むかしなつかし「人形劇三国志」各話へのツッコミネタバレあり

あらすじ

洛陽の都に入つた董卓は、さつそく帝を廃して陳留王を新たに帝に立てやうと文武百官にはかるが、丁原の反論にあひ、その場は新帝擁立をあきらめる。丁原を恨んだ董卓は、李儒に命じてひそかに丁原を襲はせる。丁原の怪我の理由を知つた養子の呂布は、単騎で董卓の陣に乗り込んで、董卓をさんざんな目に遭はせる。呂布を味方に引き込まうと企む董卓は、名馬・赤兎を呂布に送り、呂布は赤兎ほしさに養父・丁原を殺害して董卓の養子となる。帝を廃し、新帝の後ろ盾となつた董卓を、曹操は暗殺しやうとするが、果たせず、郷里で兵を挙げることにする。お尋ね者だつた玄徳一行も、天下のために働くことを誓ふ。

一言

演義でいふと、第三回の途中から第四回の途中まで。段々物語がうごきはじめてきたぞ。
どうやらこのあたりからリアルタイムで見てゐるやうだ。丁原の記憶があるからな。しかしなぜかそのときの呂布の印象は薄い。
ふしぎなことである。

VTRは何進からはじまる。何進の画像が揺れはじめ、その背後に北方のものとおぼしき騎馬隊の映像がかぶさり、やがて董卓をうつす。

洛陽の都。
無職になつた紳々竜々が巷を彷徨してゐる。
そこに赤兎に乗つた董卓があらはれる。
部下が追ひついてきて、「そんなに速く行かないで」などと懇願するが、董卓は得意顔で赤兎を走らせる。
なぜか紳々竜々は赤兎馬のことを知つてゐる。有名なのか。有名なんだらうな。さすが馬中の赤兎。
赤兎なんだから鞭入れなくてもよささうなものだがなあ。
そして、董卓の手下にだけはならんぞ、と、云ふ紳々竜々。

場面変はつて、董卓の招きで、袁紹、王允のゐる宴席に曹操があらはれる。
王允は、杯を手にしたまま、勢力のある董卓の招きに応じなければあとが怖い、などとこの場の云ひわけがましく曹操に向かつて云ふ。
なぜかここにゐる美芳。
そこへ赤兎に乗つた董卓が到着する。
董卓は、帝が無能だから混乱が起きたのだ、などと云ひ、愚昧な今の帝を廃して、聡明な陳留王を帝にたてやう、と、その場に集まつてゐる文武百官に提言する。提言する、といふか、もうさうするつて決めたもんねつて感じだ。
さう云ふ董卓の背後に李儒が見え隠れしてゐるぞ。
先頭切つて袁紹は、陳留王は未だ御年少ゆゑ帝にはまだ早い、などと反論する。
すると董卓は、自分が陳留王の後ろ盾になるから心配は不要、と答へる。
なほも反論しやうとする袁紹を抑へる曹操と王允。曹操が「袁紹殿、ここは」と云へば、「がまんがまん」と王允。この「がまんがまん」の云ひ方が、実になだめてゐる感じでいいぞ。
そこへ、「もとより異論がござる」と、さらに反論を唱へる丁原登場。灰色の髪と髭にきつぱりとした目元が頑固親爺といつた出で立ち。今の帝はとくになにか失態を演じたわけでもないのに、廃位するのはおかしい、と云ふ。
董卓は、丁原を斬り捨てやうとするが、李儒が「殿、ここで血を見るのは不吉でございます」と、董卓を抑へ、曹操が「丁原殿、短慮は災ひのもと。ここはお控へくだされ」と、丁原を抑へる。
曹操が、割つて入つて、とりあへずその場はおさまる。
が、「丁原、貴様がをつては酒がまい。とつとと帰れ」「云はれんでも帰るわ。誰が貴様の酒など飲む!」と、董卓と丁原とは激しく罵りあひ、丁原はその場を後にする。
李儒に丁原のあとを追ふやう顎で指示を出す董卓。

