生田クンが二週間振りに帰国して、飛行機を降りた感想が、
「暑い……。湿気がばりひどか」
だった。
ルーブル紙幣がぎっしり詰まったズタ袋を肩に担いで空港を出る。
迷わずタクシーに乗って、行き先を告げる。
行き先は無論、一分一秒でも早く会いたい愛しい妻と、少し小生意気に育ってきた息子のいる我が家だった。
「聖ぃ、ただいま〜!」
玄関でそう叫んで、スタスタとリビングに入る。
別室にいた聖さんが、すっ飛んで来て、生田クンに抱きつく。
「おかえりっ、えりぽん!」
ズタ袋を床に投げ捨てて、抱き締め返す。
至近距離にある、顔と顔。少しだけ見つめ合い、互いに目を閉じて唇を重ねた。
――先ほどまで聖さんがいた部屋の陰から、息子の遥クンが呆れたように両親を見ているが、
深いキスに移行している二人は微塵も気にしなかった。
生田クンの腕が聖さんの腰に回る。聖さんの腕は生田クンの背中を這い、――。
「いてっ!」
思わず唇を離して悲鳴を上げる生田クン。
その声に、キスに酔いしれていた聖さんは我に返り、体を離す。
「えりぽん……今回は背中なの?」
不安げに尋ねる聖さんに、
「ん、ただの打撲っちゃ」
なんでもないように言ってみせるが。
「だぁめ、Tシャツを脱いで背中を見せて」
生田クンから離れて救急箱を手にする聖さん。
生田クンは仕方なく、愛用の黄緑Tシャツを脱いで、座って背中を向けた。
――背中には無数の紫のアザができていた。
聖さんは哀しそうに眉根を寄せて、救急箱から湿布薬を取り出す。
「今回は……どうしたの?」
湿布を貼りながら、静かに尋ねる。
「んー? 今回は非合法の賭け試合やったけん。ストリートファイトで、地元のチャンピオンに賭けていた観客たち、
チャンピオンが負けそうになったところで、いきなり一斉にオレに襲いかかって、ウォッカのビンで殴られたと」
生田クンはなんでもないように話すが、聖さんの哀しそうな表情は拭えない。
「襲ってきた観客たちは、怪我しない程度に振り払ったっちゃ。それからしっかりチャンピオンを倒して優勝したけん」
話し終えたところで、手当ても終わったらしい。
聖さんは湿布薬だらけになった生田クンの背中に、そっと寄りかかった。
「えりぽん……」
「聖? どうしたと?」
「……せめて、日本にいる間は、闘いのことを忘れていてね」
「?」
「えりぽんが世界一の武闘家に近付いていくのは聖も嬉しいよ?
でもね、それでもやっぱり、えりぽんが怪我することは哀しくて……聖も痛くなっちゃうの」
「……ん。分かったっちゃ」
生田クンはゆっくり振り向いて、体を捻った状態のまま、聖さんを優しく抱き締めて髪を撫でた。
「聖の傍にいるときは、聖のことしか考えんようにするばい」
「――じゃあ今、聖が考えていること、分かる?」
生田クンの腕の中で顔を上げて見つめる聖さん。
二人、しばし見つめ合って。
生田クンの頬が緩む。
「ベッドに行くと? それともこのままカーペットの上のほうが良か?」
聖さんも頬を緩ませ、きらきらした瞳で、ささやかなキスを一つ捧げ、生田クンの耳元に唇を寄せる。
「一秒でも早く、えりぽんを感じたいの。だから、このままで……ね」
そんな熱くて甘い囁きに。生田クンは瞬時に点火する。
聖さんを優しくカーペットに押し倒し、その上に覆い被さる。
「聖は本当に誘い上手っちゃね……」
そんな言葉を残し。
二人は、二人だけの空間に浸った、――。
夏の長い太陽も沈み、室内が薄暗くなった時刻。
生田クンと聖さんは全裸で汗びっしょりになりながらも、カーペットに寝転がりながらながら、相手の体温を感じていた。
そこでようやく聖さんは、ローテーブルに置いてあった自分のスマホが点滅していることに気付いた。
物憂げに手を伸ばすと、それはLINEの着信で。そして全てがさゆみさんからだったので、慌ててタップしてLINEを開いた。
『遥クンが一人でやって来たから、優樹と遊ばせておくね』
『晩ご飯も食べたよ。遥クンが一緒で優樹は喜んでたよ』
『お風呂はれーなが入らせたから安心してね』
『今夜はさゆみたちの家で遥クンを寝させるね。久し振りなんだから、充分に二人きりを満喫してね』
遥クンの存在をすっかり忘れていた聖さんは、肩を落として小さくなる。
「とにかく返信しないと……。『さゆみさん、ご迷惑をかけて本当にすみません』……っと」
送信したら、すぐに既読になって。そしてまた、さゆみさんから返事がきた。
『こういうのはお互い様だから気にしないの。
それより、今日は近くの神社でお祭りがあるって回覧板にチラシがあったよ。
小規模だけれど花火も上がるみたいだから、二人でデートしたら良いんじゃないかな』
生田クンは聖さんの上に乗って、ヒジを床につけながら、スマホを見ている聖さんを見ていた。
「さゆみさん、なんて書いてあったと?」
「……遥を今夜は預かってくれるって。それと、近くでお祭りがあるからデートしてきたら、……だってさ」
「あ。遥のことスコーンと忘れとったばい」
生田クンは重大なことを、呑気に答えた。
「ばってん、預かってくれるなら安心ちゃね。聖、これから祭りに行こうばい」
「――そうだね、お言葉に甘えさせてもらおっか。じゃあえりぽん、聖はシャワーを浴びるからどいて」
「一緒に入っても良かと?」
「だーめ。えりぽん背中がアザで湿布だらけじゃない」
「あんなもん聖とエッチしている間に全部剥がれ落ちたと。それにエッチしたら、傷も治ったっちゃ」
「嘘だあ」
笑いながら生田クンの背中に手を回す。そして背中を押し、――、
「ほら、治っとるばい」
