むかしなつかし「人形劇三国志」各話へのツッコミネタバレあり

あらすじ

孔明は、周瑜の葬儀に参列するため江東に向かふ。そこで龐統と出会ひ、玄徳への推薦状を手渡す。
龐統は、孫権に目通りしたが仕官を許されず、荊州に赴き玄徳とも会ふが、孔明からの推薦状は渡さない。龐統の才を見抜けなかつた玄徳は、龐統を来陽県の県令に命じる。
おもしろくない龐統は、酒浸りの日々を送る。
来陽県の住民からの訴状を受けて、玄徳は張飛と孫乾とに来陽県へやうすを見に行くやう命じる。
張飛と孫乾との前で、龐統は瞬く間にたまつてゐた政務をすべてこなしてみせる。
龐統の才を知り、玄徳は龐統を副軍師に命じる。

一言

演義で云ふところの第五十七回、かな。

今回、かなり思ひきつた副題をつけたな、と思ふ。
人形劇三国志において、なにをおいても大切なのは、「玄徳の神性」だからだ。
玄徳は常に正義で、玄徳の云ふことなすこと、すべて正しい。
ゆゑに、曹操はときおりまぬけだし(そこが魅力でもあるのだが)、孔明も失態を演じる羽目に陥つたりする。ほかの登場人物については推して知るべし、だ。
みな、玄徳を正とせんがため、である。
その玄徳が失敗する。
これはみものだぞ。

紳助竜介の背後の窓が開いて、玄徳と孫権とが相対してゐるところをうつすところからはじまる。
夕暮れの川辺。孔明がひとり佇んでゐる。
そして、前回の周瑜の最期がセリフつきで再現される。前回と死に方がちがふのはご愛嬌。今回は、周瑜はなぜかちやんと寝床の上で死を迎へることになつてゐる。前回は、舟の上で、寝床から立ち上がり、柱に手を滑らせて死を表現してたものね。死因は、曹操軍から受けた矢傷、とのこと。建安15年冬12月3日死去。

荊州城の城壁。ひとり夜空を眺める孔明。星が落ちるのを見て、「江東の巨星堕つ、か」と、うつむく。
そこに玄徳があらはれる。孔明は、玄徳に周瑜が死んだことを告げる。
この時代は、インターネットもなければ電話もテレグラフもない。でもかうして星を見ることで、あらゆることを知ることができたのだなあ(違。
「敵ながら惜しい人物をなくしたものでございます」つて、本気でさう思つてゐるのか、孔明よ。
孔明は威儀を正して、玄徳に、周瑜の弔問に行きたい、と云ふ。かうして見ると、孔明の方が背が高い。普段は若干中腰なんだらうな、この感じだと。あるいは猫背か、孔明先生。
いま呉に行つたら周瑜の敵とみなが孔明を狙ふのではないか、と心配する玄徳に、孔明は、「なに、周瑜が生きてゐたときでも、この孔明に指一本触れることすらできませんでした。その周瑜もをらぬ今、恐るるものはなにもありません」と、余裕綽々。
さらに、「それに」とことはつて、「殿、実はわたくし、周瑜に心から追悼のことばを、述べたいのです。この戦国の世の中で、私の心を知るものは、周瑜でした。私にも、周瑜の気持ちよくわかります。志半ばでしかも、あの若さで世を去らねばならなかつた。さぞや口惜しかつたことでございませう」つて、どこまで本心なのかなあ、孔明は。全部本心? 多分、人形劇的には、本心、なんだらうなあ。さうは思ひつつも、どうもそこんとこ、深読みしたくなつてしまふ。相手が孔明だからか。
さらに、阿斗を抱いた貞姫と美芳とがあらはれる。阿斗が泣いてゐるので、美芳は、自分に抱かせろ、と貞姫に訴へる。いまは自分が母親なのだから、と、肯んぜぬ貞姫に、阿斗はまだ貞姫に慣れてゐないのだらう、この自分が抱けば泣き止むから、となほも美芳は云ふ。
淑玲の死の直後は美芳が抱いても泣いてたぢやんねえ、阿斗。だいたい阿斗が泣くときつて、なんかあつたときつて人形劇の世界では決まつてるし。
と思ふてゐたら、孔明がそのとほりのことを云ふ。美芳が抱いても泣き止みはしない、阿斗はふしぎな子で、周瑜将軍の死を知つて泣いてゐるのだらう、と。
でも、美芳が抱いてしばらくしたら阿斗は泣き止んだがね。それも、孔明に云はせると、みんなが周瑜の死を知つて阿斗が安心したからなのらしいが。
孔明は、貞姫にむかつて、周瑜弔問のため呉に赴く旨を告げ、孫権や呉国太に伝言があれば承る、と云ふ。
それを聞いて、玄徳は本気で行くつもりか、とかいまさらながらに云ふ。
関羽だつて云ふてたぢやん。「孔明殿、云ひ出したら聞かぬお人ですからなあ」つて。関羽の方が孔明のことをよく理解してゐる、といふことか。
ひとり空をふりあふぐ孔明のやうすがいい。

