作者 睡蓮 
投稿祭用に書きました。遅れてすいません。
最初はミュンヘンオリンピックの選手村で起きた事件を、イスラエル選手団をずんだ虫に、パレスチナ人テロリストを鬼威惨にする話を書こうと思ったんですが、不謹慎かなと思ってボツにしました。
最初はミュンヘンオリンピックの選手村で起きた事件を、イスラエル選手団をずんだ虫に、パレスチナ人テロリストを鬼威惨にする話を書こうと思ったんですが、不謹慎かなと思ってボツにしました。
本編
森を切り拓いて開墾した50ヘクタールの農地。
へコリンピック用に特別に作った畑です。農作物の類はなく、よく耕された柔らかい土が昨晩の雨を吸って芳しい匂いを放っています！
ここで行われる競技は『ねずみ獲り競争』
ヘコリンピックで今年から初めて導入された新競技ですね。
解説は私、紲星あかりと株式会社Z.N.D.より代表取締役社長である柚月ゆかりさんとやらせていただきます！ゆかりさん！よろしくお願いいたします！
よろしくお願いします。
このねずみ獲り競争は、ずんだ虫が本来持たない狩猟本能を鍛錬によって植え付けた、いわば猟犬ならぬ猟ずん達の力比べです。
厳しい予選を潜り抜け、各企業、団体が粋を極めた珠玉のずんだ虫の奮戦をこれから楽しみにしています。
ありがとうございます！お、早速選手のずんだ虫達が入場してきました！みんな、そこらへんの道端で私が拾い食いしているずんだ虫と違って、いかにも精強な顔付きですね！屈強な肉体で、覇気すら感じます！
道端のずんだ虫を……生で……？
まぁ、いいでしょう。選手の猟ずん達と所属団体を紹介します。
まず最初に入場してきたのが、鳥取県米子市に拠点を置く猟ずんチーム【エダマメ騎士団】のエース【タネチャンブッシャア】品性を疑う名前ですね。タネチャンブッシャアは普段は地域の保育園で警備業を任されており、期待が持てます。
『うおおおおお！！きんメダルさんしかみえねーのだっ！！！』
あれは刺身ですね。
ところでゆかりさん、タネチャンブッシャアと一緒にシャベルを持って歩いてる方は？
あれはハンドラーですね。優れた猟ずんには優れた調教師も必要不可欠。このねずみ獲り競争は、単なるずんだ虫のフィジカルだけでなく、そうした双方が築いた絆の結びつきも試されるのです。
なるほど奥深い。
さて、お次は今大会で予選を含めて最年少、生後3ヶ月とまさにニューカマー。ああいうのは岩塩だけで楽しみたいですね。
『ハンドラーさんに、もりのみんなのためにも、かならずかちゅ！！』
紲星さん。ニューカマーというのは期待の新入りという意味で、若者という意味ではありませんよ。そういうのはフレッシャーって言うんです。
黙れや。
えっ？
失礼。期待のフレッシャーの名前はアニャルヒリヒリ。所属は埼玉県越谷市の『フグリーズ』私もこの前、昔流行ったデスソースを久々に舐めたら、翌朝ケツの穴が製鉄所の溶鉱炉のような
あ、その話は真面目に吐きそうだからまたの時にお願いします。次に3匹目。ずんだ虫にとってのエルサレム、宮城県仙台市が誇る名門『伊達豆宗』から、オチビスラヘコル。
予選では2位のタネチャンブッシャアに大差をつけて勝利。圧巻の横綱相撲を見せつけました。今競技の最有力優勝候補です。
『ま、ザコはせいぜい、ぎんメダルさんあらそいがんばるんちゃ』
見るからにたくましい……。あれは唐揚げですね。いや、昆布締めもアリか……。
最後に唯一の企業陣営からの本戦出場。株式会社HandZ専属猟ずんチーム『ドリフターズンダ』のエース、ヒマリヤスミスクネーゾ。ハンドラーはHandZの執行役員である雨晴はう氏自らが行います。企業の意地を見せられるでしょうか。
『さっきごはんさんをたべたぼくは、ちからがみなぎってりゅのだ！！』
あれはパエリア。
紲星さん。さっきから選手を使った料理に思いを馳せるのはやめてください。というかコイツら名前が下品。1匹にいたっては社長への文句じゃないか。いくらずんだ虫でももっと尊厳ある名前付けてやれよ。
ゆかりさん。チームから期待を込めて与えられた名前を謗ることの方が、もっと尊厳を踏みにじる行為です。以後控えてください。
え？私が悪いんですか？私が悪者なんですか？
では、選手が揃いましたのでここで今一度ルールを説明させていただきます！
ルールはいたってシンプル！ハンドラーがスコップを掘り、地上に出てきたねずみを猟ずんが仕留め、その数を競います！
ネズミ1匹につき1ポイント。もちろん、他のハンドラーが掘り出したネズミを奪うのはOK！ただし猟ずん同士の闘いは厳禁！その場合は双方-5ポイントです！再起不能にしたら失格です！また、大きなねずみには特別ポイントが加算されます！
大事なのはねずみは必ず息の根を止めること、ハンドラーの指示には絶対に従うこと、ねずみ殺しを躊躇わないことです！
『くしょねずみに、なさけなんかかけるわけねーのだ！』
『のだ！はたけさんをあらすネズミなんか、たとえおちびがいたってブチころちゅ！』
『へんなルールさんなのだ！』
『ゆーしゅーなぼくたちをあまくみてるのだ！？いっぴきのこらずなでぎりさんにするのだ！』
各チームとても威勢がいいですね。士気は最高潮のようです。ゆかりさん、実は彼ら4匹は全員山林や街からスカウトした野良ずんなんですよ。
彼らはみな、優勝で得た賞金によって自分と仲間がいい暮らしを送れることだけを願い、今日まで鍛えてきたのです。
ほう？飼いずんではなく、野良ずんを……確かにバイタリティは野外で生きるずんだ虫の方がずっと上ですが……。
4匹が位置につきました。では、いよいよスタートです！ちなみに、この競技用の畑をわざわざ0から作ったせいで、ヘコリンピックの予算は9割方消えたそうです！！メダルはみんな折り紙です。
