スリル・ショック・サスペンス◆CDIQhFfRUg

 
「俺はスリル」
「ショック」
「サスペンス」
「あとフィガロ」

「――きゃあああっ!」

 手に持ったハート型のナイフが、カットラスの一撃に弾かれて。
 がらあきの胸部正面を、慌てて腕でガードしたけれど、あざ笑うかのように、ショックの蹴りがみぞおちへと突き刺さって。
 わたし――わたし@Mは、胃の中身がシェイクされる感覚を味わいながら後方へと思い切り吹き飛びました。
 自分の人生。物語。
 その主役は自分なのだから、演者に墜ちず、台本を作らず、やりたいことを真っすぐに。
 会いたい人に会うために。
 そう思っていた、そう思っていたのに――それさえも許されないような状況が、わたしの元へ踊り来ていました。

「見えない力頼りに」
「心の扉閉ざさずに」
「Power(強く)power(強く)……POWERRRRRRRR!!」
「フィ〜〜ガ〜〜ロ〜〜」

 三人の、眼鏡を掛けた少年。あとフィガロ。合わせて四人の男たちに、わたしは囲まれていました。
 真顔でパラパラ踊りながらカットラス・ハルバード・タルワールを巧みに操る三連星の連携に、わたしのハート型のナイフはすっかりヒビ割れていました。
 あとフィガロは素晴らしいテノールで威嚇してきます。こいつだけ何やってんだろう……?
 とにかく、ピンチオブピンチ、絶体絶命の真っただ中であることだけは、確かでした。

「な、なんでッ!? なんでわたしを襲うの!」
「スリル」「ショック」「フィ〜〜ガ〜〜ロ〜〜」「サスペンス」

 答えは返ってきません。代わりに、嵐にも似たパラパラ踊りの群れの中から、棘の連撃が、わたしを執拗に突きます。
 まるで私が感じていた痛みを、君にも同じように与えるかのような攻撃。
 何に痛めばいいのか、何に怯えればいいのかもわからないまま、わたしの体にいくつもの裂傷が出来上がっていきます。

「……!」

 まさにスリル・ショック・サスペンス。
 きわどく、衝撃的に、はらはらと。わたしの体から血が流れていきます。
 ああ――これは厳しいでしょう。
 わたしが『ヒロイン』を自称していたなら、『王子様』が助けに来てくれることを望んだでしょう、
 でもわたしは『主人公』を自称してしまった――うたってしまったのですから、
 ピンチの時に助けが現れるなんて、ご都合を期待しては御門違いと言うものでしょう。
 順当に死ぬだけでしょう。

「フィガロ」
「ショック」
「スリル」「サスペンス……」

 嗚呼、これはもう仕方がない。
 刃と刃と刃、あとフィガロを前に、わたしは覚悟を決め――

「嫌だ、死にたくない……会いたい、会いたい!」

 ――覚悟を決めず叫んでいました。恥も外聞もなく。

「会いたい、もう一回、あの人を見たい、感じたい、手をつなぎたい、ぬくもりを感じたい、
 ご飯を食べて、おいしいねって笑い合って過ごして、もう一回でいい、もう一回でいいのに――いや、い……いやああああああっ!」

 涙で顔をぐちゃぐちゃにして。叫んでいました。
 覚悟など、決められるわけがありません。納得など、できるはずがありませんでした。
 だって何も、何も、叶えていない。わたしの物語に、あなたが現れずにエンドマークを迎えるなんて、ありえない。
 叶わないと悟っていても、胸に焼きついたそのアドレスを、自分の居場所を、諦められない。

 認めたくなくて、泣きながら眼をつむりました。

 ・
 ・
 ・
 ・

 だから、次に目を開けた時。目の前の光景が信じられなくて、わたしは目を何度もこすりました。

「……お嬢ちゃん。涙じゃ人は強くなれない」
「え……」
「人を強くするのは『愛してる』の響きだ」
 
 スリルは、メガネを割られて地に伏していました。
 ショックは、ショック死したのか、泡を吹いて痙攣していました。
 サスペンスは裸足で逃げ出して、でも逃げきれなかったのか犬神家になっていました。
 フィガロは喉を掴まれて、地面から浮かされて、叫ばずにもがいていました。
 筋骨隆々な体のその人は、そんな状況で愛を語りました。

