(80-451)石田とさくらの大切な人



3月に入り、暖かさも増してきたこのifマンションをいつものように石田クンが荷物を抱えて走り回っている。

「田中さん。お届け物です。」
「いつもありがとうね。石田クン。」

さゆみさんはいつものように受け取りの判子を押すと、石田クンから宅配便を受け取った。

「あの…さゆみさん。大変申し訳ありませんが、僕…明後日3月の11日から13日の間、お休みを頂くことになったので、その間は別の者が参りますのでご了承ください。」
「あら?珍しいわね。何かあるの?」

さゆみさんは日にちを知ると、相手に気がつかれないように口角を少し上げて微笑んだ。

「地元の仙台に昔の仲間たちと炊き出しのボランティアをしに行くので、実家には寄っている時間は全く無いんです。もうじき『3/11』ですし…」

石田クンの言った日付を聞いて、さゆみさんは予想外の言葉にハッとして息を飲んだ。思っていた日にちと違っていたからだ。

「ごめんなさい…」
「気にしないでください。」

少し雰囲気が悪くなってしまった所に、石田クンの後ろから足音が聞こえてくる。

「あっ!石田さん。お疲れ様です。」

声をかけてきたのは田中クンの弟子である宮澤茉凜だった。

「3/11の芋煮会のボランティア、よろしくお願いいたします。」
「宮澤さん、こちらこそよろしく。先行して前日から現地入りするそうですね。」
「ええ、そのために田中さんと吉澤さんに土下座してお休みを頂きましたから。」
「僕は前日10日の仕事が終わってから出発するから、到着は当日の朝かな?集合時間までには下道飛ばして向かうからよろしく。」

そんな会話を交わした後、宮澤さんは忙しそうに職場に戻って行った。
石田クンもさゆみさんに頭を下げて、次の場所に向かった。



3月に入り、小田さくらちゃんは激務で疲れきった身体を引きずりながらも、心のなかではウキウキしながら帰宅していた。
3月の勤務表を見て、3/11・12が連休と知ったときには何かの間違いに違いないと思ったほどだ。
勤務表が事実だと確信してから、頭の中はちょっぴり浮かれていた。
確か…アイツとの食事は3/11。自分の誕生日の前日でもあるので、少し力を入れて、ちょっとだけだが、いつもより豪華にしようと考えていた。

「3/11はアイツもまだかなり引きずっているようだから、少しでもリラックスしてもらえれば…」

あの石田クンがこわばった表情のまま、自分にしがみついていた時のことは小田ちゃんにとっても忘れられなかった。
自分自身どこまでやれるかなんてわからない。
だが、アイツの笑顔を見るとドキドキするし、また見たいと思っている自分がいることに気がつき始めていた。


「おぉ、小田ぁ!今帰宅か?お疲れ!」
「お…お疲れ様。」

アイツのことを考えていた真っ最中に突然本人から声をかけられたので、思わず動揺してしまい、声が震えてしまった。
ただし、アイツには何も気づかれていない様子である。

「所で小田、伝えるのが遅れたけど、3/10夜から13日の夜ぐらいまで用があっていないから、僕の分の食事はいらないからな。たまには手を抜いて簡単に済ませよ。」
「え?どこかに行くの?」
「まあな…ちょっと断れない用事でな。」
「そ、そう。わかりました。」

石田クンは自分の部屋に入ってしまった。
バタンというドアの音を聞いた小田ちゃんは思わずフラフラと廊下の壁に寄りかかってしまう。

「せっかく3/11・12とお休みなのに…」

「はぁ〜全くどっちもどっちなの。」

ため息をつきながら小田ちゃんの前に姿を表したのはさゆみさんを始めとしたifマンションの女性陣だった。

「小田ちゃん、あのね…石田クンは仙台にボランティアに行くんだって。」
「ボランティア…ですか?」
「れーなの弟子に宮澤真凛って子いるでしよ。あの子も宮城出身なんだけど…宮城出身の若手有志が復興団地にいる高齢者や3.11で親など大切な人をなくした子供達を対象にして鍋などを振る舞うんだって。」
「そうだったのですね。」
「おそらく小田ちゃんに言わなかったのは、この時期に休みが取れないと思い込んでいるのと、ボランティアはとても大変だから気を使っていたみたい。」
「アイツがですか???」
「で、れーなが真凛ちゃんに『もし小田が石田と一緒にボランティア会場に来たらどう思う?』と聞いたら、真凛ちゃんは初めキョトンとした顔をしてたらしいけど、すぐに笑顔に変わって、『大歓迎します!何せ集まるのはむさ苦しい野郎がほとんどなので、料理ができて、気が利く小田さんならこちらからお願いしたいぐらいです。』ですって。後は小田ちゃんの決断次第ね。」

