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きいてこいのぼり

ちょっと言いにくいんだけど

きいてこいのぼり

僕は君を許さないよ

きいてくれてありがとこいのぼり

♪♪♪

小さな蠅が一匹、こいのぼりの近くを通って行った。
通っていくついでに自分の境遇をひたすらに愚痴っていった。
こいのぼりは脳がカラッポなので、というか中身ごとカラッポなので、
蠅にはどうやら許せないやつがいるということしかいまいちわからなかったが。

こいのぼりはゲーム開始からずっと草原の真ん中に刺さっているので、蠅を見送ることしかできない。
何もない草原である。
何もない草原である。
草生えるっていうか、草しか生えてない。
こいのぼりとしては、風に吹かれて適当に揺れるしかない。
比較するような屋根もないので、歌詞の再現にもなっていない。
ああ、せっかくなら屋根より高い場所に置いてほしかった。なんて思うくらいしかできない。

「あの人も、大変なのね」

ふと気が付くと隣に少女が立っていた。

「魔女に蠅に変えられちゃったなんて、こんな催しごとに巻き込まれる前から可哀そう」

風に揺られながらこいのぼりは少女を横目で見た。
藤色の髪の少女だった。
哀しそうな顔をしている。
だが、それは蠅を哀れんでいるのではなく、常にそういう顔をしているのだろう、と思えるような感じだった。
服は白いブラウスに青いスカートで、とてもよく似合っていた。
彼女にはこの服以外は似合わないのではないかと思えるくらいだった。
それに――着替えるのは大変そうだ。

そう、何より目を引くのは、
彼女の大きく胸の開いた白いブラウスからのぞく、剥き出しの心臓だった。

心臓からは沢山のコスモスが思い思いに茎と花を伸ばし、彼女の胸部をがんじがらめにしている。
彼女はそれを隠すように心臓に包帯を巻いているが、コスモスはその包帯すら、突き破っているのだった。
こいのぼりは思った。
なんだか悲しいほど痛そうな子だ。

「あら。心配してくれているの? こいのぼりさん。ありがとうね」

全く表情を変えずに、彼女はこいのぼりを振り向いた。
こいのぼりは驚いた。
こいのぼりは確かに大きな口を開けてこそいるが、そこは風の通り道でしかなく、いっさい喋っていない。

「そう……そう。草原にひとりぼっちで、暇なの。
 それで、屋根より高いところで揺れたいの? それって、今と何か変わるのかしら。面白いわね」

いっさい喋っていないのに、こいのぼりのこころが読まれている。

「ああ――ごめんなさいね」

心臓から伸びる花畑を揺らして、少女は小首をかしげた。彼女なりに、お道化てみせたという感じだった。
やっぱり表情は哀しそうなまま彼女は思いもよらぬことを謳った。

「私、ハートがこんなだからか、感受性が高くって。あなたのこころが、歌になって聞こえてくるの」

♪♪♪

アルエと名乗った少女に、こいのぼりは地面から引き抜かれた。
すたすたと歩きだすアルエは、ぶっきらぼうに独り言。

「とくにやることもないから、あなたをどこか高いところに刺してあげるわ」

――「殺し合いはしないのだろうか?」
こいのぼりは、彼女のハートに語り掛けた。
彼女もそれをわかっていて、

「特に誰もうらんでないもの。それに私、生きていたってしょうがないと思っているし」

と答えた。
こいのぼりはこころで歌う――「なんで?」。

「そうね。……ハートに聞いてみてちょうだい」

はぐらかされてしまった。
ハートに話しかけているのに、おかしなことを言うな、とこいのぼりは思った。
思ったから伝わったはずだが、アルエは会話をそれ以上続けなかった。
二人はすたすたと歩き続ける。


【1-初/白/一日目/8時】

【アルエ@アルエ(BUMP OF CHICKEN)】
【容姿】白いブラウスに青いスカート、剥き出しのハートに包帯とコスモス
【出典媒体】歌詞
【状態】健康
【装備】こいのぼり@こいのぼり
【道具】支給品一式
【思考】とくにやることもないので、気まぐれにやる。
【備考】
※感受性が高いです。

【こいのぼり@こいのぼり(作曲者不明)】
【容姿】こいのぼり
【出典媒体】歌詞
【状態】健康
【装備】なし
【道具】なし
【思考】揺られる。せっかくなので、屋根の上で揺られたい
【備考】

♪♪♪

蠅の体はあまりに小さく、エリアを移動するだけでも時間は刻一刻と経ってしまう。
人間であったころと比べてあまりに遅いその歩みに、蠅の小さな脳が奏でる音楽は、じめじめとした恨み言のみだった。
許さない。
許さない。
負の感情は彼をこんな姿にした「魔女」にすべて向けられるが、心の中へ仕舞い込むことなど到底できない。
いったんは偶然出会ったこいのぼりにすべての感情をぶちまけ、スッキリしていたものの。
膨れ上がる許さないという気持ちはすぐにまた心からあふれだし、彼の周りの空気を禍々しいものへと変えていく。

「オオオオオオオーーーッ!! 負ける気しないッ! ――――…………???」

ゆえにそう、いかに強きものであろうと、
殺意みなぎる彼のそばへ近寄りすぎてしまったが最後、彼の殺意(うた)に飲み込まれる。
オーズ!オーズ!オーズ!カモォン!!に不運があるとすれば、ちょうど五月の蠅のサビ(ストレスが最高潮の瞬間)に出くわしてしまったことだろう。
それはあまりに理不尽な不運だったが、もはやどうあがいても許されなかった。

「あ―――あああああ――――」

歌はどこまでも簡単に、世界をその歌の色に染める。
オーズ!オーズ!オーズ!カモォン!!が最後に見た景色は、殺意に満ち溢れた血みどろの世界だった。
そして彼は、すべての生まれてきた意味を否定された。
それで終わりだった。

【オーズ!オーズ!カモォン!!@Anything Goes! 死亡】

【2-初/白/一日目/8時】

【蠅@五月の蝿(RAD WIMPS)】
【容姿】蠅
【出典媒体】タイトル
【状態】健康
【装備】許さないという気持ち
【道具】支給品一式
【思考】許さない
【備考】

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