柴桑城。城壁に「故東呉大都督」の旗が見える。
周瑜の葬儀。呉の主立つた面々があつまつてゐる。
そんな中、魯粛が弔辞を述べてゐる。
そこへ孔明の到着を告げる紳々竜々。
武官がこぞつて、周瑜の敵を討たうといきりたつ。程普とか呂蒙とか、うーん、徐盛と闞沢、かなあ。
ここで普段はおろおろしてゐるといふか穏和な魯粛が、孔明に手を出すな、と、啖呵を切る。
そんな魯粛に喰つてかかる程普。
なにかあつたらこの魯粛が真つ先に斬りつけてやる、とか云ひながら、佩刀してないんだがなあ、魯粛は。
結構な剣幕の魯粛に、おろおろしてゐるばかりの人でもないんだな、とか思つたりする。
そこに孔明が現れ、ついさつきの勢ひはどこへやら、社交辞令のうまい魯粛さんである。孔明は、主玄徳に代わつて弔辞を述べたく存ずる旨を告げる。
めづらしく鎧を脱いだ趙雲の颯爽とした姿がいいぞ。
ほかにこの場にゐるのは、喬国老、呉国太、諸葛瑾。
孔明は、一礼し、しばし棺を見上げる。
「嗚呼、公瑾。君、不幸にも道半ばにして逝きたまふ」にはじまる弔辞を、孔明は暗唱する。ここ、孔明の口が動いてゐるんだよね。まれに、口が動いてゐるとなんとなく不自然な感じのすることもあるが、ここは極めて自然。
鎧姿で采配を振る勇ましい周瑜の像が棺の上にかぶる。
「命三十路に終へるとも、その名は百世に残る」といふくだりに、うんうんそのとほり、と、思はずうなづいてしまふ。
孔明は、感極まつてか、次第に涙声になつてゆく。肩が揺れ、次第に床に臥せるやうに上体を倒す。
さつきまで、孔明許すまじ、とか息巻いてゐた武官もみんな泣いてるぞー。
哭す、といふよりは、しくしく泣いてゐる感じだな、孔明。
魯粛は、孔明は心の寛い人だつたのだ、とか独白するけど、それはどうかなあ。心の寛いかどうかはあんまり問題ではない気がする。えうは、生き残つたものの、余裕でせう。
まあ、人形劇的には、魯粛の独白が正しいんだらうけども。

