#24 <<< prev





「れいなー!朝だよーご飯できたよー起ーきーてーーー」
「zzzzzz・・・」
「もぉ・・・」

この光景にも段々と慣れてきつつあった。
れいなとヨリを戻してから今日で何日目になるんだろ。
絵里はれいなが住んでいるマンションに住むことになった。
出勤前にれいなを起こし、一緒にご飯を食べさせ合いっこするのが日課。
今日もいつもの勤めを遂行しているわけなんだけど、どうもれいなの寝起きがいつもより悪い。

「zzzz・・・」
「本人は全然起きないのにこっちは元気に起きてる」

昨夜あんなにしたのにれいなの精巣はもうハイオク満タンなようで、恋人としてなんだか頼もしく感じちゃうね。
皮から飛び出たピンク色の可愛い亀頭を指で撫でるとピクピクと反応する。
おもしろいので時間を忘れてしばらく続けていると携帯の着信が入った。

「もしもし亀よ?」
「亀井〜!おまえ今日早出!忘れてんじゃないよおばか者」
「! あわわ」

ここしばらく無遅刻だったから完全に油断していた。
早出の出勤時間はもうとうに過ぎちゃってるけどこれ以上B型で短気な先輩を待たせると次からトイレ掃除当番、絵里だけ週三になっちゃうかも。
れいなのおでこにキスをしてからナイトクロウラーも裸足で逃げ出しそうなほどの俊敏さで身支度を整えてから部屋を飛び出した。


*****


「・・・んむ?」

今インターフォンが鳴ったような。

「・・・・・・やっぱり鳴っとぅね」

寝ぼけ眼をこすりながら渋々ベッドからのそりと起き上がる。その拍子に腰の骨がグキリと不快な音を立てた。
昨夜、絵里がフィーバーしまくったせいで腰が赤ゲージ状態なのだ。
今夜もローリング駅弁を所望されたらと考えるとコルセット着用でのプレイを覚悟せねばこのままじゃヘルニアでまた病院で缶詰だ。

「はいはい、今いきますよっと」

人が腰痛で苦しんでいるというのにピンポンピンポンと、扉の向こうにいるやつには人の心ってもんがないのかね?
かぶっていたシーツをどける。
股間に布地が掠ってむず痒い感覚に襲われた。
それを無視してリビングで白スーツ着たまま死んでいる小春を踏みながら玄関の扉を開く。

「どちらさんですかー?」


 **********


「随分上がると思ったら、最上階なんだな。住んでるとこ」
「そうよん。田中っちも私も11階住み。他は空き室で、みーんな好き勝手やってるわよこの階の連中は」
「へえ。楽しそうでいいな」

心にもない言葉がポンと出た。
ガキさんがその田中っちとやらとワイワイしてるのを想像すると口角が斜め下にひん曲がりそうだ。
実際、今の俺の唇はへの字に曲がっている。
そいつはガキさんの好意に気付いているんだろうか。
気付いているとしたらそれにかこつけてあんなことやそんなことをガキさんに強要していてもおかしくはない。

「いるかなー?いるはずなんだけど」

好きな男が住んでいる部屋だというのに1105と書かれた扉のインターフォンをなんのてらいもなく押すガキさん。
数分の後、俺の大脳皮質をピリっと刺激するような気だるそうな男の声が扉の向こう側から聞こえた。
なんだ?この細胞のざわめきは・・・何か野生のカンが俺に警告を訴えている。
ダメだ。ここにいては。今すぐそこから離れた方がいい。家に帰ろう。帰って寝よう。そうだ、京都に行こう。
・・・こういうのを、嫌な予感って言うんだ───

「どちらさんですかー?」

まず始めに見えたのは寝起きでボサボサに爆発したメタラーを彷彿とさせる長い茶髪と、
忘れもしない苦い記憶を呼び覚まさせる相変わらず生意気そうな女ヅラ。

「な、な、なん、で」

脳内回路がブツブツと断線し、頭から煙が出そうなほどの眩暈に襲われる。
口内がカラッカラに渇いて舌が焼けそうだ。唾液が足りないせいで呂律が回らない。
目の前にいたのは、かつて俺を屈辱に塗れさせたあの・・・

