作成者:ruslan
参考資料:「力学でひもとく格闘技」
どのように蹴ればよいのかと自分の中で試行錯誤していますが、徐々に理論的に理解できるようになってきたので暫定版として文字に起こしてみることにしました。
指導の一般原則で、蹴りを放つ際の踏み込みは「斜め外側」と言われます。
しかしこれは間違いであると考えています。
その理由として
・踏み込み側の腰がブレーキとして機能しない
・インパクトポイントとヒットポイントが一致しない
ことが挙げられます。
例えば右ミドルを想定します。
一般原則に則ると、左足を左斜め前方方向へ踏み出しながら、右半身を左方向へ回し、体の回転に任せて足を放り出します。
しかしこれでは人体構造の特性を生かせず、単に体全体でぶつけるだけの蹴りになってしまいます。
(人体は関節を通して、遠位から近位へと運動を伝えられます。この特性により、一つの部位を用いた時の何倍もの力を生み出すことができます。)
例として野球のピッチング(右投げ)を想定してみてください。
左足を踏み出し、右半身を回転させながら、回転に沿って腕が放り出されます。
この時、左足はどのようになっているでしょうか。決して外側方向へ向いていないはずです。
(参考画像→涌井投手のピッチング画像)
もしもピッチングにおいて左足を外側に踏み出していると、右半身の回転に左半身が耐え切れず、骨盤の回転から始まる一連の運動連鎖がふいになってしまい、手投げ状態になってしまいます。
左足が右半身の回転に抗う「ブレーキ」として機能することで、一連の運動を末端部の腕・手に伝えることができるのです。
右ミドルを蹴るときに左足を外側に踏み出すということは、ピッチングにおいて左足を外側に踏み出していることと同じことなのです。
ここでも右ミドルを想定します。
左足を外側でなく、内側へ踏み込むと、左の下半身に右向きの力が働きます。
それと同時に右半身を左方向へ回転させると、左半身の右向きの力が、右半身の回転に対する「ブレーキ」として機能するのです。
左半身の右方向へのブレーキ、右半身の左方向への回転。
この二つの要素が合わさることで、自動的に「体のうねり」が生み出されます。
よく蹴りを放った際に、全身が一本の棒のようになるよう上半身を入れろ、というような指導がなされますが、それは誤りです。
「全身が一本の棒のようになる」ということは、うねり動作を適切に用いたときに現れる外観であり、それが本質ではないからです。
仮にそのような外観を強引に作ったとしても運動連鎖は起こらず、上半身を強引に力ませることになるため、いたずらに体力を消耗してしまいます。
この「うねり」が発生することにより、上半身や下半身の筋肉(遠位)の力を蹴り足(近位)に伝えることができ、自然と蹴り足の運動量が増幅されます。
<まとめ>
内側に踏み込む
↓
踏み込み側にブレーキがかかる準備がなされる
↓
それとは反対側の半身と回転とぶつけり、ブレーキがかかる
↓
「うねり」が生まれる
↓
運動の連鎖が起こり、蹴り足の運動量が増幅される
もしも爪先を内側へ向けてしまうと、膝に大きな負担がかかり、膝の重大な怪我につながります。
かといって、爪先が外側へ向きすぎてしまうとブレーキとして機能しなくなってしまうので、各自でブレーキがかかりやすい向きを模索してみて下さい。
これは外側へ踏み込んだ時のデメリットとして、上に挙げたものです。
仮に外側へ踏み込んだまま体全体でぶつける蹴りを放ったとしても、うねり動作を用いた時と比べて、さほど遜色が無い威力でミットやサンドバックを蹴ることができます。
しかし、実践で相手を的確にストッピングするような蹴りを放つのは至難です。
なぜなら最も威力がでるインパクトポイントと、実際に当たるヒットポイントに大きなズレがあるからです。
それとミットやサンドバックと何の関係があるの?という疑問が持たれるかもしれませんので、その説明も兼ねていきます。
「ミットやサンドバック」と実践の大きな違いの一つとして、自分で好きなように蹴れるかどうか、ということが言えます。
例えば右ミドルを蹴る時に、相手のヒットポイントは相手の左脇腹(および左腕)となります。
自分の右足と相手の左脇腹は、実践ではほぼ同一の縦軸に位置していますが、その位置取りにおいて体全体でぶつける蹴りを放った際に、「最も威力が出るポイント」と「実際に当たるポイント」は果たして同じでしょうか。
多くの場合、大きなズレが生じます。
右半身による左方向の回転にブレーキがかからず、そのまま体全体でぶつける場合、インパクトポイントがヒットポイントの遥か左側へ位置しているからです。
しかしサンドバックやミットならば、その立ち位置を自分で調整することができるので、無意識に自分の蹴りやすい位置取りがなされ、一見力強い蹴りを放つことができます。