平然としている生田クンに驚きの目を見せ、背中のあちこちを強く押してみる。
――生田クンは平気な顔をしていた。
「嘘じゃなかとーやろ? だから聖……一緒にシャワー浴びようっちゃ」
至近距離で熱い瞳で言われ。聖さんは操られたように静かに頷いた……。
――それから。
二人が浴室を出てきたのは、部屋の中が真っ暗になった一時間半後のことである……。
カラン・コロン、と下駄を鳴らし、二人は手を繋いで歩く。
日はとっぷり落ちていたが、祭りは佳境らしく、神社の周辺は屋台と人に溢れ、花火もこれから上がるらしかった。
生田クンは片手は聖さんと繋いだまま、もう片方の手で神社周辺の屋台で買った牛串を持って、食べながら神社の境内へと入った。
ちなみに二人とも浴衣姿である。
生田クンは黒の縦線が入った緑の浴衣で、帯は茶色。
聖さんは白の花模様が描かれたピンクの浴衣で、帯は濃いめのピンク色。
それぞれ、自分で着付けたのである。
聖さんの浴衣はピシッと美しく着付けてあるが、生田クンは、取り敢えず浴衣を着て帯でグルグルに締めてみました、という感じである。
「聖は浴衣姿も綺麗っちゃね」
食べ終わった串をゴミ箱に入れ、生田クンは言う。
「ありがとう。えりぽんが海外にいる間に、えりぽんと聖の浴衣と遥の甚平を買ったの。この浴衣は、ほとんど一目惚れかな」
「浴衣も綺麗っちゃけど、それを着ている聖は浴衣の百倍綺麗たい」
歯が浮きそうな科白をサラリと言う生田クンと、顔を綻ばせる聖さん。
「えりぽんは浴衣姿もワイルドで格好良いね」
「オレ、浴衣なんて着たことなかとーから、テキトーに帯で縛っただけっちゃよ?」
「そこもえりぽんらしくていいのっ」
笑顔で強気発言する聖さんにつられて、生田クンも笑顔になる。
「聖が格好良いと思ってくれるなら、それで良かと」
二人、手を繋ぎ寄り添いながら、ゆっくりと境内を歩く。
境内にも屋台が並んでいて。もうすぐ花火の時刻だからか、近くで見ようとする人たちで溢れ返っていた。
「そういえば聖、なにも食べとらんばい。腹、減ってなかと?」
「んー。実はあんまりお腹空いてないの。……あ・でも甘いものが食べたいかな」
「なら屋台を見てみるっちゃ」
人の波をかき分けて屋台へと近付く。
最初に着いた屋台は。
「金魚すくい……。……甘いものじゃなか」
「その前に食べるものじゃないってば」
生田クンの言葉にクスクス笑い、それでも聖さんはしゃがんで金魚を近くで見る。
「聖、欲しいと?」
生田クンも隣にしゃがむ。
「可愛いけれど、うちにはもうカニラがいるしね」
8月の初めに避暑に行った山で遥クンが沢ガニを捕まえ、めでたく家族入りしたのだ。
「やっぱり沢ガニと金魚を同じ水槽に入れるとケンカしちゃうかな?」
「分からんちゃけど、あまり相性は良くなさそうやけん」
「そっか。それなら仕方ないね」
聖さんと生田クンは立ち上がり、隣の屋台へと向かう。
「お、りんご飴ばい。一応甘くて食べられるものっちゃ」
生田クンは微かに笑って聖さんを見る。聖さんも微笑んでりんご飴を見ていた。
「じゃあ、姫りんごをお願いしようかな。すみません、一つください」
聖さんはお金を払ってりんご飴を受け取り、早速一口かじった。
「うん。飴がすごく甘くてりんごは甘酸っぱくて美味しい」
満面の笑顔で生田クンを見て、りんご飴を差し出す。
「えりぽんも食べる?」
「少しもらうと」
りんご飴を聖さんが持ったまま、生田クンはかじった。
ぱりぱり、飴を噛みながら、
「確かに甘くて酸っぱか。ジャンキーな味も悪くなかと」
そんな生田クンの感想に聖さんは顔を綻ばせ、自身もりんご飴をかじる。
「ね、えりぽん。聖ね、今すっごく楽しいの。二人きりデートって素敵だね」
「そうっちゃね。……またさゆみさんやはるなんに頼んで、遥を預かってもらうと?」
「親子三人も悪くないけれど、月に一度くらいは恋人に戻ってデートするのも良いかもね」
言いながら再びりんご飴を差し出したので、生田クンは躊躇いもなく一口かじる。
聖さんもりんご飴をかじり、
「学生時代はできなかった、ドライブデートとか?」
と尋ねる。
「それも良かとね」
二人、会話しながら交互にりんご飴をかじっていく。
――姫りんごだったので、すぐに残り一口になり。最後は生田クンの口の中へと消えた。
「ごっそーさんちゃ」
すっかり飲み込んでから言うと、聖さんはクスクス笑った。
「えりぽん、唇に飴の欠片がついてるよ」
「へ、どこと?」
舌を使って飴を取ろうとしたら、聖さんの指がゆっくり伸ばされて。
生田クンが棒立ちになっていると、聖さんは親指の腹で下唇をゆっくり拭い。
そしてその親指を、当たり前のように自分の唇に含んだ。
「……甘いね。――はい、えりぽん、すっかり取れたよ」
生田クンの肩をポンと叩く聖さん。
「あ……ありがとっちゃ」
――生田クンの脳裏には、今見た、聖さんの妖艶な仕草がしっかりと焼きついていた……。
吊り下げられた無数の灯籠が境内を照らす。
人ゴミの中にいるのだから騒がしいはずなのに、二人の周囲は静かに感じて。
あまりの不安定さに、生田クンは、オレは夢でも見ているっちゃろか、とぼんやりとした頭で思った。
けれども。
左手に感じる手の温もり、すぐ隣を見ると愛しい人が微笑んでいて。
――幻想世界の中で、聖さんだけが、本物だった。
「あ! かき氷屋さん!」
途端にはしゃいだ声が上がる。
「えりぽん、かき氷、一緒に食べよ?」
顔を覗き込まれ、機械的に頷く。
二人で人の波をかき分け、目当ての屋台に向かった。