今すごいこと言った……。
さぁハンドラーがまず先に畑に入り、シャベルを土に突き立て、掘り返します。いなかったようです。もちろん掘れば必ずねずみがいるわけではありません。それにシャベルでねずみを殺してはいけないので、注意しないとですね！
ん？アニャルヒリヒリのハンドラーが笛を鳴らしましたね！ねずみがいたようです！一斉に4匹がそこに向かいます！あっ、出てきました！
『お、おひさましゃんまぶちっ！？』
『ひぃぃぃ！に、にげるのだあああああああ！！』
『まっちぇ、まっちぇ！おいてかにゃいで……』
『『『『えっ？』』』』
で、出てきたのはずんだ虫ですね……なぜ地中に……？しかし、ハンドラー達は固まっているずんだ虫を笛で呼びつけています。ねずみ狩りのはずでは？紲星さん、どういうことか分かりますか？
ん？あぁ〜そっか。ゆかりさんにはまだ本当の競技内容をご説明するのを忘れていましたね。ちょっとこれ、ねずみ獲り競争の看板なんですが、これね、ここ、字の隙間を虫眼鏡で見てみてください。
はぁ……？ん？なんか字の間にまた小さな字が……。
ね っこを食い荒らす畑の害獣
ず んだ虫を
み な殺し、ずんだ虫のタマ
獲
り
競
争
はい。
はいじゃないですが。
ねずみ獲り競争とは言いましたが、実際は畑に住みついたずんだ虫を駆除した数を競い合うのがこの競技です。ちなみにハンドラーはこのことを承知ですが、言わずもがな猟ずん達には伝えていません！
伝えていませんってあなた、そんな不義理かましたら猟ずん達も……ああほら、案の定ハンドラーと猟ずん達が揉めてるじゃないですか！
『ハンドラーしゃん！これはどういうことなのだ！？』
『ここにはくしょネズミしかいないはずじゃなかったのだ！？』
『なかまがいるなら、このたたかいはぬけさせてもらうちゃ！』
『それは競技を棄権するということか？』
『のだ！なかまをまきこむなんて、ゆるせねーのだ！ヘコリンピックのだいひょーしゃをよんでくるのブバァッ！？』ﾊﾟﾝｯ
『『『えっ？』』』
あ、アニャルヒリヒリの首が爆発しましたね。厳しく鍛えた猟ずんとはいえ所詮はずんだ虫。このように反抗してきた時は、うなじに埋めた発信機が爆発します。ハハッ。
笑う要素ありました？
アニャルヒクヒクに最上の敬意を。死を恐れずにずんだ虫のプライドを最期まで貫き通しました。
名前間違えるくらいなら最初から心にもないことは言わない方がいいですよ。何だアニャルヒクヒクって汚ねぇな。
『が、あがっ……きゅひゅ……』
『こうなりたくなければ、大人しく競技に参加することだ。お前らは野良ずんだろう？無様な姿を見せたら野生に返すことになるが、へコリンピックのために住む森を奪い取られ、巣を壊されたずんだ虫達は果たしてへコリンピックの選手だったお前らを受け入れるかな？』
『ここで頑張れば、さらに幸せなずん生を遅れるんだよ？』
『う……う、うう……』
『で、でもなかまをころちゅなんて……』
『さっさとやらないと、君達のずんぽを奪い取るよ』
『そ、そんにゃ』
お、タネチャンブッシャアが逃げるずんだ虫を追いかけ始めました。ヒマリヤスミスクネーゾがそれに続きます。
『にげるのだ！とにかくここにいたらダメなのだ！』
『おとうちゃ、おかあちゃ、ま、ま、まっちぇ……』
そして、親ずん2匹の後を、遅れてよちよち歩きで追う子ずんを……。
『う、うおおおあああああああああああ！！！』
『ひぴゃ』ﾍﾟｷｬ
蹴ったァァァァァッ！！
子ずんは空高く吹き飛び、あれではどこに着地しても死ぬでしょう！タネチャンブッシュアに先制点！ん、さらにさらに、巻き上げられた土と石と子ずんが、敷地外に逃げようと足掻く親ずん達を〜〜〜？
『あぎゃァァァァ！？』
『ぶばぁぁぁぁ！！』
容赦なく降り注ぐゥゥゥッ！！親ずんに直撃した子ずんはバラバラに砕け、石で身体を強く打った親ずんが畑に倒れました！！
『わあああああああああ！！！』ﾄﾞｶｯﾄﾞｶｯ
『ゆるちて！！ゆるちてなのだあああああああ！！』ﾎﾞｶｯﾒｷｯ
それを、追いついたタネチャンブッシャアとヒマリヤスミスクネーゾが馬乗りになってタコ殴りです！何という凶悪プレー！！誉ある猟ずんのやることとは思えません！！
『がっ！ぶべっ！しょ、んな……ぼく、なにもわるいこ、と……してないの、だ……』ﾁｰﾝ
『おちび、ちゃんだげっ！！で、も゛っ！！たすけちゃかぁっ！ちゃ……』ﾁｰﾝ
死んだァァァァァッ！！タネチャンブッシャアにさらに1点！ヒマリヤスミスクネーゾに1点！！同胞殺しに手を染めた2匹の熾烈な戦い！！オチビスラヘコルは追いつけるかァァァッ！！！WRYYYYYY！！！
紲星さんキャラ変わってますよ。DIOになってる。
おっとすいません。おしゃぶりおちびを吸って落ち着きます。
ｼｬﾌﾞﾗﾆｬｲﾃﾞ!ｽﾜﾆｬｲﾃﾞ!ﾁｭｩｩｩｩｲﾁｬｲｲﾁｬｲｲﾁｬｲ……
ふぅ……ねずみ獲り競争は元々、地中に住み、農作物の根を食い荒らす害獣ずんだ虫を、ずんだ虫の手で処分させるために生まれました。
仲間を殺せる屈強な肉体と、それに見合う精神力を養うため、あえて地中にいるずんだ虫がいることは伝えていません。もちろんドーピングなんかもしてません。完全シラフです。
まさかネズミ駆除に来たら仲間が埋まってるとは思わないでしょうね。ところで紲星さん。一つ聞いてもいいですか？
はい？
我が社は妖精駆除を専門にしてるので、駆除の事例は数多知っているのですが、その……畑に寄生し、農産物を食べず根っこだけ食べる風変わりな個体というのは聞いたことがないのですが……。
……。
これまさか、立派な猟ずんを養うというのは建前で、ただ仲間殺しを強要されるずんだ虫達を見たいというわけでは……ない、ですよね……？