「『愛してる』と言ってくれれば、俺はもっと強くなれる」
「……い、言わないわ。わたしが言うのは、一人だけだもの」
「くく。見込んだ通りだな」

 ぐちゃり、と喉が潰される音がして。
 その人は――「愛してるの響きだけで強くなれる僕」さんは、フィガロを殺しながらはにかみました。

「もちろん俺も一人にしか言われるつもりはない。どうやら、ライバルだな」

 ああ、そうか。
 わたしは死が積み重なった草原の真ん中で、ひとつ得心をしました。

 自分の人生という名の物語のヒロインを気取るなら、助けに来るのは王子様。
 でも、主人公をうたうなら。ピンチに貸しをつけにくるのは、ライバル以外にあり得ない。
 ということを。

「絶対に俺に『愛してる』と言わない女を求めていた。
 血に染まったこの手でも、抱きしめたい女(ヤツ)がいる。協力してくれるか?」
「……分かりました。デュエット、しましょう」

 わたしは男の人に、デュエットを申し込みました。

♪♪♪♪


「ちなみにささやかな喜びを抱きしめるのはまだ早い」

 かくしてデュエットが決まった直後――少し表情を柔らかくした少女に向かってそう言い放つと、筋肉男は遠方を指さした。
 そこには、二人組のイカしたスタイルの男と女が立っていて、抱き合いながらこちらを見ていた。

「やあベイビーたち。スリルとショックとサスペンスはいかがだったかな?(英語)」
「フィガロの後は、メインディッシュよ?(英語)」
「俺は彼女のために作られた。そして彼女は、俺のために生まれた(英語)」
「さあ――本物の愛の前にひれ伏しなさい(英語)」

 英語で何かしゃべっている。
 けっこう遠いのでいまいちインパクトはなかった。日本語でしゃべれ。でもニュアンスは伝わった気がする。

「なにあれ……さっきのはあいつらの差し金ってこと?」
「おそらくはな。そしてやつら、どうやらカップルのようだ。
 燃えるじゃないか。即席のニセカップルで本物の愛を張り倒す。なかなかできることじゃないぞ」
「ふふ……面白いわね」

 血まみれの少女は立ち上がる。
 割れたハート型のナイフは、割れたからこそ鋭く尖っている。

「わたし知らなかったな。あのひとしか見えてなかったからかな。幸せ気取りのやつらを見ると、こんなにもぞわぞわするんだ」
「ああ。まったく――虫酸が走るな」

 さあ。恋はスリルとショックとサスペンスを乗り越えて、なおも激しく燃え上がる。
 真実の愛は一つではない。
 主人公を選んだプリンセスは、愛のためにライバルと一緒のマイクで歌(ころしあ)う。

「じゃあ、やりましょう」

 ――すべては愛の証明のために。

【スリル@恋はスリル、ショック、サスペンス(愛内里菜) 死亡】
【ショック@恋はスリル、ショック、サスペンス(愛内里菜) 死亡】
【サスペンス@恋はスリル、ショック、サスペンス(愛内里菜) 死亡】
【フィガロ@Bohemian Rhapsody(QUEEN) 死亡】


【1-秋/白/一日目/10時】

【わたし@M(プリンセスプリンセス)】
【容姿】女性、18歳、髪型はショート
【出典媒体】上記妄想(探しても媒体が見つかりませんでした)
【状態】あなたを忘れる(くらいなら誰かを殺す)勇気
【装備】割れたハート型のナイフ
【道具】支給品一式
【思考】あなたともう一度会うために、全ての星(参加者)を森(冥府)へ返す。
【備考】
※正しくは「わたし」では無く「私」です。書き終えた後に気付きました。
※でもそのまま行きます。

【愛してるの響きだけで強くなれる僕@チェリー(スピッツ)】
【容姿】男性、ムキムキ、修羅
【出典媒体】歌詞
【状態】殺気
【装備】なし(身一つで戦えるので)
【道具】支給品一式
【思考】いつかまたこの場所で君と巡り合いたい
【備考】

【お前のために作られた俺@BORN TO BE MY BABY(BON JOVI)】
【容姿】イケてる外人の男
【出典媒体】歌詞
【状態】高揚
【装備】???
【道具】支給品一式
【思考】本物の愛の前にひれ伏せ
【備考】

【俺のために生まれたお前@BORN TO BE MY BABY(BON JOVI)】
【容姿】イケてる外人の女
【出典媒体】歌詞
【状態】高揚
【装備】???
【道具】支給品一式
【思考】本物の愛の前にひれ伏しなさい
【備考】

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