屋台の前に立つと、聖さんは巾着から財布を探していたので、
「聖は何味が良か?」
「んー……ブルーハワイかな」
生田クンは素早く自分の袂から硬貨を取り出して、
「おっちゃん、ブルーハワイを一つ。ストローは二つお願いしますけん」
ササッと注文して、代金を払った。
ようやく財布を取り出した聖さんだったが、生田クンが既に注文も支払いも済ませていたので、財布は再び巾着にしまった。
「えりぽん、ありがとうねっ」
子どものような笑顔を向ける聖さんに、生田クンも無邪気な笑顔を見せる。
「かき氷で聖の笑顔が見れるなら、屋台ごと買い占めるばい」
その言葉に二人でクスクス笑っていると、たっぷり青い蜜がかけられた大盛りのかき氷が差し出された。
お礼を言って受け取り、屋台から離れる。
サクサク、氷を口に運ぶ。
「前々から思っとったけど、ブルーハワイって何味っちゃ?」
「……なんだろうね? でも美味しいからいいんじゃない? はい、えりぽん」
先の開いたストローで掬った氷を、生田クンの口元まで持っていく。今度も生田クンは躊躇いもなく、それを口にする。
「聖、お返しやけん」
生田クンも自分のストローで氷を掬って、聖さんの口元まで持っていく。聖さんも当然のように、口にした。
――そうやって、二人で食べさせあっていると。
「お。聖のベロが青くなったと」
生田クンが愉快そうに言った。
「え、嘘!? ……なんだか恥ずかしい」
「恥ずかしがることじゃなか。ブルーハワイを食べたら、みんなそうなるけん」
慰めるように頭を撫でる。
「……じゃあ、えりぽんのベロも見せてよ」
少し拗ねた口調で言うところが可愛らしくて、生田クンは笑って舌を見せた。
それをじっと見つめる聖さん。
――ほら、オレのベロも青いっちゃろ?
舌を引っ込めて、そう言おうとした生田クンだったが。
――引っ込める前に、舌は聖さんの唇に挟まれた、――。
突然のことに驚いていると、チュルッと舌は聖さんの口腔へと消える。
そのまま絡め取られる舌。ザラザラとした感触が、脳髄を甘く痺れさせた。
持っていた、まだ氷が残っているカップが地面に落ちて。
ようやく舌は解放された。
「――綺麗に取れたよ」
蠱惑的な微笑みとまなざしに。
生田クンは引っ張るように聖さんを連れて、二人は社務所の裏へと消えていった……。
聖さんを社務所の壁に押し付けて、生田クンは唇を貪る。
聖さんは生田クンの首に腕を回し、互いに唾液を抽送し合う。
唇を離すと、透明な糸が二人を繋げていて、それが切れる前に、聖さんはゆっくり生田クンの片手を取った。
プチ、と切れる糸。生田クンはされるがままに手を移動させられる。
聖さんは浴衣の足部分をめくり、生田クンの手を誘導した。
ふわりとした恥毛の感触、滑らかな肌。――普段は着けているショーツが、今は無かったのだ。
生田クンはゴクリと大きく唾を飲む。それを見て妖艶に微笑む聖さん。
その微笑みに、生田クンの理性は吹き飛んだ。
急いでしゃがみ、手が導かれている部分の浴衣を左右に開いて、聖さんの熱くなっている部分に口付ける。舐めやすいように、自分の肩に聖さんの片足を乗せた。
そして飢えた犬のごとく、激しく舐めたりしゃぶりだした。
「あぁっ! えりぽん……っ」
頭上から聖さんの熱い声が聞こえる。お構いなしに本能のまま舐める。
「はぁんっ」
聖さんが生田クンの頭を掴む。そしてグイグイと己の秘所に、もっともっと、と近付けた。
唾液でビショビショになった秘所から、ドロリと蜜が溢れ出す。それをジュウジュウ、音を立てて吸う。
蕾を口に含むと、
「んうっ!」
と跳ねた声が上がる。口腔で転がしたり甘噛みすると、
「あぁっ」
高い啼き声が社務所裏に響いた。
嬌声を聞きながら舐め続け。――いつしか生田クンの男根は、そそり立つように天を向き、浴衣の布地を押し上げていた。
生田クンは、うろ覚えの知識で、たしか和装では下着は着けんちゃね? と考えて、浴衣を着たのだが、今回はそれが功を奏した。
秘所から口を離し、中指を挿れてグルグルとほぐす。
「聖ぃ……、オレ、もう挿れたかと」
熱い声で言うと、敏感になっているカラダを震わせながらも、聖さんは生田クンの頬を両手で包み込む。
「あ、はぁん……。花火、始まっちゃうけどいいの?」
「聖のほうが百万倍綺麗やけん、だから花火なんてよか」
「そっか」
聖さんは小さく笑ってから、
「――きて」
と小声で言った。
聖さんの片足を肩に担いだまま、ゆっくりと生田クンは立ち上がる。
体が柔らかい聖さんは、不安定な体勢でも、上手にバランスを取っている。
生田クンは自分の浴衣を開き、膨張しきった男根を外へと解放させてから、聖さんの腰に手を回す。
「――挿れるばい」
「うん」
頷いたのを見てから、グヌヌプ、と挿入し始めた。
愛撫が足りなかったのか、野外で興奮しているからなのか、ナカはいつもよりキツく感じた。
「うふ、ぁん……」
上気した顔で目を閉じている聖さんの表情をしっかり確認しながら、ゆっくりと貫く。辛そうな顔をしたら、そこで止めるつもりだった。
根元まで入った瞬間、夜空に閃光が上がる。
思わず二人、夜空を見上げる。大輪の華が咲いては消え、そしてまた咲くと沢山の人の歓声も聞こえた。
夜空の華に気を取られたのは、ほんの少しの時間で。すぐに二人、互いに相手を熱い瞳で見つめた。
生田クンは聖さんの浴衣を、荒々しい手つきで完全に左右に開き、やはり下着を着けていなかった豊かな胸を露わにさせる。
胸を揉みしだき、徐々に起立していく先端を指で挟んで捏ねた。
「うぅんっ、えりぽん!」