……さぁ！ヒマリヤスミスクネーゾのハンドラーが笛を鳴らしました！再びずんだ虫を見つけたようです！
あ、やっぱりそうなんだ。ん？この畑ってヘコリンピックのために特別にこしらえた畑でしたよね？ならここにいるずんだ虫は……。
『くしょ……や、やるしかねぇのだ！しょせんはしらねーヤツらなのだ！ぼくらともりのなかまのため、のりこえなくちゃいけないのだ！』
おっ、オチビスラヘコルが動き出しました！ついに腹を決めたようです！目にも留まらぬ速さでハンドラーが掘った穴に向かいます！
『えっ』
しかし、穴を前にして固まってしまいましたね。今度は何があったんでしょう。やはり日和ましたか？
『マ、マママずん？そ、それにおちびちゃんも……』
『パパ、ずん……！？な、なんでこんなところにいるのだ！？』
あ、これも言い忘れてましたが、この畑に埋めたずんだ虫はみんな、選手4匹の故郷から引っ張ってきた野良ずん達です。
選手らには故郷と家族のために鍛え抜いた肉体で故郷の仲間と家族を血祭りにしてもらいます。
何ですこの競技？鬼畜の宴？わざわざこんなことしなくても、飼いずんじゃダメだったんですか？
飼いずんはちょっとスポンサーのFAIRIESの茜社長の勘気を被る可能性がありますので……。
そこはビビるんだ。
『パパずん！よ、よかったのだ！たすけてほしーのだ！ぼくたち、いつのまにかこんなところに、いきうめさんにされちぇ、おちびちゃんがきをうしなったまま、めをあけないのだ！』
どうやら窒息して子ずんは死んでいますね。ママずんがペロペロしてますが、目覚めそうにはありません。かわいそうに……。
今さら？
いや、私の胃袋の中でなら浄化されて天国さんに行けたのに……。
あっはい。
『そ、そんな、ママずんがなんで……まさか、ここにいるずんだもんはみんな……』
『うおおおおおお！！どけぇ！！ずんぽをうしなっちぇたまるかなのだ！！』
『な、なんなのだオメーら！はなすのだ！ああっダメッおちびちゃんなぐっちゃダメーッ！！あごっ！！』ﾊﾞｷｯ
オチビスラヘコルを突き飛ばし、タネチャンブッシャアが子ずんの死体を踏みつけ、殴って首をへし折りましたが、すでに事切れているのでポイントは入りません！反面、ヒマリヤスミスクネーゾはメスずんの頭を硬い赤土に叩きつけていますね。
『ぶごッ……がッ、ゲッ……パパ、ず……たす、たす……け……ぎゅえ』ﾁｰﾝ
ヒマリヤスミスクネーゾの容赦ない連撃で、メスずんの頭が割れました。これでタネチャンブッシャアと同点です！！
オチビスラヘコルは妻がリンチされ、我が子が引き裂かれているのを見ることしかできませんでした！！
『あ、あははおちびちゃんとママずん、ちんじゃっちゃ。いままでおちびちゃんとはなれてまで、トレーニングさんしてきたのはなんだったのだ？』
おっとオチビスラヘコルはどうも様子がおかしいですね。
どうやら試合はタネチャンブッシャアとヒマリヤスミスクネーゾの一騎打ちとなるようです！
ん？紲星さん。あちこちの畑からずんだ虫が。
『な、どこなのだここは……？』
『おなかしゃんがペコペコなのだ……』
『あ、あそこにずんだもんのしたいがあるのだ！」
あちこちからボコボコ這い出てきますね。マイケルジャクソンのスリラーのMVに出てくるゾンビみたいですね。
ゆかりさん。もっと今の若者でも分かるネタで例えてください。古いですよ。
何言ってんだジャリ。私はまだ25だ。
それはそうと、ずんだ虫出てきちゃいましたね。やはり浅く埋めすぎたようです。次回からはもっと深く埋めないとダメですね。
『お、おちびちゃん！？なにやってるのだ！？』
『お、おまえ、へコリンピックにでるっていってきえたヤツなのだ！おまえがむらのなかまをころしたのだ！？』
『え？おか、あちゃ……？』
『おさずん、さま……？どちて、ここに……？』
おっどうやらヒマリヤスミスクネーゾとタネチャンブッシャアも、埋まっているずんだ虫が身内だと気づいたようです！
ちなみにこれ、仮に全員戦意喪失したらどうなるんですか？
その時は私が全部食べます。簡単な話です。
『おい、ひまり休み少ねぇぞゴルァ。分かってるな？少しでも躊躇ったらアニャルヒリヒリみたいになるからね』
今完全に名前じゃなくて愚痴ってましたね。
『しょ、しょんな、こんなのきいてないちゃ……ぼくがゆうしょーしたら、しょーきんでもりをゆたかにしてくれるって……』
言われてみればそうですね。約束を反古にするってことですか？紲星さん。
え？誰がわざわざ野良ずんを厚遇するって言いました？賞金は猟ずんの故郷の森に植樹したり、天然記念物を保護する費用となります。まぁ森を豊かってそういう意味です。もちろん“害獣”駆除にも使われます。
うわぁ姑息。汚い。
『そうか……わかったのだ。ヘコリンピックとやらは、ぼくらずんだもんどうしのころしあいのことだったのだ……くしょにんげんの、てのひらのうえだったのだ……』
『やるしか、ねぇのだ……おちびちゃんやなかまには、しんでてんごくさんにいったあと、あやまるしかねぇのだ……』
どうやら2匹とも、我が身可愛さに仲間殺しを決意したようです！
『よし、ヒマリボーナススクネーゾ。行ってこい。思うがままに蹂躙しろ』
名前変わってますよ。
あ、たった今HandZ社長から直々に電話が入りました。ドリフターズンダの猟ずんの名前を次に口にしたら、HandZはスポンサーを降りるそうです。
雨晴はう氏にも連絡が行ったのか、1人だけハンバーグ切った時みたいな脂汗噴き出してますね。
『くちょ、しんじておくりだしてやったのに、うらぎりものが！！ぶっころしてやるのだ！！』