さゆみさんは優しく微笑みながら小田ちゃんを見つめている。
小田ちゃんは話を聞いた後、しばらく下を向いていたが、肩をがっくりと落とし、顔を上に向けた。

「あぁ〜もう!仕方ない!運転しながらでもつまめるような、お弁当を作ることにする!」

その言葉に周りの女性陣はホッとしたというか、顔が緩む。

「…って、皆さん何でニヤニヤしているのですか!」
「い…ぃゃ、何か手伝えること、あるかな…なんてね。」
「大丈夫です!!」

飯窪さんの言葉に小田さんは一言強めに答えて、自分の部屋に入ってしまった。
ドアが閉まると、ifマンションの女性陣は近所の二人に聞こえないように小さな声で歓声を上げた。



3/10の夜。石田クンはフラフラになってマンションまで帰って来た。そして6階までたどり着いた時、ご近所さんの飯窪さんが出て来る。

「あゆみん、お疲れ!これからすぐに出発するの?」
「いや…流石にそれはキツいから、2〜3時間仮眠してから出発するよ。夜中なら道も空いているから、飛ばせるし…」

飯窪さんの問いかけに石田クンは半分あくびをしながら答え、自分の部屋の前に立った。

「気をつけて…」
「ありがとう…はるなん。」

石田クンかドアの向こうに消えると、飯窪さんはニヤリとした顔をして、スマホを取り出した。



数時間後、石田クンは目覚まし時計の代わりに仕掛けていたスマホのアラームを叩きつけるように止めると、目を擦りながら起き上がった。
それと同時にお腹の虫が腹減ったと主張する。

「腹減ったけど、食っている時間無いから、途中のコンビニで何か買うか…」

そう呟きながら着替えると、用意していた荷物を背負い、家を飛び出した。

「何で皆さん総出でニヤニヤしているのですか!」
「これから行くんでしょ。だからみんなで見送りに…」

駐車場で石田クンを待ち受けていたのは、いつものifマンションの面々だった。
ところが一人、一番気になる奴の姿が見当たらないが、自分だって詳しい場所や時間は伝えていないのだ。今頃はおそらく寝ているだろう…
そう思い、何も言わずに車に乗り込んだ…と、同時に反対側の窓をノックされたので、慌てて音のした方に振り向くと、不機嫌な表情の彼女がいた。

「石田ぁ!さっさとドア開けて!」
「ぉ、おう…」

あまりの勢いに石田クンが助手席側のドアを開けると、小田ちゃんはまず鞄を車の中に放り込むと、何かを包んだものを手にして、助手席に乗り込んだ。

「ど〜せ、何も食べていないんでしょ。運転しながらでもつまめるような物、作ってきたからありがたく思いなさいよ!ボランティアも手伝ってあげる。」
「ぉ…小田ぁ!」
「ほら…時間も無いんでしょ。さっさと出発すれば?」

ふと外に目を向けると、田中クンを始めとした男性陣、さゆみさんを始めとした女性陣共にニヤニヤしながら覗きこんでいる。

「おめでとう」
「行ってらっしゃい!」
「お幸せに!」

助手席に視線を移すと、小田ちゃんが下を向いて赤面している。

「アイツら…帰ってきたら覚えてろよな!」

そう大声で叫ぶと、石田クンはアクセルを思いっきりベタ踏みした。
中古の青い車は急発信してしまい、助手席の小田ちゃんは驚いて、小さな声を上げたがそれさえも石田クンは無視してしまった。


石田クンの頭の中は様々なことでいっぱいいっぱいだったが、あることに気がつくと、慌ててブレーキを踏んだので、助手席の小田ちゃんは今度は前のめりになる。

「一体どうしたのよ!」
「お前…休みはどうした?まさか…また吉澤さんの強権発動か?」
「いえ…たまたま11日12日と連休でした。」
「貴重な休みをゴメン…何ならここで降りるか?」
「今、ここで帰ったらあのメンバーに何を責め立てられることやら…あなたも帰ったらどんな目に合うでしょうね。」

車内はしばらく微妙な空気が漂っていた。その雰囲気を壊したのは、1つの大きな音だった。

『ぎゅゅるぅぅ〜』

その音は石田クンの腹の虫が空気も読まず、自己主張したものだった。
それを聞いた小田ちゃんは慌てて手にしていた包みを開いて、石田クンの運転に邪魔にならないようにお弁当を並べる。

「運転中でも食べられるように、小さめのお握りと、おかずもフォークやつまようじでも取れるけど、何かあったら大変だから、一口で摘まめる物ばかりにしてきたから、とりあえず食べて!」
「ありがとな…おっ!うめえ〜」

石田クンは小さめの丸いお握り、一口大の唐揚げやブロッコリーなどの野菜などを次から次にと口の中に放り込むと、咀嚼して、一気に飲み込む。
飲み込むごとに『うまいうまい!』と口に出し、それを何回か繰り返した後、倒れないように小型の水筒に入ったお茶を一気に飲み干した。

「ふぅ〜これ以上食うと眠くなるからこれで止めておく。ごちそうさん。」
「お粗末でした…ふぁ〜」

石田クンの食べっぷりに半ば呆れていた小田ちゃんだったが、意外にも満腹までいかずに食べるのを止めたのを見て内心驚いたが、礼を言われたとき、思わず小さなアクビが出てしまった。

