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1945年10月の原子爆弾への対策案
嵯峨根遼吉 (190長岡半太郎の五男として誕生、1929東京帝国大学理学部卒、1943京帝国大学理学部放射能作学講座教授, 1969死去）は、原子爆弾について、『原子爆弾』(朝日新聞社, 1945/10/30)と、『原子爆弾の話>https://dl.ndl.go.jp/pid/1374917]]』(大日本雄弁会講談社, 1949/12/10)という一般書を出版している。
1949年のソビエト連邦による核実験成功に始まる核対決の時代、1952年の米国の水爆実験成功、そして核戦争の危機となった1962年のキューバ危機よりも前の1945年に出版された『原子爆弾』で、嵯峨根遼吉はその対策を以下のように書いている：
水爆攻撃を前提として、爆心から数マイル圏内での防護が現実的には不可能であることを明記するようになるのは英国の『The Hydrogen Bomb』(1957)あたりからであり、1945年当時の嵯峨根遼吉の記述が特に楽観的というわけでもないように見える。
このほか、1945年当時の前提としては、原子爆弾があまりにも高コストだったことがある。
1945年10月の原子爆弾への対策案 
嵯峨根遼吉 (190長岡半太郎の五男として誕生、1929東京帝国大学理学部卒、1943京帝国大学理学部放射能作学講座教授, 1969死去）は、原子爆弾について、『原子爆弾』(朝日新聞社, 1945/10/30)と、『原子爆弾の話>https://dl.ndl.go.jp/pid/1374917]]』(大日本雄弁会講談社, 1949/12/10)という一般書を出版している。
1949年のソビエト連邦による核実験成功に始まる核対決の時代、1952年の米国の水爆実験成功、そして核戦争の危機となった1962年のキューバ危機よりも前の1945年に出版された『原子爆弾』で、嵯峨根遼吉はその対策を以下のように書いている：
原子爆彈への對策爆風・熱線・放射線対策については、1950年に発行された米国政府公式ブックレット『Survival Under Atomic Attack』（日本語訳は1951年『原子爆彈を受けたときどうすればよいか>https://dl.ndl.go.jp/ja/pid/11579142]]』, 主婦之友社）の考え方と違っているわけではない。
次に原子爆彈がそんなに恐ろしいものかといふことを考へてみよう。前からおいつてゐるやうに原子爆彈の及ぼすぼす影響を大別すると三つになる。即ち、爆風と火傷と放射線の影響である。
第一の爆風波、新聞その他の報告によると壓力の上り方が多少緩慢であり、それ程大きな、恐るべきものではない。たとへば爆發直下のコンクリートの建物は一向兵器で建ってゐる。してみると、爆發力の作用といふものはそれ程のものではないらしい。堅固の建物の奥へ入つてゐればそれで十分であるかもしれない。堅固な防空壕の中であれば申分ないであらう。
次の火傷の問題に至っては頗る簡單である。光は直進する。一度反射されると強度は非常に減ずるものである。結局、何かで被はれてゐるといふことによつて、火傷を防ぐことは至極簡單であるやうな氣がする。
先づ熱線などを吸収して温度の上がりやすい�遒涼緤�は着ずに、夫れ等をよく反射する白いものを着てゐることである。要するに、地上で身體の露出箇所がなければそれで済む問題である、
最後の放射線の問題であるが、主に効いてゐるのは中性子線及びγ線の照射によるものと考へられる。中性子線はなかなか透過力の強いものであるために、さう簡單に防げるとは思へないけれども、幸ひのことには、中性子線の強度が十分強いといふ部分は、それ程廣い範圍のものではない。爆發直下の人は相當ひどくやられてゐても、現場より二キロも離れた人にはそれ程強く中性子線はあたつてゐない。でき得れば、中性子線を吸収しやすいやうなものゝ陰に、例へば深さ二米以上もある水槽の下などにゐれば理想的である。水の代りに或る程度の厚さのコンクリートなり、泥なりで十分目的を達する。さういう意味で、何メートルか上に泥を被つてゐる例へば地下三米位の防空壕の中では殆ど影響がないであろう。
[ 嵯峨根遼吉: "原子爆彈", 朝日新聞社, 1945/10/20, pp.49-51 ]
水爆攻撃を前提として、爆心から数マイル圏内での防護が現実的には不可能であることを明記するようになるのは英国の『The Hydrogen Bomb』(1957)あたりからであり、1945年当時の嵯峨根遼吉の記述が特に楽観的というわけでもないように見える。
このほか、1945年当時の前提としては、原子爆弾があまりにも高コストだったことがある。
要するに、原子爆彈が来るぞ、といつて用意してゐればそれ程大きな被害があるとも思へない。ただ問題は、あの飛行機が原子爆彈を積んでゐるかしら、という事が速く判ると都合がいゝのであるけれど、これは一寸難しい。なお、その後、ソビエト連邦の核実験成功後の1949年に出版された『原子爆弾の話>https://dl.ndl.go.jp/pid/1374917]]』では、楽観的な様相は見られなくなる。
原子爆彈を造る過程を考へてみると、一個の原子爆彈の値段といふものは實に莫大なものになつて来る。殊に、人力において勞力において、アメリカが使つた原子爆彈一箇當りの値段は、焼夷まがひにばらばら撒くことは思ひもよらない事であらう。多少ともウラニウム爆彈といふものを知つてゐる者にとつては、原子爆彈を使はれるよりも数千發の焼夷彈を同時に落とされた方がどんなにこはいかわからない。單に爆發現場の威力からすれば、さういふ意味で原子爆彈は能率のいゝ爆彈とは考へられない。併し、いつ原子爆彈が来るかわからない、一機でも油断はできない、一機来る毎に非常に堅固な防空壕に入らなくてはならない、その精神的な、或は作業能率を下げるやうな影響まで考へると、なかなか原子爆彈も捨てたものではい。特に、原子爆彈たつた二個のため、この戦争が終つたのだといふことになれば、アメリカの原子爆彈の使ひ方、その能率といふものは正に百パーセントといふうまい使ひ方をしたものと考へられる。
さて、原子の人工變換の實験の経験からしても、最初のうちは極ゝ近所の元素にしか變へられなかつたものが、そのやり方の進歩によつてはとんでもないものに變換することが段々可能になつて来てゐる。今後どんな元素が原子爆彈として役を買つて出て来るか判らない。問題は單に應用のにで進むといふ必要はない。原子核物理學全體の進歩發達が更に人類への熱源の供給といふことに非常に大きな役割をすることは十分豫想されてゐるところであって、原子爆彈としての研究は必要ないが、世界人類への新しい熱源の探求として、大規模な原子核反應の研究が要望される所である。
[ 嵯峨根遼吉: "原子爆彈", 朝日新聞社, 1945/10/20, pp.51-52 ]
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