『ぼくらをころそーとするなんちぇ、ゆるちぇねー！おまえなんかおとうちゃじゃねーのりゃ！！』
『『う、うわあああああああああああ！！！』』
＊＊＊
いやぁすごい試合でしたね。ゆかりさん！
はい。個の武をとことん極めたずんだ虫の戦いを見せてもらいました。
『しにやがれなのだザコども！ゆーしゅーなぼくのまえにひざまずけなのだ！ぼくにころちゃれること、ありがたくおもえ、なのだ！』
『おとーちゃ、さいて、さいてーなのりゃぁぁぁ！！！』
張り付いてくるずんだ虫達を引き剥がし、開き直って罵倒しながら仲間を殺して回ったタネチャンブッシャア。彼が自分の子どもを掴んで、ジャイアントスイングで周囲のずんだ虫を吹き飛ばした様は実に素晴らしかったですね。
『あっ、あ……おちび、ぼくのすべちぇ……』
途中で掴んでいた両脚から上がちぎれ、顔がぐちゃぐちゃになって地面に落ちた我が子の死体を見たタネチャンブッシャアは、自殺するんじゃないかと思ったんですが、思いの外耐えましたね。
『あひゅひゅひゃ！！おちびちゃんママずんみてるのだ！！？パパずんのいきざま、とくとおめめさんにやきつけるがいーのだ！！』
『ぐあぎゃぁぁぁ！！いちゃいちゃいちゃいちゃ！！おにーちゃやめちゃぁぁぁぁぁ！！！いやああああああい、おとーちょをひいちゃったのだぁぁぁ！！！』ﾄﾞｶｯﾊﾞｷｯﾄﾞﾁｬｯﾊﾟｷｭｯ
目の前で妻子を殺されたオチビスラヘコルは、さらに仲間にも襲い掛かられたことでついに発狂。見つけた妹ずんをヘコりながら妹ずんごと騎馬の如く突撃。
そのまま畑を駆け回り、次々とずんだ虫を轢き殺して一時は1位を文字通り独走していましたが……。
『あひゃひゃひゃ！！たまんねーのだ！！すげぇ゛う゛』ﾊﾟｧﾝ
しかし、組織委員会から連絡が入り、発狂は試合放棄と同義と見做され、オチビスラヘコルは爆死による敗退となりました。
最有力優勝候補とは思えぬ恥に塗れた最期でした！ハハッ。
最後に残ったHandZの例のアレは、妙な感じでしたね。
『ころちぇーーッ！！はやくころちぇ！！やれぇーーッ！！』
殺せ殺せと喚きながら、それでいて仲間は殴り殺していましたね。どうもストレスで人格が分裂したようですが、これらは発狂とは看做されず、競技は続行となりました。
しかし、タネチャンブッシャアほどのフィジカルはなかったのか、大量のずんだ虫に囲まれると次第に劣勢となり、ついには袋叩きにされて死亡しました。
これにより、優勝はタネチャンブッシャアとなったのですが、その……。
『ガッ……ゴッコ……カ……』ﾁｰﾝ
まさかメダル授与式の時にメダルを丸呑みして自害するとは……。口では強がっても心は耐えきれなかったようですね。
しかし、タネチャンブッシャアが所属する米子市のエダマメ騎士団には優勝の景品として賞金1億円と、副賞にビッグ◯ーター御用達！ずんだ虫ごと溶かせる超強力除草剤100ℓが授与されます！
エダマメ騎士団は賞金で森を購入し、除草剤でずんだ虫を駆除したらキャンプ場を作って地域の小学生を無料で招待すると言っていましたね。大変立派だと思います。
さて、試合も終わりましたしゆかりさん。メシでもどうですか？生き残ったずんだ虫を使って、私が絶品のずんだ虫料理を作りますよ。
そ、それはまたの時に……。
乞食ずんと言いまして、生きたまま漬け汁に漬けたずんだ虫を蓮の葉っぱで包んで、泥で固めて地面に埋め、その上から火を焚いて蒸し焼きにするんです。最高の酒の肴になりますよ。
話変わってきたな。
＊＊＊
「う、ううう〜……」
夕暮れ時、後片付けも終わって人気もなくなった畑には、おびただしい数のずんだ虫の肉片が転がっていた。その惨状の中で、1匹のずんだ虫が起き上がった。
ヒマリヤスミスクネーゾだった。頭を殴られて失神したのを死んだと仲間に勘違いされ、トドメを刺されずに済んだようだ。
「なんて、おぞましーこうけーなのだ……」
夕日の朱に染まる畑はまるで血の海で、そこに散乱する死体の数々に起き上がったヒマリヤスミスクネーゾは息を呑んだ。
「か、ひゅ……」
すると、足元の子ずんが息を漏らした。頭が割れて両目が潰れている。
「そ、そこに、いるのは……あのうらぎりもの、なのりゃ？しょれ、とも……なかまなにょ、だ……？」
「なかまなのだ」
ヒマリヤスミスクネーゾは反射的にそう答えた。それを聞いて、子ずんは安心したように頭を垂れた。
「よ、かっちゃ……ト、トドメしゃん、ほちーのりゃ……」
「わかっちゃ……これがへコリンピック……むごい、むごいたたかいなのだ……」
ヒマリヤスミスクネーゾは石を掴むと、子ずんの頭に振り下ろした。
ﾊﾞｶｯ
甘い言葉でずんだ虫を誘い込み、競い合わせ、勝ったチームは賞金でずんだ虫の迫害を行う。
日本に300億匹いると言われるずんだ虫をずんだ虫の手で減らし、さらにそれを催し物にして国の税収にもする。へコリンピックはその試金石なのだ。
へコリンピック用に特別に作った畑です。農作物の類はなく、よく耕された柔らかい土が昨晩の雨を吸って芳しい匂いを放っています！
ここで行われる競技は『ねずみ獲り競争』
ヘコリンピックで今年から初めて導入された新競技ですね。
解説は私、紲星あかりと株式会社Z.N.D.より代表取締役社長である柚月ゆかりさんとやらせていただきます！ゆかりさん！よろしくお願いいたします！
よろしくお願いします。
このねずみ獲り競争は、ずんだ虫が本来持たない狩猟本能を鍛錬によって植え付けた、いわば猟犬ならぬ猟ずん達の力比べです。
厳しい予選を潜り抜け、各企業、団体が粋を極めた珠玉のずんだ虫の奮戦をこれから楽しみにしています。
ありがとうございます！お、早速選手のずんだ虫達が入場してきました！みんな、そこらへんの道端で私が拾い食いしているずんだ虫と違って、いかにも精強な顔付きですね！屈強な肉体で、覇気すら感じます！