「なんで田中れいながここn、・・・・・・あ、アナコンダ!?」

田中は素っ裸で、寝起きの生理現象にしては立派過ぎる股間が俺に牙を剥いていた・・・じゃなく、向いていた。
なぜ田中れいながここにいるのかについての脳内処理は後回しにされ、そのバケモノに視覚器官がロックオンされる。
俺のより遥かに・・・っていやいや、そうじゃなくて。

「なんでおまえがここにいるのか聞きたいところだがその前に・・・なんで全裸なんだよ!?服着ろよ露出魔!!」
「高橋愛・・・?なんでおまえがガキさんと一緒におると?なんか用?」
「下をしまえよ!!!!!!」
「え?・・・あ」

ようやく自分の格好に気付いたのか慌てて下を両手で隠す田中れいな。
・・・だがサイズが大きすぎるせいで全く隠れていなかった。
今更だが、こんな暴力的なモノをガキさんに見せるのはマズイのではないか。もう遅いかもしれねーが。

「がっガキさん!?」
「〜〜〜・・・」

案の定、顔を真っ赤に紅潮させフラ〜っと地球の引力に吸い込まれていくガキさんの体を慌てて支えた。

「ガキさん!ガキさん大丈夫か!?」
「・・・」
「だめだ、完全に気絶してる・・・・・・テメーのせいだぞオサ亀!!」
「(無視)が、ガキさん・・・ベッドで寝かせた方がいいっちゃね。ごめんちゃ・・・ガキさん」

首の後ろに手を回して運び出そうとする田中れいなの足を踏んで牽制した。

「ギャッ!いってぇーな!何するとこのスットコドッコイ!!」
「俺が運ぶからテメーはさっさと服を着ろ」
「いや、服の前にガキさんを部屋の中に運ぶのが先やろ。れいなのせいでガキさんこうなったんやし。ちょっとおまえ邪魔よ」
「ガキさんに触んじゃねー早く服を着ろ」
「服なんかどうでもいいっちゃろ」
「よくねーよ!!服着て、その下のモノ鎮めてこいよ!!」
「なんでおまえの命令に従わなきゃならんと?」
「ああ!?」

喧々囂々。
俺も田中れいなも全く引く気がないせいでガキさんは気を失っているにも関わらず廊下に放置されっ放しである。
たかがちょっと抱き起こして部屋の中に運ぶだけだというのに・・・これではガキの喧嘩だ。
普段は冷静な方の俺もこいつを前にすると頭に血が上ってバカになる。
よくないとわかってはいるが本当に馬が合わないんだろうな、遠慮する気も譲る気も微塵も沸かない。
お互い、汚らしく唾を飛ばしあって悪口大会を開いていた。

「だいたいなあ!普通全裸で客出迎えるか!?おまえはまず常識ってもんがねーんだよ!
 軽犯罪もコンビニ行くようなノリでひょいひょいやりやがって、あといい加減服着てその汚いもんしまえよ!」
「素人童貞のくせに生意気言うなっちゃん!」
「ちっ、ちちちちちちちが」
「朝っぱらからやかましい!!」

一室挟んだ向こう側の部屋から、えらい美形で長身な女がタンクトップにパンツだけという
羞恥心を母親の胎内に置き忘れてきたかのような格好で不機嫌そうな顔を隠しもせず出てきた。

「人が気持ちよくレム睡眠してたってのに外でギャーギャーと・・・喧嘩すんなら余所でやれバカ共」
「吉澤さん!でもこいつが・・・」
「うっさい。・・・て、なんだその寝てるのは。ガキさんじゃん。なんかあったの?
 ・・・というかなんで全裸なのおまえ」
「・・・」

誰かは知らんが助かった。
あのままやりあっていたら間違いなく乱闘騒ぎになっていたに違いない。
吉澤と呼ばれていた女性がガキさんの頬をピタピタと弱めに叩いた。

「おーい、ガキさん大丈夫?」
「うぅ〜ん・・・あと4泊5日・・・」
「大丈夫ぽいね。よかったよかった」

ひょいとガキさんの体を軽々と持ち上げ、男なら誰もが一度はやってみたいと憧れるお姫様抱っこなるものを
涼しい顔でなんの感情の起伏もなく実行する吉澤。
似合いすぎて嫉妬すら起きない。

「こやつはよしざーが連行する」
「えっ」
「なんだ青年。なにか文句でも?」
「あ、いや」

扉の向こう側に颯爽と消える王子様とお姫様。そしてその場に一人取り残される俺・・・と、おまけで田中れいな。
・・・何しに来たんだ俺は。
そもそも、俺は何をしにここに来たんだっけ?

