GW真っ只中の夕方。

「ぐあ〜やられた〜。」

夕焼けに照らされ、本日何度目かも分からぬ断末魔を上げてフローリングの床に崩れ落ちる一人の小学生。
女の子と見間違えるほど可愛らしい顔をした彼の名前は飯窪さんの又従姉弟で去年から608号室に一緒に住んでいる森戸ちさきクン。
そんな彼の前で新聞紙を丸めて作った剣と割り箸で作った輪ゴム銃を持ち、得意げに決めポーズを取る幼稚園児×2。
田中家の娘・優樹と、生田家の息子・遥のお馴染み『ちびまーどぅー』…いや今は手描きのお面を被っているから『ルパソエメグリ&ルパソオレンジ』と言うべきか。

「お宝いただくぜ!」と遥がキメ台詞を言ってティッシュの空き箱で作った飛行機を白いパーカー姿のちさきクンの背中に当てると、
フードから優樹がピンク色のうさぎのキーホルーダーが付いた鍵を取り、「ルパソコレクションいただきぃ〜!イヒヒw」と勝ち名乗りを上げる。
そして、お宝を手に入れた二人は背中につけたイメージカラーの風呂敷をなびかせ、リビング横の和室へと消えていった。


「ちょっと鍵無くさないでよー。」

ソファーに座り趣味のシール手帳を眺めながら一部始終を眺めていたさゆみが二人に注意すると、和室から「「はーい!」」と元気な返事が帰ってくる。

「さゆみの子供の頃はあんなに元気だったかなぁ………あ、ちぃちゃん、今ので何回目?」

半分忘れられかけていたちさきクンに聞くさゆみ。

「14回目です…」

額に汗し、だいぶ疲れた顔をしてるちさきクンを見たさゆみは「さて…」とつぶやきながら立ち上がり、例の喫茶店ではなく悪ガキどものアジトの和室へと向かう。

さゆみがそこで見たのはコタツの上にお宝(リビングにあった雑貨)を並べて目をキラキラさせている二人。
その何とも可愛らしい光景に覚悟が鈍るが…ここは心を鬼にして先ほど盗られた家鍵を取り返した。

「あぁ〜ハハとっちゃだめ〜!」
「はい、ルパソレンジャイごっこおわりー。」
「「えぇー!!」」
「もうちぃちゃんがグッタリしちゃってるから。」
「ちぃちゃんタルんでるなー」
「そりゃ14回も氏んじゃってるんだから疲れるでしょ。はい片づけてー。」
「ぶぅ〜!」

ぷーっと膨れる優樹を「あとかたづけしよ?」と遥が頭を撫でて説得すると渋々片付けを始める優樹。
いつまでもワガママ気ままな優樹と違い、生田クンと海外修行に行っていた遥は以前よりもしっかり者になっていた。
そして全てのお宝が元の位置に戻されると、タオルを持ったさゆみが集合をかける。

「こんな汗だくになるまで遊んでw はいタオルで拭いて?」
「は〜い。イヒヒw」
「はい、遥クン。」
「ハハさんありがとー」
「はい、ちぃちゃん。」
「あぁすみません…」
「麦茶でも飲む?」
「「のみたーい!」」
「飲みたいです…」

恥ずかしがり屋のちさきクン。
子供たちとはすっかり打ち解けたものの、まだ大人達との会話は緊張してしまうのかモジモジとしてぎこちない。
そこも可愛いんだけどね、と思いながらさゆみは冷蔵庫から取り出した麦茶をコップに汲む。

 
La La La La〜 Pi Pi Pi Pi〜♪


スキニージーンズのポケットに入っているスマホから新着メッセージが届いた。
麦茶を汲みながら片手で取り出しタッチすると『フクちゃん』からで。

「ふーん………遥クーン!」
「はーい?」
「今日はパパとママお泊りだってー。」
「またかよー!」

不満げな遥。聖さんと生田クン、二人っきりのお泊りといえば…ムフフな理由しかないわけで。
ちなみに遥の妹の朱音は現在、鞘師家で最近ライバル視している真莉愛と遊んでいるようだ。

「二人になるとすーぐハルのことおいてくもんなー。あっ、むぎちゃもっていきまーす。」
「あら、ありがと。さすが気が利くの。」

八重歯を光らせニーッと笑った遥が麦茶を運んでいくと、三人でゴクゴクおいしそうに飲み始めた。

「じゃあどぅーとまってくの?」
「もちろん!」
「わ〜い!」

愛娘と娘の彼氏の会話に耳を傾けながら、さゆみが聖に返信していると今度は『飯窪』からのメッセージが届く。

「あらら今度は……ちぃちゃーん!」
「えっ?あっ?はいっ!」
「飯窪の出張が長引いちゃって帰るの明日になるって。」
「え?そうなんですか…」
「ウチで良ければ泊まってくれても構わないの。どう?」
「え、えっと…」
「それに二人も一緒の方がいいでしょ?」
「ちぃちゃんともっとあそぶぅ〜!」
「あとでハルの 『ひかる!ルパソレンジャイパジャマ』 みせてあげるよ!」
「じゃあお世話になります…」