「小田…お前、腹減っていないのか?」
「ご心配有難うございます。作るときにつまんでいるので大丈夫です。それより、眠気は大丈夫ですか?眠くなったらいつでも運転ぐらいなら代わります。」
「俺は数時間仮眠したから、しばらくはへーき。腹はとりあえず美味しい飯で満足満足。それよりもお前の方が眠そうだぞ。ちょっと待ってろ。」

信号が赤で停車した時、石田クンは後ろの席から何かを引きずり出すと、小田ちゃんの膝に投げた。
小田ちゃんが広げたところ、その正体は青い毛布だった。

「いくら3月入ったとはいえ、夜中だし、これから北上するんだ。それかぶって寝てろ。」

石田クンはそう言うと、青に変わった信号に反応し、ゆっくりと発進させた。加速もじわじわとした感じで、身体の負担も優しい。

その丁寧な運転が自分のためだと気が付いた小田ちゃんは水筒を並べる。

「冷たいお茶、暖かいお茶…それに眠気覚まし用のコーヒーが入っているから何時でも飲んでもかまわないわ。」
「ごちそうさん。凄く助かる。それより、お前は寝てろ。」
「じゃ、お言葉に甘えて…ふぁ〜」

小田ちゃんは靴を脱いで、足元を楽にさせると、石田クンから借りた青い毛布にまるで猫のように丸くなると、かなり疲れていたのだろう…すぐに小さな寝息が聞こえてくる。
それを聞いた石田クンは、さらに丁寧な運転につとめる。


石田クンの青い車は時々、トイレタイムや気分転換に道の駅に止まりながらも、さらに北上して行った。
夜明け間近でまだ暗い中、青い車は狭い道を昇っていく。
この辺りは石田クンにとってはすでにホームとも言ってもいいエリアに入っていたのだった。
石田クンの車が海が見える丘に到着したころ、すでに薄明かるくなっていた。

「うぅ〜ん。やっとついたよ〜予定よりもちょっと遅れたけど、夜明けにはもう少し時間がありそうだな。」

車から降りた石田クンは思いっきり伸びをすると、海を見つめる。空は朝焼けが始まりつつあった。
石田クンは車から並んでいる水筒の中から1つを手にすると、青い毛布にくるまって、小さな寝息をたてている小田ちゃんの姿を見て、ちょっと表情が緩んだ。
車のドアをそっと閉めると、石田クンは車から少し離れた場所に座り込み、暖かいコーヒーを口にしつつ、海を眺めながら、何か想いにふけっていた。

「そろそろかな…」

石田クンはゆっくりと立ち上がると、自分の車に戻っていく。
そして運転席側のドアを開けると、今度は反対側に回り、小田ちゃんが寝ている助手席側のドアも一気に全開にする。
すると、一日中で一番寒い空気が青い車の中を通り抜け、車内の気温が即座に下がる。

「小田ぁ!起きろ!着いたぞ!」
「寒いです…」

小田ちゃんは急に下がった温度にブルッと震え、さらに毛布に潜り込んだ。
石田クンは毛布をしっかりと握り締めている小さな手をとると、少し引っ張った。

「お前に見せたいものがある。ほら!もう時間がない。毛布を被ったままでいいから!」

石田クンか車から引っ張り出そうとしたので、小田ちゃんは慌てて靴を履くと、毛布にくるまったまま、強引に外に連れ出され、丘を昇っていく。
その登った先の目に飛び込んで来たのは…広い海にちょっぴり姿を見せた太陽…日の出の瞬間だった。

「キレイ…」

寒さも忘れ、小田ちゃんは目を大きく見開いたまま、昇る太陽を見つめていた。
石田クンもじっと日の出と大海原に視線を向けている。

「前にも言ったことがあるけど…あの日は突然の地震と大津波で、僕は命からがらこの丘まで逃げて来たんだけど、目の前には物凄い水と、それに流される船、車、家…色々と見たよ。同じ学校の別のクラスの奴や同じクラスでも親や祖父母、兄弟姉妹が流されて、未だにご遺体が見つかっていない奴もいる。もちろん今日のボランティアをやっている奴もそんな体験している者も多い。」

石田クンの珍しい語りに小田ちゃんは名にも言わず、ただ耳を傾けていることしかできなかった。

「家族はその時にはどうなっているかわからず、津波で何処にも行けないから、仕方なく車の止めたもう少し先にある学校が避難所になってな、そこに逃げ込んだ。そして…その夜。電気は完全にダメだから真っ暗で、水がゴウゴウと流れる音しかしなくてな…僕は一人だったせいもあって、全く眠れなくて、外に出たんだ。その時…僕の目に入ったのは空一面の星空だった。本当に凄くてな、しばらくは建物を背にして座り込み、ただ…星空だけを見ていたんだ。何回か流星が流れるのを見た時『お前は生きろ!』と言われたような気がした。」