丁原は荊州の刺史と紹介される。
劉表出てきてないし、仕方ないか。

場面変はつて、どこぞの荒野。
BGMの笛の音がいいぞ。
例によつて白馬童子のままの玄徳が、白竜とともにゐる。
関羽と張飛ともおなじやうに白頭巾姿でその場にゐる。
そこへ駆けてくる美芳。どうやら、美芳は、玄徳に頼まれて、宮中でやうすを探つてゐたやうだ。
あひかはらず事情通の関羽。

おなじやうな場面で、こちらは黒頭巾の李儒が、ものかげから兵たちに、矢を射るやうに下知する。矢の向かふ先には、供を連れた馬上の丁原。
この黒頭巾の李儒がちよつとステキ。赤ければ「李儒リュー」つてなところだらうか。
丁原の腕に矢がつきささり、落馬する。
「とどめだ」と兵たちに命令を出す李儒のもとに、「待てぃ」と、あらはれる玄徳たち一行。
「貴様等か、都を荒しまはる白覆面といふのは」と云ふ李儒に、「黙れぃ、荒しまはつてゐるのは貴様の親分董卓だらう、黒覆面」と、張飛。張飛、口がうまいな。
「むー何を云ふ、儂はそのやうなものでは」と云ひぬけやうとする李儒に、関羽の得物が一閃して、李儒の黒頭巾をまつふたつにしてしまふ。
仕方なく兵に退くやう命じ、李儒もその場から逃げる。
白竜から降りて玄徳は、丁原を助けやうとする。
丁原は自分の部下の身の上を心配するが、いつのまにか全員やられてゐたらしい。
丁原は、董卓に復讐せんとするが、怪我を負つた身体ではムリ、と、玄徳に止められる。
どうやら丁原は、ひとまづ玄徳一行にお礼をするつもりのやうだ。

丁原の陣。
馬に乗つて呂布登場。
呂布は、早速、つながれてゐる白竜に目をとめる。なるほど、これで「馬好き」「いい馬に目がない」といふのを印象づけやうといふのだな。うまいぞうまいぞ。
呂布は兵から「若殿」と呼ばれてゐる。
「たいした馬とも思へんが」と云ひながら、白竜に乗らうとする呂布だが、白竜は呂布を受け付けない。
怒つて白竜を斬らうとする呂布に、「白竜は武器を持てん。オレが相手にならう」と、高笑ひの張飛があらはれる。
ここで張飛と相対する呂布がちよつといいな。こののちの、どこか頭の血管切れてるんぢやあるまいかといふやうな、ちよつとあぶない感じではなく、落ち着いたやうすで相手のことを見てゐるやうな感じがいい。
あはや一触即発か、といふところへ、玄徳が関羽をともなつてあらはれ、ふたりをとめやうとする。
こいつが兄者の馬を盗らうとしたから、と云ふ張飛を、「まあ待て」と抑へる関羽。
呂布は、張飛のことなど気にもとめず、玄徳に向かつて、「この馬の持ち主はあなたか」と問ふ。その聲もこののちのちよつとアブナい感じの聲とはちがつて、落ち着いてていいぢやあないか、呂布。
さうだと答へる玄徳に、自分は丁原の息子の呂布といひ、この馬を買ひたいがいくらでなら売るか、と、さらに問ふ呂布。
すると、また張飛が割つて入つて、白竜は呂布を嫌つてゐるから云ふことはきかないぜ、と呂布を嘲笑ふと、「だから買ふのだ。乗るつもりはない」と吐き捨てるやうに云ふ呂布。
乗る気がないならなぜ買ふのだ、と問ふ関羽に、「殺す」と、せつかちに答へる呂布。ここで、この後呂布がよく見せるやうになる、横目の睨んだ表情。あらら、やつぱりアブナい奴だつたのね。
そのとき玄徳少しも慌てず、「馬と喧嘩してゐるときではないでせう」と、大人な対応。さらに、丁原が大けがをしてゐることを告げる。
すると、呂布は、兵にの首根つこを捕まへて、なぜ云はなかつた、と責める。だつて、帰つてきていきなり白竜に目をつけてたんだから、そんなこと云つてる暇なかつたぢやん。と、いふやうなことを云ふ兵をつきとばすやうにして、呂布は幔幕のなかへと急ぐ。
見送る玄徳一行。