深く男根を挿入したナカがウネウネと動き、聖さんが快感を味わっているのが分かる。
完全起立した胸の先端を手の平で転がし、そのまま手は肌を滑りながら降りていく。
再び聖さんの腰に手を回したとき、聖さんは背中を預けていた社務所の壁から離れ、生田クンの首に腕を回す。
当たり前に近くなる顔と顔。二人は自然な流れで唇を重ねた。
クチュクチャ、と互いの唾液が混ざり合い、チュルチュルとそれを吸う音。
いつしか生田クンは、結合したままの腰をゆらゆら動かし、静かに抜き挿ししていた。
「ふぅあ……あ、」
「チュルッ。みず、き、」
ゆっくり動いていた腰の動きが、少しずつ大きくなっていく。
「聖……。気持ち良いと?」
「あっ、はあん! うんっ、イイッ! キモチイイ! ――でも、」
聖さんは震える片手を、生田クンの頬に添えて、
「――もっと激しくして?」
と、リクエストを囁いた。
生田クンはその言葉でさらに興奮し、
「じゃあ、お望みのままに」
と言って腰の動きを速くした。――聖さんも自ら腰を振る。
ぱんぱんぱんぱんっ!! と、破裂音のような腰をぶつけ合う音が大きく響く。
突いたり掻き混ぜたり擦ったり。
「あぁぁんっ! えりぽんっ、イイよおっ!」
ボタボタと聖さんの愛液が地面に落ちる。
ナカは、まるで生田クンを逃さないかのように無数の襞が男根にまとわり絡みつく。
「はあ……っ! オレもばり気持ち良か」
熱い息を吐いて、生田クンも言う。
肩に担いでいた聖さんの足がガクガクと震えだす。
この体勢でイクのは聖が辛かとね。――生田クンはそう考える。
「聖、体位変えると」
「……え?」
快楽で頭がぼんやりしていた聖さんが、しっかり理解する前に、生田クンは少ししゃがんで肩から足を下ろす。
そして結合したまま、聖さんの背後を取って、片ヒザ立ちをした。
聖さんが生田クンの片足に乗って、後ろから抱き締められているのである。
「こっちの体勢のほうが辛くなかとやろ?」
「えりぽん……」
聖さんは振り向いて至近距離にある生田クンの顔を見つめる。
生田クンの首に腕を回し、捧げるようなキスを、一つする。
「気遣ってくれて、ありがとう」
「ん。――それじゃあ、再開するけんね」
言って、腰をグンと突き上げる。
「あんっ!」
聖さんは悲鳴のような声で啼く。
生田クンは安心させるように、優しく後ろから抱き締め、ズンズンッ! と腰を動かす。
「あはぁんっ! ああっ!」
生田クンの手は、胸を愛しく揉む。
「はぁぁんっ、えりぽぉん!」
聖さんが舌を出してキスをねだってきたので、もちろん応じる。
二人とも、目を開けて唇を重ねて舌を絡める。
生田クンは胸の先端を緩急つけて摘む。
当然、その間も腰を激しく動かすことは止めない。
舌を絡めるキスを続けていると、聖さんは呼吸が荒くなり、涙目にもなった。
ナカはグネグネ動き、生田クンを奥の奥へと引っ張るような動きをしている。
絶頂が近いことを悟った生田クンはラストスパート、と、ガンガン突く。
「ふああんっ!」
堪らず唇を離して、大きく啼く聖さん。
「オレ、イキそうちゃ……イクのは一緒ばい」
その言葉に聖さんは髪を振り乱しながら何度も大きく頷く。
生田クンだけが知っている、聖さんのキモチイイところを重点的に責める。
ナカはギュウギュウに締まり、生田クンも吐精寸前だった。
コンッ、とオクを突いた瞬間。
「ああっ、あーっ! えりぽぉん!!」
「うあ、聖……っ!!」
強く強く締めつけるナカ。大量に吐き出される白い欲望。
――互いに相手の名前を叫んで、絶頂に達した……。
シュル、と音を立てて。きちんと浴衣を着付け直す聖さん。
生田クンは、その姿を見ながら適当に帯を結ぶ。
「聖、髪の毛乱れとると。直してやるけん」
着付けの終わった聖さんに、そう声をかける。
「じゃあ、お願いしようかな」
聖さんが巾着から取り出したコームを受け取って、背後に回って髪の毛を梳いてやる。
「えりぽん、」
「なん?」
「……お外でエッチ、楽しかったね」
「そうっちゃね、開放感や背徳感、だれかに見られるかもしれんドキドキ感とか色々あって、ばり気持ち良かったと」
梳くのを止めて、編み込みを始める。
編み込んだ髪の先をチビゴムで結ぶ。
ベッドの上でのピロートークも悪くないけれど、こういうゆったりした気分というか、雰囲気も悪くなかとね。――生田クンは心の中でそう思う。
「またお外でしようねっ!」
弾んだ声の聖さんに、声を出さずに意地悪く笑ってから、
「聖はエッチっちゃね」
と言った。
長く垂れた編み込んだ髪を巻いて、最後に大きな花飾りのついたヘアクリップで留めて、完成である。
「えりぽんは……エッチな聖は嫌い?」
不安を含んだ声に。
敢えて答えはすぐ口にしなかった。
「……えりぽん?」
耐えきれずに、振り向きかけた聖さんの。
髪を巻いたおかげで見える細いうなじに素早く吸いついた。
「んっ!」
チュー、ヂュッ! と強く吸って、赤い華を一つ咲かせる。
それから振り向く途中で固まってしまった聖さんの耳元に唇を寄せる。
「エッチな聖は大歓迎っちゃ。――聖、ばり好いとぉ」
聖さんは。
ゆるゆると顔を綻ばせ、ヘアクリップの花よりも、夜空に咲く花火よりも。
どんな花にも負けない、笑顔の花を咲かせた。
「聖も。――聖もえりぽんが大好き!」
そして二人、クスクスと小さく笑い合って。
重ねるだけの、それでもかき氷やりんご飴よりも甘くて幸せなキスをした。
夏の華 終わり。
(77-131)夏の華 〜その時、遥クンは〜
「暑い……。湿気がばりひどか」
