作者 睡蓮 
投稿祭があるので、とりあえず書き終わった部分だけを先に出します。
本編
「……」
「……」
マッドドッグ1号が場外に消え失せた後、ハンジローとイゾーは微動だにせず暫し佇み、互いに睨み合っていた。
「イゾーさまもハンジローもなにしてるのだ……」
言葉を発することすらなくただ睨み合う両者に、加勢に飛んできたずんだ府兵達は首を傾げたが、その内の1匹がナイフを持って隊列から飛び出した。集中するハンジローを背中から刺すつもりらしい。
「あ、おい！」
「のーだのだ！きっとハンジローはイゾーしゃんのあっとーてきなオーラしゃんにビビってるのだ！このスキにうしろからぶっごらょぞゃぁっ」
ナイフの先がハンジローに迫った瞬間、功を焦ったずんだ虫の首は、車輪のように何重にも回ってねじ切れた。
「ぁあんごぁ！？」
千切れた生首とナイフは隊列に高速で突っ込み、先頭にいたあんこもんの額と腹を消し飛ばすと、背後に控えるずんだ府兵の命を奪い去るだけ奪い去って列を抜け、闇夜の彼方へ消えていった。
「えっ？」
運良く離れた箇所にいたずんだ府兵達が、地に落ちる死体の数々に目を瞬かせる。そして、ある1匹がハンジローとイゾーに視線を戻した同時に。
「えっ？」
2匹の間に深々と一文字の亀裂が走った。続けて、散乱するイゾー配下の精鋭達の死体が全て血煙となって霧散した。
その濃厚な血の雲の中で、ずんだ府兵達は察した。
コイツら、メンチさんを切ってるんじゃねーのだ……。僕らのお目々さんには映らないほどの神速のぐるぐるパンチをしていたのだ……。
両名は互いの触手を振り回し、鍔迫り合っていた。それが並のずんだ虫にはただ睨んでるだけに見えていたのだ。それに気づかず油断して割り込めば、一瞬でずんだの霧となって死ぬ。
「これが、あかねしゃちょーのきりふだしゃん……じえーずん……ば、ばけものなのだ……」
「ぼくたちじゃ、あしでまといにすらならないあん……」
そう諦観し、ずんだ府兵はただ2匹の闘いを見守ることしかできなかった。
「あん？」
「のだ？」
だが、イゾーは斬り合いながら数秒部隊の方を見上げると、素早く何かを口の動きだけで伝えた。内容を理解したずんだ府兵が号令をかけ、部隊は一斉に東の方角へ飛んでいった。
「また何かする気なのだ……？」
ハンジローもイゾーの動きに気づいていたが、流石に追いかける余裕はない。触手が3本しかない。2本は槍として握っていて、1本はマッドドッグを倒すのに使ってしまった。
「う……！」
しかし、それでも重装触手のイゾーよりハンジローの方が速さに利がある。イゾーは枝豆の先端が切られ、傷口から血が垂れた。
「ふんッ！！」
だが、イゾーは追撃に出たハンジローの触手を受け止め、迫る刃先を上にずらして、片方の耳を半ば自らの手で切り落とした。
足元に枝豆耳が落ち、断面から鮮血が噴き出してイゾーの顔を抹茶色に染める。しかし、出血自体はすぐに止まった。自衛ずんはそのように調整されている。さらに言えば、痛みにも鈍感なように出来ている。
「ふぅ〜……ぼくとしたことがおバカさんだったのだ。お山の大将さんになって驕り高ぶり、オメーほどの武ずん(武人)を軽く見たのだ。この枝豆さんはそんな自分へのケジメなのだ」
イゾーはそう述べ、屋根から飛んでハンジローへと立ち向かい、首めがけて触手を振るった。ハンジローが弾き返した時、触手と共に飛来する物に目玉を見開いた。
グレネードが鼻先まで来ている。イゾーはわざと距離を詰めて触手を振り、ハンジローが捌く隙にグレネードを射出した。斬撃に気を取られて気づけなかった。
まずい。これはかわせないのだ。
ハンジローの顔に初めて恐れが見えた。ハンジローは考えるより先にグレネードを頬張った。
「グガッ！！」
瞬間、口腔でグレネードが爆発した。ハンジローの瞼が光り、口と鼻から火を噴き、頬がはち切れんばかりに膨らんだ。
よろめき、数歩後退ってハンジローが口を開けると、体内に溜まる濃厚な黒煙が身体を包み込んだ。
煤の混じる大量の血を吐き、グレネードの破片と歯を吐き捨てて、ハンジローは怒りの眼でイゾーを見据えた。負傷らしい負傷をしたのは妖精戦争において、これが初めてだった。
口に手を突っ込み、歯茎に刺さった八重歯を抜くハンジローを見て、イゾーが舌打ちして触手を側に引き戻す。
「チッ、即死しなかったのだ。だがハンジロー、お前なら今の技が二度は通じないとよく分かってるのだ。オメーを倒すには、圧倒的な火力しかないっちゃ」