また「サンドバックでは外側に踏み込めるけど、ミットでは外側に踏み込めない」というケースも見かけます。
それはミットの厚みによって、サンドバックの時よりもヒットポイントがより内側に位置しているので、外側へ踏み込むと窮屈に感じてしまうからだと考えられます。
このように外側へ踏み込むことで、インパクトポイントとヒットポイントが一致せず、実践では思うように蹴れないというケースが頻発してしまいます。
では、先ほど挙げた「うねり動作」を使った場合はどうでしょうか。
(右ミドルを想定して)左半身のブレーキが働くと、右半身の左方向の回転に抗ってくれます。(これを"壁"と表現します)
壁があることで、軌道が自動的に弧を描くようになり、蹴り足が伸びきるポイント(インパクトポイント)とヒットポイントがほぼ一致します。
以上のことから「内側へ踏み込む」ことで、効率の良い蹴り方であると同時に、効率の良い当て方を可能にしてくれるため、外側踏み込みではなく、内側踏み込みをするべきではないかと考えています。
ちなみにヨードセングライ・フェアテックス 、日菜太、久保優太、グーカン・サキ、アーネスト・ホースト、ダニエル・ギタなど蹴りを得意とする選手ほど、内側踏み込みをする傾向が顕著に現れています。
未だ試行錯誤過程なので、何か意見・批判等あれば気軽にコメントして頂けると幸いです。
参考資料:「力学でひもとく格闘技」
どのように蹴ればよいのかと自分の中で試行錯誤していますが、徐々に理論的に理解できるようになってきたので暫定版として文字に起こしてみることにしました。
指導の一般原則で、蹴りを放つ際の踏み込みは「斜め外側」と言われます。
しかしこれは間違いであると考えています。
その理由として
・踏み込み側の腰がブレーキとして機能しない
・インパクトポイントとヒットポイントが一致しない
ことが挙げられます。
例えば右ミドルを想定します。
一般原則に則ると、左足を左斜め前方方向へ踏み出しながら、右半身を左方向へ回し、体の回転に任せて足を放り出します。
しかしこれでは人体構造の特性を生かせず、単に体全体でぶつけるだけの蹴りになってしまいます。
(人体は関節を通して、遠位から近位へと運動を伝えられます。この特性により、一つの部位を用いた時の何倍もの力を生み出すことができます。)
例として野球のピッチング(右投げ)を想定してみてください。
左足を踏み出し、右半身を回転させながら、回転に沿って腕が放り出されます。
この時、左足はどのようになっているでしょうか。決して外側方向へ向いていないはずです。
(参考画像→涌井投手のピッチング画像)
もしもピッチングにおいて左足を外側に踏み出していると、右半身の回転に左半身が耐え切れず、骨盤の回転から始まる一連の運動連鎖がふいになってしまい、手投げ状態になってしまいます。
左足が右半身の回転に抗う「ブレーキ」として機能することで、一連の運動を末端部の腕・手に伝えることができるのです。
右ミドルを蹴るときに左足を外側に踏み出すということは、ピッチングにおいて左足を外側に踏み出していることと同じことなのです。
ここでも右ミドルを想定します。
左足を外側でなく、内側へ踏み込むと、左の下半身に右向きの力が働きます。
それと同時に右半身を左方向へ回転させると、左半身の右向きの力が、右半身の回転に対する「ブレーキ」として機能するのです。
左半身の右方向へのブレーキ、右半身の左方向への回転。
この二つの要素が合わさることで、自動的に「体のうねり」が生み出されます。
よく蹴りを放った際に、全身が一本の棒のようになるよう上半身を入れろ、というような指導がなされますが、それは誤りです。
「全身が一本の棒のようになる」ということは、うねり動作を適切に用いたときに現れる外観であり、それが本質ではないからです。
仮にそのような外観を強引に作ったとしても運動連鎖は起こらず、上半身を強引に力ませることになるため、いたずらに体力を消耗してしまいます。
この「うねり」が発生することにより、上半身や下半身の筋肉(遠位)の力を蹴り足(近位)に伝えることができ、自然と蹴り足の運動量が増幅されます。
<まとめ>
内側に踏み込む
↓
踏み込み側にブレーキがかかる準備がなされる
↓
それとは反対側の半身と回転とぶつけり、ブレーキがかかる
↓
「うねり」が生まれる
↓
運動の連鎖が起こり、蹴り足の運動量が増幅される
もしも爪先を内側へ向けてしまうと、膝に大きな負担がかかり、膝の重大な怪我につながります。
かといって、爪先が外側へ向きすぎてしまうとブレーキとして機能しなくなってしまうので、各自でブレーキがかかりやすい向きを模索してみて下さい。
これは外側へ踏み込んだ時のデメリットとして、上に挙げたものです。
仮に外側へ踏み込んだまま体全体でぶつける蹴りを放ったとしても、うねり動作を用いた時と比べて、さほど遜色が無い威力でミットやサンドバックを蹴ることができます。
