アイドルとして、歌へ真摯に向き合おうとする肇。
だが、形のない歌の表現は容易なことではなかった。
そんな肇を、Pは陶芸体験へと誘う。土に触れ、
Pと話すことで、自身を見つめ直していった肇。
自身はまだ、あらかねの器。未完成でも自分らしく、
心のまま歌っていこうと肇は決意するのだった。
だが、形のない歌の表現は容易なことではなかった。
そんな肇を、Pは陶芸体験へと誘う。土に触れ、
Pと話すことで、自身を見つめ直していった肇。
自身はまだ、あらかねの器。未完成でも自分らしく、
心のまま歌っていこうと肇は決意するのだった。
肇がアイドルになる前 | |
過去の肇 | その日まで……私は。 夜行バスに乗ることはもちろん、 ひとりで故郷の岡山から離れることも、ありませんでした。 |
過去の肇 | 手荷物は、ほんの少しの着替えと…… アイドル選抜オーディションの申し込み用紙。 そして……。 |
過去の肇 | 木箱に入った、手製の器。 作った私自身のように……小さくて、地味な器……。 |
肇 | う、うぅん……。 |
こずえ | んー……? はじめ、おひるねー? |
こずえ | じゃあー、こずえもー。 |
夢の中 | |
夢の中の肇 | ……地味で、つまらない器しか作れない自分を変えるため。 私は、知る限りで、一番華やかな場所を目指して…… アイドルのオーディションを受けることにしました。でも……。 |
夢の中の肇 | ……こ、ここが……新人アイドルの、オーディション会場……? |
夢の中のこずえ | いらっしゃーい。 しんさはねー、おさかなつりだよー。 |
夢の中の肇 | えっ? ええぇっ……! ? |
肇 | わかり……ました……。 12番、藤原肇……大物、釣ります……♪ |
こずえ | がん……ばれー。 ……はじめー……。 |
美穂 | お疲れさまでーすっ……あれ? 肇ちゃん、こずえちゃん? 寝ちゃってる……? |
夢の中のこずえ | ふぁ…… つぎはねー、 あつさがまんたいけつ、だよー♪ |
夢の中の肇 | くぅ……あ、暑い……! でもこのくらい……窯の熱さを思えば! |
夢の中の美穂 | 私も、負けません! 火の国の女ですからぁ〜っ! |
選択肢 | (赤)お疲れさま |
P | ……? |
美穂・肇 | う、ぅぅん……。 ふぅ、ふぅ……。 |
こずえ | すやーすやー……。 |
肇とこずえと美穂が、固まって寝ている。 少し暑そうだ…… | |
肇 | うーん…… ……あ、あれ……? プロデューサーさん……? |
こずえ | ふわぁー……、 ……おはよぉー……♪ |
美穂 | ……? あっ……! 私、寝ちゃってました……! ? |
選択肢 | (赤)それはもう、 ぐっすりと |
美穂 | はぅ…… 自主レッスンをしようと思って来たんですけど。 ふたりとも、気持ちよさそうだったから……つい……。 |
こずえ | おひるね、きもちよかったー。 |
肇 | 元はと言えば…… 私がうっかり、居眠りしてしまったせいですね。 すみません。 |
美穂 | ううん、居眠りなら私もよくしちゃうし。 肇ちゃん、新曲のためにレッスンたくさんしてるもんね! えっと……『あらかねの器』っていう曲名だっけ。 |
こずえ | あらかねー? |
肇 | 地面から掘り出したばかりの鉱石とか、金属とか、 まだ練っていない土を指す言葉なんですよ。こずえちゃん。 私も、曲をいただいてすぐに調べました。 |
こずえ | へえー。 |
美穂 | ふふっ。 さすが肇ちゃん、熱心だね♪ |
肇 | ありがとうございます。 ……でも、肝心の中身のほうは、 まだ思うように歌いこなせなくて。 |
美穂 | そうなんだ…… 難しい曲なのかな。 |
肇 | 確かに、難しくはあるんですが……それはつまり、 私が至らないということでもあるんですよね。 アイドルになる前に比べれば、上達はしていると思うんですが。 |
こずえ | はじめー、まじめー。 |
選択肢 | (赤)肇なら、大丈夫 |