「イゾーさま！」
イゾーがそう言った時、どこかへ飛んで行ったずんだ府兵達がさらに数を増やして帰ってきた。手ぶらではない。飯櫃によく似た分厚い円盤を、30匹ほどの数で抱えている。
「めいれーどーり！おもちしましたあん！」
「よいちょ……よいちょ……お、おもいのだ……おちび、がんばるんちゃ！」
「パパずん、ずんちゃはもうおとななのだ！こ、このくらい、らくしょーなのだ！」
「はれは……」(あれは……)
ハンジローは頭を上げ、上空のずんだ府兵が持っているものを見つめ、その正体に気づいて目を丸くした。
92式対戦車地雷。
開戦初期に北部方面隊の駐屯地から没収した大量の対戦車用地雷。人や妖精が踏んでも爆発はしないが、自動車が真上を通れば綿毛のように飛ぶ威力がある。
特に使い道はないが、頭の悪い妖精兵に処分させるには不安があったので1箇所に集めて保管していたが、その倉庫は函館にあった。
手下達に向けてイゾーが吠える。
「よくやったのだ。それをぼくに向かって落とせなのだ！」
「え？そんなことしたら……」
「気にせずともよいのだ！さっさとやれなのだ！！」
指示に戸惑う手下に痺れを切らし、イゾーが怒鳴りつけると、地雷を運ぶずんだ府兵らは互いに顔を見合わせ、渋々持つ手を離した。地雷が笛のような音を立てて次々とイゾーの頭上に落下していく。
「ちょ、ちょっとまっちぇパパずんぼくがしたにいるにょだあああああ！！」
「へ？おちびいやあああああああ！！」
（空爆する気なのだ！？）
ハンジローは両目を手で覆って身構える。だが、敵である自分ではなくイゾーが自らに地雷を落とすよう仕向けたのが解せない。かといってこの状況で自決するとも思えない。まさか、さっき言っていた圧倒的な火力というのは……。
ハンジローが顔を覆う手を下げてイゾーを見つめた時、落ちる地雷が音もなく全て宙に静止した。本当に浮いたわけではなく、イゾーが全ての地雷を空中で貫いた。
地面に落ちれば地雷は衝撃で爆発するが、貫通しても同様衝撃を感知して普通なら爆発する。それをイゾーは信管を避け、振動も与えず刺突することで起爆を防ぎ、触手の兵装としたのだ。
しかも、計12個の地雷全てを同時に不発で貫くなど、ハンジローですら不可能な芸当だった。粗野なイゾーには不釣り合いなほど精緻で美しい所作に、ハンジローも息を呑んだ。
「かひゅ、ひゅ」
イゾーはBBQの串のように地雷が突き刺さった触手をじっと眺める。何故か子ずんも一緒に串刺しになっていたが、イゾーは無視した。そして、正面で槍を握って警戒を強めるハンジローを見据える。
「のだ？」
その時、山裾の山麓ステーションの方から銃声が微かだが立て続けに聞こえた。ハンジローも気づいたらしく、数秒瞳を後ろに向けた。
シンベーら監視部隊とマッドドッグ1号が交戦する音だったが、2匹が知る由もない。
「どうやら今夜は他にもドブネズミがうろついているようなのだ。だがハンジロー。まずはオメーからあの世に送ってやるのだ！！さぁこいなのだァ！！」
「まってくだちゃい！そこにおちびがぁぁぁ！！」
イゾーは叫び、天高く跳躍すると、ハンジロー目掛けて豪速で触手を突き下ろした。
「くちょ！！」
ハンジローが脱兎の如き速さで空に退避した瞬間、コンクリートの地面に深々と触手が突き刺さり、信管が作動する甲高い金属音が、地雷の中で連鎖した。
「ッうぐわぁぁっ！！」
イゾーを起点に展望台全域に光の亀裂が走り、その裂け目から業火が噴き上がる。その炎がさらにコンクリートをヒビを刻み込み、台座ごと展望台は唸りを上げて崩落した。
瓦礫は樹木をへし折り、真下の車道を完全に塞いだ。
「う、ぬぅ……」
分厚い爆風がハンジローを飲み込む。人工飛行器官の出力を上げ、身を焦がす熱風の中でハンジローは吹き飛ばされまいと腹に力を込めた。
想像通りだが想定外の威力だ。あの突きを1発でも喰らえば、防弾チョッキなど意味もなく即死するだろう。
「ぐっ……」
爆風が収まると、右脚の付け根に鈍い痛みを感じた。見てみると爆発反応装甲の破片が突き刺さっている。爆発自体を避けても、風圧に巻き上げられた石飛礫や走行の欠片が飛んでくるというわけだ。
ハンジローは憮然とした顔で破片を触手で引き抜き、イゾーを目で追った。
「コイツはいちぇぇぞぉぉーーーッ！！！」
展望台が崩れ出す寸前に飛び上がったイゾーは、ハンジローと同じ目線まで飛翔すると、計8つの地雷が刺さる2本の触手を左右に広げ、ゆらり波打たせ、腰を捻って、全身を使って地雷をハンジローに投擲した。