モジモジしながら嬉し恥ずかしといった表情のちさきクンの手を掴んで周りをグルグル走るチビ二人。
コマのようにして遊ばれているちさきクンは目を回してフ〜ラフラ。
 
「それじゃ今夜はお泊り会ね。れーなに連絡しとかなきゃ。(あとで「エッチできんやーん!」とか騒がれても面倒だから…)
 お夕飯は定番のカレーかな?材料は一通り揃ってるし、もしもの時のために着替えは預かってるし…あっそうだ!」

何かを思いついたさゆみはポンっと手を叩く。

「ねぇみんな、今から下の階の温泉行ってみない?予約が取れたらだけど。」

それは7階フリースペースに先日完成したばかりの温泉施設のことで、マンション住人と限られた人のみが利用できる完全予約制の家族風呂のようなもの。
ちなみに予約は1時間ごとで、お湯はあらゆる万病に効くとされ源泉かけ流しだそう。

「たっぷり汗かいたし流したいでしょ?でも家のお風呂はみんなで入るには狭いし、どうかな?」
「みんなでおんせんはいるぅ〜!」
「ハルもはじめてのおんせんはいりたいっす!」
「えっ?えっ?」

自分が答える前にすでに決まりかけている状況に一人慌てるちさきクン。

「ちぃちゃんはどう?」

前かがみで聞いてくるさゆみのTシャツの襟から綺麗な鎖骨とブラ紐が見えてしまい思わず目を逸らす。

「は、は、入りたいですっ!」
「はい決まりね!管理人さんに聞いてみるの。」

その後さゆみが管理人に電話をするとちょうど5分後の17時から空いているということで早速4人は着替えを持って7階の温泉へと向かった。


………


「うぉー!ひろーい!」
「ホント広いの…5、6家族ぐらいは同時に利用できそう。」

想像以上に広い脱衣所に目を奪われていると、チビたちは早速脱いだズックを下駄箱に入れて駆けだした。

「これなんだ?あっマッサージするやつか。おっ?オレンジダイヤルファイタァのコックピットみたい!」
「みてみてぇ!ぎゅうにゅーとぉ、コーヒーぎゅうにゅー、フルーツぎゅうにゅーもあるぅ〜!…ご?に?お…みくだ?」
「まーちゃん、それは『ご自由にお飲みください』って読むんだよ。」
「ちぃちゃんかしこい〜!イイコイイコ」
「よっしゃーハルは2ほんはいっちゃうぜ!」
「じゃあまさは3ぼ〜ん!」
「ボクは1本でいいかな…」
「二人ともお腹壊さないでよーw」

食いしん坊な二人に釘を刺しながらさゆみは大浴場へと繋がるドアを開けてみると、

「「「「うわぁ〜!!!」」」」

思わず4人同時に大きな声が出た。
そこには居住スペースを潰したとは思えぬ、ホテルでもなかなかお目にかかれない大浴場があった。
高そうな大理石で出来た浴槽は大人でも並んで泳げるぐらいの広さで、壁には大きなライオンの顔のオブジェ。その口から温泉が絶えず湧いている。
他にもジェットバス付の浴槽があれば、薔薇が浮いている花風呂まであり、大浴場の隣にはサウナルームと水風呂、別室で岩盤浴まで楽しめるそうだ。
そして本来ベランダに通じる窓があった場所は壁が取り払われ全面が窓になっているおかげで、大きな建物がなく街と自然が調和した美しい意府地区の景色を一望出来る。
しかもそれは単なる窓ではなく特殊なマジックミラーで出来ているため外から覗かれる心配もない。

「しゅごい…」
「ハハさん、ここってマンションだよね…?」
「うん…なんか凄すぎて…ね。」
「栃木にはこんなとこないです…」
「日本でもそう無いと思うの…」
「でもたのしそぉ!はやくはいろぉー!」
「そうね、みんな着替えよ?あっ、その前に…えーっと、タオルはー…。」

管理人に言われ着替え以外手ぶらで来たさゆみは、タオルを探し壁に貼ってある注意書きを読む。
そこには『タオルとバスタオルは備え付けのものをお使いください。』と書いてあった。
さゆみが3×10列ほど並んでいるロッカーを開けるとそこには新品のタオルとバスタオルが。

