チャンス◆CDIQhFfRUg

 

「そうか……それが、君の信じた道か」

 選択を間違えない男に向けて、肯定の意思表示をする。
 毒の針を目の前の男の人に刺したまま。
 あたしはそれを選択した。

「良いだろう。それを望むなら、そうしなさい。
 自分が瞬間ごとに決断するそのすべてで、未来は理想にも絶望にも変わっていく」

 男の人は涙をぬぐった。自分に毒針を突き指すあたしの涙をぬぐってくれたのだ。

「だから、決めたなら泣くな。信じた道を――走れ」

 あたしは、あたしを応援してくれたその人に報いるためにも、より深く毒針を突き刺した。
 この選択は――間違っているのかもしれない。
 それでもあたしは、この曲がりくねった道を往く。


♪♪♪♪


「あ、建物」

歩くことしばし。アルエとこいのぼりは、カジノらしき建物の前までたどり着いた。
なかなか豪華な建物である、横に広いうえ、2階建てときた。

「屋上に行けるかしら?」
(無理はしないで)
「大丈夫。心のうたが聞こえるのは、魔除けに効果的だから。蠅さんだって、それで避けられたのよ……」

アルエは両の手を耳に当て、目をつむり耳をそばだてた。
そうすることで、カジノ内にいる人の心を聞くことができる。

「……痛っ」

こいのぼりは、アルエの胸からのぞく心臓が、びくり、と跳ねたのを見た。

(どうしたの)
「……すごくささくれ立った心の人がいるわ。あとは、野心にあふれた心の人。どちらも、心に刺さるのは同じね」
(危険ってこと?)
「他の場所を探すというのも、選択肢の一つかもね」

他の場所がここより危険でないという保証はないけれど。と、アルエは皮肉めいて言った。

「大丈夫。うたの聞こえるほうさえ気にしていれば、私は隠れながら進むことができるの。きっとあなたを屋上まで連れて行ってあげるわ」
(そこまでしてくれる理由は?)
「ふふ。ハートに聞いてみて頂戴」

またはぐらかされたな、とこいのぼりは思った。ハートは剥き出しなのに、隠し事は多い娘だ。
しかし、多少言いたいことがあるとしても、こいのぼりに声帯はないし足もない。
アルエの言う通り、動く通りに任せるしかないのが現状であった。
まるで風に流されるこいのぼりのままだ。
それでも、その姿で何かの気持ちを誰かに伝えることが出来れば、こいのぼりとしては十分なのだが。

(ささくれ立った心、か)

アルエから聞いた言葉を反芻する。やはりこんな場所だからか、そういう心になってしまう持ち主は多いのだろう。
こいのぼりは先ほど出会った蠅も連想で思い出した。
彼は救われるのだろうか。
転じて、この殺し合いに巻き込まれた歌の登場人物たちには――何かしらの救いがあるのだろうか。
あまり考えたくないことだが、動けない身では考えることしか能わず、ついつい思索にふけってしまう。

「よし、ついた」

思索に耽っていたら、いつのまにかこいのぼりは屋上についていた。

「だけど……ちょっと、来たことを後悔してしまうわね」
(とういと?)
「……いえ、独り言よ」

アルエはこいのぼりから何かを隠すように、カジノ屋上のだだっぴろい敷地を90度右に曲がった。
こいのぼりには嗅覚がないので気づけない。
そこには濃い血の匂いが漂っていた。

毒で苦しんで死んだであろう死体があった。

【僕@JOURNEY THROUGH THE DECADE(GACKT) 死亡】


【1-春/止・カジノ屋上/一日目/10時】

【アルエ@アルエ(BUMP OF CHICKEN)】
【容姿】白いブラウスに青いスカート、剥き出しのハートに包帯とコスモス
【出典媒体】歌詞
【状態】健康
【装備】こいのぼり@こいのぼり
【道具】支給品一式
【思考】とくにやることもないので、気まぐれにやる。
【備考】
※感受性が高いです。