長江の岸辺。夕景。
弔辞を褒める趙雲と、趙雲を褒める孔明。趙雲のおかげで、呉の武官たちも手を出せなかつたのでせう、といふことね。
そこへあやしき風体のものが現れる。呉の文武百官は騙せても、自分は騙せないぞ、と、孔明に難癖をつけるので、趙雲が、すは、軍師殿を守らねばモードに入るところ、孔明はからからと笑ひ、いたづらつ子ですなあ、龐統先生は、みたやうなことを云ふ。
さう、あやしき風体のものはすなはち、龐統、字は士元。
ここのかなり暮れた感じの夕景がたまらんなあ。
孔明は、趙雲に、「天下の智謀の士」といふやうな感じで龐統を紹介する。
互ひに「鳳雛先生」「伏龍先生」と讃へあふ(?)ふたり。かういふところにもなんとなく裏を読みたくなるやつがれは汚れてゐるのだらうか。ほら、頭のいい人つて、なに考へてるかわかんないぢやん。
さきほどは、孔明が周瑜について「我を知り己を知る相手」みたやうなことを云ふてゐたけれど、龐統もさうなんぢやない、といふ気がしてくる。
一応、どちらも水鏡先生門下生だしな。

夜。朧な月夜。
小舟の上の趙雲、孔明、龐統。ちよつとシルエットな感じがまたいい絵になつてゐる。
龐統は、魯粛から聲をかけられてゐて、孫権に目通りするのだといふ。魯粛は赤壁の戦ひのときの連環の計を覚えてゐたのらしい、とも。
孫権ぢやあダメだよ、といふ孔明と、そのとほりだよな、といふ龐統。
わかつてゐるのに、一応行くは行くんだな、龐統は。魯粛の顔を立てるため、かのう。それとも「面接試験」の場数を踏むためか。いや、龐統にそんな経験は必要ないか。

翌日、かな。
柴桑城。
孫権、内心で、龐統をあなどる。おもに容姿が醜いといふ理由で。
そして、それを看破してゐる龐統。
孫権は、龐統にどのやうな学問をしてきたのか、と訊く。重ねて、周瑜と比べてどうか、と訊ねる。
すると、龐統は、「周瑜殿如き」などと口にする。
内心焦る魯粛。そんなこと云ふたら、孫権の不興を買ふだけやんけ、と。
自分はこの年まで学ぶことに専念してきた、と、龐統。だから、宮仕への片手間に勉強して来た周瑜とは比べものにならない、と。
まあ、さうも云へるのかもしれないな。さうも云へるのかもしれないけれど、裏を返すと、それは「学問のための学問」であつて、実践的ではない、と反論されても仕方がないよね。ま、そのときはそのときで、ちやんと答へを用意してるんだらうけどさ。
体よくことはるときの決まり文句だよなあ、「いづれ」とか。
さう云つて、孫権は龐統を退ける。

紳助竜介による「伏龍」と「鳳雛」との説明。
以前も説明したけれど、とは云ふてゐたがな。
龐統と孔明との違ひについて、顔のまづさつて……もうちよつと、かう、云ひ方があるだらうよ。ねえ。
魯粛は、龐統が曹操の配下につくのを恐れて、玄徳のもとへ向かふやう云ひ、推薦状を持たせた、とも説明が入る。

荊州城の一室。
玄徳と関羽とがゐるところで、面接試験が行はれてゐる。
なにとぞよろしく、とだけ云ふて去つた男について、玄徳が問ふと、「なんでもやる、というのは、なにもできぬ、といふのとおなじではありませんか」つて、云ふなあ、関羽。
次の人間は、江東の龐統。玄徳は、あの龐統では、といふが、襄陽の龐統とは同姓同名の別人なのでは、といふ関羽。
勝平に案内されて、龐統登場。
あれ、勝平ちやん、これまで頭にお団子ふたつだつたけど、ひとつになつてる?
龐統が江東で孫権とあつたと云ふのを聞いて、孫権が賢者を逃すはずはない、と、ひとりごちる玄徳。それに、なんとも身なりがよろしくない、とも思ふ。
龐統は、玄徳が疑念を持つたことを察する。
玄徳は、龐統を来陽県の県令に命ずる。
玄徳も噂ほどのことはない、と、龐統は断ずる。

