太陽論◆CDIQhFfRUg



太陽が憎い。さんさんと中天に輝く太陽が、その眩しさが、あまりに憎かった。
太陽が輝けば輝くほど、そんなすばらしい空から逃げ出すように眠りを求める自分が、嫌いになっていくから。



昼がやってくるまでもう幾刻もありはしない。
すいみん不足の黒いオーラを放った少女、わたしオルタは獲物を探して歩いていた。
うるさい。まぶしい。そういったもの全てが、彼女の獲物だった。
騒音しょうがいをすべて叩き潰してしまわないと、彼女は眠れない。そういう運命さだめにある。

「六時間ごとに、放送だったかしら? それまでにもう一人くらいは、冥府じごくに送っておきたいわね」

何回徹夜したかわからない彼女の頭は、そして瞳は、ギンギラギンという形容詞かざりことばが似合ってしまうくらいに冴えている。

「そう、例えば――あれとか?」

そんな彼女が数十メートル先に見つけた敵性存在さつがいたいしょうもまた、ギンギラギンの鎧をまぶしく輝かせていた。
太陽を反射して澄んだ光を放つ全甲冑フルアーマー
身の丈は2メートルはある。手に持っているのは、純銀を鍛えた重剣ヘビーソードのようだ。
巨人めいた堂々とした足取りで、ゆっくりと、こちらに歩いてきている。
ああ――あれは、嫌いだ。
太陽から逃げているすいみん不足の狂少女バーサーカーは、太陽に物怖じしない歩き方をしているその騎士を、一秒で嫌いになった。
二秒で足を踏み出した。
三秒で死神の鎌デスサイズを振りかぶった。
四秒で彼我距離を詰める。

「わたしは眠気が嫌い」

五秒で呪詛を吐き。

「わたしは太陽が嫌い」

六秒で死念を重ね。

「だから――あなたの生魂いのちを黙らせる」

七秒で刈り取る。

「――死ね終われ


「……☼☽☆☼」

剣衝音。
八秒目に、死の銀と太陽の銀が交響曲ユニゾンを吟じた。

(――こいつ、今、何て?)

最高速度さいそくで叩きつけたはずの鎌を相殺され驚愕する少女は、
それ以上にその竜頭族ドラゴノイドに似た頭部装甲フルヘルメットの奥から響いたくぐもった言葉の響きに、眠たい目を限界まで見開いた。
明らかに、それは。この地球上の言語ではなかった。

「☆☼☽☆☼☽☼……☆☼☽」
「何ッ、だ……!? お前は……!!」

――わたしオルタが殺し合い開始から三人もの首を難なく刈り取ることが出来たのには理由がある。
通常、人間が筋肉を動かす際にかけている脳の制限リミッター
睡眠不足を超えた睡眠不足な彼女はあまりの連日の徹夜の果てに、その枷の存在から解き放たれている。
ゆえに、少女の細腕でも、強力無比かつ巨大な鎌を、ひょいひょいかるがると操ることが出来てしまうのだ。
人間の限界を超えた過剰稼働オーバーロードを発揮し続ける彼女に、力負けなどどという概念りゆうはない。
勝つまで押し込む、殺すまで殺し続ける。
それだけの絶対殺意を載せて繰り出し続ける死の鎌が今、目の前の竜の騎士ドラゴンナイトに届かない。

「☼☽☆☼……」

弾かれ。いなされ。流され。無力化される。
交えた剣の数がすいみん不足の少女に、その脳の奥の受容体シナプスに知らしめる――技量の違い。力量の違い。
経験値の、違い。
あまりにも遠い、その心臓に向かって――少女は吠える。

「何な、のよ!」

狂った眠気が焼き付いた脳が、あまりにも簡単に気付いてしまう。だからもう一度吠える。

「何で、お前――『戦いを避ける』!!」
「……☽☽」

――言葉は分からない。理由は分からない。
だが目の前の騎士あいては間違いなく、『少女を殺せるのに殺しに来ていない』。
戦いを、避けている。こちらが疲れるのを待って。血を見ずにこの戦いを、殺し合いを、終わらせようとしている。
少女は沸騰した。叶わないことよりも、届かないことよりも、何よりもそれに、心の水を沸騰させた。

「生きるのは、戦いでしょう!? ――願うのは、殺し合いでしょう!?」

打つ。打つ。飾り気のないがむしゃらな攻撃を繰り返す。

「わたしが願いのために戦っているのに……お前はそれを否定するのか! そんな、絶大な力を持ちながら……お前はわたしを躱すあそぶだけなの!?
 わたしを侮辱するな! わたしを怒らせるな! 頭が、頭が、痛くなる! わたしの清らかな眠りを、お前のその傲慢こそが妨げているのに!!」