【こいのぼり@こいのぼり(作曲者不明)】
【容姿】こいのぼり
【出典媒体】歌詞
【状態】健康
【装備】なし
【道具】なし
【思考】揺られる。せっかくなので、屋根の上で揺られたい
【備考】


♪♪♪♪


カジノのスロットコーナーで一人の青年が大チャンスタイムに入っていた。

「来い…来やがれ…来いぃいいいい!? あああああああああああああ」

――が、外した。出目は776を指している。
殺し合いをそっちのけでこんなことをしているのが誰かというと、賢明な読者のみなさんなら察しがつくかもしれない。
そう、お兄さん@全力バタンキューである。
最後の一人になって優勝するという自分本位な野望を以ってさっそく一人殺した彼であったが、
ふらふらとしていたところカジノを見つけてしまったのだ。カジノを見つけてしまった以上、お兄さんがこうなるのは自然の摂理であった。
そして負けるところまで含めてお兄さんなのであった。

「やっぱりこんなクソゲーの主催が立てた施設のスロットなんて当たるわけないってはっきり分かったね。
 完全に冷めた、覚めたよ。やっぱりさっさと抜け出して、徳川埋蔵金を手に入れる以外にないっすわ。ああ忙しい忙しい」
「あの……ご多忙のところすみません」
「!?」

お兄さんはスロット席の後ろから急に声をかけられて空気イスのポーズでその場を跳ね上がった。オナラでもしたのかな?
していないが、それくらい驚いたのは確かだった。
振り向くと、絶世の美女……とまでは言えないが、可も不可もない、ごくありふれた感じの綺麗なお姉さんがそこにいた。

「おおおお姉さんいったいなんでしょうか」
「あ、その……」

お兄さんはお姉さんから事情を聴いた。
曰く、殺し合いに消極的だが、一人では怖い。会いたい人がいるが、来ているのかも、会えるのかもわからない。
スロットに興じているお兄さんもまた殺し合いに消極的なのであれば、一緒に行動してくれないかと。
そういう感じの話であった。

「ええもっちろんですとも! このお兄さん、地獄の果てまでお姉さんをお守りしますよ!」
「ありがとうございます……!」
「いえいえ、お礼はいらないですよ!」

肩の力が抜けたらしく、うつむいてほっと息を吐くお姉さん。
それを見下ろして鼻の下を伸ばすお兄さんは、

(やっぱり女の子は優しくしてあわよくば……ね……! ヤッて後味悪くなったら殺せばいいしな!)

お姉さんをヤり捨てて殺す恐ろしい計画を頭の中で練っていた……。
だが、お姉さんもまた、うつむいたその表情の奥で、

(よこしまなことを考えているオーラがある人ね……浮かれているようで、逆に隙を見せていないわ。骨が折れそうね)

いつお兄さんを油断させて毒針を刺そうか考えていた。

「では一緒に行きましょう!(すみません、万全のチャンスが来たら、殺させてもらいます……)」
「ええ! お供しますとも!(ごめんな、万全のチャンスが来たら、スケベさしてもらいます!)」

互いに笑顔の裏にチャンスを狙う強かさを隠しながら、二人はカジノを後にする……。

「そういえばお姉さん、その会いたい人というのはどんな人で?」
「ええと……会えばすぐにわかると思います。マッシブな感じで……それと……あの人は」


「愛してるの響きだけで強くなれるんです」


【1-春/止・カジノ前/一日目/10時】

【お兄さん@全力バタンキュー(A応P)】
【容姿】松野おそ松@おそ松さん
【出典媒体】歌詞
【状態】大変ご多忙
【装備】研ぎ澄まされた刃@もののけ姫(米良美一)
【道具】支給品一式、ツルハシ
【思考】
基本:優勝して埋蔵金を見つけに行く

【いつかまた巡りあいたい君@チェリー(スピッツ)】
【容姿】可もなく不可もない綺麗なお姉さん
【出典媒体】歌詞
【状態】焦燥
【装備】毒針
【道具】支給品一式
【思考】
基本:あの人にもう一度会いたい、助けたい

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