だった。
ルーブル紙幣がぎっしり詰まったズタ袋を肩に担いで空港を出る。
迷わずタクシーに乗って、行き先を告げる。
行き先は無論、一分一秒でも早く会いたい愛しい妻と、少し小生意気に育ってきた息子のいる我が家だった。
「聖ぃ、ただいま〜!」
玄関でそう叫んで、スタスタとリビングに入る。
別室にいた聖さんが、すっ飛んで来て、生田クンに抱きつく。
「おかえりっ、えりぽん!」
ズタ袋を床に投げ捨てて、抱き締め返す。
至近距離にある、顔と顔。少しだけ見つめ合い、互いに目を閉じて唇を重ねた。
――先ほどまで聖さんがいた部屋の陰から、息子の遥クンが呆れたように両親を見ているが、
深いキスに移行している二人は微塵も気にしなかった。
生田クンの腕が聖さんの腰に回る。聖さんの腕は生田クンの背中を這い、――。
「いてっ!」
思わず唇を離して悲鳴を上げる生田クン。
その声に、キスに酔いしれていた聖さんは我に返り、体を離す。
「えりぽん……今回は背中なの?」
不安げに尋ねる聖さんに、
「ん、ただの打撲っちゃ」
なんでもないように言ってみせるが。
「だぁめ、Tシャツを脱いで背中を見せて」
生田クンから離れて救急箱を手にする聖さん。
生田クンは仕方なく、愛用の黄緑Tシャツを脱いで、座って背中を向けた。
――背中には無数の紫のアザができていた。
聖さんは哀しそうに眉根を寄せて、救急箱から湿布薬を取り出す。
「今回は……どうしたの?」
湿布を貼りながら、静かに尋ねる。
「んー? 今回は非合法の賭け試合やったけん。ストリートファイトで、地元のチャンピオンに賭けていた観客たち、
チャンピオンが負けそうになったところで、いきなり一斉にオレに襲いかかって、ウォッカのビンで殴られたと」
生田クンはなんでもないように話すが、聖さんの哀しそうな表情は拭えない。
「襲ってきた観客たちは、怪我しない程度に振り払ったっちゃ。それからしっかりチャンピオンを倒して優勝したけん」
話し終えたところで、手当ても終わったらしい。
聖さんは湿布薬だらけになった生田クンの背中に、そっと寄りかかった。
「えりぽん……」
「聖? どうしたと?」
「……せめて、日本にいる間は、闘いのことを忘れていてね」
「?」
「えりぽんが世界一の武闘家に近付いていくのは聖も嬉しいよ?
でもね、それでもやっぱり、えりぽんが怪我することは哀しくて……聖も痛くなっちゃうの」
「……ん。分かったっちゃ」
生田クンはゆっくり振り向いて、体を捻った状態のまま、聖さんを優しく抱き締めて髪を撫でた。
「聖の傍にいるときは、聖のことしか考えんようにするばい」
「――じゃあ今、聖が考えていること、分かる?」
生田クンの腕の中で顔を上げて見つめる聖さん。
二人、しばし見つめ合って。
生田クンの頬が緩む。
「ベッドに行くと? それともこのままカーペットの上のほうが良か?」
聖さんも頬を緩ませ、きらきらした瞳で、ささやかなキスを一つ捧げ、生田クンの耳元に唇を寄せる。
「一秒でも早く、えりぽんを感じたいの。だから、このままで……ね」
そんな熱くて甘い囁きに。生田クンは瞬時に点火する。
聖さんを優しくカーペットに押し倒し、その上に覆い被さる。
「聖は本当に誘い上手っちゃね……」
そんな言葉を残し。
二人は、二人だけの空間に浸った、――。
夏の長い太陽も沈み、室内が薄暗くなった時刻。
生田クンと聖さんは全裸で汗びっしょりになりながらも、カーペットに寝転がりながらながら、相手の体温を感じていた。
そこでようやく聖さんは、ローテーブルに置いてあった自分のスマホが点滅していることに気付いた。
物憂げに手を伸ばすと、それはLINEの着信で。そして全てがさゆみさんからだったので、慌ててタップしてLINEを開いた。
『遥クンが一人でやって来たから、優樹と遊ばせておくね』
『晩ご飯も食べたよ。遥クンが一緒で優樹は喜んでたよ』
『お風呂はれーなが入らせたから安心してね』
『今夜はさゆみたちの家で遥クンを寝させるね。久し振りなんだから、充分に二人きりを満喫してね』
遥クンの存在をすっかり忘れていた聖さんは、肩を落として小さくなる。
「とにかく返信しないと……。『さゆみさん、ご迷惑をかけて本当にすみません』……っと」
送信したら、すぐに既読になって。そしてまた、さゆみさんから返事がきた。
『こういうのはお互い様だから気にしないの。
それより、今日は近くの神社でお祭りがあるって回覧板にチラシがあったよ。
小規模だけれど花火も上がるみたいだから、二人でデートしたら良いんじゃないかな』
生田クンは聖さんの上に乗って、ヒジを床につけながら、スマホを見ている聖さんを見ていた。
「さゆみさん、なんて書いてあったと?」
「……遥を今夜は預かってくれるって。それと、近くでお祭りがあるからデートしてきたら、……だってさ」
「あ。遥のことスコーンと忘れとったばい」
生田クンは重大なことを、呑気に答えた。
「ばってん、預かってくれるなら安心ちゃね。聖、これから祭りに行こうばい」
「――そうだね、お言葉に甘えさせてもらおっか。じゃあえりぽん、聖はシャワーを浴びるからどいて」
「一緒に入っても良かと?」
「だーめ。えりぽん背中がアザで湿布だらけじゃない」
「あんなもん聖とエッチしている間に全部剥がれ落ちたと。それにエッチしたら、傷も治ったっちゃ」
「嘘だあ」
笑いながら生田クンの背中に手を回す。そして背中を押し、――、
「ほら、治っとるばい」
平然としている生田クンに驚きの目を見せ、背中のあちこちを強く押してみる。
