リメイク記念1

 ここはローランディア王国の王都ローザリアから、西に歩いて6時間ほどに存在する街(ただし地名は王国の一領土にもかかわらず『ティピちゃん王国』だが)にある領主の屋敷の一室。
「んんっ…………あ」
 カーテンから漏れた光を顔に受け、目を閉じていた少女が小さく呻いたあと、パッチリと目を開ける。菫色に近い髪は陽光を浴び白く輝き、そして肌はさらに白い。
「う、うんっ……とぉ」
 そして焦点が合わない紫水晶のような輝きを放つ瞳を擦りながら少女は身を起こし、首を2度ほど左右に振る。
「ここは……そっか、そうよね。ここは彼の部屋で、そのまま寝ちゃって……」
 ぽっと、少女の頬が赤くなる。そして視線がカーテンから少女の傍らに存在するシーツに包まれた大きな膨らみに移る。
「カーマイン……君……」
 少女にとって最愛の男の名を呟きながらそっと、その膨らみの上に手を乗せる。
 カーマイン・フォルスマイヤー。ローランディア王国からこの街周辺を領土として頂いている特務騎士にして、光の救世主『グローランサー』の称号を持つ、弱冠18歳にして生きた伝説となった青年。
 そんな青年と寝ていた少女の名はアメリア。魔法学院所属の研究員であり、嘗て世界を破滅から救った仲間でもある。
「それにしても……しょ、っと。身体がだるいわ。なんでこんなに……」
 少女はそこまで言ったあと、すっと自分の肢体に目を向ける。
「ま、まあ……疲れて当然よね」
 体についた昨日の行為のあとを見て、アメリアは頬だけでなく顔全体を赤くする。というか、今更だが衣装は一切つけていない。髪留めを含めた服は床においてあるし、下着はベッドの上に脱ぎ捨てられている。
「それにしても、どうしてああ一方的になるのかしら?これでも体力には自信あるし、一回ごとに効果検証もして、前回の結果を考え対策も練っているのに」
 ちなみにその研究中につい身体が火照り、思わず1人で……など日常茶飯事であったが、それは兎も角。
「さて、そろそろお腹もすいたしカーマイン君もおこ……そう……」
 膨らみに重なっているシーツを掴もうとした手が、虚空で止まる。
「………………」
 ふくらみを、じっと見つめる。
「……大きすぎよね、うん」
 成人男性1人が丸まっているにしては大きすぎるふくらみを、じっとアメリアは見つめた後、
「まさか……!」
 しっかり白いシーツを掴んだあとがばっと剥がしたその先には、白い大きな翼があった。
「メルフィ!?」
 艶のある長い黒髪も見えたが、翼だけでアメリアは誰であるか特定できた。アメリアの親友であり有翼種族の少女であるメルフィ以外、カーマインの寝室に潜り込むフェザリアンは他にいない。
「すぅ……すぅ……」
 メルフィが身に着けているのは首のベルトとブレスレットのみでアメリアと同じく衣装は着ていない。そして、メルフィの体同様白い翼に包まれるように……
「……………………」
 メルフィに抱きしめられるような形で、黒髪の青年が寝ていた。



 死の危険。元は歴戦の傭兵で、今はローランディア王国将軍であるウォレスも何度もそれを感じた時がある。
 傭兵仲間を虐殺した異形の化け物を見た時。
 腕と眼をやられ、崖から落ちた時。
 ランザック王城が土台ごと吹き飛ばされている風景を見た時。
 軽い気持ちでカーマインに大人の遊びを教えた後、追われる羽目になった時。
 ……そして、今。
「ウォレスさんは、どう思う?」
 目の前にいるのは、桃色髪の小柄な少女。幼く可愛らしい、可憐な女の子だ。
 ……詳しく語るのなら、幼く可愛らしい『ようにも見える、外見は』可憐な女の子だ。
 ルイセ・フォルスマイヤー。“グローランサー”カーマイン・フォルスマイヤーの血のつながりのない妹にして、史上最強の皆既日食にして真に覚醒したグローシアン。
「どうとは……なんだ?」
 神妙な表情でウォレスは聞く。たとえ首筋に剣を突きつけられながらの尋問であろうとも、ここまで危機感は溢れないだろうとキッパリと思いながら。
 ここはローランディア王国の王都ローザリアにあるオープンカフェ。将軍とはいえ防衛拠点を持たず王都周辺の警護が主な任務になっているウォレスは、城内での昼食後すぐさまローランディアの宮廷魔術師でもあるルイセに掴まって今に到る。
「お兄ちゃんの回りに、盛った雌狐と雌鳥がまとわりついている件」
「OK解ったルイセ、とりあえず落ち着いてくれ頼むから」
「もう、ウォレスさんったら。私は十分落ち着いてるよ?……ソウルフォースの射程を目視距離から1キロ前後まで伸ばす事に成功したくらいに」
「……そうか」
 とりあえず今度逃げる時は見通しのいい場所は通らないようにしよう……と、ウォレスは心に誓った。
「ところでウォレス。何故俺たちをここに呼んだのだ?」
 そう言ったのはウォレスとルイセと同じテーブルについている黒い髭を生やし白い鎧を着た中年の男。ランザック王国の将軍にして元ウォレスの傭兵仲間、ウェーバーである。
「でも、ウェーバーさんは謁見済ませたばかりだから暇だよね?」
「……確かに、茶を飲んでも構わないのだが……だが……」
 にこやかに言ったルイセから目を逸らしウェーバーは言い、目の前に置いてあるカップを震える手で持ち上げ、淹れてあった紅茶を一度飲んでから、対面にいる青年に話をむける。
「とっ、ところでゼノスはどうなのだ?」
「いや、俺はもう」
「ゼノスはこの周辺の薬草を取りに来たんだろ?試合もしばらくないと聞いたぜ。もう少しゆっくりして行け」
 席を立とうとした青年……グランシルの剣闘王、ゼノス・ラングレーを止めるようにウォレスは言葉を被せる。
「ちょ!?ウォレス!後生だから逃がしてくれよ!」
「どうして逃げようとするの、ゼノスさん?」
 顔を青くして悲鳴を上げるゼノスの顔を覗き込むルイセ。
「あ……いや……なんでもないぜ、ああ」
「(悪いなウェーバーにゼノス。まあ新ルートに入ったと思って諦めてくれ)」
 元傭兵仲間と元上司の息子を災厄に引きずり込んだウォレスは、そう思いながら追加注文をする為ウェイトレスを呼んだ。