幔幕のなかには横たはつてゐる丁原。
「父上、そのお怪我は。誰にやられたのですか、父上」と、枕元に駆け寄る呂布。かうして見てゐると、呂布、いい奴ぢやんつて感じだなあ。まあ白竜に対するあれこれはあつたけど、でも、基本的には父親想ひのいい息子、といつた印象を受ける。
すくなくとも、ここまでの展開では。

夕景。
馬上の玄徳一行。
例によつて事情通の関羽が、「荊州の若獅子」のことは聞いたことがある、といふと、呂布を養子にするために丁原は莫大な金銀を積んだ、と云ふ玄徳。
ここで、つい数秒前の「父親想ひの息子」から「金尽くで養子になる男」になりさがる呂布。
もちろん、張飛はおもしろくない。このあたりの張飛は、視聴者の代弁者つて感じかな。

そんな玄徳一行からすこしはなれた道を馬で急ぐ呂布。
董卓の陣に切り込むつもりだな、といふ玄徳に、ひとりで無茶な、と、関羽。おもしろい、見物に行かうではないか、といふ張飛に、やれやれ、といつた面持ちの玄徳。

董卓の陣。
そこへ、呂布がひとりで切り込む。
「たつたひとりではないか」といふ董卓に、ひとりではあるがあれは呂布、と、焦り聲で伝へる李儒。
董卓はひとり幔幕の中に逃げ、李儒が兵たちに呂布を討ち取るやう命じるが、やはり呂布の勢ひに負けて董卓のあとを追ふ。
そこへ、呂布もあらはれる。
「董卓、客に尻を向けるのが貴様の礼か」と凄む呂布に、なんでもやるからと怯へる董卓。ほしいものはお前の首だ、と、方天戟を一閃、呂布は董卓の冠を斬り、しかも元結(つていふのかね、三国志でも)も斬つてしまふ。乱れ髪の董卓。
「もう一度父に手を出してみろ。今度こそその首をもらひ受けるぞ」と、吐き捨てて、呂布はその場を去る。
地震にでもあつたかのやうに頭を抱へてうづくまる李儒に、呂布を追つて殺せ、と、怒りまくる董卓。「は、はい、はい、はいはいはい」と、それまでの冷静さがウソのやうな李儒も、幔幕から出ていく。

悠々と馬を駆つて董卓の陣を後にする呂布を見送る玄徳一行。
「案外やりをるのう」と、楽しさうな張飛に、「聞きしに勝るとはこのことですな、兄者」と、こちらも楽しげな関羽。あれか、強い奴みてワクワクしてるのか。「ドラゴンボール」の孫悟空か、君等は。
玄徳だけは落ち着いて、「恐るべき男だ。ならうことなら敵にはまはしたくないものだ」と云ふ。

李儒は、幔幕に戻つてきたやうだ。董卓の前に頭を垂れてゐる。
いつのまにかまた頭になにやらかぶつてゐるぞ、董卓は。それだけ時間が流れたつてことかな。しかも、久しぶりに知恵の輪を手にしてゐる。
あんな若造ひとりに、と不満げな董卓に、百人で束になつてかからせればたとへ呂布でも、と、さほど自身のありさうでもない李儒。
怒つてゐるあひだに董卓は知恵の輪をといてしまふ。「あ、でけた」つて、このときばかりは初登場のころとあんまり変はらないなあ。
「あるぞ、あるぞ、よい方法が」と云ふ董卓に、「ございますか、やつめを討ち果たす方法が」と問ふ李儒。策をたてるのは君の役目ではないのかね。
「奴を儂の息子にするのだ」と云ふ董卓に、「息子、おつしやいますと?」と、要領を得ぬ感じの李儒がちよつと可愛い。
「敵にするからいかん。奴を味方にすればよいのだ。息子ほどの味方はゐまい」と、董卓はいいところに気がついたね。
「しかし、呂布は丁原の敵を討つために単身切り込んでくるやうな義理堅い男でございます。そのやうなことができるとはとても……」と、いふ李儒のことばは、ここまでの呂布の印象としては正しい。白竜の一件から思ひとほりにならないと馬を殺すやうな男、玄徳のセリフから呂布は莫大な金銀をもらつて丁原の養子になつたやうな男、といふことはわかつてはゐても、ここまでの呂布はどちらかといへば父親想ひのいい息子、しかも滅茶苦茶強い男、だもんな。
「なにがなんでもさうしろ。できなかつたら貴様の首をはねるぞ」と、董卓に凄まれて、「殿」と、云ふ李儒の聲が情けなくていいなー。
追ひつめられた李儒は、陣中に呂布の幼なじみである虎賁中郎将・李粛がゐることを思ひ出す。

