「あぁりがとぉございやした〜」
寝癖のついたフニャフニャ声の店員に見送られ、レジ袋を両手に持ちながらコンビニを出る。
外は雪が散らつき肉まんでも食べなきゃやってられないぐらい寒い。
一気に冷たくなる手を肉まんの入ってる袋で暖めながら自分の部屋へ帰ろうとしたら、
「〜♪」
見たくない顔がマンションのエレベーターから下りてスキップをしながらやってきた。
「げっ!小田ぁ」
「げっ!は、こっちのセリフですよ」
上下真っ青のジャージに身を包んだ隣人の石田。
私との関係はそれ以上でもそれ以下でもありません。
「あなたもコンビニですか」
「悪いかよ」
スキップしてる所を見られ恥ずかしいのか居心地が悪い様子。
「ただ、」
「なんだよ」
「その頭のはなんですか」
一張羅の真っ青なジャージはいつものこと。
問題は頭に被っている『HAPPY BIRTHDAY』と書かれたパーティーグッズの方。 【image】
「あなたまだ被ってるんですかそれ」
「悪いかよ」
「昨日のパーティーは昨日終わったはずなんですけど」
「うるさいなーこれは僕の宝物だから」
いくら憧れの人妻(脈一切なし)から貰ったからって、
次の日もパーティーグッズを被り続けるってあり得ないですよね?
「一緒にいたら私まで変な目で見られそう」
「小田と一緒にいるつもりはないし」
「それは私も同感です」
すると私が買った肉まんの袋に気付く石田。
「…あげませんよ」
「分かってるよ、自分で買うさ」
「ちなみに肉まん一つで今日一日を乗り越えるであろうあなたにお知らせです」
「なんだよ急に…」
「肉まん、残り一個でしたよ」
私が何個か買ったせいで、とは言いませんが。
「えっ?ウソ!」
「こんなウソついて何の得があって」
「ほんと可愛くないなーお前!」
「あなたにはそういう目で見られたくないので安心しましたー」
「クッソこいつぅ!……ってそれどころじゃない!僕の肉まぁーん!」
サ○エさん一家並みの速さでコンビニに吸い込まれていく石田。
そういえば昔から足だけは速かったですね。
さて、バカの相手はこれぐらいにして…
「あっ小田ちゃん」
聞き馴染みのある声に呼ばれ振り向けば、そこには例の脈なしの人妻様。
「さゆみさんこんにちは」
「こんにちは、今日お休み?」
「遅めの正月休みで。昨日お酒飲み過ぎちゃったのでちょうど良かったです。」
「昨日小田ちゃんはしゃいでたもんね」
「そ、そうですかね…」
「うん、カラオケ大会でも大活躍だったし」
「でも旦那さんには敵わなかったです」
「歌はれーなの数少ない特技だから」
さゆみさんは旦那さんのお話をされてる時が一番キラキラしてると思うのは私だけじゃないはず。
「さゆみさんもコンビニですか?」
「うん、お昼買いに。えっと…色々あってお弁当で済ませちゃおうかなって」
賢明な住人の方々なら恥ずかしそうに笑うさゆみさんで全てを察された事でしょう。
そして何を隠そう今日はYHの定休日、ごちそうさまです。
「優樹ちゃんは飯窪さんのところですか?」
「うん、よく分かったね?」
「なんとなく。じゃあ少し顔出してこうかな」
「そういえば優樹が『おだんごにあいたいー』って騒いでたの」
「おだんご、ですか…」
なんか苦笑い。
「あと石田クンにも会いたいって」
「偶然その石田が店内にいるんで、さゆみさんがお誘いされれば行きますよ絶対」
「あっそうなんだ。って、なにあれ?」
