冷戦時代の核実験や民間防衛をめぐるカルチャー

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Protect and Survive (防護と生存)


Protect and Surviveは、1970年代から1980年代初頭にかけて英国政府が、動画・ラジオ放送・ブックレットとして準備した民間防衛の公共情報である。ブックレットは1976年に行政機関内に配布すべく出版され、1980年始にThe Timesの報道で世に知れ渡り、1980年5月に一般向けに出版された。
Protect and Surviveが公式に出版されたのは1980年5月だが、1980年1月のTimes紙の一連の報道[12]により、公衆の関心を集めていた。さらの関心の高まりの前の1979年12月に、英国でいかなる民間防衛の準備がなされるかを問う手紙が、Times紙に多く届いていた[13][14]。

これに続いて、Times紙は1980年1月19日に「In Britain, a Home Office booklet "Protect and Survive" remains unavailable.(英国では、内務省のブックレット"Protect and Survive"は未だ非公開である)」と書いた。"Protect and Survive"の存在が予定外に知れ渡り、内務相Leon Brittanは議会で次のように述べた[16]。

This was not a secret pamphlet. There was no mystery about it. It had been available to all local authorities and chief police and fire officers. It had not been published for the simple reason that it was produced for distribution during a grave international crisis when war was imminent. It was calculated that it would have the most impact then.

これは秘密のブックレットではない。何のミステリーもない。地方自治体幹部や警察幹部や消防幹部などは誰もが入手できる。出版しないのは、戦争の危機が差し迫る、深刻な国際危機のときに、配布することになっているという単純な理由による。そのときに配布するのが最も効果的だという読みによる。」


そして大臣は、一般市民から民間防衛についての200通以上の手紙を受け取っていると述べた。議会内外のものすごい圧力で、Protect and Survivehは政府により、1980年5月に出版された。

[12] Evans, P. (1980) 'Civil defence-1: Government to give greater priority to protect millions of people' The Times, 16 Jan, p. 4
[13] Thompson, K, Nonhebel, G. (1979) 'Reviving Civil Defence (Letters to the Editor)' The Times, 29 Nov, p. 17
[14] Chambers, D. (1979) 'Reviving Civil Defence (Letters to the Editor)' The Times, 1 Dec, p. 13
[15] The Times, (1980), A Lethal Failure of Duty, 18 Jan, p. 13
[16] The Times, (1980), Revision of pamphlet on UK civil defence, 22 Feb, p. 10

[ wikipedia:Protect and Survive ]

1976年版と1980年版では「まえがき」が一部違っているが、それ以外は同一である。

Protect and Survive (1980)
防護と生存

Protect and Survive (1976)
防護と生存

Protect and Survive (1976)

また、核攻撃が72時間以内に差し迫った場合、テレビやラジオで放送されるとともに、新聞にもこのブックレットの内容が掲載されることになっていた。おそらく以下のような形になったと思われる。



Protect and Surviveをめぐって(1980年)

Protect and Surviveは国民に自作避難場所作成を求めている。それは、もはや政府に国民を守る意志がないと受け取られた。(特に「家にとどまれ」というStay Put Policyには)

政府や公的機関に地下シェルターを提供する計画を作る一方で、国民には生存のための自力アプローチを強調した点が、最も批判された。「ホロコーストが起きたとき、我々の政府は、樹木の生えた丘の地下にある地下3階のバンカーに安全にいることを知ることが、最大の安心だということだ。統治すべき国民がもはやいないとは、なんと恥知らずなことか」とケント州Maidstone在住のBJ GreenwoodはThe Time of Londonへの投書に書いた。


ブックレットは「家にとどまれ」から始まる。「英国にはどこにも、他の場所より安全な場所はない。家にとどまるのが一番いい。というのは、あなたの存在が知られている場所だからだ。」
第2次世界大戦中のナチの空襲を受けた国にとっては真っ当に聞こえる。しかし、この背後には別の理由がある。それは安いことだ。英国は民間防衛に使える予算があまりなく、1980年の予算は5060万ドルでしかなく、西欧諸国のような野心的な計画を実現することはできない。

[ Tips on Doomsday Survival Create Furor (1980/02/16) by The Associated Press on Herald Journal ]

1980年に英国Thames Televisionも、"Protect and survive"を取り上げ、国民を守るために、何もしていないに等しいと述べた。


まったくバカげたものだと言う記事も...