来陽県。
役所の門の前にゐる兵に、民が訴状の件はどうなつてゐるか訊く。
兵は、これから新たな県令が任命されてやつてくるので、それまで待て、といふやうなことを云ふ。
そこに龐統があらはれる。
小汚いやつ、と、兵は相手にしない。だが、龐統に玄徳からの辞令を見せられて、途端に態度を変へる。
その兵に、酒を買ふてくるやう頼む龐統。

役所の中。
役人が、土地の有力者とのつきあひはどうするか、と訊くと、知り合ひはゐないからやめやう、と云ふ龐統。その他、役人との顔合はせは、とか、神事はどうするのか、と、一々役人が訊いてくるが、龐統はなにもしないといふ。
ここの役人のセリフ、いちいち書き記しはしないが、新たに県令として赴任すると、そんなにいろいろやらねばならないことがあるのか、と思ふ。いの一番に地元の有力者とのつきあひを訊いてくるあたり、一番重要なんだらうな。
そこに酒を買ふてきた兵がやつてくる。
兵に酒をつがせる龐統。
酒を飲むしか能がない県令だなんて、と、役人もあきれ顔。

何日か後、かな。
門番は、瓶で酒を運んでくる。門の前には民が何人か立つてゐて、自分の訴状はどうなつてゐるのかと門番に訊ねるが、県令は酒を飲んでばかりで、いつになるかわからん、と門番は答へる。
執務室、だらうか、ごろごろと酒便が並んでゐる。龐統は、酔ひつぶれて眠つてゐる。
役人がふたり、話をしてゐて、片方の役人は父親の代からここで役人として働いてゐる、といふ。だから何人もの県令に仕へてきたが、龐統のやうな県令ははじめてだ、とか語つてゐる。
そこへ門番が酒便を持つて入つてきて、龐統を起こさうとすると、役人たちがそれを止める。
どうやら、起こすと龐統は役人を叱るのらしい。
ところが、酒と聞いて、龐統は機嫌よく起き上がる。
酒を飲むときだけはご機嫌なのらしい。
役人たちは、なんとかせんといかんなあ、などと話し合つてゐる。

荊州城。
玄徳が、来陽県からの訴状を見て怒る。
張飛を視察にやる、といふ玄徳に、関羽は不安を口にする。
張飛は短気だから、いきなり龐統を斬り捨てるやうなことになるのではないか、と。
うーん、やはり関羽の方が玄徳よりもよほど人を見る目があるのだらうか。
あるいは、単にこれまで張飛の面倒を見てきたのは関羽だから、それでより張飛をよく理解してゐるといふことか。
関羽にさう云はれて、玄徳は孫乾をつけることにする。
まづは、勝平が張飛をつれてくる。
張飛は、使ひのあらましを聞いて、「かー、なんと情けない。さういふのは酒を飲むのでなく、酒に飲まれてゐるのだ。ふん、この俺なんぞは、いくら酒を飲んでも、仕事だけはちやんとやつてゐるぞ」とか宣ふが、張飛だつて、酒の上での失敗は、いくらもあらうものを。それも、大失態だつてあつたのに。
それにも関はらず、笑つて「それでは酒の飲み方でも教へてやつてくれ」とか云ふ玄徳。本気でそんなもので済むと思つてゐるのか。
孫乾と一緒に行け、と云はれて、自分が正使だよな、と、念を押す張飛がちよつと可愛い。
張飛と入れ替はりに孫乾があらはれる。
張飛と一緒といふのがどうも、と、しぶる孫乾に、「その気持ちはわかるが」と答へる玄徳。わかるんかい! 張飛ひとりだと心もとないんだつてさ。だつたら別の人間を送れよ。
とも思ふが。
この感じだと関羽は現在玄徳の右腕として働いてゐて、視察に出すのはムリつぽい。
趙雲だと、真面目過ぎて却つて一刀のもとに龐統を斬り捨ててしまふかもしれない。
さう考へると、張飛が丁度いいのかなあ。
孫乾の兜、よくよく見ると「大吉」の字が彫られてゐるのがわかる。
治部少輔の紋所はここから取つたるか(違。