さゆみさんの視線の先には肉まんの袋を片手に立ち読み中の石田。
もちろん頭にはHAPPY BIRTHDAY。
「まだ被ってるんですよアレ」
「そんなに気に入ったんだ優樹のお下がりなのに」
「プレゼントは何を貰うかより誰から貰うかが重要ですから」
「あーだからあのマフラーもしてるわけね」
さゆみさんがニヤリと笑う。
一生懸命目に入れないようにしていたけど、石田の首にはたしかにマフラーが巻かれていて。
しかもそれは昨日あの人の誕生日パーティーで私があげた物で。
「ち、違います!」
「でもプレゼントは誰から貰うかが重要なんでしょ?」
知り合ってだいぶ経つけど意外とSっぽいんだよなぁさゆみさん。
「あの人は防寒着がアレしかないんで仕方なく使ってるだけで!」
「しかも小田ちゃんが好きな紫色のマフラーを選ぶあたり…」
「ぐぐぐ偶然ですっ!石田は普段青しか着ないんで他の色なら何でもいいかなって!」
ってか何で私、ちゃんとアイツの事を考えてプレゼント選んだんだろうか…後悔。
「ふ〜ん、まぁいいけどね」
「ふぅ…」
「ちなみにあのマフラーは買ったやつ?」
「えっ…はい…ミチシゲヒルズのオシャレなお店で…」
「じゃあ今度は手編みのマフラーだね」
「なっ!?何でそうなるんですか!」
「ふふっwごめんごめん♪」
「さゆみさん意地悪ですっ」
「ごめんなの。でも可愛いんだもん小田ちゃん」
「そんな事ないです…」
あーあっつい。肉まんいらないかも。
「そんな事あるの」
「…ありがとうございます…」
「ふふっ♪じゃあさゆみ行くね」
「はい、優樹ちゃんにも会いにいきまぁす」
店内に入っていくさゆみさんに手を振ってお見送りして姿が見えなくなると一気に疲れがやってきた。
このマンションに引っ越してきて、住人の皆さんはとっても良い方々ばっかりなんだけど、
私が年下な方だからかどうも弄られ役から脱却出来ないでいる。
早いとこ新しい人が入ってきて弄られ役の座を譲りたいんだけど。
さっ、早くお昼食べよ。
また誰かに捕まる前に、肉まんも冷めるしね。
…それにしても気の迷いとはいえ何でこんな物を買ったのか。
もう一つの袋から透けて見える本を見つめ、また私は後悔した。
新装版はじめての手編みマフラーの本 おわり
寝癖のついたフニャフニャ声の店員に見送られ、レジ袋を両手に持ちながらコンビニを出る。
外は雪が散らつき肉まんでも食べなきゃやってられないぐらい寒い。
一気に冷たくなる手を肉まんの入ってる袋で暖めながら自分の部屋へ帰ろうとしたら、
「〜♪」
見たくない顔がマンションのエレベーターから下りてスキップをしながらやってきた。
「げっ!小田ぁ」
「げっ!は、こっちのセリフですよ」
上下真っ青のジャージに身を包んだ隣人の石田。
私との関係はそれ以上でもそれ以下でもありません。
「あなたもコンビニですか」
「悪いかよ」
スキップしてる所を見られ恥ずかしいのか居心地が悪い様子。
「ただ、」
「なんだよ」
「その頭のはなんですか」
一張羅の真っ青なジャージはいつものこと。
問題は頭に被っている『HAPPY BIRTHDAY』と書かれたパーティーグッズの方。 【image】
「あなたまだ被ってるんですかそれ」
「悪いかよ」
「昨日のパーティーは昨日終わったはずなんですけど」
「うるさいなーこれは僕の宝物だから」
いくら憧れの人妻(脈一切なし)から貰ったからって、
次の日もパーティーグッズを被り続けるってあり得ないですよね?