道端のずんだ虫を……生で……？
まぁ、いいでしょう。選手の猟ずん達と所属団体を紹介します。
まず最初に入場してきたのが、鳥取県米子市に拠点を置く猟ずんチーム【エダマメ騎士団】のエース【タネチャンブッシャア】品性を疑う名前ですね。タネチャンブッシャアは普段は地域の保育園で警備業を任されており、期待が持てます。
『うおおおおお！！きんメダルさんしかみえねーのだっ！！！』
あれは刺身ですね。
ところでゆかりさん、タネチャンブッシャアと一緒にシャベルを持って歩いてる方は？
あれはハンドラーですね。優れた猟ずんには優れた調教師も必要不可欠。このねずみ獲り競争は、単なるずんだ虫のフィジカルだけでなく、そうした双方が築いた絆の結びつきも試されるのです。
なるほど奥深い。
さて、お次は今大会で予選を含めて最年少、生後3ヶ月とまさにニューカマー。ああいうのは岩塩だけで楽しみたいですね。
『ハンドラーさんに、もりのみんなのためにも、かならずかちゅ！！』
紲星さん。ニューカマーというのは期待の新入りという意味で、若者という意味ではありませんよ。そういうのはフレッシャーって言うんです。
黙れや。
えっ？
失礼。期待のフレッシャーの名前はアニャルヒリヒリ。所属は埼玉県越谷市の『フグリーズ』私もこの前、昔流行ったデスソースを久々に舐めたら、翌朝ケツの穴が製鉄所の溶鉱炉のような
あ、その話は真面目に吐きそうだからまたの時にお願いします。次に3匹目。ずんだ虫にとってのエルサレム、宮城県仙台市が誇る名門『伊達豆宗』から、オチビスラヘコル。
予選では2位のタネチャンブッシャアに大差をつけて勝利。圧巻の横綱相撲を見せつけました。今競技の最有力優勝候補です。
『ま、ザコはせいぜい、ぎんメダルさんあらそいがんばるんちゃ』
見るからにたくましい……。あれは唐揚げですね。いや、昆布締めもアリか……。
最後に唯一の企業陣営からの本戦出場。株式会社HandZ専属猟ずんチーム『ドリフターズンダ』のエース、ヒマリヤスミスクネーゾ。ハンドラーはHandZの執行役員である雨晴はう氏自らが行います。企業の意地を見せられるでしょうか。
『さっきごはんさんをたべたぼくは、ちからがみなぎってりゅのだ！！』
あれはパエリア。
紲星さん。さっきから選手を使った料理に思いを馳せるのはやめてください。というかコイツら名前が下品。1匹にいたっては社長への文句じゃないか。いくらずんだ虫でももっと尊厳ある名前付けてやれよ。
ゆかりさん。チームから期待を込めて与えられた名前を謗ることの方が、もっと尊厳を踏みにじる行為です。以後控えてください。
え？私が悪いんですか？私が悪者なんですか？
では、選手が揃いましたのでここで今一度ルールを説明させていただきます！
ルールはいたってシンプル！ハンドラーがスコップを掘り、地上に出てきたねずみを猟ずんが仕留め、その数を競います！
ネズミ1匹につき1ポイント。もちろん、他のハンドラーが掘り出したネズミを奪うのはOK！ただし猟ずん同士の闘いは厳禁！その場合は双方-5ポイントです！再起不能にしたら失格です！また、大きなねずみには特別ポイントが加算されます！
大事なのはねずみは必ず息の根を止めること、ハンドラーの指示には絶対に従うこと、ねずみ殺しを躊躇わないことです！
『くしょねずみに、なさけなんかかけるわけねーのだ！』
『のだ！はたけさんをあらすネズミなんか、たとえおちびがいたってブチころちゅ！』
『へんなルールさんなのだ！』
『ゆーしゅーなぼくたちをあまくみてるのだ！？いっぴきのこらずなでぎりさんにするのだ！』
各チームとても威勢がいいですね。士気は最高潮のようです。ゆかりさん、実は彼ら4匹は全員山林や街からスカウトした野良ずんなんですよ。
彼らはみな、優勝で得た賞金によって自分と仲間がいい暮らしを送れることだけを願い、今日まで鍛えてきたのです。
ほう？飼いずんではなく、野良ずんを……確かにバイタリティは野外で生きるずんだ虫の方がずっと上ですが……。
4匹が位置につきました。では、いよいよスタートです！ちなみに、この競技用の畑をわざわざ0から作ったせいで、ヘコリンピックの予算は9割方消えたそうです！！メダルはみんな折り紙です。
今すごいこと言った……。
さぁハンドラーがまず先に畑に入り、シャベルを土に突き立て、掘り返します。いなかったようです。もちろん掘れば必ずねずみがいるわけではありません。それにシャベルでねずみを殺してはいけないので、注意しないとですね！
ん？アニャルヒリヒリのハンドラーが笛を鳴らしましたね！ねずみがいたようです！一斉に4匹がそこに向かいます！あっ、出てきました！
『お、おひさましゃんまぶちっ！？』
『ひぃぃぃ！に、にげるのだあああああああ！！』
『まっちぇ、まっちぇ！おいてかにゃいで……』
『『『『えっ？』』』』
で、出てきたのはずんだ虫ですね……なぜ地中に……？しかし、ハンドラー達は固まっているずんだ虫を笛で呼びつけています。ねずみ狩りのはずでは？紲星さん、どういうことか分かりますか？
ん？あぁ〜そっか。ゆかりさんにはまだ本当の競技内容をご説明するのを忘れていましたね。ちょっとこれ、ねずみ獲り競争の看板なんですが、これね、ここ、字の隙間を虫眼鏡で見てみてください。
はぁ……？ん？なんか字の間にまた小さな字が……。
ね っこを食い荒らす畑の害獣
ず んだ虫を
み な殺し、ずんだ虫のタマ
獲
り
競
争
はい。
はいじゃないですが。
ねずみ獲り競争とは言いましたが、実際は畑に住みついたずんだ虫を駆除した数を競い合うのがこの競技です。ちなみにハンドラーはこのことを承知ですが、言わずもがな猟ずん達には伝えていません！