演義でもさうなんだけど、李儒つて人形劇に参謀として最初に登場する人物なんだよね。キツネ顔で酷薄さうで切れ者な感じが如何にも「董卓の頭脳」といふ感じ。おそらくは、董卓より残酷で冷たい血の持ち主なんだらうといふ気すらする。

董卓と李儒とを前にして、李粛は、呂布にはひとつ弱点がある、と述べる。
金銀財宝、値千金の名馬に弱いことだ、と。
まさか天下の名馬・赤兎をくれてやれといふのではあるまいな、と、問ふ董卓に、「そのまさかでございます」と答へる李粛。聲はなんだか弱々しくて、とてもとても虎賁中郎将といつた感じではないが、つりあがつた太い眉毛に一重で黒目のちいさい目は、これまた頑固一徹つぽい感じである。
「名馬を惜しむか、天下取りの片腕を手に入れるか、ふたつにひとつでございますぞ」と、李粛に説かれて、董卓は悩む。

いつのまにか丁原に雇はれてゐる紳々竜々。
夜。雪がちらほら散つてゐる。なのに月夜。
そこへ、赤兎を引いた李粛がやつてくる。

「すばらしい」と、幔幕のなかでうれしさうに赤兎のまはりを行つたり来たりする呂布。こどものやうだな。
金ならいくらでも出すから譲つてくれ、と、云ふ呂布に、儂の馬ではないから困る、と、答へる李粛。
ならば持ち主に頼んでくれ、と、さらに頼む呂布に、その方は一文もゐらないと云つてゐる、と李粛は云ひ、「ただし条件がある」とつづける。
呂布が赤兎の持ち主の片腕となり、天下統一を手助けすれば、といふ条件がある、と。
それは誰だと問ふ呂布に、李粛は「董卓殿だ」と答へる。
董卓と聞いて、一旦は「自分に勝てないから家来に迎へるつもりか。けっ」などと思ふ呂布だが、李粛は、董卓は家来になどと云つてはゐない、長子に迎へるつもりだ、となほも云ふ。
さう云はれて、呂布は、自分は丁原の養子だから董卓の養子になどなれぬ、と云ふ。
しかし、李粛も負けてはゐない。
「その丁原殿が、死ねばどうなるのかな」
李粛のそのことばに、振り向く呂布の表情が実にいい。たまらんなー。
しかし、大人しいなー、赤兎。
李粛は、董卓は呂布の心が決まるまで何日でも待つと云つてゐる、と云ふ。
すると、呂布は「ここにゐてくれ」と云つて、幔幕から出て行く。
見送る李粛の表情が、これまたいい。