 東の大国、バーンシュタイン。
「失礼します!」
 その王城の謁見の間に、一人の少年が飛び込むように入ってきた。
「ウェインか。時間ギリギリだぞ」
 少年をウェインと呼んだのは金髪の男装の麗人。
「仕方ないよジュリアン。彼は深夜お楽しみだったんだからね」
 その男装の麗人をジュリアンと呼んだのは、紫髪の優男。
「……あんなお楽しみなんて一生いらないですよ、リーヴス先輩」
 紫髪の優男をリーヴスと呼びながら、ウェインはため息をつく。
 バーンシュタイン王国が誇る最高の騎士、インペリアル・ナイト。3人はインペリアルナイトのみ装着することを許された『ナイツの鎧』を着こんでこの場に立っていた。つまり、三人ともインペリアル・ナイトなのだ。
 ちなみにこのナイツの鎧。特殊製法によって鋼を加工した物でミスリル銀を上回る強度を誇りながらも体には全く負担がかからないほど着心地が良く、46時中着ても全く問題ない作りになっている。
「皆、揃ったようだな」
 謁見の間の中央にいた三人に、今度は長身の男が声を掛ける。
「あっ、アーネ……ス……と?」
「どうした?」
「ライエル……その服は?」
 ウェインとジュリアンは眉を顰め長身の男、アーネスト・ライエルの着ている服を指差す。
「服も何も、お前達と同じナイツの鎧だが」
 ライエルが言うとおり、彼が着ているのはナイツの鎧。3人とは若干色が違うが、それはライエルがナイツの筆頭である証拠として多少の改良が加えられている証拠だ。
「いや、それはそうなのだが……裸ジャケットは?」
「あのヘソだし乳首出しの破廉恥姿のお前はどこに行ったのだ?」
「何を言いだす2人とも?俺がいつそんな姿をこの謁見の間で晒した?」
「まあまあアーネスト、あの悪趣味で変質者的な私服は強烈だからね。彼らもつい意識が向いてしまうんだよ」
「オスカー、貴様……」
 フォローになってない事を言うオスカーをライエルはギロリと睨む。
「皆さん、揃っているようですね」
「エリオット陛下!」
 そんなナイツ達4人の前に、謁見の間の奥から育ちのよさそうな柔和な少年が姿を現した。
「朝早く呼んですみません」
「気にしないでください陛下。ところで、一体何の用でしょうか?」
「私の用ではないのですが、オスカーが重要な報告があると」
 バーンシュタイン国王、エリオット・バーンシュタインはそう言ってオスカーに視線を向ける。
「はい、とても重要な報告をしなければいけません」
 先ほどまでの雰囲気から一転、オスカーは重苦しいトーンでそう言葉を発した。
「恥ずべき事に、この中に…………裏切り者がいます」
 その一言は、謁見の間の空気を極限にまで凍りつかせた。
「そっ、そんな!?リーヴス先輩!」
「いきなり何を言い出すんだリーヴス!」
「落ち着いてくださいウェインにジュリアン……オスカー。その言葉、偽りではないのですね?ここにいるのは」
 顔を青くして狼狽するウェインとジュリアンを落ち着かせ、エリオットはオスカーに聞くが、
「ここにいるのは陛下を除けば我らインペリアル・ナイトだけでございます。それでもなお、裏切り者はいるのです……ね、アーネスト?」
 ゆっくりと振り返り、冷たい瞳でオスカーは同僚でありそして親友である男を睨みつけた。
2009年08月13日(木) 05:12:58 Modified by chaoswars




スマートフォン版で見る