肇 | ふふ。ありがとうございます。 任せてください、必ず形にしてみせます。 プロデューサーさんが、くれた歌ですから……。 |
選択肢 | (青)なにか、 できることはある? |
肇 | ふふ。ありがとうございます。でも、大丈夫ですよ。 私なりに……もっと、向かい合いたいんです。 プロデューサーさんからもらった、この歌に……。 |
(分岐終了) | |
帰り道 | |
肇 | (……とは、言ったものの……。 まだ、私には……完成形が、見えそうにありません。) |
肇 | (私という器は、果たして…… この歌を受け止めるに、足りているのでしょうか……?) |
数日後 | |
巴 | なるほどなぁ。 苦戦してるようじゃのう、肇よ。 |
肇 | ……はい。 悩んでいるうちに、 『歌とは何か』って、考えるようになって。 |
巴 | じゃからこうして、うちをたずねて来たわけか。 確かに、うちはちっさい時分から歌を習い覚えとるけぇな。 |
肇 | 私は……きちんと歌を習ったのは、事務所に来てからで。 だから、もしよければ聞かせてほしいです。 巴ちゃんにとって、歌とはなんでしょう……? |
巴 | うちがわかるのは、演歌じゃ。 肇の求めてる答えかどうかはしらん。 |
巴 | じゃが、演歌っちゅうんは魂じゃ。 うちはそう思っちょる。 アイドルとしてうちらが歌う歌も、そこは同じじゃろ。 |
肇 | ……魂。 |
涼 | よっ、ふたりとも。 これからレッスンかい? |
巴 | おう、涼の姉御! ちょうどええところに来たな。 姉御もそう思うじゃろ? |
涼 | んん? なんの話? |
涼 | 歌とは何か、か……。 難しいコト考えるんだなぁ、肇って。 |
肇 | そうでしょうか? 難しいというよりは……少しだけ、頭が固いみたいなんですよね。 |
巴 | ったく、しょうがないのぉ。 涼の姉御、ハッキリ言ったれ。 |
涼 | うーん。 歌……歌ね……。 ……巴みたく、スパッと言い切るのは難しいかな。 |
巴 | なんじゃ? らしくないのう。 |
涼 | アタシはさ、物心ついた頃から歌うのが好きで。 バンドのボーカルやって、いろいろあってアイドルになって…… 今もまだ、歌い続けてて。 |
涼 | 歌ってもんが、アタシ自身になってるからな。 自分自身をハッキリ言い表すのって、難しいだろ? |
肇 | ……たしかに、そうですね。 私も……何かを突き詰めて、追い求める最中は、 それを言葉で表せなかったりしてしまいます。……でも…… |
肇 | 自分自身……。 それに、魂……。 |
肇 | ……ありがとうございます、おふたりとも。 まだ、はっきりと見えたわけではありませんが…… 手掛かりをもらった気がします。 |
涼 | そっか? なら、いいんだけど。 |
巴 | にしても肇よ。ワレも変わったな。 |
肇 | えっ? |
巴 | 前はもっと、悩んどるときはズーンと落ち込む感じで、 大丈夫なんかと思ったもんじゃが。 今は悩んでても、どこか楽しそうじゃ。 |
肇 | そ、そうでしょうか? 私としては、いつも通り…… 真剣に、丁寧に向き合おうとしているだけなんですが。 |
涼 | ……肇はさ。 歌うのって好きかい? |
肇 | ええと……。 ……嫌いでは、ないと思います。 |
涼 | なら、いいんじゃないか? 真剣なことと、楽しいことは両立するさ。 むしろ、良い傾向じゃないかと思うけどな。 |
巴 | そうじゃのう。それに……さっきうちは、 歌は魂じゃと答えたが。その魂っちゅうんがなんなのか、 言葉にしにくいのは、うちもそうじゃ。 |
巴 | じゃがの。 実際に歌を通じてなら、いくらでも答えちゃる。 ちょうどレッスン室も空いとるしの。どうじゃ? |
涼 | えーっと…… 今からボーカルレッスンしよう、ってことかい? |
肇 | ふふ。 それならもちろん、喜んで。 涼さんも、いかがですか? |
涼 | そんな誘い方されちまったら、断れないね。 聴かせてやるよ、ロックのソウルってやつをさ! |
帰り道 | |