伝えていませんってあなた、そんな不義理かましたら猟ずん達も……ああほら、案の定ハンドラーと猟ずん達が揉めてるじゃないですか！
『ハンドラーしゃん！これはどういうことなのだ！？』
『ここにはくしょネズミしかいないはずじゃなかったのだ！？』
『なかまがいるなら、このたたかいはぬけさせてもらうちゃ！』
『それは競技を棄権するということか？』
『のだ！なかまをまきこむなんて、ゆるせねーのだ！ヘコリンピックのだいひょーしゃをよんでくるのブバァッ！？』ﾊﾟﾝｯ
『『『えっ？』』』
あ、アニャルヒリヒリの首が爆発しましたね。厳しく鍛えた猟ずんとはいえ所詮はずんだ虫。このように反抗してきた時は、うなじに埋めた発信機が爆発します。ハハッ。
笑う要素ありました？
アニャルヒクヒクに最上の敬意を。死を恐れずにずんだ虫のプライドを最期まで貫き通しました。
名前間違えるくらいなら最初から心にもないことは言わない方がいいですよ。何だアニャルヒクヒクって汚ねぇな。
『が、あがっ……きゅひゅ……』
『こうなりたくなければ、大人しく競技に参加することだ。お前らは野良ずんだろう？無様な姿を見せたら野生に返すことになるが、へコリンピックのために住む森を奪い取られ、巣を壊されたずんだ虫達は果たしてへコリンピックの選手だったお前らを受け入れるかな？』
『ここで頑張れば、さらに幸せなずん生を遅れるんだよ？』
『う……う、うう……』
『で、でもなかまをころちゅなんて……』
『さっさとやらないと、君達のずんぽを奪い取るよ』
『そ、そんにゃ』
お、タネチャンブッシャアが逃げるずんだ虫を追いかけ始めました。ヒマリヤスミスクネーゾがそれに続きます。
『にげるのだ！とにかくここにいたらダメなのだ！』
『おとうちゃ、おかあちゃ、ま、ま、まっちぇ……』
そして、親ずん2匹の後を、遅れてよちよち歩きで追う子ずんを……。
『う、うおおおあああああああああああ！！！』
『ひぴゃ』ﾍﾟｷｬ
蹴ったァァァァァッ！！
子ずんは空高く吹き飛び、あれではどこに着地しても死ぬでしょう！タネチャンブッシュアに先制点！ん、さらにさらに、巻き上げられた土と石と子ずんが、敷地外に逃げようと足掻く親ずん達を〜〜〜？
『あぎゃァァァァ！？』
『ぶばぁぁぁぁ！！』
容赦なく降り注ぐゥゥゥッ！！親ずんに直撃した子ずんはバラバラに砕け、石で身体を強く打った親ずんが畑に倒れました！！
『わあああああああああ！！！』ﾄﾞｶｯﾄﾞｶｯ
『ゆるちて！！ゆるちてなのだあああああああ！！』ﾎﾞｶｯﾒｷｯ
それを、追いついたタネチャンブッシャアとヒマリヤスミスクネーゾが馬乗りになってタコ殴りです！何という凶悪プレー！！誉ある猟ずんのやることとは思えません！！
『がっ！ぶべっ！しょ、んな……ぼく、なにもわるいこ、と……してないの、だ……』ﾁｰﾝ
『おちび、ちゃんだげっ！！で、も゛っ！！たすけちゃかぁっ！ちゃ……』ﾁｰﾝ
死んだァァァァァッ！！タネチャンブッシャアにさらに1点！ヒマリヤスミスクネーゾに1点！！同胞殺しに手を染めた2匹の熾烈な戦い！！オチビスラヘコルは追いつけるかァァァッ！！！WRYYYYYY！！！
紲星さんキャラ変わってますよ。DIOになってる。
おっとすいません。おしゃぶりおちびを吸って落ち着きます。
ｼｬﾌﾞﾗﾆｬｲﾃﾞ!ｽﾜﾆｬｲﾃﾞ!ﾁｭｩｩｩｩｲﾁｬｲｲﾁｬｲｲﾁｬｲ……
ふぅ……ねずみ獲り競争は元々、地中に住み、農作物の根を食い荒らす害獣ずんだ虫を、ずんだ虫の手で処分させるために生まれました。
仲間を殺せる屈強な肉体と、それに見合う精神力を養うため、あえて地中にいるずんだ虫がいることは伝えていません。もちろんドーピングなんかもしてません。完全シラフです。
まさかネズミ駆除に来たら仲間が埋まってるとは思わないでしょうね。ところで紲星さん。一つ聞いてもいいですか？
はい？
我が社は妖精駆除を専門にしてるので、駆除の事例は数多知っているのですが、その……畑に寄生し、農産物を食べず根っこだけ食べる風変わりな個体というのは聞いたことがないのですが……。
……。
これまさか、立派な猟ずんを養うというのは建前で、ただ仲間殺しを強要されるずんだ虫達を見たいというわけでは……ない、ですよね……？
……さぁ！ヒマリヤスミスクネーゾのハンドラーが笛を鳴らしました！再びずんだ虫を見つけたようです！
あ、やっぱりそうなんだ。ん？この畑ってヘコリンピックのために特別にこしらえた畑でしたよね？ならここにいるずんだ虫は……。
『くしょ……や、やるしかねぇのだ！しょせんはしらねーヤツらなのだ！ぼくらともりのなかまのため、のりこえなくちゃいけないのだ！』
おっ、オチビスラヘコルが動き出しました！ついに腹を決めたようです！目にも留まらぬ速さでハンドラーが掘った穴に向かいます！
『えっ』
しかし、穴を前にして固まってしまいましたね。今度は何があったんでしょう。やはり日和ましたか？
『マ、マママずん？そ、それにおちびちゃんも……』
『パパ、ずん……！？な、なんでこんなところにいるのだ！？』
あ、これも言い忘れてましたが、この畑に埋めたずんだ虫はみんな、選手4匹の故郷から引っ張ってきた野良ずん達です。
選手らには故郷と家族のために鍛え抜いた肉体で故郷の仲間と家族を血祭りにしてもらいます。
何ですこの競技？鬼畜の宴？わざわざこんなことしなくても、飼いずんじゃダメだったんですか？
飼いずんはちょっとスポンサーのFAIRIESの茜社長の勘気を被る可能性がありますので……。
そこはビビるんだ。
