創造論とインテリジェントデザインをめぐる米国を中心とする論争・情勢など

ロシア・東欧情勢

ロシアにおける気候変動否定論(2023)


Martin Vrba (2023)によれば、ロシアにおける気候変動否定の概況は以下の通り:

プーチンは気候変動否定論から姿勢を変えつつあったが、政策的には何もしていない:
  • 2003年に、プーチンは気候変動の重要性を軽視し、温暖化によってロシアに利益があるかもしれないと示唆した。
  • ロシアはパリ協定に署名するのが遅れ、後にプーチンは気候変動を脅威と認識し、排出削減を誓約したが、具体的な行動を取らなかった。
  • 2017年、プーチンは、人間要因の気候変動を軽視する主張をし、火山噴火などの自然要因に帰すると述べた。
  • 2020年には、気候変動の積極的な否定から、プーチンはロシアが2060年までにネットゼロの排出を達成する目標を発表した。
  • これらの肯定的な進展やパリ協定への署名にもかかわらず、ロシアの脱炭素化へのコミットメントは、特に化石燃料の採掘と消費の促進を行い、批判されている。

2022年2月のロシアによるウクライナへの全面侵攻により:
  • プーチンの宣言した気候目標の国際的な信頼性に決定的な打撃を与えた。
  • ウクライナでは、爆弾とミサイルによって引き起こされた森林火災、石油保管施設やガス火力発電所での爆発、そして化石燃料を使用する重量のある軍事車両と装備の展開が深刻な環境被害を引き起こした。
  • ロシアに対する経済制裁は、遅々として進んでいなかったロシアの緑の転換・エネルギーセクターの近代化・気候科学の進展に影響を及ぼした

ロシアにおける気候変動否定論の特徴は:
  • ロシアの権威主義政権の下では、公共論争は政治、ビジネス、メディアのエリートによって定義された機会主義的な国家の利益に支配されている
  • 進歩的な運動に対抗する「保守的なカウンタームーブメント」ではない(自由市場のイデオロギーに根ざしているわけではない)
  • 化石燃料に依存する国家予算に基づく柔軟な政策を反映している

ロシアメディアでは:
  • 欧州委員会のEUvsDisinfoプロジェクトによれば、さまざまなクレムリン系メディアは、気候変動がロシアの利益に反する西側の陰謀であるという前提をもっている
  • ロシア科学アカデミーの監督下にあるNew Eastern Outlookの記事では、減少する太陽活動期である「太陽の最小期」が極端な気象条件の原因であると主張している
  • オンラインマガジンのStrategic Culture Foundationは、気候変動の議題が世界人口を減少させることを目的としていると何度も主張している。
  • ロシア連邦議員アレクセイ・ジュラフリョフは、極端な気象現象は気候を変えるための米国の兵器の結果だと主張した。これと同様に、ロシアの国営通信社RIAノボスチは、西側の大国が気候兵器の実験を行っていると主張した。

ロシアの政治的文脈は、ロシア社会における科学の役割にも影響を与えている:
  • 気候変動の証拠を信頼性を否定し、京都議定書の批准反対を正当化した。
  • 天体物理学者のハビブッラ・アブドゥッサマトフは、地球の気候に対する人間の活動よりも太陽放射線の影響が大きいと主張し、新たな氷河期に入る段階にあると述べた。
  • 大気物理学者のキリル・コンドラチェフを含む他の科学者は、気候モデリングの方法論を批判し、「気候変動の神話」を暴こうとした。
  • 物理学者ユーリ・イズラエルも影響力のある人物で、世界気象会議、IPCC、ロシア科学アカデミーで高い地位にあり、IPCCの結果と京都議定書に強く反対した。
  • ロシア科学アカデミーは2001年に、「気温上昇が実際に人間の活動によるものであるかについては高い不確実性がある」という2ページのメモランダムを発表した。
  • 京都議定書の批准後、ロシアの科学者の間での気候懐疑論は、明確な否定から、人間の因果関係と気候変動の実際の影響についてより微妙な懐疑へと移行した。

このロシア科学界の状況は2023年も変わらず、たとえばロシア連邦政府予算で運営されているRussian Academy of Sciences の陸水学研究所長は「温暖化否定論」を語り、それをRussia Academy of Scienceはニュースリリースとして公表している。
“Warming is about to end. And the cause is not humans, but the interplay between the Sun and Earth. Currently, we are in a favorable period, but we will inevitably transition to an unfavorable [cold] one ... around 2030-2035.”This statement by Andrei Fedotov, director of the Limnological Institute of the Russian Academy of Sciences (RAS), was published in an interview this month by RAS, the country’s leading scientific institution.