石田クンの視線は海から空を見上げる。その目は少しだけ眩しそうにしている。

「どれぐらい時間がたったんだろう…星々が明るさに徐々に消えていき、今みたいに日の出をじっと見ているときにさ…ある曲で『東の空昇る太陽のように、沈めど起き上がる。不屈のBRAND NEW MORNING』ってあるじゃん。なんにも失うもの無い今の君は『誰よりも最強』ってね。日はまた登る。欠ける月はまた満ちるのさ…それに気がついたら少しだけ元気が出てきた。まあ…幸いにも両親とは翌日に合流することができたけどさ。」

石田クンの長い語りが終わった頃、太陽は下の部分も海から離れ、少しずつ昇っていく。
それを無言のまま見つめていた二人だったが、そんな空気を思いっきり壊したのは1つの大きな音だった。

『きゅゅるるる…ぐるるるる』

その音の発信源である小田ちゃんは赤面になると、恥ずかしそうに下を向いてしまった。
しかし石田クンは笑わず、チラリと小田ちゃんを見ると、ポツンと呟く。

「お前、確か…弁当作り中に摘まんだだけだったよな…そりゃ腹も減るさ。ここからなら会場まですぐだし、時間も余裕があるから、コンビニでも行って、朝ごはんでも買って来ようか?」
「その点はご心配なく。二人分の朝食も持参してきました。お茶やコーヒーもまだありますし…どうせならここでいただきましょ。」

呆気にとられる石田クンに小田ちゃんは毛布を被ったまま、車まで戻り、しばらく何かをしていたかと思っていたが、何かを毛布に風呂敷のように包んで持ってくる。

「お待たせ!とりあえず食べましょ」
「ぉ…ぉぅ」

毛布に包まれていたのは、二人分の弁当とお茶等の飲み物類だった。
二人は海が見える眺めのよい場所で小田ちゃんお手製のお弁当を平らげると、まだ時間に余裕があったので、車に戻り、仮眠を取ることにした。


数時間後、目覚まし代わりのスマホが鳴る前に自然に目が覚めた二人はふと視線を合わせると、微笑み合う。

「じゃ…行くか!」
「はい!」
「ちなみに人使い荒い先輩が多いから大変だと思うけど、我慢してくれ。」
「その覚悟がなければ、私…ついてきません。」
「ありがとな。」

そう言うと、石田クンはエンジンをかけ、ゆっくりとアクセルを踏んだ。
石田クンの青い車は高台から下り、広めの道を走って行くと、山に向かって昇っていく。
しばらく昇っていくと、建物と広場が見えてきた。石田クンに聞くと『復興団地』と言う。
津波の関係で住宅や公共的な建物は一定の高さがある場所に建てられることになったそうだ。
あと、まだまだ復興団地も足りず、仮設住宅に住まざるを得ない人も大勢いることも少し苦々しい表情で説明してくれた。
手作りの案内板の指示で石田クンがハンドルを切ると、誘導棒を持った人が出てきた。

「いよっ!元気していたか?」
「石田先輩、お久しぶりです。」

車を止めて、石田クンは誘導してくれた少年と言葉を交わす。
少年はふと助手席にいた小田ちゃんを見つけると、ニヤニヤした表情に変わった。

「大変だぁ!石田先輩が彼女を連れてきたぁ!」
「「彼女じゃない!!」」

石田クンと小田ちゃんは慌てて車から降りたが、時遅し。その少年は大声で叫びながら、全速力で仲間の元に走って行く。
哀れ二人はifマンションの仲間たちよりも好奇の視線の中、受け付けなどをするはめになってしまった。


「よぉ…石田!ようやく着いたか!待ってたよ。はは〜ん、その子が例の『彼女』なの?」
「「彼女じゃないです!!」」

石田クンに声をかけた女性はからかいの言葉をかけてきたので、ついハモって叫ぶと『プッ』と吹き出した。
その直後、小田ちゃんに視線を向けた。

「料理…出来る?」
「凝った物は無理ですが、一応…自炊していますので…」

問われると、小田ちゃんは荷物からエプロンを取り出すと、すぐに身に付けた。

「準備良いねぇ。じゃ、調理場に案内するね!」
「小田さくらです。今日はよろしくお願いいたします。」
「自炊…て言うことは、石田にも作ってあげているの?」
「誰が!あまりにもひもじそうで可哀想だから、恵んでやっているだけです!」
「おい!小田ぁ!」
「あんたはこっち!」

小田ちゃんの『恵んでやっている』の言葉に石田クンが叫ぶと同時に眼鏡をかけた人物にズルズルと引っ張られて行った。

「あ…あれ、良いんですか?」
「いいのいいの!あの人がこのボランティアのリーダーなんだから。」

小田ちゃんは調理場に案内され、周りに『石田クンの彼女』と言うことをその度に否定しつつ、自己紹介をした後、すぐに調理の手伝いに入った。

『確かにこの量ならいくら人がいても足りないわね。』

炊き出し用の材料になる野菜の山を見て、思わず深く息を吐いたが、すぐに気合いを入れ、両腕をまくりあげると、包丁を手にし、凄まじい勢いで山とつまれている野菜を切り始めた。