『パパずん！よ、よかったのだ！たすけてほしーのだ！ぼくたち、いつのまにかこんなところに、いきうめさんにされちぇ、おちびちゃんがきをうしなったまま、めをあけないのだ！』
どうやら窒息して子ずんは死んでいますね。ママずんがペロペロしてますが、目覚めそうにはありません。かわいそうに……。
今さら？
いや、私の胃袋の中でなら浄化されて天国さんに行けたのに……。
あっはい。
『そ、そんな、ママずんがなんで……まさか、ここにいるずんだもんはみんな……』
『うおおおおおお！！どけぇ！！ずんぽをうしなっちぇたまるかなのだ！！』
『な、なんなのだオメーら！はなすのだ！ああっダメッおちびちゃんなぐっちゃダメーッ！！あごっ！！』ﾊﾞｷｯ
オチビスラヘコルを突き飛ばし、タネチャンブッシャアが子ずんの死体を踏みつけ、殴って首をへし折りましたが、すでに事切れているのでポイントは入りません！反面、ヒマリヤスミスクネーゾはメスずんの頭を硬い赤土に叩きつけていますね。
『ぶごッ……がッ、ゲッ……パパ、ず……たす、たす……け……ぎゅえ』ﾁｰﾝ
ヒマリヤスミスクネーゾの容赦ない連撃で、メスずんの頭が割れました。これでタネチャンブッシャアと同点です！！
オチビスラヘコルは妻がリンチされ、我が子が引き裂かれているのを見ることしかできませんでした！！
『あ、あははおちびちゃんとママずん、ちんじゃっちゃ。いままでおちびちゃんとはなれてまで、トレーニングさんしてきたのはなんだったのだ？』
おっとオチビスラヘコルはどうも様子がおかしいですね。
どうやら試合はタネチャンブッシャアとヒマリヤスミスクネーゾの一騎打ちとなるようです！
ん？紲星さん。あちこちの畑からずんだ虫が。
『な、どこなのだここは……？』
『おなかしゃんがペコペコなのだ……』
『あ、あそこにずんだもんのしたいがあるのだ！」
あちこちからボコボコ這い出てきますね。マイケルジャクソンのスリラーのMVに出てくるゾンビみたいですね。
ゆかりさん。もっと今の若者でも分かるネタで例えてください。古いですよ。
何言ってんだジャリ。私はまだ25だ。
それはそうと、ずんだ虫出てきちゃいましたね。やはり浅く埋めすぎたようです。次回からはもっと深く埋めないとダメですね。
『お、おちびちゃん！？なにやってるのだ！？』
『お、おまえ、へコリンピックにでるっていってきえたヤツなのだ！おまえがむらのなかまをころしたのだ！？』
『え？おか、あちゃ……？』
『おさずん、さま……？どちて、ここに……？』
おっどうやらヒマリヤスミスクネーゾとタネチャンブッシャアも、埋まっているずんだ虫が身内だと気づいたようです！
ちなみにこれ、仮に全員戦意喪失したらどうなるんですか？
その時は私が全部食べます。簡単な話です。
『おい、ひまり休み少ねぇぞゴルァ。分かってるな？少しでも躊躇ったらアニャルヒリヒリみたいになるからね』
今完全に名前じゃなくて愚痴ってましたね。
『しょ、しょんな、こんなのきいてないちゃ……ぼくがゆうしょーしたら、しょーきんでもりをゆたかにしてくれるって……』
言われてみればそうですね。約束を反古にするってことですか？紲星さん。
え？誰がわざわざ野良ずんを厚遇するって言いました？賞金は猟ずんの故郷の森に植樹したり、天然記念物を保護する費用となります。まぁ森を豊かってそういう意味です。もちろん“害獣”駆除にも使われます。
うわぁ姑息。汚い。
『そうか……わかったのだ。ヘコリンピックとやらは、ぼくらずんだもんどうしのころしあいのことだったのだ……くしょにんげんの、てのひらのうえだったのだ……』
『やるしか、ねぇのだ……おちびちゃんやなかまには、しんでてんごくさんにいったあと、あやまるしかねぇのだ……』
どうやら2匹とも、我が身可愛さに仲間殺しを決意したようです！
『よし、ヒマリボーナススクネーゾ。行ってこい。思うがままに蹂躙しろ』
名前変わってますよ。
あ、たった今HandZ社長から直々に電話が入りました。ドリフターズンダの猟ずんの名前を次に口にしたら、HandZはスポンサーを降りるそうです。
雨晴はう氏にも連絡が行ったのか、1人だけハンバーグ切った時みたいな脂汗噴き出してますね。
『くちょ、しんじておくりだしてやったのに、うらぎりものが！！ぶっころしてやるのだ！！』
『ぼくらをころそーとするなんちぇ、ゆるちぇねー！おまえなんかおとうちゃじゃねーのりゃ！！』
『『う、うわあああああああああああ！！！』』
＊＊＊
いやぁすごい試合でしたね。ゆかりさん！
はい。個の武をとことん極めたずんだ虫の戦いを見せてもらいました。
『しにやがれなのだザコども！ゆーしゅーなぼくのまえにひざまずけなのだ！ぼくにころちゃれること、ありがたくおもえ、なのだ！』
『おとーちゃ、さいて、さいてーなのりゃぁぁぁ！！！』
張り付いてくるずんだ虫達を引き剥がし、開き直って罵倒しながら仲間を殺して回ったタネチャンブッシャア。彼が自分の子どもを掴んで、ジャイアントスイングで周囲のずんだ虫を吹き飛ばした様は実に素晴らしかったですね。
『あっ、あ……おちび、ぼくのすべちぇ……』
途中で掴んでいた両脚から上がちぎれ、顔がぐちゃぐちゃになって地面に落ちた我が子の死体を見たタネチャンブッシャアは、自殺するんじゃないかと思ったんですが、思いの外耐えましたね。
『あひゅひゅひゃ！！おちびちゃんママずんみてるのだ！！？パパずんのいきざま、とくとおめめさんにやきつけるがいーのだ！！』
『ぐあぎゃぁぁぁ！！いちゃいちゃいちゃいちゃ！！おにーちゃやめちゃぁぁぁぁぁ！！！いやああああああい、おとーちょをひいちゃったのだぁぁぁ！！！』ﾄﾞｶｯﾊﾞｷｯﾄﾞﾁｬｯﾊﾟｷｭｯ