肇 | (魂……。それは目に見えるものではありません。 でも、手で触れられる陶芸であれば……少しくらいは、 表現できるようになったかもしれないと思っています。) |
肇 | (ですが歌は、手で触れることさえできないものです。 もちろん、丁寧に歌うことも、情熱的に歌うこともできますが…… それは果たして、魂をこめた表現と呼べるのでしょうか?) |
肇のオーディション時 | |
過去の肇 | えっ……アイドルになって表現したいもの、ですか……? それは……それは……まだ、わかりません。 |
肇 | 最初のオーディションのとき。 プロデューサーさんに、何を表現したいかと聞かれても…… 私は、答えることができませんでした。 |
肇 | でも……アイドルになって、 悩むことへの取り組み方が変わったように。 今の私は……あのときとは、変わってきているはず、です。 |
翌日 | |
肇 | ……もう、少し。 あと少しで……何かが……。 |
肇 | ……。 |
選択肢 | (赤)…… |
美穂 | ただいま戻りましたー……あれ? プロデューサーさん? どうしたんですか? |
こずえ | ぷはー。 あったかーい。 |
選択肢 | (赤)ごちそうさま |
美穂 | えへへ、お粗末さまです。 熊本は球磨産の玉緑茶でした♪ |
美穂 | ところで……プロデューサーさん、さっきはどうしたんですか? 肇ちゃんのこと、見てたみたいでしたけど…… 心配だったら、声を掛けてあげればよかったのに。 |
選択肢 | (赤)うん、でも…… |
P | ただ声をかけるだけじゃ、ダメなんだ。 肇は自分で答えを掴むことが大事だから。 |
美穂 | あぁ……肇ちゃんって、 職人気質というか……頑固なところ、ありますからね。 もちろん、そこがいいところなんですけど……。 |
こずえ | んー…… ぷろでゅーさー。 それ、はじめがつくったゆのみー? |
選択肢 | (赤)そうだよ |
美穂 | へぇ……、ふふっ。 肇ちゃんらしい、深みのある色の湯飲みですよね。 |
選択肢 | (赤)すごく手に なじむんだ |
こずえ | はじめが、こころをこめてつくってー。 ぷろでゅーさーが、たいせつにつかったからだねー。 |
P | ……! |
美穂 | プロデューサーさん? どうかしたんですか? |
選択肢 | (赤)ちょっと、 出かけてくる! |
こずえ | いってらっしゃーい。 |
選択肢 | (赤)肇! |
肇 | あっ……プロデューサーさん、お疲れさまです。 どうか、したんですか? お仕事ですか? |
選択肢 | (赤)ううん。 息抜きに行こう |
肇 | えっ……ええっ? |
陶芸教室前 | |
店員 | 陶芸体験コーナー、ご予約おふたりさまですねー。 お待ちしておりましたー。 |
肇 | と、陶芸体験……! 都内でも、ロクロを回せる お店がいくつかあるのは知っていましたが…… プロデューサーさんから誘ってもらえるなんて! |
肇 | あっ、手びねりもできるんですね♪ わぁっ、あっちにあるのは新しい型の電動ロクロ……! ? |
店員 | ……あ、あの、お客さま? |
肇 | ……はっ! すみません、私ったら興奮してしまって。 ですが、またとない好機ですし……今日はプロデューサーさんに 陶芸の魅力をたくさん感じていただかなくては……! |
……肇に一から教えてもらいつつ、陶芸を楽しんだ…… | |
陶芸体験終了後 | |
肇 | ふぅっ…… 本当に、素敵な時間でした……♪ |
肇 | 最近、故郷に帰っていないこともあって、 土の感触が恋しかったんです。 窯焚きまで面倒を見てあげられないのは残念ですが……。 |
肇 | なにより、プロデューサーさんも 陶芸の素晴らしさに目覚めはじめてくれているみたいで。 とってもうれしいですね……♪ |
選択肢 | (赤)肇のおかげだよ |
肇 | あ……。 そっか……。 ……そう、ですよね……。 |
肇 | 曲だとか、ユニットだとか。 プロデューサーさんからは……私、もらってばかりだと。 そう思っていたんですけど……。 |