抜き身の剣を手にして、丁原の横たはる幔幕に入る呂布。
うれしさうに呂布を迎へる丁原。なにか相談事か、とたづねる。
「さうです。一身上の」と、一本調子に答へる呂布に、「ほーう、一身上の?」と訊き返す丁原。こんな時だけど、「妻を迎へやうと思ふのです」とでも云ひに来たかと思つたのかなあ、丁原は。
ここで場面は幔幕の外にうつり、剣が肉を断つ音と、丁原のうめき聲がする。
殺しの場面は見せないつてことか。
その聲を聞いて、紳々竜々はじめ兵たちがわらわらと丁原の幔幕を取り囲む。
そこへのつそりと幔幕のなかから姿をあらはす呂布。「丁原は死んだ」と、兵たちに伝へる。
ええ、と、驚き、誰がそんなことを、と、紳々竜々が云ふと、
「俺が斬つた」、と、短く答へる呂布。さらに、「全軍に伝へる。これより我が軍は董卓軍と合流する」と云ひ、従はぬものはこの場で叩き切るとまで云ふ。さうなつたら従ふしかないよなあ、紳々竜々はじめ兵の人々も。
紳々竜々は、この回冒頭で「董卓の家来にだけはなるまい」つて云つてたのにね。しかも、丁原の家来になつたのは、「ナンバー1は落ちるだけ。ナンバー2は今後伸びる」といふ理由で丁原の家来になつたのに、残念な結果になつてしまつた。

で、董卓は天下を制したことになつてしまつたのらしい。

ここで紳助竜介の説明が入つて、いつのまにか帝が廃されて陳留王が帝になつたことになつてゐたらしい。この時期の皇帝は力がなかつた、でもね、といふ話から、VTRで、中国の皇帝の説明。秦の始皇帝の話からはじまる。兵馬俑の映像が出てくる。
始皇帝の話しかしてないのに、漢王朝華やかなりしころの帝たちに比べて、後漢の帝の力はなくなつてゐた、としめくくるのはどうなんだらうか。

袁紹は都を抜け出して地方で力を蓄へ、王允と曹操とは都で虎視眈々と董卓を倒さうとしてゐた、と、ここまで説明。

出窓に佇む何太后と弘農王。そこへ董卓があらはれる。呂布と李儒とを従へてゐる。
あひかはらずご機嫌ななめのやうですな、と云ふ董卓に、あたりまへです、と答へる何太后。つい先日まで帝だつた息子をこのやうなところに押し込めるとは、と、文句を云ふが、そんなに悪いところには見えないけどなあ。
神を恐れよ膝まづいて私に許しを乞へ、と、言い募る何太后に、うるさいばあさんだ、と云ふ董卓。ばあさんつてほどの年でもなからうになあ。太后だからさう云ふのか。
どうすればしづかにさせることができるのかな、と、問ふ董卓に、呂布は無言で何太后にせまり、抱き上げて、窓から投げ捨ててしまふ。「母上!」とびつくりする弘農王も、董卓に抱き上げられて、その最期の姿はうつらないが、その後の文章から、命を断たれたことがわかるやうになつてゐる。

王允の屋敷。
なぜか関羽が庭で薪を割つてゐる。
一室で、曹操と王允とが密談中。曹操は、折り入つて相談したいことがある、と、王允に告げる。あらたまつてなにごとかな、と、王允が答へると、弘農王と何太后を殺した成り上がりものの董卓を除く好機はまさに今、と、曹操は云ふ。
王允は外を見にゆき、戸を閉める。
「壁に耳在りですぞ、曹操殿。さういふご用件ならお引き取り願ひたい」と云ふあたり、王允も喰へぬ親爺である。
わかりました、と答へながら、曹操は、勝手ながら無心したいものがある、と云ふ。
王允の持つ、天下の名刀・七星の宝刀をもらひ受けたい、といふのだ。
庭では関羽が全部聞いてゐる。
董卓にその七星の宝刀を献上したいといふ曹操に、「董卓は女と財宝に目のない男、曹操殿、まさか」と、曹操の耳元で囁く王允。曹操は「壁に耳在り」とさきほどのお返しをする。
そして、ここでちらりと董卓は女好きでもある、といふ情報を得ることができるぞ。
王允は、宝刀を曹操に譲る約束をする。
なほも薪を割る関羽。その脇を、貂蝉がとほりかかる。軽く一侑すると、そのまま貂蝉は去つてゆく。
思はず薪を割る手を止めてその後ろ姿を、「貂蝉……」とつぶやく関羽。くーっっ。

ここでまた紳助竜介。
「うつくしい美女」つてトートロジーやがな。
関羽の戀は生まれてはじめての戀だつたんかい! 初戀かい! 切ないなー。しかもこのあと浮いた話のひとつもないんだぜ。くーっっ。
三国志演義の切り絵が数葉紹介される。