「使用後は返却ボックスに入れればいいのね。はー便利なの♪」

タオル1枚だろうと洗濯しなくていい、これは家事に追われる母にとって何よりも嬉しいことだったりする。
 
「はい遊んでないで三人とも着替えてー。」
「「はーい!!!」」

そう言われ、よーいドン!で競争するように一斉に服を脱ぎ出すまーどぅー。
静かに衣服を慎重に脱いでは畳んでロッカーにしまうちさきクン。
楽しそうな子供たちを見て、微笑みながらTシャツに手をかけるさゆみ。

それぞれがワクワクしながら服を脱いでいる…のだが。一人、ちさきクンだけは様子が違った。

チビ達を挟んで2mほど離れた場所にいるさゆみの着替えを、性の目覚めを迎えたばかりのちさきクンは思わず横目でチラチラと見てしまう。
さゆみの白いTシャツの下から出てきた滑らかな白い肌とゆるやかなカーブを描くお腹、そして薄ピンク色のブラジャーがちさきクンの脳みそをピリピリ刺激する。
そしてベルトのバックルを外しジーンズを下ろすと細くしなやかな美脚が現れ、ブラと同じデザインのショーツに包まれた小さなお尻に目を奪われた。
その身体はモデルのように細いのに女性らしい角のない曲線で構成されていて、どこもかしこもフワフワと柔らかそうだった。

「ふふふふーふ ふふふふーん♪」

聴こえてきたさゆみの鼻歌で我に返ったちさきクンは自分の手が止まっていたことに気付いて靴下を脱ぐが、どうしても目線は手を後ろに回しブラのホックを外す様を見てしまう。
スルッと腕からブラジャーが抜かれる。現れた二つの白い膨らみは小ぶりではあるが美しい形をしていて、中央で慎ましく存在している輪っかは透き通るような桜色。
しかもさゆみが少しでも動くたびに牛乳プリンのようなそれはプルプルと揺れ、自然とその揺れを目で追ってしまう。
ふいにさゆみがこちらを向いて目が合いそうになったので慌てて目を逸らす。誤魔化すようにズボンを脱ぐが、視界の端の方でさゆみが片脚を上げて何かをしているのが分かった。
さすがにそこは、と見るのを止めたちさきクン。一つ大きな溜息をついて、高鳴る心臓を静めようとしいていると…。


「「せーの、うぇーい!w」」

後ろから聞こえて来た優樹と遥の掛け声とともに、油断していたちさきクンのパンツが全て下ろされた。
慌てて前を隠し耳まで赤くしながら「ななな、なんだよぉ〜!」と言うのが精いっぱいのちさきクンを見て、
すっぽんぽんのまーどぅーはゲラゲラと笑いながら、「ちぃちゃんはやくぅー!」と言い残して、手を繋いで大浴場へと走っていった。

「二人とも転ばないようにね〜!ごめんねちぃちゃん、あの子ら悪ガキで。」
「いえ、大丈夫です…!」

全て脱ぎ終えタオルで前を隠したちさきクン。しかし同じように大事な部分をタオルで隠したさゆみが近づいてきてしまった。
一生懸命見ないように目を逸らすが、目の前には大人の女性の裸。意識せずにはいられない。


「さっ、いこ?」
「は、はいっ!」

後ろにいるとタオルで隠れていない綺麗なお尻が見えてしまうと思ったちさきクンは、さゆみの前を歩き大浴場へ向かう。

「(はぁドキドキするよぉ…春菜お姉ちゃんとだったらこんなにドキドキしないのに…)………あれ?」

考え事をしながら歩いていたちさきクンがようやく異変に気付く。いくら歩いても景色が変わらないのだ。
「え?え?」と、自分が置かれている状況を飲み込めない。

「将来優樹に弟が出来て、大きくなったらこんな感じかなー。」

すぐ後ろからさゆみの声が聞こえてくる。そこで初めて自分が後ろから抱っこされてることに気付いた。

「えっ?ちょっ?あっ?えぇー!?」
「ごめんね。抱っこしたくなっちゃってw ちぃちゃんってクラスでは小さい方?」
「は、はぃぃぃ…」
「やっぱりそうなんだ。かなり軽いもんね。」

正直そんな受け答えしている場合ではない。
だって背中にムニムニと当たっているのは当然さゆみの生パイであり、密着した身体や髪からミルクのように甘い香りがちさきクンの鼻孔をくすぐっているのだから。
頬から顔、顔から耳、そして首へと白い身体がみるみるうちに赤く染まっていく。