「♪♪♪〜」

包丁を使う音は一定のリズムを保つようになり、その16ビートに合わせて鼻歌を奏でていたが、それがハッキリとしたハミングになり、最終的には近くの人に聴こえるぐらいの声で歌っていた。
歌いながら左手で野菜の山から1つ掴み、それをひたすら切っていたのだが、その左手が空を切るようになっていた。
野菜を求めて左手は動き回っていたが、急に我に帰って辺りを見渡すと、周りのボランティア達ほぼ全員が小田ちゃんを見ており、見られているのに気が付いた周りのボランティアは小田ちゃんを拍手喝采で包み込んだ。

「歌…上手いじゃない。」

いきなりの拍手喝采にどうしていいか戸惑っていた。
そこに後ろから軽く肩をたたかれ、声をかけられたので、慌てて振り向くと、そこには先ほど石田クンを引きずってつれていった眼鏡をかけた女性が笑顔で立っている。

「あ〜ぁ、自己紹介忘れていた。私はこのボランティアの責任者で、極上の医療を目指している『メロン医院』の医師の1人『村田』と言う。ちみがあの石田の彼女だって!?」
「小田さくらです。アイツとは彼氏彼女の関係ではありません!ただのお隣同士というだけです!!」
「まぁまぁ…それは置いといて。このボランティアの代表として、また…被災者の1人として、君に依頼…いえ、貴女にお願いがあります。」


小1時間後、小田ちゃんは借りたタブレットで動画を物凄い集中力で見つめていた。
村田医師から依頼されたのは…招待した人々の前で歌うこと。
そのうち『花は咲く』と『平原綾香さんのJupiter』の2曲をリクエストされ、その他は自分で決めて良いと言われている。
2曲ともテレビなどで聴いたことはあったし、『花は咲く』は東日本大震災のために作られた曲だから、歌ってもらいたい理由も分かる…
しかし『Jupiter』についてはリクエストされた理由が全く思い付かなかったが、ある花火の動画を見つけて、ようやく理解したのと同時に、その意味の重さを知った。
『こきつかっていいぞ』と、いわれて目の前につきだされた石田クンといつものケンカ口調でセットリストや必要なものを言い合って、準備していたところ、ボランティアの1人が何かを手にして近づいてくる。

「衣装を何とか用意しました。使ってください、」
「えっ!コレ着るんですか…」

小田ちゃんの目の前にデコルテや肩を出すタイプの深い青色のドレスが広げられた。

「あのぉ〜これはちょっと…派手過ぎはしませんか?」
「お前、その普段着でステージに立って歌う気か?」

石田クンに言われて小田ちゃんはハッとして、改めて自分の服装を確認した。
ボランティア活動のため、動きやすく、汚れても目立たない格好をしていたのだ。これで大勢の人の前に立ったら失礼に当たる。

「確かに…わかりました。」

完全に覚悟を決めた小田ちゃんは青色のドレスを受け取り、石田クンに『覗いたら承知しませんよ!』の言葉を残して、物陰に隠れて着替えた。



着替えてから、小田ちゃんは周りに気をとられず、ただこれから歌う曲の歌詞について、その深い意味を考えることに集中していた。
そして…時間となり、小田ちゃんは用意された舞台にたち、1曲目となる『花は咲く』を情感たっぷりに歌った小田ちゃんは息を整えて、再びマイクに口を寄せた。

「小田さくらと申します。素人ですが精一杯歌わせていただきますので、しばらくの間お付き合いください。」

そう挨拶すると、目を閉じ、指を鳴らしてリズムを取り始めた。
それを見ていた石田クンはそのリズムに合わせてカラオケのイントロを流し始める。

「ひとりぼっちで過ごす、退屈な夜♪」

『I WISH』を歌いだした小田ちゃんに、観客はゆっくりとリズムに合わせ、軽く手を叩きながら身体を動かす。
しかし、盛り上がるサビでは何人かが腕を上げ、声を出している。

「でも、笑顔を大切したぁ〜ぃ。♪ Yeah ♪愛する人のため〜ぇにぃ…」

最後の部分は思いっきり歌い上げた。

3曲目の『みかん』はアカペラで歌い始める。
これはわざとスローで歌いたいと石田クンと一番ケンカした結果、己の意思を完全に貫き通した。
だが、石田クンもアカペラだけだといくら小田でもリズムが取れないと猛反対したがパソコンからメトロノームをダウンロードしたものを使うことで、かろうじて二人とも同意したのだった。
本来よりもスローのため、静かなイメージの曲になったが、元々は盛り上がる応援歌的な歌でもあるため、サビは力を込めてゆっくりではあるが、拳を上げていくと、老若男女、全ての観客たちも力強く拳を上げて、復興への意思をアピールする。