Fedotov, a doctor of geological and mineralogical sciences, cited his studies of Lake Baikal and historic climate epochs, warning "When the ice age comes, you will feel it immediately." His claims stand in stark contrast to the global scientific consensus on manmade climate change and the ongoing warming trend highlighted by the Intergovernmental Panel on Climate Change (IPCC), an internationally accepted authority.

「温暖化は終わりつつある。そしてその原因は人間ではなく、太陽と地球の相互作用である。現在、我々は温暖な時期にいるが、2030〜2035年頃には[寒冷な]時期に移行することは避けられないせん。」この発言は、ロシア科学アカデミー(RAS)の陸水学研究所のアンドレイ・フェドトフ所長によるもので、そのインタビューがロシアの主要な科学機関であるRASが2023年10月、公表された。

地質鉱物科学の博士であるフェドトフ所長は、バイカル湖と歴史的な気候時代に関する研究を引用し、「氷河期が来ると、すぐにそれを感じることになるだろう」と警告した。彼の主張は、人間要因による気候変動や、国際的に認められた権威である気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が強調している進行中の温暖化傾向に関する世界的な科学的合意とは全く対照的である。

[ "Climate Skeptics Muddy Russians' Understanding of Warming Planet" (2023/10/18) on The Moscow Times ]
これは特異な例ではなく...
Present in Russian public discourse for decades, climate deniers often have backgrounds in natural sciences, engineering, paleoclimatology, or the fossil fuel industry, experts told The Moscow Times. “In more than half of the cases, my experience was related to skeptics. And if you're talking to a geologist, there is a 90% likelihood they are skeptics,” said a climate expert who requested anonymity in order to speak candidly. “Sometimes it was an aggressive stance, and sometimes just a lack of understanding.”

何十年もロシアの公の場で存在してきた気候変動否定論者は、自然科学や工学、古気候学、化石燃料産業の背景を持つことが多い、と専門家がモスクワ・タイムズに語った。「私の経験からすると、その半数以上が、懐疑論者である。地質学者の場合、90%が懐疑論者だ。攻撃的な姿勢の人もいれば、単なる理解不足の人もいる」と、匿名を条件にある気候専門家は語った。

[ "Climate Skeptics Muddy Russians' Understanding of Warming Planet" (2023/10/18) on The Moscow Times ]

さらに、気候変動研究自体にはロシアによるウクライナ侵略に対する制裁の影響が及んでおり、「Katja Doose(Senior researcher, University of Fribourg) and Alexander Vorbrugg(Geographer, University of Bern) (2023/04/11) on The Conversationによれば
  • 制裁はロシアの気候科学にも深刻な打撃を与えており、国際的な気候変動対策の一環として重要である。
  • ロシアの研究機関への制裁により、外国の機器に依存する研究分野が影響を受けており、特に気候モデリングに不可欠な長期測定システムの維持に懸念がある。
  • ロシアの気候科学者は気候データストアへのアクセスを失い、外国のスーパーコンピューターにもアクセスできなくなっている。
  • ロシアとの国際協力に関連して、北極での気候変動に関する研究も行き詰まっており、将来の研究に影響を及ぼす可能性がある。
  • 研究機関や科学者によれば、制裁によりロシアの気候科学に対する外部の刺激が失われ、国内の気候政策の不確実性が増している。

以上からすると、ロシアにおける気候変動否定の動き、そしてプーチンの気候変動に対する考えが、当面変わりそうには見えない。






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