰ぐこととした」として、5日付で控訴している。
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類似/参考判例等

H200214東京地裁判決は、不利益遡及も合憲と判断

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