「海の底でも山の上でも都会でもだれかの故郷(ふるさと)」

この『五線譜のたすき』はスローだが歌詞的にはかなり想いがつまった曲だ。
20年以上メンバーが代わりながら続いているあるユニットの歴代の想いが凝縮され、過去現代未来が込められている。
それを想いながら小田ちゃんは自分が出来る限りの力で歌い上げる。

「どぉれぇほぉどぉ♪…どれほど淋しさをかんじても、わたしたちは愛し愛されていると…」

曲が終わった後、少し息を切らしていたが必死になってばれないように呼吸を整える。
それから低い声で呟くように次の曲である『Jupiter』を歌い始めた。

「Every day I listento my heart ひとりじゃない。深い胸の奥でつながってる…」

この曲は低音から高音まで半端なく広く、小田ちゃんにとっても限界ギリギリかどうかの音域で、本人も非常に不安があったが、悲鳴ではなくかろうじてギリギリ声として出すことに成功した。
心の中でホッとしてしたが、それを表に表情として出すことはなかった。

5曲歌い終わったあと、小田ちゃんは押さえきれない感情をこらえるかのように上を見上げた時、涙が一筋流れる。
それを隠すように、何気なく後ろを向くと、そっと涙を拭った。
正面に向き直したとき、その表情はふんわりした優しい感じに戻っていた。そのままマイクに唇を寄せる。

「次が最後の曲になります。この曲は私にとっても大変思い入れのあるのですが、皆様はこの前引退したフィギュアスケートの尾形春水選手をご存知でしょうか?」
「もちろん!この前アイスショーにも来てくれて、演技をしてくれた!」
「そう言えば…その時、演技してくれた曲はエキシビションで行う、オリジナルではなく、ピアノでの編曲した物と聞いたけど、その時は誰かかが歌っていたけど、それがピアニストの彼女?」

観客の言葉に小田ちゃんは微笑んだ。

「実は、エキシビションの時は尾形選手の恋人であるピアニストの野中美希さんが編曲し、演奏もするのですが、東北でのアイスショーで使いたいから、歌ってくださいと頼まれまして、生まれてはじめて『レコーディング』というものをしてきました。尾形選手、野中氏とはプライベートでもお世話になっていまして、実際に歌っている方々にも許可を取ってきたそうで、そのためだけと聞いております。では、最後の曲になります。聞いてください『Be ALIVE』」

前の曲全てに全身全霊を込めて歌っていたが、この曲については真の意味で全てを込めて歌っている。
特に2番の始めはかなり重い。それでも地元の人に寄り添うつもりで歌い上げた。


「ありがとうございました。」

すべてを歌い終わり、拍手喝采の中、深々とお辞儀をした小田ちゃんは舞台から降りた。
そして、舞台の後ろの誰も見えない場所までたどり着くと同時に膝から崩れ落ちそうになったところを、微かに残る気力のみで何とか己の身体を支えようとした。

「おい!大丈夫か!」

舞台上の片付けをしていたはずの石田クンがいつの間にか側まで来て、足元が怪しい小田ちゃんを支える。

「ちょっと感情移入し過ぎたみたい…」

呟くようにそう答えた小田ちゃんは、支えを拒むかのように、石田クンから離れようとしたが、逆に石田クンは肩の支えから、右腕を背中に左腕を膝の後ろに移動させると、ヒョイと持ち上げてしまった。俗に言う『お姫様抱っこ』だ。

「ち…ちょっと!」

慌てた小田ちゃんが石田クンの顔を見ると、涙が流れた跡が残っている。
それを見てしまった小田ちゃんは何も言えず、素直に暴れずに黙って運ばれていった。

石田クンはそのまますたすたと、歌う前の準備に使っていた場所まで小田ちゃんを運ぶと、そっと椅子に座らせた。
そして、自分は膝を立ててしゃがみ、小田ちゃんの目の高さに合わせる。

「ありがとな、あんな身に染みる歌は久しぶりに聴いた。そして…無理させてしまってすまない。」
「いいえ、人前で泣いてしまうなんて…逆に情けない姿を見せてしまってごめんなさい。あ、ボランティアの仕事をしなくちゃ…」

本当にわずかに残る気力と意地で立ち上がろうとしたら、グッと石田クンが立たせまいと、両腕で小田ちゃんの肩を押し付けた。

「お前はもう充分過ぎるほど働いてもらった。後は俺達地元メンにまかせろ!今からお前の服を持ってくるから、絶対に動くんじゃないぞ!!」

こう言い残して、石田クンは何度も小田ちゃんが無理しないように何度も振り返り、確認してから、急いで走っていった。
石田クンの姿が見えなくなると、わずかに残っていた意地も気力も使い果たしたのか、椅子から転げ落ちそうになったが、かろうじて耐えることができた。