貂蝉は、王允と曹操とのゐる部屋にあらはれる。
王允は、貂蝉に七星の宝刀を持つてくるやうことづける。
貂蝉が去ると、さすがめざとい曹操は、何進と密談してゐたときのあの女、と気がつく。
王允は、悪びれもせず、さうですよ、と答へる。まあもう何進はゐないのだし、いいだらうと思つたんだらう。
さういへば曹操も女好きのはずだつたな。貂蝉は好みではないんだらうか。ないのかもな。
捕まへてはみたがあまりにもうつくしい女なので助けてしまつた、と云ふ王允に、「なるほど」とひとりごちるやうに云ふ曹操が、なんか含んでゐるやうでチト怖い。

王允の宝物庫、だらうか。
袖で口元を覆ひつつ七星の宝刀を見定める挑戦の背後から、「貂蝉」と聲をかける関羽。
「あなたがこのお屋敷で働いてゐるとは夢にも思ひませんでした」と云ふ貂蝉。落ち着いてるなー。「いや、驚いたのは私の方だ。どうしてここに」と関羽は問ふ。このあたり、関羽も落ち着いてゐる。
貂蝉は、あのあと王允に捕へられたのだ、と語る。しかし、王允はやさしい人だつた、と。「着物や宝石に惑はされてはいかん。王允は腹黒い男ですよ」つて、関羽、なに、もしかして妬いてるのか。「まあ、それほどまでにわたくしのことを心配して下さるのですか。んふ、嬉しい」と、抱きつく貂蝉に、戸惑ふ関羽。初戀だもんねー。「や、や、困る。儂はここではただの下男で……む、貂蝉さん……」とか、可愛過ぎるぞ、関羽。
そこへ、遅いぞ、と、曹操を連れて王允があらはれる。
関羽を見つけて、「おまへは、下男の関徳、こんなところでなにをしてをる」とつめよる王允に、貂蝉はいきなり泣きついて、「この男がいきなり入つてきて」までは正しいけど、「宝物を盗まうとしたのです」はどうなのよ。「怖くて死にさうでした」といふ貂蝉のことばを聞いて、「えっ」と思はず振り向く関羽、「き、貴様」と凄む関羽だが、大人しく王允の部下たちに取り押さへられてしまふ。をかしいな、関羽ならこれくらゐの数の雑兵どもならなんでもないはずなのに。
一部始終をただ見つめてゐる曹操が不気味だ。

庭で花に水をやつてゐる淑玲。太后さまの好きだつた花、とか云ふてゐるから宮中のどこかであらう。ここで云つてゐる太后さまは先ほど呂布に投げ捨てられた何太后ぢやなくて前回何進に毒殺された董太d后だらうな。
そこへ、曹操があらはれる。
一礼してその場を去らうとする淑玲に、自分の話を聞かないと関羽は殺されるがいいのかな、と、この物言ひが曹操らしいよねえ。
背中を向けたままの淑玲に、関羽は王允の館の地下牢に閉じこめられてゐる、と告げ、「早く助けてやるのだな」とまで云ふ曹操。
さうか、このころから関羽に惚れてたか、曹操。

淑玲が出て行くと、そのあとを追ふ曹操。ストーカーか!