――生田クンは平気な顔をしていた。
「嘘じゃなかとーやろ? だから聖……一緒にシャワー浴びようっちゃ」
至近距離で熱い瞳で言われ。聖さんは操られたように静かに頷いた……。
――それから。
二人が浴室を出てきたのは、部屋の中が真っ暗になった一時間半後のことである……。
カラン・コロン、と下駄を鳴らし、二人は手を繋いで歩く。
日はとっぷり落ちていたが、祭りは佳境らしく、神社の周辺は屋台と人に溢れ、花火もこれから上がるらしかった。
生田クンは片手は聖さんと繋いだまま、もう片方の手で神社周辺の屋台で買った牛串を持って、食べながら神社の境内へと入った。
ちなみに二人とも浴衣姿である。
生田クンは黒の縦線が入った緑の浴衣で、帯は茶色。
聖さんは白の花模様が描かれたピンクの浴衣で、帯は濃いめのピンク色。
それぞれ、自分で着付けたのである。
聖さんの浴衣はピシッと美しく着付けてあるが、生田クンは、取り敢えず浴衣を着て帯でグルグルに締めてみました、という感じである。
「聖は浴衣姿も綺麗っちゃね」
食べ終わった串をゴミ箱に入れ、生田クンは言う。
「ありがとう。えりぽんが海外にいる間に、えりぽんと聖の浴衣と遥の甚平を買ったの。この浴衣は、ほとんど一目惚れかな」
「浴衣も綺麗っちゃけど、それを着ている聖は浴衣の百倍綺麗たい」
歯が浮きそうな科白をサラリと言う生田クンと、顔を綻ばせる聖さん。
「えりぽんは浴衣姿もワイルドで格好良いね」
「オレ、浴衣なんて着たことなかとーから、テキトーに帯で縛っただけっちゃよ?」
「そこもえりぽんらしくていいのっ」
笑顔で強気発言する聖さんにつられて、生田クンも笑顔になる。
「聖が格好良いと思ってくれるなら、それで良かと」
二人、手を繋ぎ寄り添いながら、ゆっくりと境内を歩く。
境内にも屋台が並んでいて。もうすぐ花火の時刻だからか、近くで見ようとする人たちで溢れ返っていた。
「そういえば聖、なにも食べとらんばい。腹、減ってなかと?」
「んー。実はあんまりお腹空いてないの。……あ・でも甘いものが食べたいかな」
「なら屋台を見てみるっちゃ」
人の波をかき分けて屋台へと近付く。
最初に着いた屋台は。
「金魚すくい……。……甘いものじゃなか」
「その前に食べるものじゃないってば」
生田クンの言葉にクスクス笑い、それでも聖さんはしゃがんで金魚を近くで見る。
「聖、欲しいと?」
生田クンも隣にしゃがむ。
「可愛いけれど、うちにはもうカニラがいるしね」
8月の初めに避暑に行った山で遥クンが沢ガニを捕まえ、めでたく家族入りしたのだ。
「やっぱり沢ガニと金魚を同じ水槽に入れるとケンカしちゃうかな?」
「分からんちゃけど、あまり相性は良くなさそうやけん」
「そっか。それなら仕方ないね」
聖さんと生田クンは立ち上がり、隣の屋台へと向かう。
「お、りんご飴ばい。一応甘くて食べられるものっちゃ」
生田クンは微かに笑って聖さんを見る。聖さんも微笑んでりんご飴を見ていた。
「じゃあ、姫りんごをお願いしようかな。すみません、一つください」
聖さんはお金を払ってりんご飴を受け取り、早速一口かじった。
「うん。飴がすごく甘くてりんごは甘酸っぱくて美味しい」
満面の笑顔で生田クンを見て、りんご飴を差し出す。
「えりぽんも食べる?」
「少しもらうと」
りんご飴を聖さんが持ったまま、生田クンはかじった。
ぱりぱり、飴を噛みながら、
「確かに甘くて酸っぱか。ジャンキーな味も悪くなかと」
そんな生田クンの感想に聖さんは顔を綻ばせ、自身もりんご飴をかじる。
「ね、えりぽん。聖ね、今すっごく楽しいの。二人きりデートって素敵だね」
「そうっちゃね。……またさゆみさんやはるなんに頼んで、遥を預かってもらうと?」
「親子三人も悪くないけれど、月に一度くらいは恋人に戻ってデートするのも良いかもね」
言いながら再びりんご飴を差し出したので、生田クンは躊躇いもなく一口かじる。
聖さんもりんご飴をかじり、
「学生時代はできなかった、ドライブデートとか?」
と尋ねる。
「それも良かとね」
二人、会話しながら交互にりんご飴をかじっていく。
――姫りんごだったので、すぐに残り一口になり。最後は生田クンの口の中へと消えた。
「ごっそーさんちゃ」
すっかり飲み込んでから言うと、聖さんはクスクス笑った。
「えりぽん、唇に飴の欠片がついてるよ」
「へ、どこと?」
舌を使って飴を取ろうとしたら、聖さんの指がゆっくり伸ばされて。
生田クンが棒立ちになっていると、聖さんは親指の腹で下唇をゆっくり拭い。
そしてその親指を、当たり前のように自分の唇に含んだ。
「……甘いね。――はい、えりぽん、すっかり取れたよ」
生田クンの肩をポンと叩く聖さん。
「あ……ありがとっちゃ」
――生田クンの脳裏には、今見た、聖さんの妖艶な仕草がしっかりと焼きついていた……。
吊り下げられた無数の灯籠が境内を照らす。
人ゴミの中にいるのだから騒がしいはずなのに、二人の周囲は静かに感じて。
あまりの不安定さに、生田クンは、オレは夢でも見ているっちゃろか、とぼんやりとした頭で思った。
けれども。
左手に感じる手の温もり、すぐ隣を見ると愛しい人が微笑んでいて。
――幻想世界の中で、聖さんだけが、本物だった。
「あ! かき氷屋さん!」
途端にはしゃいだ声が上がる。
「えりぽん、かき氷、一緒に食べよ?」
顔を覗き込まれ、機械的に頷く。
二人で人の波をかき分け、目当ての屋台に向かった。
屋台の前に立つと、聖さんは巾着から財布を探していたので、
「聖は何味が良か?」