『はぁ〜情けない。体力には自信があったのに、たった6曲でこのありさま…』

ちょっと椅子にかろうじて寄りかかって座ると小田ちゃんはボーッとしながら空に視線を向けていると、ようやく石田クンが小田ちゃんの私服を手にして全速力で走ってきた。

「お待たせ!ちょっと奥に隠れられる場所があるから、服だけ膝に置かせろよ。」

石田クンはそう言うと、小田ちゃんの私服を膝にそっとのせ、椅子に座らせたまま、力を込め小田ちゃんを運び出した。
これには流石に驚いたが、動くと転げ落ちそうになるので、なされるがままでいた。
先ほどよりは距離はなかったが、全身汗だくで石田クンはそっと椅子をおろした。

「座ったままの方が着替えやすいだろ?僕はあっちで誰も来ないように見張っているからゆっくりと着替えな。」
「覗かないでくださいよ…」

石田クンの言葉に小田ちゃんは先ほどよりも低く、小さな声で答えた。


しばらくして、着替え終わった小田ちゃんは石田クンの元に向かおうとすると、やはりふらついてしまうので、壁に手をついて身体を支えながらゆっくりと歩いていく。
壁にぶつかるような音に、驚いたような石田クンが慌てて振り向くと、すぐに小田ちゃんの所に駆け付ける。

「バカ!もう無理せずしばらく休んでいろ!!」
「もう大丈夫です!」
「お前、ほとんと食べていないじゃないか!何か取ってくるぞ!欲しい物はないか?」
「あまり食欲がないので気にしないでくだい。」

そんなようないつもの言い合いをしていると、少し離れた場所から拍手が聞こえてきた。

「いやぁ…物凄く良いものを聞かせていだきました。招待した人々及び、ボランティアメンバー一同を代表としてお礼を言わせてください。本当にありがとうございました。」

拍手しながら近づいてきた村田先生は笑顔で小田ちゃんに深く頭を下げ、お礼を告げた。

「いいえ!こちらこそ素人の歌の上に、途中で泣いてしまうなんて…みっともないところをお見せしてしまい、大変申し訳ありませんでした。」

村田先生以上に頭を下げ、お詫びをする小田ちゃんにその両手を己の両手でグッとにぎりしめた。

「いいえ、あれだけ全身全霊を込めて歌っていただければ当たり前です。泣いてしまった観客やボランティアも大勢のいましたから…」

村田先生は小田ちゃんの両手をはなすと、隣にいた石田クンに声をかける。

「ところでチミ達は、これから打ち上げと言う名の飲み会が始まるが、今日はどこで一晩明かす気なのかな?」

小田ちゃんは『どーせ、寝るところも決めていないんでしょ。』と、言いたそうな顔で石田クンを見つめている。

「はぁ〜元々、僕一人のつもりだったから、車中泊のつもりだったけど、小田も昨晩は車の中だったから、今晩もそれでいいだろ?」
「仕方ないでしょう。私も恐らくそうなると思っていましたから…」

二人の言葉を聞いた村田先生『やっぱりな…』と、呆れた表情になった。

「実はな…知り合いの温泉旅館で、地震からようやく復活できそうな宿があるのだが、まだ客はとれないけど、お試しとして彼女と一緒に宿泊してくれないか?」
「「彼女じゃないです!!」」
「おい石田!もし二人で泊まらないのなら、この村田…ここでお前の胸を揉んでしまうぞ!それでもいいのか!?」

小田ちゃんはその言葉とおかしい雰囲気で近寄ってくる村田先生に怯え、石田クンの後ろに隠れる。
石田クンは小田ちゃんを守ろうと、前に立ち塞がったが、村田先生は石田クンをそのまま押し倒して、石田クンの胸をざわざわとまさぐり始めた。

「先生!いや、センパイ!!や、やめてくださ…アッヒャヒャ!!??」

始めは必死になって抵抗していたが、完全に馬乗りになり、全く動けない状態で胸を集中的に攻められて、ついに動けなくなってしまった。
石田クンが完全に動けなくなったのを確認した村田先生はゆっくりと立ち上がると、今度は小田ちゃんの方に向かってくる。
これには流石の小田ちゃんもすっかり怯えきってしまい、震えていた。

「心配しないで、貴女にはそんな事はしないから安心して。ただ…カルテ作りたいから、コレに名前や生年月日等を記入してくれないかな?このタブレットは在宅医療でも使っているものだから、セキュリティは安心していい。」

村田先生からタブレットを受け取った小田ちゃんは頭の中に?マークをたくさん浮かべながら『医者の指示だから』という理由で素直に個人情報を入力していき、いくつかの質問、例えば…『何か薬はのんでいるか』とか『今まで薬や食べ物で具合が悪くなったことはないか』など、基本的なことばかりである。
村田先生は小田ちゃんの生年月日に思わずぎょっとしてその顔をみつめたが『これはこれで誕生日プレゼントになるかな…』と、小田ちゃんに聞こえないほどの小声で呟いた。