目の前で妻子を殺されたオチビスラヘコルは、さらに仲間にも襲い掛かられたことでついに発狂。見つけた妹ずんをヘコりながら妹ずんごと騎馬の如く突撃。
そのまま畑を駆け回り、次々とずんだ虫を轢き殺して一時は1位を文字通り独走していましたが……。
『あひゃひゃひゃ！！たまんねーのだ！！すげぇ゛う゛』ﾊﾟｧﾝ
しかし、組織委員会から連絡が入り、発狂は試合放棄と同義と見做され、オチビスラヘコルは爆死による敗退となりました。
最有力優勝候補とは思えぬ恥に塗れた最期でした！ハハッ。
最後に残ったHandZの例のアレは、妙な感じでしたね。
『ころちぇーーッ！！はやくころちぇ！！やれぇーーッ！！』
殺せ殺せと喚きながら、それでいて仲間は殴り殺していましたね。どうもストレスで人格が分裂したようですが、これらは発狂とは看做されず、競技は続行となりました。
しかし、タネチャンブッシャアほどのフィジカルはなかったのか、大量のずんだ虫に囲まれると次第に劣勢となり、ついには袋叩きにされて死亡しました。
これにより、優勝はタネチャンブッシャアとなったのですが、その……。
『ガッ……ゴッコ……カ……』ﾁｰﾝ
まさかメダル授与式の時にメダルを丸呑みして自害するとは……。口では強がっても心は耐えきれなかったようですね。
しかし、タネチャンブッシャアが所属する米子市のエダマメ騎士団には優勝の景品として賞金1億円と、副賞にビッグ◯ーター御用達！ずんだ虫ごと溶かせる超強力除草剤100ℓが授与されます！
エダマメ騎士団は賞金で森を購入し、除草剤でずんだ虫を駆除したらキャンプ場を作って地域の小学生を無料で招待すると言っていましたね。大変立派だと思います。
さて、試合も終わりましたしゆかりさん。メシでもどうですか？生き残ったずんだ虫を使って、私が絶品のずんだ虫料理を作りますよ。
そ、それはまたの時に……。
乞食ずんと言いまして、生きたまま漬け汁に漬けたずんだ虫を蓮の葉っぱで包んで、泥で固めて地面に埋め、その上から火を焚いて蒸し焼きにするんです。最高の酒の肴になりますよ。
話変わってきたな。
＊＊＊
「う、ううう〜……」
夕暮れ時、後片付けも終わって人気もなくなった畑には、おびただしい数のずんだ虫の肉片が転がっていた。その惨状の中で、1匹のずんだ虫が起き上がった。
ヒマリヤスミスクネーゾだった。頭を殴られて失神したのを死んだと仲間に勘違いされ、トドメを刺されずに済んだようだ。
「なんて、おぞましーこうけーなのだ……」
夕日の朱に染まる畑はまるで血の海で、そこに散乱する死体の数々に起き上がったヒマリヤスミスクネーゾは息を呑んだ。
「か、ひゅ……」
すると、足元の子ずんが息を漏らした。頭が割れて両目が潰れている。
「そ、そこに、いるのは……あのうらぎりもの、なのりゃ？しょれ、とも……なかまなにょ、だ……？」
「なかまなのだ」
ヒマリヤスミスクネーゾは反射的にそう答えた。それを聞いて、子ずんは安心したように頭を垂れた。
「よ、かっちゃ……ト、トドメしゃん、ほちーのりゃ……」
「わかっちゃ……これがへコリンピック……むごい、むごいたたかいなのだ……」
ヒマリヤスミスクネーゾは石を掴むと、子ずんの頭に振り下ろした。
ﾊﾞｶｯ
甘い言葉でずんだ虫を誘い込み、競い合わせ、勝ったチームは賞金でずんだ虫の迫害を行う。
日本に300億匹いると言われるずんだ虫をずんだ虫の手で減らし、さらにそれを催し物にして国の税収にもする。へコリンピックはその試金石なのだ。
このページへのコメント
最近ずん世紀が主流だったので、久々のずんだ産業の企業が真面目(?)に機能していたらテイストにおけるへコリンピックずん虐、とても面白いです。
ずん虐性はかなり高いのですが、それ以上に紲星あかりの毒と食欲を混ぜた独特な解説や、雨晴はうの日頃のオーバーワークによるストレスが爆発し、文字通りの爆弾発言のインパクトが凄かったです。
そして、この競技のスポンサーでずんだ愛護主義者（？）のFAIRIESの茜社長がまさかの野良ずんOK、飼いずんNGのルールで開催したことから次のような事を考えて実行したんだろうなと思いました。
飼いずん→鬼威さん達を減少させて愛好者を増やす→増やした分だけ関連グッズが売れて利益向上
野良ずん→あちこちで問題を起こして鬼威さんを増加→ずんだもんが売れない→グッズ等の在庫を抱え利益減少
そして、優勝したエダマメ騎士団が賞金で森を購入してますが、そもそもこの競技の為に東京ドーム約10個分以上の面積の森を伐採していることが一番の皮肉ですね。
とても楽しかっです。
ずん世紀の続き、楽しみに待っています。
睡蓮氏には珍しいギャグテイストの作品、楽しませて頂きました。
愛情の欠片も無いネーミングは、ずんだ虫が受け容れているのか、ずんだ虫の居ない所で勝手に人間がそう呼んで楽しんでいるのか…。
いずれにせよ、競走ずんのような名前を付けられて、人間の娯楽として同族殺しをさせられるずんだ虫が、儚く可哀想でとても良かったです。
最後２行でへコリンピックの解釈に触れることができたのも、今回の投稿祭で楽しみにしていた部分だったので、個人的に良かったです。
そもそもねずみに勝てるのか？
生きても地獄､死んでも地獄これぞ､へこりんピックの真髄！阿鼻叫喚の地獄絵図に自分のずん虐心も満たされましたので睡蓮さんには金メダルを贈呈したい気分です🥇
毒気を帯びた解説がクセになります！欲望渦巻く利権とカネのニオイが画面越しに届くようでした！
人間が畑の土をひっくり返して、慌てて飛び出すネズミを犬が捕まえていく動画……あのネズミのちょこまかした動きが子ずんとオーバーラップしました！
結局、全ては人間に仕組まれていたということを察した妖精たちの心情の変化が心地よかったです！