たび◆CDIQhFfRUg

 

すたすたすた。
すたすたすた。
ずっと歩いている。
終わりなどないかのように、ずっと歩き続けている。

「な、なあ…どこまで歩くんだ?」
「どこまででしょう」
「変な言い回しやめろよ……目的があるから歩いてるんだろ? どこに着くまでなんだ? 誰に出会うまでなんだ?」
「……それは、誤解ですね」
「誤解?」
「旅の終わりを決めるのは、そちらですよ」

すたり。
と立ち止まると、旅人は振り向いて何かに追われるように走りだすお前の方を見た。
その顔はターバンめいた布に隠されている。断頭台の荒野で一緒に修羅場を潜り抜け、お前はこの旅人にある種の信頼を抱いてはいるが、
かといって完全に心を預けられたわけではなかった。それに、

「全ての唄には終わりがある。でも、どこを終わりにするかを決める権利は、唄のほうにある。
 こちらは願わくばそれが唄にとって最適な終わりであるように、祈っているだけなので」

ひとえに旅人の言うことがあまり理解できないというのも、その理由の一つである。
そもそも、助けてくれた理由さえ教えてもらってない。お前はある種、旅人に不気味ささえ感じていた。
突然現れて助けてくれる。謎の魔術を使い、自らの体をアゲハ蝶に変える。その場にあるものをうまく使って、化け物さえも退治して見せた。
間違いなく、一緒に付いていれば旅を続けることはできるだろう――だが、そうして続ける旅に何の意味があるのか。
旅人は何を望んでいるのか。それがわからない。

「迷っていますか?」
「……迷ってるのはあんたじゃないのか? 歩いているのに、理由がないって言うんだろ?」
「でもそちらにも理由はない」
「それは…:…」

そう言われるとお前は返せない。
他人の望みの提示を望むほどには、お前は自分の望みを知らなさ過ぎた。

「こうして歩き続けているのは、そちらが終わりを決めていないからですよ。終わりが見えていないのに、終わらせることなどできるはずがないのですから。
 少なくとも――あの五頭の化け物の前でそちらは終わりたくなかったのでしょう? ならば、そちらにはあるはずですよ」
「俺、は……」

確かにそうだ、とお前は思った。
あの、顔が五つある化け物に殺されそうになっていた時、お前はそれを受け入れていなかった。
絶望しながらも、ここで終わりかと思いながらも、ここで終わってしまうことを望んではいなかった。
それは誰もが生にしがみつくようにそうしていたのだと、単純に考えてしまっていた。だが、それ以外にも理由は必ずある。
例えば、死の間際に見えた人物――。

「俺は、あいつに会いたい」

紅に染まったあの男に、無事を伝えたい。
あの勇敢で、真摯で、いつもお前のそばにいてくれたあいつに、心配をかけたくない。付かれていたら励まし、凹んでいたら慰めてやりたい。
お前にひとつ残っていたのは、そんな感情だった。

「であれば――終わらせますか?」
「……ああ」

旅人に答える。そうすると、突然霧が晴れたかのように気分が明るくなった。
あたりも明るくなり、ずっと遠回りして避けていたそれが、お前の目の前に現れた。
それは。
それは――。

「ああ……そうか……」




「俺は――遅かったのか」


♪♪♪♪


旅人は、折り重なるように倒れる二つの死体を眺めていた。
一つの死体は赤く染まっていて、もう一つの死体はその死体へ寄り添うように、抱きしめるように、重なり倒れている。
ひとりじゃないことをつたえようと、追いかけていった。

残念ながら、この旅は悲しい終わりを迎えてしまった。
愛は閉じられ、叫びは届かず、紅に染まった彼を慰めるには、お前はこうして隣で死ぬしかなかった。
もう少し紅が生き延びていれば。
もう少しお前が早く、望みに気づき、決断していれば。
イフを考えることはいくらでもで出来るが、その登場人物である本人たちがもういないのであれば、それは仮唄にすぎない――。

旅人は、小さくため息をついた。

「次の旅を、探しましょう」

アゲハ蝶へと変じた彼は、その場からはらはらと飛び立つ。
残されたのは、もう二度と戻らないただの死体が二つ。それだけだった。


【何かに追われるように走り出すお前@紅(X JAPAN) 死亡】

【5-秋/鶴/一日目/10時】

【旅人@アゲハ蝶】
【容姿】砂漠風の旅人姿、顔が見えない
【出典媒体】歌詞
【状態】健康
【装備】アゲハ蝶@アゲハ蝶
【道具】支給品一式
【思考】旅を探す
【備考】
※アゲハ蝶を操れます。

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