しばらくタブレットで何やら作業をしていた村田先生だったが、携帯電話を取り出すと、どこかに電話をかけ始めた。

「モシモシ…薬局さん?村田だけど。ついさっき頼んだ薬は用意できたかな?処方箋は出来たから、これから送る…どーせ全額自費だから保険証も要らないし、明日でも印刷した本物の処方箋と支払いに行くから…ヨロシク。」
「え?薬?自費??私…保険証も持っていますし、薬が必要なほど体調は悪くないはずですが…」

電話を終わらせた村田先生はニヤニヤしながら小田ちゃんを見て、右手の人差し指を左右にふった。

「チッチッ!そうじゃない。私が薬局さんに頼んだのは『アフターピル』と呼ばれるものさ。ヨーロッパなどでは街の薬局で日本より安く手に入る物なんだけど、日本じゃ医師の処方箋がないと手に入らないし、全額自費だから、かなりいい値段もする。」

村田先生からの『アフターピル』という言葉に思わず頭がカーッとして、顔が真っ赤になってしまい、その後の説明は理解できなかった。

「そ、そんな薬は私に必要ありません!」
「まぁ、アイツは物凄く『ヘタレ』だから、もしかしたら同じ部屋でも全く手を出さないかもしれない。それでも私にとっては大切な可愛い後輩だ。今日の二人の雰囲気をみていたが、悪くはないと思っている。もし、石田のことが嫌いではなく、気になるのなら、よろしくお願いしたい。」
「で、でも…」
「アフターピルはそういうことが有ってから飲む薬だから、無ければもちろん飲む必要もない。あった場合に終わった後か、次の日の朝に飲めば間に合う。もちろんリスクはあるから、その後本当に必要なら帰った後で婦人科にかかって低用量ピルを出してもらいなさい。女の子の日が重い人でもかなり楽になるから、使うのは避妊のためだけではないよ。」
「はぁ…」

村田先生からの有無を言わせない言い方に小田ちゃんは断ることもできず、未だに倒れている石田クンの方を見て、ため息しか出ない所に、先ほど自分を調理場に案内してくれた女性が手に小さな紙袋を持って駆け寄ってきた。

「村田先生!頼まれた薬、持ってきました。」
「まだ在庫があって助かった。ありがとな〜。」
「まあ…彼女にあげるなら、私も賛成ですが、おかげで卸やメーカーのMRから『一体いくつ在庫するんですか?』なんて何回言われたか…『村田先生に聞いてくれ!』てもう答えていますけど、いいですよね!」
「大丈夫、言われているのはちみだけではなく、私も言われている。卸には『何なら腕がよくて、若い子でも話しやすい産婦人科の女医呼んできて、開業させろ!』と、わめいているから、それが出来ない以上、しばらくは卸の在庫もある程度は押さえてあるはず。『あの』震災後での混乱に心が荒れて、それに巻き込まれたて、身体や心が傷ついたり、命を落とした女性達と産まれることを許されなかったり、生まれても歓迎されなかった赤ちゃん達の悲劇を繰り返さないために内科医の私と小児科医のマサオが医師の権限で必要なら処方箋を書いているだけさ。」

医療関係者の難しい会話にまだまだ頭の中が混乱している小田ちゃんのことを思い出し、二人はようやく振り返った。

「悪いけど、彼女にその薬について説明してくれないかな?その間にあっちに転がっているアイツをたたき起こして、説教してくるからさ。」

そう言うと、村田先生は石田クンの方に向かい、なにも言わずに蹴飛ばして叩き起こした。
もう呆然としているしかない小田ちゃんに対し、村田先生と話していた薬剤師は丁寧に薬の飲み方や、副作用などをしっかり理解するまで説明してくれた。
小田ちゃんへの服薬説明が終わり、石田クンが完全に目が覚めたので、とりあえず軽くでも胃に食べ物を入れるべきだとの二人の医療者の言葉に、ほぼ片付けが終わっていたボランティア達が集まっている場所に移動した。
そこは既に宴会が始まっており、拍手で迎えられたが、同時にあちらこちらからお酒を勧められてしまった。
小田ちゃんは今は飲める体調ではないことを話し、断ったが、その分石田クンはかなり飲まされたようだ。
小田ちゃんには消化の良さそうな物や、スポーツドリンク類が目の前に運ばれた。


宴会に巻き込まれた石田クンと小田ちゃんはその後、自分達の荷物と共に車に乗せられた。
石田クンが飲酒したという理由で、自分の車の鍵を奪い取られ、車内に置いてあった荷物もいつの間にか手元に届いていたのである。
村田先生を先頭にして、ボランティアメンバーほぼ全員に『万歳三唱』で見送られ、車は発進した。

「ごめんね。うちのバカ先生がとんでもないワガママなことやらかして…石田の車があるところまで明日、責任をもって誰かに宿から車で送らせるから安心して。今日は私が宿まで送るわ…小一時間ぐらいかな?それまで寝てなさい。」

運転手をしてくれている村田先生の所の看護師の柴田と名乗る女性に完全に甘えて、二人はいつの間にか肩を寄せあって眠ってしまった。



(81-991)石田クンとさくらちゃんの満天の星と桜満開 後編
 

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