今回はK-1においてどのような蹴りが有効になるか考えてみました。



まずは従来式の蹴りと、新たなスタンダートになりうると考えている蹴り(以降、ギタ式)について説明します。

従来式の蹴りは、現在ほとんどの選手が使っているもので説明不要かもしれませんが、特徴的な動作としてはピーター・アーツのようにフォロースルーをしっかり加えることで、貫通的なダメージを与えます。
腰や上体を大きくうねらせ、軸足を返すことで蹴りの可動域を大きくし、相手にヒットしてからも体をさらに返してフォロースルーを加えます。

対してギタ式の蹴りは、体のブレーキ作用を上手く駆使することで、先端部である足先に運動量を集約させます。
ブレーキ作用によって足先が勝手に走り出すために、フォロースルーを加えることができません。
ピッチングの時に自ら腕を振らなくとも、骨盤から始まる一連の回転動作がなされることで腕が勝手に振られるようなイメージです。
ダニエル・ギタがこの方式での蹴りを最も有効活用しているので、「ギタ式」と勝手に呼んでいます。

続いて、それぞれの長所・短所を挙げてみます。

・従来式
◯慣性が大きい部位へのダメージを与えやすい(外側のモモなど)
◯フォロースルーにより、相手を押しこむストッピング効果が高い
×骨盤や上体の返し動作を意図的に起こさなければならないので、モーションが大きくなりやすい
×上と同じ理由でスタミナを消費しやすい
×軸足を返すときにブレーキ作用が働きにくく、足先が走りにくい

・ギタ式
◯慣性が小さい部位へのダメージを与えやすい(内側のモモなど)
◯ブレーキ作用さえ作れば足先が勝手に飛び出すので、モーションが小さい
◯上と同じ理由でスタミナを消費しにくい
◯上と同じ理由で足先のスピードが速い
×慣性が大きい部位へダメージを与えにくい
×フォロースルーがないため、ストッピング効果が薄い

そして、なぜK-1においてギタ式が有効だと考えられるのか。
それはハイテンポな攻防の中でもパンチと蹴りを共存させられることが最たる理由です。

K-1ではキックボクシングと違い、首相撲・肘・クリンチが一律に禁止されています。そして3分3R制と試合時間が短いことや、ジャッジがパンチやアグレッシブを優位に判断することも影響しているでしょう。
(*しかし最近の採点方式は従来とは異なり、主導権がどちらにあるかという「リングジェネラルシップ」が重視されているような動きもあります)

これらのルールが、キックボクシングと比較すると格段なパンチャー・インファイター・フィジカル・ボクシング技術優位の傾向を作っています。
K-1ファイターはキックボクサーと比べると蹴りの頻度が極度に少ないですが、そのような傾向はルール上当然のことです。

いよいよ昨年には首相撲が完全に撤廃されたことから、さらなるパンチャー・インファイター・フィジカル・ボクシング技術優位の傾向が加速すると予想されます。
その潮流にあって、挙動が大きくハイテンポな攻防を妨げる要因になる従来式の蹴りは、もはや見直されるべきではないでしょうか。

昨年のGP決勝大会でのダニエル・ギタVSグーカン・サキはどちらも「ギタ式」の使い手ですが、蹴りが主体の攻防であったにも関わらずキックボクシングらしさは感じず、あくまでK-1らしく、そしてK-1の世界観の中でも最も賞賛されるべき試合の一つでした。
早いテンポの攻防が要求させるであろう今後のK-1シーンにおいて、その先駆的な蹴りの攻防であったように思えます。

恐らくこれからも、(三日月蹴りなど一部を除いて)より蹴りが軽視される時代になるでしょう。
しかし、たとえ蹴りがフィニッシュに繋がらないとしても、蹴りの脅威があるだけでボクシングのように大きなウィービングやダッキングが許されることはありません。
蹴りの脅威が動きの制約を生み出し、何気ないパンチがKOシーンへと繋がることもあります。

むしろ蹴りが軽視されるからこそ、正しく蹴りを使えない者が淘汰されることになるかもしれません。
その中で、私はギタ式の"ブレーキ作用を使った蹴り"がK-1スタイルに適応したものとして、新たなスタンダートになりうるのではないかと考えています。



一応補足しておきますが、ファイトスタイルによっては従来式の蹴りが優れている場合もあります。
例えば日菜太のように相手を完封することでジャッジを優位に付ける場合、ストッピング効果が薄い「ギタ式」では相手の圧力を封じられなくなってしまうので、このようなファイトスタイルには従来式のフォロースルーを加えた蹴りが有効でしょう。

しかし一般的なK-1スタイルを勘案すれば、ギタ式の方が有効になる選手の方が遥かに多数派であるように思えるので、こちらがスタンダートになるのではないか、と提案させていただきました。

なおギタ式の具体的な蹴り方については、未だ勉強中なので後日詳しく説明できればと思っています。

このページへのコメント

>ゆずマシュマロさん

まあ正直、僕は見て研究するのが好きなだけで、決して先見の妙があったりするわけではないので、実際にどうなのかはかなり怪しいです。
ただギタやサキの蹴りは、理屈より何より「K-1らしさ」にフィットしている印象を受けるので、有用性は高いように感じます。

ゆずマシュマロさんが仰るようにギタ式ローを交えることでスタイルの汎用性が高くなり、色々とカスタマイズすることで相乗効果が見込めますね。

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Posted by ruslan 2011年01月18日(火) 01:10:03 返信

すごく分かりやすい整理ですね。インファイトに傾きがちな高速交差戦の中で使える蹴りとは、押し込んでる場合じゃないという感じでしょうか。

距離のある状況から、ローからパンチに繋ぐコンビネーションを使う選手って少ないと思うんですが、サキとか時々使ってた気もします。後はローのダブルで一発目はギタ式、二発目はフォロースルー取って打つとか、ギタ式ロー始動のコンビネーションを色々妄想しちゃいますね。

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Posted by ゆずマシュマロ 2011年01月17日(月) 23:32:17 返信

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