「若いっていいなー。さゆみも昔は………ってあれ?ちぃちゃん?…えっウソ?ウソでしょぉーーー!」

温泉に入る前から茹でダコのように全身真っ赤っかになったちさきクンは、さゆみの腕の中で目を回しながら意識を失った。

 
………


田中家、夜のリビング。

「それでちぃちゃんったら温泉入る前にのぼせちゃったのw」
「………」
「んふふふw 面白いでしょ?w」
「………」
「…どうしたの?」

ソファーに並びさゆみの笑い話を静かに聞いていたれいなだがついに堪忍袋の緒が切れた。

「面白いとか面白くないって話じゃなかと!」
「な、なによ急に!大声出したらみんな起きちゃうじゃない。」

和室に布団を並べて川の字で眠る子供たちを見てから、シーッと唇に人差し指をあてるさゆみ。

「何でちぃ坊とさゆが一緒に温泉に入ったか!しかも裸で抱っこまでしたかってこと!アイツもう小学生の男やろ!」
「あっ、そういえばちぃちゃんって男の子だったね。可愛いから忘れてたのw」
「おーい!おやつカルパスみたいなのかも知れんけど股間についとうやろ!でその後は!」
「のぼせたちぃちゃんをベンチに寝かせて、おでこに絞ったタオルを乗せて予約時間終了まで寝かせたけど?」
「その時さゆは?」
「そりゃ付き添うでしょ。…膝枕だったけど。」
「裸で膝枕か!れーなだってシてもらったことなかよそれ?!」
「だってさゆみが裸の時に倒れたんだもの。でも大丈夫、脱衣所も暖かいから風邪ひかないの。」
「あんにゃろう…さゆの膝枕はれーなのモノっちゃ!一発二発殴ってやらんと気が済まんと!」

怒りでさゆみの天然発言など聞こえていていないれいな。
 
「よその子相手に止めてよね!ちぃちゃん男の子だけど小学生だよ?まだまだ子供なの。」
「れーなは男やから分かるっちゃん、ああいう純朴そうな顔したガキほどムッツリスケベって相場は決まっとうって!」
「ちぃちゃんはお利巧だし、そんな子じゃないの。」
「くそぉ!幼稚園児のハル坊と風呂に入るのだってれーなは認めとらんのに!」
「………」
「………」
「………」
「…なんよ?」
「なんでもない…」

顔に分かりやすく『隠し事があります』と書いてあるさゆみ。

「言いんしゃい…」
「…はいった。」
「なにが…」
「家に帰ってきてちぃちゃんが落ち着いてから二人でお風呂入ったの!」

フッと一瞬白目を剥いて気を失いそうになるが何とか立て直したれいなは、

「…飯窪に電話する。お前の親戚のガキはどこか遠いところへ旅立ったってなぁ!!」
「なに縁起でもないこと言ってんのよれーなのバカ!」
「今回は浮気したさゆの方がバカやろ!!」
「20歳ぐらい違う子供と浮気?子供相手に嫉妬してるの?れーなの頭って本当に空っぽなんじゃないの?」
「ハァ?おい表出ろっちゃ!ここじゃ言いたいこと言えんけん、屋上で相手してやると!」
「口喧嘩なら望むところよ!半べそかいて逃げ出しても知らないからね!」


 
結局、子供たちを起こさぬように深夜の屋上でたっぷり口喧嘩をして、やがて場所を変え朝までたっぷりエッチを楽しんだ(←おい!)二人は…。

「子供相手に嫉妬とか、れーな余裕がなさすぎたっちゃね…ごめんさゆ。」
「ううん、さゆみもれーなの気持ちを考えてなかったの…ごめんねれーな。」

子供たちが起きる頃にはすっかり仲直りをして、すっ裸で膝枕をして事後の余韻を楽しむアホエロ夫婦でしたとさ!


………


次の日のYH。

「あーねみねみ。酒が抜けてねーYO…鍵、鍵…」

ガチャ キーッ

「……ん?   スンスン、スンスン…   アイツらヤりやがったYO!(怒)」





田中家とちぃちゃんの日常 ムッツリ少年の役得編 おわり



おまけ

次の日の飯窪家。玄関。

「ただいまー!ちぃちゃんごめんねー出張が長引いちゃって。」
「おかえりなさい、大丈夫だよ。」
「お利口さんにしてた?さゆみさんに迷惑かけてない?」
「た、たぶん…」
「ならいいけど。そういえば7階に出来た温泉に入ったんだってね。楽しかった?」
「う、うん、とっても!(本当は入れなかったんだけど…)」
「そうそう、今日の午後、聖さんと香音さんと小田ちゃんが一緒に温泉入らないかって誘われてるんだけどちぃちゃん行かない?
遥クンと朱音ちゃんと真莉愛ちゃんもいるから一緒にって。すっかり人気者だね〜…ってちぃちゃんどうしたの!?」

Ifマンションが誇るビッグ3との共演を想像し、鼻血を出して倒れたちさきクンのラッキースケベ人生はこれからも続く…?



いい加減おわれ!
 

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