張飛の家。
美芳が張飛を迎へる。
出張でやる気になつてゐる張飛。
役人として視察に行くのがうれしいのらしい。

来陽県。
門の前で役人たちが張飛と孫乾とを出迎へる。
張将軍、と云はれて、張長官くらゐ云はんか、と、叱りつける張飛。
今日の龐統は二日酔ひだといふ報告を聞いていきり立つ張飛を、まあまあまあまあ、と、諌める孫乾。早速大変だな。

執務室、かな。巻物がちらかり、酒瓶が倒れてゐる。
そのありさまに、張飛も孫乾もあきれるやら憤るやら。
そこへ龐統がふらふらとあらはれる。
張飛になにを云はれても、「それはどういふことでござるかな」と意に介さない龐統。大物だなあ。
張飛にあれこれ云はれて、これくらゐの訴状はあつちふ間に片づけてみせる、と、龐統は云ひ、訴訟の関係者を片つ端から呼び出せ、と役人に命じる。

訴訟の関係者でものすごい列ができてゐる。

お白州。
どの席に座つたらいいのかわからずに、孫乾を先にたてやうとする張飛。
孫乾はそれと知つて、張飛の方が正使なのだから、と、わざと張飛に先に座るやうすすめる。そんなことすると、張飛に恨まれるよ。
結局、そつと孫乾に席を訊く張飛。お礼くらゐ、云ひなよ。
八人一度に申し立てよ、といふ龐統。
張飛と孫乾とには、誰がなにを云ふてゐるのかさつぱりわからない。
しかし、龐統は、原告を鞭打ちの刑に処せ、と云ふ。
龐統がその所以を説くと、原告は恐れ入つてしまふ。
張飛と孫乾とは、これだけですつかり見なほしてしまふ。
龐統、百日の政務を僅か半日でこなす、と、題字。

荊州城。
城壁に立つ玄徳と孔明。
玄徳は、孔明に視察の件をねぎらふ。どうやら孔明は視察から帰つてきたばかりなのらしい。
それでいきなり城壁にあがるのかい? なぜなんだらう。
孔明は、龐統殿は如何御過ごしか、と玄徳に問ふ。
といふことは、孔明は視察から帰つてきて真つ先に城壁にあがり、玄徳とはここではじめて顔をあはせた、といふことか。さういふもの?
玄徳は、あれはとんでもない男で、来陽県の県令にやつたが一日酒をくらつてなにもしない、と吐き捨てる。
それを聞いて、「え」といふ孔明の聲が、正直過ぎる。
「その龐統は天下の秀才で、私の上を行く人物です」と、孔明は、玄徳に訴へる。
しかし玄徳は、「身なりといい顔といいとても見られたものではなかつた」と反論する。うーん、玄徳らしからぬ発言だぞ、と思つてゐたら、
「これは(嘆息)、玄徳さまのおことばとも思へません。人間を外見だけで判断してはならぬとは、いつも殿の仰ってゐることではありませんか」と、孔明も云ふ。えつと、玄徳、そんなこと云つてたことありましたつけ? あつたかな?
でも、酒をくらつてばかりで仕事しないんだぜ、と、玄徳が云ふと、つまらぬ仕事を与へられたら誰でもおなじやうにするでせう、と、孔明は答へる。さうか、孔明もおなじやうにするかなあ。
たとへば、「毎自比管仲楽毅」な生意気なヤローだぜ、といふので、龐統とおなじやうにどこぞの県令職につくことになつたとして、孔明もまた酒に溺れる日々を送るのだらうか。
送るのかもしれないなあ。
「私としたことがなんと気のつかぬことをしでかしてしまつたのだらうか」と、玄徳は己が非を悟る。
孔明は、張飛を使ひにやつたことを心配する。孫乾をつけたから大丈夫だよ、と答へる玄徳。
「張飛は殿の前では遠慮もいたしますが、殿がいらつしやらなかつたら怖いものなしです」つて、云ひたい放題だな、孔明よ。玄徳のゐないところで、張飛から飲酒を強要された、こととかあつたのかな。なんだかありそー。
そこへ関羽がやつてきて、張飛が戻つてきたことを告げる。風になびく頭巾がいいなあ。