一方地下牢の関羽。
さういへば、初登場のときも牢屋にゐたつけか、関羽は。
そこへ、貂蝉がやつてきて牢の鍵を開ける。
そして、「ごめんなさい。ああでも云はなければ、あなたがもつとひどい目に遭ふと思つたのです」と、関羽の脇に膝をつく。ここの「ごめんなさい」の云ひ方が、実に「悪いと思つちやゐないけど」といふ感じなのがいい。
「貂蝉、では、わわわ儂をダマしたわけではないのか」つて、嬉しさうすぎるぞ、関羽。
いきなり立ち上がると、その身を戒めてゐたくさりをひきちぎる関羽。「まあ」と驚く貂蝉。関羽は「力が戻つた」と云ふ。さうか、さつき王允の雑兵ばらに取り押さへられたのは、貂蝉にダマされたと思つて力が出なくなつてゐたんだね。念入りに可愛いなあ。
関羽は、「さ、一緒に逃げやう」と、貂蝉の手をとらうとするが、貂蝉は身を翻して「いいえ」と云ふ。「わたくしが王允さまを裏切つたら、あなたもただではすみません」と云はれては、関羽も「貂蝉」としか云へぬ。「せめてお名をお聞かせください」と、貂蝉は云ふ。さうだよな、前回は、「いやいやいやいやいや、な、名乗るほどの名ではない。え、え、縁ぎやあれば、また逢ふこともあらう。では」とか、かみまくりで別れたんだもんな、関羽は。「儂の名は、関羽雲長」と、はじめて名乗る。「関羽様。んふ、あなたはきつと出世なさるお方。そのときを楽しみに待つてをります」といふ貂蝉のセリフにかぶせて、「いやいや」とか云ふてゐる関羽が、やつぱり可愛いのう。
追手がくるから早く、と、うながす貂蝉に、「さらばぢや、貂蝉」と去つてゆく関羽。
ああ、初戀つてやつぁよう。

玄徳たちの隠れ家、かな。
淑玲が来てゐて、どうやら曹操からの話を聞いた直後とおぼしい。
すぐに関羽を助けにいかなきや、と、息巻く張飛をなだめる玄徳。
玄徳は、なぜあの曹操が教へてくれたのかが気になる、と云ふ。信じてやれよー、玄徳ぅ。
「ウソなのでせうか」と、淑玲が問ふと、「ウソではない。ほんたうのことだ」と聲がして、曹操があらはれる。曹操は玄徳に会ひたかたつたのだ、といふ。
それはともかく関羽を助けに行かなければ、と急く張飛に、「いや、儂なら無事だ」と、今度は関羽が姿を見せる。まづは、心配をかけて申し訳ない、と、玄徳に頭を下げるあたり、義理堅いつてのは関羽のためにあることばだぜ、李儒さんよう。
返す刀で、董卓の信任厚い曹操がなぜお尋ね者の玄徳に会ひたかつたのか興味のある話ですな、と、関羽はつづける。

夕景。
川の上で、曹操と玄徳とがふたりきりで話をしてゐる。
「いまが天下を握る好機と云はれるのですか」と問ふ玄徳に、「さうさう」と答へる曹操。ダジャレか! 曹操よ、お前もか!
だから自分の片腕になつてほしいから会ひたかつた、と曹操はつづける。
笑ひながら、自分はまだ未熟者だから、と玄徳は云ふが、「儂一人でもいかん。お主一人でもいかん。儂とお主が手を組むことこそが肝要なのだ」と、曹操は云ふ。なぜ曹操と自分が、と玄徳が問ふと、「儂にはひとつだけ欠けてゐるものがある」と曹操は答へる。「心から人に信じら慕はれるものだ。人徳と云つてもよい。お主にはそれがある」「あなたが人に信じられないのは、あなたが人を信じないからです。それだけのことです」「玄徳」「けれども私も心から信じ合へない人と生死をともにすることはできません」「そうか。やはりいやか」と、うつむく曹操が、心なしかしよんぼりして見える。こんな曹操、なかなか見られないよ。

去る曹操の背中を見送る玄徳一行。
関羽から、曹操が王允から七星の宝刀を譲り受けた話を聞く。そして、曹操がその刀で董卓を斬るつもりであることも。
「いかん、あれだけの男、むざむざ死なすわけには」つて、玄徳、だつたら仲間についてあげればよかつたのに。

夜。
董卓の館をおとづれる曹操。
宰相(いつの間に)・董卓に宝剣を献上しにまゐりました、などと云ふ。
七星の宝刀を見て、董卓は満足げ。
だが、「すまんが、ちかごろどうも太り過ぎでな。失礼する」と、長椅子に横たはる董卓。
曹操の顔が大写しになつて、ぢろりと董卓を睨むのが、いいぞいいぞ。