選択肢 | (赤)肇がくれた器、 大切に使ってるから |
肇 | ふふ……ありがとうございます。 備前焼は、使っていただくほど、 味わいが出るものなので……。 |
肇 | そして……器だけじゃなくて。プロデューサーさんも…… 私たちと関わることで、少しずつ変わっていく。 当たり前かもしれないですけど……そうなんですよね。 |
肇 | 私も……私の歌だって、きっとそう。 私が変わっていくなら…… 同じ歌でも、同じことは二度と無くて……。 |
肇 | ……あの、プロデューサーさん。 私、自分は、歌うのがあまりうまくないと思っていたんです。 最初は、発声練習にもつまずいてしまうくらいでしたし。 |
選択肢 | (赤)声が嗄れるくらい、 たくさん練習したね |
肇 | そうですね……やるからには、妥協したくないですから。 だから歌にも、完成した形を求めていたんですが……。 |
肇 | けれど…… 歌い続ける限り、完成することはないのかもしれません。 ……それでも、より良くし続けていくことは、できる……。 |
肇 | (これまでの苦悩も。 アイドルとしての成長も。喜びも。興奮も。 みなさんとの縁も……それらすべて、今の私を作るもの。) |
肇 | (……未完成でも、いい。 これからも、この小さな輝きを、増やし続けていければ…… きっとそれが、私の、魂と呼ぶべきものになる。) |
肇 | (それなら。 歌にこめるべきは、表現すべきは、私自身が感じてきたもの。 私の記憶。目蓋に残る光。星屑のような、小さな輝き。) |
肇 | 私らしく、真剣に……楽しんで、輝きを増やし続ければいい。 それでいいって……ふふっ。 そう思うと……! |
肇 | ……。 |
肇 | 『川の水を注ぎます…… やっと出来たこの器に……』♪ |
選択肢 | (赤)……イメージ、 掴めた? |
肇 | …… ……はい……。 |
肇 | ……はい。 はいっ、プロデューサーさんっ! |
肇 | いま、歌が……私の中から、自然にあふれてきました! 体中に、力が満ちて…… 心の躍動が、そのまま旋律になったみたいに……! |
肇 | これがきっと……歌で表現する、ということなんですね! 私、もっと、歌いたい…… もっともっと、表現したいです! |
選択肢 | (赤)レッスン室を 予約しておくよ |
肇 | ありがとうございますっ。 でも私、気持ちが昂ってしまって…… 事務所まで、待ちきれそうにないです……! |
肇 | だから、プロデューサーさん。 お願いです。 私と歌いながら、一緒に事務所に帰りましょう♪ |
あらかねの器 | |
そして、肇のソロ曲初披露のステージは無事に終了した…… | |
肇 | みなさん、お疲れさまです。 |
こずえ | はじめー。 |
選択肢 | (赤)お疲れさま |
美穂 | 肇ちゃん、LIVEお疲れさまっ。 |
涼 | 感じたぜ、肇の魂。 |
巴 | 悩みは吹っ切れたみたいじゃな。 良かったのぉ、肇よ。 |
肇 | はいっ。 プロデューサーさんと、みなさんのおかげです。 それに……。 |
肇 | ……前に、涼さんに聞かれたこと。 『歌うのが、好きか否か』…… あのときの私は、曖昧にしか答えられませんでしたけど……。 |
涼 | うん。 |
肇 | いまは胸を張って、こう言えるようになりました。 歌うのが、大好きですって! |
涼 | ふふっ。 そいつは良かったな! |
巴 | おうおう、キラキラしおって。 こりゃ、うちもウカウカしとられんわ! |
こずえ | こずえも、はじめのおうたすきー。 |
美穂 | うん、私も好きだよ♪ 今日も、すっごく良かったし! |
肇 | ありがとうございます♪ ですが、いまの私は。そして私のこの歌は、まだ…… ようやく窯から取り出したばかりの、あらかねの器です。 |
肇 | これから、もっともっと磨き上げてみせますから! 楽しみにしていてくださいね、プロデューサーさん……♪ |
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