「・・・」
「・・・・・・帰る」

ガキさんが消えた以上、ここにいる意味はない。
嫌な気分のまま立ち去りかけた時、聞かなくてもいいことを聞かなければならない強迫観念に背中を押された。
自然と口が開き、鈍色の言葉がとろりと漏れ出る。

「おまえ・・・ガキさんからなんて呼ばれてんの・・・?」
「ぁあ?」

田中れいなは訝しげな表情をしばらく見せた後、面倒くさそうな顔と態度のまま、

「"田中っち"」

と、一番聞きたくなかった言葉をさらりと言った。


*****


「ただいまれいな〜」
「おかえり絵里〜」

残業から帰ってきた絵里をキスで迎える。
普通、立場逆じゃないか?と思うだろうが、れいなの方の仕事が休みだったのでこうならざるをえなかったのだ。
ちなみに創立記念日らしい。YHの創立記念日は半年に4回もあるのだ。こいつはすごすぎるぜ。

「風呂沸いてるっちゃよ。飯もキャベツ丼ができとぅ。どっちにする?」
「う〜ん・・・お風呂!」
「ん、わかった」
「れいなと」
「へ?」

むんずと後ろ襟首を万力で掴まれ、突然の出来事に受身を取る間もなく盛大にズッコケる。
しこたま腰を打ちつけ、声にならない悲鳴が出たがそんなものはおかまいなしにそのままれいなを風呂場へとずるずる引っ張っていく絵里。

「〜〜〜〜〜〜〜・・・え、絵里、ほ、骨g」
「一緒に洗いっこしよー」
「いだだだだだだだだ尾てい骨削れて傷があだだだだだだだだだ!!!」
「うへへへ。れいなと泡風呂泡風呂〜♪」


*****


「ただいま絵里〜」
「おかえりれいな〜」

残業から帰って疲れきった身体を全回復してくれる癒しのキスで迎えられる。
新婚っぽい雰囲気に浮かされ、顔がだらしなく溶けた。

「今日の晩御飯はうなぎと山芋のとろろご飯だよ〜。お風呂は登別温泉の素を入れてもう沸いてるよっ」

エプロン姿の絵里がくるんと一回転するとシミ1つないツルっとした剥き卵のような美尻が一瞬視界に入った。
は、裸エプロンだと?
ゴクリと生唾が喉を嚥下する。これはもう完全に誘ってるな。
飯をいただいてから望み通り絵里ちゃんも美味しくいただこう。





「先に飯、」
「先に絵里?やだぁれいなったらもぅエロ助なんだから〜!しょうがないなぁもぅ〜ベッド行こっ」
「いや違」
「早く〜!」

グイーッ ズルズルズル

「いだだだだだだだだだだだ傷が開く!!!!!!」
「ローリングは飽きてきちゃったからジャンピング駅弁っていうのどうかな?れいなが1秒に2回ジャンプし続けるんだよ。
 絵里オリジナルなんだけど絶対気持ちいいよ!早速実践してみようね」
「え、絵里、れいな今腹減って」
「うへへへ。エッチ♪エッチ♪れいなとH♪」


*****


「ただいま絵里〜」
「おかえりれいな〜!ご飯もお風呂も準備万端だよ!」
「じゃあ、」
「絵里にする?絵里にする?それとも・・・絵・里?」
「じゃあ、」
「え?絵里?もぅ〜れいなってばほんとにスケベなんだから〜うへへへへ」


*****


・・・。
・・・・・・。
・・・・・・・・・。


*****


「田中さん」
「あ?・・・なんよ小春」

陽が落ちて空が闇に染まる刻限、YHにて。
小春が珍しく影を背負いながら今にも泣き出しそうな顔でれいなの施術室にやってきた。
彫りについて何か悩み事でもあるのだろうか?そういえばこいつはあまり才能がないのか全く技術が上達しない。
酷だが若い今の内に才能ないからやめとけと忠告しておいた方がいいかもな。

