長かった連勤が終わり、疲れきった身体と重い足取りで帰路につくと、マンションのエントランスでなにやら、小さな人集りを見つけた。
人集りの正体は、ここマンションの住人である見慣れた顔触れの子供達と、これまた見慣れた隣の住人だった。
子供達に囲まれ、円の中心で楽しげに話しているあいつ。ちょっとだけ…そう、ほんの少しだけ気になって様子を伺うと、
右手になにやらパペット人形らしきものを嵌めて、いつもより数倍高めの声に、アニメのキャラクターのような独特の話し方で子供達と話しているようだ。
こちらには全く気付かず、ニコニコしながら、その手はとても器用にパペット人形を動かしている。
「…かわいい」
「誰がかわいいの??」
不意に後ろから声を掛けられてハッとする。私…今何て…、かわいい…?誰が?
「へっ!?あっ、ハルくん!こんばんは!」
「さくらちゃん、こんばんは!ねぇ、かわいいって、誰のことー??」
「えっ、あ、まさきちゃん達とか、みんなだよ〜!」
真っ直ぐな瞳でじっと見つめられ、わけもわからず少しだけ後ろめたい気持ちになる。
うまく誤魔化すことが出来ただろうか…
いやちょっと待って、誤魔化すもなにも、かわいいと思ったのは子供達のことだ!そう、だから、焦る必要は無いはず!…それなのに、どうして。
「ふーん?あゆみんの方見てたから、かわいいって、あゆみんの事かと思ったー!あ、でもあゆみん男の人だから、かわいいじゃなくてカッコいいだね!!」
「…そ、そうだね…でもハルくんの方がカッコい「「どぅーーー!!あー!おだんごもいるー!」」
「まーちゃーん!!…まーちゃんが呼んでるから、いってくる!さくらちゃんまたね!」
まさきちゃんの声で一斉にこちらに視線が集まり、そして、あいつと目が合った。なんだか気まずくて、すぐに目を逸らした。
そんなほんの数秒のやり取りの間に、ハルくんはまさきちゃんの手を取り仲良く帰ってしまったようだ。数メートル先に二人の後ろ姿が見えた。
他の子たちも、ばいばーい!と友達に手を振りそれぞれ部屋に向かって行く。
そうしてぽつん、と取り残された私…と、あいつ。
「…お、おつかれ!お仕事ご苦労様、…さくら…ちゃん」
キャラクターのような作られた高めの声でそう言い、照れと不安が混じったような、どこかぎこちない笑顔を一瞬だけこちらに向けたあと、気まずそうにうつ向くあいつ。
「…っ、なん、ですか、それ?」
不意に名前を呼ばれて、顔に熱が集まるのを誤魔化すように、平静を装って素っ気ない声で問いかけた。
すると、ふうっと息を短く吐いたあと、何かが吹っ切れたように…子供達の前で見せていたふわっとした優しい笑顔で…
「ボクの名前はターちゃん!タートルのアイドルなんだ!よろしくねっ!」
視線が混ざり合う。
キラキラした茶色い瞳に吸い込まれるみたいに…目が離せない。
(…っ!!こんなにも優しい顔で笑うなんて…心臓に悪いですっ…)
うるさいほどに高鳴っている心臓の音を聞きたくなくて、咄嗟に出た言葉。
「……ターちゃん、ねぇ…。ネーミングセンス…」
…あぁ、また可愛くない態度を取ってしまった。すぐに押し寄せる後悔。本当は、ちょっとあいつの遊びに付き合って、ターちゃんと会話したかったんです…。
「…なんだよ、悪いかよ。どうせボクにはセンスなんて無いさ!」
先程の笑顔とはうって変わって、眉間に皺を寄せ、不服そうな顔になるあいつ…右手にいたターちゃんも外してしまった。
やっぱり、この顔の方が見慣れてますし、落着きますね…
ん?見慣れてる?…落ち着く!?…いや、べつに、見たくて見てるわけでは無いですよ!あいつの顔なんかっ!
「おい!…どうしたんだよ?百面相か?」
いけない、もやもやしたものを胸の内に抱えてボーッとしてしまったみたい。
「う、るさいです。そんなことより、今日は夕食を今から作るので少し遅れますからね!」
「お、おう。わかった。その…なにか、手伝うこととか無いのかよ?」
「あんたに包丁持たせたら、血を見そうなので、結構です!…あ、手伝いたいなら、コンビニでカレーのルウを買って来てください!」
「ぐぬぬ…ひどい言われようだけど、否定できない。今日はカレーか!…ルウは甘口でいいのか?」
「辛さもメーカーも、あんたの殆ど無いセンスに任せますので好きにしてください。買い終わったら、ウチに来て下さい。」
「おう、りょーかい。じゃあ、後で…」
「はい、」
そのあと、いつも通り小田ちゃんの部屋で二人仲良く甘口カレーを食べました。
おわり
ターちゃんの力を借りて、少しだけ素直になって、勇気を出せる石田クンと戸惑いながらも照れる小田ちゃん。というテーマでした(一応)
小田ちゃんは子供好きだし、石田クンは子供に優しいし、一緒に遊んでくれそうだから、きっと良いパパとママになるね!