(オメー……それ外せるのだ！？)
まるでフリスビーのように高速回転し、8つの地雷が音もなくハンジローへ向かってくる。だが、地雷は時限式のグレネードとは違う。衝撃がなければ爆発しない。
ということは。
イゾーの意図を読んだハンジローは地雷を両断せず、すぐさま地雷に背を向けて飛んだ。
間もなく背後で爆発が起き、次々と地雷が誘爆した。山頂ステーションの壁を爆炎が抉り、窓という窓が破裂して火が噴き出し、3階部分は無惨に倒壊した。
思った通り、地雷に紛れてグレネードも一緒に撃っていた。ハンジローが飛ばずに避けたり斬ったりすれば、爆発に巻き込まれて死んでいただろう。
(何が今の技は2度通じないなのだ。やっぱり使ってきてるじゃねーかなのだ！)
ハンジローがそう毒付き、攻勢に出ようと振り返った瞬間、イゾーが触手に火がついたまま爆炎の中を突っ切って飛び出し、ハンジローの顔面に強烈な飛び蹴りを見舞った。
「ぬぅぅんッ！！」
「ごぎぁぉぉぉ……！？」
頬骨が砕ける音が頭の中で鳴り響き、ハンジローが吹き飛ばされた先は最初に来た函館山頂の駐車場だった。
飛行器官による速度相殺も間に合わず大型バスに激突し、余りの衝撃にバスは横転する。白雪の積もるアスファルトに倒れたハンジローは、吐血しながら何とか満身創痍の身体を起こした。
イゾーは追撃に走ることなくゆっくり飛行し、横転したバスの上に降り立つと、上空のずんだ府兵に指示して再び地雷を降らせ、瞬きする間に触手に突き刺した。
「オメーら、手出し無用なのだ」
「わ、わかりましたのだ……」
地雷を補充したイゾーが手下にそう厳命する。
ハンジローは手繰り寄せた槍をアスファルトに突き立てて、杖代わりに立ち上がった。そして、イゾーの鍛え抜かれた背筋を睨みつける。
面倒なことになったのだ。ハンジローは口の中から砂利を吐き、本心からそう思った。
(今回のイゾーは本気なのだ。アイツはサディストさんなのだ。普段敵で遊ぶアイツが、今はぼくを一撃で殺そうとしてるのだ。それに、アイツはここでぼくに負ければ全て失うのだ。油断などしているはずがないのだ。恐らく、この闘いはかなりエグいヤツなのだ……！)
鈍色に輝く地雷を囲んで、イゾーが無言で振り返る。先ほどまでなかった鋭い眼光と重厚な覇気を携え、正に自衛ずんの名に恥じぬ武勇と、一軍の将帥としての威厳が、今のイゾーにはあった。
【ずんだ府総大将】
イゾー
(確定殺傷人数4529人 内戦闘員406人)
「……さて、色々勉強させてもらうのだ。ハンジロー大将」
「来るがいいのだ」
不可思議なほど軽やかにバスから飛び降り、イゾーはハンジローを見つめて身構えた。ハンジローもまた、身体についた雪を払って乱れた姿勢を取り直した。
このページへのコメント
ハンジローとイゾーの触手バトル、『ジョジョ』のスタンド勝負みたいでテンション上がりますね！
圧倒的な強さを誇るキャラ同士の戦いに巻き込まれてしまう一般人（ずん）の描写、好きなんです……どうしようもない感じがあって……
睡蓮さんが龍が如くファンなの知ってるが、多分本気イゾーの戦闘スタイルのモデルは8の山井だろ。
アイツの場合は酒をぶっかけて燃えたバール使うけど、コイツはいてぇぞー！ってセリフや、殴った後で熱波が襲ってくる攻撃とかある
あと、トミザワってKing Gnuの井口がやってるキャラがそんな山井を見て、今度の山井は本気だってビビるシーンがある
よ、よく分かりましたね…(困惑)
山井みたいな好きな人に騙されても愛を捨てられない、不器用で信念のある悪役好きなんですよね
イゾーしゃんも 寒みぃのだ 寒みぃのだ
って そのうち 言い出すのだ？
イゾー、思ったよりも爆発物使いこなしてますね
ハンジローがここまで苦戦するとは・・・
触手の打ち合いを「ぐるぐるぱんち」とは・・・
妖精の語彙力の限界ががが
続きが楽しみです
イゾーは反省したら強い音石明タイプか
ハンジロー対イゾーの闘い
予想以上に凄まじい戦いですね
映像の妖世紀5においてハンジローがボロボロになった理由がどういう戦いだったのか今回の話で鮮明に書かれていてとても熱中しました。
闘いの途中で調子こいたり・ドジふんだりするずんだ虫達がいなければずん虐サイトの小説だという事を忘れしまう程素晴らしい内容でした。
続編も楽しみにしています。
イゾー殺してんのほぼ民間人で草
妖精軍いた頃から命令無視して虐殺してただろ