荊州城の中。
笑ひあふ関羽と張飛。
己が不明を恥じる玄徳。
遅れて戻つてくる孫乾。龐統も一緒である。
玄徳にかはつて龐統に謝りつつも、推薦状を見せなかつたお手前も悪いのだぞ、と釘を刺すのも忘れない孔明。
玄徳は、龐統を副軍師中郎将に命じる。
「いやー、よかつたよかつた。龐統殿、今後ともよろしく」と、孔明が云へば、龐統も、「いやぁ、こちらこそ」と答へる。
「以前水鏡先生から伏龍鳳雛のうちひとりを得れば天下を定めることができるであらうと云はれたことがある」、漢王室の復興もできるぞ、と、息巻く玄徳。
しかし。
これは以前ほかのところにも書いてゐるのだが、水鏡先生は、「臥龍と鳳雛とどちらかを得れば」と云つて、「両方を得たら」といふ話はしなかつた。つまり、どちらかを得れば天下を手にすることができるが、両方得たら天下を手にすることはかなはない、といふことなのではないか。
どうも、人形劇三国志を見たり演義を読んだりしてゐると、そんな気がしてならない。
玄徳には、孔明と龐統と、双方を使ひこなすことはできない、と、さう水鏡先生は見てゐたのではあるまいか。
なぜといつて、それまで玄徳には軍師らしい軍師がゐなかつたこと、そしてゐないのに雇はうともしてゐなかつたこと、があげられる。まあ、もしかしたら、雇はうとはしてゐたのかもしれないけれど、だつたらきつとゐつかなかつたんだよね、軍師が。
水鏡先生は、さういふ玄徳の為人を見て、「どつちかひとりにしとけ」と暗に云つたのではあるまいか。
そんな気がしてならないのである。
といふわけで、龐統を配下に迎へたことが、玄徳軍転落のはじまりだつたのではないか、と、愚考する次第。

ここで、曹操のテーマにtransitionするBGMが素敵なんだなあ。
玄徳が龐統を得たことを程昱から訊く曹操。
程昱に戦の準備を命じる曹操。
曹操は、龐統のことをあんなにみとめてゐたのになあ。といふ話は、赤壁の戦ひのところで書くつもりだが。
結局、この中で龐統の才能を見抜いてゐたのは、曹操と周瑜とだけだつたわけだ。水鏡先生とその門下生を除いては。

最初にも書いたとほり、玄徳がかういふ形で失敗するのは、人形劇三国志としてはかなりめづらしいのではないかと思ふ。正しいことをしやうとして負けたり騙されたり、といふことはいままでもあつたけれども、他人を容姿だけで(一応あの孫権が取らぬのならたいした人物ではあるまい、といふ点もあるわけだが)判断する、なんて、正義の人のすることぢやあない。
たとへば、龐統が訪ねてきたときに、玄徳は視察に行つて留守で、ほかの人間が相手をした、といふ展開にもできたらう。ほかの人間を誰にするのかといふ問題は残るが、さういふ手もあつたはずだ。
それをやらなかつた、敢て玄徳に失敗させた、といふ点で、おもしろい回かと思ふ。

紳助竜介の背後の枠の中で、酒を酌み交わす張飛と龐統。これが後々効いてくるとは、神ならぬ身にはわからぬことなのであつた。

脚本

田波靖男

初回登録日

2013/09/16

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