しかし、実践で相手を的確にストッピングするような蹴りを放つのは至難です。
なぜなら最も威力がでるインパクトポイントと、実際に当たるヒットポイントに大きなズレがあるからです。
それとミットやサンドバックと何の関係があるの?という疑問が持たれるかもしれませんので、その説明も兼ねていきます。
「ミットやサンドバック」と実践の大きな違いの一つとして、自分で好きなように蹴れるかどうか、ということが言えます。
例えば右ミドルを蹴る時に、相手のヒットポイントは相手の左脇腹(および左腕)となります。
自分の右足と相手の左脇腹は、実践ではほぼ同一の縦軸に位置していますが、その位置取りにおいて体全体でぶつける蹴りを放った際に、「最も威力が出るポイント」と「実際に当たるポイント」は果たして同じでしょうか。
多くの場合、大きなズレが生じます。
右半身による左方向の回転にブレーキがかからず、そのまま体全体でぶつける場合、インパクトポイントがヒットポイントの遥か左側へ位置しているからです。
しかしサンドバックやミットならば、その立ち位置を自分で調整することができるので、無意識に自分の蹴りやすい位置取りがなされ、一見力強い蹴りを放つことができます。
また「サンドバックでは外側に踏み込めるけど、ミットでは外側に踏み込めない」というケースも見かけます。
それはミットの厚みによって、サンドバックの時よりもヒットポイントがより内側に位置しているので、外側へ踏み込むと窮屈に感じてしまうからだと考えられます。
このように外側へ踏み込むことで、インパクトポイントとヒットポイントが一致せず、実践では思うように蹴れないというケースが頻発してしまいます。
では、先ほど挙げた「うねり動作」を使った場合はどうでしょうか。
(右ミドルを想定して)左半身のブレーキが働くと、右半身の左方向の回転に抗ってくれます。(これを"壁"と表現します)
壁があることで、軌道が自動的に弧を描くようになり、蹴り足が伸びきるポイント(インパクトポイント)とヒットポイントがほぼ一致します。
以上のことから「内側へ踏み込む」ことで、効率の良い蹴り方であると同時に、効率の良い当て方を可能にしてくれるため、外側踏み込みではなく、内側踏み込みをするべきではないかと考えています。
ちなみにヨードセングライ・フェアテックス 、日菜太、久保優太、グーカン・サキ、アーネスト・ホースト、ダニエル・ギタなど蹴りを得意とする選手ほど、内側踏み込みをする傾向が顕著に現れています。
未だ試行錯誤過程なので、何か意見・批判等あれば気軽にコメントして頂けると幸いです。
このページへのコメント
>説得力大です。
この言葉には凄く安心させられました。
僕のようなレベルの低い競技者が「セオリーは間違っている」書くのは凄く勇気がいることなので、いつもビクビクしながら書いてます(笑)
動作研究と言っても、外を歩きながらだったり、自転車に乗りながら体使いのヒントを模索しつつ、ヒントが見つかったら実際に動画を見て理論につなげています。
本格的に意識してまだ数ヶ月程度なので、まだまだ拙いモノですが、これからもよろしくお願いします。
>踏み込みとは別の話になりますが、バダハリや京太郎は上体を後傾させてミドルを蹴ります。
上体と腰の動きは連関していて(詳しくは「力学でひもとく格闘技」に載っています)、上体を後ろのめりにすることで、腰を前方で押し出す働きがあります。
(膝蹴りや前蹴りはこれを利用して蹴ります)
メリットとしては相手を直線方向にストッピングすること、蹴りの間合いを広げることが考えられます。
しかし後傾することは、うねり動作を阻害することになるので単純な運動量で劣りますし、足の甲の先端で蹴ってしまう恐れが強く、指先の怪我などが増えそうな気がします。
>修行僧さん
>強いてデメリットを挙げるならば、体が相手の正面に残る点でしょうか。
確かに体が正面に残りやすくなりますが、うねり動作によって上体が相手の外側に反れてくれるので、真正面に顔面が残るということはないと思います。
とはいえ、セオリー通りの蹴りと比べるとカウンターを被弾するリスクは高くなるでしょうね。
(しかし、しっかりと蹴り込むことで結果的にリスクヘッジになるので、一概に断定することはできませんが…)
説得力大です。強いてデメリットを挙げるならば、体が相手の正面に残る点でしょうか。
ジマーマンはセオリー通りのミドルを蹴りますね。あれはあれで重そうですが。
踏み込みとは別の話になりますが、バダハリや京太郎は上体を後傾させてミドルを蹴ります。これもジムで一般的に教わるセオリーとは真逆ですが、結構な威力があるように見えます。バスケットのフェードアウェイシュートのように、カウンターの被弾を回避する効果もありそうですが、これについてはどう思われますか?