「んー……ブルーハワイかな」
生田クンは素早く自分の袂から硬貨を取り出して、
「おっちゃん、ブルーハワイを一つ。ストローは二つお願いしますけん」
ササッと注文して、代金を払った。
ようやく財布を取り出した聖さんだったが、生田クンが既に注文も支払いも済ませていたので、財布は再び巾着にしまった。
「えりぽん、ありがとうねっ」
子どものような笑顔を向ける聖さんに、生田クンも無邪気な笑顔を見せる。
「かき氷で聖の笑顔が見れるなら、屋台ごと買い占めるばい」
その言葉に二人でクスクス笑っていると、たっぷり青い蜜がかけられた大盛りのかき氷が差し出された。
お礼を言って受け取り、屋台から離れる。
サクサク、氷を口に運ぶ。
「前々から思っとったけど、ブルーハワイって何味っちゃ?」
「……なんだろうね? でも美味しいからいいんじゃない? はい、えりぽん」
先の開いたストローで掬った氷を、生田クンの口元まで持っていく。今度も生田クンは躊躇いもなく、それを口にする。
「聖、お返しやけん」
生田クンも自分のストローで氷を掬って、聖さんの口元まで持っていく。聖さんも当然のように、口にした。
――そうやって、二人で食べさせあっていると。
「お。聖のベロが青くなったと」
生田クンが愉快そうに言った。
「え、嘘!? ……なんだか恥ずかしい」
「恥ずかしがることじゃなか。ブルーハワイを食べたら、みんなそうなるけん」
慰めるように頭を撫でる。
「……じゃあ、えりぽんのベロも見せてよ」
少し拗ねた口調で言うところが可愛らしくて、生田クンは笑って舌を見せた。
それをじっと見つめる聖さん。
――ほら、オレのベロも青いっちゃろ?
舌を引っ込めて、そう言おうとした生田クンだったが。
――引っ込める前に、舌は聖さんの唇に挟まれた、――。
突然のことに驚いていると、チュルッと舌は聖さんの口腔へと消える。
そのまま絡め取られる舌。ザラザラとした感触が、脳髄を甘く痺れさせた。
持っていた、まだ氷が残っているカップが地面に落ちて。
ようやく舌は解放された。
「――綺麗に取れたよ」
蠱惑的な微笑みとまなざしに。
生田クンは引っ張るように聖さんを連れて、二人は社務所の裏へと消えていった……。
聖さんを社務所の壁に押し付けて、生田クンは唇を貪る。
聖さんは生田クンの首に腕を回し、互いに唾液を抽送し合う。
唇を離すと、透明な糸が二人を繋げていて、それが切れる前に、聖さんはゆっくり生田クンの片手を取った。
プチ、と切れる糸。生田クンはされるがままに手を移動させられる。
聖さんは浴衣の足部分をめくり、生田クンの手を誘導した。
ふわりとした恥毛の感触、滑らかな肌。――普段は着けているショーツが、今は無かったのだ。
生田クンはゴクリと大きく唾を飲む。それを見て妖艶に微笑む聖さん。
その微笑みに、生田クンの理性は吹き飛んだ。
急いでしゃがみ、手が導かれている部分の浴衣を左右に開いて、聖さんの熱くなっている部分に口付ける。舐めやすいように、自分の肩に聖さんの片足を乗せた。
そして飢えた犬のごとく、激しく舐めたりしゃぶりだした。
「あぁっ! えりぽん……っ」
頭上から聖さんの熱い声が聞こえる。お構いなしに本能のまま舐める。
「はぁんっ」
聖さんが生田クンの頭を掴む。そしてグイグイと己の秘所に、もっともっと、と近付けた。
唾液でビショビショになった秘所から、ドロリと蜜が溢れ出す。それをジュウジュウ、音を立てて吸う。
蕾を口に含むと、
「んうっ!」
と跳ねた声が上がる。口腔で転がしたり甘噛みすると、
「あぁっ」
高い啼き声が社務所裏に響いた。
嬌声を聞きながら舐め続け。――いつしか生田クンの男根は、そそり立つように天を向き、浴衣の布地を押し上げていた。
生田クンは、うろ覚えの知識で、たしか和装では下着は着けんちゃね? と考えて、浴衣を着たのだが、今回はそれが功を奏した。
秘所から口を離し、中指を挿れてグルグルとほぐす。
「聖ぃ……、オレ、もう挿れたかと」
熱い声で言うと、敏感になっているカラダを震わせながらも、聖さんは生田クンの頬を両手で包み込む。
「あ、はぁん……。花火、始まっちゃうけどいいの?」
「聖のほうが百万倍綺麗やけん、だから花火なんてよか」
「そっか」
聖さんは小さく笑ってから、
「――きて」
と小声で言った。
聖さんの片足を肩に担いだまま、ゆっくりと生田クンは立ち上がる。
体が柔らかい聖さんは、不安定な体勢でも、上手にバランスを取っている。
生田クンは自分の浴衣を開き、膨張しきった男根を外へと解放させてから、聖さんの腰に手を回す。
「――挿れるばい」
「うん」
頷いたのを見てから、グヌヌプ、と挿入し始めた。
愛撫が足りなかったのか、野外で興奮しているからなのか、ナカはいつもよりキツく感じた。
「うふ、ぁん……」
上気した顔で目を閉じている聖さんの表情をしっかり確認しながら、ゆっくりと貫く。辛そうな顔をしたら、そこで止めるつもりだった。
根元まで入った瞬間、夜空に閃光が上がる。
思わず二人、夜空を見上げる。大輪の華が咲いては消え、そしてまた咲くと沢山の人の歓声も聞こえた。
夜空の華に気を取られたのは、ほんの少しの時間で。すぐに二人、互いに相手を熱い瞳で見つめた。
生田クンは聖さんの浴衣を、荒々しい手つきで完全に左右に開き、やはり下着を着けていなかった豊かな胸を露わにさせる。
胸を揉みしだき、徐々に起立していく先端を指で挟んで捏ねた。
「うぅんっ、えりぽん!」
深く男根を挿入したナカがウネウネと動き、聖さんが快感を味わっているのが分かる。