「一緒にいたら私まで変な目で見られそう」
「小田と一緒にいるつもりはないし」
「それは私も同感です」
すると私が買った肉まんの袋に気付く石田。
「…あげませんよ」
「分かってるよ、自分で買うさ」
「ちなみに肉まん一つで今日一日を乗り越えるであろうあなたにお知らせです」
「なんだよ急に…」
「肉まん、残り一個でしたよ」
私が何個か買ったせいで、とは言いませんが。
「えっ?ウソ!」
「こんなウソついて何の得があって」
「ほんと可愛くないなーお前!」
「あなたにはそういう目で見られたくないので安心しましたー」
「クッソこいつぅ!……ってそれどころじゃない!僕の肉まぁーん!」
サ○エさん一家並みの速さでコンビニに吸い込まれていく石田。
そういえば昔から足だけは速かったですね。
さて、バカの相手はこれぐらいにして…
「あっ小田ちゃん」
聞き馴染みのある声に呼ばれ振り向けば、そこには例の脈なしの人妻様。
「さゆみさんこんにちは」
「こんにちは、今日お休み?」
「遅めの正月休みで。昨日お酒飲み過ぎちゃったのでちょうど良かったです。」
「昨日小田ちゃんはしゃいでたもんね」
「そ、そうですかね…」
「うん、カラオケ大会でも大活躍だったし」
「でも旦那さんには敵わなかったです」
「歌はれーなの数少ない特技だから」
さゆみさんは旦那さんのお話をされてる時が一番キラキラしてると思うのは私だけじゃないはず。
「さゆみさんもコンビニですか?」
「うん、お昼買いに。えっと…色々あってお弁当で済ませちゃおうかなって」
賢明な住人の方々なら恥ずかしそうに笑うさゆみさんで全てを察された事でしょう。
そして何を隠そう今日はYHの定休日、ごちそうさまです。
「優樹ちゃんは飯窪さんのところですか?」
「うん、よく分かったね?」
「なんとなく。じゃあ少し顔出してこうかな」
「そういえば優樹が『おだんごにあいたいー』って騒いでたの」
「おだんご、ですか…」
なんか苦笑い。
「あと石田クンにも会いたいって」
「偶然その石田が店内にいるんで、さゆみさんがお誘いされれば行きますよ絶対」
「あっそうなんだ。って、なにあれ?」
さゆみさんの視線の先には肉まんの袋を片手に立ち読み中の石田。
もちろん頭にはHAPPY BIRTHDAY。
「まだ被ってるんですよアレ」
「そんなに気に入ったんだ優樹のお下がりなのに」
「プレゼントは何を貰うかより誰から貰うかが重要ですから」
「あーだからあのマフラーもしてるわけね」
さゆみさんがニヤリと笑う。
一生懸命目に入れないようにしていたけど、石田の首にはたしかにマフラーが巻かれていて。
しかもそれは昨日あの人の誕生日パーティーで私があげた物で。
「ち、違います!」
「でもプレゼントは誰から貰うかが重要なんでしょ?」
知り合ってだいぶ経つけど意外とSっぽいんだよなぁさゆみさん。
「あの人は防寒着がアレしかないんで仕方なく使ってるだけで!」
「しかも小田ちゃんが好きな紫色のマフラーを選ぶあたり…」
「ぐぐぐ偶然ですっ!石田は普段青しか着ないんで他の色なら何でもいいかなって!」
ってか何で私、ちゃんとアイツの事を考えてプレゼント選んだんだろうか…後悔。
「ふ〜ん、まぁいいけどね」
「ふぅ…」
「ちなみにあのマフラーは買ったやつ?」
「えっ…はい…ミチシゲヒルズのオシャレなお店で…」
「じゃあ今度は手編みのマフラーだね」
「なっ!?何でそうなるんですか!」
「ふふっwごめんごめん♪」
「さゆみさん意地悪ですっ」
「ごめんなの。でも可愛いんだもん小田ちゃん」
「そんな事ないです…」
あーあっつい。肉まんいらないかも。
「そんな事あるの」
「…ありがとうございます…」
「ふふっ♪じゃあさゆみ行くね」
「はい、優樹ちゃんにも会いにいきまぁす」
店内に入っていくさゆみさんに手を振ってお見送りして姿が見えなくなると一気に疲れがやってきた。
このマンションに引っ越してきて、住人の皆さんはとっても良い方々ばっかりなんだけど、
私が年下な方だからかどうも弄られ役から脱却出来ないでいる。
早いとこ新しい人が入ってきて弄られ役の座を譲りたいんだけど。
さっ、早くお昼食べよ。
また誰かに捕まる前に、肉まんも冷めるしね。
…それにしても気の迷いとはいえ何でこんな物を買ったのか。
もう一つの袋から透けて見える本を見つめ、また私は後悔した。
新装版はじめての手編みマフラーの本 おわり
タグ