だから、早く結婚して!!←
人集りの正体は、ここマンションの住人である見慣れた顔触れの子供達と、これまた見慣れた隣の住人だった。
子供達に囲まれ、円の中心で楽しげに話しているあいつ。ちょっとだけ…そう、ほんの少しだけ気になって様子を伺うと、
右手になにやらパペット人形らしきものを嵌めて、いつもより数倍高めの声に、アニメのキャラクターのような独特の話し方で子供達と話しているようだ。
こちらには全く気付かず、ニコニコしながら、その手はとても器用にパペット人形を動かしている。
「…かわいい」
「誰がかわいいの??」
不意に後ろから声を掛けられてハッとする。私…今何て…、かわいい…?誰が?
「へっ!?あっ、ハルくん!こんばんは!」
「さくらちゃん、こんばんは!ねぇ、かわいいって、誰のことー??」
「えっ、あ、まさきちゃん達とか、みんなだよ〜!」
真っ直ぐな瞳でじっと見つめられ、わけもわからず少しだけ後ろめたい気持ちになる。
うまく誤魔化すことが出来ただろうか…
いやちょっと待って、誤魔化すもなにも、かわいいと思ったのは子供達のことだ!そう、だから、焦る必要は無いはず!…それなのに、どうして。
「ふーん?あゆみんの方見てたから、かわいいって、あゆみんの事かと思ったー!あ、でもあゆみん男の人だから、かわいいじゃなくてカッコいいだね!!」
「…そ、そうだね…でもハルくんの方がカッコい「「どぅーーー!!あー!おだんごもいるー!」」
「まーちゃーん!!…まーちゃんが呼んでるから、いってくる!さくらちゃんまたね!」
まさきちゃんの声で一斉にこちらに視線が集まり、そして、あいつと目が合った。なんだか気まずくて、すぐに目を逸らした。
そんなほんの数秒のやり取りの間に、ハルくんはまさきちゃんの手を取り仲良く帰ってしまったようだ。数メートル先に二人の後ろ姿が見えた。
他の子たちも、ばいばーい!と友達に手を振りそれぞれ部屋に向かって行く。
そうしてぽつん、と取り残された私…と、あいつ。
「…お、おつかれ!お仕事ご苦労様、…さくら…ちゃん」
キャラクターのような作られた高めの声でそう言い、照れと不安が混じったような、どこかぎこちない笑顔を一瞬だけこちらに向けたあと、気まずそうにうつ向くあいつ。
「…っ、なん、ですか、それ?」
不意に名前を呼ばれて、顔に熱が集まるのを誤魔化すように、平静を装って素っ気ない声で問いかけた。
すると、ふうっと息を短く吐いたあと、何かが吹っ切れたように…子供達の前で見せていたふわっとした優しい笑顔で…
「ボクの名前はターちゃん!タートルのアイドルなんだ!よろしくねっ!」
視線が混ざり合う。
キラキラした茶色い瞳に吸い込まれるみたいに…目が離せない。
(…っ!!こんなにも優しい顔で笑うなんて…心臓に悪いですっ…)
うるさいほどに高鳴っている心臓の音を聞きたくなくて、咄嗟に出た言葉。
「……ターちゃん、ねぇ…。ネーミングセンス…」
…あぁ、また可愛くない態度を取ってしまった。すぐに押し寄せる後悔。本当は、ちょっとあいつの遊びに付き合って、ターちゃんと会話したかったんです…。
「…なんだよ、悪いかよ。どうせボクにはセンスなんて無いさ!」
先程の笑顔とはうって変わって、眉間に皺を寄せ、不服そうな顔になるあいつ…右手にいたターちゃんも外してしまった。
やっぱり、この顔の方が見慣れてますし、落着きますね…
ん?見慣れてる?…落ち着く!?…いや、べつに、見たくて見てるわけでは無いですよ!あいつの顔なんかっ!
「おい!…どうしたんだよ?百面相か?」
いけない、もやもやしたものを胸の内に抱えてボーッとしてしまったみたい。
「う、るさいです。そんなことより、今日は夕食を今から作るので少し遅れますからね!」
「お、おう。わかった。その…なにか、手伝うこととか無いのかよ?」
「あんたに包丁持たせたら、血を見そうなので、結構です!…あ、手伝いたいなら、コンビニでカレーのルウを買って来てください!」
「ぐぬぬ…ひどい言われようだけど、否定できない。今日はカレーか!…ルウは甘口でいいのか?」
「辛さもメーカーも、あんたの殆ど無いセンスに任せますので好きにしてください。買い終わったら、ウチに来て下さい。」
「おう、りょーかい。じゃあ、後で…」
「はい、」
そのあと、いつも通り小田ちゃんの部屋で二人仲良く甘口カレーを食べました。
おわり
ターちゃんの力を借りて、少しだけ素直になって、勇気を出せる石田クンと戸惑いながらも照れる小田ちゃん。というテーマでした(一応)
小田ちゃんは子供好きだし、石田クンは子供に優しいし、一緒に遊んでくれそうだから、きっと良いパパとママになるね!
だから、早く結婚して!!←
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