董卓の館の外か。
玄徳一行が白馬童子風体になつてやつてくる。
まづは張飛、つづいて関羽が壁をよぢのぼる。身軽だなー、ふたりとも。
先に立つ張飛は、門番を倒して門を開ける。

一方曹操は、おもむろに宝刀を引き抜き、ふりかぶる。
そこへ飛んでくる方天戟。
「なにごとぢや」と起き上がる董卓のもとにあらはれるのはもちろん呂布。
呂布は、董卓に、曹操が殺さうとしてゐたと告げる。曹操は、邪魔するなと呂布に斬りかかるが、呂布にかなふわけないぢやんよー。
と、思つたところへ、張飛があらはれて呂布と相対し、曹操を逃がす。
曹操を逃がすと、張飛もまたその後を追ふ。
「捕まへて切り刻んで犬に喰はせてやれ」って、云ふことが凄まじいな、董卓は。
演義では、ここはその刀の輝きに董卓が気づいて、曹操はその場を取り繕つて逃げる、なんだがな。

関羽と張飛、曹操とは壁の上を逃げる。身軽だなー。
壁の外には、玄徳が曹操の馬をつれて待つてゐる。
壁の上を呂布も追ひすがつてくるが、玄徳と曹操とは馬でその場を逃げ去る。
それを見て、呂布は壁の上の関羽と張飛とをあとに残して逃げたふたりの後を追ふ。
関羽と張飛とはおとりだつたわけだね。
おとりにはひつかからないか、と、嘆く張飛に、あとは運を天にまかせやう、と云ふ関羽。

赤兎で追ひかける呂布。
赤兎にかなふわけがないんだがなあ。
といふわけで、追ひついてしまふ。
追ひつかれさうになつて、玄徳と曹操とは二手にわかれることにする。
曹操は、故郷・陳留に帰つて兵を募ることにする、と云ふ。
玄徳は、そんな曹操に「道中気をつけて」と云ふ。
「お主もな」と、曹操は、先に行く。
なんか、こんなところを見てゐると、玄徳と曹操とには、もつと別の道もあつたのにな、といふ感じがする。

呂布は、「赤兎、お前はどつちの奴を殺したい」と訊く。赤兎は玄徳の去つた方を指す。「よし、俺もだ。行くぞ」つて、呂布よ、董卓が殺せと云つたのは、曹操だらう。
赤兎と呂布とは玄徳の前にまはりこむ。そして、白竜に向かつて、降参するなら玄徳をはふりだせ、さうすれば命は助けてやるぞ、とか云ふ呂布。なんなんだ、いつたい。
玄徳と白竜とは、どうやら崖つぷちのやうなところを走る。後を追ふ呂布と赤兎。
追ひついて、呂布は赤兎から降り、玄徳と白竜とを谷底に突き落とせ、と、命じる。
一度は躊躇して突つこんできた赤兎を、白竜は玄徳を乗せたまま飛び越え、鼻面で呂布を攻撃する。
谷底に落ちたのは呂布の方だつた。
赤兎に助けを求める呂布。しかし、赤兎はいななくばかり。
玄徳は嘲笑つて、自分だけ助からうとする人間のことを馬が助けると思ふか、と云ふ。まあ、そのとほりだがね。それでも玄徳は呂布を助けてやるのだが。
この場面、この後呂布は赤兎に乗り続けるし、赤兎も呂布亡き後、ほかの人間を乗せやうとしなかつた(らしい)ことを考へると、どうなのよ、といふ気がする。確かに呂布の性格の悪さは出てるけど、でも、以降の展開を考へると、呂布だつてそんなひどいことをしなかつたんぢやないかなあ。
「名を、名を名乗れ。名も知らぬ奴に負けたとあつては俺の名が廃る」さう云ふ呂布に、玄徳は白頭巾を取つて、「劉備玄徳」と名乗る。ここで劇的にBGM。効果的。
雌雄は戦場で決しやう、と云つて去る玄徳に、のぞむところだと答へる呂布。

朝まだき。
頭巾を取り、馬を連ねて玄徳一行は互ひにうなづき合ふのだつた。

脚本

小川英
四十物光男

初回登録日

2013/07/17

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