剣と鎌が打ち合うキンとした音とともに、泣き言のような叫びだった。
すいみんオルタは止めなかった。肘が悲鳴を上げても。爪が剥がれても。肉が断裂しても、甲冑を殺しにかかるのを止めなかった。
その願いはすべて虚しく受け止められた。
ドラゴンナイトは強かった。
終いには、血を吐いた。吐いたのは、少女の方だった。

「あ……う……嘘……」

どさり。
地面に崩れ落ちた少女を、騎士は哀しそうに見下ろす。
少女の、少女を、強制的に動かし動かされていた動力糸エンジン、あるいはマリオネットがこと切れたのだ。

「いやだ……ねむれない……こんなんじゃ、やさしく、ねむれないよ……。
 わたし、わたし……わたしは……ああ……」

そのまま――目を開けたまま、ねむれない少女は動かなくなる。
騎士はやはり、黙ってそれを見届けていた。
戦いは終わる。
眠るための少女の唄は、太陽の下に停止した。


【わたし@すいみん不足(原曲)(CHICKS) 死亡】


「……あなたは、日本人ですか?」
「☆☼☆☼☽☆☼」
「なんだ、異世界人でしたか」
「☼☽☆☼」
「そこで死んでいるのは……日本人ですか。貴方が? いえ、自滅ですか」

涙だらけの少女を追っていたものの、道に迷ってしまったニュースキャスターは、
血を吐いて息絶えた少女と、その少女を見つめながら悲しげにうつむく異国の騎士を見つけた。
試しに話しかけてみると、明らかに地球上の言語ではない言葉が返ってきた。
これは異世界人の特徴である。

まあ、外見や状況からなんとなくそんな気はしていたが、
異世界に連れていかれた日本人という可能性を消す必要があったため、念のため話しかけたのだ。
答えとしては、この騎士は間違いなく日本とは関係ないという結論が得られた。
だって日本人が目の前で死んでいくのを止められていないのである。
協調性の高い日本人であれば、目の前で死にゆく日本人を救えて当然のはずであるからして。

「日本人でないなら私の願いには関係ないので、これでおさらばというのも良いですが……。
 見たところ、戦いたくないひと? あるいは殺し合いを止めたいひとという感じでしょうか? ああ騎士ですか。
 ああいえ、こちらの言葉も通じてないのでしょうから、これは独り言ですね。
 ニュースキャスターという職業柄、どうしても言葉数は多くなってしまうタチなのです」
「☆☽☆☆☼☽☆☼☆……」
「言ってしまうとね、無理だと思いますよ。ええ、無理だと思います。
 ジェスチャーしてあげましょうか? こう、バツを両手で作って嘲笑ってあげましょう。ええ、なぜかって?

 ――人間ってのはね、汚いんですよ。
 異なる「正義」、異なる「言語」、異なる「願い」――そんな些細なことでいつまでも争い合う。

 そんな世界で澄んだ歌を歌えるのは、もう人間なんかじゃないんですよ。狂って天使になったか、生まれつき天使かなんですね。
 だからあなたのその願い、提出・即・却下って感じだと思いますね。三文にもならない台本です。
 一日二日の停戦なら、奇跡でも起こせばどうにかなるかもしれませんが。私、そういうファンタジー、クソだと思ってるんで」

太陽が常に中天にあるように。
人間は、空に罪をさらし続ける生き物ですよ。
現実見ましょう、現実を。
立ち尽くす騎士を後目に、ニュースキャスターはそんな締めの言葉をその場に置いた。

「では、また会うことがありましたら」
「☼……」

騎士は立ち尽くす。
太陽は照り続ける。
清き願いを置き去りに、死体は腐り始めるだろう。


【4-名/白/一日目/11時】


【ドラゲナイ@Dragon Night(SEKAI NO OWARI)】
【容姿】ドラゴン甲冑の騎士
【出典媒体】歌詞
【状態】……。
【装備】銀の重剣(ヘビーソード)、甲冑
【道具】なし
【思考】誰とも戦いたくない、争いを終わらせたい
【備考】
※百万年に一度しか太陽が沈まない星の出身です。

【嬉しそうに「乗客に日本人はいませんでした」「いませんでした」「いませんでした」って言ったニュースキャスター@JAM(THE YELLOW MONKEY)】
【容姿】金井憧れアナ
【出典媒体】歌詞
【状態】健康
【装備】9mm拳銃
【道具】基本支給品
【思考】日本人を殺す。
【備考】


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