「田中さんと絵里さんのことについて相談があるんですけどぉ・・・」
「・・・?」

しかし小春から出た言葉はれいなの予想とは全く違うものだった。

「れいなと絵里?・・・本人を前にして何よ相談って」
「田中さん・・・・・・小春のこと見えてますかぁ〜〜〜〜!?」
「はぁ?」

小春はれいなの服に顔を押し付けわんわんと泣きじゃくる。
・・・汚いので振り払った。

「だって、一日中ずーーーーーーーーーーーっと絵里さんとイチャイチャイチャイチャベタベタベタベタ・・・
 バターになるんじゃないかってくらいずっとくっつきっぱなしだし・・・こ、この前なんて、朝から小春が飯食ってる目の前で、
 口移しで飯食わせ合いっこしてると思ったら、そ、そのまま・・・おっぱじめようと、っ・・・!」
「・・・」
「小春は観葉植物じゃないんすよ〜〜〜!!あの部屋は小春も住んでるんすよ田中さぁ〜〜〜ん!!ステルス扱いしないでくださいよぉぉ・・・」
「あー・・・」

そういえばこいつも居たんだった。
気分が絵里との同棲モードに切り替わっていたせいで勝手に小春を視界からシャットアウトしていたんだろう。
これは悪いことをした。

「ごめん小春」
「ぅぅぅ〜〜・・・小春の傷は深いですよぉ〜・・・焼肉タダで食えたら治りそうですけど〜・・・」
「したたかなやっちゃな」

ま、それぐらいなら安いもんか・・・。
携帯を開き、スケジュール表を確認する。
小春のホストという職業柄、夜に出かけるのは無理なので朝から焼肉ということになるが・・・そういうのもオツなもんだ。

「・・・田中さん」
「ん?まだ何かあると?」
「プロポーズとか考えてるんですか?」
「ブーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!」
「うわっきったねっすよぉ!」
「ぷ、ぷぷぷぷろ、」

プロポーズ!?
・・・。
それは・・・まだ、早くないか?

「全然早くないですよ〜。だって田中さん今22ですよね?で、絵里さんが23・・・ちょうどいいくらいじゃないですか?」
「いや、まだれいなは家庭を持てるほどそんな余裕あるわけじゃ・・・」
「家庭っつっても結婚=子供ってわけじゃないですし。最初は夫婦で共働きが基本っすよぉ。籍入れるぐらいならお金なんてかかりませんし。
 かかるとしたら指輪代とかですかね。給料3か月分ってよく聞きますよね」
「し、しかし」

小春がれいなを説得しようと口を開きかけた時、ちょうど奥の部屋からお〜い小春〜という吉澤さんの間延びした声が聞こえ、この話題は中断された。
はーいと下っ端らしく上司にコキ使われる小春を余所にれいなの頭の容積はプロポーズという言葉でいっぱいになっていた。

「・・・」

プロポーズ・・・プロポーズか・・・。
まだヨリを戻したばかりということもあって深く考えたこともなかった。
もう結婚してもいい年なんだなぁ、そうだよなぁ、一時別れていたけど絵里とはもう随分長い付き合いだし、
もしかしたら絵里の方も期待してるのかも・・・。

「う〜む・・・」


*****


その日は部屋に真っ直ぐ帰らずに街へと繰り出した。
寄った店はブライダルジュエリーの店。
カルティエ、ティファニー、ヴァンクリーフ&アーペル 、ハリーウィンストン・・・
男のれいなが見てもサッパリな高級ブランドのギラギラと眩しい宝石の輝きを1つ1つ品定めしていく。
絵里に似合うものはどれかと。

「・・・」

想像する。
れいなが苦労して働いた金で買った指輪。
それを絵里の左手薬指へと通す。
肉が引っ掛かってなかなか嵌らない。気持ちだけが焦る。ほんとにれいなは不器用だ。
そしてようよう水かきの部分まで指輪が通る。
目尻に涙を浮かべながら微笑む絵里。
その姿はとても幸せそうで・・・

「・・・うん」

いいかも。





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