完全起立した胸の先端を手の平で転がし、そのまま手は肌を滑りながら降りていく。
再び聖さんの腰に手を回したとき、聖さんは背中を預けていた社務所の壁から離れ、生田クンの首に腕を回す。
当たり前に近くなる顔と顔。二人は自然な流れで唇を重ねた。
クチュクチャ、と互いの唾液が混ざり合い、チュルチュルとそれを吸う音。
いつしか生田クンは、結合したままの腰をゆらゆら動かし、静かに抜き挿ししていた。
「ふぅあ……あ、」
「チュルッ。みず、き、」
ゆっくり動いていた腰の動きが、少しずつ大きくなっていく。
「聖……。気持ち良いと?」
「あっ、はあん! うんっ、イイッ! キモチイイ! ――でも、」
聖さんは震える片手を、生田クンの頬に添えて、
「――もっと激しくして?」
と、リクエストを囁いた。
生田クンはその言葉でさらに興奮し、
「じゃあ、お望みのままに」
と言って腰の動きを速くした。――聖さんも自ら腰を振る。
ぱんぱんぱんぱんっ!! と、破裂音のような腰をぶつけ合う音が大きく響く。
突いたり掻き混ぜたり擦ったり。
「あぁぁんっ! えりぽんっ、イイよおっ!」
ボタボタと聖さんの愛液が地面に落ちる。
ナカは、まるで生田クンを逃さないかのように無数の襞が男根にまとわり絡みつく。
「はあ……っ! オレもばり気持ち良か」
熱い息を吐いて、生田クンも言う。
肩に担いでいた聖さんの足がガクガクと震えだす。
この体勢でイクのは聖が辛かとね。――生田クンはそう考える。
「聖、体位変えると」
「……え?」
快楽で頭がぼんやりしていた聖さんが、しっかり理解する前に、生田クンは少ししゃがんで肩から足を下ろす。
そして結合したまま、聖さんの背後を取って、片ヒザ立ちをした。
聖さんが生田クンの片足に乗って、後ろから抱き締められているのである。
「こっちの体勢のほうが辛くなかとやろ?」
「えりぽん……」
聖さんは振り向いて至近距離にある生田クンの顔を見つめる。
生田クンの首に腕を回し、捧げるようなキスを、一つする。
「気遣ってくれて、ありがとう」
「ん。――それじゃあ、再開するけんね」
言って、腰をグンと突き上げる。
「あんっ!」
聖さんは悲鳴のような声で啼く。
生田クンは安心させるように、優しく後ろから抱き締め、ズンズンッ! と腰を動かす。
「あはぁんっ! ああっ!」
生田クンの手は、胸を愛しく揉む。
「はぁぁんっ、えりぽぉん!」
聖さんが舌を出してキスをねだってきたので、もちろん応じる。
二人とも、目を開けて唇を重ねて舌を絡める。
生田クンは胸の先端を緩急つけて摘む。
当然、その間も腰を激しく動かすことは止めない。
舌を絡めるキスを続けていると、聖さんは呼吸が荒くなり、涙目にもなった。
ナカはグネグネ動き、生田クンを奥の奥へと引っ張るような動きをしている。
絶頂が近いことを悟った生田クンはラストスパート、と、ガンガン突く。
「ふああんっ!」
堪らず唇を離して、大きく啼く聖さん。
「オレ、イキそうちゃ……イクのは一緒ばい」
その言葉に聖さんは髪を振り乱しながら何度も大きく頷く。
生田クンだけが知っている、聖さんのキモチイイところを重点的に責める。
ナカはギュウギュウに締まり、生田クンも吐精寸前だった。
コンッ、とオクを突いた瞬間。
「ああっ、あーっ! えりぽぉん!!」
「うあ、聖……っ!!」
強く強く締めつけるナカ。大量に吐き出される白い欲望。
――互いに相手の名前を叫んで、絶頂に達した……。
シュル、と音を立てて。きちんと浴衣を着付け直す聖さん。
生田クンは、その姿を見ながら適当に帯を結ぶ。
「聖、髪の毛乱れとると。直してやるけん」
着付けの終わった聖さんに、そう声をかける。
「じゃあ、お願いしようかな」
聖さんが巾着から取り出したコームを受け取って、背後に回って髪の毛を梳いてやる。
「えりぽん、」
「なん?」
「……お外でエッチ、楽しかったね」
「そうっちゃね、開放感や背徳感、だれかに見られるかもしれんドキドキ感とか色々あって、ばり気持ち良かったと」
梳くのを止めて、編み込みを始める。
編み込んだ髪の先をチビゴムで結ぶ。
ベッドの上でのピロートークも悪くないけれど、こういうゆったりした気分というか、雰囲気も悪くなかとね。――生田クンは心の中でそう思う。
「またお外でしようねっ!」
弾んだ声の聖さんに、声を出さずに意地悪く笑ってから、
「聖はエッチっちゃね」
と言った。
長く垂れた編み込んだ髪を巻いて、最後に大きな花飾りのついたヘアクリップで留めて、完成である。
「えりぽんは……エッチな聖は嫌い?」
不安を含んだ声に。
敢えて答えはすぐ口にしなかった。
「……えりぽん?」
耐えきれずに、振り向きかけた聖さんの。
髪を巻いたおかげで見える細いうなじに素早く吸いついた。
「んっ!」
チュー、ヂュッ! と強く吸って、赤い華を一つ咲かせる。
それから振り向く途中で固まってしまった聖さんの耳元に唇を寄せる。
「エッチな聖は大歓迎っちゃ。――聖、ばり好いとぉ」
聖さんは。
ゆるゆると顔を綻ばせ、ヘアクリップの花よりも、夜空に咲く花火よりも。
どんな花にも負けない、笑顔の花を咲かせた。
「聖も。――聖もえりぽんが大好き!」
そして二人、クスクスと小さく笑い合って。
重ねるだけの、それでもかき氷やりんご飴よりも甘くて幸せなキスをした。
夏の華 終わり。
(77-131)夏の華 〜その時、遥クンは〜
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