創造論とインテリジェントデザインをめぐる米国を中心とする論争・情勢など

否定論・陰謀論を信じる理由, 「アメリカン保守の心理」概観

政治についての意見にも直感


科学への抵抗感の理由として、「物理世界への直感的理解と心理学的直観という常識に、科学が反している」ことが挙げられている。そのような直観を持つ理由として、そもそも科学理論が前提としている概念を持っていないということもある。

そのような直観依存は、自然界の理解に限らない。Oliver and Wood (2018)は政治についても、事実やイデオロギーや推論ではなく、感情や直感や信仰によって意見を決めている人々が多くいると言う。
直感政治は、アメリカの特定集団だけの特性ではない。この本で述べたように、差し迫った不確実性に直面したとき、我々は誰でも、直感に頼る。しかし、ほとんどの政治的問題において、直観主義者はより保守的態度をとることが多い。これは何故か? 部分的には、不安な感情に対する人々の反応に関係しているかもしれない。保守主義は通常、伝統を守るか、外部の脅威からの保護を求めるかにかかわらず、世界に対して防御的な姿勢を示す。これは、直観主義的世界観とより合致している。直観主義者は政治を感情とメタファーの観点から見る。そのため、彼らはすぐに最近の出来事を強調し、伝染を懸念し、制度を擬人化し、似たようなものは核となる特徴を共有していると思い込む。直観主義者は、逸脱したシンボルとその懸念の両方に非常に敏感であり、保守的な立場を採用する可能性が高くなる。

しかし、直観主義者がより保守的な態度をとる傾向がある別の理由は、宗教である。成人人口の3分の1を大きく超える人々が、自身の見解を原理主義者あるいは福音主義者としていたり、あるいは非常に超自然的な信念を持っていたりするため、アメリカ人の世界観を形成する保守的神学の力は恐るべきものとなっている。そして、我々のモデルは、調査対象者の宗教的保守主義をおおよそコントロールしているが、直観主義視点を強化する教会の力を完全に説明することはできない。原理主義教会は、信者に聖書の無謬性、予言、および神の意図に大きく依存する物語を提供することにより、合理性に敵対し、本能または直感に基づいていることが多い世界観を植え付けている。

いずれにせよ、我々の調査データから、アメリカのイデオロギーの分裂は、単に政府が行いべきことの範囲に関する哲学的な違いに基づいているわけではないことが明らかである。それはまた、異なる世界観の反映でもある。リベラル、穏健、および保守は、財政政策や移民政策や医療に関する意見が分かれているかもしれないが、これらはまさしく、多くのアメリカ人が実際には何ら考慮された意見を持っていないタイプの「難しい」問題であることに留意すべきである。真のイデオロギー信奉者である少数のアメリカ人は、これらの問題について情報に基づく意見を持っているか、少なくとも自分の意見がどうあるべきかについて共通イデオロギーを持っているので、イデオロギーは、これらの問題についてどう回答するかの重要な予測因子となっている、しかし、アメリカ政治の多くの問題では、イデオロギーだけが人々の意見を予測するものではない。直感も影響する。これは特に、中絶の権利や GM0の禁止などの「道徳的」問題については、人々の直観主義スコアによって非常に大きな違いが見られる。リベラル、穏健、保守のいずれであろうと、直観主義者はこれらの問題に関して合理主義者とは非常に異なる見解を持っている。

これらの調査結果は、アメリカ政治が直観主義者と合理主義者の間で、決定的に乖離していると結論付ける理由のひとつである。ベラルと保守は、政府の規制や課税やその他の政策の適切な役割について意見が分かれるかもしれないが、彼らの議論は、世界がどのように機能するかについての同様の合理的な推論セットに依然として縛られている。その結果、説得や対話や和解の可能性が残る。直観主義者と合理主義者については同じことは成り立たない。直観主義者の場合、論理だけでは意思決定の十分な根拠にならない。感性や直感や信仰が根拠になる。直観主義者にとって、真実は推論ではなく、感じるものである。その結果、直観主義者は、感情や象徴やメタファーを通じて、神を理解する方法と同様の方法で政治を理解する。人々が反証不可能な信念を受け入れるとき、彼らは合理的な言説の影響を受けなくなる。そして、そのような直観主義者は、政治右翼でより一般的になりつつある。

繰り返しになるが、大半どのアメリカ人はこれら両極の中間に位置している。大半の人々がイデオロギースケールの中心に集まる傾向があるのと同様に、直観主義者と合理主義者の傾向が混在している人々もうる。これらの人々は「存在論的穏健」である。彼らは、特定のタイプの問題を理解するために直感に頼るが、他の問題には非常に科学的なアプローチを取る。イデオロギーと直観主義が互いに混じり合う傾向があるという事実が、ノイズを大きくしている。合理主義保守が多いのと同様に、直観主義リベラルなアメリカ人はまだ多くいる。これらすべてが、米国の政治を形成する要素の非常に複雑な混合物を生み出している。そして、この複雑さは、米国の政治に直感がどのように現れるかを示す次の章の例、陰謀論とドナルド・トランプの大統領選挙運動のポピュリズムよりも明白である。

[ J. Eric Oliver, Thomas J. Wood: "Enchanted America: How Intuition and Reason Divide Our Politics", University of Chicago Press, 2018, pp.105-106 ]
合理主義者のリベラルと保守の間には、合意に到達せずとも、議論は成り立ちうるが、直観主義者たちとはそもそも議論など成り立たないという。もちろん、アメリカ人たちは合理主義者と直観主義者の間あたりに多く分布しているとのことだが、人々が直感に頼るとき、推論や議論がけしとぶことは避けがたいようである。

なお、直観主義者は合理主義者よりも、ポピュリスト傾向があり、陰謀論支持傾向が強い。
In our models, the Intuitionism scale is the single greatest predictor of both populism and conspiracism. The model predicts that Rationalists score twenty-three points lower on the populism scale and thirty-six points lower on the conspiracism scale than Intuitionists. While populists and conspiracists also are less educated, show higher nativist attitudes, and have feelings of financial anxiety, these effects are all smaller in magnitude than the differences along the Intuitionism scale. In short, if you want to predict whether someone is a populist or a believer in conspiracy theories, then the best way is to ask this person how she feels about stabbing family photos and shredding bills, and whether prospects for the future seem gloomy.

我々のモデルでは、直観主義尺度は、ポピュリズムと陰謀論の両方の最大の予測因子である。このモデルは、合理主義者が直観主義者よりもポピュリズムの尺度で23ポイント低く、陰謀論の尺度で36ポイント低くなると予測している。 ポピュリストや陰謀論者も教育を受けておらず、移民排斥的な態度を示し、経済的な不安を感じているが、これらの影響はすべて、直観主義スケールに沿った違いよりも小さい. 要するに、誰かがポピュリストなのか、陰謀論支持者なのかを予測したい場合、最善の方法は、その人に家族の写真を刺したり、紙幣を細断したりすることについてどのように感じているか、そして将来の見通しが暗く見えるかどうかを尋ねることである、

[ J. Eric Oliver, Thomas J. Wood: "Enchanted America: How Intuition and Reason Divide Our Politics", University of Chicago Press, 2018, p.1226 ]





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