そして、皆さんは数トンの土を掘って、ブラスチックのバッグに入れて、立て掛けた扉の上に積む。そして、皆さんと家族は疲れ果てて、その中にもぐりこんで、そこにとどまる。
...
シェルター内で誰かが死亡したときに何をすればいいかの指示で、Protect and Surviveはバカに極みに到達する。ビニールなどで死体をきっちりとカバーして、名前と住所を書くように助言している。

[ Gloom, Boom, and Doom (1980/04/06) on The Sydney Morning Herald ]

また、Protect and Surviveが提示する家に留まれという方針は、建前では英国のどこも危険性は同じようなものだという前提によるものだったが、本音はは都市住民の保護の放棄だった。実際、1978年の民間防衛机上演習Scrum Halfでは、大都市からの被爆難民をゾンビと呼称していた。生ける屍に食わせる食料はもちろんない。

英国政府の中の人も

"Protect and Survive"出版発表の日、報道官たちも、これはひどいと感じていたようだ。


Taras Youngによれば...
The dilemma for the government since the 1950s, Young says, was that they knew that their guides “weren’t necessarily particularly useful.”

“But at the same time, they had to be seen to be producing something, as they couldn’t just admit that we’d all die,” he says. “If they produce the stuff, people will criticise it as being useless. If they don’t produce it, then they’ll be criticised for not doing anything.”

The pamphlets were less about imparting knowledge and more about preventing negative public responses such as riots, Young says. While researching his book, he found a note by one of the civil servants preparing Protect and Survive: “It said something like, ‘We must make people believe that they can survive.’ Not that they could survive, but they needed to believe they could – that kind of sums up the whole thing. And even if you did survive, then what? You’ve survived into hell on Earth. Is there any point in living with envy of the dead?”

After the humiliation of Protect and Survive, the government stopped distributing guides to the public, and quietly sent them only to emergency planners. In 1986, home secretary Douglas Hurd said: “If new material was issued now, everyone would throw it into the wastepaper basket or make fun of it as they did with Protect and Survive. I don’t think there’s a sensible purpose in it.”

[Taras] Youngによれば、「1950年代以来の英国政府のジレンマは、政府のガイドブックが必ずしも特に役立つわけではないと知っていたことだ。当時に、政府は自分たちが死ぬしかないと認めることが出来ず、何をしていると国民から見られる必要があった。もし、政府が何かをを作れば、国民はそれを役に立たないと批判するだろう、何も作らなければ、国民は政府は何もしていないと批判するだろう。」

「パンフレットは知識を与えることより、暴動のような国民のネガティブな反応を阻止することを目的としていた。本の調査で、"Protect and Survive"を準備していた公務員の覚書を見つけた。それには『国民に生存可能だと信じ込ませる必要がある。』国民が生存できるようにするのではなく、国民は生存可能だと信じる必要がある。まとめるとそういうことになる。そして、生存できたとしても、どうなるだろうか?この世の地獄で生きていくことになる。死者が羨むような場所があるだろうか?」

"Protect and Survive"が馬鹿にされた後、政府はガイドブックを国民に配布するのをやめ、非常時計画者に非公表で送付するようになった。1986年、Douglas Hurd内務大臣は「新たなガイドブックを今、発行したら、誰もがゴミ箱に捨てるか、"Protect and Survive"のように笑いものにするだろう。それに分別ある目的があるとは思えない。」

[ Sian Cain:"'Sinister yet pathetic': how the UK was primed for nuclear war" (2019/10/30) on The Gardian ]

なお、制作者たちは、(都市部では成り立たない前提だが)「核攻撃の直撃を受けず、建物が損害を受けていない状態で、放射性降下物による放射線被曝からの防護する」という前提で、当時としては根拠のある記述をしていた。

カルチャーの中のProtect and Survive

"Protect and Survive"は破滅への序曲として、映像作品や歌や小説などに登場した

アニメ版"When the wind blows"(1986)では、民間防衛ブックレットとして"Protect and Survive"と"The Householder’s Guide to Survival"と"The Householder’s Guide to Survival"という州政府パンフレットが登場している。

この"The Householder’s Guide to Survival"は架空とされるが、イングランド南西部に1974〜1996年に存在していたAvon Countyは1980年3月に"The Householder’s Guide to Survival in Nuclear"というブックレットを発行している。なお、"Protect and Survive"が公表された1980年よりも後の1982年に出版された原作"When the wind blows"には。"Protect and Survive"という記述はなく、政府広報とあるのみ。

小説だと、「核攻撃及び、教師が"protect and survive"とかいうタイトルのパンフレットを教室に持ってきたことを思い出すシーン」から始まるRobert Swindellsの"Brother in the Land"がある。

テレビ映画World War III (ZDF 1998)Threads (BBC 1984)では、核戦争の危機が迫っていることを示すシーンとして、動画が使われている、

また、"Protect and Survive"が役に立たない核戦争対策や、さらには世界の終末を象徴する言葉となり、英国のバンドが歌のテーマにすることもあった。

日本への紹介

Protect and Surviveに抗議するE.P. ThompsonのProtest and Survive(1980)の訳本「核攻撃を生き残れるか(1981)」の巻末に、Protect and Surviveが掲載されている。






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